バイト終わってから、速攻で向かうは東京ドーム。ソフトバンクホークス×北海道日本ハムファイターズ戦。試合開始は18:00。ただ、ぼくのバイトが終わるのも18:00。どうあがいても、プレイボールの瞬間は見られない。一緒に観戦するホークス・ファン先輩Kはそれがご立腹な様子。チケットは僕が用意していたため、先輩Kは入場がかなわない。ただ、尊敬してやまない大恩ある先輩Kのために走ったり、急いだりするのはまっぴらごめん。「ホークスの打順が一巡するまでにドームに着かねば、チケット代はお前のオゴリ。その上罰金と遅刻した時間分のビールオゴリ」と、さすがセレブリティにふさわしい、太っ腹に大阿呆なことをぬかす先輩K。
なんとか打者一巡ギリギリで着き、ペナルティはまぬがれる。さぁたてかえたチケット代くださいよ先輩K。当然渋る。本当にこれでもうそろそろ三十路なのだろうかと思うくらい最低の金払い。ようやく財布を出したと思ったら、渡してくるのはぐしゃぐしゃの札束。この国で流通しているはずのない色彩。エジプト、UAE、ベトナム、インドの紙幣。以前カラオケ代たてかえた時と同じネタ。いい加減にしていただきたい。万が一いつもの如く払わなかったら、先輩Kの家の玄関に糞で「カネカエセ」と綴ってやろうと硬く決意。ともかく試合に集中することに。
すると、ホークスはやってくれた。先輩Kは二十年来、南海ホークス時代からこよなくホークスを愛するクレイジー・ホークス。そのホークスの選手が、それもめったにホームランをかっ飛ばさない選手が満塁ホームラン。狂喜。一気に彼のテンションが東証一部で最高値をたたき出す。この瞬間を逃せばもう二度と彼の財布が開くことはないだろう。ようやくたてかえ分の金が返ってきたところで、ぼくもなんのわだかまりもなく試合を観戦。
ホークスはさすが首位をひた走るチームだけあって、下位に低迷するファイターズ相手に余裕の試合運び。順調に追加点を重ね、スリリングな場面の無いホークス・ファンのためだけのゲーム展開となる。悪く言えば中だるみしたゲーム。唯一スリルを味わったのが、ホークスの外国人選手がぼくらの座るスタンド席の間近にライナー性のアツアツなファウルを打ち込んできたこと。死ぬかと思った。グラブはやはり持っていかねばならぬ。
ゲームも終盤に差し掛かった頃、ファイターズの逆襲が始まる。これだよ、これ。どちらのファンでもないぼくにとって何より面白いのが、息も詰まるような攻防戦か点の取り合い。ともかくファイターズのベテラン選手や、若手が終盤に猛攻を見せる。最終回にはついに同点。余裕の表情で見ていたホークス狂・先輩Kも気が気では無い様子。その同点にしたタイムリーヒットも、あわや逆転サヨナラホームランになるかという当り。もしそんな結末になっていたらぼくは小便を漏らすくらい興奮したかもしれない。そして先輩Kは怒りのあまり、就職をようやく決めてしまうかもしれない。
結局ファイターズの追撃もここで終わり、延長戦の末、最後はやはり自力に勝るホークスが勝利して先輩Kとぼくの溜飲を下げる。
ホークスが負けることによって先輩Kの機嫌が最悪になることも怖れたのだが、それはザマアミロとして。なによりぼくがハラハラしたのは、東京ドームのバックスクリーンオーロラビジョンに映る観客席の様子。イニングスの合間に観客席を映したりしてお客を喜ばせようというものだが、これに映らなくてよかった。先輩Kは何をしだすかわからない。映ったことがわかった瞬間にぼくの耳を噛むことくらいや、舌を入れてくることなどはしだすだろう。一瞬でボールパークが凍りつくキモ映像、大画面でドーン。さきほど、しだすだろうと書いたけれど、事実「映ったら、おもしれーことしようぜ。やっぱ球場カメラもそういうこと分かってんだろうな。俺らみたいな危ない奴らは映さないようにしてるんだよ」とぬかす。ほんと精神衛生上よからぬから先輩Kとはもう二度と野球を見に行かない。