2016年6月10日
前回改革で推進した「多様化」の誤りを糊塗するだけではなく、
新たな「格差化」を目指す「県立高校改革実施計画」 (中)
(上)では、新たな「県立高校改革計画」が前回改革の根本的な総括なしに、総合学科高校の多くを普通科や専門学科にもどし、単位制普通科高校の大半を年次進行型での運用に変えようとしていることを示しました。同様に、専門コースやフレキシブルスクールでも、「多様化」の誤りを糊塗する計画となっています。
普通科専門コースをすべて廃止
普通科専門コースは、前回の「改革推進計画(前期)」では3校(白山、横浜南陵、西湘)に導入されました。とりわけ、白山高校は、すでにある国際教養コースに、美術コースが加えられ、1校に専門コースが2つある高校として宣伝されました。しかしその後、専門コースは専門性が乏しく、共通教養も不十分ということが明らかになるにつれて、入試の倍率が低くなり、「後期計画」では7校の専門コースがなくなりました。白山高校も国際教養コースが廃止され、2015年度から専門コースが1つになりました。
今回の「改革計画」では、12校ある専門コースがすべてなくなることになります。12校のうち、3校(白山、上矢部、厚木北)は専門学科として改編されますが、残りの9校は「学校全体の特色とする」などという苦しい理由をつけて廃止されます
。フレキシブルスクールを見直し、全定併修と変わらないものに
前回の「改革推進計画(前期)」で、「単位制高校」のなかで画期的なものとされたのが、フレキシブルスクールでした。1日8~12時間の授業時間帯で好きな時間に授業を受け、単位取得が可能とされました。
しかし、「かながわ定時制教育を考える会」(当時)は「意見書」(1999年)のなかで、いつでも好きな時間に授業を選択すればよいということでは、朝早く決まった時間に起きるということがおろそかになるだけではなく、「高卒の資格取得そのものが目的となりがちで、ホームルーム活動や学校行事などの特別活動による人間形成が十分できない」という問題点を指摘し、フレキシブルスクールの設置に反対しました。
今回の「改革計画」では、1校に2課程以上ある学校(川崎、厚木清南)は残し、1課程(全日制)のみの桜陽高校は単位制普通科に改編され、フレキシブルスクールではなくなります。1校に2課程以上、つまり全日制と定時制のある学校だけに限られるというのであれば、全定併修と変わらず、何もフレキシブルスクールという特別の名前をつける必要はありません。これも、多様化の失敗と言えます。
この間、神奈川県教委は、専門コースや総合学科、さらに「単位制高校」を多く導入することで「高校多様化」をすすめてきました。しかし、このような「高校多様化」政策のどこに誤りがあったのかについて、「改革計画」を実施するうえで、根本的な総括が必要です。
新たな「改革計画」では、「格差化・差別化」をめざす
今回の「改革実施計画(全体)」では、「重点目標1」として「すべての生徒に自立する力・社会を生き抜く力を育成します」として、以下の6種類の推進校を指定するとしています(すべての生徒を対象)。
教育課程研究開発校 10校程度 ICT利活用授業研究推進校 5校程度 逆さま歴史教育にかかわる研究校 5校程度 授業力向上推進重点校 5校程度 プログラミング教育研究推進校 5校程度 確かな学力育成推進校 10校程度 次に、「重点目標2」として「生徒の個性や優れた能力を伸ばす教育に取り組みます」として、4種類の推進校が打ち出されています。ここでは、初めからすべての生徒を対象とするのではなく、すでに高校入学段階で特定の能力に優れている生徒に対して、税金を惜しみなく投入し、私学に対抗できる成果を上げることを目標にしています。
学力向上進学重点校 10校程度 グローバル教育研究推進校 5校程度 理数教育推進校 5校程度 国際バカロレア認定推進校 1校程度 学力向上重点校は、「将来の日本や国際社会でのリーダーとして活躍できる高い資質・能力を持った人材を育成する」と記されており、難関大学への合格率などで競わせ3年ごとに指定校を入れ替えるとされています。進学重点校から外されないために、県立高校が合格率競争を行うことは、生徒にとって決して良いことではありません。
また、これらの重点校や推進校については、目標を達成するためにそれ以外の高校より教職員を多く配置することや施設・設備に重点的に県税が使われることになります。
県立高校という公の学校において、ごく一部の特定の生徒に手厚い教育を保障していくことになる今回の「県立高校改革計画」は、県立高校の新たな「格差化・差別化」の推進に他なりません。
(下)につづく
前回改革で推進した「多様化」の誤りを糊塗するだけではなく、新たな「格差化」を目指す「県立高校改革実施計画」 (上)
前回改革で推進した「多様化」の誤りを糊塗するだけではなく、新たな「格差化」を目指す「県立高校改革実施計画」 (下)