重力カタパルトなど

2002/9/17-2017/7/29 片山泰男(Yasuo Katayama)
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ニュートン力学で SF の道具の実現可能性を探る。乗物を加速するのに重力を使う方法は、機体も乗員も同時に加速されるので、 乗員は、何らの加速度も感じないという普通でない利点がある。例えば、1 秒間で光速の 3 % に加速するのは、10^6 Gである。 このような加速をしても中の人は全く潰れる心配がなく、そのことを感じることもできないのである。

1. スイングバイ
2. 多重スイングバイ
3. 重力カタパルト
4. 停止時に運動エネルギーを取り戻す
5. 我々は、何 G に耐えられるのか
6. スイングバイ加速について、続き
7. 二天体の配置
8. 再度、重力カタパルト
9. 二物体交差の重力カタパルト
10. 停止時に運動エネルギーを取り戻す?
11.鉄砲の力学
12. 重力カタパルト考察
13. 三物体以上では
14. 三物体以上の収束発散軌道
15. スイングバイの潮汐作用
16. 潮汐作用の削減
17. 重力機械
18. ロータベータの強度
19. ロータベータの運動
20. 二物体のひもによる束縛
21. ロータベータは、屈曲するのか
22. 望遠鏡を知らない天文学者に
23. 重力カタパルトを軌道にのせる
24. 我々は、何 G に耐えられるのか(続き)
25. 真空チューブ輸送
26. 等時間輸送
27. 小規模な真空チューブ輸送
28. 小規模トンネルの経路
29. 懸垂線は最短時間経路か
30. 変分原理
31. 仮想仕事の原理
32. ダランベールの原理
33. 最小作用の法則
34. ハミルトンの原理
35. 最急降下曲線
36. 等周問題
37. 重力カタパルト
38. 我々は、何 G に耐えられるのか(Rama II)
39. あとがき


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1.スイングバイ

ひとつの天体を使う重力加速に、スイングバイがある。加速したい乗物より十分大きい質量の天体(月、惑星、恒星など) がある速度で動いているとき、その近傍に乗物を近付け、重力相互作用をさせ、その速度をもらう。 これは、すでに十分検証された実用技術であり、太陽系の惑星をめぐる二回のボイジャー計画で、木星でスイングバイ加速して、 土星、天王星、海王星に向かうのに使われた。スイングバイは、物理の衝突問題に近い理解が可能である。

天体系でみると乗物の遠方での速さが不変であり、乗物の得る速度は、最大で天体速度の 2 倍である。乗物の初速度をほぼ 0 とし、 天体が正面から速度 v で近付くとき、天体からみて乗物は -v の速度をもって近付く。乗物は、天体の周囲をまわって、 方向を 180 度変更して速度 v で出て行くことができ、それは乗物に速度 2v を与えることになる。


これを太陽系内外への加速に利用するときに、重要なことは、 (1) 我々との相対速度の大きな天体を使う必要があることである。 地球や太陽の速度は、我々にとっては初速としてしか利用できない。 もうひとつ重要なことは、(2) 重い天体を使う必要があることである。 速度をもって方向転換するには、表面の重力ポテンシャルが十分に低い必要がある。

たとえば地球は、太陽を公転する速度は、30km/secもあるが、それは、太陽の重力の強さのためである。 地球の重力は弱く、地球でのスイングバイでは、乗物との相対速度は、脱出速度 11km/sec までしか扱えない。脱出速度以下なら、近傍から遠方までの軌道を使い分ければ、 楕円、放物線、双曲線軌道をすべてを扱えるが、 脱出速度以上では、双曲線による多少の方向変更しかできない。 つまり、天体の脱出速度は、スイングバイの制限速度になる。

この脱出速度や周回軌道速度は、天体の質量/半径 (M/R) の平方根に比例する。 脱出速度は、√(2GM/R) であり、周回軌道速度は、√(GM/R) である。 白色矮星や中性子星では、それらの制限速度は非常に大きく、ブラックホールでは光速の制限しかない。 しかし、中性子星やブラックホールでのスイングバイでは、それ以外に潮汐作用を考慮する必要がある。


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2. 多重スイングバイ

スイングバイ加速は、一回きりである必要はない。 スイングバイを繰り返す仕組みとして、細長い楕円軌道を点対称に共有する二天体を用意する。


二天体の速度が向かい合わせになっている期間に何度か、ぐるぐる毎回、 180度方向転換(反転)してそのたびに 2 v だけ加速する。 その間、乗物には多少の軌道を修正する能力が必要である。 天体が向かい合わせに来るのを最初、速度 0の乗物が一回の反転で2v、2回目4v、3回目6v...になる。 どこまで速度を加算できるかは、天体の重力によるスイングバイ限界速度だけによる。


しかし、それにはその前に、天体を加工して配置する、天体工学技術が確立する必要がある。 つまりこれは、技術成立の順序が逆なのかもしれない。次の重力カタパルトも同じ性質をもっている。


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3. 重力カタパルト

何度もスイングバイするのは、面倒かつ危険だから、一気に加速するカタパルトを考える。 二天体を離心率の大きい非常に細長い楕円軌道に乗せる。ふたつの楕円軌道は、楕円のひとつの焦点と長軸を共有する。 二天体は、共通の焦点に近いとき、高速で近接して重力ポテンシャルは低く、その反対位置にあるとき、低速で離れていて、 重力ポテンシャルが高い。


二天体の接近した頃に、加速したい乗物を進入させる。乗物は、焦点位置に達するまで加速され、そして二天体が離れる。 乗物の存在する空間は、重力ポテンシャルの低い状態から、高い状態に変化し、 進入した速度以上の速度で同じ方向に飛び出すだろうか。 時間に対称だからそれはできない、と考えるべきだろうか。


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微妙な遅延のタイミングで可能のような気がする。例えば、二天体を多数の物体に拡張して考える。 焦点を共有する多くの物体が接近してきて、集結する中心に外側から乗物を加速して進入したあと、 その多くの物体が外側を飛散する内側にいるなら、ポテンシャルの上昇による減速はない。 多くの物体よりも少し遅れて来た乗物は、焦点に近付く前半期間では、 常に多くの物体の外側であり重力による加速を受けるが、 焦点を過ぎた後では、常に物体の内側になり、もし地球が空洞ならその中が無重力であるように、 重力による減速を受けない。つまり、重力カタパルトは不可能ではないのである。


乗物は、楕円軌道を描く多くの物体をそのうち追い越し、外側になり、引力による減速をうける。 このとき焦点から十分離れていて、そこから無限遠までの減速が前半の加速に比べて小さければ、加速が利用でき実用上問題ない。 乗物は軌道調整用のロケット噴射しかもっている必要はなく、加速の主要部分は、重力カタパルトによるのである。 また、この仕組みは、収束時に内側、発散時に外側にいれば、乗物の減速にも使える。

最初、このアイデアは、焦点に達したとき焦点で爆破して多くの周辺物体を遠ざけるというものだった。それほどに私は、唐突だった。 親しい友人に打ち明けても、当然受けるべき尊敬と賛嘆をもっては迎えられなかった。


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4. 停止時に運動エネルギーを取り戻す

乗物を停止するのに、例えば十分大きな物体、例えば地球とか目的地の惑星を使って停止するときは、その運動エネルギーは、 取り戻せることは明らかであるが、真空中で停止する場合、もとの運動エネルギーは、少しでも取り出せるだろうか。これは、 運動量がコストである(例えばロケットを鉄砲を打って停止させるような)場合を考えると、肯定という結果になる。

速度 v をもったロケットは、2 発の鉄砲の発射で停止するとする。そのロケットを前後の部分に均等に分離した設計にする。 質量の半分は前に、半分は後ろの部分にする。その間は、ロープで結んでおく。 前半、後半それぞれ 1 発の鉄砲の発射で停止するのは明らかである。

さて、後半だけで、2 発の発射をするとどうなるだろう。前半は、速度 v をもったままである。後半は 1 発目で停止し、 2 発目で反対方向に加速し、速度 -v になる。二つの物体が、v と -v をもつとき、広がろうとする前後半間のロープにバネ を巻く仕掛けがあればエネルギーを蓄えることができる。その間のエネルギーは取り返せるのである。

これは、かなり不思議な感じを与える話らしく、人に話すとき、この驚異の理解を期待しない習慣になっている。エネルギー的な マジックはない。小量の高速物体、例えば、鉄砲の発射を使って運動量変化を得るのはエネルギー的には、最も損をしている。 しかし、現在のロケットの推進方法は、まさにそれである。真空中で停止するのには、運動量変化を必要とし、運動量変化だけがコストなら、 運動エネルギーは、回復できるのである。(続く)


(a)前後半それぞれ停止 (b)後半だけ2回衝撃で重心停止 (2019/1/27)


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5.我々は、何 G に耐えられるのか

豆腐のような脳と肉体をもつ、人間の生存を保つには最高何 G までの乗物を考えるべきだろうか。豆腐は、空気中ではちょっとした 振動で崩れる。しかし水中では、崩れない。人体も水中または海水中に入れることで耐えられる加速度は大きくなるのだろうか。 唐突に思えるこの疑問の理由は、次の通り。

人間が宇宙に出る方法は、現在は化学ロケットのシャトルに頼っている。しかし、将来もう少し経済的な方法を考えるなら、A.C.クラーク の静止軌道エレベータが望ましい。静止軌道に上がるのに重力による位置エネルギー分を支払うだけで済むからである。人ひとりを静止 軌道まで持ち上げるのは、家庭の数日分の電気程度でできる。それには、強度/密度の大きな物質を大量に作らなくてならない。1Gの中で 鉄は数km程度の長さが自重に耐えられない。クラークの"楽園の泉"では、ダイヤモンドのホイスカーという設定である。そして、3万6000kmの 構造物という規模が最大の問題である。

それより、(R.L.フォワードの)ロータベータの方が近い将来の実現性が高い。ロータベータは、重心が地上の近辺の軌道速度で移動する回転 する紐で、その先端は大気に接触する。軌道速度を回転の接線速度が打ち消す形で、サイクロイド曲線を描いて、紐は地上を転がる大車輪の スポークのように運動する。大気には先端が垂直に降り、抵抗となる横方向の速度はない。地上に接触する危険を避けるため、乗換え点には 高度を与え航空機などを使う。これは、最上部の16km/sの速度で宇宙に出るための手段であり、また地上の最遠地点への移動時間42分という、 究極の地上移動手段でもある。


ロータベータ

ロータベータは、地球の周回速度 v= 7.91km/s を回転の接線速度が打ち消す必要がある。そして、これが大きいのが問題である。 速度一定のとき遠心力は、v^2/R だから、半径に反比例する。遠心力を 1 G にするのは、9.8m/s^2= 6.4*10^7m^2/s^2/Rから、R= 6400 km、 これは丁度、地球の半径であり、人工衛星の重力と遠心力の釣合に対応する。ロータベータの長さを1/3にすれば3G程度の遠心力になる。 1/5にすれば5G。人が耐えられる限界に近いが、それでもまだ規模が大き過ぎるのである("ロータベータ"に追加説明)。 大きなロータベータは地球円に外接して転がる車輪のスポークの端の軌跡である外サイクロイド(epicycloid)とみる必要があるだろう。

100 G の貨物用は、R= 64 km でよいので、現在でも製作可能かもしれない。10G では R= 640km であり、これは人間用には無理だろうか。 ジェット戦闘機の乗員ぐらいしか、10G を超えるものを想定しない。それも1分も続けば恐らく失神するだろう。しかし人間を適当な比重の 塩水に漬けたばあい、10G程度の限界をもう少し超えるのではないだろうか。それは、ロータベータの規模を小さくして実現可能にする、 数少ない方法かもしれないからである。


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6. スイングバイ加速について、続き

向かい合わせの速度が必要なら、順行惑星のすぐ側に逆行惑星を置くのがよいという意見を、 旧い友人からもらった。そのほうがありそうだし、打ち出しの方向にも自由度がある。 逆行惑星カタパルトは、実在するだろう。宇宙考古学という新たな学問領域を生み出したかもしれない、 数十年後のハッブル宇宙望遠鏡 III が、数千光年ていどの近傍の星系にそういう近接逆行惑星の完成を 見付けたら、恐れをなしたほうがよい。それは象牙の塔のなかで静かに行われる考古学の問題ではなく、 もっとも差し迫った軍事問題になるからである。


ミサイルの出発を知っても数千光年の先のことが差し迫った危険になるはずがない、そうだろうか? 光速に近い物体が光を追いかけて来ているのである。いや、やはりそれはない。 このような人工物を作り、数千光年さきにまで脅威を示した文明は、自ら寿命を縮めたに違いない。 しかも、近接する逆行惑星は、その惑星系の軌道を崩す原因になる。 これは、やはり考古学的対象である。 我々は、くずれた逆行する惑星の跡がある星系を見付けるだけだろう。 それは、文明崩壊の跡をしめす貴重な証拠である石くれ、瓦礫であるはずである。 冥王星は、海王星と近接し、逆行し軌道が崩れている。(逆行はしてないか。)


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7. 二天体の配置

多重スイングバイではそれほどでもないが、重力カタパルトでは、乗物に共有の焦点を通過させるため、 中心天体があると、それに突入してしまう。そのため、中心天体なしに二物体に超楕円軌道を描かせる。 中心天体なしに、二つの物体に焦点と長軸を共有する楕円軌道は、不可能ではないか、という疑問に答える。 それは、可能であるだけでなく、それ以外の軌道はできないのである。

等質量の二物体を任意に運動させるとき、重心系からみると刻々の二物体の位置、速度、加速度は、 すべて、加算すれば、0 になり、運動は完全に点対称である。 相手からの重力は、相手からの距離の半分の位置、焦点に相手の質量の1/4の質量が存在するときと、 全く同じである。中心に質量があるときの運動は速度が脱出速度内では楕円軌道になる。 そのため、それぞれは等しい形の楕円軌道を描き、焦点を共有し、常に点対称に存在するから 長軸を共有する。それぞれは、相手の質量の 1/4 の中心質量があるような軌道を描くのである。

この論法は、等質量でない二物体に容易に拡張できる。M と m の質量をもつ二物体 M と m は、 その重心から m:M の距離にあり、重心の運動量が常に 0 として、速度は、-m:M の比を常に保つ。 物体 M は重心に m(m/(M+m))^2、物体 m は重心に M(M/(M+m))^2 の質量があるときと同じ運動をする。 それゆえ、重力で束縛された質量の違う二物体も、長軸を共有する相似形の楕円運動をする。



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8. 再度、重力カタパルト

再度、重力カタパルトを考える。以下に説明するように、その獲得速度の最大は、 二天体の最高相対速度(それは天体の周回軌道速度になる)の 2 倍になる。

天体の最接近時の速度を高くするよう超長楕円軌道にするにも、 最接近時に天体が崩壊したり物質が漏れ出さないよう、天体の直径程度は、二天体を離す必要がある。 地球を 2 個使い、表面ぎりぎりの 13000 kmまで近付く軌道を与える場合、 二天体の最高相対速度は、地球半径の 2 倍の位置からの脱出速度である。 それは、地球の周回軌道速度 8km/sec に等しい。

二天体のすき間では、単一天体表面の重力ポテンシャルの 2 倍低く、 そこに遠方から進入する乗物の得る速度は、地球の脱出速度の√2倍、16 km/sec である。 これは、二天体の最高相対速度の 2 倍である。

つまり、重力カタパルトの場合も、質量/半径比 M/R の大きい天体が重要になる。 しかし、これは巨大物体との質量比を利用して、一気に恐ろしい速度になる仕組みではないので、 冒頭に書いた望みの機能は、達成していない。


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9. 二物体交差の重力カタパルト

二物体での重力カタパルトの最も単純な定式化を試みる。本来、変動するポテンシャルφは、 楕円運動する二物体との距離から求めるものだが、ここでは、二物体の直線上の交差に単純化する。

物体 A,B は、それぞれ速度 1,-1 で、x 軸上で交差する。乗物の進入方向を y として、 交差時空点を原点として (x, y, t) で考える。x = 0 の点 P(0, y, t)のポテンシャルφ(0,y,t)は、 A は x= t, B は、x= -tから、AP,BP の距離 R= √(t^2 + y^2)。物体A,B の質量を M とすると、 φ= -2GM/R である。φは、y, t に対称な、2 次元ポテンシャルの式である。 y 方向の 1 次元運動をする乗物の軌道は、x=0 の(y,t) 上の曲線である。 乗物はφの下り方向の加速度を受ける。-grad φは、+-y方向だけであり、その y 成分は、-dφ/dy である。 つまり運動方程式は、d^2y/dt^2= -dφ/dy = -2GMy/R^3 である。


試しに数値的に解いた例を、(C 言語ソース cat.c)に示す。 遅延を 1 として、t= 1, y=0 にある速度 1.50 で交差点に入ったところがスタートで、 それから時間の経過に従って、y から加速度、速度、次の位置 y を計算する。 数値積分には台形公式を使った。結果を(cat.cの結果)に示す。 遅延にあたる t の初期値を正 (= 1) にすると遅延時点から後の減速を示し、 これを負(= -1) にとると、大きな減速を示しほとんど停止するが、 これは遅延時点 1 までの前半の加速を時間に遡って示している。

つまり,前半(y<0)では、0〜1.5 まで加速し、後半(y>0)は、1.5〜1.27まで減速する。 遅延のため、前半の交差時点近辺での大きな加速を、後半の減速が打ち消せないのである。 重力カタパルト加速の可能であることを確認した。


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10.停止時に運動エネルギーを取り戻す?

2 回に分けて打つと2 回の鉄砲の玉の速度が違う速度になるから有利になっている、というわけではない。 鉄砲は、2 発で力積 mv を与える。後半分で 2 発の鉄砲を同時に発射しても、後半は同じく 2v 減速する。

これは、まず、元の運動エネルギーを回復している話でない。 その証拠に、停止状態から速度 v に加速する場合、同じことをすると、 運動エネルギーが同じく"回復"できてしまう。質点を前後に等分割し、前半を 2 回加速する。 後半は静止、前半は速度2vを得、重心は速度 v になる。 重心からみて、前後半が -v と v をもつため、エネルギーが回復できることは、 減速停止する時にこの仕組みを使うのと同じである。 それゆえ、回復しているのは、元の運動エネルギーではない。

さらに、前半と後半に分離しているが、2v 加速(又は減速)をする半分をさらに分割する。 全体 m を 4 分割して、その 1/4 の方だけを 4v 加速(減速)すると、3/4 は、もとの速度であり、 1/4 は、それと相対速度 4v になる。重心系では、3/4 は速度 -v、1/4は速度 3vである。 運動エネルギーは、3/4*m*v^2/2+1/4*m*(3v)^2/2= 1/4*m*(3+9)v^2/2= 3*m*v^2/2 であり、 元の運動エネルギーの 3 倍である。

同様に 8 分割では、7 倍、16 分割では、15 倍になる。この増加には、限界がない。 重心を v 加速(減速)するのに、質量 m を n 分割して、1/n だけを nv 加速(減速)すると、 重心系での運動エネルギーが、(n-1)*m*v^2/2 になる。 101 分割すると 100 倍の運動エネルギーが得られる(*)。

物体を分離して加速する仕組みで回復するのは、加減速の操作時の運動エネルギーであろう。 勘定に入っていなかった、鉄砲発射のエネルギーの一部のエネルギーが回復できるのであろう。

(*) 批判的にこの思考を今、省て驚くのは、この分割比率は、一定の運動量を得るために使われた、無駄な運動エネルギーを表す。 2分割で必要エネルギーが必要量の2倍、101分割は101倍の運動エネルギーを使う。だから、100倍が回復可能である。(2017/6/19)


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11.鉄砲の力学

鉄砲の力学を考える。鉄砲の質量を M、玉の質量を m とすれば、打つ前の静止系 = その後の重心系でみると、 MV+mv= 0, E= (MV^2+mv^2)/2、鉄砲と玉の運動量の交換から、-V と v とは、M と m に反比例する。 鉄砲の本来の目的、殺傷能力という点では、mv^2/2 が重要だろうが、運動量を得る道具とすると、 同じ運動量 -MV= mv を得るには、m と v とは、反比例である。鉄砲と玉の運動エネルギーの比は、 m:M で、小さい m の方が大半のエネルギーを得る。玉のエネルギー mv^2/2 だけを考えると、 m が小さく、v が大きい程、大きなエネルギーが必要である。

相対速度を v とおき直すと、発射後の M, m の重心は、速度 mv/(M+m) を得る。 発射のエネルギー E1 は、発射後の重心からみた各物体の運動エネルギーの和で、 質量 M の速度 mv/(M+m) の運動エネルギーと、質量 m の 速度 Mv/(M+m)の運動エネルギーの和で、 E1 = 1/2 Mmv^2/(M+m)になる。 これは、質量を前後半に分離して加減速するとき、回復できる運動エネルギーの式にもなる。

回復できるエネルギーと、発射で消費したエネルギーとの比を知るために、 本体が M1 で、鉄砲を M2 、玉が m の三物体を考えるとき、鉄砲の発射時に、m と M2 の重心からみた m と M2 が得る速度は、質量に反比例し、v2= v3 m/M。m と M2 の相対速度は、v2+v3。 発射に要するエネルギー、E1= 1/2 M2 m (v2+v3)^2 /(M2+m) である。

このとき、静止した本体M1と鉄砲M2との相対速度は、v2である。回復できるエネルギー E は、 E= 1/2 M1M2/(M1+M2) v2^2 である。これの E1 に対する比は、質量の比だけの式になる E/E1 = M1M2/(M1+M2) * (M2+m)/(M2m) * (m/(m+M2))^2 = M1 m / ((M1+M2)(m+M2)) これは、M1/(M1+M2) と m/(m+M2) との積、全体における本体比率と鉄砲における玉比率との積である。 つまり、M2 は小さいほど、M1 と m は大きいほどよい。本体と玉を同じ程度にして、M2を小さくすると、 エネルギーが殆ど回復できるが、本体の半分を捨てるため、現実的ではない。 玉 m が推進方法から決まるなら、本体から分離する M2 を M1 に比較して小さくする以外ない。


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12. 重力カタパルト考察

二物体交差では、実際は二物体が衝突してしまう。 交差が少しずれていて、衝突せずに両者がすれ違うとしても、 その間の重力相互作用を考慮していないため、実在のものではない。 だから重力カタパルトは、あり得ないという反論が予想される。 しかし、その反論は的を得ているだろうか。 この事の本質はなにか、いま一度、多数の物体の集束と発散の話に戻って、考える。

前半の期間は、多数の物体の外側にいて、それらの重心からの重力の加速を受け、 後半の期間は、それらの内側にいて、それらの重力を受けないということはない。 ニュートン重力は、個々の物体からの距離だけで決まる。外側であれ内側であれ重力は受ける。 しかし、乗物の質量に働く重力は、内側にはない。 それは、球殻の内側では場所によってポテンシャルの差がなく、 ポテンシャルの空間的な傾きが重力だからである。

この重力カタパルトの本質は、後半期間に多数の物体が発散しているとき、重力のポテンシャルが、 内側では空間的には平坦のままに、時間的に上昇していることである。 前半、重力井戸に落ちることで加速し、 後半、重力ポテンシャルの空間的平坦と時間的上昇を利用して、 減速無しにポテンシャルを回復するのである。これは、一種のトリック、手品である。

中米のパナマ運河では、大西洋と太平洋の間に海面の高い湖があって、 一度船を徐々に持ち上げ、そして降ろすという。 カタパルトの後半の期間は、水面の空間的な傾きなら減速をもたらすのに、 船の周囲の水面の水位を時間的に上昇させ、ポテンシャル上昇をしているのである。 もしかすると、この方法は、ニュートン力学の範囲内でできる重力カタパルトの基本形かもしれない。

乗物の得る運動エネルギーは、後半、乗物の重力のために多くの物体がよけいに減速するから、 軌道の微かな縮小に対応する。もちろん、エネルギー保存則を崩すわけではない。


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13. 三物体以上では

多数の物体では、共通の焦点を通過する速度がほとんど利用できるとするとき、 それに対して、二物体の効率はどれぐらいだろう。 三物体、四物体では、対称性が高いため、効率は向上するだろう。 しかし、二物体で動作できるなら少々の効率の低さには、目をつぶった方がよい。

もともと、このような天体配置の変更が、現在では空想でしかない理由は、 重力カタパルト自体を製作する費用が大きく、それに現在の技術と経済が及ばないということである。 どうやって天体の軌道を変更するのか。推進力をその天体に働かさなければ軌道変更はできない。 たとえば木星を移動するなら、大きな推進装置を木星に取り付けて、 木星の水素を核反応させる方法から検討しなければならない。 だから天体配置の変更は、少ないほどよい。

二物体が最も経済的である。しかし、天体移動が現実的な視野に入って来たとき、 より効果的な三物体、四物体配置も困難さは、大した違いではない。 三物体では、まずは、正三角形の配置を検討するだろう。乗物はその面に垂直に進入するか、 面内で、物体の背後から進入するか、物体の背後に出て行くかである。その三方法ぐらい 検討すれば、どの方法がよいかは、すぐにわかるだろう。 四物体では、物体の背後から進入するか、物体の背後から出て行くかの二方法である。 四面体の頂点を入口にするか、出口にするかである。


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14. 三物体以上の収束発散軌道

それ以上の物体を考える前に、三物体以上の収束、発散の軌道があるかどうかを確認すべきである。 二物体では、長楕円軌道の焦点と長軸共有といった明白な軌道があったが、 三物体以上に、その拡張が可能だろうか。

三物体の運動は、解析的に解けないが、それは一般的軌道が言えないだけであり、 数値的に、個々の質点の位置と速度を与え、位置から他の質点のニュートン重力をベクトルで加算して、 加速度を求め、速度、次の時刻の位置を求めることは、容易である。 三物体以上の収束発散軌道があるかどうかは、数値的確認をすればよい。

しかし、この話は、対称性を考えると、もっと簡単である。 等質量 M の三物体が平面内で常に正三角形を保つように運動させると仮定すると、 一つの物体への、他の二物体からの重力の和は、重心からの重力に置き換えられる。 正三角形の他の頂点からの重力は、重心に 2*(√3/2)*(1/√3)^2 M = M/√3 の質量があるときと同じ軌道、 楕円軌道を描くのである。面内に合同な三つの楕円軌道を与え、同じ軌道回転方向にすれば常に正三角形に できるため、これで、三物体の収束発散する楕円軌道が可能であることがわかった。

同様に、平面内での四体、五体も可能であるが、四物体なら正四面体がよいと思われる。 この収束発散軌道は、可能だろうか。 辺の長さ 1 の正四面体では、頂点から対面する正三角形への垂線は √(2/3)、 頂点重心間はその 3/4 である。他の三物体の重力は、重心にある 3*√(2/3)* (√(2/3)*3/4)^2 M = 9√6/8 M からの重力に置換え可能から、楕円軌道が可能である。 正四面体 ABCD と重心 G のとき、楕円軌道を置く平面を、 規則正しく Aは、AGD, Bは、BGA, C は、CGB, D は、DGC にすれば常に正四面体を保つ。

以上、三物体、四物体での収束発散軌道が可能である確認をしたが、それらに安定性はないと思われ(*)、 軌道は修正が必要である。

もし、未来の天文学者が近くの三重星、四重星に正三角形、正四面体のような、とても偶然とは思えないほど整った 対称性のある恒星の配置を見出し、それらがその形を保ったまま、膨張収縮を繰りかえしていたら、どう思うだろうか。 神々の作られた、美しい天体の調和の芸術であると思うだろうか。それは最初、我々がまだそのような経験をしていない 地球外知的生物の証拠として驚喜するだろう、そしてその後にしかし、それが向けられた銃口であり、それに対抗する 何ものもないことに気がつくのに数分を要しはしないだろう。斜め三角形ならまだ安心で、正面を向いた正三角形は恐怖だろう。 正四面体以上は常に危険だろう。そのため、星には光度の低い白色矮星、中性子星、ブラックホールを集める必要がある。 (それよりは、"神の目の小さな塵" のコヒーレント光の方が怖いかもしれない。)

(*)回転座標系において正三角形の配置が質量の大きさによらず安定なことは、ラグランジュ点のL4,L5として知られるが、 平面内の3つの楕円軌道の描く、膨張収縮する正三角形の安定性はいえるだろうか。ニュートン力学では瞬間の配置の実効 ポテンシャルの平坦だけを考えるから、安定であるだろう。回転系において回転面以外の点は、平坦でないから、正四面体 の配置は安定でないだろう。(2019/6/25)


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15. スイングバイの潮汐作用

重力ポテンシャル -GM/R の R による微分(勾配)が重力場 GM/R^2 である。 さらにその微分が潮汐作用 -2GM/R^3 になる。

太陽半径は、70万km、地球公転軌道の 1/214 倍であり、30km/sec に√214 = 14.63 を掛けて 太陽表面の軌道速度 440km/sec とその√2 倍の脱出速度、620 km/sec (光速の 480 分の1)が出る。 太陽表面重力は、280 m/sec^2 もあるが、潮汐作用は、小さい(*)。 太陽の側を通り抜ける異星の船は、その光熱反射性能が高い必要があるにしても、それに乗る異星人は死なないだろう。

光速に近い究極のスイングバイをするため、シュワルツシルト半径のすぐ外での潮汐作用が、 人体に危険と思われる 1G/m = 9.8/sec^2 程度とすると R はどの程度だろうか。

脱出速度√(2GM/R)が光速から、2GM/R= c^2、潮汐作用、2GM/R^3= c^2/R^2= 9.8 /sec^2 から R= 3*10^5/√9.8 km = 約 10 万 km の半径が必要となる。 シュワルツシルト半径Rgは、中心質量に比例し、地球質量で 1 cm、太陽質量 2.0*10^30 kgで 3 kmでしかない。 究極のスイングバイ用ブラックホールの質量は、太陽質量の3万倍必要であり、 太陽質量の数100万倍とされる銀河中心のブラックホールの規模に属するものになる。 小型のブラックホールが使える話ではない。

脱出速度v= 0.1cの地点、R= 100 Rg をスイングバイするなら、2GM/R = 0.01 c^2 になり、 潮汐作用から制限される R は、上記の10分の1、ブラックホールの質量と半径Rgは、 上記の1000分の1、太陽質量の30倍であり、まだ恒星を起源とするブラックホールですむ。

(*) ((v/r)^2= 10^-6 [/sec^2](v=700km/s, r=70万km))。


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16. 潮汐作用の削減

スイングバイの重力駆動では、重力とそれによる加速自体は、乗員に危害を与えない。 しかし、重力の場所による違い、物体の近い側は引力が大きく、遠い側が引力が少ないという、 物体を引き延ばす力(潮汐作用)は、重大な問題になる。

人体が縦のままでは、潮汐作用が人体の規模で問題になりだすのは、 体重の 1/2 で上半身と下半身を引っ張られる、1G/m程度からであろう。 なぜなら、一様な 1 G 重力の地上で立位の体は、その程度の圧縮を受けている。 上半身は下半身にのしかかり、下半身は上半身を支えているからである。 逆に、人が鉄棒にぶら下がるとき、上半身は、下半身の重さの引っ張りを受け、 それと同程度の伸長を受ける。潮汐で同じ引っ張りを与えるのは、1 G/m = 9.8 /sec^2 である。 もちろん、ブラックホールの方向と垂直に体を横たえ、厚みを約 20cm にするとその10倍程度、 耐えられるだろう(*)。

しかし、潮汐作用も防ぐ方法がないわけではない。複数のブラックホールを使うのである。 ただ、2個のブラックホールを使っても、ポテンシャルの勾配である重力は打ち消されるが、 潮汐作用は倍加され解決にならない。重力源を4個以上使うカタパルトでは、潮汐作用を削減できるだろう。

問題は重力の空間的な傾斜であり、時間的な変動には問題になる要素がない。 1 秒間だけ、10^6 G にして、その前も後も 0 にしても、それは、乗員には全く判らないことだろう。 これは、ニュートン力学の即時的遠隔重力であり、実際は、相対論のいうように、 全ての変化は光速以下でしか伝わらないから、人体サイズと光速からの時間 10^-9 sec 程度での変動では違ってくるだろう。

(*)10G/m の潮汐作用に我々が耐えるなら、前項の限界は 3倍ほど違い、ブラックホールの半径と中心質量は1/3になり、 太陽質量の1万倍以上のブラックホールのシュワルツシルト半径の近傍を光速に近い速度ですり抜けることができるだろう。


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17. 重力機械

ニュートン重力は、位置だけに依る即時的遠隔力であるが、いまや、それが正しい可能性はない。 それは、即時性を装っていて、光速の重力の伝達速度を入れると、結果が合わなくなる。 電磁気においても、等速直線運動をする電荷では、電場が即時性を装い、 電場の方向は、現在の電荷の方向をさす。

それでは重力も、電磁気のように、ニュートン重力が電場にあたる磁場のようなものがあるか。 R.L.フォワードは、そういうが、それに否定的な人は、”重力は、計量であり、電磁気ではない。 違う枠組の話の混同である。重力には、電磁気の磁場に相当するものはない”という。 アインシュタイン重力が、電磁気のベクトル解析でなく、テンソル解析であることは私も知っている。 時空の計量 g_ik が物理量として扱われ、それの質量との関係を表すのが、重力方程式である。 しかし、すべて物事には、やさしい類似物がある。本質的に違っていても、 現象的に類似することは、貴重なことで、無視せず、探したほうがよい。 重力の磁気的場を考えるのは、不明な現象を探るためにはよい。

電磁気では、磁場の時間変化による電場の発生を利用し、トランス(変圧器)による変圧ができる。 これを重力に期待すれば、重力源の逆方向加速度の存在が、周辺物体の加速を生むことになる。 電磁気では、大きな電流が近傍の電線に電流を生むような、ひきずり連動現象は全くなかった。 rot E= -dB/dt で、面内の磁場の時間変化は、周囲の電場を生む。面内磁場は、周囲の電流による。 このことが重力にもあるなら、重力源の逆方向加速が重力場を生むといえる。

それは、軽いものには、残念なことにそれに働く重力も弱いという、ふつうの重力ではあり得ないことを、 期待させる。乗物が軽くても大きな力を与えるように、場を変圧することを。


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どうして、重力カタパルトについて、これほどこだわるのかというと、 この文章の冒頭の文のように重力が全てのものに、同じ加速を与えるからである。 もし、重力以外のカタパルトなら、乗員は大きな加速に耐えられない。 ジュール・ベルヌの月世界旅行の大砲型ロケットは、ロケットよりもあり得なかったのである。

それなら、加速に時間をかける現在のロケットがどうして問題かというと、 それは、大きな物質を失うからである。重力カタパルトを地球から宇宙への上昇に使うのも変だが、 地上から数 10 km から数 100 km 上空の周回軌道に登るのに、時間を掛けるとそれだけエネルギーと物質を失う。 一瞬に加速できれば、大気の抵抗を無視すればだが、位置エネルギー代を支払うだけで済むのである。

加速度 1 G で、地球の脱出速度 11km/sec に達するには、1100 秒間、自重の 2 倍を支える必要があり、 その力積を 2200 とすると、2 Gで、550 秒、自重の 3 倍、4 Gでは、275 秒自重の 5 倍、 すでに力積は 1/2 近くに減っている。力積は、ほぼロケットの燃料に比例する。 化学燃料では燃焼の分子速度が目標の速度に足りないため、地球から脱出するためには、多段ロケットでしか 到達できなかった。燃料の大半は燃料を持ち上げるためにあり、1t の質量を軌道に持ち揚げるのに数100t の燃料を燃やすという非効率さである。

太陽系内の惑星に行くには、地球の太陽公転速度を利用して、それより多少加速すれば外惑星に登り、 減速すれば内惑星に下り、数ヵ月から数年で到達できるだろう。 しかし、それと比較にならない大きな速度が必要な、太陽系外に出ようとするのは、 化学ロケットでは、全くの無謀でしかない。最も近い恒星系は、数光年先であり、 それは、太陽系の大きさの 10 万倍も離れているのである。 そこは、核融合ロケットでさえ、数百年もかかるといわれる距離である。


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地上の環境を再現するため、1 G で行程の 1/2 を加速し、1/2 を減速するロケットがよく考えられるが、 1 G 加速は、1 sec で、9.8m/sec の速度を得る。1 日(86400sec)加速して、847 km/sec を得る。 これは、光速の 354 分の 1 である。1 年間加速を続ければ、光速に比べられる速度になる。 それなら簡単なことだと思ってはいけない。その間、燃料をどうするかは難問である。 それは、現在の化学ロケットが、数分間の燃焼のためのものであることを思い出せば十分だろう。

光速に比べられる速度を得るには、その物体の静止質量のエネルギー mc^2 に近いエネルギー mv^2/2 を 与えなければならない。核融合の効率(質量をエネルギーに換算できる比率)は、1% 以下である。 運搬したい量とそのための燃料の比は、1% 程度以下でしかなく、 現在の化学ロケットで地球から宇宙に出るときの非効率さと同じ状況である。

宇宙空間から核融合の燃料かつ推進剤にする水素原子を取り込むことで、これを解決するバサード・ラムジェットか、 又は反物質燃料を大量に蓄えるか、今は理論的にも全く不可能な、通常物質から変換する方法で、 静止質量を100%エネルギーに変換できる反物質推進を開発する以外に、 この恒星間の巨大な深淵を越えることはできないだろう。

それは、化学ロケットを発明してから、実際に月に探検隊を送り込むまでにかかった年数、 人類の場合、100 年程度だろうか、火薬の発明からいえばそれは、数千年であるが、 それ以上にかかるものと考えられる。

この技術を開発しない限り、人類の歴史は隣の星系への訪問から閉ざされている。 どのような物質変換技術を使って、太陽を取り囲むリングワールドや、 太陽をすっぽり覆うダイソン・スフィアを作成して、 地球表面の数百万倍、数十億倍の面積の居住面積を確保したとしても、それは虚しい豊かさである。 しかしその技術を待つ前に、燃料を持ち運ばない推進方法がある。 それが、レーザー推進と、重力カタパルトである。


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しかし、どうしてパチンコ玉を打ち出すのは、それほど簡単なのに、重力カタパルトが簡単でないという 理由は、それは、軽いものには、残念なことにそれに働く重力も弱いという、ことである。 パチンコは、ゴムに蓄えられたゴムの引っ張り応力を質量の小さな玉に全て与えるから、 大きな加速を行うのである。ゴムのような応力を蓄えるものが重力にないわけではない。 そうでなく重力が、軽いものには、弱いのが問題である。

重力で加速を続けるには、まず簡単に考えると、馬の前に人参を吊すように、 乗物の前方につねに巨大物体を位置すればよい。それを満たすような軌道上の配置は、ないのだろうか。 例えば、地球周回軌道から、太陽公転軌道に乗り換えたとき、 もし、地球の後を追いかける位置を暫く続けることができれば、 地球の重力による加速はできるのではないだろうか。

乗物と物体の距離を保つためには、重力源の物体を加速する必要がある。 乗物に重力加速を使い、同じ加速度で重力源の物体を加速してやれば、 乗物を直接加速する場合の破壊を避けることができる。 地球の公転軌道を変更するのに、無人の惑星を動かして使うSFを思い出す。 しかし、一般的には、巨大物体を加速するのは、大変な無駄である。

この章の先頭のことは、そのようなニュートン力学にはないことを期待した夢である。 例えば、二物体の長楕円軌道の共通の焦点近くで物体の加速度の大きいとき、物体に穴が開けていれば、 それを通して乗物を外側に加速できるだろうか。しかし、変圧器の出力電圧が比例する巻き線数に相当 するものは、そこにはない。一本の直線電流の、時間変化に比例する逆起電力を与えるインダクタンスは、 電線の太さに依存する(電線が細いほど大きい)が、インダクタンスに相当するものが、時空の性質として、 あるのだろうかと、考える。それは、電磁気では電子の電磁的質量という問題であった。


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18. ロータベータの強度

身のまわりのふつうの大きさでは、ひもに重りをつけて回すとき、ひもの重さは無視でき、 ひもの張力はどこも等しいとするが、このような大規模な構造物では、我々のもつ材料の (強度/密度) の不足のため、全体がひもだけの構造になり、張力はひもの各部で異なると しなければならない。

一様重力 g 下での均等なρ[kg/m]のひもの吊下げは、 位置 y の張力 T(y) は、下辺 y0 から y までの自重であり、
  y
T(y)= g∫ρdt= gρ(y-y0)
  y0
張力 T(y) は、下辺からの距離に比例するので、上辺が最初に破断する。 上辺を下辺より太くするため、断面積 s(y) を考慮し、ρの単位を[kg/m^3]とし、
  y
T(y)= g∫ρ s(t)dt
  y0
s(y)をt(y)に比例させると、断面積あたりの張力が一定になり、材料の強度を全体に利用できるため、 s(y)'がs(y)に比例するエクスポーネンシャル型の断面積が有効である。 一様重力でない場合、重力を g(y) とすると、
  y
T(y)=∫ρg(t)s(t)dt
  y0
ニュートン重力では g(y)= g0/y^2とすればよい。 遠心力は、g(y)= y とし、y から端 y0 までの積分である。
   y0
T(y)= ω^2∫ρts(t)dt
   y


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19. ロータベータの運動

ロータベータ(回転エレベータの意味)は、地球大気に降りて来る回転するひもであり、 基本的には、地球周回軌道を描くロータベータは、その端の真下で、大気摩擦による減速 がなく、また乗り移りの容易さから、軌道速度を打ち消す速度をもち、その円運動の頂上では、 その 2 倍の速度をもつから、頂上でロータベータから離れるだけで地球を脱し、 宇宙へ行くことができる。宇宙に出るためのエネルギーは、 なにか小惑星帯から鉱物資源を降下させるのに使うと取り戻すことができる。

しかし、その運動は、よく考えると並進運動と円運動の合成によるサイクロイド曲線だけの (地球周回軌道と回転の外サイクロイドEpicycloidである)単純なものではない。 重力のある場所でひもにつけた重りを垂直な面内で回転させるとき、 下部での速度と上部での速度が異なるからである。

振り子の運動
一様重力下のひもによる束縛運動として振り子がある。運動の周期が重りの重さや、 振れの大きさによらず、ひもの長さだけによるため、近代最初の時計として使われた。 しかし、周期が振れの大きさによらないのは、振れ角度θが十分小さい場合である。

(1)振り子の運動は、振子が真下にあるとき最も速さが大きく、振子の高さに応じて速度が減少し、 ある高さで停止して、逆方向への運動を始める。

(2)速度を大きくして、最高点を真横以上にすると、最高点に達してからの運動は、ひもが緩む。

(3)さらに速度を大きくして最高点が真上の位置以上にすると、停止点がなくなる。 体操競技の大車輪のように、頂上で速度を落すが、同じ方向に回転を続ける。 しかし、この運動は、物体とひもを結び他端を固定した運動であり、ロータベータの運動の模型、 2 物体をひもで結んだものとは少し異なる。(1)と(3)とは、エネルギー保存則(P.E.+K.E.=const)だけで解くことができる。


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長さ R のひもを固定点と質点に結んだ振り子では、θを真下からの角度の振り子の速さ v(θ) は、v(θ)^2 / 2 - g R cosθ = 一定から、v(0)^2 - v(θ)^2 = 2 g R (1-cosθ)、 ゆえに、v(θ)= √(v(0)^2 - 2 g R (1-cosθ))、これが円上の運動であるから、 dθ/dt = ω(θ) = v(θ)/Rであり、θ(t) は、v(θ)/R の時間積分となる。


ロータベータで、端が円運動をすると仮定すると、円上に 2 端の位置をv(θ)間隔で描くと、 上部で密集し下部で疎らになる。現在の相手を線分で結ぶと、線分たちは一点を通り、交点は、 円の中心より上にある。2 端の中点である刻々の重心は、ある運動をする。 また、2端を結ぶ線分の長さが変動するので、この運動は、ひもによる束縛運動ではなく、 円環状のレールによる束縛運動である。これとは違って、ひもによる束縛運動では、 線分の長さは一定である。 重心運動はありそうにないように思えるが、運動は円を描かないのではないだろうか。


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20. 二物体のひもによる束縛

二物体 m1, m2 をひもで結び付けるとき、 ひもは、相手との距離を制限し、その張力は、相手方向を向き、大きさが等しい。 二物体を回転させ、張力があって、ひもが緩まないとする。

一様な重力、又は、地球中心の重力中では、重心は、放物運動又は円運動をする。 ひもの張力が、速度に垂直なら、二物体の速度は、v1, v2 の大きさは、その高さだけによって異なる。 それは加速度から導かれるだろう。

加速度は、a1= g + T/m1, a2= g - T/m2 であり、a1 + a2 = 2g, a1 - a2 = T/m1 + T/m2 である。 重心運動に関係するのは加速度の和で、張力に関係するのが加速度の差である。


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21. ロータベータは、屈曲するのか

ロータベータを二物体をひもで結んだものとするという単純化の目的は、 円運動からの偏りを知ることである。最終的には、一本の棒の太さや長さあたりの質量や、 どれだけの引っ張りに耐えるかが問題であるが、それよりさきに、心配になることがある。

それは、これが屈曲の力を受けるのではないかということである。 その場合、この構造物には、曲げに対する強さも必要になる。 単なる二つの重りとひもで近似するのは、そのことを無意識的に避けているのだろうか。

回転に伴って重心が運動しないなら、重心を中心とする円運動を描くことができ、 その場合上辺下辺での速度の違いは、棒に曲げの力を与えるかもしれない。

すべて巨大な構造は、軟らかいとみなければならない。 鉄の塊の惑星も、まるで液体のように球形以外の形を取らない。 ロータベータ程度の規模でも、張力以外に耐えるものはなく、曲げに対する強度を期待すべきではない。 横方向には十分軟らかいのである。とするとこれは、棒構造でなくひもである。

それは、分布する重さのあるひもだろうが、 重りとひもでその運動を近似するのは、あながち間違いではなさそうである。 結論としては、それは曲がらない。曲がるより前に、つねに張っているのである。


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22. 望遠鏡を知らない天文学者に

何10年も前のことだが学生時代に、理論物理、天文をやっている知人と話していたとき彼は、 天文学というと、大きな望遠鏡をいつも使って研究しているというイメージがあるけれど、 今はそんなものでなく、私は望遠鏡を覗いたことがない、というのである。それを聞いて私は、 口に出せなかったけれど、浮かんだのは、可哀想という言葉であった。 どれだけ素晴らしいものがそこに見えるか、それを知らないのは、 恥ずかしいというよりも、不幸といったほうがよいのではないか。

私の思考はとりわけ視覚的で、図や文字を書かないことには、なにも頭が回転しない人間である。 その私の視覚的記憶として、口径数センチの望遠鏡を使ってみた、月のあの驚くべき陰影、 小さくみえる木星のなかのうすい縞と4大衛星、さらに小さいが壮大な土星の輪、 小学生から中学生時代であったが、存分に見た頃のいいようのない感じを思い出す。 天文学や物理は、数学とは動機が違う。数学をやりたければそれをすべきで、 いるべき場所にいないのは、私もそうだが間違いが原因の不幸の始まりである。

人生の経験は、なによりも自信になるが、知識は有りがたいことに感情や経験より応用がきく。 ある分野の学問は、他の分野の結果を手がかりにする。ニューラルネットワークやファジー論理、 遺伝的アルゴリズムなどのブームが起こり収まり、そしてやはり実際の問題だけが取り残された。 目新しい数学的手法は、応用がきくかにみえる。それを理解すれば、手近の問題も解けるように思える。 しかし現実のそれぞれの問題は、一定の手法が別の問題に簡単に応用できるほど、 生やさしいものではないだろう。

いま一番いばっている、素粒子論の人は、もはやマクロな場には、興味がない。 その人たちに言わせれば、この大勢の歩いた道には、もはや貝殻が残されていないということだろう。 美しい貝殻は、人のいない海岸、砂浜に行かなくては手にはいらない。真新しい無人島の海岸で、 珍しい貝殻を沢山集めているだろうか、その人達は。これには、人類の数の恐怖がある。

君も考えたことがあるだろう、100 億人という数は、視覚的イメージさえ超えている。 全てのことは、人がすでにやっている。だから新しい、変辺な山里を目指さなくてはならない。 私はいま冬の浜辺のように、人のいないさびれた海岸にいるようである。 だれもここを訪れないし議論もない。それよりこのような思考自体が危険と思う風潮がある。 とんでもない学者たちの確信犯の被害が類例を呼んでいるのである。 絶対的権力が絶対的に腐敗するように、自由な思考は、基本的に間違うものであるが、 間違うことを警戒するより、ドグマに翻弄されることを警戒するべきである。 ドグマは、決してドグマの姿をしない。


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前世紀の後半は、多くの優秀な頭脳が単にコンピュータサイエンスに貢献し、成果は確かにあったと思うが、 他の分野はさびれたままである。その分野は、多くの計算アルゴリズムが開発され、マウスと GUI (グラフィカル・ユーザ・インタフェース)という一定のインタフェースを残した。 それ以前の計算機というものを経験した人は、そのうちかなりの年配の学者だけになるだろう。 GUI は普及したがそれ以外は、まだ成功していない。音声認識は、1960年から音声タイプライタ研究が スタートしても、やっとここ数年で、実用に手が届きかけた。それほどの計算量が必要だったのかと驚く。 しかし本格的な人工知能はまだまだ手探りである。ふりかえれば、画像圧縮も、MC-DCTという数学的処理が 使われて実用になり、パソコン上で動画像を眺めるためにだけに、 毎秒1〜10億回もの命令動作が使われるのは、不思議なものである。

人間の計算能力の低さを考えれば、そのような膨大な計算を使って、どうしてたかが画像の圧縮か、 ということである。すべてそのように数学化し、計算で処理することが現代の象徴的な現象である。 しかしそうなら、本来の数学的な膨大な処理を使って、ほんとうの人工知能を実現させてみることこそ、 必要なことである。現在の普及する事務処理的なコンピュータの ユーザインタフェース(それは、1960 年代の成果でしかない。)を根本的に変えることを期待し、 あの会社の若い会長が、小さな国家の予算ほどの資産を蓄え、道具が人の思考を支配するというあっては ならないことが起こりつつあるこのいやな時代を終息させることができるだろう。 いま、私にとって本当に役にたつのは、思考の助けになる日本語環境と使いやすい計算機言語と、 最終的に高速な計算能力だけである。紙と鉛筆以外にであるが。

現代の天文学において、宇宙望遠鏡は最も重要な道具立てである。簡単なことである。 宇宙にさほど大きくない望遠鏡を出すだけでよい。地上でどれだけ大きな望遠鏡を作っても、 約 1 秒角を切る程度以上の分解能は得られない。これは可視光の干渉からみると約10cmの口径の望遠鏡 でしかない。地上に口径 8 m もの巨大な望遠鏡を設置するのは、ほとんど光量の確保の意味でしかない。 ぼやけた焦点は、光量の確保の観点からも有利ではないが、 このことは、全くばかげているというのではない。大気の擾乱の効果を押えるために、 現代の計算の魔法は、その分解能を、1 桁ぐらい上げることができるのである。

それが望遠鏡を宇宙に出すだけで、全ての分解能にかかわる大気の問題を解決できるのである。 しかしそれと交換条件のように、部品交換と修理の難しさは、大変なものになる。 ハッブル宇宙望遠鏡は、最初地上での十分な光学検査を怠ったため、主鏡に重大な収差を残し、 分解能が予定より一桁、低下していた。それがそのまま打ち上げられてしまった(1990 年)。 何年にもわたってそれは修理できず、計算処理で分解能を上げることが行われた。 何年か経て主鏡ではなく補正レンズ (COSTAR) の取付を行い、分解能を当初の予定に近付けることができたという経緯がある (1993 年末) 。

宇宙望遠鏡は、それにその名が付いたパロマ山天文台のハッブルによって発見された多くの銀河系と、 宇宙膨張というテーゼ又はドグマ、時空、宇宙というものを、最大のテーマとして取り組んだ学問を 再び考えさせるものである。

WFPC1 と WFPC2 の分解能(M100)

WFPC1 の広がり関数?


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23. 重力カタパルトを軌道にのせる

打ち出す方向を自由にさせるため、二物体の重力カタパルトを天体の円軌道にのせる。 さてそのとき、二物体の軌道はどうなるだろうか。天体の円軌道上に超長楕円軌道がうまくのるだろうか。 二物体が近づくと、それらの速度が上るが、それで円軌道をはみ出して外に飛び出すかと考えたが、 それは、ありそうにない。二物体がお互いを引き合うとき、力は内側に偏っているから、 速度が増しても円軌道上に留まるのではないかと思う。


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24. 我々は、何 G に耐えられるのか(続き)

2003年2月14日の海外出張、後方窓際の席で富士山を斜め上から間近に見たり、山脈の景色を眺め、 今日はついていると思ったのだが、違ったようだ。 その機内で、ゴゴゴという音の後、変な振動がしばし続き、機長からのアナウンス。 左第2エンジンをトラブルのため停止し、近くの那覇空港に着陸すると。

そのとき、隣に座っていて飛行機の騒音の中で話を交わしていたのが元自衛隊で戦闘機乗りしていたという LSI実装関係の人だった。Pbフリーという半田に鉛を使わないことによる弊害の話などを聞いていた。 後尾に電力供給用のそれ以外に四つあるB747のエンジンは、ひとつ止めても充分に飛行できるし、 二つ止めても飛行できるが、原因がほかにあれば症状は更に悪化するので、 近くの空港に緊急着陸するのは最も適切な選択だという。

彼の経験を聞くと、戦闘機内は音が後に行くから非常に静かで、 計器より先に振動とか音で異常を知るという。 この低い振動はエンジンの前の空気を取りこんで圧縮するコンプレッサであり、 エンジンはもっとずっと高い回転数なので違う音になる。 その高い異常音でトラブルを知り、湿った砂浜に胴体着陸したことがあるという。 後で、エンジンの軸にひびが入っていたことを知ったという。 正常なエンジンでしか方向は変えられない。 飛ぶときは方向を変えるとき、どこに緊急着陸できるかを、常に意識する。 離陸直後の異常では、元の空港に戻ることはできないのがふつうという。

飛行機を降りる際、コンプレッサのブレードが破断、エンジンカバーを貫通した事故と知る。 それが機内に飛びこんで乗客が死亡した事故も以前にあり、 外に飛べばいいが、エンジン内に飛びこむと火を噴くという。 その日昼過ぎに着陸した沖縄に 6 時間ほど待たされ、その日の予定は全てふいになったのだが、 命拾いだったのかもしれない。横に解説者付きの事故を経験したのである。

その折に聞いた話、人間が重力加速度に耐えられるのは、4 G までは問題がないが、6 G, 7 Gでは、 数秒で、意識はあるが目が見えないブラックアウトという状態になる。 操縦者は、それで G を抑えて目が見えて、を意識的に普通に行うのだという。 F15 は、マッハ 2.7 位出し横田基地から北海道の千歳空港まで離陸し着陸するまで 18 分という。 すごい。これが庶民の足になるのはいつのことだろう。 (Mar.15 2003)


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25. 真空チューブ輸送

アーサー.C.クラークの "未来のプロフィル" という、約 30 年前に読んだ本に、 昔からSFで使われて来たアイデアで、実現していないもののトップとして、 真空チューブ鉄道/輸送の話を挙げていた。 これが、現在まで実現しなかった理由は、その工事の規模などであろうが、 この輸送方法が本質的に素晴しいのは、これが古典的な重力駆動であることである。

地球上の点から別の点へ移動するのに、基本的にはエネルギーは要らないはずなのに、 現在、移動中ずっとエネルギーを消費し続ける乗り物か、 少なくとも加速時にエネルギーを消費する乗り物が使われている。 それは、減速時その運動エネルギーを取り戻す仕組でほとんど解決だが、 もうひとつの根本的な解決は、重力利用の加減速である。

つまり、地球に長いトンネルを下にほり、重力を移動始めの加速と終りの減速に使う。 その移動経路は、常識的な上へでなく、下への経路である。 中は、空気抵抗や摩擦を無くすため真空チューブにする。

この列車は、加速にすらエネルギーが要らない。重力で落下するように加速する。 しかも次の駅の前での減速にも重力を使い、 軌道が上昇することで速度を位置エネルギーに蓄え駅に停止する。 全航程での摩擦や抵抗を補うだけのエネルギー供給が必要なだけである。

これは、現在の電車がモーターを使って加速し、減速時にはモーターを発電機にして 一部の電力を回復するような複雑な仕掛はいらない。滑らかな軌道自体がそれを行うのである。


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26. 等時間輸送

重力を加減速に使う真空チューブ輸送では、軌道を直線に取ると地球上のどこへ行くのにも 等時間で行ける。

そのとき、ニュートン力学の重力は、球対称質量分布では、 重力を受ける物体の位置より内側の質量 M(r) が中心に集中している場合と同じとなり、 その位置より外側の質量の引力は打ち消され関係しないということを前堤に使う。

    r
M(r) = ∫ρds = 4π/3 ρr^3
    0

そして、地球を密度ρ一定の球体と考える。中心からの距離を r の内側の質量 M(r)は、 r の 3 乗に比例、万有引力の式は、r の 2 乗に反比例し、結果は r 比例の引力となる。 地球の裏側までの貫通穴での物体はバネと同じく単振動をする。 距離 r で受ける加速 A(r) は、r だけによって決まり、

A(r)= G M(r)/r^2= (4πρG/3) r = k r

バネ定数 k はニュートン重力定数 G と、密度ρに関係する。 中心からの距離 rと速度 v の関係は、一様重力では、1/2 mv^2 = mg(R - r) であるが、 このような r に比例する重力では、位置エネルギーは、r^2 に比例する -1/2 k r^2。 地球の半径を R、地球表面で v=0 として、v^2 = k(R^2 - r^2) = k(d^2 - x^2)


地球上の距離 2d の A,B 2点を結ぶ直線上を移動する地中点Xの位置を A,B の中点を0として x で表す。A 点で x= -d、B 点では、x= d である。 X点の重力が地球中心からの距離に比例するから X での速度は、 k の項を取り去り、v(x)= √(d^2-x^2) とするとき、

B    d            d  π/2
∫dt = 2∫1/v(x)dx = 2[Arcsin(x/d)] = 2∫ds= π
A    0            0  0

∴ A から B への到達時間は、d に依らない。この∫1/√(d^2-x^2) dx は、 d sin s = x と変数変換し d cos s ds = dx による。

k の項を戻して、A から B までの到達時間、∫dt= π/√k。 G= 6.67 x 10^-11[MKS], ρ= 5.5*10^3 を入れると k= 1.54 x 10^-6, π/√k= 2530 sec = 42 minとなる。

これは、経路が地球中心を通る場合の中心での速度、v= √(Rg) = 8 km/sec から、 3.14x(6.5x10^6)/(8km/s) = 2550 sec = 42 min としても求まる。 なぜかなら、πR/√(Rg)= π√(R/g) = π√(R^3/GM)= π/√(4πρG/3) (∵g= GM/R^2)

それは、人工衛星の地球の裏側への到達時間でもある。 なぜなら、√(Rg)= √(GM/R) であり 8 km/sec の地球周回軌道速度であるから、 穴を通る中心での最高速度が周回速度に等しく、 穴を通って来る時間は、周回速度の半周期と同じ時間ということである。


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27. 小規模な真空チューブ輸送

地球の各点までの直線的なトンネルを開けるというのは、限りなく空想に近いものである。 それよりもずっと小規模なトンネルからこれを考えたほうが現実的で、近未来的である。 小規模トンネルでは、地球の深部に達しないので、 重力は一様とし位置エネルギーは深さに比例するという近似にしよう。

直線経路では近距離では逆に遅いので、経路をすこし下にとる。 例えば道路を跨ぐ歩道橋の代わりに、道路をくぐる滑り台を設置すると エネルギー消費なしに向い側に到達できるが、それが 42 分もかかってはたまらない。 直線より下に滑べり台を作ればそれより高速であることは明らかである。 もちろんこれは、歩道橋を変える話ではないが、国内の鉄道を置き換えるのなら、 小規模トンネル近似で充分かもしれない。

位置エネルギーが運動エネルギーに変わり、t秒間の重力加速で 9.8t m/sec の速度を得るとき 4.9t^2 m下がるから、約 35 秒の自由落下で、340 m/secの音速になり、6 km 下降する。

人類は、1 km 以上深い縦穴を掘ったことがない。 トンネルの穴掘機械は、現在よりさらに自動化したものが必要だろう。 現在の穴掘り機械は、横穴専用に見える。 6km 下の真空チューブは、大きな圧力(3000気圧?) に耐えなければならないから不可能だろうか。 神岡鉱山の後で、地中数 km に工事をしたことをみるとそうではないようだ。 この深さはまだ通常の固体の地殻であり、それと多少性質の異なるマントルに達するわけではない。 マントルでさえ、地震の横波の通る固体である。 穴掘り機械が掘った穴がすぐに潰れることを心配する必要はない。

マッハ 1 は、1224 km/h 現在の新幹線の 4, 5 倍の速度、 旅客機以上の速さが列車の手軽さで得られ、ランニングコストは小さいだろう。 また、軌道を使うことにより航空機の任意な操縦の危険からも避けられる。


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28. 小規模トンネルの経路

落下による速度を横方向に変えるという基本目的は最初から満たされている。 どのような経路でも最終的に真横になればよい。摩擦のないチューブであるから、 落下による位置エネルギーは、全て横方向の運動エネルギーに変わると考えてよい。

到達時間を最小にするには、できるだけ早期に速度を得て、できるだけ終期に速度を落す、 つまりコの字型に近い経路になるが、それでは、自由落下後の壁との衝突になる。 つまり経路で決まる乗り物の加速度の大きさが問題になる。

"もともと乗り物の斜面上の落下を加速に利用するから、重力加速度以上の落下はない。 その乗り物の落下加速度は、乗客にとって重力加速度の減少になる。 残された壁からの抗力が乗客に G を感じさせ、乗り物もそれに耐える必要がある。" と考えるのは、誤りである。それが重力加速度以内である保証はないから、 経路の設計は必要である。経路の曲りに高速でぶつかるのは、やはりまずいのである。

例えば、1/4 円で垂直から水平につなぐ軌道では、速度 v によって遠心加速度 v^2/r が変わる。 深さに比例して、v^2 が増える。円軌道から直線に移ると 1 G にもどる。 深さ= 半径 6km では、最深部で受ける遠心加速度は v^2/r= 19.27 m/sec^2 = 1.96 G になる。

これはさほど問題にする加速度ではないが、もっと快適にする設計があるだろう。 曲率半径 r を深さに比例する軌道も考えられるが、その設計方針は、何だろうか。 普通の道路や鉄道の軌道設計とは、かなり違うだろう。 その点の速度が最初から予測できるからである。

現在の地下鉄が駅の間の深度を深めないのは、なぜだろう。何か法的規制があるとは思えない。 経路の傾斜自体が、電車の停止、線路の補修において、全ての危険の源ということだろうか。 (25-28: Apl.13 2003)

NHKのTVで今日知ったのだが、 夏には30 ℃にもなるが、冬には-30℃にもなるカナダのモントリオールでは、 徒歩15 分で往来できる都市概念を作りだし、地下都市の設計が進んでいるという。 そこでは、地下街が8Fまで伸び、技術的に可能なことが追及される。 驚くべきことに、地下鉄は、駅間で経路を低下させていた。 (Jun. 8 2003)


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29. 懸垂線

真空チューブ輸送で最短時間経路は懸垂線か。 ひもの両端をもって垂らしたときの形が懸垂線である。 自然が選ぶ経路、形は、ある最適性を満たす。一部を押し下げても長さ一定の制限から、 他の部分が上がる。懸垂線は、重心が最も低いため、位置エネルギー最小経路である。

懸垂線は、最短時間経路だろうか。違うようだ。 経路長 L= ∫dl 一定という条件で、位置エネルギー最小経路は、 下方向に y(l) をとり、-∫y dlを最小にする。到達時間は、T= ∫1/v dl, v= √(2gy)である。 積分式が y と 1/√y とで違い、∫ydl 最大は、∫1/√y dl最小ではない。 速度2乗の最大の経路は、速度の最大経路ではないのである。

懸垂線は、抛物線に似ているが、y= a cosh(x/a)= a/2 {e^(x/a)+e^(-x/a)} になる (後藤憲一の力学通論)。線密度をσ、微小部分 ds の水平角度をθとすると、 微小部分 ds で張力 T と重力 F のつり合いから dT/ds + F = 0 である。 張力の水平成分はどこも一定であり、T_0 とする。垂直成分は最下点からのひもの長さ s 分の重さである。 Tcosθ= T_0、Tsinθ= σgs = T_0 y'。両者から、tanθ= s/a, (a= T_0/σg), dx/ds= cosθ= a/√(s^2+a^2) を積分し、s= a sinh(x/a)。y'= sinh(x/a) ∴ y= a cosh(x/a)。

物理と数学が一致していないためか、解いた後も解決した感じがしない。 dx,dy,dsの成す直角三角形がa,s,yと相似になっている。張力がひもの方向を向き、 最下点からのすべてのひもの重さを張力の垂直成分が支え、水平成分は一定ということは本質だろうか。 つまり、平衡で解いているが、位置エネルギー最小を使って解けるはずである。 結果からみると、両側から指数関数的減少関数の加算という物理的説明がほしい。 x/a が大きい場合、y'= s/a =〜 y/a であり、傾きが高さに比例する指数関数になる。

さらに、答えにひもの長さが入っていない。a= T_0/σg で表すために、 "ひもの重さの違いで、曲線が変わるだろうか。"という疑問がでる。 経路長 L、両端間隔 Dとして、1 以上の L/D 比で表すことができるはずで、 そのとき、曲線はひもの重さσgに関係なく、T_0 の方がσgに比例するだろう。

懸垂線の解説Youtube: 垂らしたひもが作る曲線の計算【カテナリー】, カテナリー(懸垂線)の式を導く, 変数分離形の微分方程式の解き方
求める曲線を y = f(x) とし、張力Tの水平成分は、T(x+h)cosθ(x+h)= T(x)cosθ(x) = τ =const ...(1) 一定であり、
垂直成分は、その微分がその部分の重みによる、T(x+h)sinθ(x+h) = T(x)sinθ(x) + ρg ∫_x^(x+h) √(1+f'(x)^2) dx....(2)
(1)から、T(x)sinθ(x)= τ f'(x) を使い、(2)は、 f''(x)= ρg/τ√(1+f'(x)^2)、
この微分方程式を解くのに、∫ 1/√(1+x^2) dx = log (√(1+x^2) + x )を使って、ρg/τ= αとして f(x)= (e^(αx + c) + e^-(αx + c))/2α
(2019/6/27)

「曲線の長さ」=「その下の面積」となる曲線はカテナリー【数学検定1級過去問】 懸垂線の各点で dl/dx= y (つまり l= ∫y dx, yは上向き)
√(1 + y'^2) = y,
y'^2 = y^2 - 1,
dy/√(y^2 -1) = +-dx
∫ dy/√(y^2 -1) = +-x
ここで {log(y+√(y^2 - 1)}' ={1+√(y^2 - 1)}/(y+√(y^2 - 1)) = 1/√(y^2-1) を使い、
log(y+√(y^2 - 1)= +-x + c
x=0 で y=1 とすると、c= 0
ここで y+√(y^2 - 1)= 1/{y-√(y^2- 1)}= e^xを使い、
2y= e^x + e^-x
y= (e^x + e^-x)/2
各点で dl/dx= y は、最小位置エネルギー E= ρg ∫ y (dl/dx) dx の ∂E/∂y = 0 から来るか。 (2019/8/2)


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30.変分原理

変分原理は、時間か経路で積分する全体の最適性の原理を立て、運動方程式よりも優先させる。 ピタゴラスは一定のひもで囲む面積を最大にする形が円としたことから、このての問題を"等周問題" という。ヘロンは、光の反射において、光が最短経路を通るとした。鏡の中の世界を仮定するとき、 光の最短経路が反射の法則を与える。光速が場所によって変わるとき光は屈折するが、そのときも、 光が最短時間経路を通るというフェルマーの原理が、屈折の法則を説明する。 経路を微小変化させたときの経過時間∫nds が停留することをδ∫nds= 0 とかく。

空気中のAから水中のBへの光の経過時間を T= n1L1 + n2L2 ( L1= √(1+x^2), L2= √(1+(1-x)^2)) とし、dT/dx= n1 x/√(1+x^2) + n2 (1-x)/√(1+(1-x)^2) を = 0 とするだけで、 n1 sinθ1= n2 sinθ2。n sinθ= 一定がでる。


光は局所局時の運動方程式に従いながら、結果的にある積分を最適にする経路をとっている。 どうやって光は局所でその経路を知るのか、どうして時間に伴う運動の軌道がなにかの最適な経路 になるのだろう。動力因より目的因を強調する変分原理は、合目的記述であり、 その数学的表現はより難しくなる。物理を神の説明にする神学と科学との歴史的混合の結果である。 軌道の最適性と運動方程式との関係は、同等であったり、運動方程式より狭い条件でしか、 成り立たなかったりする。一般には最適性を持つ値の任意性が残る。

反射では粒子論も全く問題なかったのが、運動量の界面平行成分が保存されると考えると、 屈折の全く逆の式 n1 sinθ2= n2 sinθ1 がでて現実と合わない。 光がその経路を取るのに経過時間の停留が必要なことは、 光を波動現象とするホイヘンスの原理から理解でき、単に位相が揃う必要からくる。 光は位相の揃わない経路をも通過しているのだが、その波は打ち消され、消えているのである。

変分原理、そしてそれからの解析力学は、束縛を伴う物理現象、多体の物理を解明するのに 実際役立った。互いに力を及ぼす複数の質点、質点系の力学は、F= ma だけでは解けない問題が解ける。 その有効性に着目すべきであり、原理性は低い。 これはニュートン力学の使い方の工夫、新しい解釈であり、新しい原理とか法則の発見ではない。

ニュートンの空間と時間、慣性と作用反作用の法則、質量概念、力と加速度の関係、すでにそれらで 充分な力学を、単に数学的に洗練しただけでは、たとえ、それが19世紀までの物理の精華であっても、 蛇足である。基本的な時空間概念を変えた相対論はその中から出なかった。 しかし解析力学は、量子力学の構築土台になった。 またその中には一般相対論の測地線の考えに近いものもある。


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31.仮想仕事の原理

静力学では、物体が静止し、物体にかかる力が平衡している。質点系が平衡であるとき、 その平衡の配置を僅かだけずらす可能な質点の配置を仮に考えると、 そのずれを起こす仕事が 0 というのが "仮想仕事の原理" である。 平衡を力の和が 0 という捉え方でなく、平衡点が安定かどうかにかかわらず、 微小なずれに仕事がない場合を平衡とする。 これは、平衡のもうひとつの解釈であり、有効な思考方法であった。

長さL1,L2 の腕をもつ天秤にM1,M2 のおもりが平衡する。1側が L1δ だけ上に振れるとき 2 側は L2δ だけ下に振れるとする。この振れのもたらす仕事は0から、 M1 L1 δ - M2 L2 δ = 0 これから、M1L1= M2L2。これから、てこの原理が得られる。 それは、もともと力と腕の長さの積、モーメントの釣合で説明したものである。

一端が固定されたひもの他端におもりM1 が付いている。ひもの中途を滑車に通し、 滑車と固定点の間に別のおもり M2 を付けるとつり合うとする。 このとき、M1 を L1 だけ引き下げるときM2は、L2 だけ上がるなら、 M1L1 = M2L2 である。M2 を引きあげる2本のひもの角度などを考えなくてもよい。

全質点は静止しているから、i番目の質点の受ける力を F とすると、F=0 が平衡。 それを、力 Fと平衡点からのずれをδrとの内積が全体としてゼロとする。Σ_i F・δr= 0 各質点は、仕事を与えたり貰ったりしても、全体として 0 になると考えるのである。


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32.ダランベールの原理

ダランベールは、ニュートン力学の運動方程式 F= ma を外力と慣性力 ma の平衡と読み直し、 動力学に平衡を使った解析的手法を可能にした。これをダランベールの原理という。 質点系では個々の質点iの F-ma の総和を0にする。Σ_i (F_i-m_i*a_i)= 0 仮想仕事の原理を組み合わせ、運動に微小な変化を与えたときの時刻 t の位置の差 δr(t)= r(t) - r'(t) による仕事が常に0、(F-ma)・δr=0、質点系で Σ(F-ma)・δr= 0。

束縛条件 φ_a(x,y,...)= 0 があるとき、可能な変位δでのΣ∇φ・δ=0 束縛以外の力を F とすると、Σ(F+Σ_a λ∇φ)・δ= 0 から F+Σ_a λ∇φ= 0。 このときのダランベールの原理は、Σ(F-ma+Σ_a λ∇φ)・δr=0 これより、ラグランジュの第1運動方程式 (各質点) ma= F + Σ_a λ∇φがでる。

広義座標 q 広義の力 Q= Σ(dx/dq) F を使い、ラグランジュの(第2)運動方程式 (dT/dq')' - dT/dq = Q がでる。力がポテンシャルをもつとき、Q= -dU/dq (dT/dq')' - dT/dq = -dU/dq、dU/dq'=0 ラグランジュ関数 L(q,q',t)= T - U (dL/dq')' - dL/dq = 0


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33. 最小作用の法則

オイラーの原理:オイラーは、始終点を決めたとき、現実の運動が∫vds 最小を見いだした。 外力のない物体では、v 一定∫vds= v∫ds が他の運動よりもこの値を小さくする。 高さによって速度の決まる抛物運動は、直線よりも上方での速度が小さいため、∫vds が小さくなる。 しかしこの原理は、ポテンシャルの存在する保存力場にだけ成立する。

モーペルチュイは、運動量の経路による積分を作用または作用積分と名付け、 運動に最小作用の原理を立て、力学を停留性表現した。δ∫mvds=0 ただし、 ds^2= dx^2+dy^2+dz^2。作用はまた、運動エネルギー T の時間積分でもあった。 δ∫2Tdt=0

ヤコービは、これをδ∫√(2(E-U))√(Σmds)=0 と表現した(E:全エネルギー、U:ポテンシャル)。 これは、屈折率 n= √(2(E-U)), ds'= √(Σmds) とした 3n 次元でのフェルマーの原理、δ∫n ds'=0 になる。

ガウスの最小束縛(拘束)原理、ガウスは束縛条件があるために起こるdt間の変位の2乗和 G= Σm ds^2 (束縛) が現実の運動で最小であることを示した。束縛以外の力を F とし、 Σ((F-ma)^2・δa)= 0、 Σ(∇φ・a)= 0

ヘルツの最小曲率の原理、ヘルツは、3n次元の座標ξ= √m x を使い、 δΣ(ξ'')^2 = 0 これは、ds^2= Σ dξ^2 を使うと、δΣ (d^2ξ/ds^2) = 0 となる。 曲率 K とすると、K^2= Σ(d^2ξ/ds^2)だから、δK= 0 曲率最小である。


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34. ハミルトンの原理

ハミルトンの原理とは、∫(δT+δW)dt= 0 ラグランジュ関数があるときハミルトンの原理は、δ∫Ldt = 0 広義運動量 p= dL/dq' とすると、ラグランジュの運動方程式 (dL/dq')' - dL/dq = 0 は、p'= dL/dq と書ける。 δL= (dL/dq)・δq + (dL/dq')・δv= p'・δq + p・δq' ハミルトン関数 H = p・q' - L とおくとδH = q'・δp - p'・δq となる。 微分方程式 dq/dt= dH/dp, dp/dt= -dH/dq をハミルトンの正準方程式、 (q,p)を共役な正準変数という。


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35. 最急降下曲線

"マッハ力学"(講談社エルンスト・マッハ著、伏見譲訳)に、ジャン・ベルヌーイの、 じつに驚くべき想像力に充ちた最急降下曲線(ブラキストクロン)の解法を紹介している。 最急降下経路を、フェルマー原理から考える。重力加速された物体の速度 v= √(2gy) を光速度に置き換え、屈折の式 sinθ/v= k (θは垂線との角度) が深さyに依らず 一定であることからy(x)の満たす微分方程式を得るのである。

(dx/ds)/v= k から、dx= k*v*ds, dx^2= 2gk^2 y(dx^2+dy^2), (dy/dx)^2= (1-2gk^2y)/2gk^2y r= 1/(4gk^2) とおくと、(dy/dx)^2= (2r-y)/y

これは、半径 r の円を直線上に転がすとき、円周上の点が描く曲線、サイクロイドの満たす 微分方程式である。サイクロイドのパラメータ表示、x= r(t-sint), y= r(1-cost) から dy/dx= (dy/dt)/(dx/dt)= sint/(1-cost) ∴ (dy/dx)^2= (1+cost)/(1-cost)= (2r-y)/y

一様な重力による駆動を考える小規模な真空チューブの地中に描かれる最短時間経路は、 なぜか、上方経路のロータベータの描く曲線と同じく、サイクロイドである。 どのような距離にも相似のサイクロイドがあって、その距離での最短時間経路を成している。 相似の対応点での速度は相似比の1/2乗に比例するから、経過時間は相似比の1/2 乗に比例する。 つまり、2 倍の距離を √2 倍の時間、100 倍の距離を 10 倍の時間で行ける。 3.14 m を行くのに 1 sec 程度なら、31km では 100 sec程度である。

このサイズと時間の関係は、振り子の長さと時間の関係と同じである。 長さ25cmの振り子の小振幅での周期は1秒、長さ1mでは周期が2秒である。 サイクロイド経路 (深さ対距離は、1:π) の必要時間は、1/4 円加速と水平直線と1/4 円減速 で構成される経路に比べて速いはずであるが、まずそれを考えよう。 大振幅振り子が小振幅と同じ周期とすると、1/4 円部分の時間は振り子周期の1/4で、0.5 sec, 1mの深さの速度は v=√2gh から4.42m/secであり、水平直線部分は、3.14-2= 1.14 m を0.258 sec で行くから、総計、1.258 秒でその距離を行くことになる。

サイクロイド経路での正確な到達時間は、T= ∫ds/v= ∫dx/kv^2= 1/(2kg)∫dx/y に対して、 パラメタ表示、x= r(t-sint), y= r(1-cost) からの dx= y dt と、k= √(1/4gr)を使い、 T= 1/(2kg)∫dt= 2π√(r/g) となる。駅間距離 D= 2πr を使うと、T= √(2πD/g)である。 D= 3.14m では、1.42sec になる。上の1/4円と直線の近似より大きくなってしまったが、 これは実は、近似側の水平まで振れる単振子の周期が小振幅の周期の K(1/√2)*4/(2π)= 1.8541*4/(2π)= 1.1804 倍が考慮されていなかったもので、正しくは1.438secとなる。 1/4 円と直線近似の到達時間は、サイクロイドの最短時間経路 1.42sec と比べて+1%程度 の違いである。(May 25 2003)


サイクロイドの経路長は、ds^2= dx^2+dy^2= r^2((1-cost)^2+sin^2t)dt^2 = r^2(2-2cost)dt^2= 4r^2sin^2(t/2)dt^2 ∴ ds= 2r sin(t/2) dt から ∫ds= 2r∫sin(t/2)dt= -4r[cos(t/2)]= 8r 直線距離の4/π倍である。


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36. 等周問題

ファインマン物理学III(岩波書店、ファインマン、レイトン、サンズ著、宮島龍興訳) の補章では、最小作用の原理から変分法によってニュートンの運動方程式を導いている。 経路の長さ∫ds= L が一定のとき、面積∫ydx= Sを最大にする(δ∫ydx= 0)曲線を考える。 L一定でS最大は、S一定でL最小であり、Lを増加すれば、Sが増加するが、両者の微小変化が 正比例する。δL= kδS

δ∫ds = k δ∫ydx。-----(1)

求める関数y(x)に加算する微小なずれ関数η(x)を考え、それによる変化の1次変化分を捉える。

(1) の左辺のδ∫ds= ∫√(1+(y'+η')^2)dx -∫√(1+y'^2)dx= ∫η'y'/√(1+y'^2) dx これが、右辺 kδ∫ydx = k∫ηdx と等しい。

∫η'y'/√(1+y'^2)dx= k∫ηdx ---(2)

この手の問題ではいつも、ηの微分η'は、(fg)'= f'g + fg' から部分積分 [fg]= ∫f'gdx + ∫fg'dx を使って、'の付かないηの積分にする。 η'y'/√(1+y'^2)のうちη'をg'に y'/√(1+y'^2)をfにあてると、

∫y'η'/√(1+y'^2)dx = [y'/√(1+y'^2)η] - ∫(y'/√(1+y'^2))'ηdx

η'はなくなりηとの積だけになったが、η(x)が両端 x= -x0,+x0 で0を使うと、 すでに積分された[]の中は 0 であるから、次の式となる。

∫(y'/√(1+y'^2))'ηdx + k∫ηdx = 0 ---(3)

ηをくくり出し、η(x)が両端0の任意の関数である(任意のx位置のデルタ関数でもよい。) ことから、括弧の中がつねに0。

(y'/√(1+y'^2))'+ k = 0 ---(4)

これから、(y"√(1+y'^2) - y'y'y"/√(1+y'^2))/(1+y'^2) + k= 0。 y"(√(1+y'^2)- y'y'/√(1+y'^2))/(1+y'^2) + k= 0。 y"(1+y'^2- y'^2)/√(1+y'^2)^3 + k= 0。

∴ y"= -k(1+y'^2)^(3/2) ---(5)

となる。半円の関数、y= √(1-x^2) が、k=1 でこの微分方程式を満たす。 これは、経路長Lと両端間隔Dとの比が小さい(L/D<=π/2)、直線〜半円の場合であり、 それ以上でも円の一部となるが、y(x)が多価関数になりこの解き方はできないと思われる。


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次に経路長∫ds= L 一定で重心が最低の曲線δ∫y ds= 0 が懸垂線 y= a cosh(x/a)になるかを みてみよう。k を正とし、kδ∫ds=δ∫yds の左辺は、 円と同じくk∫η'y'/√(1+y'^2) dx、部分積分で、-k∫(y'/√(1+y'^2))'ηdx となる。 右辺は、δ∫yds= ∫η√(1+y'^2)dx + ∫y(y'/√(1+y'^2))η'dx 部分積分で、=∫η√(1+y'^2)dx -∫(yy'/√(1+y'^2))'ηdx

∴ ((y-k)y'/√(1+y'^2))'=√(1+y'^2)

となってまだ答えに達しえない。その答えのy= acosh(x/a) から微分方程式を考えると、 y'= sinh(x/a), y"= 1/a cosh(x/a)から、1+y'^2= cosh^2(x/a)であり、 変分法なり、単純な思考方法から、y"= k√(1-y'^2) がでればよい。 しかし、この微分方程式は、先に説明した、y'= s/a から y"= ds/a が出るので、その解法は、 変分法よりも簡単であるといえる。 (Jun. 8 2003)


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小規模真空チューブ輸送の実際の経路にサイクロイドが使われる必要はない。 それよりも実現可能性と快適性が優先するものである。

第1段階として、単に駅間を地下に経路を落して速度を獲得することは、 28 章 に述べたように、すでに、カナダのモントリオールで実現されている。

深さは、技術的進化によって次第に進むことができる。深さ自体がコストの場合、 深い部分をできるだけ長くする横にしたコの字型に近い経路が考えられる。 その経路の深さを6kmまでにすることによって音速程度を得るのが第2段階である。 こうなると地上と空中の輸送を完全に追い抜くことができる。旅客機のメリットを 追い越し、競争相手がなくなると、しばしそれ以上の開発努力は必要がなくなる。

次の段階は、速度を1桁上げることで、音速の 340m/sec から第1宇宙速度 7.9 km/sec にすることである。と昔からの友人が考えてくれた。素晴しい。 そうすると、経路の中を飛ぶ列車が無重力になり、円軌道を描くようになる。 人工衛星を地中に飛ばすことである。これは、壁との接触の必要がないため高速化と両立しやすい。 しかし、一様な重力のなかで速度を 20 倍にするには、深さを 400 倍にする必要がある。 深さ 2400 km は、まだ固体のマントルの中だろうか。

夢見られた真空チューブ輸送の話、等時間輸送の直線真空チューブは、その頃の技術である。 地中の経路を飛ぶ力学は、中心からの距離に比例する重力、放物超曲面ポテンシャルの 保存力場であり、中心力場の力学である。どのような経路が地中の人工衛星に可能だろうか。 1次元抛物線ポテンシャルでの単振動は、振幅によらず振動周期が一定である。 2 次元の放物面のポテンシャルでの物体の描く軌道は、円、放物線、双曲線だろうか。

おっと第1宇宙速度の真空チューブ輸送は、不可能である。26 章で述べたように、 それは、地球の中心を通過する速度であるからである。 (Jun. 22 2003)


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37. 重力カタパルト

太陽を球殻に変化させ、その外側から乗物を、重力によって加速するとき、太陽表面程度から、太陽系の地球軌道半径まで球殻が 大きさを変えるなら、どの程度の効率で速度を得るかと考えると、太陽半径、70万kmと1億5000万kmとの比から(r= 70 万km、 R= 15000万km、φ(r):φ(R)= 15000/70= 200) 太陽表面の脱出速度、620 km/sec 程度の太陽系の外に向かう速度がエネルギーの 0.5% の損失だけで使えるのである。しかし、この程度の速度では、隣りの恒星に行くのにも役に立たない。 地球の公転軌道速度は、光速の1万分の1 程度であり、その運動エネルギーは、静止質量の1億分の1である。太陽表面の脱出速度は、 その 20 倍の速度、400倍の運動エネルギーだが、まだ静止質量の 100万分の 4 でしかない。

球殻に質量が分布している場合、内部のポテンシャルが一様から、この内部ポテンシャルは、初等的に知ることができる。 半径 r の球殻上にある質量 M が中心に及ぼすポテンシャルは、-GM/r である。球対称の質量分布では球殻内部のポテンシャルが一様で、 どこも等しいポテンシャルである。質量 M が半径 r の球殻にあるとき、内部ポテンシャルは、-GM/r である。

そこで、太陽程度の 1/1000 程度に収縮させると(太陽を半径 700kmにまで縮めることだが、もちろん簡単なことだろう? 太陽の密度が 水程度だから、その密度が 10^9 になるのだが。) それだけで速度のエネルギーは、1000倍になるが、 それはまだ、光速に類する速度までには、250倍ほどの余裕があるのである。

光速に類する速度を得るためには、直径10 kmの中性子星か 3kmのブラックホールを使うことになるだろう。 球殻の内部にいて空間的に一様なポテンシャルの空間を移動するとき、加速、減速を受けることはなく、物体は、等速直線運動をする。 球殻の外側で加速されるとき、非常に強い重力であっても、重力は、すべてのものに働くから、加速、減速のとき乗客がそれを感じることがない。 例えば、最初の 1000 秒間で 0.1 c に達するような加速、これは 30 万km/sec *10-4 = 30 km/sec^2 = 3000 G にあたるが、 乗客は、座席ベルトを締めることもなく、窓の外の景色を満喫しようとロビーに立った(浮遊した?)まま出発を向かえ、 手にしたグラスのカクテルをこぼさずにすむだろう。

問題は、潮汐作用という、乗客のサイズ程度における引力の差である。乗客の頭と足に受ける力に差がある場合、頭より足がより強く引かれる場合、 乗客が引き延ばされてしまう。潮汐力の大きさは、重力の r による微分で、-2GM/r^3 だから、中心天体の密度に比例する。 2GM/r^3= 8π/3 Gρ、これを = 980 /s^2 とおくと、ρ= 980*3/8πG (重力定数 G = 6.6725 x 10^-8 cm^3 g^-1 s^-2)から、 ρ= 1.753 x 10^9 [g/cm^3] 以上の天体で危険である。おおざっぱに、原子のサイズと原子核のサイズの比 10^5 を使えば、 中性子星の密度は 10^15 であるから、すぐ側は、10^6 倍も危険である。中性子星は半径の 100 倍遠くにいる必要がある。 同様に恒星起源のブラックホールもすぐ側は潮汐作用が大きすぎるため、光速近くのスイングバイには使えないのである。 潮汐作用は、多質点を使うことで避けることができるだろうか、乗物の加速は、多質点の外側にいて引力を受けるときであり、 その潮汐の大きさは避けようがないとも思える。

一様なポテンシャルの時間的変動は、感ずることができない。それが、ゆっくりなら、ポテンシャル変動を感ずるしくみは、 古典的物理学には存在しないからである。仮りに、それが一般相対論的に時計の遅れ、物差しの縮小又は伸長を発生したとしても、 局所の計量の変動を局所で知ることは原理的には可能だがほとんどできない。 そしておそらく、身体のサイズを光が横切る程度の時間内に変動する場合、 その変動が潮汐作用のように、身体の各部に与える力の差として影響を出すだろう。 (Sep. 26 2004)


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38. 我々は、何 G に耐えられるのか(Rama II)

1991年に刊行されたA.C.クラークとジェントリー・リーの"宇宙のランデブー2"(RAMA II 山高昭訳早川書房) を 2005 年の 5 月の連休に読む。どうして新刊本を買ってから 10 数年も放っておいたのか、1、2 日で読めてしまったのにと思う。要するに それは、この作品の状況と人物の描写、個性記述の多さ、ミステリー又は犯罪小説風の組み立ての問題である。明らかに、 クラーク単独の作品の高貴な孤独性を欠落していて、途中で読み続けられなくなったのである。

この作品で、11 G を越える Rama II の加速の人体への影響を避けるために、人体とほぼ同じ比重、密度の液体に人体を浸して 睡眠を取らせている。そしてこの作品にも感覚遮断と幻覚の話が出てきた。"アルタード・ステーツ"という映画作品でも捉えら れていた感覚遮断による幻覚現象は、数十年前から興味深い現象として知られていた。私のいた生物工学科でそのような実験が できたわけではないが、当時は、同級生のなかに感覚遮断を研究したくてこの学科にきたというひともいた。 これは、そのひとから聞いたと私があいまいに記憶するだけの話であるが、感覚遮断は最初の24時間ぐらいは、非常に体も心も 休まるという。ところが、24時間を過ぎると苦痛になるという。そして、そこから出してもらったときに、相手の話を全面的に 受け入れるという。つまりこれは、拷問と洗脳の道具である。しかしながら、高い G では、普通に寝るのと同じになって、 幻覚などを生むこともなくなるだろうから、耐加速度(G) 対策として液体浸の効果を考えてみよう。

人体の比重と同じ比重の液体に浸す液体浸は、仮に人体の内容が均一であるとすると、どこまで加速度に耐えられるのだろうか。 液体に架かる G は、液体の深さあたりの圧力を決める。1 G の重力の中で、水は 10 m あたり 1 atm (気圧)という、深さあたり の圧力勾配である。内外でつり合った圧力自体は、構造に全く影響しない。多少訓練した人は、100 m の水中、つまり10 気圧の なかでヘリウム酸素混合気体を呼吸する必要はあるが、耐圧服なしで潜ることができる。負圧は最大 1 気圧だが、皮膚だけで 数分間耐えられることが分かっている。

圧力自体は、硬い耐圧箱で内部圧力を減圧して消すことも容易である。それでは、圧力勾配が基本的な問題かと考えると、 1 m あたり 1 気圧程度の 10 G 程度では全く問題ないと思われる。100 G の中では 10 cm あたり 1 気圧になり、仮に人体が 横たわっても背中と腹側に 2 気圧程度の差が生ずる。しかしさらに、圧力勾配自身は本当に破壊力かと考えると、人体が基本的に 内外を分ける膜でできているとすると、膜のある深さによって圧力は大きく異なっているが、どこも膜の両面に等しい圧力が架かる わけで、それ自身、決して破壊力ではないことに気がつく。

そうすると、本当に限界を決めているのは、人体の中の比重なり、密度の不均一性でしかない。例えば、比重が 0.1 程度違った 2 種の構造、例えば骨と筋肉、脂肪の境界面は、100 G で 10 cm あたり 0.1 気圧という圧力差を生み出すだろう。恐らく、これが 構造破壊の主原因であろう。これは、人体を水中でなく空中に置くと不均一性は、比重が 1 も違い、背中と腹、その厚さを 20 cm として、2 気圧の圧力差を皮膚内外に生じることと話があう。加速度破壊も、その原因は比重、密度の不均一性である。

人体で最も大きな不均一性をもつのは、もちろん肺であり、気体を呼吸する動物には防ぎようがないかもしれない。深海に潜航 するのに呼吸に支障を来さない液体を開発した SF もあった。もし成功するのであれば、それもあり得るだろう。戦闘機乗りの ブラック・アウトは、脳血圧の低下が原因とされ、それを防ぐために下半身に圧力をかける耐 G 服を着ると聞いている。 戦闘機は、機械的な操縦性能を極め尽くし、その G 限界は人的限界だけであるという。もちろんロボット乗員や遠隔操作以外 であるが、高耐 G 装備、液浸は、戦闘を決めるかもしれない兵器の技術だろうか。しかしそうなら、すでに極限まで研究され 尽くしているだろう。

(2011/11/16)


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39. あとがき

4章の話題の目的は、運動量と運動エネルギーの理解にある。現在のロケットが必要な運動量変化のために、エネルギーを消費しているが、 運動量はベクトルで運動エネルギーはスカラーであり、両者は全く違うものである。しかし、慣性系が自らの速度からエネルギーを引き出せるなら、 慣性系の対等という、相対性の原理への違反ではないか、という反論を期待する議論である。これには、この文章の続編、 "力学について"の12,14章にこの話題の続きがある。(2019/6/27)

追加: 空洞のなかの重力

地球の中に大空洞があれば無重力ということを初等的に説明できるか? 球対称の質量分布において、ある半径以内の全質量が 球の中心にあるのと同じというニュートン力学の重要な原理的な結果を利用して我々は考える。つまり、球状空洞の内部に 質量はないから、空洞に重力はないという結論である。それは恐らく正しい。球殻の質量がもたらす重力は、中心に質量を 移動しても正しい。それは少し難しい数学の問題であって、円環質量のその面内の円環外の点への重力の問題が解ければ、 球殻の問題も解けるだろう。距離の2乗に比例する重力というベクトルでなく、距離に反比例するポテンシャルの積分のほう が容易だろう。しかし、それは数学の問題である。

地球を外側からみたときのように、正の質量が球状にあるとき中心に向かって引力があるなら、正の質量の一様な分布が 無重力なら、それから球状に取り除かれた空洞を、負の質量の球状分布とみれば、外側に向かって引力が存在してもよい。 地球の裏側には人間が逆さに立っているというように、もしかしたら、地表の裏には裏返しの世界が外側と同じくあるの ではないかという疑問を、面倒な数学によらずに初等的に否定したい。

我々が微小になって地表を平面とすると、平面の両側は、内側は外側と同じように、一定の重力を地表面に向けてもつ。 そのとき重力は、地表面との距離によらない。電場を一様に与えるコンデンサの無限平面のなかのように、地球の反対側 の地表もやはり同じように働くとすると、2平面に挟まれた内部は無重力である。

無限の一様な質量分布は、存在が疑われるが、もし存在すれば重力を0とするしかない。それを認めれば、空洞の内側に立つ ことができることになる。ところが、正の質量の一様な分布における重力には、答えがない。任意の一点がまた任意のどこを 中心としても球対称といえることは、重力がどこに向かうかをいうことができないことを表している。その質量分布の設定を 無重力というのは間違いで、不定である。

地球に開けた穴の中の重力は、地表が一番大きく、地球の中心に向かっていくに従って弱まり、地球の中心では無重力である。 半径に比例する重力になる(という)。重力の減少分は、空洞のなかの地殻の重力を意味しないか。減った分を取り出せば、 地表からの距離の関数である重力は外側に向く。地球の密度が一定の正でそれだから、負ならその逆ではないか。 いや、穴のなかの重力の減少は、その半径より内側の質量の減少だけによっている。外部になる地殻の影響ではない。

球対称の質量分布は、球殻の重ね合わせに分解できる。球殻の内部の重力は、球対称か0である。それが中心を目指すか、 球殻を目指すか、0である。

球対称の質量の外部質量への重力について、球対称の質量分布(または球殻)は、対称性によって中心質量と置換できる。 なぜなら、球対称性から外部質量と中心とを結ぶ線上に重力は存在するから。球対称質量に置換される中心質量は、 球対称質量の総和以外は有り得ない。なぜなら、もし球殻の収縮で質量が集中することで外部質量への重力が増減するなら、 その重力は比例的収縮でどこまでも変化できるから。このことはニュートン力学では自明だが、収縮によって増加する 球殻を構成した質量の運動エネルギーの増加までを質量に含めれば、相対論的にも成立する。