2024年12月8日


講演「神奈川県の高校統廃合問題を考える」 連載

財政誘導を伴う政策によって進められてきた
学校統廃合

和光大学教授 山本 由美

 
 次に、「政策的に進められてきた統廃合」ということですが、全国的なことについては1時間しかないので、あっさりといきます。

 2014年から第二次安倍政権による「地方創世」がスタートしたことにより、この年度から「公共施設等総合管理計画」を総務省がすべての自治体に要請しました。これは、自治体のなかの公共施設の総量を減らそうという計画で、今後人口も減るし、税収も減るし、施設も古くなり改修に予算がかかるので、予め施設を減らしておこうというわけです。地方交付税の対象である神奈川県も、要請に応じて計画を立てました。

 地方交付税をもらっている自治体は、この計画に(統廃合する施設を)書き込むといろんな財政的メリット(計画策定費用に特別交付税、施設解体費用に地方債適用など、詳しくは後述)があるので、財政誘導がすごくきいており、これが、学校統廃合を推し進める大きな力になっていると思います。

 この「地方創生」政策(新自由主義的地方再編)がスタートしてから、国の統廃合を推進する政策が進みました。2015年に内閣府の経済財政諮問会議の経済財政一体化推進委員会がこれからの国の政策の改革工程表を出し、教育の筆頭ページに「学校の適正規模化」を書き込みました。統廃合を国の経済政策として挙げるということになったわけです。

 それから、同じ年に義務制の統廃合の「手引き」が58年ぶりに改定されました。前の「手引き」ができたのは、昭和の大合併ですから昭和20年代なのですが、それから約60年後に統廃合を推進する「手引き」(単学級校の統廃合の適否を速やかに検討、通学バス等でおおむね1時間以内など)がつくられたということになります。

大阪など他府県の機械的統廃合  機械的募集停止・廃校を見直す県も

 高校統廃合について、神奈川県と他県との違いは、他県の傾向が大阪発の「定員割れイコール機械的統廃合」であるのに、神奈川はそうではないということにあると思います。

 大阪府は2012年だったと思うのですけど、府立高校が3年連続定員割れをしたら機械的に統廃合、廃校にするという条例を導入しました。これは、本当にひどくて定員を3年連続一人でも割れたら廃校の対象にするという、ものすごく厳格なことを行っているということを聞きました。

 それと同時に、私学助成を厚くして私学の実質無償化ということで、大阪は低所得者層が多いので、無償で私学に進学できるということになり、入学者に応じた教育費を府が配分するので、一部の私学が入学定員以上にたくさんの入学者を入れるようになり、私立と公立が生徒を取り合うことが生じています。

 学校施設や教育条件の良い私学に行きたいということで、一部の府立高校がどんどん定員割れ、そして機械的統廃合となり、この条例ができてからたくさんの府立高校(14校)が廃校になったと聞いています(2024年度に3校廃校予定)。

 この大阪の「何年定員割れしたら廃校」という制度が全国に入っていくことになります。岡山では2019年に、「2年連続定員割れしたら機械的に募集停止」という制度が決まったのですが、昨年(2022年)導入を前に見直しの機運が生じています。

 また、例外的に島根県では、30年間続いた機械的統廃合の方針を2018年に見直し、小規模校でも魅力化路線をめざすことになりました。それは、隠岐島前高校が島留学で成功し、地域魅力化にも町おこしにも高校存続にも貢献したということで、まったく違う路線を島根県は歩むことになったということです。     

(連載3につづく) 

講演「神奈川県の高校統廃合問題を考える」 連載1

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