タガメの飼育


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はじめに

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獲物を待つタガメ タガメは分類学的には半翅目−異翅亜目−コオイムシ科に属する日本最大の水生昆虫です。 今では極めて珍しくなってしまったこと、魚類、両生類、爬虫類、昆虫などその鋭い爪のある前肢で何でも捕獲し餌にしてしまうことや、コオイムシ科の特徴である雄による卵の保護行動など、その特異な生態から高い人気を誇っているようです。 このタガメが私たちの周りからいなくなったのはいつの頃からだったでしょうか? ミズカマキリやタイコウチ、コオイムシなどは子供の頃、実際に捕まえて飼育することはありましたが、タガメが私の目の前に現われることはついにありませんでした。 昆虫好きの人にとって一度は飼育してみたいと思いながら手に入れにくいという事実はタガメをより魅力あるものにしているのでしょう。

しかし、わが国固有の自然を保護しようとする立場にあっては由々しき事態と言わざるを得ません。 保護する対象である生物の個体数があまりに少なくなると、全ての生息場所で保護するための大義名分がなくなり、そこにはすでに生息していないという烙印を捺されて経済的利益と様々な権益が絡んだ環境破壊は速やかに行なわれてしまう恐れが強いのです。
特にタガメはゲンゴロウのように動き回ることが殆どありませんから、生息場所においてさえ確認するのは容易ではありません。知ってはいるものの見たことのある人、触れたことのある人、まして自然採取したことのある人が、若い人はもちろん、お父さんお母さんでさえどれだけおられるでしょう。 この希少な生物であるタガメがこれ以上少なくなることが無いよう、飼育活動を続けている団体や個人の方々の為に、タガメの飼育についてお話します。
これから飼育を試みようとする方にもわかるよう、できるだけ平易に述べて参りますが内容はたいへん高度のものもありますので、現実に経験するであろう事態はほとんど網羅しているものと思います。


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生態に関する基礎知識

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生息域

用水路 自然生息域は意外に広く、池や沼はもちろん、潅漑用水路や水田、時にはあまり流れの速くない河川の岸近くでも観察されることがあります。ある人がプ−ルの排水溝で捕まえたことがあると言っていたことがありましたが、これはそこにいたということで生息しているわけではありません。大胆な言い方をすれば渓流域を除く殆ど全ての淡水域に生息可能ですが、実際に確認するのは容易なことではありません。よほど高密度で生息していても夜行性で昼はじっとしていることが多いという生態的な特徴のため、観察できれば運が良かったと思うべきでしょう。環境庁の自然環境保全調査において、各地でタガメが確認できないために生存していないと結論付けているようですが、この調査結果は甚だ疑わしく、蝶やトンボとちがってタガメのような水生昆虫の生息確認には特別な経験が必要です。つまり、皆さんが見たことがないとしても理論的に生息可能であるような場合は身近かな環境において生息しているかもしれませんし、そのような自然が保全されていれば自 然生息させることも可能になるわけです。タガメは淡水の止水域における生態系の頂点に近い存在ですから、高密度で生息している環境は他の生物の種類と量ともに豊かなはずです。したがってタガメの生息に適した環境とは他の生物にとっても好ましい環境なのです。メダカやタナゴ、ウナギやドジョウ、カエルやイモリ、ゲンゴロウやガムシ、トビムシやボウフラなど様々な生物に支えられてタガメは生きてゆくことができるのです。

ライフサイクル

タガメの卵塊 タガメのライフサイクルは地域的に若干の差はあるもののおおよそ次の様なものです。夏から秋にかけて成虫になった個体は盛んに餌を食べて成熟し冬越しに備えます。11月も半ば頃になると水から上がって温度変化が少なく、乾燥せず、水没もしないような生息水域近くの枯草の下などに潜り込んで冬眠状態になります。冬眠から目覚めるのは日も長くなる3月から4月にかけて雨などをきっかけにして目覚め再び活動を始めます。目覚めから1ヵ月半ほどたつと性的に成熟し、産卵期を迎えます。産卵は深夜から早朝にかけて行われ、一度の産卵で50~130ほどの卵を一塊として抽水植物や杭などの水面上20p前後の所に産み付けます。雌は産卵を4回ほど行うようですから、生涯産卵数は300〜500といったところでしょうか。卵を生み終えた雌は産卵場所から速やかに離れていきますが、雄はその卵が孵化するまで保護と世話に専念します。繁殖活動を終えた個体は死亡するものが殆どですが様々な理由から再び冬を越すものもいます。産み付けられた卵は10日ほどたった 日の夕方から夜にかけて一斉に孵化し水面に落下します。このようにして生まれた幼虫は1令幼虫から5令幼虫をへて成虫になります。孵化から成虫になるまでおよそ40日ほどかかりますが、令期が若いほど期間は短く、初令(1令)幼虫は4日から7日、終令(5令)幼虫になると10日から2週間ほどかかるようです。タガメは水中のギャングなどと呼ばれることがあるようですが、他の水生昆虫に比べると共食い性向は決して強いわけでもなく天敵が少なくなるのも次に述べるとおり成虫になってからで、幼虫期は全ての生物が天敵といえるほど脆い存在であることを認識すべきです。必死に生き残る努力をしているのが実際で、詳しく研究すればギャングなどとはとても呼べない健気な存在であることがわかるでしょう。このようにして生存競争に勝利した僅かな新成虫が翌年の繁殖にかかわることができるのです。おおよそ以上がタガメのライフサイクルですが、飼育をする場合はもう少し詳しい内容を知っておく必要があるので、次に成虫、繁殖行動、卵、幼虫について解説致しましょう。

成虫の生活

驚いて水中に隠れる個体 成虫を自然下で確認することが困難なのはその行動様式にあります。日中は人目につかない垂れ篭めた草の蔭などにじっとしていることが多く、目立つところで堂々と捕食行動に及ぶことはまずありません。いろいろなメディアでそのような場面を目にすることがありますが、全てとは言わないまでもその殆どは人為的に創られたものであると思っていた方がいいと思います。成虫の日中における特徴的な行動様式に甲羅干しがあります。これは同じ科に属するコオイムシにも、その他の半翅目にも見られないタガメ独特の行動で、水生カメムシ類の中でタガメが最も陸性が強いと考えられる理由でもあります。他の水生半翅目の場合、飛翔前に体を乾かすという行動が認められますが甲羅干し行動とは異なると考えられます。コオイムシにははっきりした甲羅干し行動が無い代わりに通常の生活域が陸域に近いことが特徴です。ヒメタイコウチはタガメより陸性が強いではないかという声が聞こえてきそうですが、捕食を中心とした生活史の大半を陸域で過ごす この昆虫は水生昆虫と呼ぶには若干問題があるようです。ゲンゴロウなどの鞘翅目には普通に認められる甲羅干し行動が何故タガメに備わっているのかは進化の過程が関係していることと想像される意外わかっておりません。いずれにしろ初めて飼育を志す方が上手に飼育できないのは、このタガメの陸性の強さを知らないことが原因であることが多いので是非再確認しておいて下さい。昼の間はこのように目立たないタガメも夜になると一変します。池沼の岸近くに獲物を捕らえるために移動し、鋭い前肢を広げてじっと待ち構えています。昔からタガメはカエルの天敵として夙に有名ですが、これはカエルの生活域とタガメの捕食行動域とが重なっていることと、タガメの捕食を目にできるのは水田など比較的観察し易い場所が多く、このような場所はカエルにとっても絶好の生活域であることが理由と思われます。運悪く傍らを通りかかった獲物は鋭い爪のある前肢で捕まえられると逃れることができません。小さな獲物だと前肢だけで容易に捕まえることができますが、体長10pを越えるフナ等を捕まえる場合は、コオイムシのように6本の肢を全て使って抱え込むように捕らえ鋭い口吻を突き刺します。 人が刺されても飛び上がるほどの激痛を感じるのですから、小動物にとってこの一刺しは致命的です。弱った獲物をゆっくり時間をかけて食します。タガメが獲物を食べる方法はホタルの幼虫がカワニナを食べる方法に近いものがあります。鋭い口吻を捕らえた獲物に突き刺して体液を吸い取ることはもちろんですが、比較的大きな獲物でも消化液を注入して肉質を溶かして吸い取ってしまいます。いわゆる体外消化と呼ばれる方法です。ですからメダカなど比較的小さな獲物が食べられた残骸を調べてみると、文字通り骨と皮しか残っていないように思える程きれいに食べ尽くしてしまいます。この食べ方は飼育するときに代用食として魚の切り身などを与えたとき、水質を悪化させる原因になるので覚えておく必要があります。このようにしてタガメは体力を貯え冬に備えるのです。

 11月半ばになるとタガメは越冬のために上陸します。外気温が十分に低くならないうちに上陸して越冬状態になると他の肉食性の昆虫類に食べられてしまう危険があるために上陸は慎重に行われます。越冬場所にはいくつかの条件があります。冬の間、溺死しないよう水没しないこと、温度変化が少ない安定した環境であること、乾燥しないよう適度の湿気が保たれていること、目覚めたとき速やかに生活水域に帰ることができること等です。このような条件を満たす場所が越冬場所に選ばれ、具体的には池沼近くの直射日光が当たらない枯草が比較的厚く重なっているような場所、ということになります。水田地帯では藁束の下などで確認されますが、人間が前記の条件を満たすような環境を人工的に作り出しているからです。飼育下に於いては水中越冬をさせることもできますが、自然下における水中越冬は著しい危険がともないます。一般に自然下に於いて池沼など水界の水位が一定していることは殆どなく、絶えず干水と満水を繰り返しています。半ば仮死状態にある越冬中のタガメにとってこのような水位変化に対応するのは困難ですし、増水で流されてしまえば生き残りはまず不可能でしょう。水 中越冬は人が管理してはじめて成り立つ特別な越冬方法と考えてください。

テリトリーの移動と交尾・産卵行動

水中交尾 無事に冬を越すことができた個体は日照量が増える春になって、雨などをきっかけにして再び活動を始めます。目覚めから1月を越える頃になると、性的に成熟した個体は夜を待って飛翔分散をするようになります。このような飛翔によるテリトリ−の移動は生物に広く認められる行動で同族による遺伝障害を避けることが主な目的であると考えられています。大型のタガメが飛翔する様はカブトムシが飛んだ時のようにブ−ンといううなりをあげますから、初めて観察すると不気味な感じがするほどです。飛翔前行動として水中などで頭部を左右に傾げたり、抽水植物などに登って胸部と腹部の間を盛んに動かしたりします。ミズカマキリやヒメミズカマキリが盛んに飛び回るのに比べると、タガメは産卵直前時期以外に飛ぶことはまずありませんから、灯火採集を行う場合の目安として覚えていて下さい。。数ア−ルの人工池をタガメ繁殖用に造ってもなかなか居着いてくれないのはこのような移動本能があるからで、人工池を造るときは少なくとも数ヶ所生息できる環境を造 って互いに移動し合えるようにします。このようにして設計された人工池は、いくつかの工夫を加えてタガメを生息させることが可能になります。

雌雄の産卵行動 さて新しい繁殖地に辿り着いた個体は繁殖行動に入ります。雄は産卵に適した抽水植物や杭などを探して、その水面直下で雌を呼ぶのです。雄は腹で水面を一定周期で打つことによって、かなり遠くにいる雌も呼び寄せることができます。この行動はコオイムシやオオコオイムシにも認められ、コオイムシ科に共通した行動です。雌はこの雄の出す波を感じて近付いていき交尾行動に移るのですが、交尾は何度も繰り返し行われ、その間雌雄とも産卵場所を何度も確認する行動が認められます。交尾行動は19時頃から始まり、夜も深まった深夜から明け方にかけて雌雄は産卵場所に登って産卵を行います。産卵場所は水面から20p前後の所が多く、雌は粘着性のある泡を出しながらその中に卵を1つ1つ整然と生んでいきます。雌が産卵している間、雄は水に入っていて体にたっぷり水分をつけて産卵場所に登っていき、雌が生んだばかりの卵に口吻を使って給水をします。給水後再び雌と交尾をするのですが、この繰り返し交尾を行うことが産卵継続の重要な要素である ことがわかっています。2〜3時間かけて1つの卵塊が完成します。産卵を終えた雌は何の未練も無いかのようにその場を速やかに離れますが、雄はその場に残って卵の保護と世話に専念します。

雄による卵の保護と孵化

卵を保護するオス 雄は日中は卵塊直下の水中にじっとしていることが多いのですが、夜になると口吻を使って直接給水したり、体いっぱいに水をつけて卵塊の上に覆いかぶさる様にして乾燥から卵を守ります。卵は10日ほどで孵化しますがその間雄は餌にはあまり興味を示さずひたすら卵の世話に専念します。タガメの卵は1つ1つが葡萄の種のような形で、産み付けられたばかりの頃は4o前後ですが、孵化直前には6o前後にまで成長します。卵そのものの成長もコオイムシ科特有で卵の大きさで孵化の時期をある程度予想することができます。卵塊を水面上20p前後の所に産み付ける理由を考えてみて下さい。あまり高すぎる場合は雄の給水行動が重労働になりますし、低すぎると増水時に水没の危険があります。また水面直帰近における湿度はほぼ100%ですが、水面を離れるにしたがって加速的に低下していきます。タガメが卵を産み付ける位置は実に合理的に設定されているわけです。孵化が近付くと雄は卵塊から離れます。
一斉に孵化する幼虫その日の午後7時頃、暗くなるのを待っていたかのように卵の殻が割れてクリ−ム色の幼虫が一斉にせり出してきます。背中を下向きにして反り返るように這い出てきますが、この時前肢を殻から引き抜くのが大変で、引き抜き終わると逆関節になっている肢を組み替えて正しい関節位置にします。これが何らかの原因で失敗すると、たとえ孵化しても生存できません。孵化開始から30分程して体がしっかりしてくると、一匹が動きだすと同時に一斉に水面に落下します。孵化の瞬間はタガメ飼育のうちでも最も感動的な場面といえるでしょう。

幼虫の成長過程と天敵

ワラジムシに襲われる孵化途中の幼虫 生まれたばかりの幼虫(1令幼虫、または初令幼虫といいます)は綺麗なクリ−ム色をしていますが、まもなく黒い独特の縞模様が現われてきます。孵化後まる1日程たつと活発に捕食を始めます。餌はユスリカ幼虫やオタマジャクシ、コミズムシなどの水生昆虫で、何でもよく食べます。幼虫は初令幼虫から5回の脱皮を重ねて成虫になりますが、初令期間は5日前後、終令期間が最も長く2週間弱、ト−タルで成虫になるまで40日程を要します。タガメが生息しているような環境下に於いては、タガメの孵化時期と他の生物の繁殖時期が重なるために、田圃でも用水路でも、はたまた池や沼にさえ餌は豊富にあります。タガメの繁殖を妨げる要因は餌不足や共食いが原因ではなく、天敵があまりにたくさん存在することにあります。若令幼虫にとって、水界に生息する肉食生物は全て天敵と考えて間違いありません。ミズカマキリ、タイコウチ、アメンボ、ヤゴ、コオイムシ、マツモムシ、ゲンゴロウ幼虫、カエル、コイなどの雑食性魚類、コサギ などの肉食性鳥類、近年においてはアメリカザリガニやウシガエルも手強い敵になっているでしょう。一般に自然界は弱肉強食といわれますが、陸水の生物界にはまさに典型的な食う食われるの世界があります。タガメとてその苛酷な世界を生き抜いてこなければ成虫にはなれません。実験的に30p四方の飼育容器に初令幼虫と2令幼虫を10頭づつ入れ、その中にミズカマキリを3匹入れて1週間ほど放置したところ、タガメ幼虫は全て食べられてしまったことがあります。
 以上の内容を理解した上で、いよいよ飼育にチャレンジです。


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飼育法

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成虫を飼育する

金魚を捕食する成虫 昆虫を飼育する場合、最初は最も丈夫な若い成虫から始めるべきです。 成虫の飼育経験も無いままに繁殖を試みたり、幼虫を買ってきて育ててみたりする人がいますが、成虫を飼育してみないことにはタガメの生態を実感することはできません。 まずは成虫の飼育から始めて実体験を積んでほしいと思います
 はじめに飼育環境を整えます。 今までお話した内容から想像して自分なりの飼育環境を造ることが望ましいのですが、一般的な成虫の飼育方法は以下の通りです。



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繁殖法

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孵化したばかりの1令幼虫 無事に冬を越した個体は活発に餌を食べるようになります。 目覚めてから1ヵ月を超える頃になると活発に飛翔行動をとるようになります。 繁殖を行う場合、まず最初に知らなければならないのは雌雄の見分け方です。 雌雄には大きさに開きがあるため、体長を見れば大体判断できます。 55o以下なら雄、60o以上なら雌と思っていればまず間違いはありませんが、中間的なサイズの個体や不安に感じる場合は、図に示すように腹部裏面下部に舌状の亜生殖板の先端部をル−ペなどで確認して判断します。 しばらくすると雌の腹は卵で膨らんできます。 雄も夜になると水面を腹で打って盛んに雌を誘うようになります。 このタイミングでペアリングを行えば雄が雌に食べられてしまうといった事故は、餌さえ十分に与えておけばまず発生しません。 繁殖のために水槽には直径3p程の杭などで人工的に産卵場所を用意しておいてやります。 成虫の飼育用水槽を始めから産卵用水槽のように設定しておいてももちろん構いません。 産み付けられた卵が孵化するまで10日間、雌の産卵周期はおよそ1週間ですから、雌雄一匹ずつでは雌の産卵がスム−ズに行われません。 理想的には雄3頭、雌2頭がちょうどいいようです。 産卵を終えた雌は次の産卵に備えて猛烈に食べます。 この時雄が近くにいると共食いの悲劇が起こります。 また雌は次の産卵を控えていると他の個体の卵はもとより自分が産んだ卵塊さえ容赦なく破壊してしまいますから、産卵を終えたら雌は速やかに別水槽に移すようにします。 産卵は深夜から早朝にかけて行われるため朝確認したら雄が死んでいたという事案が発生し易いのですが、これは雌に食べられてしまった場合が殆どですから要注意です。 産卵が近い場合は夜更かししなければならないのは辛いのですが産卵シ−ンの観察と、雄と卵を保護するためには我慢してもらうしかありません。このように雄に守られた卵は殆どが無事孵化に至ります。

幼虫の飼育

1令幼虫 最後の関門として幼虫の飼育があります。幼虫を上手に育てることができれば累代飼育は完成です。 幼虫飼育のポイントは餌の選定と与える量の判断、そして水質の維持管理にあります。一般的には共食いを避けるため1頭ずつ別々に飼育するのですが、一度に百匹程の幼虫が生まれるわけですから大変な作業になります。キャンプ用の紙コップやイチゴパックなどを利用すれば安上がりでしょう。その中に水を入れ、マツモやフサモ、カナダモなどを小量、溺れないように入れておくだけで大丈夫です。 アカガエルやアマガエルなどのオタマジャクシが最適で、その他では魚の稚魚などがよく動き回るので適しています。
群れで捕食する幼虫 食べた残りかすはピンセットなどでまめに取り除くようにして下さい。 水の汚れはあまり問題ではありませんが、餌の油が浮いて水面が油膜に覆われてしまうと腹部先端を直接空中に出して呼吸している幼虫は呼吸ができなくなってあっけなく死んでしまいますから、水交換はまめに行ってください。 交換の仕方は別のケ−スを用意してから幼虫をスプ−ンなどで掬い取って移動させます。 幼虫の高密度飼育は特別な技術が必要ですからやらない方がいいでしょう。 幼虫期における死亡原因は脱皮の失敗によるものが圧倒的です。脱皮のメカニズムは空気を吸い込んで体を大きく膨らませながら古い外皮から抜け出すという方法のため呼吸がしっかり確保されていることが最も重要なのです。 脱皮前に足場をしっかり確保するのも脱皮途中で呼吸確保ができないと死んでしまうからです。

3令幼虫 脱皮時の昆虫の体はデリケ−トなので絶対に触らない様にと物の本には書いてありますが、触ってもそれが直接死亡原因になるわけではなく、表面張力の微妙な世界で呼吸を確保しているために水没してしまって呼吸できないで窒息死するために触れないほうが安全なのです。 幼虫の成長スピ−ドは捕食量にほぼ比例しますからたくさん食べさせてください。 腹がパンパンになるまで食べることがありますが、このことが直接原因で死亡することはありませんから安心して下さい。 ただし、魚やオタマジャクシの体液は水よりも重いため、たくさん食べると幼虫は沈んでしまいます。そのままでは溺死してしまいますから上陸しようとします。予め陸を用意しておくか、水草を多めに配置しておけば大丈夫です。 脱皮の失敗は令期を増すごとに増えていくようです。 終令幼虫の最終脱皮の失敗確率は大変高く、タガメが大量に発生しにくい原因ではないかと思えるほどです。 このようにして最終的に1割が成虫になれば累代飼育は成功ですが、せっかく苦労して育てるのですから個体数が増えるよう2,3割を成虫にすることを目標に頑張って下さい。


最後に

 以上ご説明してきたことは、一般的な例に過ぎません。いろいろな方面の方々が個性的な方法で飼育をしています。誤解の無いように申し述べておきたいことがあります。タガメの寿命は1年程ですが、2年、3年と生き残る個体もあります。100に満たない卵を産んで死んでしまうメスもあれば、500以上の卵を産むものもいます。 3月に冬眠から醒める個体もあれば、真夏に産卵するものや10月に産卵するものまでいます。 自然界はこのように画一的にはできておりません。 この一見全く規則性が無いように見えて、実は人知では図り知れないほどの複雑なシステムの中に、生き残るために重要なメカニズムが存在するのです。 タガメの飼育は決して難しくありません。 それなら何故これほどまでに個体数が減ってしまったのでしょうか。 それは人間以外の、生きものに対する私たちの考え方、接し方に誤りがあるからです。 他の生きものは人間に利益を生み出したり、便益を提供したりするために存在するのではありません。 人間の利益を決定的に阻害しない限り私たちには保護をする義務があるのです。 複雑であればあるほど、生物量は多ければ多いほど生態系は安定します。 一度絶滅した生物を人間の力で再生することはできませんが、絶滅の危機に晒されている生物を保護することはできます。 これができるのは人間だけであり、その能力があるからこそ保護義務もまた必然的に発生するのです。 自然に対する無関心と無頓着、ご都合主義を戒めつつ、タガメの飼育を通じて一人でも多くの方が自然環境の保護についての正しい考え方と、自然に対する深い洞察力を持つようになることを願って止みません。



この稿おわり

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