2025年6月12日

  残業手当を支給しない「給特法」改定や主務教諭新設では

長時間労働と教員不足、教職員序列化・分断がすすむ


 公立の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下、「給特法」)の改定について、与党案をごく一部修正して、立憲民主党、国民民主党、維新の会を含めた5党による改定案が審議されました。
 
 5党による修正は、2029年度までに教員の1か月の「時間外在校等時間」を30時間程度に削減することを目標として定めるとしています。そのために、教員1人当たりの授業時数の削減、義務教育標準法上の教員定数の見直しなどを付則に盛り込むとしています。

 しかし、残業代不支給制度を維持したまま、教職調整額を1年ごとに1%ずつ引き上げ10%にするという改定案では、「定額働かせ放題」が更に強まり、長時間労働、教員不足が解決しません。

 それだけではなく、主務教諭という新たな職が新設されることにより、教職員間の序列化と職場の分断がすすむことになります(6月12日、自民、公明、立憲、維新、国民などの賛成で成立。日本共産党、れいわ新選組などは反対)。

業務量管理の義務付けだけでは、時短ハラスメントや持ち帰り仕事の増加になる
教職調整額の引き上げは、他の手当等の削減を伴う


 文部科学省(以下、文科省)は「給特法」一部改定法案の概要趣旨において、「教員に優れた人材を確保・・・・・、働き方改革の一層の推進、・・・・・教員の処遇の改善を図るため、教育委員会に対する業務量管理・健康確保措置実施計画の策定及び公表の義務付け、主務教諭の職の新設、教職調整額の引き上げ・・・・・等の措置を講ずる」と記しています。

 第一に挙げられているのは、「優れた人材の確保」です。「教員の処遇改善」は三番目です。そして、長時間過密労働を解決するために挙げられているのは、「教育委員会に対して業務量の管理等の策定と公表の義務付け」だけです。

 教育委員会に対する義務付けは、校長に対する義務付けにつながり、時間外在校等時間30時間を徹底させるために、「学校に残るな。早く帰宅せよ」といいうハラスメントや持ち帰り仕事(在校外の残業)の増加が懸念されます。

 また、時間外在校等時間30時間が「給特法」に盛り込まれると、30時間までの残業はやらせてよいということになりかねません。

 教員の処遇改善として、教職調整額を現行の4%から毎年1%ずつ引き上げ、2031年に10%にするというものの、幼稚園教諭は現状維持、指導改善研修を受けている教員には支給しないとされています。

 また、学級担任手当として月額3000円を加算する原資として、現在一律に支給されている義務教育等教員特別手当を来年度1.5%から1.0%に削減して充てるとしています。しかも特別支援学校および特別支援学級の担任は加算対象ではないとされています。

 さらに、2026年度以降、特別支援教育にかかわる「給料の調整額」の見直しが検討されており、教職調整額等の引き上げが、他の手当等の削減を原資とすることにつながります。

教職調整額を引き上げたのだから、「もっと働いてくれ」という圧力が強まる
残業代支給こそ、長時間労働に歯止めをかける世界のルール

 教員の平均勤務時間は、小学校と高校で週59時間、中学校では64時間となっています(2022年、文文科省の調査)。また、校内の時間外と持ち帰りを含めた時間外勤務の平均は月96時間10分であり、過労死ラインを超えています(2022年、全日本教職員組合調査 校種別の時間外勤務時間は以下参照)。

時間外勤務の校種別比較
  小学校  中学校  高校   特別支援学校 
 平日  3時間05分 3時間22分  2時間35分  2時間28分 
 土曜 1時間22分  4 時間08分 3時間57分  50分 
 日曜 33分  1時間55分  2時間20分  10分 
 4週  69時間15分  91時間31分  76時間52分  53時間19分 
 1か月   74時間11分    98時間04分     82時間21分  57時間08分
 

 こうした教員の長時間労働を生み出している原因の一つが、「定額働かせ放題」といわれる制度にあります。

 1971年に制定された「給特法」の第3条2(以下、参照)で、公立学校の教員には「時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しない」とされています。

 これは、労働基準法(以下、労基法)37条(以下参照)の「労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、・・・・通常の労働時間又は労働日の賃金の・・・・二割五分以上五割以下の・・・・割増賃金を支払わなければならない」に反しています。

 私立学校や国立大学付属学校の教員には、残業代が支給されているのに対して、公立学校教員については、多様性の高い児童生徒集団を教育対象としているため勤務時間管理が困難であるから残業代を支給することは困難であるとされています。

 今回の「給特法」改定案では「残業代ゼロ制度」が維持されることにより、「定額働かせ放題」が継続され、固定化されることになります。さらに、教職調整額を引き上げたのだから「その分、もっと働いてくれ」という圧力が強まる恐れがあります。

 教員の長時間労働に歯止めをかけるためには、労基法やILO(国際労働機関)条約で長時間労働を抑制する制度とされている残業代支給を導入すべきです。さらに、根本的に解決するためには、教員の基礎定数増によって正規教員を大幅に増やすことが必要です。

 

公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)

第3条 教育職員には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。

 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。


 

労 働 基 準 法

32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

A 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

37条 労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、・・・・通常の労働時間又は労働日の賃金の・・・・二割五分以上五割以下の・・・・割増賃金を支払わなければならない。


主務教諭の新設法制化は、教職員の差別・序列化と分断をもたらし、教職員の共同を崩す

 「給特法」の改定とともに、すべての校種に新たな職として「主務教諭を置くことができる」という学校教育法の一部改定が審議されています。

 法案の要綱には、「主務教諭の職務について、児童の教育等をつかさどり、及び命を受けて学校の教育活動に関し教諭その他の職員間における総合的な調整を行うこととする・・・・・」と記されています。

 公立学校の組織は一般に校長、副校長、教頭、主幹教諭、教諭で構成されています。今回の改定では、教諭の上に主務教諭を新設、若手教員のサポートや、学校内外関係者との調整役を担うとされています。さらに、主務教諭と教諭の間に、6000円程度の賃金格差を設けようとしています。

 東京都では、主務教諭と同様の職である主任教諭をすでに独自で設けています。しかし、教諭の基本給は他県より低く、主任教諭になると他県の教諭並みになることから、主務教諭新設により、教諭の基本給が引き下げられる恐れがあります。

 こうして、賃金の階層構造が持ち込まれると、教員の差別・序列化がすすみ、トップダウンの学校運営が強まり、教職員の集団的な協力共同の関係が崩され、職場の分断が生ずることが危惧されます。主務教諭の新設はやめるべきです。 
中教審「質の高い教師の確保特別部会」による「審議のまとめ」に対する「考える会」会員の意見書
教職調整額を維持した上で、残業手当を支給せよ!
「給特法」の教職調整額を10%以上に増額しても、長時間過密労働は解消しない。正規教職員を大幅に増員せよ! 残業手当を支給せよ!
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