クロスカルチャー コミュニケーション

ハートヤイ(ハジャイ)


マレーシアのイポー駅は、コロニアル調の閑静な駅舎で、ホテルも入っている。駅前はヨーロッパ風の庭園、付近の建物もヨーロッパの香りが漂う旧市街だった。ホテルの1階にあるバーで時間をつぶし、深夜、タイへ向かう列車に乗り込んだ。国境の上にあるパダンブサール駅で一時列車を降り、まだ眠い目をこすりながら駅構内にあるマレーシアとタイのイミグレーションで出入国手続きをした。その後、タイの機関車に付け替えられた列車にしばらく揺られ、最初の大きな街、ハートヤイ(ハジャイ)駅で降りた。昼前ということもあり、駅構内は乗客と物売りで溢れていて、みな線路を自由にまたぎ歩いていた。改札を出るとバイクタクシーやトゥクトゥクが待機していて、どこに行くの?と声をかけてくる。多くの客で賑わう駅前の食堂をアジア的よね、などと眺めていたら、元気なおばちゃんにつかまり、スパイシーな肉野菜炒めとご飯、スープの定食を出された。きれいに平らげてから宿探しを始める。駅を背にまっすぐ歩くと繁華街で、ゲストハウス、ホテルも多かった。何軒かの中級ホテルをのぞき、静かそうなホテルに決める。荷物を降ろして、途中で見つけた「i」マークの看板をたどり、ツーリストインフォメーションを訪ねた。そして、街の地図やバス停、駅の時刻表のほか各種観光パンフレットをたくさん貰う。言葉はあまり通じなかったけれど、お役所的なマレーシアと比べ、とってもフレンドリーで親しみやすかった。マレー半島の西側から東側へ列車で移動するために寄ったハートヤイだったけれど、居心地がよかったので、数日滞在することに決めた。予想以上に大きな街で、デパートやショッピングセンターは品揃えが良くて安いし、タイ古式マッサージも安くて気持ちいい、何よりお酒がどこでも飲めて安い。香辛料の効いた料理を頬張りながらビールを飲み、ほろ酔い気分でマッサージを受けてお昼寝をする。ちょっと怠惰なアジアの休日も悪くない。


まったりとしながらも美味しいシーフードに惹かれ、ソンクラー湖とタイ湾の間にある街、ソンクラーを訪ねる。ハートヤイの市場の前から、定員12名と思われるミニバスに20名近く詰め込まれ、1時間ほどでソンクラーの中心地に到着した。タイ的洗礼を受け、少々ぐったりしつつ海辺まで歩くとビーチが広がっていた。海水浴を楽しむ人々を眺めているとすぐに売り子が現れビールを差し出した。思わず買ってしまうと、別の売り子たちが笹の葉に包んだものを手にわらわら寄ってきた。慌てて逃げ出して、海辺に並ぶレストランへ入る。フィッシュフライ、野菜炒め、シーフードチャーハン、ビールを注文すると、しばらくして野菜の餡がかかった40センチほどある魚の姿揚げ、山盛りの真空采炒め、えびがごろごろ入っている大盛りチャーハン、瓶ビールとコップが運ばれてきた。タイ料理は小皿だと思っていたので、かなり驚いた。言葉も通じないし、もう笑うだけだった。何軒かはしごして魚介類を食べまくろうと思っていたのだけど、あえなく沈没した。トゥクトゥクに海辺の道を走ってもらい人魚の像を眺めた後、大音量で音楽が流れる怪しいバスに揺られてハートヤイの街へ帰還した。


朝の7時、すでに賑わうハートヤイ駅からスンガイ・コーロク駅行きの列車に乗り込んだ。列車が動き出してまもなく、隣に座ったおばさんが無賃乗車で捕まり、隣の駅で引きずり降ろされた。タイ語の激しいやり取りを目の前にただあ然とするだけだった。多くの売り子がビニールに入れたカレーと笹の葉で包んだご飯を抱え、走りまわっている姿と連行されていくおばさんの後ろ姿を空しく見つめてしまった。列車は緑のなかを順調に進み、4時間ほどでスンガイ・コーロク駅に到着した。列車が止まるとすぐに多くの客引き(バイクタクシー)が列車の窓から顔を出し、客と交渉を始めた。その慌しさのなか一人悠長に構えていると前に座っていた女の子が英語で「国境まで30バーツだけど乗る?」と声をかけてきた。「歩くから大丈夫」と答えると私の代わりに客引きに伝えてくれた。駅の近くの食堂街でココナッツカレーを食べて、国境に向かい歩いているとバイクタクシーが近づき、「30バーツ」、「20バーツ」、「10バーツ」と値段を下げながらついてきた。お願いだから乗ってと訴えるその根性に負け、10バーツで国境まで運んでもらう。所要時間3分ほど。1バーツは約3円。小屋のようなイミグレーションでタイの出国手続きを済ませ、マレーシアに続く橋を歩いて渡る。ようそこマレーシアへというゲートをくぐり、りっぱな建物に入ったイミグレーションでマレーシアの入国手続きをした。何も問われず、荷物のチェックもなし。橋の途中で買ったバナナ&ポテトフライを手にあっけなくマレーシア側の国境の街、ランタウ・パンジャンに着いた。ロンリープラネット(マレーシア、シンガポール、ブルネイ編)によると、この国境は警察や軍によってしばしば閉鎖される悪名高い場所なので避けるべきとのこと。スンガイ・コーロク駅に向かう列車のなかで読んでしまった。タイ最南部では、仏教徒とイスラム教徒が対立していて闘争が絶えないとか。