2019年5月1日
定時制 4年生
県立夜間定時制高校教諭 岩脇 歳文
「岩脇先生には、定時制にいる5年間のうち、4年ないし5年は担任をやっていただくことになります。」
当時の校長から神妙な面持ちで言われ、
「本当に担任をさせていただけるのですか。」
飛び上がるような気持ちで言ったあのときから5年が経過した。予告通り、私は1・1・2・3・4と、学年を持ち上がり、定時制を1サイクル体験することができた。27歳の若かりし頃、夢と希望に満ち溢れ、突っ走り、ときには壁に当たり、教育の限界を感じることもあったが、生徒たちの笑顔、同僚の支えがあって、5年前より身も心も1回りも2回りも大きくなったことを実感している。今回は今年度の実践について語りたい。
※生徒の写っている写真はプライバシーに配慮し、一部編集した。
【1】クラスみんなで盛り上がった3年2組
3年2組最後のホームルーム。いたずら書きには写真撮影後、初めて気づいたが、
今になっては名残惜しい光景である。
以前の考える会「ニュース」にて、「隣人に愛を ~ある定時制高校のホームルームの1年間をふり返って~」というタイトルでクラス実践の話をさせていただいた。
昨年担当した3年2組は、『自分たちの手でクラスを盛り上げたい』という気持ちが強く、自己紹介ゲーム、クラスレクで始まり、誕生祝い、ロングホームルームの時間を用いたお菓子パーティーや卒業パーティーなど、生徒が提案し、生徒たちが協力して行うクラスのイベントが多く行われた。
【2】大衆居酒屋のような4学年
本校定時制は半分程度の生徒が3年で卒業する。また、4学年は授業や行事のない日は登校しなくてよいことになっており、授業が後半からだとショート・ホームルームに行かなくてよいことになる。このため、クラス全員が集合する唯一の機会が月曜日の総合的な学習の時間だけになってしまう。
また、原級留置の生徒が入るので、みんなにとって一体感のあるクラスは形成しづらい。私の今年度の目標は『4学年にとっても温かいクラス』だった。
新たな取り組み:学年合同のホームルームの運営
学年全員で20数名しかいないため、クラスの垣根を超えてコミュニケーションをとってもらいたいと感じていた。もう1人の担任の先生に相談し、共同でホームルームの運営を行うことになった。
1.大衆居酒屋のような4学年の雰囲気
4学年を運営していて驚いたのは、生徒どうしが、絶妙な距離感を持って共存していることだ。1人で動画を見ていたり、ゲームをしていても邪魔されないが、誰が言い出すわけでもなく対戦ゲームが始まる。コンビニで買ったお菓子を周囲におすそ分けし合ったりしている(さすがに私は食べると唾液が出て授業にならないため、遠慮するが)。
卒業式後に教室にて行われた卒業パーティー。ジュースに
お寿司、ケーキ、ピザなどは生徒どうしが相談して仕入れた。
クラス以外の生徒も乱入する盛り上がりをみせた。
授業の関係で遅くきたり、早く来る生徒もいるなかで、1人の時間も大切にしつつ、常連も、一見さんも歓迎される、大衆居酒屋のような雰囲気が、私は好きだ。
2.情報交換が密に行われる
学校現場で周囲の先生方との連携が大切だと言われるが、多忙化のなか、担任が1人で抱え込むケースが多い傾向がある気がする。もう1人の担任の先生とともに生徒を見ているので、とても相談しやすい。
3.さまざまな活動の行き過ぎのブレーキ役
私とともに学年を運営している、学年リーダーは大ベテランの先生だ。この先生は経験が豊かであり、基本的には私が思いついた新しいことを肯定的に受け止めてくださるが、『これは適切でない』ということに関してははっきりと指導してくださる。この先生のおかげで自由にのびのびと、自信を持って成長している自分の姿を実感している。
4.人事を尽くして天命を待つ
この先生からいただいた言葉で以下のものが特に印象に残っている。
「まあいろんな人がいるってことですよ。」
「『人間っておもしろいな』っていう気持ちがなかったらこの仕事はやってられませんよ。」
「この生徒にはなんとしてでも単位をとらせなければ」とか「なんとしてでも卒業させなければ」と思い、焦っていた私が「人事を尽くして天命を待つ」という教員としての原点に立ち返るきっかけとなった。
5.文化祭
本校定時制の文化祭では例年、各学年を中心に食品販売(食販)が行われている。
当日6人全員が駆けつけた。『大衆
居酒屋』のゆるい結束力も舐めてはい
けない。
生徒は気持ちが変わることも多く、文化祭直前まで元気とやる気があっても、当日来ない生徒も多くいる。しかしながら、機材や材料にお金がかかっているため、結果的に学年の教員がフル出動し、教員が主体にならざるを得ないことがある。
焼き、品出し、会計、
パック詰め、接客の
見事な連携。定時制
の4年生は『子ども』
ではない。
今年度の4学年は特に人数が少なく、当日、積極的に協力したいと志願した生徒はたったの6人であった。6人はやる気に満ち溢れていたが、私は慎重な姿勢だった。
早々に完売。6月の気温よりも高い、
青春の思い出だ。
「先生、やりましょう。フランクフルトなら最悪先生と私2人でいけますよ。まあ、当日ゼロってことはないでしょ。」
この言葉に勇気づけられ、実施に踏み切った。