その他の飼育対象種について


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ミズカマキリ ヒメミズカマキリ タイコウチ コオイムシ


水生カメムシの仲間の生態と飼育

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 《水生昆虫といえば何を思い出しますか?》こう質問した場合、ミズカマキリ、あるいはタイコウチと答える人が殆どだったことに意外の念を持った経験があります。
あるイベントに水生昆虫を展示すると、ゲンゴロウやガムシ、タガメなどよりもミズカマキリのブ−スに小さな子供が集中することも度々経験します。 今では殆ど見かける事の無い種類よりも、少なくはなったものの都市部でも郊外の田園地帯に行けば見つけることのできるミズカマキリなどの方が興味の対象になりやすいのかも知れません。

これらのミズカマキリやタイコウチなどの水生半翅類は比較的丈夫で飼育も難しくないことから、飼った経験のある人も多いに違いありません。 ミズカマキリなどは6月頃の産卵期から1月ほどで成虫になります。観察し易く、不完全変態の昆虫の代表種として格好の学習教材にもなりますから、小学校などで飼育されることも多いようです。 教育現場で指導される方は、今後も積極的に飼育などの体験学習を進めてほしいと思います。
 水生半翅類で飼育対象になるものは、前に取り上げたタガメや、ミズカマキリ、タイコウチ、コオイムシ、マツモムシ、アメンボなどの、止水域あるいは半止水域に生息する仲間です。これらは、通常水田や休耕田、用水路などで普通に観察できるもので、私などの年代の男子であれば多くの方に採集経験があり少なからぬ人が飼育経験もあるでしょう。これらの水辺の生物とのふれあいの中から自然に対する理解を深めていったのは確かだったと思います。

 さて、これら水生半翅類の多くに共通した特徴があります。肉食昆虫が多く、鋭い口吻を持っていること、獲物の体内に消化液を注入し溶かしてから吸い取って食べること、これは体外消化と呼ばれる消化吸収の仕方です。成虫越冬し、1、2年の寿命で年一世代が普通で5回の脱皮を繰り返して成虫になること、などです。これらの特徴を理解していることが飼育する場合重要なポイントになります。


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ミズカマキリの飼育


ミズカマキリ 新成虫の出現は7月頃からで、水田や殆ど流れの無い用水路などを好んで生息しています。主にアメンボなどを補食しているようで、自然下においても度々観察されます。その他に小昆虫、小魚、オタマジャクシ、アカムシやボウフラなど水辺の小動物は全て餌になります。ミズカマキリは水生半翅類のなかでは水生が強く、溺死による死亡はまず無いのですが、その割に飛翔性向が強く昼間でも活発に飛ぶことが知られています。このことは生息域を広げるためには大変有利な条件で、また環境変化に対する適応力にすぐれていることを意味します。都会においても観察されることがありますが、これも環境適応にすぐれたミズカマキリだからこそでしょう。

飼育のしかた

 広めの飼育ケ−スか水槽に10〜30pほど水を入れ、足場になる水草を適量配置します。餌はアメンボを使っても良いのですが、昆虫類よりはオタマジャクシなどの方が食べ出もありますし入手もしやすいでしょう。成虫の共食いはまずありませんが、成虫と幼虫はかならず別々に飼育してください。飼育環境が十分に広ければエアレ−ションの必要もないでしょう。食べ残しはこまめに取り除いてください。10月も半ばを過ぎると活動量が目に見えて低下してきます。餌も殆ど取らなくなりますから、直射日光や雨水が直接入らない屋外に置いておけば越冬させることが出来ます。よく春4月になると越冬から目覚めた個体は活発に補食しはじめ1ヵ月もすると産卵期に入ります。この頃に産卵用の飼育ケ−スを別に用意してペアリングを行ないます。産卵用ケ−スは飼育ケ−スに一部土を盛り、水は10p以下の浅めセッティングします。夜になると活発に交尾を行い、湿った土に、2〜3oの卵を10前後産み付けます。1週間強で卵は孵化し、幼虫は速やかに水に入って水中生活を始めます。ミズカマキリなどタイコウチ科は幼虫期の共食い性向が強いので人工飼育は別々に飼う必要があり手間が かかります。


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ヒメミズカマキリ

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 ヒメミズカマキリはミズカマキリの半分のサイズしかなく、ミズカマキリの4令幼虫ほどしかありません。その生態も異なるために自然下においてはミズカマキリとの混生は少ないようです。ミズカマキリが水田や休耕田などの水深の浅い水辺に生息するのに対して、ヒメミズカマキリは水生植物の繁茂した池などに生息し、しかも岸よりもやや離れた池中央よりに生息していることが多いようです。ヒメミズカマキリは最も水生適応した昆虫として知られており、陸地が無くても飼育できる珍しい水生昆虫です。新成虫は7月になって出現し11月頃に水底の泥などに隠れて越冬します。鯉などがいなければ比較的安全な水底は温度も比較的安定しており5月も終わる頃活動を開始するヒメミズカマキリにとって好ましい越冬環境なのでしょう。目覚めが遅い理由として産卵場所が他のタイコウチ科と異なっていることがあげられます。ヒメミズカマキリは水生植物の組織内に産卵します。他の種が湿った土の上に産卵するのは完全に水没すると卵が死んでしまうからですがヒメミズカマキリの卵に限っては水中で成長し孵化に至ります。ヒシなどの水生植物が繁茂しだすのは梅雨から8月にかけてですから 、目覚めの遅い理由もわかるでしょう。

飼育の仕方

 半分ほど水を入れた水槽にセリやオモダカなどを素焼きの鉢に入れてセッティングします。ヒシなどを入れてやるのもいいでしょう。これらの水草は普段は隠れ家や休息場になり、産卵期においては産卵場所を提供します。体が小さいヒメミズカマキリですから水もあまり汚れないので飼育しやすいでしょう。ただひとつの問題は餌です。アカムシなどの小昆虫が簡単に入手できれば良いのですが、餌に困った場合は飼育水槽の底に富栄養化した泥を入れておくと、夏場であればアカムシが自然に発生します。尚、ヒメミズカマキリの卵の孵化は遅いため(通常2週間近くかかることが多い)、死んだと勘違いして捨てないで下さい。成虫寿命はミズカマキリ同様一年と考えてください。


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タイコウチの飼育


 タイコウチの生息環境はミズカマキリと殆ど同じです。若干水深が浅いところを好む傾向があり、比較的流れがある用水路にも生息します。日中は水底の泥に隠れていることが多く、成虫はなかなか見つけにくいものです。幼虫は比較的無防備に体を泥から出していることが多いために見つけ易く、成虫に比べて幼虫の密度が濃く感じるのはこのためです。タイコウチの餌もミズカマキリ同様アメンボなどの小昆虫が多いようですが、前肢も太く丈夫なためやや大きめの餌も捕まえることが出来ます。生息域における生物層に応じて補食対象もかわります。交尾、産卵、補食行動など、全ての面でミズカマキリと殆ど同じなのですが、成虫の飛翔性向は弱く、活動量も少ないことが特徴でしょうか。そのために成虫寿命は2年ほどあるようで、飢えにも極端に強く、何週間も何も食べずに生きています。

飼育の仕方

 ミズカマキリと同じセッティングでかまいませんが、水深は10pくらいが目安になります。餌はオタマジャクシやカダヤシなどの小魚を与えると良いでしょう。夜昼の見境無く飛翔するミズカマキリと異なり、タイコウチの飛翔は夜に限られているようで、しかもあまりと飛びませんから、蓋なども夜だけで十分です。タイコウチも幼虫期は烈しく共食いしますから注意して下さい。尚、ミズカマキリとタイコウチを同じ水槽で飼育する場合は、十分な餌を与えなければなりません。飢えた状態ではミズカマキリが食べられてしまいます。


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コオイムシ

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 コオイムシ科の昆虫はコオイムシ、オオコオイムシ、タガメなどがいますが、雄による卵の保護に生態的特徴を見い出すことができます。 新成虫は7月頃から現われ、8月に個体密度のピ−クを迎えます。自然生息域における個体密度は比較的濃く、ひとすくいで何十匹も入ることも珍しくありません。ただ近年生息域の減少が目立ち、都市部で見かけることは殆どなくなってしまいました。越冬に入るのは早く、10月頃になると忽然と姿を消してしまうのは不思議な感じがします。それに比較して目覚めは早く、4月には活発に活動をはじめ、5月も半ばにもなると背中にたくさんの卵を背負った個体を見るようになります。タガメの孵化は一斉に行なわれるのに比べ、コオイムシやオオコオイムシはだらだらと一匹ずつ孵化するのも不思議です。生態上重要なことは一匹の雄が抱えている卵は百ほどですが、その卵は同じ雌の卵ではないということです。雌は通常十数個から数十個の卵を一回の産卵で産み付けますが、次の産卵までは1週間ほどかかります。ですから、雄は何匹かの雌の卵を背中に乗せていることになります。タガメのように雌が他の雌の卵を破壊するようなことがあれば大変なことになったでしょう。雌は何匹かの雄の背に産卵をすることになるわけで、生んだ子供を片っ端から開いている託児所に預けているようなもので 、おもしろい生態でしょう。興味のある方は、大きめの飼育ケ−スを用意し、雌雄10匹くらいづつにマ−クをし、同じケ−スに入れてどの雌がどの雄に産卵したかを観察すると、いろいろ貴重な観察結果が得られるでしょう。その結果をご連絡いただければ何らかのアドバイスも出来ると思います。是非試してください。

飼育の仕方

 土を盛った飼育ケ−スを用意します。ケ−スの中央部は摺り鉢状に掘っておきそこに水が溜まっているようにします。小さな水溜まりを作ったようなものです。土の部分にはセリやミズソバなどの植物を植え、水中にも若干の沈水植物を入れておきます。日中は水のなかに隠れていたコオイムシも夜になると水溜まりの周りにでてきます。飼育密度を濃くするためには有効な環境になります。簡単な方法としては浅めの水に枯れ木や木片を浮かべておくだけでも陸域は作れますが水草は忘れないで下さい。餌は他の水生昆虫と同じですが、刺身などの代用食をピンセットで与えることも出来ます。

 その他、マツモムシ、ミズムシ、アメンボ、ヤゴなどが飼育対象になりますが、図鑑などで生態をよく調べ、自然生息状況を観察して上手な飼育方法を考えて下さい。


 この稿終わり

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