Latest renewal: 2015/12/05


「ひとつとせ」 
       「かそえ鞠唄一ツトセぶし まるまるそのまま」 中村忠七編 明治13年 より      


        

                一ツトセ 人のこころが 日々に 〜
               ひらけてゆくので 狡猾な テモ しょうわるな  


                二ツトセ 二人乗ったる 人力は 〜
               なまずと別ぴん お楽しみ テモ 憎らしい  ・・・・  


「一ツトセ」では、世の中が日々開けていくにつれて 人の心は狡猾になってしまう、なんと性悪な!と嘆いていますネ。 
口絵は 「ふたつとせ」 の情景を描いていますネ。 「なまず」 は髭をはやした官員さんなどのお金持ちを指し、隣のの「別嬪」は当時芸者の俗称だった「猫」 として描かれています。 江戸時代から替え唄の多い 「ひとつとせ」 は、数え歌の代表といえるでしょう。 
− 「瓦版の流行り歌」 にも、「世の中困りもの一ツトセぶし」、「新板諸色一ツトセぶし」、「御ふじ山新もんく」 と、3件載っています。 また KDLからの検索でも、明治10年代と20年代に3件ずつ現れました。
「テモ 性悪な」、「テモ 憎らしい」 という終わり方から、昔の若者なら酔った勢いで歌わないでもない旋律が浮かびます。 ただし 「にちにちに 〜」、「じんりきは 〜」と同じ文句が2度あるのは、「ひとつとや」の節に特有な繰り返しで、チョット奇異な感じですネ。−「ひとつとや」の旋律では鞠つきにならないでしょうに ! ! ! 

当時の 「ひとつとせぶし」 の楽譜がひとつだけ見つかりました。 明治22年、造船所で栄える横須賀の賛歌 「俗曲 横須賀数え歌」
−これは漢字で表された「工尺譜」です。(工尺譜の読み方については、「九連環」 をご覧ください) 昔の若者の記憶に今も残る旋律とほぼ同じに唄われていたことが分かります。 ここでは 「名も高き」、「出来上がり」 の後に繰り返しはありません。 旋律はラドレではじまりミソラで終わる田舎節です



                                          「俗曲 横須賀数え歌」 明治22年より
        一ツとせ 広い世界に 名も高き
       相模の横須賀 造船所 この場所のよさ

       二ツとせ 船の工事も 出来上がり
       とりわけ賑あふ 船おろし この面白や
        
         
                ・・・・・
       十とせ 十にひとつも 不足なく
       揃う横須賀 いつまでも このお目出度や


        You Tube にアップロードました。

もう一つ別の歌詞をご紹介しましょう。 「ひとつとせぶし」として尺八譜がついています。 こちらがどうやら元唄に近い歌詞ではないでしょうか。
        一つとせ 人も通らぬ 山中を 
       おるいさんと きちさんと 手をひいて このじょうかいな
      (明治28年 「尺八独案内」 上村雪翁著 )  

また伊藤整 「日本文壇史1」には、明治17年、新聞 「自由乃灯」の発刊祝いの席で、「自由新聞」の記者 植木枝盛の作った「民権数え歌」が合唱された、とあります。(p 241)
        一ツトセ 人の生まれは皆同じ 権利に違いがあるものか この人権よ
       ニツトセ ふたりみたりのひげさんで 兎角にお内が治まろか この無理なこと

       (以下 十トセ、、、 まで)

「ひとつとや」

ひとつとや ひと夜明ければ 賑やかで 賑やかで
お飾りたてたり 松飾り 松飾り                     「日本俗曲集」より      

正月のわらべ歌 「ひとつとや」のほうは、同じKDLからの検索で明治10年代まで見つからなかったものが、20年代から明治末までに34件も現れるという盛況です。 これは文部省と伊澤修二による教科書への採用の影響と思われます。
ここでは「小学唱歌」(明治25年 伊澤修二)の五線譜を電子音で聞きましょう。 こちらはシドミファラシの都節です。        
                                                   電子音で演奏する               

        
明治27−28年の日清戦争中、この戦争をテーマにした俗謡の替え唄集が数多く出版されていますが、次の例もその一つです。 


                                              
                                  − 「日清戦争俗歌集」 環翆堂編集局 明治28年より 

「お気の毒」、「豚尾兵」、「意気地なし」、など敵国とその兵士や将軍を侮蔑する文句が出てきます。 注目べきことに、「ひとつとや」 または 「ひとつとせ」 どちらの旋律にも当てはまるように、繰り返しの部分を括弧で括ってあります。
「ひとつとや」の文句は、前半が 5−7−5−、後半が 7−5− という構成ですネ。 アンダーラインした部分は前半・後半ともほゝ同じ旋律の繰り返しです。 一方 「ひとつとせ」の方は、前半 5−7−5、後半 7−5− と中間に繰り返しの無いのが基本形であり、「コノ」とか「テモ」で始まる最後の繰り返しで旋律が収まります。 最初の例もそうであったように、数え歌の文句は 「ひとつとや」 と 「ひとつとせ」 両方の旋律に当てはまるものとされていたのではないでしょうか。   

   
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