2017年6月24日


寄 稿

総合的学習の時間「学びの森」 実践報告 (下)

横浜翠嵐高等学校 定時制 岩脇歳文



 133,135号「学びの森実践報告(上,中)」では、本校定時制の、総合的な学習の時間の単位を落としてしまった生徒と3、4年生の希望者向けに開講されている「学びの森」の授業について紹介した。(テーマ1 勤労に主眼を置いたキャリア教育、テーマ2 「平和教育」)
今回の実践では、戦争や紛争など、人間と人間の争いの元になる憎しみの連鎖と、それを断ち切ることに主眼を置いたテーマを学習した。

テーマ3:憎しみの連鎖
 平和教育を終えてからは、「憎しみの連鎖」というテーマを扱った。授業を始めるにあたって、私は生徒たちに次のように投げかけた。
「戦争は、時代、場所問わず起こりうるものです。これからの社会を作っていくのは若い皆さんです。皆さんの学校は全校生徒の約4割が外国につながる、横浜市内で最も国際的な学校の1つです。ぜひ、自分自身の身近な問題として、『憎しみ』と『戦争』について考えていただきたいと思います。」

扱った動画
(1)映画「ES」
 1971年、スタンフォード大学で実際に行われた実験をもとにして作られた映画。新聞で公募された健康な男性をランダムに看守役と囚人役に分け、2週間大学の地下にある模擬刑務所に入れて実験を行う。「人間は立場によって行動する。」ということが証明された。

(2)「元PKO部隊司令官が語る
     ルワンダ虐殺」(NHKより)

(3)映画「ルワンダの涙」
 1994年に起こったジェノサイド(ルワンダ国内のフツ族によるツチ族の集団虐殺)の様子と元PKO部隊司令官としての苦悩や証言をまとめた番組。分断と憎しみ、無知が悲劇を招く。

(4)戦後史証言プロジェクト
第4回 猪飼野 在日コリアンの軌跡

(5)憎しみを乗り越えて~NEXT
  未来のために「少女たちの再出発
   ヘイトスピーチを乗り越えて」


生徒の声:

・権力で遊んではいけない。暴力を楽しんでいるように見える。
・自分ももしかしたら同じ行動をとってしまうかも知れない。

・初めは実験のために集められただけの人たちだったのに上下の立場を与えられただけで、数日で心理的な上下関係ができてしまって、上に立った人間はほかの人間が言いなりになるのに優越感を覚え始めて全てを自分の思い通りにしようとした。立場という関係だけでこうも人の心が変わってしまうと思うと、人間の思考と心理はとても繊細で、恐いものだと思った。

・シリアなど、現在でも世界のどこかで紛争が起こり、たくさんの人が難民となり、生きることも難しいことを考えると、自分が置かれている現在の状況に感謝するとともに、こんなに平和でいいのかと思ってしまう。

・憎しみを生み出すのはたった1人のたった一言でも良い。それが少しずつ大きくなり、大きくなった憎しみは1人の人間がどれだけ正しいことを言ってももうどうにも止めることはできない。優しく、暖かな心より、悪く冷めた心の方がはるかに強い。たとえ憎しみから立ち直る時が来ても、それは憎しみがなくなったわけではない。

・在日コリアンは文句ばかり言う人たちだと思ったが、初めてお金や差別で苦労していたことが分かった。
・話し言葉も勉強していることも日本人と同じなのに、差別されるのは理不尽。
・名前だけで差別する理由も分からない。

・日本の中でも韓国の文化を大切にしてほしいです。


「憎しみの連鎖」 最終回 ~憎しみの連鎖を断ち切るために タンザニアの例にならう~

 憎しみの連鎖を断ち切るにはどうしたらよいか、生徒とともに考えていく授業を行った。

 タンザニアは、多くのアフリカ諸国と同様、欧州諸国の植民地になっていた歴史を持つ。植民地支配では一部の民族を優遇し、民族を分断し、欧州諸国が効率よく支配できる体制を築いてきた。

 このため、1960年代に独立した後も、憎しみの連鎖が解かれず、内線が起こる国も見られる。これに対し、タンザニアの初代大統領、ジュリウス・ニエレレは「1つのタンザニア」のスローガンの下、支配者の言葉である英語ではなく、地元の言葉かつ中立的な言語のスワヒリ語を公用語とした。「どんな人もみんなタンザニア人だ」という温かみが、旅をしている自分の肌で感じられた。












 憎しみの連鎖最終回の様子

 「愛の反対は憎しみではなく、無関心」
 「この教室を日本のタンザニアにしよう」というテーマで隣人に関心を持ってもらうため、普段話さない人にあいさつと自己紹介をするゲームを行った












   



タンザニアで出会ったチャガ族(左)とマサイ族(右)の方々

 どこにいてもあいさつと握手を交わす温かみこそがこの国の力だ



~資料~ 憎しみの連鎖 最終回 プリント

 「隣人(りんじん)を愛(あい)する」=まずは周(まわ)りの人(ひと)に関心(かんしん)を持(も)とう

 目(め)を見(み)て、微笑(ほほえ)んであいさつ (例文(れいぶん))
 こんにちは。私(わたし)の名前(なまえ)は     です。好(す)きなものは     です。よろしくお願(ねが)いします。
 
 Hello. My Name is      .   I like      .

 あいさつを交(か)わした人(ひと)の名前(なまえ):           、            、          
 Names of people you greeted.             、            、         

寄稿  総合的な時間「学びの森」実践報告(上)    岩脇 歳文

寄稿  総合的な時間「学びの森」実践報告(中)    岩脇 歳文

投稿  「県立高校改革実施計画」がめざす学校規模の過大化を憂う   岩脇歳文

投稿  入学者を「選抜」してよいのか    岩脇歳文

隣人に愛を ~ある定時制高校のホームルームの1年間をふり返って


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