トンボについて


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トンボの生態と観察

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 《夕焼けこやけの赤とんぼ 負われて見たのはいつの日か
 トンボは古くから人々に親しまれてきた。昼行性で比較的大型であり、飛翔力に優れてよく飛ぶため人目につきやすい。肉食性で蚊や蝿のような小型の昆虫を主食とするので益虫とされる。また蝶や蛾のように一部の人々に嫌われる燐粉を持たない等がその理由であろう。

分類
 昆虫綱−蜻蛉目(トンボ目)に一括され、日本には14科83属181種14亜種が知られている。各々の生態は種によって相違があるものの幼虫、成虫共に非選別的肉食性であること、幼虫が水中生活をすることなど生活環に共通性があり、また種による極端な形態変異も見られないことから、比較的完成した昆虫群であると考えられる。

種類
 日本には多くの種類のトンボがいるが、日本に一様に分布している訳ではなく種による地域性があるため、ここでは東京、神奈川周辺の地域で見ることのできる種類を対象として取扱う。従って寒地性の強い種類、いわば北方種(ルリボシヤンマ、ルリイトトンボ、カオジロトンボ等)や暖地性の強い種類及び我が国では南西諸島のみに分布するいわば南方種(ミナミヤンマ、トゲオトンボ、ベッコウチョウトンボ等)そして局地的に分布する特殊なもの(オガサワライトトンボ)は考慮していない。

トンボの観察
ベッコウトンボ
 東京・神奈川周辺に生息しているあるいは生息可能と考えられる種類数は本州に分布する112種2亜種の半分程度約60種と推測できるが、近年の生息環境の激変とトンボの個体数の著しい減少を思うと、実際に観察できる種類がどの程度か断定はできない。しかしながら、東京都区内でサラサヤンマが捕獲された例、都心に近い新宿御苑で約20種のトンボが目撃されている例があり、都市部でも水辺が大きく破壊されていない公園のような場所では相当数のトンボが観察できるものと思われる。今後、多くの人々がトンボに親しみ、観察者が増え、多くの観察例が報告されることを望みたい。

ヤマサナエ トンボは水辺の限られた生態型の中では比較的上位に位置するため、水辺の自然環境が良好かどうか、換言すれば生物相が豊かであるかどうかの指標となり得る。トンボの多い水辺は自然環境がよく保たれていると言える。
 トンボの活動範囲は種類によって著しい差がある。ウスバキトンボははるばる海を越えてフィリピンから日本にやって来ると言われ、またアキアカネは秋に平地で大集団が見られるが、これは6月頃に平地の水田等で発生したものが山地で成熟して平地に戻ってきたものである。サッカ−で有名な静岡県磐田市にはベッコウトンボの棲む桶ケ谷沼があり、ベッコウトンボはこの沼を唯一確実な生息域として種の絶滅を免れている。また東京都葛飾区水元公園の水草植物園周辺は極めて狭い水辺であるにも拘らず、東京、神奈川周辺で唯一オオモノサシトンボが観察できる場所である。
 一般に成熟した成虫は水辺から離れることなく飛翔する種類が多いため、観察の対象として好都合であり、姿や色も美しく眺めていて飽きることがない。トンボ観察が未経験な人は是非、身近な水辺に足を運び、どのような種類のトンボがいるのか自分の目で捜していただきたい。珍しい種類や美しい種類に出会ったときの喜びは想像以上に大きいものである。

困難な成虫の飼育
オオイトトンボの集団羽化 普通トンボの成虫は飼育対象とならない。大型のヤンマ類だけでなくシオカラトンボのような中型のトンボでさえ、日本の家屋内程度の空間では捕食行動を取らない。手に持ったトンボの口に餌を運んで強引に摂食させることは可能であるが、ハンドペアリングによる強制交尾は蝶のように容易ではなく、殆ど成功しない。従って一般的にはトンボの成虫は飼育が不可能とされている。確かに野外から室内に持ち込んだトンボや偶然室内に迷い込んだトンボは必死で出口を捜すように窓際を飛び回る。しかしこのことをもってトンボの室内飼育が不可能であると断定していいものだろうか?
 イトトンボの仲間では、充分な水辺植物がある場合、狭い範囲で一日中見られることから、その空間を区切っても生息が可能であると思われる。実際にビニ−ルハウス内で発生、交尾、産卵をしていた例として、アジアイトトンボ、オオイトトンボ、モノサシトンボ、ホソミオツネントンボを確認している。
 昆虫園と言われる大型の施設でもトンボの成虫を飼育している例はないが、これは園内にトンボに適した環境をあえて作らないからである。トンボが生育するためには餌となる小さな昆虫類を確保しなければならず、従って蚊や蝿の仲間、ウンカやヨコバイの仲間のようにあまり好感されない昆虫の発生が不可欠となるため、来客を重視する施設にふさわしくないのである。しかし、近年のトンボの減少を考えれば、トンボの累代飼育を行なうための実験用施設を作ることは充分考慮されるべきであり、種の保護、増殖にとって有益であることに疑いの余地はない。オニヤンマ、ギンヤンマ、オオヤマトンボのように勇壮な飛翔性向を示す種類では施設内飼育が困難であるとしても、アオヤンマ、ネアカヨシヤンマ、カトリヤンマのように夕暮れの捕食時以外ではあまり行動しないもの、ベッコウトンボ、チョウトンボ、ハグロトンボ、ウチワヤンマのような水辺志向の強いもの、行動範囲の狭いイトトンボ類の多くは、案外飼育可能なのではないだろうか。

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飼育

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ヤゴの飼育

キイトトンボ普通飼育の対象となるのはトンボの幼虫、すなわちヤゴである。水辺で捕獲したものを持ち帰り、成虫になるまで育ててみるというのが一般的であろう。羽化した幼虫は当然野外に帰すことになる。
 ヤゴを飼育する場合に重要なことは、それがどのような場所にいたのかということだ。ヤゴの種類を同定することは容易でないため、入手したヤゴの元の生育環境をよく考慮して、それに近似的な環境を作れるかどうかが飼育のポイントとなる。ヤゴの生息水域は大きく分けて流水域と止水域がある。この場合流水域というには山間の渓流域ではなく、平地や丘陵地にある水路、水田脇の小川等で継続的な流れのある場所である。渓流域ではミヤマカワトンボ、ムカシトンボが生息するが、これらのヤゴは飼育が難しいため、たとえヤゴを捕獲しても速やかに元に戻してやる方がよい。

ベニイトトンボ 流水域では水温が低く安定しており、盛夏でも20度を大きく越えることはなく、また流水、低温のために溶存酸素量が多いという特徴を持つ。このような環境に生育するヤゴの飼育水槽ではエアレ−ションが不可欠で、水温が高くなるような場所は避けなければならない。
 一方、ヤゴは大きく分けて水底にひそみ砂泥に潜る性質のあるものと、水草に掴まって水草の茂みの中に身を隠すものとに区別することができる。当然両者にまたがるか、その中間の性質を示すものもいる訳であるが、ヤゴの同定が困難であることを考慮して水槽には砂泥を敷き、水草は多めに入れておくとよい。
 流水・砂泥中に棲む種類では、オニヤンマ、ミルンヤンマ、コオニヤンマ、シオヤトンボ、アオサナエ、ヤマサナエ、オナガサナエがいる。また流水、水草中に棲むものは、カワトンボ、ハグロトンボ、コシボソヤンマ等である。
 流水域ではカゲロウ、トビケラ、ユスリカの幼虫が多く、ヤゴはこれらの昆虫類を主食としているものと考えられるが、基本的に餌の種類を選ばないので、飼育下では入手できるものでよい。ヤゴの大きさに応じてアカムシ、オタマジャクシ、メダカ等が適当であろう。ヤゴは肉食性であるが、共食いの心配は以外と少なく比較的飢えにも強い。しかし大きさ形態が異なる種類を同一水槽内で飼育することは避けた方がよい。例えばオニヤンマハグロトンボのヤゴを食べてしまうかもしれない。

コバネアオイトトンボ 水槽内に羽化のための水上に突き出た木の枝やオモダカのような挺水植物を入れておくことは不可欠である。飼育下では羽化直前に死亡するケ−スがあり、一因として羽化場所がうまく見つけられないことが考えられる。羽化直前のヤゴは餌を食べなくなり、背中の羽もよく発達してくる上、水面近くにじっとしていることが多くなるので、その場合は羽化用の木の枝を増やしておくとよいだろう。
 水田や池沼のような止水域に棲むヤゴは飼育も比較的容易である。このような場所では水量の変化が大きく、また水温も高温域に変化しやすい。時として水が干上がってしまうことさえ起こるが、それでもヤゴは土中にひそんで生存していることがある。従って飼育水槽のエアレ−ションは必ずしも必要ではなく、水温にもそれ程気を配らなくてよいが、砂泥と水草は忘れてはならない。飼育の機会が多いと思われるギンヤンマや、ヤブヤンマ、マルタンヤンマのヤゴは好んで太い水草の茎に掴まっていることが多いため、そのような水草(オモダカ、コウホネ等)を選んで入れておくとよいだろう。入手できない場合は細い木の枝でも代用できる。
 止水域で砂泥中を好むものはシオカラトンボ、コシアキトンボ、アキアカネ、ミヤマアカネ等がいる。

 止水域で水草中に棲むのは主にイトトンボの仲間である。これらの種類を飼育する場合はマツモのような沈水性の水草を豊富に入れておくとよい。またイトトンボの仲間は羽化時に物に掴まって垂下する必要がなく、浮葉性植物の葉上で体を水平にしたまま羽化するものが多い。従ってアサザやトチカガミ、サンショウモ等の水草を入れておく。ヤゴの種類としてはベニイトトンボ、オオイトトンボ、アジアイトトンボ、クロイトトンボ、キイトトンボ、アオイトトンボ、モノサシトンボ、オツネントンボ等がある。



この稿終わり

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