2024年7月9日
 

中教審「質の高い教師の確保特別部会」による
「審議のまとめ」に対する意見書

  

1.教員定数「標準法」を改正したうえで、
専任教員を大幅に増員し、教員一人が受け持つ授業時数に上限設定を

(第4章 学校の指導・運営体制の充実 
「1. 教職員定数の改善と教職員配置の在り方等」に関して)

 「義務標準法」は、「勤務時間の半分は指導時数、残り半分は準備を含めた校務に充てること」を想定して制定されました。しかし、「完全週休2日制への移行や学習指導要領の改訂による授業時数の増などが行われた」ことにより、勤務時間の半分が授業、残り半分が授業準備をふくめた校務とはいえない状況になっています。

 「審議まとめ」は、33ページで、「教員定数の改善により、現在においても、その割合はおおむね法制定当時と同水準にある」と記されていますが、現状は指導時数が半分以上を占める教員が特に小学校では多いといえます。

 教師の週当たりの平均持ち授業時数が、小学校で24.1時間となっています(34ページ)。これは、週4日は5時間の授業で1日だけ4時間の授業であれば、週24時間になります。給食時間の指導も含めると、週4日は勤務時間の半分以上が指導時数となり、これでは、「おおむね法制定当時と同水準にある」とはいえません。

 また、「審議まとめ」は「専任教員を増やし、教員一人が受け持つ授業時数に上限を設定せよ」という要求に対し、「教師が受け持つ児童生徒数が少ない場合は持ち授業時数は多いものの在校等時間は短く、教師が受け持つ児童生徒数が多い場合は 持ち授業時数は少なくても逆に在校等時間が長い傾向にある。

 このように、持ち授業時数のみで教師の勤務負担を測ることは十分ではないといった課題があり」として、上限の設定を退けています(35ページ)。

 しかし、これは受け持つ児童生徒数が多いと、それだけテスト採点やノート点検などに時間がかかり、在校時間が長くなることを示しているだけです。受け持つ児童生徒数が多い教員の授業時数を上限より少なくすれば勤務時間内に採点・点検などを終えることができるわけで、「上限を設定しない」理由にはなりません。

 教員の基礎定数は、学級数とそれに「乗ずる数」によってきまります。

 「審議のまとめ」は「乗ずる数」の引き上げは、「教員定数の活用目的を限定しない基礎定数の増加となるため、必ずしも増加した教員定数が持ち授業時数の減少のために用いられない可能性がある」として、目的を限定した加配定数増が望ましいとしています。

 基礎定数の増加が「授業時数の減少のために用いられない可能性がある」(35ページ)という通常は考えられない理由で「乗ずる数」の引き上げ(基礎定数増)を退けています。

 そもそも、今回中教審に課されていたのは、「このままでは学校はもたない」と言われるほどの長時間労働、年度当初からの専任教員未配置、産休・療休の代替教員不足、教員採用試験の低倍率、教員不人気などをどう解決していくのかということでした。

 これらの問題を抜本的に解決するには、教員一人当たりの仕事量を大きく減らすことです。そのために、今の教育現場に対応していない「義務標準法」や高校の「定数標準法」を改正したうえで、専任教員を大幅に増員し、教員一人が受け持つ授業時数に上限を設定することが必要です。


2.長時間労働を抑制する制度である残業手当を
公立学校の教員にも支給すること

(5章 教師の処遇改善  
「2.教職の重要性を踏まえた教師の処遇改善の在り方について 」に関して)

 「審議のまとめ」は、公立学校の教師と国立・私立学校の教師とで、三つの点で差異(51ページ)が存在しており、この差異から生ずる理由で、国立・私立学校の教員には支給されている残業手当を公立学校の教員には支給できないとしています。

 一つ目の差異として、公立学校の教師は地方公務員として、給与等の勤務条件が条例によって定められているのに対し、国立・私立学校の教師は、給与等の勤務条件が私的契約によって決まるということがあげられています。しかし、同じ公立学校に勤めている教員以外の職員には残業手当が支給されており、公務員であることを残業手当不支給の理由にあげることはできません。

 もう一つの差異として、公立学校の教師には定期的な人事異動が存在するため、より良い指導を行うための準備が必要であるとされています。人事異動があり、地域や学校の違いにより準備が必要であることが、残業手当を支給できないとする理由にはなりません。

 最後の差異として、公立の学校は「域内の子供たちを受け入れて教育の機会を保障しており、在籍する児童生徒等の抱える課題が多様」であり、「相対的に多様性の高い児童生徒集団となり、より臨機応変に対応する必要性が高いこと」(51ページ)があげられています。

 公立学校は、特別支援学級に在籍する生徒数が国立の約10倍、私立の約100倍、通級指導を受けている生徒数が国立の約30倍、私立の約100倍、不登校生徒数が国立の約2倍、私立の約2倍、外国人生徒数が国立の約6倍、私立の約2倍となっています(51ページ注)。

 公立学校の教員は児童生徒の指導に時間と手間がかかります。国立や私立学校の教員に比べ、公立学校の教員は、仕事に時間がかかり、何も手当てがされないと超過勤務となる可能性が高くなります。

 これに対し「審議のまとめ」は、公立学校の児童生徒は多様性が高く、抱える課題も多様だから教員は臨機応変に対応しなければならず、勤務時間を管理することが困難であるので、国立や私立の学校で認められている残業手当を支給できないと結論づけています(52ページ)。

 しかし、残業手当を支給せず、教職調整額を現在の4%から10%以上と増額しても、現在の長時間労働と教員不足は解決しません。かえって、「お金を増やしたのだから、もっと働いてくれ」という圧力が強まる懸念が生じます。「審議のまとめ」に対して、現場の教員からは「お金でなく、残業をなくしてくれ」、「このままでは公教育は崩壊する」という声があがっています。

 労働基準法やILO(国際労働機関)条約が指摘しているように、残業手当の支給は長時間労働を抑制する制度です。公立学校の教員にこそ残業手当を支給する(それにより多額の割り増し賃金が発生するので専任教員が増やされることになる)ことにより、超過勤務、長時間労働が解消されます。

 国立や私立の学校に支給されている残業手当を公立学校の教員にも支給させることが必要です。

以上

長時間労働を解消し、教員不足を解決するためには、専任教員を大幅に増やし、残業手当を支給することが必要
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