2024年12月18日
講演「神奈川県の高校統廃合問題を考える」 連載5神奈川県独自の県立高校統廃合
和光大学教授 山本 由美
学校施設の基本方針に、県立高校の統廃合に取り組むと記す
神奈川県の学校施設は168施設あって、建築後40年以上の建物が約60%。学校施設の基本方針によると、初めに学校施設の維持管理・修繕、更新を含む老朽化対策により長寿命化を図るとされ、65年から80年ほど長生きさせるとされています。
第二に「県立高校改革」により、生徒数や地域バランス等に配慮した県立高校の再編・統合に取り組むと書かれています。書かれていることが重要で、国から地方債などを借りてくることができると、ここに具体的に(校数等を)書き込むことができるのです。
第三に、公民連携です。「教育施設各所営繕業務」や「トイレ環境の整備」について、設計施工一括発注方式など民間活力を活用した施設整備を推進するということが記されています。
県立学校施設整備計画とセットで、県立高校の統廃合を推進
神奈川県では、生徒急増期対応として策定された「高校百校新設計画」に基づき、1973年から1987年の短期間にかけて高校が建設されました。
それが今、40年から50年経ち、一気に改修の時期を迎えることになり、ものすごいお金がかかるから、あらかじめ学校を減らしておき、改築・改修の費用を少なくしておこうというわけです。県立高校の60%が築40年以上で、私が出前授業などで訪れても古い校舎が多いと感じます。
2016年度から2020年度までに、「県立学校施設再整備計画」(新まなびや計画)に基づき計画的に49棟を耐震化するとともに、32棟の老朽化対策を実施したことと並べて、8校を統廃合して4校を削減したことが対策の実績として「神奈川県公共施設等総合管理計画(2022年改訂)」に書き込まれています。
県立学校の施設整備と県立高校の統廃合がセットにされています。
「県立高校改革実施計画」、神奈川県独特の統廃合理由
それでは、次に「県立高校改革実施計画」についてお話します。神奈川県の統廃合の特徴は、対象の学校が募集定数を割っているから廃校ではないのですね。それは、独特ですよね。
東京ですら、定数を割っているとか言っているのに、神奈川県は「3年連続定員割れ」とかは言わないのです。特色なんですよね。
こういう特色とこういう特色を併せてこういう特色にしますので(この学校を残し、この学校を廃校)という独特の統合理由があると思いました。
2016年に出された「県立高校改革実施計画」では、「改革のコンセプト」として、「生徒の学びと成長にとって何が必要か ― スチューデントファースト」と掲げられていますが、こんなことを打ち出しているところはないですよ。実態はスクラップ&ビルドを伴う統廃合なのです。
次に、改革の柱の一番目に、「質の高い教育の充実」が挙げられていますが、はっきり言って序列化されていますよね。手をつけない上の方の学校があって(学力差で)序列化されています。
また、神奈川県はインクルーシブ教育を積極的に打ち出しており、これも他の県にはない独特な面だと思いました。
二番目に、「学校経営力の向上」ですが、これは何を言っているのかよくわからないのですが、「コミュニティスクールの推進」というのがここで出てくるのです。ちなみに、すべての県立高校にコミュニティスクールを導入するというのは、全国で神奈川県と山口県だけなのです。
山口県は日本で唯一、小中高全部コミュニティスクールです。安倍政権の時、ローカルアベノミクスと言って、地方「創世」をやろうとしていたこともあったと思うのですけど、進学校においては完全に形骸化していると聞いています。全県のいろいろなところから生徒が来る進学校は地域と結びついていないからコミュニティスクールにできないと言っていました。
三番目に、再編・統廃合の取り組みが柱になっています。(連載5につづく)
講演「神奈川県の高校統廃合問題を考える」 連載1
講演「神奈川県の高校統廃合問題を考える」 連載2
講演「神奈川県の高校統廃合問題を考える」 連載3
講演「神奈川県の高校統廃合問題を考える」 連載4
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