2020年9月4日

「特別支援学校に勤めて」<前編>

                          

岩脇 歳文(神奈川県立高等学校教諭)


 私は昨年、晴れて神奈川県の初任校での勤務を5年間満了し、原則異動の対象となった。転勤のタイミングに合わせ、私は最後のチャンスとしての特別支援学校への人事交流を希望し、昨年4月から今年3月まで、知的障害のある児童生徒が通う養護学校に勤務した。その経験について2回にわたって紹介する。
 

【1】特別支援学校への人事交流を希望した理由

 私は学問を教えることが好きで教員になった。そんな私は高校教員として採用された当初、特別支援学校で勤める気持ちはなかった。

 私が特別支援学校への人事交流を希望した最大のきっかけは、津久井やまゆり園事件である。津久井やまゆり園の犯人(報道上、現在は「被告」と表現)は、犯行動機として、「障害者は周りの人間を不幸にする。」と言っていたそうだ。さらに、その数日後、事件について尋ねられた他の入所者の保護者が「私たちがつらそうにしているから、(犯人が)そういう考えに至ったのではないか。」と答えたという記事が目についた。

 私はこの記事に衝撃を受けた。私が施設の職員や保護者の立場だったら、入所者を愛し続けることができるだろうか。愛するという気持ちよりも『しんどい』という気持ちが大きくなってしまわないだろうか。犯人のしたことは決して赦されることではないが、何も知らない立場で外野から批判する前に、障害のある方と接し、生活をともにしたいという気持ちが強くなった。

【2】神奈川県の「インクルーシブ教育」と特別支援にかかわる主な進学の道すじ

 以下に特別支援にかかわる、小学校から高校までの主な進路の道すじを示した。小学校と中学校には特別支援学級が併設されており、障害のある子どもが地域の学校で学ぶことができるが、高校には該当するものがない。

 また高校には入学者選抜があるため、知的障害のある生徒が一般の高校で学ぶことは実質的に難しいという現状がある。このため、神奈川県は知的障害のある生徒のうち、一般の高校に進学する希望のある人を入学させる、インクルーシブ教育実践推進校を設置・拡大している。

【3】本校の人数

 以下に、本校の大まかな生徒数・教員数を示した。児童生徒2人以下に対し、教員が1名付く割合になっているため、本校だけでも100名を超える教員が働いている。このため、職員室はとても混雑している。

 分教室は、自力通学できること、医療的ケアが不要であることが通学の条件なっている。

小学部 中学部 高等部 本校合計 分教室
クラス数 12クラス 7クラス 9クラス 28クラス 3クラス
児童・生徒数 80 50 80 210 40
教員数 50 30 40 120+管理職3 20


【4】先生、どんな勉強を教えているんですか?

 特別支援学校に転勤してからというもの、人に必ず聞かれ、説明に困る質問がこれである。答えは「全部」である。小学校の教員と同じように、生徒とともに全て授業に参加する。また、専門は理科の化学だが、どちらもカリキュラムにはない。私の専門知識は、ひとまず1年間は休眠させることになった。

【5】時間割

 一例として、本校高等部1学年の時間割を示した。美術や音楽、体育などは学年で、合同で行うことが多い。本校の授業は、「働くこと」、「暮らすこと」、「余暇を過ごすこと」の3つ力をつけていくことを目標に組まれている。私が教えてきた化学や物理などよりも将来に確実に役に立つ内容だと感じることも多い。

5月13日(月) 5月14日(火) 5月15日(水) 5月16日(木) 5月17日(金)
ホームルーム ホームルーム ホームルーム ホームルーム ホームルーム
体力作り 作業 体力作り 体力作り 作業
課題別学習 課題別学習 音楽
総合 家庭
給食・清掃 給食・清掃 給食・清掃 給食・清掃 給食・清掃
美術 生活単元 ロングホームルーム 保健体育 生活単元
14:10下校
ホームルーム ホームルーム 部活動 ホームルーム ホームルーム
15:10下校 15:10下校 15:10下校 15:10下校 15:10下校

 授業のほとんどは、ティームティーチング(TT)で行われる。メインティーチャー(MT)が初めの10〜15分間で本時の活動の説明し、その後、主にクラス単位で生徒がそれぞれの授業の活動を行う。この活動の支援を行うのがサブティーチャー(ST)の役割である。したがって、体育や美術が苦手な私でも、生徒のお手本や補助を行うことが求められるので、全体への説明のときにしっかり話を聞くことが求められる。

 
前方中央の●は、メインティーチャー(MT) :授業の教示をする

 それ以外の●は、サブティーチャー(ST) :生徒支援、作業の補助

 ◯は生徒



 
また、自分がMTとなる頻度は週1回程度のことが多く、人前で話をすることが好きな私にとってはやや物足りない感じもある。この学校では、子育てをほんのわずか体験させていただいている感じがする。


【6】成績・評価

 特別支援学校には、他の児童生徒と比較する意味での成績や評価はない。特別支援学校の個別教育計画は別紙の通り、児童生徒の「いまの姿」、「長期的に目指す姿」、「今後半期(前期・後期)の目標」を示し、その目標に対する達成度を具体的に、客観的に評価できる形で、言葉で表現する。したがって、その児童生徒が今後の半年間で達成可能な目標を設定することが求められる。

【7】進路

 以下に、本校の主な卒業後の進路をまとめた。本校は例年、全員の進路先に決定した状態で卒業する。下表の上に行くほど、就労する能力が高い。

パターン 概要 収入
@特例子会社 障害者雇用を促進する(民間企業の法定雇用率は2%)ために設けられる、子会社。障害者が働きやすいような環境の創出・支援をつける。 労働による賃金
基本的に障害年金が支払われない。
A就労移行支援(2年間限定)⇒特例子会社 特例子会社に就職後は労働による賃金
B就労継続支援A型 障害年金(主)+工賃(※
C就労継続支援B型 障害年金(主)+工賃(※)
D生活介護 余暇活動や心身の機能を維持・向上させる活動 障害年金

※工賃は、企業から受注した仕事の量などによって、支払われる金額が異なり、作業所・個人によって差があるが、月に1〜3万円程度と言われることが多い。生活費は障害年金が基本となる。

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