*** SCENE 05 ***
 



 いや,何を言っても無駄だろう。俺らがこーゆー体勢になってるのはただの事故(もしくは管理人の陰謀)だが,楓が家に帰らずに俺ん家に入り浸ってるあたりはイイワケしようがないもんな。本人に弁解なんかできっこないし。ああ,そしてさらにマズイのは,火に油を注ぐチャンスは逃さない,とばかりに目を輝かしているキルスの存在だ。
 逃げよう。それしかない。
「あっ! あんなところには○わの『埼玉県』をギターで弾き語りしてる千葉狂介が!」
『え? でも千葉ってもう死んだんじゃ?』
 思わず突っ込む3人の隙をついて,俺はリビングを駆け抜け,全力で窓に体当たりした。

 俺は走った。懸命に走った。あたりの風景はとうに変わり,廃墟の中を駆け抜ける。月明かりだけを頼りに,瓦礫を乗り越え,突き出た鉄骨を潜り抜ける。崩れかけた建造物の影が,まるで襲い掛かるように左右から伸び上がり,俺はそれを振り切るように,決して後ろを見ずに走った。足が痛い。着地した時にひねったんだ。《がらんどうの肉体》って一応ダメージ打消し可能みたいですけど,あれって内臓移動させてるわけで,四肢に対するダメージとかそこんとこどうなんでしょう矢野先生。しかもセカンドになって弱体化してしまったから俺の戦闘能力激減なんですけど。
「……はあ」
 ため息をつき,立ち止まる。
 闇雲に走ったおかげで,ずいぶん遠くまで来てしまった。さすがに追手はかかっていないようだ。
 そんな余裕は誰にもないだろうな。きっと今頃,シュラバの真っ最中だ。てか,次に泪さんに会った時が最期だなぁ俺。
「何なんでしょう俺の人生……」
 俺は川辺にしゃがみこみ,夕日に染まった川へ小石を投げ込みながら(注:イメージ映像),しばし考えた。
 ま,先のことは先のこととして,まずは今夜の寝場所を確保せねばなるまい。そろそろ寝ないとマジで死ぬ。
 そうだな。雨風がしのげて,安全で,できれば寝心地のいいベッドがあるところと言えば――


 ⇒ 松山の家にでも行ってみるか。
 ⇒ 久島のとことか,どうだろう。
 ⇒ しかたない,執務室で寝るか……。