2023年7月11日

  「給特法」の教職調整額を10%以上に増額しても、長時間過密労働は解消しない

正規教職員を大幅に増員せよ!
残業手当を支給せよ!



 文部科学省(以下、文科省)は4月、2022年度の教員の勤務実態調査結果を発表しました。

 それによると、平日1日あたりの勤務時間(文科省は在校等時間という)は小学校で10時間45分、中学校で11時間1分、1カ月あたりの時間外勤務が文科省の定める上限基準(45時間)を超える教員は、小学校で64.5%、中学校で77.1%を占め、なかでも中学校の36.6%が月80時間の「過労死ライン」を超えています。

 ブラック職場とも呼ばれる過酷な労働条件のため、療養休暇や中途退職の増加、教員試験の倍率低下により深刻な教員不足となり、年度当初から定数内欠員が生じています。これに対し、文科省や自民党は「公立学校教員給与特別措置法」(以下、「給特法」)の見直しを表明し、検討に入りました。

 しかし、伝えられている検討内容は抜本的改革とはいえず、長時間過密労働の解消にはほど遠いものとなっています。

過酷な長時間過密労働と蓄積する疲労

 全教(全日本教職員組合)がこの3月に発表した調査(小中高校・特別支援学校等の教員2106人からの回答)によると、自宅への持ち帰り仕事も含めた時間外労働について、月平均で過労死ラインを超える96時間10分となっています。

 校種別では、中学校が最も長く月平均で113時間44分。高校が95時間32分、学級担任の教員は106時間45分、部活動顧問の教員は108時間13分でした。1日の休憩時間は平均10.1分(小学校4.1分、中学校5.9分、高校25.1分)、休憩をまったく取れていない教員は、61.1%となっています。

 さらに、平日の平均的な睡眠時間は、6時間未満が46.3% 「疲れが翌日に残ることが時々ある」「睡眠によっても疲れは解消せず、溜まっていく」が合計で86.3%でした。

 かける時間を減らしたい業務(複数回答)では、多いのが「報告書の作成」で小学校72.3%、中学校69.3%、高校で50.5%であり、「仕事量が多すぎる」と答えた教員は78.7%に達しました。

 これに対し、もっと時間をかけたいと思うことは「授業・学習指導とその準備」「学習指導以外の子どもの指導」「自主的な研修や自己研さん」が多く選択されました。

文科省や自民党は、教職調整額(4%)の引き上げや 職務に応じた手当の創設を検討

 教員の処遇改善策を検討する文科省の有識者会議は4月、今後の論点を給与、勤務制度、働き方改革、教職員配置、支援スタッフなど5項目で整理しました。そのうえで、教職調整額の引き上げ、学級担任やICT担当など職務に応じた手当の創設などを示しました。

 また、5月には自民党の特命委員会が、教員の処遇や働き方に関する提言(「令和の教育人材確保実現プラン(提言)」)をとりまとめました。この提言は、「給特法」を温存した上で残業手当(時間外勤務手当と休日勤務手当)を支給することなく、教職調整額を4%から10%以上に増額、給料表に新たな級の創設、学級担任手当の新設、主任手当など諸手当改善などを明らかにしています。

 同じく5月に、永岡文科大臣は中央教育審議会(以下、中教審)に、学校の働き方改革や教員の処遇改善策などを検討するよう諮問しました。中教審は、有識者会議の「論点整理」をベースに、また自民党特命委の提言を参考にして検討をすすめていくことになります。

「教職調整額の引き上げでは、残業も過労死も無くならない」

 有識者会議の「論点整理」や自民党の「提言」が示している内容は、「給特法」について教職調整額を増額することで一部手直しした体裁をとり、学級担任をはじめとする職務に応じた手当を創設することで、教職員や保護者からの批判をかわそうとする狙いがすけてみえます。

 5月26日、「給特法のこれからを考える有志の会」の記者会見で、息子を過労自死で亡くした父親は「お金が増えても、残業や仕事が減らなければ、過労死は無くならない」と訴えました。また、現役の高校教員は「現場の思いはただただ残業をなくしてほしいということ。調整額の引き上げでは、残業も過労死も減らない」と強調しました。

長時間過密労働を解消するには、正規教員の大幅増員が決定的に必要

 自民党「提言」は、教員業務支援員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、部活動指導員など、支援スタッフの配置拡充を示しています。しかし、この「提言」や「論点整理」では、教員処遇改善に最も必要な正規教員の大幅増員については触れられていません。

 2002年度完全学校5日制になり週6日から5日勤務になったものの、教員の持ち時間(週に教える授業時数)は減らされることなく、総合的学習の時間、キャリア教育などが加わり、アンケート調査や報告書の作成などの業務が年ごとに増加しました。

 教員の長時間過密労働を解消するためには、不要な仕事を大きく減らすと同時に、教員定数を定めている国の「定数法」を抜本的に改善することが求められます。「定数法」が改正されるまでは、県や政令市が独自に教員を加配して、正規教員を大幅に増員することが決定的に必要です。

「給特法」は廃止を含む抜本的見直しを! 
残業手当の支給を!

 「給特法」はその3条において、「給料月額の4%に当たる教職調整額を支給しなければならない」、「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」とされています。また、6条1で特別の場合(限定4項目)を除いて、超過勤務を禁じています。

超勤を命じることのできる限定4項目

(1)生徒の実習に関する業務
(2)学校行事に関する業務
(3)教職員会議に関する業務
  (「給特法」6条2から、生徒指導など緊急の臨時職員会議だけが該当する)
(4)非常災害等のやむを得ない場合の業務
 

公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)

第三条 教育職員には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。

第六条 教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。
 前項の政令を定める場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない。 

 

 しかし、今や超過勤務を禁じている「給特法」は「定額働かせ放題」と呼ばれ、教員の長時間労働に歯止めをかけず、「時間外勤務」を放置することにつながっています。

 限定4項目以外の時間外業務については、校長が超過勤務を命じていないのだから、労働基準法(以下、労基法)でいう労働に当たらず、教員の自主的な行為(ボランティア)であるという、文科省や行政当局の見解が長時間労働の抑制を妨げてきました。

 今年3月に最高裁が上告を棄却した「さいたま超勤訴訟」では、1コマあたり5分間の授業準備、通知表の作成、学級懇談会の準備などが労働と認められたものの、それ以外の多くの業務(5分以上の授業準備、教室の整理点検、提出ドリルのチェック、小テストの採点、不登校生徒の保護者との面談等々)は労基法上の労働と認められませんでした。一方、校長の具体的な命令がなくても、職員会議を通じて行うことになった業務は労働時間であるとされました。

 労基法(以下、参照)は、32条において「一日について八時間を超えて、労働させてはならない」、「一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない」とされ、これだけでは超過勤務を抑制することができないため、37条でこの時間を超えた場合には割増賃金(通常時間賃金の25〜50%プラスの残業手当)を支給しなければならないとされています。

 残業手当支給は労基法やILO(国際労働機関)条約で長時間労働を抑制する制度とされており、この手当を公立学校の教員にも支給することが必要です(私立学校や国立大付属学校の教員にはすでに支給されています)。

 正規教職員の大幅増員と残業手当の支給を求める運動を、広く保護者・県民に訴え、実現をめざしていきましょう。

 

労 働 基 準 法

第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

A 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

第37条 労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、・・・・通常の労働時間又は労働日の賃金の・・・・二割五分以上五割以下の・・・・割増賃金を支払わなければならない。

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