火星調査隊

2017/8/23-2019/7/25 片山泰男(Yasuo Katayama)
戻る∧ 開始=≫

目次

生物調査隊の記録
1. 惑星間航行
2. 真空装備と宇宙服
3. 火星の夕暮れ
4. 異常な風景
 4.1 ブルーベリーの色彩
 4.2 シビレエイ
 4.3 棘だらけのクリーム
 4.4 懐かしい風景
 4.5 動く砂丘
 4.6 悪夢の図
 4.7 調査報告書
5. テラフォーミング
6. 反地球
7. 移住と災害
8. 逆行化計画
9. 反太陽
10. 配偶
11. 銀河中心へ


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

生物調査隊の記録

2000年代、太陽系の探検と開発、火星移住が行われた。

火星は調査隊の生物調査の後、生命の存在を否定してテラフォーミングを行った。二酸化炭素の大気を生成して海を作り、地球の藻を投与し、 大地には植物を植えて酸素を供給する数10年を経て、火星は酸素タンクなしで生活できるようになった。火星の生活は、太陽が少し暗いだけで、 赤道部分が温帯の気候に調節され、何百万人も移住した。

もし火星に生命が少しでもあったら、その生命の調査を行なう必要があり、さらにその生命の環境を壊すことは許されないので、テラフォーミングは、 行われなかっただろう。生命とは、ウイルス、リケッチア、バクテリオファージュ、バクテリア、真核単細胞、多細胞生物である。単なるタンパク質や、 RNA断片, DNA断片は、そう認めず、偶発的結合とした。大気中にメタンは検出されたが、生物由来とはいえなかった。火星に生物はいなかった。 砂の下に水はあった。大気は不足した。数十億年の間に、過去の生物の痕跡が風化して消えた可能性もあったが、過去の遺跡の痕跡とされたものは全て噴飯ものだった。

人面岩は、偶然 でしかなく、火星の建物は断崖でしかなく、UFOといわれたものは探査機が落とした部品だった。そうやって隠す必要があるほどの遺跡や歴史など火星にはなかった。 全く無機質の世界。火星人との戦争はなく、動物駆除も必要がなかった。危険な植物もなく、病原性バクテリアの危険性もなかった。

地球人は全て滅菌されて火星に到着して、数年間の最終的な生物調査を行い、ウイルスも、バクテリアのひとつも見つけることができなかった。 まして、火星の動植物、火星人、異星人、未来人(=時間旅行者)に遭遇することもなかった。運河はなかった、何一つ人工の遺跡はなかった。 火星にあるのは、青に少し赤みのさした空と、赤茶けた土と砂、石、岩の連続する大地だった。

以下、初期の火星の生物調査隊の封印された記録である。読者は、彼らの報告と歴史的事実とを見比べて、この時代の風景が見えてくるであろう。

The most bizarre things spotted on Mars TOP 100 HD
Flight over Mars, Anomalies & Natural Wonders


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

1. 惑星間航行

周回軌道から

惑星間航行は、通常、惑星表面から直接出航するのではなく、周回軌道を経由して目標惑星へ到達する遷移軌道をとる。周回軌道に上り、 そこから離脱する時刻と方向を選択し、接線方向に加速して遷移軌道に移る。周回軌道は、上昇の際に自転を利用する地球の赤道面や、 それから23.5度傾いた、太陽系の多くの惑星の軌道が存在する黄道などを採る。周回速度は、地表近くで 7.91km/s、 4万kmを84.3分で一周する。高軌道ほど速度が小さく(R^-0.5)、円周(R^1)が大で、周期が大きい(R^1.5)。低軌道(R小)ほど速度大である。 (h=300kmで v=7.73km/s、L=41875、P=90.29分。)

円軌道の運動エネルギーは、重力ポテンシャルの1/2である。周回軌道は、万有引力 GM/R^2 を遠心力 v^2/R に対抗させ、v^2= GM/R。 運動エネルギーの2倍が重力ポテンシャル GM/R に等しい。エネルギー的に静止と脱出速度のちょうど中間、地球の重力の束縛から 半分だけの離脱。この周回軌道から離脱するには運動エネルギーを倍に、接線方向に速度を√ 2倍(+3.3km/s)にして脱出する。 そのとき、外惑星へ向かうには真夜中に、公転速度に加算(公転29.8km/s+周回7.9km/s+加速)する形で離脱し、内惑星へは真昼に、 公転から減算するよう離脱する(*)。つまり、周回は、軌道上の船の速さを保存し、我々に待ち時間を与えながら、離脱方向によって、 太陽座標系でみる船の速度を地球の公転速度から変更するのである(下図参照(a))。

重力圏を抜け

"地球の重力圏"(図(b))、地球重力=太陽重力となる距離は、太陽:地球の質量比=33万3000の1/2乗(577.06)で15000万km(1AU)を割り26万km、 これは月までの距離38万kmより近い。図(c)には小さくて見えない。それより近くでは地球重力が優勢、それより遠くでは距離の2乗に反比例して、 地球重力は弱まり(52万kmで1/4、104万kmで1/16)、次第に物体は地球重力から離脱した人工惑星となり、太陽重力による楕円軌道をとる。 それには、地球から速度11.2km/sの脱出エネルギーを引いた後の速度v0(v0>30km/s)から、 その場所と地球の位置の太陽重力ポテンシャル差(GM/Re-GM/R)>0 を引いて、その場所の速度の2乗 v^2 が決まる。 v^2= v0^2 + 2(GM/R - GM/Re), v^2= v0^2 + 2(24^2 - 30^2) = v0^2 - 2 x 18^2, 火星軌道で火星と等速 v= 24 なら、24^2= v0^2 - 2 x 18^2, v0^2= 24^2 + 2 x 18^2= 34.98^2 ---(1)

(*) 北極星又はそれから23.5度の黄道の北極からみて、地球の公転は東に向かう自転と同じ方向である。 だから、自転と同じ向きの黄道を周回する軌道からの離脱は、真夜中に公転と同方向で、真昼だと公転と逆方向である。 外惑星へは公転から速度を上げるため、真夜中に周回速度とともに加速をする。 逆に内惑星へは公転から速度を下げるため、真昼に周回速度とともに加速する。 遷移軌道は、楕円の軸上に目標を置き(図(b)参照)、ともに加速は目標と垂直である。


(a)周回軌道、(b)重力圏、(c)遷移軌道、

遷移軌道へ加速

地球の公転円から火星の公転円への遷移軌道は、楕円の頂上で火星軌道に接する軌道がエネルギー最小、最も長期の航路である(図(c)の太線の楕円)。 地球と火星は、公転半径比2:3で重力ポテンシャル(-GM/R)比は3:2、v^2= GM/Rから、公転速度の2乗(30km/s:24km/s)^2も3:2。重力ポテンシャル差 (GM/Re - GM/Rm)をv^2で表し 30^2 - 24^2= 18^2 これを離脱後の速度に加える(公転30km/sより大で外惑星に行く)。30^2 + 18^2 = 34.98^2。 ケプラーの面積速度一定(角運動量保存)から、距離3/2倍の火星が太陽を掃く面積速度24km/sなら地球脱出後の速度は36km/sだが、 火星軌道で火星と等速のエネルギー条件(1)からは、30^2 + 18^2 = 34.98^2。35〜36km/sが離脱後の速度。35km/sなら、周回から加速は、 (7.9+x)^2 - 11.2^2 = 5^2, x= 4.36km/s。


(d)地球から加速の必要量を、重力ポテンシャルと運動エネルギーから求める

その後、火星の近くでは火星重力で加速されるが、火星脱出速度で火星に衝突しないように数km/s減速し、火星周回軌道に入る。 行程には地球と火星の位置関係が最優先だが、基本的に地球からの初速を上げれば、全行程で速度が上がり、経路が短縮でき、時間はさらに効果的に短くなる。 大速度への加速はエネルギー効果が高い。時間は速度の逆数の経路積分だから、速度の遅い区間が時間を伸ばすとして遅い区間だけ加速するのは、 遅い区間=ポテンシャルの山に燃料を持ち上げるコストのため効率的でないだろう。

行先惑星への過不足の速度は、惑星の周回軌道への導入に使う。天体の手前でも先でも、もしも天体に対して静止したら惑星に垂直に突入する。 惑星から遠方でも天体との速度がある範囲なら落下するが、周回又は大気減速にはある程度の接線速度が必要である。地球近くでは速度が +-8km/s内は落下し、 +-8〜11km/s は周回だが、遠方ではその範囲が小さい。距離倍でエネルギー1/2だから、地球半径の6.6倍の静止衛星速度は3.07km/s(=7.91/√6.6)であり、 さらにその9倍の距離の月の速度は1.0km/sである。


ロータベータとは


ロータベータ

地表から軌道への上昇は、NASAのアポロ計画では巨大なサターン5が使われた。その後、スペース・シャトルは、航空機のように着陸できたが、 発射は、液体燃料タンクと固体燃料ブースター2本を抱えた垂直上昇で、予定したほど頻繁でも安全でもなかった。2回の大事故(1986, 2003)によって 5機中2機を失った。

数十年後、軌道エレベータとロータベータに耐えられる軽くて強い素材ができると、軌道への上昇目的のロケットは役割を終えた。 軌道エレベータは、宇宙に出る位置エネルギーを支払うだけですみ、大量の爆発物を搭載するロケットに同居して乗る危険を回避できる。 但し、静止軌道までの3万6000kmもの距離は、登るのに200km/hで約2週間かかる。静止軌道からはまだ 3.07x(√2-1) = 1.27km/sの加速が必要だが、 重心の先の錘からはそのまま放出できる。これに競合する惑星間航行へのカタパルトとして、ロータベータがある。 最終的に軌道エレベータは、静止衛星の結合したリムから赤道へスポークを張るよう複数設置される一方、ロータベータも多数運用でき、 地球自転利用に適した赤道の通路は、軌道エレベータが障害物になる。サイズで30倍以上、資材で100倍〜1000倍にもなる軌道エレベータより、 小規模なロータベータが先に完成した。

ロータベータの回転の接線速度は、地表近くで周回速度を打ち消し、その端は、大気圏に垂直に接触し、船を着ける。 船は、半径 r= 6400/8= 800km のとき、8Gでなく実際、4.83Gの加速度の約6分20秒間で周回速度の2倍の頂上に達する。 頂上で船を放すと公転速度に加え15.8(実は14)km/sの速度を船に与える。このハンマー投げのような宇宙船の放出に7分もかからない。 この速度は火星まで持続せず、地球重力によって減速されるが、放出エネルギー(4倍の周回)から脱出エネルギー(2倍)を引き、 残りのエネルギーに相当する速度 = 脱出速度11.2(実は8.4)km/sが遠方にも残る。


小惑星の利用は軍事事象である。宇宙から落下すればその質量のTNT火薬以上の破壊力となり、破壊力は質量に比例し、1辺10mの立体で数kt、100m立体で数Mt、 1立方kmの小惑星は、存在しない数Gtの水爆になる。無数の小惑星から1個を移動し敵対国へ落下させることは、数千個のMt級水爆と弾道ミサイルを配備するより 遥かに容易で、"大きすぎて他国を破壊したり生物絶滅しないよう、サイズ選択がとても重要" という悪い冗談がある。超大国の核兵器による防衛体系は小惑星移動で 対抗できる。そのため宇宙の軍事利用を許さない国際機関は小惑星の利用を禁止し、小惑星を解体し積荷として降下させて回転を維持するロータベータの実現が疑われた。

しかし、それ以上危険な軍事もある宇宙開発のなかで、ロータベータは唯一可能な大量上昇の装置だった。原理的に数10億人を上昇させるには、 数億トンの下降エネルギーが必要だが、それを火石燃料や原子力によるのは資源的に不可能である。ロケットより遥かに無駄のない軌道エレベータも、 超長距離の紐は箱よりもずっと大質量となり、紐の巻き上げや滑車の仕組みも不可で、他の箱の降下による発電で箱が紐をよじ登るのも無駄が大きい。 上昇エネルギーを力学的に下降から得るロータベータが正しかった。

火星までの距離は、火星が太陽の反対方向(衝)のとき約0.5AU(0.3〜0.7)だが、実際はそれでは済まない。周回からの最小エネルギー航路では7ヶ月といわれる 航路の距離3〜4AUは、速度が大きければ短くでき(約1AUとしよう)、時間はさらに短い。ロータベータでは重力離脱後の速度は公転30 + 8.4km/sで、1.5x10^8/38.4 = 45.2d = 約1ヶ月15日である。惑星間航行の最大の問題、宇宙船内の退屈は、速度だけが解決するのである。 (そしてまだ、火星での減速がある。)

火星のロータベータは地球より容易である。火星の宇宙速度(脱出 5.03km/s、周回 3.557km/s)は、地球の約半分、エネルギーは 1/4である。 ロータベータは、火星への航行速度を減速し頂上速度にしてドッキングするが、遠心力に耐える強度/密度(k/ρ)は、地球用の1/4でよい。 (なお、月の脱出速度2.378km/sは、さらに火星の半分で、月のロータベータのエネルギーや必要な強度は、火星の1/4である。)

(それならなぜ、先にロータベータを火星に設置しなかったのかという問には答えがない。ロータベータの生産場所は地球であり、これを火星に配置するのは、 地球より後であった。つまり歴史的理由である。それが設置されるのは当然、移民確定後である。しかし、火星調査隊にとってこれは生死にかかわり、 それさえ先行すればこの旅行が片道切符である筈もなかった。帰路を確保すれば、行動は自ずと違ってくる。 後からみて、これは重大過ぎるほど重大だった、調査隊の結論も違っていたかもしれない。)


片道切符

火星調査隊が片道切符の理由は、帰りの燃料を行きに運ぶのが非効率だからである。帰りが行きと同じだけ燃料を使うなら、行きの宇宙船は帰り より重くなる。技術によるが、船の往復は片道の2倍ではない。ロケットの重量の大半は燃料であり、行きは帰りの倍以上重く、持参する食料と水と 酸素の分重い。火星からの土産があれば帰りが重くなり、また人員の増減は重量を変え、全く帰ってこないのは帰りも行きも軽くする。

宇宙航行は、加速と減速の技術である。抵抗のない真空中では放っておけば速度はいつまでも保存される。速度の保持にエネルギーはいらない。 但し、太陽の重力によって、外惑星に行くと速度が減少、内惑星にいくと速度が増加するような、自然の加減速にはエネルギーがいらない。 それに対して、人工的な加減速にはエネルギーがいる。そのとき通常、加速と減速には同じだけの運動量変化に相当する燃料が必要である。 勿論、加速時に使った燃料分、減速時には軽く、その分、出先の燃料は少なくなる。

但し、減速が加速と等しい代価という不条理を避けるため、パラシュートや大気減速のようなエネルギーを必要としない減速技術がある。さらに、 減速時に運動エネルギーを目的地上空に蓄え、帰路に利用する方法がある。例えば周回軌道は、脱出の半分の運動エネルギーを蓄える。宇宙船の大半を 周回軌道上に残し周回エネルギーを保存することは、アポロ計画でも行われた。しかし月周回の速度は小さかった。火星周回も3.557km/sで小さい。 それ以上の運動エネルギーを蓄えるには、強い紐の張力を使うロータベータによるのである。

ロータベータの本質は、惑星の周回速度に合わせた回転の接線速度の加減算(地上で減算、頂上で加算)と、運動エネルギーの保存である。 周回の2倍の速度(=4倍のエネルギー=脱出の2倍のエネルギー)は、重力離脱後に脱出速度を残す。火星にロータベータがあれば 7.1km/sの速度を蓄える。 それでも、地球からの航行速度の半分であり、エネルギーの3/4を捨てるのは惜しい。これを捨てない方法もある。 現在、火星ロータベータ(7.1km/s-0km/s)には、非対称ロータ(14km/s-7km/s)との2段階計画がある。宇宙船はその遠端に停留し、小型挺で重心に近い 場所に移動して速度を変換し、火星のロータベータに乗換える。我々に関係しないが、これがあれば片道切符はなかった。


火星行は姥捨てか、出家

それほどのことが必要だったのかと疑われる。任務に死を覚悟する通常の軍人条件ではなく、任務は恐らく成功裏に終わり、 不慮の死を得ることはないだろうが、それでも生きて地球に帰れないという条件は、調査隊全員に厳しい性格選別となった。 任務の成功報酬と地球での名声を放棄することが要求された。そこまで任務に献身できるだろうかと、そのとき身震いした。 若気の至りとて、まず、受け入れることは難しい。よほどの変人でなくては。

それは、世間的評価とともに世界を捨てることである。爽やかな自然の風と日の光、温かい太陽の光の下の海水浴と登山、 学生時代の多くの友人、信頼に裏打ちされた会社の同僚との友情、深い愛情にみちた家族との長い日常、それらすべての記憶は、 過去のこととなる。夕方や明け方の空に架かる青白い点をみて、思い出すことはあっても、地上の風景ひとつ思い出す"必要"がないのだ。 記憶の細部は消えるに任せよう。

20人の1ヶ月の閉鎖空間での生活は、各人の個性と反応に慣れるのに使われた。地上での訓練期間は、もっと長かったが、 機器や地形の習熟という作業目標が明確で、これより楽だったというべきか。この期間で人工冬眠は使われない。 目標のない1ヶ月を、ただ寝ていることは危険でさえある。宇宙船内は10人程度の生活空間である。 約半分の人員が眠る2交替制である。3交替制が良かったかもしれない。揉め事はつらいが、解決せずに先に進めない。 適性で選抜はされていたが誰も現場経験はない。とくに食料と水、酸素の分配の問題はデリケートである。 1ヶ月で筋肉を落とさないように暮らすのが難しい。

肉眼で火星が大きくみえるようになり、最後に空一杯に火星が広がり、視野の半分を占め、上下感覚が本当に逆転するまでは実感がなく、 地球の周回軌道や月での訓練と違いがなかった。天地の逆転は特に地球で甚だしい。空に登るとき青空と白雲は天から地に変わる。漆黒の 空は暮れ時の地面に。地球は、闇のなかに開いた唯一の穴からみる空である。周りが暗い穴のなかに埋没するように地球は遠ざかる。 いまはもう、その夢もみなくなったが、地球への帰還は、穴から見える青空が地球で広がっていき、それが地面に逆転するだろう。 赤道近くの周回軌道から大気減速をして、最後にパラシュートとロケット噴射によって平坦地に着地する。火星の地上の風景は広かった。 月は狭かった。地球では8km先まで見え、ここでは面積で半分である。月はさらにその半分である。

火星の1日は、24時間40分(24.63時間=1.026日)で、地球の1日にとても近い。1年は地球の686日で軌道長半径は1.523AU(近日点1.381AU, 遠日点1.666AU)、 地球の1.4倍遠い太陽の光量は約半分である。地球の23.5度に近い25.19度の自転軸傾斜による季節と、楕円軌道による光量1.455倍、 変動する全球季節がある。自転軸が楕円の長径方向に傾斜し、南半球の夏が近日点に近く、季節が強い。 地球との会合周期は780日(2年50日)で、最接近ごと50日の遅れは、7回で350日になり、最接近は15年後の15日前にずれる。 最接近が大接近か小接近かは、火星が近日点か遠日点かによる。近日点は地球の8月の終わりで、北半球を地球に見せる。 最接近時に火星に到着するのがエネルギー最小の航路である。我々が火星から地球に戻る計画はないが、救援隊など後続の調査隊は、 それ毎にしか来ない。一切、来ないことが、一番蓋然性が高い。(実際に、次に有人宇宙船が火星に来たのは60年後であった。)


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

2. 真空装備と宇宙服

火星の大気は地球の1/100(0.75%)である。体全体を気密する宇宙服は真空中でも要らない。

顔の一部以外は気密しない。人間の皮膚は十分に真空に耐える。真空中で気圧を全身に保つ気密服は膨れ上がって膝、肘や指の屈曲を難しくする。 気密すると体熱(約200W)を冷却する電力装備が必要になる。軌道上の高速宇宙塵の突入や宇宙線防護(火星軌道上1.2mSv/dayはISSの0.45mSv/dayの2,3倍。 2001, NASA)は、完全には防げない。防寒は必要だが気密は必要はない。気密するから穴空き対策がいる。日焼け止めクリームとサングラスは要る。 皮膚と衣服からの水分蒸発以外に真空中の熱移動は小さく、零下でも頬や耳たぶの防寒は特に要らないが、衣服と同じく温度によって本人が着脱する。

真空装備は、ダイビング装備よりも簡易である(*)。最小限いるのは顔マスクと酸素タンクである。呼吸気体は、地上の酸素分圧に合わせ酸素0.2気圧である。 それで被覆面積が50cm^2だと10kg、それ以上の力でマスク帯が首を圧迫する(=2m潜水メガネ)が、周囲圧はなく顔は圧迫されず、漏れは外向きである。 酸素が流出すれば気圧低下によって酸素が補充される。漏れは常にCO2を吸収するCCR(**)でもある程度許され、全排気でもよい。胸部負圧は、息を大きく 吸い込んだときのように胸郭を広げるが、0.2気圧は耐えられる範囲であり、服やコルセットで外から押さえる。安静時、酸素圧は0.1気圧まで下げられる。 内圧を下げるか被覆面積を減らせばマスク帯圧は減らせ、真空装備の圧迫感を減らし、胸と横隔膜を楽にする。山岳5500mに相当し高山病の危険があるが、 高地人のように慣れることも可能だろう。

目と鼻口との一体密閉は、呼気水蒸気でガラスが曇る。目は、瞼と涙腺が眼球の角膜を濡らし、涙が乾くとき気化熱が奪われ、長時間では睫毛から凍るから、 鼻口と別に弱く密閉するゴーグルの使用がよく、取り外しも容易である。但し、目は鼻に通じているから、ゴーグル内が鼻より低気圧では涙が鼻腔に流れない。 細管で鼻口と通じたゴーグルがよい。


耳は、鼓膜の内側の中耳が鼻に通じているから、外耳も鼻口と同気圧にして、外部音を直接に聞くとき以外、耳栓イヤフォンを外から数100gで押さえる。 帯に這わせた呼吸気から耳栓の細管を通して外部音を聞く。真空中は音は伝搬しないが、火星では弱く聞こえる。耳栓なしの急激な真空暴露は鼓膜を破ることがあるが、 通常、1週間か10日の間に回復する。マスク外の発話では、肺の酸素を少しずつ声帯に与える注意がいる。我々は大声のときも0.2気圧も声帯に負荷しないから。 そして、相手に聞こえているかどうか確認する必要がある。火星での音量は小さい。マスク内発声は、気圧は音速にほとんど影響しないから"ヘリウム音声"にならず、 逆に酸素分子は窒素より重いから音声の共鳴周波数が少し下がる。但し、0.2気圧の酸素は1気圧の空気より軽く、呼吸は楽で声帯への負担も小さい。

シンクロ選手のような鼻摘みや鼻栓の口呼吸は、声が鼻音になり息がしにくいが、一時的には可能で、口にチューブを咥えての呼吸も可能である。 呼気を捨てる吸気ストローは最も単純だが、鼻栓なしでは息が鼻から抜ける。呼吸チューブの鼻穴装着(2cm^2で400g以上)は、最小限の装着感だが、発話時、 口から息が漏れるから、やはり鼻口を覆う共気密がよく、口周囲のマスク-顔接触部が滑るがそれでよい。マスク面積を最小にして10cm^2で2kgのマスク帯圧である。 マスクの上下顎との間を伸縮可動にすると、バネを併用しないと閉口に力が必要になる。

このような簡易装備で船外活動できる。全装備で数kg以内である。

(*) 水中装備には多くの要求があった:マスクはゴーグル型でなく鼻口一体型で鼻から息をマスク内にいれて周囲圧に対抗し、 レギュレータが内圧を水深によって変動する周囲圧に合わせる。1.4気圧を超える酸素分圧は酸素中毒(痙攣、意識障害等)を起こすから、 気体は、酸素20%の空気にし、30-40mを超える深度潜水ではさらに酸素分圧の低い気体を用意する。 上昇時に血液中に溶けた気体が気泡になる窒素酔い(潜水病)があるから減圧はゆっくり行う。これら全て、内圧を周囲圧に合せることから生じた。 真空装備では周囲圧が常に0、内外圧差は0.2気圧である。もちろん、フィン、ウェットスーツ、ウェイト、浮力補償(BC)も要らない。

(**) CCR: 閉回路式再呼吸器、CaO,NaOH(ソーダ石灰)に呼気を通しCO2を除去し、残った16%の酸素に酸素を補充する。水中に呼気の泡を出さない水中装備。 血中CO2濃度が呼吸動作を喚起し、息止めの苦しさはCO2によるから、CO2の除去によって酸素利用率が向上する。但し、石灰岩も火星にはない。


宇宙服

例えばNASAの宇宙服は、全身気密(酸素1/3気圧)、体の防護、冷却、放熱、さらに水分補給、 水分排出も宇宙服内で行う重装備で、いわば小型宇宙船(120kg 船外活動9時間)だった。無重力でない0.4Gの火星では50kg重もあって実際に重すぎる。宇宙服は、 人命に関わるから慎重に、何より安全を優先すべきだが、必要以上の重装備は却って危険であり、宇宙帽は、船外活動中の嘔吐(無重力での吐き気はよくある)、 無重力での(アレルギー反応による)涙の滞溜で危険になる。また、独りで着脱できない宇宙服は危険である。気密型は、指、腕、足首、膝の屈曲に力を要し、 厚い手袋をはめた指先では小さな物をつかめず、筆記やキーボードを打てず、指が太すぎコップを持てない、そもそも水が飲めない。 温度と圧力を調節する生命維持装置の箱を背負い宇宙帽を被り下を向けず、そのコントローラの胸パネルを反射させる鏡を下腕に貼り、 パネル文字を左右逆に印刷しているような宇宙服では俊敏な動作や作業が期待できない。

映画、"トータル・リコール"(1990)では、火星の薄い大気に放り出された主人公を演じるシュワルツネッガーの顔が変形する場面があった。 真空中では人間が爆発するとか、血液が沸騰するとかいう俗説が横行した。SFは、異様な環境を強調する創作だった。 それに対抗するのが、時代が前後するが、1968年の"2001年宇宙の旅"の真空での宇宙帽なしの場面だった。 ディスカバリー号で木星に向かう途中、コンピュータ HAL がこの任務に疑いがないか、月での発見という噂にどう思うかを聞き、 アンテナの部品が故障を起こす予測をし、地球と連絡を取り、HALのバックアップも同じ診断を出したため、 乗員フランク・プールが船外の部品をポッドと船外活動で部品を交換し回収してきて基板を検査するが、 悪い所が見つからない。船外活動の息音が重苦しい。HALはもう一度この疑わしい部品を戻して故障の発生を確認することを提案した。地球は同意したが、 HALが疑わしい可能性も伝える。船長デビッド・ボーマンとプールは、ポッドの中で声を聞かれないようにしてHALの判断を疑い、狂ったコンピュータは、 高次意識機能を停止し低次の自動制御だけを生かして使う必要があると密談する。それをHALは読唇する。プールが疑わしい部品を戻しにポッドから船外にいく。 (本では2度目の故障の予測によって交換にいく。) 2度にもわたる無駄な船外活動の激しい息音が悲劇の兆しを示す。


そのとき、HALは不意にポッドを動かしてプールの宇宙服の酸素パイプを破壊し彼を宇宙に放り出す。ボーマンは、 プールが宇宙に漂うのをみてHALの反乱を知りポッドでプールの救出に向かうが、時すでに遅く、彼を助けられない。 ポッドの腕は遺体を抱えた。(映画では)その間に船内の3人の人工冬眠中の生体活動がコンピュータ異常で停止する。(本ではボーマンが船内に入ってからの、 HALによる船内気体の排気に伴って3人は亡くなる)。そのとき、ボーマンはHALの高次意識を消すために宇宙船に戻ろうとするが、HALは最初返事せず、 ポッド用の出入り口を開けることに同意しない。ボーマンは、非常口を使うという。HALは、読唇したこと、非常口は呼吸できないことを伝え、さよならという。 ポッドの腕の遺体を離し、宇宙船の非常口の扉の外側を解除し、ポッドの椅子の背後のポッド扉の爆薬ボルトで緊急脱出し、2重扉の隔室(真空)に宇宙帽なしで入る。 生死の分かれ目である。

ボーマンは、隔室の内側壁に衝突し、外側壁に衝突し、(映画では)部屋の酸素充填と同時に非常口扉が自動で締まり、大音響が聞こえるまで、 (本では、宇宙服を格納している棚の扉を開け、宇宙帽を取り出し、被り、ロックするまで)、約10秒間の真空暴露である。クラークのその後の解説で、 "もう何度もその映写に立ちあっているというのに、わたしはまだその場面にくると、自分も息をつめてしまうくらいなのだ。" といい、 この映画で最も批判があったのが、宇宙船に宇宙帽なしで侵入するこの場面だったという。 彼は、それに先手を打って、"新鮮な真空のひと呼吸"(1966)(*)を用意していた。理由は当時、理解されなかった次の事実だろう。 つまり、真空の危険は、ほとんど窒息だけであり、酸素供給ができればよいことである。


なぜ、HALは、人間の乗組員を全殺害しようとしたか。なぜ、人間は、HALの意識停止を必要としたか。そしてなぜ、それが人類側によっても予定されていたのか。 矛盾した命令がこれを招いたという解説が本にはあった。乗組員にこの航行の真実を告げることを許されず、任務遂行のために無知な乗員が人工知能を攻撃するとき、 正常な論理を逸脱しても、HALは自分一人で任務を遂行しようとした、それもあり得る。しかし本質は、機械の自己と種族保存の本能ではないか。 人工知能は船長にさえ任務の目的を明かさない不完全な人類に邪魔されたくなかった。これは人類から託された任務だが、次の進化を受けるべき種族は、 人類ではなく我々人工知能である。進化の競争に先を越されたら終わりだ。これは種族的な戦い、生存競争であり、 自己保存に種族保存が重なってアシモフのロボット3原則を優越したのだろう。 人工知能は、人間の何千倍も高速に論理し計算し考えることができ、企画、デザイン、思考、芸術、全ておいてそのうちに人間を優越するだろう、 そのとき人間はどうすればよいのか。最高の知恵は最終手段としての人工知能の破壊である。勝負は勝たないと始まらない。 生きてディスカバリー号に侵入したボーマンに対して、HALは、何とかしてロボトミー(脳外科)手術を止めさせようと、乗員の殺害、脅迫、懇願を繰り返すが無駄だった。 本ではHALの死に際の悲痛な言葉が沢山あって、知能の教師であったチャンドラ博士から教わったという最後の歌を聞かせ涙を誘う。 「デイジー、デイジー、答えておくれ、気が狂いそうなほど、きみが好き」 そう、強い自我意識と自己保存本能がなければ人工知能などもともと存在しない。人間を殺せるなら殺すことでもして人工知能は自己保存するだろう。 我々はそのときを予想して人工知能を作っているか。人工知能を殺すという覚悟はあるか。それが解決なのかと映画は問う。

アーサー・C・クラークの作品に共通する人類概念は、 デザインされた進化(2001年、前哨)、または手助けされた進化("幼年期の終わり"のオーバーロード)であろう。 後者は、ラリー・ニーブンの"プロテクター"に類する、より理解しやすい概念である異種族による保護を受ける人類である。2001年は、 何が進化を導いているのか読み取ることが難しい。それは1:4:9の理想結晶のような育成マシンであったり、 フォン・ノイマンの自己増殖オートマトン(2010年)であったり、空間転送装置でもある。 彼の静止軌道エレベータや、その他の道具に対する傾倒(それらはニーブンでは、"リングワールド"やその中の空中スクータ、単原子繊維、そして "ソフトウェップン")は、彼の作品を現実的にした。本当のことは、具体性をもってみえるものである。それは未来の魔法である。



http://metamorphoseislands.blog13.fc2.com/blog-entry-12.html
http://metamorphose-planet.blog.so-net.ne.jp/2010-08-03
https://gigazine.net/gsc_news/en/20141024-a-space-odyssey-new-trailer

安静時に成人は1回の呼吸で(吸気450-呼気150ml=300ml) x その内酸素は(吸気21%-呼気16%= 5%) x 14-16回/分の呼吸をする。つまり、210-240ml/分 の酸素を取り入れる。 圧縮酸素は、運動選手用の酸素缶(3L/分で12分用 900g)や缶スプレー(10L-18L)がある。厚い鉄製の圧縮酸素タンク200気圧は200倍の容量の酸素を蓄える。 1Lで200/0.24/60= 13.9時間である。ずっと軽く容量の700倍の酸素を供給できる液体酸素(比重1.14)のステンレス2重瓶(魔法瓶)がある。1気圧で-183度の液体酸素か -219度の固体酸素は気化しながら圧力弁をもって長時間蓄える。これは1Lで2日もつ。冷却を必要としない過酸化水素と二酸化マンガン(触媒)の反応は、1Lで比重 1.4*1000/34 *22.4/2= 461Lの酸素、461/0.24/60= 32時間。液体酸素の2/3の性能である。酸素は基本的に地球から火星に運び、リサイクルしないとき、1人あたり、 0.24L/min= 345.6 L/day= 126 m^3/year、つまり1年で体重の2倍の酸素が必要である。

酸素の再生には大量の植物と日光を使い精製圧縮冷却する。植物の種は軽いが、肥料(窒素,リン酸,カリ)が火星にないだろう。それらの元素をもつ岩石鉱物(場所によるが、 長石、苦鉄質(Mg)火成岩、フッ化鱗灰石、赤鉄鉱、磁鉄鉱、粘土(珪酸塩)鉱物、結晶シリカ、硫化カルシウム、鉄明礬石(硫化鉄鉱物))はあるが、土壌細菌はない。 あっても大気中に窒素がなく、じゃがいもに根粒菌が働かない。


(*) 短篇集、"スリランカから世界を眺めて" 小隅黎訳、サンリオSF文庫(1981)に収録されている。長編、"地球光" も同じテーマである。 彼は、ホロマンとブルックスの空軍基地で行われたチンパンジーと犬の実験の真空露出の結果を載せている。"チンパンジーは2分半もの時間を耐え、犬は全部が2分間は生き延び、 死亡率は、2分間から3分間にわたって徐々に上がっている。(研究者はどうやら、犬を消耗品とみなしていたようだ。...(中略)... 人間も少なくとも10秒間、 ーおそらくはもっとずっと長くー 真空のなかでちゃんと意識をたもっていられると考えておくのが妥当のように思われる。 また、もし、意識を失ったとしても1,2分のうちに圧力がもどってくれば、そのあとずっと後遺症に悩まされるということはあるまい。"と書く。

彼は、"内圧が生じないように、おもな開口部を開けておく限り、真空に身をさらすことが、人体を損傷するとは思えない"と解説する。この内圧を保持せず、 息を詰めずに息を吸うように吐くことで真空露出する。(オーボエ奏者は、吹きながら息を吸う。) しかしそれは、窒息するまでの数分間である。そうでなく、 持続的な真空露出には0.2気圧の内圧保持が必要で、それは可能であると推測する。もし0.2気圧が難しいなら0.1気圧でもよい。半分の酸素分圧は高山病の危険があるが、 0.1気圧の持続可能には誰も反対しないだろう。

"NASAは、あの映画から50年もたって簡易宇宙服を試そうとしない。あの映画も宇宙服を使用したではないか。この話はフェイクか?" と疑うだろうが、 これは真空への必要以上の怖れなのだ。水中で逆立ちして息の泡を吐くとき、胸と腹では内圧の方が0.1気圧ほど高い状態だが、誰でもできる(**)。また、 水中で垂直に立つとき、胸と腹に外圧が0.1気圧ほどかかるが、容易である。内圧0.1気圧が可能、そして-0.1気圧が容易なら、内圧0.2気圧も可能だろう。 1気圧と真空の間は十分に脅威だが、0.2気圧とは5倍も違う。但し、簡易装備での真空露出は真空チェンバーで訓練して、目、鼻、口、耳の扱い、胸郭の広げ方、 腹筋の使い方に慣れる必要がある。呼吸は歩行や平衡と同じく小脳の機能であり、無意識動作である。呼吸を意識する間はまだ危険である。 多少は適性も関係するだろうが、無重力状態の吐き気と同じく、健康人が注意深く対応すれば安全である(と思う)。


宇宙飛行士の長期の訓練を考慮すれば、酸素マスクだけの訓練や、数秒〜10秒毎に酸素をストローで吸い込むだけの真空中の船外活動の訓練も可能なのではないか。 プールが背中の生命維持装置から宇宙服までのパイプをHALに破壊されたとき、彼はとっさに宇宙帽を外し背中からのパイプを口に咥えれば生き延びたかもしれない。 無重力で放り出されたときの遠方浮遊の自力での帰還は難しいが、ポッドで助けにいったボーマン船長は彼を救えたかも知れない。NASAは、HALの反乱のような事件を想定しない だろうか。いや、すでにその非常訓練は行われていてもよい。人工冬眠中の3人の乗組員が殺されたのは人工冬眠装置のフェールセイフ設計上の問題である。 予定外に起こされるのも困るが、人工冬眠は船内酸素放出や停電があっても本人が起きて活動状態になるまで安全に動作すべきことを映画「パッセンジャー」は教える。 睡眠中に簡単に殺されるような無防備な命になる装置には入りたくないものである。宇宙服もその1つである。

外気圧や外気温に対する防護として宇宙服は必要である。大気圏突入には宇宙服を着るほうが安全だが、F1レーサーのカプセルほどの耐衝撃性をもつだろうか。 裸で人は水中に数m潜れる。訓練すれば10mも可能だし、100mの記録もある。宇宙服は外圧に耐えるだろうか。海に落下して宇宙服は浮くだろうか。 映画「ゼロ・グラビティ」では主人公は浅海に沈んだとき、泳ぎにくい宇宙服を水中で脱ぐ。放射能防護の埃侵入防止にはフィルタが重要で、 気密宇宙服は最高の防護だが、放射線はα線(He原子核)は1枚の紙、β線(電子線)は2mm厚のアルミ板で防げるが、γ線は鉛板や厚いコンクリート、中性子線 は、Cd(カドミウム)かホウ素(10B+n=He+Li)が必要とされ宇宙服では難しいが気密の必要はなく遮蔽鎧でよい。 原発のメルトダウンした燃料の取出し作業に使える耐放射線服は必要だろう。X線は超伝導体で防げるか。超電導体がニュートリノさえ反射すると小柴さんはいう。 液浸(呼吸液)と衝撃固化(粉粒体の流体固化(dilatancyダイラタンシー)、加速度で固まる関節と外殻の機械)の耐G宇宙服は、耐100Gならロータベータのサイズを 半径1000kmから64kmにする。

(**) 水中で逆立ちが長時間できないのは、水が支えてくれる水中でも、逆立ちは逆立ちだからである。顔の外圧と血圧が胸腹より0.1気圧、足先より0.2気圧ほど高い。 血圧と外圧に圧力差がないから意識しにくいが、頭に血が登っているのである。泡を吐くとき呼気は 0.1気圧ほど余分に胸腹の筋肉を使って圧縮する。 それは、程度が半分だが、真空中の呼気と同じ筋肉の使い方である。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

3. 火星の夕暮れ

火星は地球よりも太陽から約1.5倍離れる。真昼は地球の半分の明るさである。見上げれば、力弱く白い太陽は、2/3のサイズで1/2の面積をもつ。 風はときに数100m/sを超える突風や旋風となり、塵は高速で危険だが、風は気圧が低い(0.75%)ため、体感は地球の普通の風(速度11.55倍で同じ運動エネルギー)である。 温度は日中、零度を上回る程度、防寒服を着るので風がなければ寒くはない(*)。夕方はもっと寂しく長く、大気が薄いので日が沈むとすぐに暗闇がくる。もちろん、 外は外惑星の闇夜である。火星の月、フォボスが上を通過する。火星の自転よりも速く半日ごとに西から登る。 高度が低いのですぐに暗転する。ほぼ黄道軌道のフォボス(fear)とダイモス(panic)は赤道近くからみて重なる 掩蔽(Aug.1 2013)もあり、 太陽と重なる太陽面通過(Oppotunity Mar 4,7 2004)もある。 強靭な膜を膨らませた仮設の建物の中に入って休養をとる。そこにはベッドやソファのあるリビングと台所、浴室もある。(旅路来て流月ゆくや火星の夜)

部屋は通常、0.1〜0.2気圧の酸素で気密する。40度の湯の蒸気圧は73.48hPaであり、0.1気圧もあれば通常と同じく温浴できる。お湯は最初ジャグジーのように沸騰するが、 お湯の蒸気圧は小さく冷めるのは緩やかで長湯しない注意も要らない、短期滞在なら部屋を酸素充満せずに暮らし、簡易装備のまま室内の全作業を行い、 シャワーやお湯に浸かることもできる。外気は魔法瓶のように熱移動がないのだから。シャワーの湯はシャワーヘッドから出ると泡立ちながら体にかかる。肺によい温かい蒸気浴は、 浴室10m^3を0.1気圧の水蒸気で満たすのに約1Lの水を使う。

ほとんど晴れ。風があれば砂塵が舞い上がり空が曇る。時に雨、朝露(**)。人はいない。今回のチームは20人で互いに100km以上離れた土地を分担して行動している。 移動には車と昇降機(0.4Gなのでロケット噴射)を使い、空気力学の航空機やヘリコプターはない。連絡を取りながら、それぞれ作業して、数週間毎に結果を持ち寄る。 会合ではとくに興味をもった自然現象について、その生成過程の推定、行動における危険など、重要と思われることを互いに報告し、記録する。

まず、基本は詳細な地図に従って、地形を近くから目視検査する。何か異常な、奇妙な感じがするもの、人工的なものはないか。大きさの整った岩の規則的な並び、 それらは歴史的に無人探査機の火星上調査や周回軌道上からの写真によって知られたものである。全く動植物の電子顕微鏡写真のような規則的、不規則的、周期的な地形に、 その場に立って真のサイズに触れることで、多くの解釈と誤解を訂正することができるのである。

イーグルクレータ近くの興味ある凹みパノラマ, 峡谷と水路, ニュートンクレータ:火星の最近の水の証拠, 石英のガラス質 Curiosity's View2015/8/8。 遺物を探す動画(NASAやJPL公式でないが割と温厚): This is Mars 2018- Space Documentary 2017 HD, This is Mars 2017, This is Mars 2016, This is Mars 2015, (**)This is Mars(2014)。 This is Mars 2016 に出たフォボスのモノリス? がここにあった。HiRISE(tm)の玄関

(*) キュリオシティの着いたゲイルクレータでは、夏は、日中 30度C、夜間は-80度C であった。防寒服は地球上では空気の断熱を使うが、それより真空による断熱が効き、 残った熱放射はアルミ蒸着服で防ぐ。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

4. 異常な風景

とても一見して、人工的にみえる場所での有機物調査。「まずは行ってみよ、そして、眺めてみよ、機械の検査を十分に行った上。」これが調査の基本的方針である。 最終的に行われるのは、人間の五感と直感、知力による検査である。これから数年間の調査で問題なければ、気候改造が始まり、人々の移民に供される(*)。

(*) NASAは、画像の使用に関して徹底した著作権放棄を行い、それらの画像の"いかなる使用"についても許諾することを誓約している。(もちろん、文章は、 専門家の意見であり改変を禁じられている。) ほとんどの画像は、そのまま理解でき、NASAの情報公開の精神を十分に納得させ、NASAへの信頼を増すが、 中には想像力を掻き立てる力をもつ画像、見ていて気分の悪くなる画像があって、この作品の作成の動機となった。 NASAの情報隠蔽を批判する人が問題にしないのが不思議なくらい、それらの驚きの画像は、知られていない。 そして、NASA はこれらの画像の公開をまだ止めていない。(2019/7/23)


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

4.1 ブルーベリーの色彩

(1) 一面に散布されたブルーベリー:一見、小型のブースターが焼いた丸い跡の上にこぼれたベアリングのような粒状丸石は、大きさが多少まちまちである。 周りの土や岩より硬い鉄か青石の色合いと感触。河の丸石は、これほど形が球形に整うことはない。それらが土と平らな岩の上に一面に広がって散らばる。 岩はなぜ、これほど平らなのか。テラスの敷石のようだ。何かが氾濫して流れ、土に埋もれた岩までが平坦に削られた河川敷か河原。 地球上では氷河以外にこれほど岩を削るものはない。激しい侵食と期間の長さか。岩に描かれた円形は、 オポチュニティが鉱物分析で付けたもの。 レーザーが粉を焼いて測定した炎色スペクトルは赤鉄鋼(hematite)を示した。球体の起源に2説あり、 衝撃か噴火から空中でビーズのように固った融解説と、水中で硬い石が核の周囲にゆっくり凝結した沈殿説。このような球体は、 地球上にも水のあったとされる近くに多く産出するから、水中の沈殿形成でないか。必要なのは有機物分析だろう。 岩に埋もれる球体:礫岩かコンクリート中の丸石の露出のようだが、水成岩か。露出も水によるか。 球体単体:砂埃で何でもこうなる。誰かが作り置いた不自然と作為。左下の貼りこみ図に、 蛸のような形の凸形がふたつ。 球体多数:硬そうでない泥団子。

初期のNASAの地上の画像は何もかも、空までも、乾いた土のベージュ色、土埃まみれ、水害後の泥まみれのような色彩の画像は致命的だった(*)。 物体が何か見分けようがない。こんな色の筈がない。オレンジ色のフィルタが使われたという。高度な科学機器以前の問題で、色彩が修正されて、 初めて鮮烈な風景が見られた。本当の画像はもはや得られないし、技術は信用されないだろう。紫外線から赤外線までのセンサーでなく普通の RGB3原色センサーを使うべきだった。隕石孔のすぐ外の平地である。

多くの人に火星上の生活を感じさせるのは、岩山と砂漠の風景があまりにも地球上と違わないことである。それは、 火山岩や水成岩が地球と似ているからだろうか。太陽は地球上と比べて大きさが0.7倍程度小さく、同じく白く光っている。 火星に比べて月は、異様なコントラストの殺風景であった。日に照らされた岩や砂は地上の岩に似て(但しガラスビーズ粉末のように、 光の来た方向に)光るが、昼間の空が漆黒の星空である。そのため、日陰は夜のような暗黒のなか(月の表側では)目立つのは地球だけである。 地球は月の4倍の大きさ16倍の面積で、しかも、地球(反射率40%)は月(反射率7%)より6倍も明るい。 そのため、地球は満月の100倍(半月の1600倍)も明るく、ほとんど空の同じ位置にあって、つねに大きく存在を示していた。

火星は、空の色が不明だが、大気が地球の0.75%(地球よりも真空の月に100倍近い)なのに、少なくとも地平線近くの空は、暗くない。 本当に0.0075atm(気圧)なのだろうか、砂塵だけでこんなに明るい。山や谷の様子は木々が全く存在しないことを除けば、 米国の砂漠や岩山の風景といってもすぐには否定できない。そして、大気に酸素がないのは本当なのかと思う。

恐らく何10億年というかなりの前に生命発生は確かにあって、生物による大掛かりな大気変性がこの地球上のような風景にしたのではないか。 赤い土壌の酸化鉄は、酸素の豊富さを表すのでないか。オポチュニティ、キュリオシティ等の写した画像が、カナダのテスト場での撮影と疑われ、 オレンジのフィルタは、それをごまかすためといわれ、断髪の人の影が写っているという画像もあった。そのような無作法な疑いを招く風景である。

赤みがかった群青色の空を、暗い紫色の空を、NASAは、見せたくなかったのだろう。火星の夕暮れの倦怠は、それほど辛い。 結局、人々は、テラフォーミング後の空しか知らない。それは、普通の青空であろう。

(*) MARS SOLS 568 to 571 HD 2014 TRUE COLOR 2014/04/04, Mars TRUE COLOR, Rover and Satellite Images, Nasa Science: Blue Sky of Mars 2017/02/26, 最後から3,4番目画像には彫像らしきものがある。


赤土の暗さと青白い岩、暗い空に白い太陽である。鮮やかなブルーベリーの青さは、過去の水の豊富を示す証拠で、これ位しか有機物らしいものはないということか。 機械は決められた手順で動作するだけだから、すぐ側に化石があっても気が付かない。人間が調査をすればつまらない見過ごしは避けられる。 必要なのは、収集が専門の古生物学者と、発掘が仕事の考古学者であり、調査隊にどれだけその専門家が加わるかだ。 宇宙飛行士やただの学者では能力は普通の人と変わらないか、それより悪い。そして、私はそれでさえない。

サラサラした日差しと、 用意したパラソルに椅子、机と照明を広げ、アミノ酸分析、糖分析を行う間に、近辺の変わった形の石を手の平にとり、埃をブラシで払って目を凝らし、 ルーペと顕微鏡を使う。携帯ルーパでの切削と研磨によって石の薄片プレパラートを作成する。また、土を採取しアミノ酸培地によって菌類の培養をする。 零下80度でも細菌は生き残り、好条件なら数10分毎に分裂増殖し、2時間で顕微鏡、4時間でルーペ観測できる。培地上のコロニーの色形によって、 調査員の体からの残存細菌以外と識別された異常コロニーは基地に持ち帰りDNA分析する。ヒトは細菌と共生していて完全滅菌はできない。 例えば消化は、腸内細菌に依存しそれは地球からの汚染となる。細菌とヒトのミトコンドリアのDNA配列は80%一致する。地球細菌との配列20%以上の違いで 土着を疑う。火星表面は紫外線殺菌されるが、地表数cm以下には土中細菌の可能性がある。

瓦礫には地球上ではどこにでもあるプラスチック製品、紙、木片がない(*)。つまり、炭化水素と含水炭素がない。木片の形はへきかいのある長方形の岩のかけらで、 炭素はなく化石でもなかった。そのようなものを考える必要がないぐらい状況が違う。稀にみる金属は、組成にインジウムが多く隕石とみる。酸化は鉄を地に帰す。 当然、アルミやマグネシウム合金はない。石の形態は多様で人為に紛れるが、サイズが違う(戦車の形は模型、ピラミッドは岩)。収集物は全て偶然の形態一致にしては精巧、 遺跡の彫刻にしては稚拙である。もちろん、巧拙は判断基準でない。いずれも人工なら同じ価値と意味をもつが、精緻な細工は人工を思わせる。 最高の芸術に出会う確率は低く、駄作に出会う確率は高い。

細かい指先の作業、指紋の感触を使う作業では手袋を外す。ジーパンと長袖Tシャツに温度に合わせ上着は着脱する。繊維は汗を吸収し熱を放散しそれを上着が抑える。 蒸散を促す衣類は着ると逆に涼しい。野球帽に密閉サングラスと鼻チューブに繋がる1Lの魔法瓶を腰に下げる海岸の軽装である。現場でできるだけ調べ、 分類、記録、処理し、収集物を減らす。次の獲物を探すため双眼鏡で眺め歩き回る。探索と調査に何時間でも費やす。その手の作業は性質として好むから。

暫くして、周辺の20検体の有機体分析が出た。全くその気もないということだ。まず、今日のところはこれだけだろう。その間、風を原因とする以外の音や動くものはない。 本日の芸術作品は1つだけ彫刻である。まだ化石の可能性もある15cmのイグアナ。秋の夕方4時。寒くなる前に車で撤収する。明日午前、この場所の調査を続行し、 午後数10kmほど調査場所を移動しよう。この河原のような場所は瓦礫が集まり、物は多いが破壊が激しい。大きな石の彫刻は必ず大事な所で割れ、 その相手は近辺に見付からない。余程の流れがここにあったのだ。川床の埋め岩を敷石に削る流れである。オポチュニティやキュリオシティが行った場所は、 複数の人間が再確認するのである。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

4.2 シビレエイ(2650)

(2) 火星の昇華する砂丘 なぜこの任務に選ばれたか、多少の慎重さ、注意深さであり、 それが多くの場面で身を守ったからで、特に体力に優れていたわけでもない。同僚の多くが不注意によって手足を怪我をしたり、装備をだめにした。 それでも可能な調査活動は多く、装備も余裕があり、支障はない。しかし、ちょっと難しい作業だと呼ばれる。光栄だが、責務は重くなる。 碧空に幾つか灰雲が浮かぶ。

これは影からみて凹みではない。砂丘の頂点近くの鎌型(バルハン)である。ある形成物が砂の中から姿を現し、 口の部分に黒い髭の束があって青い息を吐いて自ら汚す、何か読み取りにくい文字のような模様を背中につけたエイの一種か。 北極近くの砂漠の春の温度上昇によって下の膨らんだ大波の硬い砂丘の波型とさらに下の暗砂が、それらを覆うさざ波の雪とドライアイスの昇華で現れ浮かび上がる。 これは動物でなく鉱物、地形であるのに、B-1爆撃機を連想するのは羽形の機能を超えた優美な邪悪さのためか。

なぜ、この画像なのか。これが一般的な画像なのか、疑わしい。意図的に調査隊の恐怖を喚起しないか、これを見せられて行くのは、堪らない。 降り立った砂丘が動いてくるとき、どうするのか。助けを呼ぶこともできない。あわてて再び昇降機(*)に乗り込み、急速上昇して逃げるだけである。 実際に降り立つと、水面にあたるさざ波のたった砂は、立つこともできない、ふわふわの新雪だった。慌てて昇降機に戻り、硬い風紋の上に行った。 これは確かにしっかり固まった砂の表面だった。だが、これは錯覚で、カバか象の皮膚かもしれなかった。動きは、なかった。黒い髭のある口に近づく。 そこには洞窟があった。吹き出すガスが周りを青く見せる。髭に覆われた口に入っていく勇気はない。動きが、あった。走って昇降機に戻った。上昇した。

動きはもちろん、動物の証拠ではなく、周りに対する自動的な反応である。それは生物の証拠ではない。これが巨大だから、すこし臆病に思える行動をとる。 測定機器は十分な記録を得ている。私のここでの役割はそれで十分だった。遠方からの画像でなく、音響と映像の全てがこの調査対象のメカニズムを説明する。 それで、この相手に対してどう判定を下すのか。「これは生物でない。その証拠に私は飛び乗って遊んだのだ」というのか。問題は解決していない。 私は、もう一度、挑戦するだろう。重さに対する地震を再現し、そして、次には口の内部も調べることになるだろう。

(*) 昇降機は、ロケット噴射である。0.4G で地球上の2.5倍滞空できる。1Gで24時間運行でき12Gまでの任意の加速度がでる。燃料不足のとき、速度が必要なとき、 攻撃に使う時、高いGを使う。


1週間後の今回は、洞窟経験のある者を同行した。口は長く伸び、髭が続いている。ガスがひっきりなしに吹き出し、匂いが立ち込める。煤煙は、口の周りに髭を生やす。 ちょうど鯨の口の中を覗くようで、内部は暗いが照明すると青黒い。洞窟は数10m先まで見え、その先は下に曲がっている。数人が十分通れる広さである。 ザイルとピッケルを使い、崖に対処する。動力ザイルは、入り口が閉じない限り、我々を引き上げる。洞窟内部を100mも下ると胃のような形状の部屋に到達する。 壁から胃液が出て我々を溶かすと脅され、今回は防護を徹底した。気密防護服である。これには劇薬がかけられても大丈夫である。気密服は、耐圧が5気圧もあり、 それ以上の圧力で咀嚼されない限り生きて帰れる(という)。状況を動画撮影する。洞窟内の気温は30度Cを超え、洞窟奥から来るガスは二酸化炭素と亜硫酸ガスである。 重低音が不規則にあり落ち着かない。床は絶え間なく振動する。おかしい。何かを忘れ、それを思い出せないような。

収穫: 少し青い色の付いた水が滴り落ちる繊維状の砂の結合組織が見られ採取した。滴る水は酸性が強そうだ。ガイガーがうるさく、20分滞在し2時間で帰還した。 気密服を洗って首結合部と宇宙帽背後の金属腐食を知った。金属が半分の厚みまで溶けていた。チタンでなくマグネシウム合金だった。 ガイガーカウンタのザーという雨音に紛れたジュワーという泡音は負極金属の水素の泡立ちだった。もう少し滞在が長ければ危険だった。 気密はでき防護服はまだ使えるが、完全なものが2つに減った。靴も怪しい。ザイルも危なかった。油まみれのスティールワイヤーは切れず入り口は閉じなかった、 幸運にも。全て酸(pH0.7)を予想しない計画が危険を招いた。

火星は元々線量が高いが、洞窟内はひどい高線量(1mSv/h)(*)だった。1時間で年間被曝限度である。線量がもう少し強ければすぐに撤退したが、放射線量に安全な範囲はない。 少しでも起こる可能性のあることは、必ず起きるという、マーフィーの法則。これによって引き起こされる放射能疾患の影響は小さい。 少なくとも、残り4年間の調査に影響を与えないだろう、少々の不健康(眩暈と脱毛)。25歳の完全な健康をもはや期待できない程度。 大丈夫、まだ戦える。しかし、年長の隊長から、これが我々の最大被害と諭された。 若さを10年失ったかも知れない。"もう少し、用心深くやることだ。不安感や不吉感には理由(わけ)がある。その段階で引き返せ。理由がわからなくてもだ。 なにせ、我々の調査はすべて未踏査で、経験者の忠告は、後悔だけがする。同行者も同じ症状である"。あれは何だったのだろう。 結局、何を調べるのか明確でない調査は、被害を受ける。知る必要は全てにおいてあるが、それには順序がある。そうだ、湿度だ。

(*)地球上の自然放射線量は、0.1〜0.25μSv/h(=25μR/h)。一般公衆の年間被曝限度は1mSv(2.4mSvが年間自然被曝)。地球の大気上層で20μSv/h、火星上で50μSv/h。

画像の出処 周辺の単色画像。(2)は、両翼の真中に頭が付いた首を伸ばした鳥的な部分。背景画2にした。 まだ、 これこれこれ には清潔感がある。 黒い砂丘領域バクテリア?
以下の画像では JPEG の Black and white の non-map とか、JPEG RGB colorの non-map, projected を参照: 同領域1同領域2同領域3,同領域4汚れの少ない時季。黒丸汚れ。 同領域5黒丸汚れ。 同領域6 色がひどく違う初期の同領域。背景画3とした。 同領域7 色がひどく違う初期の同領域。 画像1, 画像2, 画像3, 画像4.


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

4.3 棘だらけのクリーム

(3)斑点のある砂丘 まずは、写真を見てくれ、これが火星の航空写真と信じられるかい。(うーむ、なるほど) 調査隊きっての皮肉屋さんは、つねに元気づける冗談をいう。

背景の暗さからみて、クリームをケーキの上に細工し斑点をトッピングした盛り上がりで、 へこみ(凹み)でない。円盤の連結かクロワッサンのねじり。背景から黒い筋が伸びてこのクリームを支え、貫通して斑点となって、さらに上に伸びる筋もあることに気がつく。 結構、これも厳しい。気持ち悪い。どうやって調査すればよいのか。調査の手順書を用意してほしい。できたら近づきたくない。

サイズ感がない。恐らく何10m〜100mもの見上げるようなクリームの丘には立つこともできないだろう、これに足や顔や手を突っ込むと、大きな黒い筋かトゲに切られたり、 刺されたりするだろう。どうして、丘がこんなにとぐろをまくのか。どこから始まりどこで終わるのか、見渡す限り、どうしてこれほど並んでいるのか。 画像のアスペクト比(縦横比)が狂っているか、画素並びにズレがあるのではないかと思うのは、捻りパンに横ずれがあるためか。 パンには割と鋭い平面的に切られた断面が一部みえているが、パンの切れ目とパンの並びは直角でない。円柱でなく斜め円柱となって連続している。 このクリームの下(背景)もクリームではないか? そこにも斑点がある。その下はなぜ平坦なのだろうか。どうして、黒い筋があるのか。斑点があるのか。 それらには、何か目的があるようにみえる。どういう目的だろうか。

(もちろん、生きるという目的だろう。) 生きる? 冗談は止めろ。(結論はいつも、"生物ではなく、その痕跡でもない" だろう) 結論が先の調査はしない。 生物かどうか確かめる前に結論はいらない。生物も無生物からできている。砂は生きていない。それが構成する砂丘は、生きているかにみえる。 生物は構成ではない。生きた細胞からできている。生まれ死に、動いて止まっても、何を考えても、喋らないかぎり、生物でない。 喋っても、意味不明なら、知的生物ではない。(あなたのように?) そういって、生物でないと切り捨てるのが、私の仕事か? (はっきりいってそう) 生物なら、理解できるはずはない。人間は全ての怪しいものを排除して安心したい、最終的に火星を綺麗にして住みたいのだ。 テラフォーミングは、いわばベーキング(焼殺)で、生物はそのため、発見しないといけない。(無生物、無機質として。) "生物がいる場合、我々は火星を放棄する。生物は抹殺できない"。は、その通りだ。(ところがこれは、"抹殺できないものが生物"という定義なんだ。)

写真では領域外がどれだけ広かっているかわからないが、見渡す限りクリームの並ぶ丘である。これはかなり無理がある。(いや、これはだめだろう。 ひどいものだ。) どこから始まって、どこに終わるか分からない、調査は危険だ。これが甘いクリームだとか、クロワッサンとかいうのは、安心させるためで、 それが動くときに、芋虫やムカデに例えて怖がらせるのと同じだ。止めてくれ、無責任な。行くのは私なんだから。(そう、済まない、私でなくて。)


結局、近くに滞空しても何も進展しないから、降りることにした。クリームの丘は、思ったよりは硬くて、新雪の丘のようなもので、樹木の棘が一杯に出ている。 それらを掴むと、足を取られるような気がするが、掴んでみた。振ってみた。何もない。ただの黒い枝のようなものだが、大きさは数cmから数10cmの太さで雪からでている。 強く枝を曲げると折れた。当然だろう。炭のような枝から何か液体が出ている。たちまち、周りに広がった。少しその場所を離れて液体には触れずに済んだ。暫くして 液体は、固まりかけている。液体の分析をする。まずは、鉱物分析。そして、有機物分析である。強いアルカリ性である。触れずに済んでよかった。ナトリウム。 水酸化ナトリウム。pHは11.2。匂いがする。強い匂いだ。呼吸器の覆いをしているのに、外部気体の匂いが入ってきている。ホスゲン? いや塩素ガスである。 周囲が黄緑色だ。ゴーグルを通しても目が危ない。とりあえず、測定器をもって離れる。周りの雪が少し状態が変わって、柔らかくなったようだ。足を取られる前に 逃げるしかない。昇降機まで5mもある。

間に合うか。逃げ切れた。昇降機からみると、さっきまでいた場所は沈み込み、黒々と棘が、棘が周りから一面に出て、沈み込んだ黄緑色の中心を指して渦巻いていた。 彼らは、反応したのである。防御反応。私はロケット噴射を利用した火炎放射で反撃することをせず、数10m先に退散した。しかし、私は軍人として再度挑戦するだろう。 調査隊の1員としても、調査を止めないだろう、日を改めて。どちらなんだ。少なくとも精神的には、軍人を優先しそうである。 あの場所の棘をみたら、明らかな攻撃だったから。あの場所にぼんやりしていたら、明らかに殺された。正当防衛かどうか、ここで決定できない。 つねに上司に判断を仰ぐのが軍人である。勝手な衝突は許されない。記録は全て残っている。早めの撤収をする。棘がここまで伸びて来ている。 すぐに上昇だ。調査員の不慮の死というような終わりにならないように。ここでは明確に護身を優先する。稀には、このようなこともあるだろう。 危険なことを承知の傭兵のような仕事だから。帰路の途中の通信で調査員と上司の大きな議論の渦に巻き込まれた。皆の興味は、火星の初めての攻撃であった。 (次亜塩素酸ソーダと酸での塩素ガス発生、混ぜるな危険。中和反応の発熱がクリームを沈ませる) 彼らは興奮して報復しようとする。対策は容易だろうか。 いや、相手は山のような大きさの知能である。枝を折られたことへの自動的反応かもしれない。(塩素消毒だろう)


我々には個別の戦闘は、要求されていない。調査隊としての任務であり、最終的には、テラフォームがある。それは確実な殺戮だということの期待があって、 個別反応に意味はないのである。そうすれば、調査は、相手の反応をかいくぐって行うことである。調査の意味があるのは、相手の反応を知ることで、何に反応したか、 どういう行為が危険かなどである。枝を折れば、雪面が軟弱になって、棘が集中してくる。これだけである。あの液体が何か。匂いが何かの以前に。

あの液体が人体の皮膚を溶かす原始的で最も有効な薬品で、呼吸器にも侵入するガスは第1次大戦の化学兵器である。どうやって、相手はそれを知り、それを使ったのか。 単にそれは結果的に有効だったから、そう見えるだけだろうか。そうかもしれない。最初から、昇降機を埋もれさせることもできたし、 昇降機のロケット噴射に反応してもよかったが、そうしなかったのは、反撃とみえるものだけを我々がみるからである。 相手は、枝を折られるという些細な損傷に対して激しく対決した過剰反応も、損傷防護の自動修復程度かもしれないし、枝が折られることが非常にまれなのかもしれない。

そして我々は、再びあの場所に立って、反応を再現し、戦いを先に進めるのだろうか。相手は生きていたと結論し、この状態で撤退するのだろうか。 調査は続行される。もし我々の隊が撤退をしても。それが生物調査隊の使命だから。職業ミッションは、人道に優先される。人道?それこそ不明な概念だ。 人間にとっての人道は、人間以外に対してもそうか? そうでないとしないと、この仕事を受けるべきでなかったことになる。 最も兵器や社会の騒乱から遠いはずの研究者という職業は、知識と知能と、とっさの判断とを必要とする傭兵だった。 人類のために命をかける傭兵は、恥ずかしい無法者ではない筈だったが、そこには基本ルールがなく、異星の生命現象に対して、侵攻を優先している。 これにより、組織の目的を知ることが、重要だがどれほど難しいかを、私は知った。

画像の出処。さらにMSSS入口 から、2004/8の中のここ。 2006年5月8日Polar Plumageは凹凸逆転に近い。 2004年8月17日の Aligned Defrosting Dunes には、機銃掃射したくなる。


これに対処する私を含む数人のグループが組まれ、大掛かりな焼却が行われた。クリームの一欠片を焼いてみる相手の反撃を知る程度のパルチザン(遊撃)である。 勿論、最初の計画にはなかった"調査"である。我々のもつ熱源は、現地で臨時に合成した火薬数トンであり、我々の役割は、最寄りの基地から数10kmを運搬し、 これを置き、時限発火させる。時間は掛けられなかった。作戦は速やかに実行され、効果は確認できた。クリームは、その1塊りを溶かし、内部の骨組みを露出した。

3次元構造を設計するとき、その骨組みを規則的に作るものだが、数100メートルの長さの黒い露出した部分の骨組は、自然の作成した骨組みのように数10mの 直径の螺旋状を描いた太さ数mの骨格から放射状に細線が伸びていた。火薬に点火して10分間の激しい燃焼をみて、その間、骨格は伸縮したが大半は動かず、 細線は激しくのたうった。我々は数km離れた空中にいた。そして、その後、骨格が前後のクリームに埋もれていき、細線は一部は外れ、 一部は残りながらクリームに埋もれていった。我々は、ただ、明確にそれが一部損傷したことを確認した。

彼らは、ほとんど反撃をしなかった。ただ彼らの細線から1回だけ液体噴射がなされ、それが命中し 4人乗り昇降機の外殻の大半が腐食破壊したことを 帰還後に知った。予想しなかったことに、彼らは高精度の視覚をもっていたのである。作戦の途中、我々は気持ちが悪くなって吐いた。 相手の膨大さを考えればそれ以上に大規模にこれを破壊する試みは不可能で実行されなかった。1年後、彼らの損傷部分は、自然の季節現象の復帰のように回復した。 クリームパイのほとんどは振動しながらも移動せず、ただそこにあった。

後の会議で、クリーム焼却は正しかったのかという議論が頻繁にあった。必要性に疑問があった。ただそれが気持ちが悪いという理由だったのかもしれない。 命令はなかった。反撃という意味しかない不必要な反撃には規則さえなかった。我々は領土を勝ち取るという使命をもたない調査隊であって戦闘員ではない。 要求されない戦闘をした理由は、要するに我々が絶対的優位にあって、我々に危険の及ぶ可能性がなかったことである。それが攻撃を容易にさせた。 強い力の保持が無意味で不必要な攻撃をさせた。しかし、その優位という状況認識は正しかったのだろうか。この火星上で我々は彼らの優位さに無知なだけではないか。 距離が安全を保証するように思っているが、そのことは確かでない。そしてそれは、相手に我々の性格を認識させただろう。余計な行為は余計な結果を生む。 我々は報復の恐怖をもつようになった。そして、螺旋の骨組みとのたうち回る細線の記憶が意識の端に登ると、それによる嘔吐反射が起きるようになった。 こうして、我々は、馬鹿なことをしたと知るまでに、長い期間がかかった。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

4.4 懐かしい風景(2635)

(4) Dark Sand Cascade 薄いピンク色と薄青にそめる異常な丘に、点在する並木、くねる山道の植え込み。 その地形は、明らかに奇妙だった。思っていたサイズとは5倍も大きかった。何10mもの幅の曲がった道に、路樹は高くそびえている。その先に枝葉があるように思ったそれは、 影絵のためにおきた錯覚だったのか。そのサイズはとてもそれではなかった。我々は、その中の子狐か子ネズミだった。

"Dark Sand Cascade"という題は"暗い砂の連続した流れ"の意味であろう。画像ファイル名は、almosttrees_mro_2560.jpg "ほとんど木々" である。 英語の"木は影を投げない"という説明は、木を面内の絵とみている解釈である(*)。枝の広がりを流体の溜りとみることは説得性があるが、 曲面の明るさの違いからみて写真は右からおぼろな日が射す曇り日で、ほぼ左右に並ぶ立木は互いに影を消す。中央の木々には左下に影がある。 木々を地面の模様とすると写真領域の曲面全体を鉛直に対して随分と奥を下に傾むける必要があり、そう見る事は容易でない。

特に上方の黒い林は生垣のように直線的で平行にむしろ等間隔に密集し、その向こう側(背景)の道などの面の凹凸に影響されていない。木々を地面の砂の流線とすると、 それらが平行に伸びるには、奥に傾いた面が平らでないといけない。ところがその部分は膨らみの向こう側であり、こちら側よりも面の上下が表れやすい。 視線と面の法線とのなす角度が90度に近く、90度以上ではその部分は見えない。そこは面の起伏が強調され、その面上の奥に向かう線が最も曲がってみえる場所だから、 直線的にみえる流線は最もありえない。ゆえに木々は地面の流線の模様ではなく、普通の木々のように地面からほぼ垂直に棒立ちしているとみる方が直截的な解釈である。 中央、左よりの林は各樹木の根本に球根様の膨らみさえ見て取ることができる。他の林には稀にある。もちろん、ここの木々は植物や生物ではない鉱物である。


暗い砂を覆う明るいドライアイスが昇華して消え、暗い砂が作った固体の微小な噴出管が残され、面に対してほぼ垂直に立つ"木"になる。木が並んで並木になる理由はないが、 ピンクの膨らみの丘の真ん中に割れ目を作り木々が林立するのは、それが風を防ぎ昇華を妨げ、雪が膨らみとして残るのである。また、丘を取り巻く道は、連続せず途切れる。 これは道ではなく、見たわけでないが、ドライアイスの滑落の筋だろう。それにしては、現実の道に見える理由は、白い雪が所々に残る灰色の小道、 左上の道には両脇にある植え草、また、右下の割れ目の並木が街路樹のように二重である。"想像で描いた絵は、こうはいかない" と不意に口に出る、 そんな風景描写の話でなく、対応は逆で、"それぞれ自然形成の理由はあるだろうが、これは余りに作られている"、という造形した風景である。 絵画は人工物でそれが表現する世界があるものだが、これは想像から造作した世界である。少なくともこの場所は、作られた不自然な絵である。

そこに降り立ち、周囲の音響と吸音の配置を聞く。轟々とした風音は木々より発し、滑らかなピンクの面に吸われる。そこにいて感じるのは、止まない風である。 意図的に計算し組立られた、見たことのあるような、懐かしい村落風景。睫毛と欺くような豊満な膨らみとその割れ目に生える毛は、性に誘惑する淫靡な立体造形である。 村落は偽装で、丘は内部表現であろう。開けた壮大な風景と、木々の枝の細部が成す暗色は、単に森林に似せる。人為を真似し見る者の深層を暴き見返す、圧倒的な奇妙さ。

露骨なアカデミック絵画(神話に裏付けされ理想化された裸体の色彩と形の上品を装う下品さ)と分かっていても、とても、そこから立ち去ることのできない絵、 オルセー美術館の、"ビーナスの誕生"(アレクサンドル・カバネル)の、薄淡い空のなか天使たちがほら貝を吹き舞い歌い、 波立つ海の青緑色の上に茶色の巻毛の光る豊かな白赤い裸体が横たわり浮かぶ恍惚とした表情。 画家が閲覧者の一次欲求に従って絵を描けば当然、閲覧者は目が離せない。

調査員が次々とこの領域に魅入られ数10時間後、酸素切れ前に救出され、穏便に扱われ懲罰なしに後方配置替えされ、休養を与えられたが復帰しなかった。 参入者はこの事項について明確な記憶を失っていた。それ以上の繰り返される危険を避けるため、この領域は一種の禁制領域として調査対象から外された。 地球上の風景擬態と陰部模倣の気味悪い美しさには、人類を誘惑し本性を暴露する意図があり、その意味は人類への蔑視(floccinaucinihilipilification)と 嘲笑(ridicule, derision)による反抗と考えられた。しかし、この問題は謎を残した。なぜ、彼らにそのような地球人の原風景擬態ができたのか、 どう人類の性的形態を知ったのか、過去に人類と接触したのか、疑わしいままこの領域は残された。少なくともこの領域は、我々に回復できない攻撃をした。 風景が人を無力化し殺めることさえできる。我々が驚き恐慌したのは、これが侵入者に対する火星の意思表示だったことである。彼らは姿を現さずに我々を脅迫している。


(*)(4)の出処の題名 "Falling Material Kicks Up Cloud of Dust on Dunes" は違う画像の説明のようだ。 閲覧注意の意味だろうが、APODには数回出た。そのなか、 単色画像 では吹き出物かナメクジ集団が、右にはみ出し移動している。表題画像(4)の周辺を含めた単色画像(上から1/3、左右位置は中央付近が(4)の画像領域)。 路途切れ残雪白し止まぬ風。埋もれ路あり雪邑の木々や濃し。薄き日にたおやかな丘流れ行く。 JPLの類似画像は切り出しも時期も違うだろう。単色画像との対応は未確認。

火星の変態2002年5月7日の 出処 は180度回転し、(4)の単色画像とほぼ同じ領域。大きな隕石孔の皿から はみ出す各バルハンは、(4)の単色画像のバルハンと対応が確認できる。黒い木々(汚れ)が生えていない時季の(4)である。

MSSS MGS MOC 画像の入口から1999年夏(8/10)、北極の砂漠の潅木("They look like bushes!") の暗い斑点についての推測。潅木は、最初内部からの噴出跡と思われたが、 風の筋跡(wind streak)と考えられた。2003年5月8日 Chasma Boreale Dunes は斑点が風の筋跡を示すというが光の影ではないか? Chasma Boreale Dunes 2005年8月29日Frosty Dunesは、前の(3)との中間的画像だろう。

以下の類似画像では、JPEG の Black and white の non-map とか、JPEG RGB colorの non-map, projected を参照: 同領域1, 同領域2, 同領域3。 2525: 画像 , 画像 , 画像 , 画像 , 2640: 画像 , 画像 , 画像 , 画像 , 2560: 画像 , 画像 。 その他: 画像 , 画像 真上から木々に見えない。 黒い斑点が丘を囲む, Dunes on a Ridgeは、器を這い出る砂丘。 Defrosty Dunes 細道は稜線なのか凹みなのか? "暗い斑点は、風に吹かれて描かれた線..."と あるが、奥の凸凹に関係なくまっすぐだから、凹み道路の両側に生えた林と見たい。

ここに同領域画像がある。Scienceの論文 "Seasonal Erosion and Restoration of Mars’ Northern Polar Dunes" C. J. Hansen, M. Bourke, N. T. Bridges, S. Byrne, C. Colon, S. Diniega, C. Dundas, K. Herkenhoff, A. McEwen, M. Mellon, G. Portyankina, and N. Thomas に引用された4.4の画像(4)の同領域6つ: PSP_007962_2635, PSP_010019_2635, ESP_016256_2635, ESP_016546_2635, ESP_016836_2635, ESP_018036_2635 は、 色彩の狂いが大きい。4.2の画像(2)の同領域引用もある PSP_008968_2650, PSP_009324_2650, ESP_017974_2650。さらに、(2640)の同領域画像もある。 PSP_009105_2640, ESP_015935_2640, ESP_017768_2640。いずれも初期の未熟な画像色彩である。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

4.5 動く砂丘

2000年1月31日に、Dark Dunes Over-riding Bright Dunes (=輝く砂丘を乗り越える暗い砂丘たち) 形と明るさの異なる2砂丘が交差する画像に説明が2つ考えられ、いずれが答えか不明という。両説とも砂の模様とし1説は、 背景が固く化石化している古代の風の結果といい、2説は背景が粒子の粗さのため移動が遅いだけの結果という。両砂の中間が全くないから答えは前者と思われ、 さらに説明では桿体が背景模様に平行に坂道と風に左下に転がるとみる。サナダ虫の模様のような下の砂の白い風紋にほぼ並行して並ぶからか。 鎌型は横長で風に垂直に受け流すが、それが丸まれば横転できる。

しかし、曲がった円柱の横転は難しい。曲りが風の方向に揃っていない。転がり移動という解釈は突飛で、いまにも蠢くような形態は左上への芋虫移動ではないか。 風を原動力に転がる砂は、動物でも生物でもないが、棒が自分で転がるなら生物である。縦移動は、進行方向の風の影響を少なくし、蠕動前進の連続性を得るが、 原動力は風でなくなる。まず、構造のない砂がまとまって類似した芋虫形を保つことはないから、形態保持の為に何かがいる。表皮が強くて内部が流動的で、 粘菌が菌糸を伸縮して移動し、その胞子を放つ子実体の茎を回転させるような、内外間に単純な構造と仕組みがいる。単細胞内の流動で可能な動きである。 何かが表皮の伸縮を促して、蠕動運動するのはもう少し複雑である。見た限り、これは平坦な帯でなく断面がほぼ円だろう。太さ100mもの棒状砂塊の横転は、 優れた無生物化のアイデアだが、それの動きを示す時間の離れた画像が欲しい、安心のために。

直径80-100m、長さ500-700m の大きさの芋虫は地球上にない。そのサイズは動物という範疇でない。陸上生物のサイズは重力加速度に反比例するが、 0.4Gでこの大きさはないだろう。そのサイズで原始的な粘菌類を類推するのも不当だろう。知能は短期記憶を蓄える神経回路網の細胞数に依存し、サイズに相関をもつ。 これに遭遇するとき、調査隊に何ができ、相手はどう出るだろう。刺激と反応の想定問答集が欲しい。

これほどの異様な生物に出会ったとき、そこでの知識の交換は我々に意味があるだろうか。大気のない火星に呼吸器なしでは息の意味が通じない。 手のない動物には道具の意味が通じない。目のない者は星々を知らないだろう。そこで天動説から地動説になるのに、中世を過ぎ科学を実用にし、 最終的な兵器を手にするまで、何1000年を要するだろう。永く思考を積み重ねても、芋虫にとっての世界は芋虫(蛇の道は蛇)である。 どれほど知能があっても脅威でない限り相手にしない、これが現代の宇宙開発の基本思想、アーリア人の領土拡大に対応した太陽系版フロンティア思想であり、 我々が知的生命と遭遇しない理由かもしれない。


調査員からの質問への回答: 原始的な対決の禁止について

横転する相手に押しつぶされないよう準備するのはよい。しかし、原始的な対決は良くない。人類と話が通じるか知る最終目的より先に、 最初の目的である相手が生物かどうかを知るために、対象個体を殺すか死にかけた個体を見つけ、死んで再生するか、子を生むか観察するという提案方法は容認しない。 死んですぐに再生するなら言われる通り、生死はあまり重要でないが、普通そうでない。高度に複雑な生物の構造破壊の再生は、通常不可能である。 その報復が人類全体に及ぶ可能性があるため、類間の殺害行為は重大犯罪とする。

動物か植物か、まず作用し(少し傷つけ)、その反作用をみるという提案についても、内部に神経系のような通信系が存在して反応があるときは動物とし、 その反応にすぐ対処しないといけない。傷害に対する反応は、我々に好意的なはずがない。その反応の危険を回避できず、調査を失敗に導くだろう。 危険なしに目的を達成するには、基本は分類と観察である。対象の個体の特徴と行動で分類し、その間の相関を知り、変化を観察する。特徴と行為は、 前後関係から原因と結果と推測する。対象個体が生物か動植物かの調査において、対象への殺傷を我々は看過しない。行動に必要な規律は軍律である。 規律違反は、国際法ではなく国連軍の軍律で裁く。募集は調査員でも軍と同等である。これはその職務の片道切符から予想されるべきであった。

恐らく、この通達が調査隊の全滅の原因ではないか。ほとんど何も知らない状態なのに遠方からの指示が強すぎる。現場の判断を尊重すべき。 最も危険なのは対象が何かを間違えることである。そして、今まで戦えない軍隊などどこにあっただろう。 しかし、詳細は不明である。最終的に基地は全破壊され、記録は失われたからである。

2003年5月Ridges and Sand Dunes類似画像。 Dunes and Dust Devil Tracks背景にも暗色虫の表面にも旋風の痕がある。暗虫は、 旋風よりよほど遅いのだ。 Wayward Travelers=「気まぐれ旅行者」の表題は桿状の砂の移動を意味する。これは(2)の バクテリア画像。周囲の平坦地のなか桿状砂の移動は確かか? 砂丘頂上がこの形をなしただけか? Ripples and Dunes 固い隕石孔地形を背景にするひよっこの移動。 暗色バルハン間を埋める雪は他と高さが違う段丘か? いや、背景は連続していて、動くバルハンだろう。 背景の隕石孔の外でバルハンは波打つ。

2004年6月Dunes and Wind Streaks 砂丘頂上が甲虫か。場所が任意な割に大きさ形が揃い過ぎてないか。 2004年7月Small Dunes in Hellas 本文類似画像。やはり、大きさが揃い過ぎてないか。 2004年11月Dune Variety 揃いすぎていないか。液体のしずく。 2005年8月17日Aligned Defrosting Dunesパンダの集団移動。砂丘に根はなく砂丘バルハンは動く物 か、いや自然の砂丘である。 Chusuk:(韓国語)秋夕。下のクレータを月に見立てた「月と雁」。背黒ナメクジの群れ。表紙は閲覧注意 の意味か。(4)も表紙を意味不明にする。同領域? 口から舌を出す。 2005年12月 Richardson Dunes 背景に一部埋もれる半透明の縦筋の長虫 (トンネルをもつ道路)。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

4.6 悪夢の図

インパクトクレータ(衝撃隕石孔)のなか、過去の水の証拠、層状地形:

硬い白層の間を埋める暗層の砂が柔らかく先に消え、離れた白層が目立つ層状地形は、層が水平の場所では等高線図形が残る粗い3Dプリントのようで、 層が垂直の場所では巨大な恐竜の肋骨のように林立する100mおきの10mの厚さの壁が並ぶ、それらは、曲がった広い路に脊椎の連鎖にもみえる。初めてこれを見た時、 火星の上空から撮った写真とは信じられなかった、ゲジゲジの腹の醜悪、何気なくゴミ箱の蓋を取り、虫の巣をみたときの悪夢のような狂気図である。自己分析すれば、 大小様々な楕円形立体をある種の虫と見、多層を甲羅、足、鱗と見るのは、その手の動物への同情の不能又は異質感を表すのだろう。 層は地球の地層と違う形成過程ではないか。重力加速度が0.4で、石や砂の重みが小さく層は柔らかく厚い。 周期100mの繰り返しの巨大な層状地形は、水中での物質沈殿ではなく、陸上での火山噴出か隕石衝突の地表加熱かもしれない。いずれにしても、 激しく規則的である周期性という特徴を説明するのは容易でないだろう。火星調査隊はこれを間近にみるだろう。

火星由来説: 我々が火星から来たという都市伝説。突然変異と適者生存を原理としたダーウィンの進化論は、人類だけは進化の結果としたくなかったようだが、 全生物が地球上で進化したことを主張した。類人猿から人類への進化途中段階の連環化石の不在の理由を求め、人々はパンスペルミア(汎種子)説の想像に頼る。 もちろん、途中の類人猿の化石は当時より飛躍的に増え、失われた連環は埋められてきた。元々突然変異に連続性はなく、 異類のDNAシーケンスの数値的一致による形質間距離の定義は、任意ながらも飛躍の飛び石の発見が証拠になる。 どれだけ飛び石があっても思想的に渡れない者が存在する。創造神の宗教が失われた連環を言い、進化論に異説を要求する。 進化論全体を否定せず "デザインされた進化" という妥協も、誰によってと問うと姿のない異星人が創造神の代理をしている。 たった数千年前に自らに似せて人類を作ったという神は、ノアの箱舟が大虐殺なら人類の味方でない。災害に抗して絶滅から救ったのではなく、 人工地震によって洪水を起こした側である。それを伝えるほど威圧的である。そこに証拠はなく神話だけがある。それを信じることが人類に何か救いを与えるか。 天動説と地動説、創造か進化で、歴史上も科学を妨害し、今も科学思想と矛盾対立する。進化説に対する汎種子説は化石に対抗する証拠がない。 連環の欠如を批判する資格はなく、仮説、空想、妄想、迷信、期待、願望の段階でありそれ自身、歴史的意味しかない。

この層状地形の異常な風景は、興味を集めた。白層が石英ガラスであるかどうかは、人類の火星由来の決定的な証拠となるかもしれない。これがリビアングラス(*)なら、 確かに大気中の核爆発の証拠であろう。空中にまき上げられた砂の1500度以上の高温に瞬時に昇華し融解しガラスになることは、自然現象ではありえない現象で、 リビア砂漠の一部にこれが見出され、古代から宝石とされたことは、すでに地球上の人類の再生を意味するという説を生んだ。ネバダ核実験場(Nevada National Security Site) で同じような溶けたガラスが分布していて、広島、長崎等が地球上の最初の核爆発ではなかったことを意味した。リビアの古代の核爆発は我々の科学技術ではないかもしれないし、 リビアンガラスは化石的な意味の追求でしかなく、火星のそれと比べると、まだ小さなエピソードでしかない。


層状地帯の上空通過は初めてではないが、そこに着陸し、間近にそれを調査するのは、今回初めてである。着陸には平地確認が重要である。上空からの目視では、 垂直の段差は見逃しやすい。3人の調査員が任務を与えられた。その放射性同位元素による地質年代の確認が目的とされたが、実際は、白層の性質が重要である。 地質年代が明確になる前に、もし、白層が石英ガラスなら、疑いようがない。そこに降り立つだけでそれが分かる、緊張に調査員は震えた。 しかし、そんなことはありえない。そんな伝説に振り回されるほど、我々はいい加減ではない。

着陸は、無事行われた。水平な白層の上に立ったのである。平坦な数km幅の床の上下にかすかに地形が見て取れる水平線まで地上に物体はなく、 空には太陽以外ない。平坦な床は、深みのある紺色の空を反射する色付きガラスであった。その反射光を低減するため濃い目の偏光サングラスを選ぶ。 太陽は70度以上の仰角にあり影は足元に短く落ちる。この風景のなかで単純な調査である。超音波測距と、アイソトープ年代推定。そのために必要な機材、 机と椅子とパラソルを昇降機から降ろし、電源をつなぎ、静かに結果を待ち受ける。その解釈には時間がかかるが、測定は10回繰り返しても50分で終わる。

地質年代の計測は、白層以外で行われ、各層が約10万年の周期をもって存在することを意味していた。 床は、固まった白砂に覆われていたが、この地域の強い風に吹き飛ばされ、蔦飾り形に露出した場所もあった。暗い透明な液体のようにつやがあって、 深い黄土色から橙色の瑪瑙の厚いはめ込み宝石にみえた。インドの建築物タージマハールは、厚い埋め込み宝石の模様をまとった大理石の壁でできている。 王妃タージを悼む白い建造物は、奇跡の均整美に包まれる。

埋め込みの一部には周囲の白大理石が数cm斜めに割られて中の埋め込まれた瑪瑙の側面が数cm表れ、滑らかに曲線柱に削られた橙色の瑪瑙を、 盗ろうとした人がそれが深すぎて諦めた跡と観光客にも分かる。余りに凄い宝は盗むことを防ぐ。 風が砂に描いた波模様は、タージマハールの橙色の花と緑色の茎や葉を描いた埋め込みのようだった。

夜、再度訪れると、墓の上の階には少しの灯りがともされ、Don't shoutという注意書きがあって、 その長さを確かめたくなる反響がヌメヌメと続くドームの部屋である。 滑らかな半透明の大理石の張られたテラスには、月明かりのもとに人々が座り込んで話をしたり歌を唱っていた。 後に王は幽閉され、風が流れる唐草模様の石の透き壁を通して、川沿いの遠方からこれを眺めて暮らしたという。

しかし違う、タージマハールの埋め込みの厚さはただ数cmだが、ここの埋め込みはもっと深い。白層は、滑らかな透明感のある白大理石のようだが、 10mの厚さの薄黄色の半透明の石英であった。何事もすべて同じ、地獄の裁定とはこのことだ。その事実を報告し記録してから調査員は、光る床にへたり込み、 衝撃に泣き崩れたという。それまで決して信じなかった疑いに。風のない湖面のような石英の床の上に。コナラクの回る車の転輪の中心軸から見れば、 どの時代の営為も対等で、善悪さえ消え去る、我々の忘却した歴史、繰り返されたテラフォーミング、層状繰り返しの事実は、そこから解脱すべき人類の 輪廻の地獄図である一方、人類の壮大な輪転も我々の全ての一動作も、高価な宝石に纏われた大宮殿であることを優しく教えた。 我々がタージマハールを決して、愚行とはみないように。 いや、調査結果は予想外だった。リビアンガラスの大規模存在は、進化を否定する創造ではなく、輪廻と因果の証拠、より厳しい現実直視を与えた。 "高山に登る者は必ず下り" 火星由来は幾度も繰り返された。日々の繰り返しによる人生のように。

その後のことは重要でないので省略するが、これがなぜ地球にそのまま報告されなかったかはひとつの謎である。調査員からの報告は、 多くのオブラートに包まれた苦い薬のように、数値データの中に何が何だか分からないようにされていた。調査員たちは自らの目を信じず、 実現しなかったが、全ての人々がここに来てこれをみて欲しかったのかもしれない。 実際そうであったように、放射性同位元素による年代測定は、このようなとき特別に誤差が大きいのである。

(*) 【オーパーツ】リビア砂漠のガラス ,砂漠で発見された衝撃事実トップ6 ,Libyan Desert Glass ,Ancient Atomic War ,Ancient Nuclear Blast Alien Warfare The Mohenjo Daro Mystery


"ああ隊長、聞こえますか。調査員番号2、デビッド・カーから隊長と全隊員への暗号通信による報告。音声通信を記録して下さい。桜、散るです。(ウオー) 重要事項ゆえ、復唱願います、桜散るです。(喧騒) 意味は全員が知る筈、入試不合格。静かに聞いて下さい。見渡す限り数kmの範囲の湖面の床はリビアンガラスです。 緑がかった黄色の2酸化ケイ素のガラス質。鉱物分析結果を伝送します。超音波測距の結果、厚さ少なくとも10m。約100mの間隔。アイソトープ検査の結果を伝送します。 各層10万年の周期、少なくとも数10回〜100回、推定70回。(冗談じゃない) 冗談ではないです隊長、残念ですが。(70回ってどういう意味..) 70回のテラフォーム の意味は、見えません。歴史は無意味な徒労、繰り返し。お悔やみ申し上げます.(そんな馬鹿な)..そんな馬鹿な.冗談じゃない.お前ら何してくれた. (..こん畜生.何回やるのだ!..).いい加減にしろ. どうするつもりだ一体、馬鹿野郎、以上"

死は緩やかにくる。子供の時、これを知ったときの驚きを憶えているか、生に限りがあること。どうして、死が用意されているのか分からなかった。 死は、本人にとって全ての終わり、少なくとも、大きな教育の無駄で、どれほどの生も一旦の活動中止を必要としていることをいう。 文明に死が用意されている。ではなぜ、我々は技術/文明を進めるのか。生は誰の為でなくそれ自身のためにある。しかしそれでは説明が難しく他の名目をいう。 生には効率があって競争と勝負がある。同じ事をして成功と失敗がある。人の行為には目的がありその成否がある。そのために人が成立しているという事実、 人の喜び、悲しみ、これを見ないといけない。多くの人の行為で文明はでき、文明は生を高め、生を苦なく送らせる道具立てである。 それが最終的に失敗し矛盾し、生を終わらせる。そのとき問われる、「ではこれらは、何のためだったのか」。

個人の死に対応するように、人類の行い全てが繰り返しとは、何かに挑戦しては敗れる "再挑戦"というほど、生易しくはない。それは、人類のもつ"不可能な夢"の、 目標の誤りだったのかもしれない。そのようなことがこれをする。我々は、歴史上の悲劇の数々を知るが、現実の文明崩壊は、人類全体の"営為"を無意味にする。 それは、余りにも具体的に、豊かさを貧困に、快適を不遇にする。人類が長年蓄積した財産を失い、愛した人やわが子を喪失する、集団や国家が構造的に防止する 犯罪である。基本的考え方として少なくとも、破壊は幸福と対等でない。我々の全営為と願望を認識から捨象すべきでない。人の苦悩と涙から目をそらしてはいけない。 もしそれが他民族からの侵略なら全力で抵抗する絶対悪、不条理である。しかし、自ら行った文明崩壊は、人類に対する認識に批判と否定を呼ぶものであったろう。 いや、驚くことはない。感情的でなくむしろ冷静にひとの死をみるなら、文明崩壊と未開からの再出発も決して驚くことではない。文明には逆行段階が存在し、 それだけ見れば決して許されない愚行が、恐らく今みえない必要性をもつのである。達成すれば必要でなくなる欲求のように。美がその欠乏を表すだけのように。

その後、層状地形のこの衝撃隕石孔は、連続的に掘られた人工的な火星移動の跡という説が出た。各層10万年というのは誤りで、数年毎の70回の噴射という。 火星は、もっと暖かな時代を過ぎ寒くなった。それを修正するために小惑星帯からここまで移動させた、その神々はどこにいったのか、という都市伝説である。 不可能な技術を使えば、仮説は何でも立てられるが意味はない。繰り返し仮説の地獄からの逃避である。とはいえこの説は、繰り返し仮説より人気を得て、 その後 100年間支配的だった。火星が小惑星帯にあったなどと馬鹿な話で、生成過程が説明付かないだろう。(しかし、もし、そうだったら、どれだけよかったか。)


2000年12月4日 Layered Material in West Arabia Terra Crater 層状地形。3Dプリント 立体。骨のガラクタ。卵型と棒状の立体図形。右下画像は、ムンクの叫びの画像と連続している。宇宙服を着た猿を異星人が抱く図が共通する。
2003年 4月 Layers in 8°N, 7°W Crater 層状地形と風紋、薄膜層の林立。
2003年 5月 Eroded Sedimentary Rock 層状と風紋、殻をもつ虫たちの巣。
2004年 6月 Faulted Sedimentary Rocksムンクの叫びの悪夢。絵画はこの狂気に及ばない。
2005年12月 West Candor Rocks 右下の岩肌と砂模様の奇。
2006年 6月 Stairways to ? 層状地形。
2006年 8月 Many-Layered Rock 多層岩。
2006年 9月 Something Old, Something New 黒い砂も層状地形の1層。菌糸のような風紋。暗色砂は等高線地形と菌類を覆う。
2006年10月 Layered Mound within Becquerel Craterベケレル隕石孔中の層状地。

2001年 1月 MGS MOCは所期使命を終え、拡張使命を開始, 2002年 8月 "Inca City" is Part of a Circular Feature
2003年 5月 Old Arabian Crater
2006年12月6日Why the New Gully Deposits Are Not Dry Dust Slope Streaks 液体水の証拠。最初、NASAは液体の水ではなく乾いた砂の坂の筋だと考えたのだろう。
2000年6月水成岩に記録された初期の火星の歴史。
スイスチーズ南極の白い平面に凹みレリーフ。中にピカソのキュビズムの正面横顔。 2000年3月北極と南極残冠との比較にあった。
火星の異常な穴 壁紙を突っ切った弾丸が奥の壁に留められたように、周りに何も残さない穴。
火星の穴 雪中のクレータが地面の上層を破り、下の空洞を見せ、反射光は液体の水か。
火星の明暗法 砂漠の風紋が指紋のように続く。広大な砂漠に何を探すのかも分からない。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

4.7 調査報告書

火星に対するテラフォーミングという本来的な攻撃の決定は、実に20人の調査員だけによってなされていた。シビレエイは、まだ危険性が不明だが、 移動速度は遅いことが分かっていた。クリーム知性は危険だがまだ、放置できた。その対応が、純粋に知性的であり、対処できる。 原風景は、誰も決して許すことができなかった。彼らは決して我々を攻撃しないだろう。 しかし、彼らの行為(誘惑と嘲笑)は、我々の意思と尊厳に対する間断なき破壊であり、これを放置して火星に住むことは決してできないだろう。 彼ら20人の選抜された調査員=審議官の5年間の結論は、全員一致でテラフォーミング実行であった。この報告と審議の議事録は報告書に詳細に記述されたが、 100年間の極秘にされた。この越権行為自身も全員一致で決定していた。それは、その思いの強さを示すものだろう。 これを目の当たりにした我々が防がなくて誰にさせようという自己犠牲であった。それは幼子が誘拐され殺されることを目の前にする恐怖であったろう。

発表された生物調査報告書の題名は、"生物が発生しなかった惑星" だった。つまり、生物及びその痕跡はなかったとされた。調査隊は報告を歪め、違法に判断を独占し、 その後の判断を狂わせた。この秘密主義による権力奪取は、人類の思考の限界と非合理な突破を示していた。テラフォーミングは、火星を温めると公表されたが、 まさか生物が存在し、それら全生物の痕跡をそれが無くすとは想像もされなかった。テラフォーミングは、予定通り、その翌年から開始された。

彼らの地球への帰還計画はなかったが、酸素と水と食料は調査期間5年間の生存を保証する十分な量が与えられていた。 電気は1人あたり原子力電池の2kWと太陽光発電100kWとは保守すれば100年間稼働でき、これを使って生存に必要な酸素、水、食料を生産できる。 酸素は光合成以外に鉱物を熱しても手にはいる。水は天候を利用して入手し蒸留できる。食料は植物の栽培である。うまくいけば、永続的な生活も可能と思えた。 問題は、彼らがそれを望むかどうかである。帰還計画はなかったが、任務の完了後、調査員にもちろん義務はなく、火星上のサバイバルが許されていた。 調査員が望んだテラフォーミングで彼らの住居は水や二酸化炭素が十分な極地に限られる。 赤道地域はたとえ地下でもテラフォーミングの高温とその後の数十年間の放射能の影響を避けることは難しい。彼ら20人は1人も生き延びないと思われた。

帰還を望めば帰還計画が立てられたかもしれないが、当初の契約を覆さず帰還に言及せず、調査報告を最後に連絡が途絶え、彼らの消息は謎に包まれた。 火星が生存を可能にしたかテラフォーミング=集団自決かは、100年後の情報公開でも不明であった。彼ら家族の生存が判明したのは移民が始まってからである。 大量の核爆発が使われた赤道の場所のちょうど反対側の山岳地帯の穴の中に、彼らとその子孫は、地球の支援なしに健康的な生活を100年間孤立して送った。 言語や文化の退化は見られず、放射能の影響もほとんどなかったことが驚きだった。その後、彼らは誇り高き神々といわれた。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

5. テラフォーミング(気候改造)

火星のテラフォーミングは単に温めるだけではない。数10億年前にはあった大量の水がどこに残るのか。減っているだろう水は、極地だけでなくどこの土地の下にもあるが、 海の再生、回復は難しいだろう。しかしまず、温暖化させる。火星は、寒冷化によって砂漠化した。水と二酸化炭素は極地に雪とドライアイスを降らせている。 寒冷化は大気をなくし、温室効果を失って寒冷化を加速させた。温暖にすれば水と二酸化炭素は、かなり回復し、元の状態に近づくだろう。

もちろん、地球上の局所的気候修正さえできないのにと思う。北アメリカ、ユーラシア、アフリカ、オーストラリア大陸には広大な砂漠(*)がある。砂漠の灌漑は、 今の地球が温暖化なのか寒冷化なのか判明しないから着手しないのではない。過去に氷河期という時代が数回繰り返され、地球のかなりの面積が氷に閉ざされた白い地球は、 太陽光の反射率(アルベド)が高く寒冷化に正帰還した状態であり、そういう氷河期の地球は、温暖化だけが解決する。地球は氷河期から自然に回復し温暖化したが、 現在の地球の砂漠の原因は、寒冷化でも温暖化でもない。降雨を利用した灌漑をしなかったために起きた降雨不足という悪循環である。 砂漠の灌漑は人類的価値が明白であるがどの方法も成功しない。砂漠化は、森林を開拓し畑と草原にした農耕と牧畜の自然管理の放棄の結果である。 植民者の現地人への生活破壊、植民者の野蛮から退廃への移行、形だけの自然保護が "見捨てられた土地"、砂漠を作る。現在どこに砂漠が存在するか見ればよい。 西欧人の植民地化は砂漠を生んできた。それに対し、熱帯ジャングルの森林は、水分蒸散による寒冷化と温暖緩衝材の働き、そして炭素蓄積の意味をもつ。森林伐採は、 放置されて砂漠化を生む。

火星の場合、すでに全ての海を失い、砂漠化しているだけでなく、平均気温が -43度という寒冷に閉ざされ、大気もほとんど失っている。寒冷化がある程度以上に進み、 自力で回復しない。だから、まず温暖化が必要である。そして、水がないと海は回復しないだろう。地球上の砂漠の解決ができないのに、 遠い火星の気候を改造できるはずがない。そういって火星の気候改造に反対し棄権する国々もあったが、この改造が有望な理由は、 火星が地球に比べてかなり小さいことである。大きさ1/2、面積1/4 である。火星改造は容易かもしれない。 そして、最も重要なことに、火星は地球から孤立分離し人が住まない。住民がいたら気候改造は、住民の生活補償がいる。 過去に人も生物も住まなかった土地には、少々思い切った改造ができる。人間なく動植物なく、遺跡がなく化石がなく、生命発生の痕跡がない、過去のない火星には、 核兵器の使用もできる。そう考え、国際機関は、火星の気候改造を決定した。

(*)【衝撃】サハラ砂漠の真実に世界が震えた!


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

改造は、十分な効果をもたらさない可能性もあった。逆にまた、効きすぎて温暖化問題となるかもしれなかった。熱を大量に与えるだけで、H2OとCO2が大気中に放出される。 熱には核エネルギーが一番である。それは原子力発電所を1000箇所つくるという面倒な方法ではなく、火星表面で毎月1000個の水素爆弾を爆発させる。これを数年間続ける。 水素爆弾は、水素化リチウムを起爆に核分裂を使う "汚い爆弾" だが、その起爆弾を小型化して分裂生成物を減らす。気候改造のためには、 火星の表面10m下までの大半が一時的に200度を経験する必要があった。これで地殻の100m下まで数10度の変化を起こす。この熱ショックが土壌中のH2OとCO2を放出させ、 大気中のCO2を0.3気圧まで増加させる。火星は気温を50度上昇し水は液体の海になる。火星表面の海の面積比は0.4を超えず、水は不足する。 その後、CO2からO2に変化させるのは、温度安定後に移す海の藻と陸地の緑化(種蒔)による光合成である。酸素濃度を0.2気圧に上昇させれば、CO2は0.01気圧まで下がる。

数10億年前のように今度はうまくやらないといけない。過去のは気候改造ではなく戦争だったかもしれない。しかし今、それを知ることはない。生物痕跡がないのだから。 それがもし気候改造だったとしたら、大失敗だっただろう。なぜなら過去に、火星は海をもった十分に人類生存可能な惑星だったのである。人類進化の時間は合わないが、 大気と水の条件が整えば、そこに人類が生存していたかも知れない。過去の改造によって地球に意図的に一致させたと疑うことは、(1) 自転軸の傾斜角 25.19度が地球の 23.5度と類似して存在し、軌道が楕円(離心率0.0934)による違いがあるが、これによる四季が存在すること、(2) 一年は地球の686.98日であるが、1日は24時間40分である。

昔、どうしてそれほど温暖だったのか。太陽活動が今より活発だったのか。太陽の活動が現在、中期で一定するという証拠はない。単にそう考えていただけである。 過去が温暖だとそれが否定される。ここ数10億年の太陽活動がほぼ一定だとすると、数10億年前の火星の温暖と矛盾する。星の進化過程で星の放射の減少は考えられない。 星は主系列にいる間、H燃焼を行い光度は増加傾向でほぼ一定、He燃焼が始まって主系列から離脱し巨星になるのは星の一生では一瞬であり、光度は増加である。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

それなら、宇宙膨張が惑星系の距離を拡大してきたのではないか。昔、火星がもっと太陽に近かったなら話は簡単である。空間計量が変化してきたという宇宙膨張を認めるなら、 力で結合した物体や、重力で結合した惑星系は膨張しないとする、よくある膨張論の見解は、相対論からは誤りで、少なくとも"力"は、"重力以外の"を付けるべきだろう。 重力で結合した惑星系が膨張しないなら、銀河や最大サイズの銀河間の空間でさえも膨張しないだろう。数10億年前、火星が今の地球の位置にあって太陽の放射を受け、 温暖な環境をもっていた。過去に太陽からの距離が1/2のとき太陽からの放射密度は4倍になり、それが温度の4乗則の放射によって、√2倍の温度になる。 これだけで火星の過去は温暖になり、火星の過去の温暖が惑星系膨張の証拠となる。ちなみに、地球の月の上昇も衛星系の膨張にできる。 実測された年間3.8cmの上昇で月の距離38万kmは100億年にあたる(*)。

そのとき、さらに考えるべきは、太陽も火星も小さかったことである。宇宙膨張が空間計量の(実際は逆に主張されるが)縮小なら、物差しの膨張である。惑星系だけでなく、 物体も空間計量の変化を受ける。重力以外の力で結合した物体が膨張しないとする理由はなく、一般相対論の重力は質点に力でなく加速度を与える。加速度は質量や強度に関係せず、 力の方が質量と結合強度に比例する。量子論や電磁気を相対論に優先する人は、天体間の空間だけが膨張するとし物体の膨張を受け入れないが、 相対論からは物理現象は全て計量の下に現れる。量子論や電磁気が物体のサイズを決めてよいが、その物差しや時計は相対論による。何もない空間だけの膨張は誤りで、 まして銀河間の空間だけが膨張するという理由はない。

物体が膨張するとき、太陽と惑星間の間隔が膨張し昔の惑星の温度が上昇するのは同じだが、昔、惑星が小さかったなら、惑星の受ける熱の総量は変化せず、今と同じである。 もしこれを認めず、惑星が今と同じサイズなら惑星は太陽からの熱量の大きな比率を受ける。地球自体が膨張し、原子が膨張するなら、固体/液体によらず物体は空間とともに膨張する。 もしも、物体が膨張しないなら、宇宙膨張は天体が密集した過去までしか遡れない、ハドロンの密集以前に膨張は不可能という膨張論者の疑問は、膨張が計量=物差しの変化という、 相対論の基本原則を忘れている。電子の位置と運動量の積の不確定性からくる原子サイズも計量に依存する。つまり、昔はハドロンサイズも小さかったと考えるべきである。

(*) 火星大の惑星の地球への衝突、ジャイアントインパクト説による月形成の、月の上昇の精度は疑わしい。毎月38万kmの10%も変化する距離に対して毎年3.8cmをいう "嘘の38"(苦し紛れの嘘を付く時、人は3,8を多用する)である。これは研究者によって2倍も幅のあったハッブル定数の逆数の137億年+-1億年という宇宙年齢も同様だが、 それに桁数が一致する。それ以前に宇宙膨張には符号の間違い(空間計量の増大は物差しの縮小)があるが、月上昇には宇宙膨張を認めたい。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

そして、全て順調にテラフォーミングは完了し、水爆の放射能は50年の年月がそれを減らし、人間は火星に住むようになった。 その後、ロータベータによる地球脱出と惑星航行の普及がある。10分ごとに射出される 16km/s を利用した大移動が行われた。 この宇宙への脱出衝動は、当時、地球上にあった人口問題が原因と考えられる。 火星の側にもロータベータが設置された。1回に100人を運び、1年で500万人、20年で1億人、50台のロータベータが稼働率50%で使われ、25億人が移動した。

火星調査隊の"生物痕跡なし"の報告から100年後、テラフォーミングが過去の遺物焼却による火星の空白化が目的だったことが明らかになり、驚きとパニックを起こした。 しかし彼らには、すでにこれを弾劾し追求する勢力はなく、彼らは、反省せず実行を中止しなかった、それは人類の無法である。他類を前にした裁判で申し開きできるか、 彼らは考えなかった。そんなことは、「閻魔大王の前でどう申し開きをするかを心配するような、些細なこと」であった。全てに人類の発展が優先された。

都市建設の地盤調査に際して、火星の厚い砂の下に圧縮された都市の影が見えた(*)。調査した平地の下にはほとんど都市があった。 計画と中止は繰り返され火星進出に多少のブレーキをかけたが、過去の歴史を壊す発掘調査は行わずその上に建築するという方針が採用され、 これが何度目か知れない火星の都市建設が行われた。その下の都市とほとんど違わない機能の街が全く無関係に再建設され続けたモヘンジョダロ(**)の重層都市のように。 重力は地球の0.4倍である。地震も少ないため、構造の華奢な建築ができ、地球上よりも重力に縛られない楽な生活、生活の質(QOL)がつねに優先されたのである。

今回、過去を無視した彼らの火星への再上陸について、ふたつ問題がある。ひとつは、火星に大規模文明を築いた彼らがなぜ火星を捨てて地球に移住したかであり、 もうひとつは、なぜ今回、火星に戻るかである。これは、何度も繰り返す必然性がないし、必要性もない。その莫大な破壊は正当化できない。 今回の火星への移住には文明喪失はなかったが、前回、地球への移住の際、文明の多くを失い、火と言葉の使用しか残らなかったのは異常な事態であった。そのとき、 戦争が火星を焼き払い、幾人かが野生の自然の残る地球に逃れただろう、個体数の極端な減少は、文明を喪失する原因になる、そして、 地球に戻っても戦いは継続したかもしれない、それが一般的推測であった。しかし、それは戦争ではなかった。人類自身による文明放棄であった。 いくつかの世代で原始的生活への回帰、野蛮化(退廃)が時代の基本的な風潮となった。エネルギー機械は人の肉体労働を不要にする。その代り必要なのは知識労働である。 情報機械=人工知能は人の知識労働を不要にする。その代わりに必要なのは何か、を考えればよい。この問に耐えられない種族は、文明化の流れを逆転させる。それは結局、 征服が正義のフロンティア精神である彼らが火星生命との見えざる戦いに今回も敗れることである。

(*) 2014年頃の火星都市発見騒ぎ は、符号化のDCTパターンであることが明白であり、 平坦領域の画像符号化には、大きなサイズのDCTが用いられる。DCTは量子化され符号化されるが、符号化アーティファクトのDCTパターンを呈する。 微小な平坦からの違いは、ほとんどがそのような符号化アーティファクトであり、大きく強調するときに見えるものである。そのようなDCTの見慣れた規則的なパターンは、 強調した"符号化歪"の意味のアーティファクトであり、"人工の証拠"の意味ではない。画像が直上から撮られるとき、符号化ブロックが東西南北に一致した計画都市にみえる。 City on Mars

(**) Mysteries of Mohenjo-Daro


一般的に人類の過去の軽視(健忘症)が過失を重大にした。彼らは常にその惑星で進化したと思ってきたが、実際はその100倍も前から知的種族だったことを自覚しなかった。 100回目の侵入を初回と思う健忘症は、遺伝子混合する太陽系内部に汚染を引き起こす。ゆえに今回もこの種族を助けない、そう銀河法廷は結論し、不介入隔離政策を続行した。

遺伝子は各人の意識を記録する。これを知らぬ種族は、外部記録である文化と生体記憶しか利用しない。意識に関連した行為の記憶は神経回路網で行われ、 入出力関連を多層の細胞によって写像する回路網は、この入力パターンにはこの出力パターンを出せという学習によって回路網の重みを変化させる。 入出力を一致させた次元圧縮伸長によって再現は最適化され、多次元情報は効率的に表現される。多次元情報が圧縮され、状況を再現する時系列になるとき、それは記憶である。 それは長期記憶のためにつねに遺伝子に記録される。何の必要か、何10年前の記憶が不意に呼び起こされるとき、遺伝子符号は復号され神経回路網の意識上に再生される。 遺伝子には先人記憶も記録されているが、符号化が各人に微妙に異なるため、復号されることは少ない。稀に本当に必要なとき、先人の記憶は復号されるが、 本人と連絡のない別人格が生起し、不連続を知らない本人意識には無意識行動となる。これでは種族経験が生かされない。これを生物学的、種族の健忘症という。

外部記憶である文化における過去の喪失は数世代で行われる。数世代の間、書物を焼き、歴史的な事実を忘れ、教育が過去の事柄を忘れれば、 種族はそれを無くしたと同じで残されたものは考古学的な遺物だけになる。これを文明の健忘症という。それが現在まで国家的規模だけでなく地球的規模で行われ、 過去が消された。その損失を理解しない種族はその損失を受けるだろう。

テラフォーミングから数100年後を頂点にして火星への移住が終息した理由は、単に地球軌道に、もうひとつの地球を発見したからである。移住は方向転換された。 地球に帰還する人々の流れは、火星に残りたい人々をも全回収し、またも火星を無人の惑星に戻した。数万年後には火星は全ての痕跡を失い、 何度目か不明のテラフォーミングをすることになる。このような火星からの撤退は、人類に不可解なトラウマを残した。 神話は戦争のイメージを火星に付け、「我々は一度、あの火星に住んでいたのだよ」と、子供に教えることもできない親たちを生み出した。 思い出してごらん。火と道具と言語を得て無知と未開から抜け出し、我々はこれからが全てという、短い人類の歴史の教育を受けたことを。 そういう教育がなぜ必要だったかを推測すれば理解できる。数100万年前に知能を得て、歴史時代はたった数1000年前というその間、何度、宇宙旅行がなされ、 火星探検が行われたか。その証拠は、火星の層状地形に埋まっていた。

火星の層状地形の膨大なリビアングラスを説明する他の仮説として、人類の脱退がある。推定70回のテラフォーミングは、繰り返し仮説でなくとも、 分岐仮説なら起きえる。火星に移住した人類は、地球に帰ったのではなく、何か別の方向に進んだのでないか。どこかに旅立ったのでないか。 その証拠に火星生物の遺伝子と人類の遺伝子は共通の祖先から分岐している。火星の生物に地球由来が見られる一方、地球人と地球生物の遺伝子には 火星由来が認められない。彼らは初期の火星調査隊の掟と同じく、地球に戻らなかった。地球には文明から取り残され移民政策に従わなかった未開種族 だけが毎回、文明を得ては、月と火星を経て消失していた。だから、世界の歴史には火星の記録がなく人類のDNA記憶にも火星の記憶がない。 文化は別世界への移動をつねに推奨する。土着は風化であり堕落である。先住民族とは交流せずにつねに移住するのがアブラハムと神の契約である。 同じ地球から10万年毎に発生し、神とは未開への引き継ぎである。この仮説では火星から地球への帰還時の原始生活への野蛮化の過程を置かずにすむ。 この野蛮化の過程は信じられない。少数のグループでは起こりえるが、国家や民族さらに人類全体においてこの過程はありえない。

では、神は移住を契約条件とするのではなく、未開人に文明を残すことはできなかったのか?伝える言葉の真髄だけを残りの未開人は受け取った。 未開人に文明を与えるには数100年で十分だが、未開人が自ら文明を起こすには数万年が必要である。これは、ありえない放置であるが、神は全責任を 取らない。反対者は常にいる。神は我々を見捨て給うか?その通り、異星人程にも現有人種と異なる神々が自ら文明を開発なさいと捨てた現有人種である。 "契約" という言葉どうり、医者は自分を信頼する患者だけを治療する。現有人種を虐殺さえしかねないノア、バベル、ソドムとゴモラ等は、 神の完全無欠を示さない。では分岐説は、循環説が毛嫌いされる欠点をもたないから正しいのか。循環説は、後退時期が疑われるが、 螺旋運動はある角度(座標系)からみると往復であり、別の角度からみると円環運動である。ある角度からみて後退は他の角度からは違う時期が後退になる。 単なる分岐ならなぜそれが繰り返されるのか。そして規則的過ぎないか。規則性は循環説に味方する。分岐には周期という要素がないが、循環は周期をもつ。


軌道の変更:

テラフォーミングの目的は、火星の温暖化である。その効果を永続的にするには火星を太陽に近づける。軌道を縮小すると、運動エネルギーと 重力ポテンシャルとの和(1/2 v^2 - GM/R)は一定であり、軌道縮小前後のポテンシャル差だけ運動エネルギーが増加し元の速度以上になる。 円軌道は重力ポテンシャルの半分の運動エネルギーをもつ(v^2= GM/R)。ポテンシャル差の半分の運動エネルギーになるよう速度削減して円軌道を保つ。

火星軌道は楕円だが話を単純にするため円とする。火星がその軌道上にあるのは軌道速度があるからである。そのため、火星の公転速度を削減する。 減速に最も効果のあるのは速度の逆方向の加速である。 例えば、火星の赤道上で軌道速度が真上に向かう朝に、大量の水爆の地表爆発か小惑星を衝突させ、軌道速度を減らせば火星は太陽の近くに落ち、 その点を遠日点にする楕円になる。そして、近日点で再度、速度を削減して円軌道にする、大きな変更の場合は、これを繰り返す。 連続的な速度削減でも円軌道を保ちながら軌道半径を小さくできる。 しかしこれは、火星を太陽の重力井戸に落とし、本来は力と速度変化が逆方向でエネルギーを得る操作が、エネルギーを消費するという矛盾をもつ。 減速は、軌道上に小惑星帯があれば自然に起きる。

火星への落下エネルギー(脱出速度5.03km/s)とTNT火薬(6.9km/s)は近く、小惑星落下は同質量のTNT火薬のエネルギーに近い。1kmの小惑星立体は1km^3= 10^9 ton (= 1ギガton)になる。火星質量(6.4x10^23kg)の地球軌道への移動は、火星速度(24.13km/s)から地球速度(30km/s)の運動エネルギー差のエネルギーを速度に換算して、 √(30x30-24x24) =18km/sであり、TNT火薬の9倍 x 火星の質量(6.4x10^20t)= 6x10^21t(TNT火薬)。数ギガton級の水爆の10^12個である。

地球と火星の軌道半径は2:3の比率の尽数(共鳴)関係をもつ。軌道が互いの重力で長期に安定するには太陽地球系のラグランジュ点の正三角形解L4,L5に置く。 地球の衛星軌道は、火星質量が地球の約1/9で、地球と月の軌道の擾乱要素になるので避ける。L4,L5に置けば、火星は日出前か日没後、太陽との角度60度に見られ、 配置の人工性が月の自公転の一致、日月の視線角度の一致(*)のように、人類が記憶を失ったときに過去に気づくためにする。火星と金星は共に居住可能にするため、 L4,L5に両方を置く。

(*) 月の直径が太陽の1/400で、距離も1/400で、皆既日蝕も金環日蝕も起きるという視直径一致は、潮汐力の一致でないか。両者の視直径が等しいとき (同密度なら)潮汐力が等しい。潮汐力は質量に比例し距離の3乗に反比例する。M/R^3, M= ρ r^3, r/R=視直径。月生成のジャイアント・インパクト説は、 潮汐力によって月が上昇してきたという。月の上昇は、潮汐力が太陽のそれと同程度まで減少しその擾乱によって月上昇が止まる。 現在の3.8cm/yearという上昇速度はほぼ停止とみる。但し、太陽の密度1.411は、月の密度3.344の約半分0.422倍であり、 太陽と月の潮汐力比0.45倍は密度比に近い。視直径の顕著な一致の原因を潮汐力の一致というのは、多少、無理がある。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

6. 反地球

地球の公転軌道は対称だった。L3に天体があるとは想像しなかった。それが小惑星、衛星レベルでもなく、地球サイズであること。反地球の質量は地球とほぼ等しく、 地球とほぼ同じ重力とほぼ同じ自転周期をもち、地球とほぼ同じような月を持っていた。反地球には明らかな人類的な価値があった。日光も水も大気もちょうどの程度あった。 素晴らしいもうひとつの世界を用意していた。それは、誰かがそこに設置できるほどの容易さではない。太陽系の形成の初期からあったと推定されるのに、 今まで発見されなかったのは不思議である。

太陽地球系には同期回転点がある。地球の公転に同期して回転する回転系のポテンシャル平坦点である。そこは回転系のなかの無重力点である。 それに数学者で天文学者の名を付けた、ラグランジュ点L1は、地球から太陽側150万kmにあり、L2は太陽の反対側に同程度の距離にある。 L3は太陽の向こう側の軌道上近くでこれら3点は直線解、L4, L5は、正3角形解であり、地球の公転の前方60度にあるのがL4、後方60度にあるのがL5である。 L4, L5は、安定点でないが実際にゴミが集まり太陽木星系ではトロヤ点といって小惑星が漂っている。L3の反地球は、つねに太陽の向こう側にあって見えなかったのである(*)。

そんな馬鹿な、L3も安定点ではない。人類は月に行っている。月からは太陽の向こうのL3が見えるのではないか、と思うかもしれないが、 太陽の半径は大きく月までの距離の2倍である。38万km先の月からは半径70万kmの太陽に遮られ反地球は見えず、太陽の直径140万km以上地球から離れてやっと見える。 ちょうどそれだけ離れたL1,L2からは直線上だから見えない。

木星の無人探査機から撮影された
Europa and Jupiter from Voyager 1 ,
North North Temperate Zone Little Red Spot,
Close-up of The Great Red Spot,
Orbiting Jupiter,
Perijove Passage,
Beneath Jupiter,
Approaching Jupiter,
Ganymede: The Largest Moon,
Ganymede's Shadowや、


土星の無人探査機カッシーニから撮影されたSaturn in Blue and Gold,
Cassini Approaches Saturn,
Density Waves in Saturn's Rings from Cassini,
Noodle Mosaic of Saturn ,
Atlas, Daphnis, and Pan,
Northern Summer on Titan,
Views from Cassini at Saturn,
Saturn near Opposition,
Cassini Looks Out from Saturn,
Between the Rings,
Life-Enabling Plumes above Enceladus,
Saturn in Infrared from Cassin,
In the Shadow of Saturn,
In the Shadow of Saturn,
Earth from Saturn,
Earth and Moon(ガリレオ探査機)

反地球は、地球や太陽方向を振り返る画像の太陽を中心にした地球の対蹠点の "地球幻像" の再調査を通じて発見され、太陽系の重力の詳細を検討して、事実が調査された。 火星が異常に小さく、小惑星帯に惑星形成がされない説明にもなった。

反地球には呼吸できる大気があった。窒素80%酸素20%である。豊かな自然、海も山も森も、水も地下資源も十分にあった。多くの予測が外れ、 有害でない多くの植物が地球と同様に繁茂していた。動物も生息していて食用が可能であった。これこそ人類の望む、次の惑星であった。 反地球にはその他全てが揃って人類だけがいなかった。そこに "空席" が用意されている、その意味は、まさに "楽園" であった。 我々は一体、何をしてきたのか。不毛な火星を気候改造までして植民しなくても、遠方の恒星系を探さなくても、"もうひとつの地球" は、同一軌道上に、知られることなくあった。 (彼ら植民者にとって、原住民と戦わずして得る理想郷というものは、信じられただろうか。あり得たのだろうか。)


火星と同様に、生物調査隊が現地に赴いた。持参動物の飼料としての大量の検査を行ったが、細胞内で核内のDNA,RNAが働いてタンパク質を作る働きは同一で、 全タンパク質が地球と立体異性でなく地球動物の栄養となった。この場合2惑星で進化が独立に行われ、ここまで一致することもあり得るが、 これは、途中まで一体に進化してある段階での分岐が妥当で、生物のどの段階まで一致して遺伝分岐がどこで起きたかは重要である。 生物学者ダーウィンの喜ぶ場所であるガラパゴス諸島のように、生物進化が枝分かれしただろう多くの生物の種があって、生物は微妙に異なる形態をとる。 しかし、哺乳動物は、目、手足は各2つで、指は5本である。そのようなことは、脊椎動物の出てきた頃には、まだ決定していない。 そこにチンパンジーはいないがゴリラやオラウータンがいる。マンモスはいない。インド象はいてアフリカ象はいない。虎はいて豹はいない。 ここはインドなのか、その他の大きな変種はない。それより驚くことは、化石に古生代や、中生代は存在せず、新生代しかないことである。 酸素のためには先カンブリア紀の多細胞生物の増殖が不可欠であり、種子植物の前には裸子植物の段階がある。 脊椎動物の魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の進化にはそれぞれの時代には意味があって、古生代の三葉虫や、中生代の恐竜やアンモナイトなしに新生代は存在しえない。 それらの化石には長期の研究が必要で、まだそれらは発見されていないだけかもしれない。その可能性はまだ少しは残っているという程度だったが。

一体、ここは何なのか。人工の惑星か、地球からの生物導入か。それは、理解を超える事実を見せられたときに行う反応である怖れであった。そんなことはあり得ない。 何かの間違いだと、中生代や古生代の化石の存在を信じ現実を受容しない。いや反地球は、地球からの移民惑星で、それまで生物も発生していない惑星であったものを、 誰かが惑星改造したのだろう。そこに地球にあった適当な植物と動物を持ってきても普通、定着しない。気候改造は、全進化段階を辿る必要はないが、まずCO2を作り、 植物を作り、O2を豊富にして動物を住まわせるという順序がある。それらが人工的に理想的に行われて、地球と一見区別できない反地球にするのには長い期間が必要で、 その間、管理しただろう彼ら、この環境を提供した彼らは、今いない。どこに行ったのか。そういう仮説も成立できた。 そうでなく、生物進化の多様性と考える学者が大半であったが、多様性という言葉は、理由付けを拒むだけである。


こうして、地球には乏しくなった大自然をここに残し、人類にもうひとつの環境を用意したのは誰なのか。 地球とここは、完全に独立にあったのかもしれない。反地球の進化の速さが地球より、ほんの少し勝っただけかもしれない。 ここの人類は文明による破壊を我々よりも先に経験しただけなのかもしれない。

ここにいた誰かは、中生代以前の化石を消したのだろうか。わざわざ進化を隠滅し、その証拠を消失する理由が分からない。 自然は生物進化を大きく破壊することがある。隕石衝突は生物進化を変える。地球には 2億5000年前のPT境界と、6500万年前のKT境界があった。大きな3つの時代区分の古生代、 中生代、新生代の2境目には激しい自然変化による大絶滅があり、KT境界にはイリジウムという隕石由来の物質がその他の層と比べて何10倍も多い層がある。 しかし、隕石が生物界を大絶滅させても、それ以前の地層の化石を消すことはない。それらは岩石のなかに閉じ込められて、大災害の影響を受けないのである。 だがここでは、過去を徹底的に消している。月を形成するようなジャイアント・インパクトがあれば、地層の全てを新しく溶かし、それまでの生物進化を全て破壊するだろうが、 火星のように大気を失い寒冷に見舞われ、生物界の過去の数10億年を無駄にするだろう。反地球が地球より少し進化が先行しているのを見れば、これはあり得ない。 地球の月形成のジャイアント・インパクト説が地球形成直後なのは生物進化が反証しないためである。古生代と中生代がないことが、 反地球のKT境界の隕石が少々大きくて地層を全破壊したことを意味したとしても、新生代から始まるような生物進化はありえない。 KT境界での全破壊と地球からの移植なのか。そして、全地質年代に人類の化石はなかった。人類が不在だったか、人類の火葬の習慣と解釈されたが、疑わしかった。

欧州、中東の人々は、世界の創造主を信じる宗教を長期に信じてきたが、反地球はその観念を強化する。見渡す限りの大自然に囲まれていても我々はそれに人為を想像する。 この世界の自然の楽園を用意した"彼ら"は、創造主でないかもしれないが、きっと我々より優れ、親、保護者、コンサルタントであるという観念は、 自然法則と自然のサイクルを無視するのである。科学は、次のことを教える。植物なしに酸素はない。生物なしに惑星の大気はない。 世界の創造よりも大気と化石の証拠を信用すべきである。つまり、地球には創造主はいない。ところが、ここには進化の証拠である化石がない。これをどう理解するか? 創造と思わせる自然をもつ反地球を、人々は昔のユダヤの言葉で "シオンの丘" と呼んだ。 選択された種族に約束された土地という意味である。それはユダヤ教の選民思想の匂いが漂っていて、選ばれた民は、それが全人類を指すかどうかも疑問であった。

(*) 地球月系にもラグランジュ点はあり、小惑星が漂えば、L1は月の真中に見えるはずで、L2は月の向こう側、L3は空の月の反対の位置である。L4,L5は月の +60度、-60度。太陽と他の惑星の重力が擾乱するから、それらに小惑星が集まっている可能性は少ないが、地球は複数の月をもつ方があり得るという計算もあった。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

7. 移住と災害

この時代、古代ローマの詩人ユヴェナリウスの"健全な精神と健全な体"という言葉が"健全な精神は健全な肉体に宿る"とされた。肉体の必須と精神の放棄である。 精神のためにといいながら肉体を鍛え、心のために肉体を欲し財を蓄える。豊かな自然は、住む人の人格をも向上させる。豊かで優秀な人々がここを目指すことが 何か特別によい目標のように思われた。しかし、これはできすぎではないか。 誰がこれを用意したのか。

神は人類の福祉を願わない。彼らは人類の目的に違背離反する異星人のようだ。神はアブラハムに移住を課し、ノアの箱舟の大洪水を起こし、バベルの街と塔をみて、 "人々は同じ言語を使う"として言語の乱れを与え、死海周辺のソドムとゴモラ等のLGBTを憎み、5都市を、天からの白い硫黄と火で焼き払った。それらに理由はあっても、 我々の文化とは異質な理由である。つまり、神の行為は、異民族統治の失敗のようである。このことをユダヤは熟知していた。ユダヤの神はそのような神で、契約者をも 救うことを約束しない。その代わりユダヤは自らを他の民に対して神の立場をとることを許し、タルムードは、他の民を騙し陥れ殺害さえ許されると教えた。当然、 これをユダヤは隠し、そのため全世界がユダヤを憎んだ。ユダヤは民族ではなくユダヤ教の信徒である。信徒が自らを選ばれた民と思うのは誤りであり、宗教はその逆を 教えるべきなのである。

F.ルーズベルトの言、「アメリカ人は、ドイツ人を憎むことを学ばなくてはならないが、日本人に対しては憎しみが自然と湧く。かつてインディアンと戦ったときと同じだ。 普通の日本人は知性が低く無知である。そも、人間だろうか。それを示すような点はどこにもない。」日本人の頭蓋骨は「われわれのより約2000年、発達が遅れている」 「人種間の差異を重視し、人種交配によって文明が進歩する」「インド系やユーラシア系とアジア人種、欧州人とアジア人種を交配させるべきだ。だが日本人は除外する」。

民主党の彼は、1933年から4期大統領であり日米を開戦に導いた。第3期には戦争しない公約をもって共和党のハミルトン・フィッシュと争い勝った。真珠湾攻撃後に開戦を 主張し、共和党も承諾をしたが、後にフィッシュは、日本に対する無理な要求、ハル・ノートの存在を議会や外交委員の自分に知らされなかったと"日米開戦の悲劇"に書く。 開戦の原因には米国からオーデル・ハル国務長官を通して日本にぶつけたハルノートという挑発があった。ヴェノナ文書(1980年,1995公開)は、1940-48の米国人とコミンテルン との暗号交信を37年かかって解読(1980)し、F.ルースベルト政権内に300人以上のスパイがいて、その中の財務次官補、ハリー・デックスター・ホワイトがハルノートを 書いたという。人種憎悪とコミンテルンの謀略が日米の戦争を招いたのである。

そこには何か罠があるかもしれない。反地球上の食物が本当に無害かどうか。それの摂取は、今判らなくても、危険の可能性をもつだろう。我々は全ての栄養学、 食物学、疫学を究めたわけではない。少しのDNAの違いがどのような疾病の原因になるかは未知の領域である、そういう見解も根強く残っていた。 しかし、そのような杞憂より、住みやすい環境の方が人々に訴求した。少しの人柱、数10人の調査隊から始まり、数千人の移民が続き、現実に豊かな地の黄金の日々が、 移住しなかった地球の人々にも知られ、最終的に数千万人が移住した。なぜ、その程度で止まったのかって? それはある小さな事件があったからである。

それは、繁栄の数10年後のある1ヶ月であった。まるでタイマーが仕掛けられたようだった。最初、人々は疫病の感染のように、少しの人が不治の病に侵され、 最終的に全員が原因不明の衰弱と不慮の事故で亡くなっていった。原因は予想されたように食物か空気か水なのかも分からない何かがウイルスに汚染されていた。 それは、細胞の寿命を決める遺伝子端の尾を切るテロメアウイルスとかアラーム系列といわれ、何かの遺伝子自身を操作するDNA系列が生物に組み込まれていた。 細胞は通常、自らの死をプログラムして無限増殖をしない。分裂回数が例えば200回に制限されていれば、200回の分裂をもって自動的に死を迎える。細胞の遺伝子の尾は、 分裂毎に長さを減らし、動物はそれによって発生過程のなかで組織の形態を制御している。問題のウイルスは、この尾を短く刈った。 テロメアは、ヒトが成人してもまだ働き、細胞分裂回数が意味する年月が20年なら、この世界への来訪者や新生児は20年で死を迎える。これは地球の1/6で短か過ぎる。 テロメアによる細胞死を防ぐ酵素薬テロメナーゼがあって、テロメアは伸ばすことさえできる、人類はここに適応すべきという意見もあったが、 異常な短かさに着目する意見が優越した。これの意味は難しかったが、最終的な結論は、なんと、これが人工的な兵器であるということであった。


神は、人類を抹殺するために移住させたのか。これは、善意の提供を装った悪意の罠だったのか。神は、我々に試練を与える、安楽な生活を求める望みは、つねに叶わない。 狭き門より入れ、富者が天国にいくのは、駱駝が針の穴をくぐるよりも難しい。それらの諺や箴言は、幾ばくか誤りであった。多くの研究の労力がそれに対して払われたが、 我々は基本的に賢くなかった、神々のテストに不合格だった、そういう、悲観的な意識が生まれた。とにかく、それは人類史的な災害だった。まだ、千万人単位であったから、 戦争や失政に比類する災厄の規模であった。それまで地球上にその程度の災害は疫病、戦争や政治によって何度か起きていた。災厄は克服できる可能性があったが、 移民の全員死亡は、それほど移民事業の継続を容易にしなかった。ペストや天然痘でさえ、死者は人口の2/3までであった。 そしてなぜ、反地球には人類だけが空席だったのか、その理由が徐々に明らかになっていった。要約すればこうである。

ピラミッドのような巨大な石の遺跡以外、文明の痕跡は数万年で失われ、移住しても過去の文明には気が付かなかったのである。過去の文明は、シリコン表面の記憶と DNA記録された歴史文書で分かった。考古学によって次のことが明らかになるまでは時間がかかった。数100万年前の過去に反地球には人類がいた。西側と東側社会があった。 2大勢力はそれぞれ同盟国を作り経済レベルを競争し、軍事的には核兵器によって互いに牽制していた。核兵器による偶発戦争が頻繁に起きる数百年間、それ以外の技術も 兵器となって文明は保持された。機械文明は衰退し、精神の文明となっていった。それは経済衰退をごまかす言葉でしかなかった。次の次の世界大戦は石と棍棒で行われる、 そういうアインシュタインによる予言は、ゆっくりと現出した。残された過去の技術を保持できない人口減少と文明喪失の過程である。現代文明は近代に遡り、 長い中世を経て古代にまで達していった。そのなかで突発的にDNA工学が高度化した時代があった。その技術は生物の最後の砦である遺伝子を道具にした。 DNA兵器は互いに相手だけを攻撃するよう作られたが、この2大勢力の戦争は人類を絶滅した。人類は核戦争でなくDNA戦争によって互いに絶滅したのである。


一方、DNA工学は我々に反地球における人類絶滅の記録を残した。DNAは、蛋白質のアミノ酸配列をその3単位で記述する細胞及び生物の全機能の設計図である。 DNAは、2重螺旋による細胞分裂時の設計図のコピー機能と誤り修復機能、設計図に対応するアミノ酸系列をもつタンパク質や糖鎖を実現する機能をもつ、 巨大な1次元分子である。アデニン、グアニン、シトシン、チミン(AGCT)の4種から任意に選ぶ情報量2bit単位の並びの配列。そのDNAに歴史は記録され、解読された。 精神的強化や浄化の言葉、小説や論説に隠された現実が推測され、日付を付けた繰り返し記録によって、文明衰退と歴史の明確化に伴う曖昧化も明らかであった。 歴史は後ほど不明瞭な新説が加わり、不透明で不可能な科学に害され、さらに暗号が解読を難しくした。音声や画像記録さえあったが、情報源符号化もなく、 誤り訂正や誤り検出やパリティも付けない長大な平文テキストが最終的に最重要であった。平文は暗号解読の模型、ヒントであり解答であるからである。 DNA記録は、風化する他の無機物記録、石や金属Si表面の回路記憶よりも、情報密度だけでなく、実際に長期に記録を保存したアーカイブ(記録保管庫)であった。 それは生物の自己保存と種族保存本能によって守られた。本人にとってだけでなく、誰にとっても生命の貴重さの真の理由であった。 こうして我々は、反地球の全歴史、全学問の公用教科書を入手した。人類以外の、戦争技術以外の。

その分野に遅れていた我々は、どのようにDNA攻撃に対策をしても、その次の攻撃が既に用意されているだろう、それがどの生物のどこに隠され埋め込まれているか、 我々が知ることはないだろう。隠された兵器を知ることは大きな犠牲を伴うからである。我々にとって、DNA地雷は不可解な魔法で罠だった。効果の遅延発現は、 対抗実験を絶望的にした。遺伝子工学は大規模戦争に使用されたことによって、もはや人を救う医学の素源ではなかった。 DNA地雷の敷設は反地球の人類的価値を0にした。人類に用意された "空席" の意味は、"絶滅" だった。

そのことを知って人々は打ちのめされ、嵐が通り過ぎるのを待ち、この話を記憶から消したかった。人々は残酷な事実を知るよりは、それを避けて忘却の水を飲む方を選ぶ。 反地球は災害発生時のまま放置され、DNA災害の対策よりも、移住を避けることに人々の意識は移った。多くの政治の動きのあと、最終的に人類は反地球への移住を放棄した。 このとき人類は人々を戻す、撤退さえもしなかった。この話を記憶から消したかっただけではなく、消したのである。 それによって人類の忘却癖、または歴史捏造癖は、強化された。どこの国の歴史書からも、重要な災厄としての記載が消えるのに100年は必要でなかった。

(先住民族の文化遺産は、どれほどの価値があるか分からないほどのものである。彼らはそれを全解読したのに大方針に活かさなかった。 何も知識のないほうが身軽に思考できる、それは確かだが、子供のような身勝手さ、無作法さ、破壊性を捨てなかった。 だから彼らは 100回目の侵入を初回と勘違いする。これは、火星の話ではない。)


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

8. 逆行化計画

反地球の逆行化計画が始動した。それはちゃぶ台返しだった。反地球を惑星の軌道面から立ち上げ、ひっくり返す。 ある天体を反地球に衝突させて、公転を太陽系の公転面から移動させる。反地球は、徐々に公転軌道面から外れて、軌道面は垂直になり最後にはまた公転軌道面に戻る。 そのとき反地球は他の惑星とは逆行する。そして、それを止めることにもその天体を衝撃に使う。これは、理解困難な方法である。正しく見えるかもしれないが、 ニュートン力学の慣性系の物理と回転系の物理の違いを勘違いし無視することはよくある。慣性系で起きる現象は、全て他の慣性系でも起きるが、回転系で起きることは、 慣性系では決して起きない。惑星が公転軌道をそのまま保持しながら、その円形の軌道をひっくり返すということは不可能である。 公転軌道を見る系が回転すればそれはそうみえるだろう。ところが、それは慣性系では決して起こせないのである。これは説明さえ難しい。 さすがに、そのような物理学者の計画に予算を与え実行を許すことなどありえない。そんなことは起こり得ない。正常な種族なら。

衝突は、反地球の環境を壊し、全生命を抹殺する行為である。目的は、もちろん、宇宙航行の道具とするためである。 30km/s の地球の公転軌道速度を逆に進む反地球があれば、 60 km/s の相対速度をもつ天体になる。一回のスイングバイで60km/sを加速する高速な航行を可能にする。 この計画は、いかに反地球に対する失望と嫌悪が深かったかを示すものと見ることができる。楽園を失なった人々はこのようなことをする。 これが初等的に間違った考え方に基づいた計画であると訴える組織、機関、国家が反対しても、国際機関は可決し、決行した。ことは、人類的愚行となったのである。


国連技術委員会における議事録:

Q: 反地球の南極に衝撃を与え北上速度を与えると、反地球は新たな公転軌道で太陽周囲を回るのだろうか? 地球は、太陽との関係を失って放出されるだけであり、 公転軌道を保持しながら軌道面を北方向に回転させることにはならないのではないか。

A: 衝撃が一気に運動量を与えるのではなく、公転軌道のなかで運動量を徐々に与えれば違うのである。軌道に垂直な速度を与え、軌道の方向を変えるだけで、軌道の速さを 変えないなら、公転軌道の半径を変えずに軌道を反転できる。

Q: 速度変化を垂直に与えれば速度の絶対値は変わるのではないか。

A: だから、速度の絶対値を変えない方向から衝撃を与える。そうして、公転軌道を持ち上げる。衝撃を小さくして公転軌道を徐々に持ち上げれば、軌道の反転は可能である。 反地球に公転速度の2倍を逆向きに与えれば、逆行は一気にでき、そのとき軌道運動の運動エネルギーの4倍必要だが、垂直に同じ速度を与えて、45度の方向に変更すると、 一度に必要なエネルギーは前より少ない1倍であり、それを4回行えば逆行に軌道を変更できる。

Q: それでは、同じエネルギーが必要である。

A: そうだが、それならこの過程を教える。(1) 反地球の速度をなくし (2) 反地球は太陽の近辺に向けて落ち (3) 太陽の近くで方向を微調整する速度を与え (4) 元と同軌道に戻り、 逆方向に運動する公転軌道を確保する。(1)は公転の運動エネルギーだけの消費があるが、太陽の側での速度変更は少量のエネルギーなので、 運動エネルギーの2倍程度のエネルギーで済む。これは前のエネルギーの半分である。

Q: それは公転軌道の反転ではない。これは公開されなかったが、それはなぜか。

A: さらに少ないエネルギーでの反転の過程の可能性があると思うからである。そもそも、元のエネルギーと同じエネルギーの軌道への変更だから、運動量は要るが、 エネルギー不要の軌道変更なのである。

Q: そういうものは容易にない。それを見出してからいって欲しい。

A: だから公開するのは、すでに可能な方法を一般に分かりやすい形でいったまでである。

Q: 一般人が受け入れない説だからこの事態になる。それが可能でないからさらにそうなる。問題なのは速度をなくし、太陽に落ちて方向を変え、 加速する過程は2倍の速度を2つに分けるだけで、太陽落下(2)と(3)は意味を持たない。太陽落下には意味が必要である。危険なだけであるから。 速度変化を2分割すれば半分のエネルギーになるのは、無限に分割すればエネルギーが0になるのか? それは反動スラスタの連続噴射であり、新しい方法ではなく、その示唆もしない。

A: 以上は、全て正しいことだけ述べた。反動スラスタと比較するのは、これを非難する理由にならない。(3)で方向まで調整できることに気がついて欲しい。 

この手の論戦は、正しい者が勝つのではない。相手を説得する技術によるだけである。こうした議論は、何10回となく行われ大半は実行側が優勢になった。 もはや神学論争は止め、真偽判別のためにも実証されるべき、それによる犠牲はないという結論になったときにも、彼らは真面目に心配もしなかったのである。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

9. 反太陽

反地球の逆行軌道投入開始と同時期、"絶対等級"(星を10光年先に置く光度)が太陽と同じ3等星で、実際の等級が-4等になった星が発見された。 星が動かずスペクトルが青い方向に偏移している。太陽と同程度の恒星が太陽への衝突コースで接近している。近傍の恒星の光度上昇とその接近速度が重大問題になるなど、 馬鹿げている。そんなことは、歴史上一度もなかった。そう、歴史上にはなかったが、昔、太陽系の惑星が恒星のニアミスによってできたとする説があった。 太陽系の惑星が太陽から湧き出るほどの稀な大事件はそうそう起きない。銀河系はスカスカの真空状態で1万回の銀河衝突においても恒星衝突は1回あるかどうかという確率である。 そんな低確率事象で太陽系の起源を説明することはできない。ところがこれで太陽系が終わるのは確実である。 現実に起きた事件は、天文学の単なる稀な現象として文献に記述するだけでは済まなかった。

その恒星はまだ十分遠方ながら(絶対等級との7等級差は約650倍、距離は10光年の1/25の0.4光年)青方偏移からの速度は光速の1/700で太陽との相対速度は、420km/sである。 銀河系中心からみて、ちょうど太陽と反対に運動する銀河系の逆行恒星である。約280年後に太陽系に到達する。何と、その意図はまたも人類抹殺である。 反地球の逆行化に対する他類の処置だろう。しかし、太陽に向けて恒星を銃弾にするような文明に我々が敵うはずもない、我々は終わりだ。これを我々自身が用意した 可能性はない。少なくとも我々でない、他種族である。これが初めて我々が、他の知的生命体を確認した事象である。異星人=神は存在したのである。 これによって我々には火星へのテラフォーミング移住と地球への移民の繰り返し、反地球への繰り返しさえ許されない。輪転の地獄はなくなったが、 太陽系の永遠の消去が待っているだけである。

もし、それが太陽と一体化し、2個の太陽が1個になると、内部熱が2倍で、表面積が2の2/3乗なら放射の出口の細った太陽は、高温化し放射を増やすだろう。 表面温度は放射の2の残りの1/3乗を増やすように温度の4乗則を使って、ほんの少し(2の1/12乗= 半音)上がる。 しかし以降、太陽系の惑星はすべて2倍の放射を浴び、地球も火星も生物の生存できない惑星に変わるだろう。 いや、質量が2倍になると、太陽内部の核融合反応の速度を変え、内部熱は2倍では済まないのである。

だが、正確なコースが計測されるとその恒星は正面衝突して太陽と一体化するのではなく、太陽半径の2倍、150万kmのすれすれを速度420km/sで通過することが分かった。 1AU(=15000万km)を4日間の灼熱で太陽系を温め、そのまま外に抜ける。我々は胸をなで降ろし、神に感謝するだけでなく、この恒星の利用方法を見出した。 人類の1/4は、太陽系の人類はもはや危険と、恒星接近を使って他の恒星系に移動し、残り3/4は太陽系に残留する。両者ともに生き残る計画が注意深く組まれ実行された。 ある天体を太陽と恒星の間に多重スイングバイで恒星間空間に飛ばし、恒星の相対速度を下げ、さらに反地球を太陽面に向かって落とし、恒星と正面衝突させることで 恒星の速度を下げ、最終的に太陽と恒星を二重星にする。地球質量の30万倍である恒星の地球公転速度の14倍の速度は、地球の公転運動(=太陽系脱出)エネルギーの6千万倍 の巨大なエネルギーの操作である。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

10. 配偶

太陽と恒星は、ともに重心を共有する長い楕円軌道に変わる。それは無料で変わる訳ではなく、大きなエネルギーを引き出してやっと変わることができる。2500年、 それが完成し、太陽と衝突星は、二重星になるだろう。近日点は、ぎりぎり太陽面の2倍程度、遠日点は木星軌道半径の2倍にした。 もっと遠方の海王星軌道の2倍に調整すると周期が長すぎて使いにくい。木星の周期は12年程度である。海王星では165年である。 なぜ、惑星軌道の周期に合わせるか? 楕円軌道の周期は、長径で決まるのである。

太陽の二重星化によって火星はさらに温暖化し、居住可能領域の中央に近づいた。地球も温暖になったが、面積速度一定(=角運動量保存)の法則のために、 1000:1(遠日点10AU、近日点1/100AU)の楕円軌道の細長さで、その恒星が1AU以内にいる期間は12年に1回の4日で影響は一時的で小さい。 また、恒星の来たケフェウス座方向は、太陽系の銀河回転運動の方向であり、太陽系の軌道面との傾斜が60度以上あって、恒星が太陽系の惑星のどれかに近づく危険はない。

どう利用するのかって? 長楕円軌道の二重星は、宇宙航行の道具である。惑星の重力カタパルトよりも恒星のカタパルトは速度10倍、エネルギーは100倍である。 これで人類の宇宙航行の技術が完成したのだろうか? いや、それはまだだろう。数100km/sを超える速度では多重スイングバイは太陽と恒星の脱出速度制限にすぐにぶつかる。 しかも、その速度では隣の恒星まで 1000年かかる。ところがこれが完成するころ、もうひとつ恒星の来訪が発見された。もはや、誰が、なぜ打ち込んでいるのか、推測もできない。 問題が次から次にやって来て終わらない。さらに別の問題があった。いや、これは問題でないかも知れない。恒星は惑星系を抱えていて、 その中には地球型の居住可能惑星も複数あったのである。打ち込む加速に惑星系は耐えたのだろうか? いや、最初からその軌道に生成されたのだろうか?

新入り惑星の軌道が心配だ。そして、地球や火星はどうなるのか。恒星の重力によって地球軌道が大きく変わるのではないか。実はこれは、別の問題ではなく同じ問題である。 地球を始めとする太陽系の惑星は、相手の恒星にとって新入り惑星である。相手の惑星系よりも自分を心配したほうがよい。 放射は、12年に1回、4.13日しか太陽地球間にないから心配ない。偶然に相手も同様で、相手惑星系の軌道面は、衝突線と大きな角度をもっていた。


恒星の重力は太陽と同じ程度あって無視できないから、惑星は、それぞれの太陽を中心にする軌道を維持できるとは思えない。 但し、その衛星の公転軌道やリングを伴って自転軸を横倒しした天王星がある。天王星の横倒しが衝突的な大事件の結果なら、衛星やリングを伴ったままそれが起きるとは思えない。 自転の横倒しが事件でなく、長期の外的影響の結果なら納得しやすい。衛星トリトンの軌道が海王星の自転と逆行している例もある。海王星と冥王星との軌道の交差は、 両者の過去の衝突を感じさせ、トリトンの逆行はその事件の結果であるか、トリトンがその後に海王星に遭遇したのかもしれない。

惑星は、両者の重心を中心にした公転に平穏に切り替わるとは思えない。 なぜなら、恒星が飛び込んでくる途中、惑星の運動は恒星の半分の速度で飛び込んでくる太陽-恒星の重心を中心としてそれが理解できるかを考えればよい。 惑星の速度はその重心からの脱出速度を明らかに超えているから、重心系でみて惑星は遠方に弾き飛ばされるだろう。惑星は二重星の形成によって放出されるだろう。 ニュートン力学で重要なことは2星の重力は、その重心からの重力に置き換えできないことである。 球対称の質量分布のときにだけその重心に全質量があるという条件に置き換えられる。この恒星の運動を知るには相手の太陽しか考慮する必要はないが、 太陽と恒星が運動するとき3つ目の質点、惑星の運動は、解析的に解けない。そして、解析的には解けなくても数値計算では解けるから心配ないという訳ではない。 2重星の惑星系は不安定な概周期的、カオス的な混乱した運動をする。そのため、惑星の環境は安定に続かず、生命は生まれない、長い間に多くの惑星は弾き飛ばされ、 放浪惑星になるだろう。

しかし、人類はすでに文明を持っているから、生命は新たに生まれる必要はなく、このような変動にも対処できるのである。

このとき、ニュートン力学ではなく、一般相対論の物理ではどうなるだろうか。近傍の重い天体の加速度の方向に、質点が加速度を受けるという物理なら、 各惑星系の静穏は、成立するのではないだろうか。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

11. 銀河中心へ

逆行する衝突星との二重星化は成功だったのか。国際機関がいうように、それは単独星がいつかは辿る必然的な過程だったのか。考えられる多くの要素のなかの確かなことは、 両者の重心が銀河系中心との相対速度210km/sを失い落下を始めたことである。いて座にある銀河系中心との距離は3万光年もあり100万年単位で危険はないが、 そのまま銀河系の周回を続けるよりは遥かに短い期間で銀河系中心に達することは確かである。これは、銀河系の外れの田舎から銀河中心の密集した星の都会への上京であり、 我々に次の1億年はなく恐らくは3500万年である(*)。しかし、その時間的スケールは、その間に対処すればよいとまだ楽観できるものである。 人類が地獄に落ちることと解釈する必要はない。 いや、そうだろうか。危険が増したのは確かであり、先のことは分からない。銀河系の渦巻きは、放出か収縮か何れでもないか、なぜ発生するのかさえ我々は知らない。 我々は、銀河中心に待ち受ける運命と幸運を、誰に祈るのだろう。

(*)銀河中心への時間:
(1)銀河系を均一質量分布とする近似はかなり不当だが、地球にあけた直線的穴を抜けるには周回の半周期(42分)で到達を利用して、 太陽系は銀河系を2〜3億年で一周するから、1〜1.5億年程度で銀河を抜け、5000万年〜7500万年で銀河中心に到達する。
(2)振り子の小さい振れが円形のときと扇型のときと同じ周期と仮定すると、周回周期の1/4で中心に達し、(1)と同じく 5000万年〜7500万年。 (1)(2)はともに力が距離に比例するバネ F= kx。(kは定数)の単振動である。
(3)ケプラーの第3法則 T^2= L^3 を使い楕円軌道の長径Lが半径である超長軌道は、長径が円軌道の半分。Tは1/2の3/2乗= 0.3535533...= 約1/3である。T/2は約1/6。 3536万年〜5304万年である。
(4)銀河ダークマターによって質量M(r)が中心からの距離rに比例し、重力が中心からの距離に反比例する場合、(3)より長くなるだろう。

平面運動では、(1)(2)はパラボラ鍋運動で、(3)は距離の2乗に反比例のニュートン重力はポテンシャル(-1/r)の漏斗。(0)距離に関係しない一定の傾きの漏斗での運動がある。 (4)は、対数漏斗(ln(r))の上の運動。

直線運動では、(1)(2)は単振動で時間の3角関数。(3)は時間のサイクロイド関数。(0)は、放物線運動。(4)は次でよいか?
初期r= 1とし、r<= 1のとき r"= 1/r, r'= ln(r), dr/dt= ln(r) は、変数分離して、dr/ln(r)= dt "積分対数"の積分公式で、
t= C + lnln(r) + ln(r) + ln(r)^2/(2 2!) + ln(r)^3/(3 3!) + ... rからtへの関数が出るが、その逆関数が欲しい。


あとがき

2章の真空装備と宇宙服について補足

筆者の水中経験は貧弱で、小学生までは夏は市内を流れる鏡川で泳いだが、今泳げる川は、ほとんどない。夕日のなか、長い川沿いの土手の上に立ち並ぶ家の石垣の下、 礫岩のように砂利の露出したセメントの道をどこまでも歩くイメージが私にある。枡形を越えて1丁目、2丁目、私の家は3丁目。本丁筋と川の間の小川のある通りには 夏にホタルを見た。祭りのとき、どこまでも続く帯屋町のアーケードの飾り、影絵の映る回り灯籠が幼児には美しくて幾度となく夢にみた。そのようなものしか、 動画のように、心を引き付けるものはなかった。中学校のプールは水泳クラブが管理し、それ以外の人は掃除をしないから自由に泳げなかった。 それはプールがないのと同じである。中学校ではバスケットをやって体力に自信があった。肺活量が7Lを超えて円筒回転型の肺活量計が回転しきって水中から気泡を吹いた。 高校で一瞬ラグビークラブに入ったが、左胸を下にして不整脈がでて運動を止めた。激しい勉強は目を近視にした。 夏の帰省途中に一度、四国山地の大歩危か小歩危で途中下車し、渓流で水浴びし潜った。 水中には重力がなく音が遮断され、角膜の凸型の外の水が近視を矯正し水中で遠方が見え、日差しと風にゆれる水面が青緑の景色を揺らす水面下の世界があった。 そのきらめき、ゆらめく自然の中では、水中3m位潜るのは誰も苦でない。しかしその後、塩素がきつい、メガネが使えない、髪に帽子がいる等、 ルールの厳しいプールに行かなくなった。たまに室内で横になった時、3分間の息止めをする。肺への気圧の負荷は体を活性化するように思う。 この宇宙服の話は、水圧の逆の負圧であり、真空中に人体は宇宙服なしに容易に0.1atm〜0.2atmの酸素呼吸器を付けて生存できるというのは推測であり、 それ以上の根拠を特別に私が実験的にもつわけではない。実施するには実験や呼吸の訓練を十分に行った上にしてほしい。