2011年9月25日

退任のご挨拶

かながわ定時制通信制教育を考える会

前代表  中陣 唯夫


 この度、8月の総会をもちまして会の代表を退任いたしました。
 1998年8月に、定年退職で任を退きました保坂先生に替わり代表を務めて満13年、「ニュース」NO.41からNO.108まで、代表としてスタッフとともに制作にかかわって参りました。

 この間、会員のみなさんをはじめ全員配布でお読みいただきました夜間定時制の教職員のみなさんから、さまざまな形で会の継続・成長にご協力いただきました。この機会に深くお礼を申し上げます。もちろん、今後も新代表の保永博行を中心に、会の活動は展開して参ります。今後とも、みなさんのご理解、お力添えをよろしくお願いいたします。
 退任にあたり、思い浮かぶままに以下に思うところを述べてみます。

 この会は、最大のナショナルセンター「連合」の発足に合わせて加盟した日教組の、今後に危惧を感じて結集した教職員の会を母胎としています。これは、「連合」が6000万の労働者を国策遂行の隊列に繋げる、労働部隊最大の「指令部」たる性格を持っていたからです。

 日々夕暮れ時に、労働をはじめ様々な荷を担って通学してくる生徒たちの姿に、そして生活、学習の双方の指導を通して、彼らの背後にクッキリと立ち現れてくる「社会」というものを教職員は認識せざるを得なかった−。それが「指令部」発足の際に、「これでは、この子たちはさらに社会的に追い込まれてしまう」との危機感につながったのだろうと思います。

 それは掻い撫での思想・信条などではなく、教育活動の中で培われた「階級」観だったろうと思っています。その時に教職員の眼の奥に波立っていただろう碧いさざ波を、私は今に忘れられません。

 40年たらずの教員在職中に、教育政策とは教育についての政策ではなく、「教育」に名を借りたれっきとした労働力政策だと教えられました。中教審答申、経済界の「在り方」報告・「提言」、首相の「教育改革構想」、臨教審、その他。さらに「規制緩和」、21世紀臨調、再生会議、国民会議などにより国家は、労働力政策に止まらず、「分に応じて自足した生き方」「日本は一つ」という観念を胸底に抱くような国民作りを「教育」を装って推進してきたように私には見えます。

 これが教育行政であるかのように一般に思われるのは、そこに、子どもたちや保護者、教育現場、教育運動、研究者の要求・願いが、とぎれることなく、通奏低音のように鳴り続けてきたからだと思います。「規制援和」が大手をふってかっ歩、新自由主義の風潮が蔓延した1998年に政府は、「労働基本法」の改悪に着手しましたが、その際に日本弁護士連合会が発表した「意見書」の一節が思い出されます。

       このような法律が成立すれば、働く者の生活は、男女ともに
       充実した職業生活と家庭生活を営むこととは程遠いものとなろう。


 今日、非正規雇用の労働者はその4割を超えています。青少年の大多数は競争社会の重圧に苦しみ、将来どころか、一、二年先の生活の見通しさえも立てられないようになっています。

 こうした「意見書」が出る状況の下で、神奈川県は国の政策に従い夜間定時制の教育課程の改変や統廃合を推し進め、引き続き全日制高校25校の統廃合という「県立高校リストラ」が本質の「高校改革10ヵ年計画」を2000年から実施したのです。この「リストラ」で、全日制希望者を夜間定時制に追いやり、定時制が溢れると今度は、5,000人という全国一の収容規模のマンモス通信制高校を新設し、そこに押し込むといった非情な「教育政策」をとってきた神奈川県政。

 その結果、全日制公立高校への進学率は全国最下位になってしまいました。その上、昨年(2010年)度の中途退学者は、全日制1,357人、夜間定時制839人、通信制1,105人で、総数は3,301人。さらに、この年度を含む四年間の総数を明らかにすれば、釣12,400名に上っています。

 これらのデーターは、県教育行政が、今日の産業社会で仕事を得て一般生活を営むには困難な「労働力」を大量に生み出してしまっていることを意味しています。その失政の責任はきびしく問われねばなりません。どこか、行政に共通した本質として、原発推進の経済産業省の中に保安院が同居していて、メルトダウン(炉心溶融)の危険性にチェックが利かなかったことと似ていませんか。

 文科省と総務省、厚労省間の連携プレーが密接で、ために子どものたちの教育権が保障されない。そしてある日、「建屋」を吹っ飛ばすような大「爆発」を起こして収拾がつかない事態にしてしまった、という比喩が成り立ちませんか。この比喩を先陣切って「現実」のものにしてきたのが、神姦川県の教育行政だと指摘しないわけにはいきません。教育行政による被害は、深刻で「取り返しがつかない」点でも、原発被災と似ています。

 このような県行政のあり方に20年来、歯に衣を着せずに指摘、是正を迫ってきたのが、私どもの会の類のない伝統的姿勢であります。

 私は代表を退任しますが、一会員として今後ともスタッフのみなさんとともに微力を尽くす所存です。

 この憂うべき現実に対峙し、教育を名実ともに国民のものにするために奮闘している個々の教職員、教育学者、研究者、運動団体とともに、とかく「声を上げる」条件に恵まれない夜間定時制通信制教育のために、その「代弁者」としても取り組んでいくことをお誓いしまして、退任のあいさつといたします。

これまでの「代表あいさつ」を紹介します
「2008年を迎えて」

   「憲法や教育基本法と要求とを結びつけて、課題の実現をはかる」

「再々度代表を務めるに当たって」
「『考える会』代表、三期目を務めるにあたって」
「代表に再任されて」  
「考える会の代表を務めるにあたって」
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