2016年5月30日


投 稿

入学者を「選抜」してよいのか

横浜翠嵐高等学校 定時制 岩脇歳文




 定時制高校に勤務を始めて2年。私にとって2回目の入学者選抜(以下、「入選」と略す)が終わった。2回の入選を通して感じたことは、果たして夜間定時制の高校に入選が必要なのか、ということである。


0点でも合格 形だけの入学者「選抜」の実態

 本校定時制の受検生の多くは英語・数学・国語の学力検査と面接を受ける。合否は学力検査と面接、中学校の調査書を総合的に「評価」し、数値を算出した上で決定する。しかしながら、本校をはじめ、夜間定時制の高校は近年、ほぼ全ての学校において募集人員を割っている(表1 ※1)。
 ※1 ただし、昼間に授業の行われている定時制は、募集人員を志願者数が超えている。 

表1 2014(H26)年度以降の各入試選抜の倍率(神奈川県教委ホームページ資料より作成)     


共通選抜 定通分割選抜 二次募集
募集人員 志願者 倍率 募集人員 志願者 倍率 募集人員 志願者 倍率


2016(H28) 2797 2038 0.73 1204 396 0.33 955 23 0.02
2015(H27) 2853 2353 0.82 1132 456 0.40 811 21 0.03
2014(H26) 2909 2615 0.90 1039 665 0.64 477 26 0.05


2016(H28) 1216 288 0.24 1236 133 0.11 1128 26 0.02
2015(H27) 1216 352 0.29 1178 169 0.14 1033 21 0.02
2014(H26) 1216 454 0.37 1075 267 0.25 829 30 0.04


2016(H28) 43750 53284 1.22
2015(H27) 43300 52176 1.20
2014(H26) 43760 52540 1.20

 神奈川県の入選は「原則募集人員内不合格はない」ということで行われており、募集人員を割っている場合、学力検査が白紙かつ面接の質問に対して全く答えられなくても「合格」通知が交付される。このような「形だけの入選」となることは願書を受け付けた時点で明白である。


学び直し・再挑戦としての定時制高校

 表2では、志願者が募集人員を超えた場合、どのように対応するのか。その前に定時制高校の原点に立ち返って考えてみたい。

 高等学校の定時制課程は、学校教育法制定時(昭和23年)から設けられている制度で、創設の趣旨としては、「中学校を卒業して勤務に従事するなど様々な理由で全日制の高校に進めない青少年に対して高校教育を受ける機会を与える。」とされている。言い換えれば入学者の学ぶ権利を「選抜」することは、定時制高校の趣旨に反しているのである。

 また、前回の「神奈川県高校教育改革」において、全日制の統廃合が行われた結果、もともと全日制を希望していた生徒の多くが定時制に殺到した。統廃合で全日制9校が削減された2002年の入試では、前年の2001年が296名の欠員だったのが大きく変わり、そのままでは300人以上が不合格になり、高校就学が見込めないと予想された。

 そのため県教委は合格発表の寸前になって各高校に「できるだけ全員合格とするよう」強い要請を行うという「緊急措置による合格枠拡大」が行われた。このような措置は2002年度にとどまらず、2004、2005、2006、2007年度の計5回も行われた(表2 参照)。「合格枠の拡大」という前例から考えても、夜間定時制高校の入選の必要性が疑問視される。

 表2 2002年から2007年まで「合格枠拡大」の緊急措置が行われた  
入試年度 募集人員(A) 合格者数(B) B-A 定時制進学率 合格枠拡大数 全日制進学率 全日制高校削減数
2001(H13) 2310 2014 -296 2.1% 91.2% 4校
2002(H14) 2170 2370 200 2.8% 354 90.1% 9校
2003(H15) 2345 2128 -217 2.4% 91.1% 1校
2004(H16) 2320 2407 87 2.9% 183 90.8%
2005(H17) 2590 2670 80 3.4% 165 90.1%
2006(H18) 2745 2764 19 3.7% 91 89.6% 6校
2007(H19) 2450 2880 430 3.8% 433 89.3% 3校
2008(H20) 2910 2613 -297 3.4% 89.2% 2校
2015(H27) 3265 2473 -792 3.2% 90.2%
注  地域差、学校差があるため、B-Aは合格枠拡大数と一致しない



在校生の学ぶ権利を犠牲にしても、夜間定時制高校に入選は必要か  

 表3の通り、定時制高校には3種類の入選がある。共通選抜は全日制の高校と同様、2月中に行われ、在校生は1週間登校禁止となる。3月に入ると定通分割選抜、転編入試験、二次募集が次々と行われる。このため、在校生は、3月は自由登校になり、授業が実施されない。定時制生徒の学ぶ権利を犠牲にしてよいものか。

 また、神奈川県をはじめ、文部科学省が全国に「授業時間確保」を呼びかけている昨今、この現状は大きな問題ではなかろうか。

表3 平成28年度定時制入学者選抜(平成27年度実施)の日程   
月日 在校生の予定(横浜翠嵐高校定時制の事例)
2月16日・17日 共通選抜 2月15日~19日は生徒登校禁止。その他は2月は短縮授業
3月10日 定通分割選抜 3月中は4学年とも授業は行われない。生徒は4回のみ登校。
3月25日 二次募集


 

生徒支援に役立つ学力テスト・面接の実施を

 先に述べた通り、本校定時制の受検生の多くは、県共通の学力検査と面接(表1 ※2)を受ける。特に来日して間もない、日本語にまだ慣れていない外国につながる子どもにとって、全て日本語で書かれた学力検査は苦痛以外の何ものでもない。また、面接において、外国につながる生徒であっても通訳をつけることができないので、日本語の意味が分からず、黙り込んでしまうこともしばしばある。一切の事故がないよう、職員全員が多くのエネルギーを用いて実施するこの入選に意味があるのだろうか。

 私は夜間定時制高校の入選を廃止し、入学後の生徒支援に役立つ学力テスト・面談の実施を提案したい。

※2 他部制定時制は倍率が高く、定時制の学校の中では入学が難しい。定時制の学力検査・面接は夜間定時制と共通している。

   

私が提案する学力テスト・日程


 3月中旬
    
出願 : 本人が入学を辞退する場合以外は、必ず受け入れると説明

 3月下旬
    学力テスト(5教科全て、外国につながる子どもには日本語能力をはかるプレースメントテストも行う。
    → 採点
   
→ 5者面談
  学力テストの結果を参考に、本人・保護者・中学校の担当教員(可能であれば)と面談。本人に入学しようと思った経緯や家庭の状況、今後の進路など、総合的に面談し、信頼関係を築く。
 日本語に不自由のある生徒・保護者には学校・家庭の相互の理解を深めるために通訳をつけて面談に対応する。

 3月末 : 入学手続き

 4月上旬 : 入学

投稿 「県立高校改革実施計画」がめざす学校規模の過大化を憂う   岩脇歳文

寄稿  総合的学習の時間「学びの森」 実践報告    岩脇歳文


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