2022年3月10日
「さいたま超勤訴訟」判決を梃子に
長時間労働解消と「給特法」改正の運動をすすめよう!
― 「超勤限定4項目」以外も、労基法32条に基づく「労働時間に該当する」と認定 ―
教員の時間外労働に残業代が支給されないのは違法だとして、埼玉県の公立小学校教員が県に未払い賃金を求めた訴訟で、さいたま地裁は昨年10月、「原告には、労働基準法(労基法)37条に基づく時間外労働の割増賃金請求権がなく、校長の職務命令に国家賠償法(国賠法)上の違法性は認められない」として請求を棄却しました。判決後、原告は「不満で仕方ありません」と控訴する姿勢を示しました。
一方、原告弁護士は「教員にも労基法が適用され、労働時間規制が及ぶことを明言した画期的な判決」と一定の評価をしました。
また、埼玉大学の高橋哲准教授は「労基法32条に基づく労働時間の該当性が認められ、32条違反があれば損害賠償ができるということが判示され、閉ざされた門が開かれた」と語りました。
今回の「さいたま超勤訴訟」がこれまでの裁判とどこが異なり、画期的なのか
これまでの残業代未払い訴訟は、労基法37条に基づき、法定労働時間を超えて働いた分の超勤手当を求めるものでした。しかし、こうした訴訟では、「給特法」(最下段参照)により教員には4%の教職調整額が支払われているので労基法37条は適用除外とされ、請求が棄却されてきました。
一方、今回の裁判では、超勤を命じることのできる限定4項目(下記参照)以外の業務が教員の自発的な業務ばかりではなく、労基法32条に基づく労働時間に該当するのではないかということがまず問われました。そのうえで原告教諭は、労働時間に該当するのならば労基法32条違反になり超勤手当の対象になるのではないか、少なくとも違法な働かせ方なので国賠法の対象になるのではないかと主張しました。
超勤を命じることのできる限定4項目
(1)生徒の実習に関する業務
(2)学校行事に関する業務
(3)教職員会議に関する業務
(「給特法」6条2から、生徒指導など緊急の臨時職員会議だけが該当する)
(4)非常災害等のやむを得ない場合の業務原告教諭によると、朝7時半に出勤、保護者からの欠席連絡の対応、登校指導、午後5時過ぎには採点や翌日の授業準備、学級通信作成など時間外労働は月平均60時間となり、その9割は限定4項目以外の校長から命じられた業務ということです。一方県側は、校長が時間外労働を命じたことはなく、教諭が自主的に行っていた業務であるとして請求棄却を求めました。
判決は、原告の請求を棄却したものの、これまで労働時間と認められてこなかった限定4項目以外の一部時間外労働について「労基法上の労働時間に該当する」と認定しました。また、校長の具体的な命令がなくても、職員会議を通じて行うことになった業務は労働時間であると認められました。
労基法上の労働時間であるのならば、32条が定めている上限時間に収まっていなければなりません。時間外労働の実態に関する証拠を積み重ねることにより、時間外労働の常態化が認められるならば、労基法32条違反として国賠法上の違反にもなりうることが示された判決といえます。
裁判長が、「給特法は、もはや教育現場の実状に適合していないのでは」と指摘
裁判長は判決の「まとめ」(下記参照)で、残業代の代わりに月給4%分を一律で支給する「給特法」について、「もはや教育現場の実情に適合していないのではないか」と異例の指摘をするとともに、教員の働き方改革や給与体系の見直しの必要性にも言及しました。
「さいたま超勤訴訟」における判決「まとめ」
なお、本件事案の性質に鑑みて、付言するに、本件訴訟で顕れた原告の勤務実態のほか、証拠として提出された各種調査の結果や文献等を見ると、現在のわが国における教育現場の実情としては、多くの教育職員が、学校長の職務命令などから一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況にあり、給料月額4パーセントの割合による教職調整額の支給を定めた給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ず、原告が本件訴訟を通じて、この問題を社会に提議したことは意義があるものと考える。
わが国の将来を担う児童生徒の教育を今一層充実したものとするためにも、現場の教育職員の意見に真摯に耳を傾け、働き方改革による教育職員の業務の削減を行い、勤務実態に即した適正給与の支給のために、勤務時間の管理システムの整備や給特法を含めた給与体系の見直しなどを早急に進め、教育現場の勤務環境の改善が図られることを切に望むものである。
「給特法」は、三条2で「時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」とするものの、六条1で特別の場合を除いて、超過勤務を禁じています(下記参照)。超過勤務を命じることができるのは限定4項目であり、六条2を踏まえ、臨時または緊急のやむを得ない場合に限られています。
しかし、現実には職員会議の決定ということで、限定4項目以外の時間外業務が教職員に課されています。昨年12月には、持ち帰り残業も含めた時間外労働が中学校で月120時間12分、小学校で90時間16分、高校で83時間32分という数値が示されました(日教組調査)。
過労死ラインの月80時間を超える時間外労働の実態と限定4項目以外の超過勤務を命じることはできないという「給特法」の間には著しい乖離があり、判決「まとめ」が指摘しているように「給特法」は教育現場の実情にまったく適合しておらず、改正は待ったなしの状況といえます。
「給特法」は、第六条に基づき「原則として時間外勤務を命じないものとするとした政令」を堅持するとともに、三条2を削除し実労働時間が法定労働時間を超えた場合には、労基法第37条に準じて計算した時間外手当を支払う旨の規定を設けることが必要です。教職調整額については、事後的な清算を行う賃金の一部支給と見て、現実の時間外労働とあわせて清算するとして残すことが考えられます。
「さいたま超勤訴訟」で下された判決を梃子に長時間過密労働の解消と「給特法」の改正をめざす運動をこれまでにも増して大きく進めていきましょう。
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)
第三条 教育職員には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
2 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。
第六条 教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。
2 前項の政令を定める場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない。
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