ロータベータの力学

片山泰男(Yasuo Katayama)

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ロータベータ (回転紐) は、軌道エレベータよりも宇宙に出るのに有効な装置である。本文はそれに関する物理である。1〜7は、 "重力カタパルトなど" に掲載したもの。10から20は、その後の考察である。8章にロケット推進、軌道エレベータ、ロータ ベータ3者の得失を考察した。9章にロータベータ遠心力の軽減。21章には、ロータベータ等の構造計算のテーパ考察を説明 する。22章には遠心力のstep2の軽減の考察を示す。

 1. 我々は、何Gに耐えられるのか
 2. ロータベータの強度
 3. ロータベータの運動
 4. 二物体のひもによる連結
 5. ロータベータは、屈曲するのか
 6. 我々は、何Gに耐えられるのか(続き)
 7. 我々は、何Gに耐えられるのか(Rama II)
 8. ロケット、軌道エレベータ、そしてロータベータ
  8.1 ロケット推進: 推力による加速
  8.2 悲劇的な、重力下のロケット推進
  8.3 重力から解放する軌道エレベータ
  8.4 悲劇的な、自力這い上がり
  8.5 巻き上げられて上昇
  8.6 初期ロータベータの規模
  8.7 小規模ロータベータ
  8.8 比強度はどれ位
  8.9 1000倍の運搬能力を1/1000の素材で
  8.A 放擲速度を利用した太陽系内の高速移動
 9. ロータベータのG軽減
  9.1 step1: 重心の高度によるG軽減
  9.2 step2: 地表速度小によるG軽減
  9.3 step3: 自転の利用によるG軽減
10. ロータベータへの乗降
11. 空の高さは...
12. ロータベータの運動について
13. 円運動だが回転速度が変動する
14. 振子運動と回転運動
15. ポテンシャルと重力の式から見る
16. 大気との接触
17. 非対称ロータベータ
18. ロータベータの後始末
19. 浮力と巻き上げ機構
20. 最大災害の比較
21. 構造計算
 21.1 一様重力下の吊り下げの張力=断面積関数は、exp(-gρy) 指数型
 21.2 ニュートン重力の張力
 21.3 回転による遠心力張力
 21.4 ロータベータの張力=断面積関数は、exp(-1/2 ρω^2 r^2) ガウス型
 21.5 軌道エレベータの張力=断面積関数は、exp(-ρGM/r)型
 21.6 重力と地球自転系の張力=断面積関数
22. ロータベータは、軌道運動の遠心力をみるか
 22.1 step2 は軌道回転を忘れた誤り
 22.2 step2 の軽減は正しい
 22.3 その証拠を示す
 22.4 ある思考実験
 22.5 中心力場は並進物体に剛体回転を与える
 22.6 天体中心の乗物の角運動量は最初からあって保存される
 22.7 重力の空間微分が物体に自転トルクを与える
 22.8 乗物からみた天体の軌道
 22.9 バンクで自然に曲がる喩え
 22.10 中心力場は円錐曲線


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1. 我々は、何Gに耐えられるのか

豆腐のような脳と肉体をもつ、人間の生存を保つには最高何Gまでの乗物を考えるべきだろうか。豆腐は、空気中ではちょっとした 振動で崩れる。しかし水中では、崩れない。人体も水中または海水中に入れることで耐えられる加速度は大きくなるのだろうか。 唐突に思えるこの疑問の理由は、次の通り。

人間が宇宙に出る方法は、現在は化学ロケットのシャトルに頼っている。しかし、将来もう少し経済的な方法を考えるなら、A.C.クラーク の静止軌道エレベータが望ましい。静止軌道に上がるのに重力による位置エネルギー分を支払うだけで済むからである。人ひとりを静止 軌道まで持ち上げるのは、家庭の数日分の電気程度でできる。それには、強度/密度の大きな物質を大量に作らなくてならない。1Gの中で 鉄は数km程度の長さが自重に耐えられない。クラークの"楽園の泉"では、ダイヤモンドのホイスカーという設定である。そして、3万6000kmの 構造物という規模が最大の問題である。

それよりも、(R.L.フォワード命名の)ロータベータ (回転エレベータの意味) の方が近い将来の実現性が高い。 ロータベータは、重心が地上の近辺の軌道速度で移動する回転する紐で、その先端は大気に接触する。 軌道速度を回転の接線速度が打ち消す形で、サイクロイド曲線を描いて、紐は地上を転がる大車輪のスポークのように運動する。 大気には先端が垂直に降り、抵抗となる横方向の速度はない。地上に接触する危険を避けるため、乗換え点には高度を与え航空機などを使う。 これは、最上部の16km/sの速度で宇宙に出るための手段であり、また地上の最遠地点への移動時間42分という、究極の地上移動手段にもなる。


図1. ロータベータ

ロータベータは、地球の周回速度 v= 7.91km/s を回転の接線速度が打ち消す必要がある。そして、これが大きいのが問題である。 速度一定のとき遠心力は、v^2/R だから、半径に反比例する。遠心力を1Gにするのは、10m/s^2 = (8 km/s)^2/Rから、R= 6400 km、 これは丁度、地球の半径であり、人工衛星の重力と遠心力の釣合に対応している。ロータベータの長さを1/3にすれば3G程度の遠心力になる。 1/5にすれば5G。これは人が耐えられる限界に近いが、それでもまだロータベータの規模が大き過ぎるのである。 大きなロータベータは地球円に外接して転がる車輪のスポークの端の軌跡である外サイクロイド(epicycloid)とみる必要があるだろう。

100 G の貨物用は、R= 64 km でよいので、現在でも製作可能かもしれない。25秒で頂上に達する。10Gでは4分 R= 640kmであり、これは 人間用には無理だろうか。ジェット戦闘機の乗員ぐらいしか、10G を超えるものを想定しない。それも1分も続けば恐らく失神するだろう。 しかし人間を適当な比重の塩水に漬けたばあい、10G程度の限界をもう少し超えるのではないだろうか。それは、ロータベータの規模を 小さくして実現可能にする、数少ない方法かもしれないからである。


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2. ロータベータの強度

身のまわりのふつうの大きさでは、ひもに重りをつけて回すとき、ひもの重さは無視でき、ひもの張力はどこも等しいとするが、このような 大規模な構造物では、我々のもつ材料の(強度/密度) の不足のため、全体がひもだけの構造になり、張力はひもの各部で異なるとしなければならない。

一様重力 g 下での均等なρ[kg/m]のひもの吊下げは、位置 y の張力 T(y) は、下辺 y0 から y までの自重であり、

  y
T(y)= g∫ρdt= gρ(y-y0)
  y0

張力 T(y) は、下辺からの距離に比例するので、上辺が最初に破断する。上辺を下辺より太くするため、断面積 s(y) を考慮し、ρの単位を[kg/m^3]とし、

  y
T(y)= g∫ρ s(t)dt
  y0

s(y)をt(y)に比例させると、断面積あたりの張力が一定になり、材料の強度を全体に利用できるため、s(y)'がs(y)に比例する エクスポーネンシャル型の断面積が有効である。一様重力でない場合、重力を g(y) とすると、

  y
T(y)=∫ρg(t)s(t)dt
  y0

ニュートン重力では g(y)= g0/y^2とすればよい。遠心力は、g(y)= y とし、y から端 y0 までの積分である。
   y0
T(y)= ω^2∫ρts(t)dt
   y


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3. ロータベータの運動

地球を周回する軌道をもつロータベータは、軌道速度を打ち消す自転回転をするひもであり、 その端が大気に降りて来る回転の真下では、軌道速度を打ち消すから垂直に降下/上昇し、大気の摩擦による減速がなく、乗り移りが容易であり、 その回転の頂上では、軌道速度の2倍をもち、ロータベータを離れるだけで地球を脱し宇宙へ出られ、 上昇のエネルギーは、何か小惑星帯から鉱物資源を降下させて取り戻せる。

しかし、その運動は、よく考えると並進運動と円運動の合成によるサイクロイドだけの (地球周回軌道と回転の外サイクロイドEpicycloidである) 単純なものではないのではないか。重力場でひもにつけた重りを垂直面内で回転させるとき、下部での速度と上部での速度が異なるからである。

振り子の運動
一様重力下のひもによる束縛運動として振り子がある。運動の周期が重りの重さや、振れの大きさによらず、ひもの長さだけによるため、 近代最初の時計として脈拍に代わって使われた。しかし、周期が振れの大きさによらないのは、振れ角度θが十分小さい場合である。 復元加速θ''=-(g/l)sinθ、x''=-(g/l)x、という2階微分が元のxに負の係数-w^2で比例する微分方程式は、周期 T= 2π√(l/g)の振動解をもつ。

(1)振り子の運動は、振子が真下にあるとき最も速さが大きく、振子の高さに応じて速度が減少し、ある高さで停止して、逆方向への運動を始める。 (その高さは、最下点の速度で決まる。)

(2)速度を大きくして、最高点を真横以上にすると、最高点に達してからの運動は、ひもが緩む。

(3)さらに速度を大きくして最高点が真上の位置以上にすると、停止点がなくなる。体操競技の大車輪のように、頂上で速度を落すが、 同じ方向に回転を続ける。しかし、この運動は、物体とひもを結び他端を固定した運動であり、ロータベータの運動の模型、 2 物体をひもで結んだものとは少し異なる。(1)と(3)とは、エネルギー保存則(P.E.+K.E.=const)だけで解くことができるだろう。


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長さ R のひもを固定点と質点に結んだ振り子では、真下からの角度θの振り子の速さ v(θ) は、運動エネルギー(KE=v^2/2)と 位置エネルギーPE(θとRによる)の和一定、v(θ)^2 / 2 - g R cosθ = 一定から、v(0)^2 - v(θ)^2 = 2 g R (1-cosθ)、 ゆえに、v(θ)= √(v(0)^2 - 2 g R (1-cosθ))。これが円上の運動であるから、dθ/dt = ω(θ) = v(θ)/R、θ(t) は、v(θ)/R の時間積分となる。 (これから、θ''= -(g/R) sinθ。真下速度をvとし、停止する最大角度 θmax = arc cos(1 - v^2/(2gR))。)


ロータベータの端が円運動をすると仮定すると、円上に 2 端の位置をv(θ)間隔で描くと、 上部で密集し下部で疎らになる。現在の他端とを線分で結ぶと、線分たちは一点を通り、交点は、 円の中心より上にある。2 端の中点である刻々の重心は、ある運動をする(ことになる)。 また、2端を結ぶ線分の長さが変動するので、この運動は、ひもによる束縛運動ではなく、 円環状のレールによる束縛運動である。これとは違って、ひもによる束縛運動では、線分の長さは一定である。 重心運動はありそうにないように思えるが、運動は円を描かないのではないだろうか。


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4. 二物体のひもによる連結

二物体 m1, m2 をひもで結び付けるとき、 ひもは、相手との距離を制限し、その張力は、相手方向を向き、大きさが等しい。 二物体を回転させ、張力があって、ひもが緩まないとする。

一様な重力、又は、地球中心の重力中では、重心は、放物運動又は円運動をする。 ひもの張力が、速度に垂直なら、二物体の速度は、v1, v2 の大きさは、その高さだけによって異なる。 それは加速度から導かれるだろう。

加速度は、a1= g + T/m1, a2= g - T/m2 であり、a1 + a2 = 2g, a1 - a2 = T/m1 + T/m2 である。 重心運動に関係するのは加速度の和で、張力に関係するのが加速度の差である。


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5. ロータベータは、屈曲するのか

ロータベータを二物体をひもで結んだものとするという単純化の目的は、円運動からの偏りを知ることである。最終的には、 一本の棒の太さや長さあたりの質量や、どれだけの引っ張りに耐えるかが問題であるが、それよりさきに、心配になることがある。

それは、これが屈曲の力を受けるのではないかということである。その場合、この構造物には、曲げに対する強さも必要になる。 単なる二つの重りとひもで近似するのは、そのことを無意識的に避けているのだろうか。

回転に伴って重心が運動しないなら、重心を中心とする円運動を描くことができ、 その場合上辺下辺での速度の違いは、棒に曲げの力を与えるかもしれない。

すべて巨大な構造は、軟らかいとみなければならない。鉄の塊の惑星も、まるで液体のように球形以外の形を取らない。 ロータベータ程度の規模でも、張力以外に耐えるものはなく、曲げに対する強度を期待すべきではない。 横方向には十分軟らかいのである。とするとこれは、棒構造でなくひもである。

それは、分布する重さのあるひもだろうが、重りとひもでその運動を近似するのは、あながち間違いではなさそうである。 結論としては、それは曲がらない。曲がるより前に、つねに張っているのである。(恐らく。)


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6. 我々は、何Gに耐えられるのか(続き)

2003年2月14日の海外出張、後方窓際の席で富士山を斜め上から間近に見たり、山脈の景色を眺め、今日はついていると思ったのだが、 違ったようだ。その機内で、ゴゴゴという音の後、変な振動がしばし続き、機長からのアナウンス。左第2エンジンをトラブルのため停止し、 近くの那覇空港に着陸すると。

そのとき、隣に座っていて飛行機の騒音の中で話を交わしていたのが元自衛隊で戦闘機乗りしていたというLSI実装関係の人だった。 Pbフリーという半田に鉛を使わないことによる弊害の話などを聞いていた。後尾に電力供給用のそれ以外に四つあるB747のエンジンは、 ひとつ止めても充分に飛行できるし、二つ止めても飛行できるが、原因がほかにあれば症状は更に悪化するので、 近くの空港に緊急着陸するのは最も適切な選択だという。

彼の経験を聞くと、戦闘機内は音が後に行くから非常に静かで、計器より先に振動とか音で異常を知るという。 この低い振動はエンジンの前の空気を取りこんで圧縮するコンプレッサであり、エンジンはもっとずっと高い回転数なので違う音になる。 その高い異常音でトラブルを知り、湿った砂浜に胴体着陸したことがあるという。 後で、エンジンの軸にひびが入っていたことを知ったという。正常なエンジンでしか方向は変えられない。 飛ぶときは方向を変えるとき、どこに緊急着陸できるかを、常に意識する。 離陸直後の異常では、元の空港に戻ることはできないのがふつうという。

飛行機を降りる際、コンプレッサのブレードが破断、エンジンカバーを貫通した事故と知る。 それが機内に飛びこんで乗客が死亡した事故も以前にあり、外に飛べばいいが、エンジン内に飛びこむと火を噴くという。 その日昼過ぎに着陸した沖縄に 6 時間ほど待たされ、その日の予定は全てふいになったのだが、 命拾いだったのかもしれない。横に解説者付きの事故を経験したのである。

その折に聞いた話、人間が重力加速度に耐えられるのは、4 G までは問題がないが、6 G, 7 Gでは、 数秒で、意識はあるが目が見えないブラックアウトという状態になる。 操縦者は、それで G を抑えて目が見えて、を意識的に普通に行うのだという。 F15 は、マッハ 2.7 位出し横田基地から北海道の千歳(青森の三沢)基地まで離陸し着陸するまで 18 分という。 すごい。これが庶民の足になるのはいつのことだろう。(Mar.15 2003)


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7. 我々は、何Gに耐えられるのか(Rama II)

1991年に刊行されたA.C.クラークとジェントリー・リーの"宇宙のランデブー2"(RAMA II 山高昭訳早川書房) を 2005 年の 5 月の連休に読む。どうして新刊本を買ってから 10 数年も放っておいたのか、1、2 日で読めてしまったのにと思う。要するに それは、この作品の状況と人物の描写、個性記述の多さ、ミステリー又は犯罪小説風の組み立ての問題である。明らかに、 クラーク単独の作品の高貴な孤独性を欠落していて、途中で読み続けられなくなったのである。

この作品で、11 G を越える Rama II の加速の人体への影響を避けるために、人体とほぼ同じ比重、密度の液体に人体を浸して 睡眠を取らせている。そしてこの作品にも感覚遮断と幻覚の話が出てきた。"アルタード・ステーツ"という映画作品でも捉えら れていた感覚遮断による幻覚現象は、数十年前から興味深い現象として知られていた。私のいた生物工学科でそのような実験が できたわけではないが、当時は、同級生のなかに感覚遮断を研究したくてこの学科にきたというひともいた。 これは、そのひとから聞いたと私があいまいに記憶するだけの話であるが、感覚遮断は最初の24時間ぐらいは、非常に体も心も 休まるという。ところが、24時間を過ぎると苦痛になるという。そして、そこから出してもらったときに、相手の話を全面的に 受け入れるという。つまりこれは、拷問と洗脳の道具である。しかしながら、高い G では、普通に寝るのと同じになって、 幻覚などを生むこともなくなるだろうから、耐加速度(G) 対策として液体浸の効果を考えてみよう。

人体の比重と同じ比重の液体に浸す液体浸は、仮に人体の内容が均一であるとすると、どこまで加速度に耐えられるのだろうか。 液体に架かる G は、液体の深さあたりの圧力を決める。1 G の重力の中で、水は 10 m あたり 1 atm (気圧)という、深さあたり の圧力勾配である。内外でつり合った圧力自体は、構造に全く影響しない。多少訓練した人は、100 m の水中、つまり10 気圧の なかでヘリウム酸素混合気体を呼吸する必要はあるが、耐圧服なしで潜ることができる。負圧は最大 1 気圧(真空)だが、皮膚だけで 数分間耐えられることが分かっている。

圧力自体は、硬い耐圧箱で内部圧力を減圧して消すことも容易である。それでは、圧力勾配が基本的な問題かと考えると、 1 m あたり 1 気圧程度の 10 G 程度では全く問題ないと思われる。100 G の中では 10 cm あたり 1 気圧になり、仮に人体が 横たわっても背中と腹側に 2 気圧程度の差が生ずる。しかしさらに、圧力勾配自身は本当に破壊力かと考えると、人体が基本的に 内外を分ける膜でできているとすると、膜のある深さによって圧力は大きく異なっているが、どこも膜の両面に等しい圧力が架かる わけで、それ自身、決して破壊力ではないことに気がつく。

そうすると、本当に限界を決めているのは、人体の中の比重なり、密度の不均一性でしかない。例えば、比重が 0.1 程度違った 2 種の構造、例えば骨と筋肉、脂肪の境界面は、100 G で 10 cm あたり 0.1 気圧という圧力差を生み出すだろう。恐らく、これが 構造破壊の主原因であろう。これは、人体を水中でなく空中に置くと不均一性は、比重が 1 も違い、背中と腹、その厚さを 20 cm として、2 気圧の圧力差を皮膚内外に生じることと話があう。加速度破壊も、その原因は比重、密度の不均一性である。

人体で最も大きな不均一性をもつのは、もちろん肺であり、気体を呼吸する動物には防ぎようがないかもしれない。深海に潜航 するのに呼吸に支障を来さない液体を開発した SF もあった。もし成功するのであれば、それもあり得るだろう。戦闘機乗りの ブラック・アウトは、脳血圧の低下が原因とされ、それを防ぐために下半身に圧力をかける耐 G 服を着ると聞いている。 戦闘機は、機械的な操縦性能を極め尽くし、その G 限界は人的限界だけであるという。もちろんロボット乗員や遠隔操作以外 であるが、高耐 G 装備、液浸は、戦闘を決めるかもしれない兵器の技術だろうか。しかしそうなら、すでに極限まで研究され 尽くしているだろう。(2011/11/16)


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8. ロケット、軌道エレベータ、そしてロータベータ

毎週にでも発着するはずでなかったのか。毎月だったのか、毎年程度だったか、一般人は乗ることすらできなかった。そして5台中2台も 爆発事故を経験した、スペースシャトルに。それで、余計に慎重になった。これほど危険な任務だった。シャトルバスではなかった。 チャレンジャー号(1986)と17年後のコロンビア号(2003)。

宇宙に出るための装置、ロケット、軌道エレベータ、ロータベータ、これらの基本的働きと性質、なぜそれが必要かについて。ロケットの外形は、 殆ど細めの円筒状の液体タンクである。それに吹き出し口のノズルが付く。燃焼室は、爆発的に燃焼するガスの圧力を一時的にため、首を使って 絞り、ノズルによってガスを広げるとともに方向を整える。さらに後尾には若干の羽根がつく。羽根は速度を利用して大気中のロケットの方向を 安定させる。このような基本的形態は、第2次対戦中ドイツが英仏に対して都市攻撃をするのに使った、エチルアルコールと液体酸素のV2ロケット から変わらない。それは、第2次大戦をそれまでの戦争と区別する都市爆撃のひとつの方法として、地球上の遠方から敵の都市に爆弾を打ち込むのに 少しだけ使われた(空爆の主役はB29のような爆撃機であった)。なぜロケットの形態は類型化するのか。それは、大気中速度がマッハ10以上の速度に まで達するからである。尖った先端とのっぺりした円筒である必要がある。そして最後尾のノズルの存在は、最重要な推進力が化学的な燃焼に頼っ ていることが原因である。ロケットは、燃焼排気の推進力によって加速する。排気ガスの温度はかなり高い。それをロケットの上部で流すとロケット 本体に影響が大きい。そのため、尾部に排気を置く。推力を与えるのに尾部を押すのは不安定で、バランス上良くないのは明らかであるのに。

ドイツの技術と技術者は、敗戦後の冷戦期に、米国とソ連に引き抜かれ、分かれてそれぞれミサイル開発を行った。それは「幼年期の終わり」の格調 高い冒頭節に現れている。我々が宇宙に出るための道具は、元々戦争が開発させた技術である。その後の核兵器の攻撃手段としての大陸間弾道弾ICBM の開発、後の宇宙開発(米国のアポロ計画による月面到着(1960-69)、ソ連の月の裏側の周回)は、宇宙が戦略的に重要な支配権の誇示ではあったが、 宇宙開発は軍事の一部ではなかった。米国とソ連はその技術を殆ど開示してきた(?)。というような我々が知る、宇宙技術の認識は誤りではない。 しかし、米軍が宇宙を軍事にも利用してきたことは周知され、ロシアも、中国も、互いの軍事力のための宇宙開発をしている。宇宙開発の技術のなかで、 主要なものとして、3つ挙げるならそれは表題の技術である。過去の宇宙技術を1括りにしてロケットという。最近、注目を浴びて来た軌道エレベータ、 そして余り知られず、それらの機能と得失は余りにも明らかなロータベータ。


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8.1 ロケット推進: 推力による加速

空気の(1.2kg/m^3)より軽い気体を使って我々は空中に浮かぶことができる。一定気圧では体積が絶対温度 T(K)= T1(C)+273.15 に比例(密度∝1/T) することを使う熱気球、水素H2やヘリウムHeの軽い気体(密度∝分子量)を使う気球は、大気の限界10km〜50km(!)の高度まで上昇に利用できる。 プロペラやジェットによる推進と翼の揚力による航空機の技術は大気を利用する。ライト兄弟の最初の飛行機から使われたプロペラ推進は、内燃機関 と回転する数枚の羽根が大気に速度を与え、対気速度が音速の6、7割になると推力が低下する。ジェットエンジンは、燃料と圧縮空気とを混合し 激しい燃焼の排気の推力による推進で音速の限界を超えることができる。採り入れた空気を圧縮する回転羽根をもつターボジェット、音速以上では 筒自身が空気を圧縮するラムジェットがある。しかし、大気圏外では空気を必要としないように酸化剤も搭載するロケット推進が使われる。

推力による加速

ロケットは、燃焼ガス(推進剤、作業物質)を後方に噴出することで推進し、大気圏外でも推進するために燃料と液体酸素などの酸化剤までを搭載し、 両者はそのまま燃焼ガスの質量になる。大気は速度の大きいときの抵抗として関係する。ロケットは燃焼の高温による膨張によって燃焼室に圧力を ため、それから少しだけ首を細くしたノズルによって燃焼ガスの方向を整え、ノズルの断面拡大によって圧力を下げ、速度を上げて吹き出す、 毎秒の燃焼ガスの質量x排気速度=毎秒の運動量変化(=推力)による推進であり、推力によって本体を加速する。

燃焼温度と分子量

ロケットが推力を得るには、まず、燃焼に例えば酸水素炎など、できるだけの高温(2800度)が必要である。それは、燃焼ガスの分子速度が必要だから である。そして、反応後の燃焼ガスの分子量mは小さいほうがよい。その方が同じ温度で(分子運動エネルギー mv^2=kT)、分子の速度 v∝√kT/m 分子の運動量は、mv∝√kTm だが、質量あたりの運動量 ∝√(kT/m) は大きい。同じ毎秒の推進剤質量nでは分子量mが小ほど運動量と推力 nv∝ 1/√(kT/m) を与える。

通常、同じ運動量mvを得るのに、大質量mを小速度vで打ち出すほうがエネルギー 1/2 mv^2 が小さいが逆である。これでは質量を消費するからである。


速度の加算

ロケット推進は、速度をもったロケットも、静止ロケットと同じく、推力による加速度によって速度(=加速度x持続時間)を加え、運動量(=推力x持続時間) を追加する。 この速度(と運動量)の加算によって、速度の2乗に比例する運動エネルギーを得るのに、速度に比例する動作とエネルギーで済む。例えば、速度10km/sを得るのに1km/s 加速の推進10回でよく運動エネルギーに必要な100回ではない。これはロケット推進の驚くべき利点であり、エネルギー保存さえ崩すようなロケットの動作原理である。 ロケットは推進剤を持ち運ぶという欠点はもつが、慣性系を乗り換える加速系だから、エネルギー的に不可能な速度まで加速できるのではないか?

排気速度以上を得る

燃焼ガスの排気速度は、限界速度でない。推進剤が十分にあれば、ロケットは排気速度の何倍もの速度に達することができる。燃焼温度の分子速度は 宇宙速度に全く達しない。それがノズルからの排気となって速度を上げるが、その排気速度さえ宇宙速度に達しなかった。それでもロケットは、 その速度以上になることができ(*)、1段式では宇宙速度に達しなかったが、2段式以上にして初めて宇宙に出ることができた(**)。

ツィオルコフスキーの式

本体の加速度は推進剤の噴射による推力(排気速度v0x毎秒の推進剤dm)による。本体の質量mは噴射した分だけ減っていく変数である。運動量保存から微分方程式、 質量 x 速度変化= -排気速度 x 質量変化、m dv= -v0 dm を変数分離し dv= -v0 dm/m、両辺を各変数で積分、v= -v0 log m + C、出発時の 0= -v0 log m0 + C を辺々引き、ツィオルコフスキーの式を得る。

v= v0 log(m0/m) (m0:初期質量、m1: 現在質量、v0:排気速度)

噴射制御によらず、速度は初期質量と質量との比 m0/m の対数に排気速度を掛けて求まる。m0/m=e(2.7182)のときv= v0である。m0/m>e なら v>v0。 この式は、無重力下の動作である。そのため、通常の注意すべき、重力下に関する設計点を示さない。しかし、最大エネルギー効率は求められる。

最大エネルギー効率

初期質量 m0 の燃料の噴射エネルギーから、質量 m の運動エネルギーを得る効率 (mv^2)/(m0v0^2) は、m/m0 * (v/v0)^2 = p (-log(p))^2、(p=m/m0)。 これの極値はpで微分し、(log(p))^2 + 2 log(p)= 0 から log(p)= 0,-2。0は初期点を与え、-2 は解(m= m0/e^2)。質量が初期質量の e^-2 (初期質量が 積荷の e^2= 7.39 倍)で、最大効率 4e^-2= 0.54 を与え、そのとき速度は、排気速度の2倍(v= 2 v0)である。

(*) 排気速度v0に毎秒の燃料 f を掛けて推力 F= f v0 になる。本体は推力Fと質量mによる加速度 a(t)= F(t)/m(t) - 1G (-1Gは重力下) によって加速する。 1/2 m v^2 = 1/2 kT から、温度Tの質量mの気体粒子は、1方向に v= √(kT/m) の平均速度をもつ。ボルツマン定数 k= 1.3806 x 10^-16 [erg/K]、陽子質量 m_p = 1.6726 x 10^-24 [g]によって、√(kT/m) は、陽子では v_p= 0.91 x 10^4 √T [cm/s]、 2800度(C)の分子量18の水の速度は陽子の1/√18で、v_H2O = 0.2145 x 10^4 √T、T= 2800+273= 3073, √3073= 55.43 から 1.189 [km/s]。 理想的なノズルがガスを収束し、3自由度に等分配するエネルギーを1方向に集めるとき、排気速度の最大は、√(3(kT/m))= √3 x 1.189= 2.059km/s である。

(**) 1段目の空の燃料タンクは無駄な質量になるから切り離し、2段目のロケットに点火する。2段目は1段目の積荷であり、1段目を比例的に1/aに 軽くしたロケットで、1段目の最終速度から開始し、同程度の速度を加える。2段目の積荷が実際の積荷になる。さらに3段にすることもある。N段は 最終速度をN倍するが積荷を1/a^Nに小さくする。aは7-8程度か。ここにも指数関数の病的状態がある。


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8.2 悲劇的な、重力下のロケット推進

地上から宇宙に出るとき、重力に逆らって上昇するロケットは、時間を消費できない。ある程度速く高みに達する必要がある。遅いとその高さの保持に 燃料を消費する。推進力が重量を超えないと上昇さえしない。ロケットの最初の目的は、足場のない状態の重力加速(1G=9.8m/s^2)に勝つことである。 最初の加速は重要で、その後の速度と軌道に影響する。そして、燃料消費によってロケット質量は減少していく。ロケットは下向きの重力加速度1Gを 常に引算した (推力/質量ー1G) が上昇加速度になる。一定推力では、最初の加速は燃料満杯で最大質量だから最小である。そのとき質量は直線的に減少し、 軽くなると加速が過大になる。(F(t)/m(t)ー1G) の推力F(t)をその積分の質量m(t)に比例させ、時間に伴って減少する指数関数にすれば一定加速である。 (燃料はロケット重量の大半を占め、最初の推力は殆どその後の燃料を持ち上げるためだけにある。)

初期の加速は1Gを大きく超えねばならない。1Gの重量相当の推力以下では上昇せず全て無駄になる。手早く昇り、推力を制御して推力を初期に回して 速度を上げ滞空時間を短くする。重力下の滞空秒数は、100秒で約1km/sの速度を失う。2Gで推力の1/2を無駄にして100秒で1km/sを得、3Gで 1/3を失い 2km/sを得、4Gで1/4を失い3km/sを得る。加速度の人体への影響(意識はあるが目が見えなくなるブラックアウト現象)のない4Gまでは初期加速は大きい方がよい。 それ以上の加速もできるだけ使いたい。推力制御のないロケットは後半の過大な加速に備えて初期の推力を抑制するが、推力を制御をすればその無駄を避けられる。 推力を質量に比例させる一定加速よりもさらに加速を初期に回す。低高度では殆ど効果がないが、高高度では重力が小さくなり総燃料を削減できる。 液体燃料ロケットエンジンの比推力(1Gでの持続時間)は300〜460秒、4Gではその1/4の75〜115秒。つまり1段では3.45km/sまでの加速が可能か?


比推力=1G推力持続秒=排気速度/g

ツィオルコフスキーの式に重力加速度 g が働くと、dv= -v0 dm/m - g から、v= -v0 log(m0/m) -∫gdt。gは空間積分すればポテンシャル、時間積分すれば 速度になる。重力下ではどのような制御が可能で最適か? 「比推力」は、ロケット外殻の重さを考慮しない推進剤だけのロケットの自重推力の持続秒数 r[sec]であり、燃料消費によって軽くなり弱い推力で1G持続できることを考慮しない。最初の燃料を1G推進する一定推力を続ける持続時間である。 τ*gの加速(τ=460sなら460*9.8= 4.51km/s)を推進剤だけのロケットに与える。dv= v0 dm/m - g にdv= 0をいれ、比推力τ[sec]= m/dm= v0/g、比推力 に重力加速度を掛け排気速度 v0=τ*g、比推力τ=排気速度/gを表し、推進剤を1G推進するのに毎秒消費する燃料が 1/460 (比推力の逆数) であることを表す。

一定加速4Gの指数関数の推力制御では、一定3Gの加速ができる。液体燃料で115秒の持続で、その流量は115秒で燃料を空にするが、途中からの持続時間 も115秒である、つまり無限にもつことになるが、自重は指数関数的に小さくなる。持続時間はロケットの燃料満載(質量m0)から空のロケット(質量m1) までに制限され、持続時間は τ/n *log(m0/m1)である。これで(n-1)g加速するから、最終速度は v=(n-1)/n *v0*log(m0/m1) 無重力のツィオルコフスキーの式に (n-1)/n を掛けるだけでよい(n:加速度G単位)。速度はn=2では無重力時の1/2、n=3では2/3, n= 4では3/4になる。

この対重力推力制御の最適解は大砲のような推力の始めへの集中であろう。大砲は短い加速路を使って最初に加速し筒中を進むに従って火薬の爆発の 圧力が低下し加速度が下がる。火薬を使う大砲は、人員用に許される加速度を超え、宇宙速度に達しない、空気中の抵抗による減速が著しい等のため 宇宙旅行に使われない。宇宙にでるのに抵抗を受けないよう大気圏外まで長くした加速路は望ましいが、10kmはまだ我々の建てた最高の建築物の10倍 以上である (それがなぜ難しいか考えるべきだろう)。初速が7.9km/sあれば地球周回、初速が11.2km/sで地球の重力から脱出できる。このとき、運動 エネルギーは全て位置エネルギーに変わり、ロケット特有の問題、Gを受ける滞空の無駄がない。勿論、滞空時間は存在するが、それによる損失がない 理由はすでに上昇に必要な速度をもつからである。これは、引きずり込む泥沼からの逃走である。

一般に重力ポテンシャル(位置エネルギー)の低位置で加速すると速度に得をする。地表近くで速度15.8km/sを与えると重力圏脱出後に√(15.8^2-11.2^2) = 11.1km/s 残るが、加速を分割して地表で11.2km/s、重力圏脱出後に残りの4.6km/sを与えると、それしか残らない。重力ポテンシャルによる速度変化 はエネルギーの加減算であり、速度の加減算ではないのである。宇宙へ脱出するにはgの空間積分の位置エネルギーは一定支払わさせられるが、浮揚状態 の期間のgは全て速度減になる。強制的上昇によって素速く昇り、gの働く時間を短くし、gの時間積分を避ければ重力による減速を小さくできる。 脱出速度Vに少しの速度vを加算すれば、重力圏を脱出した後の速度の大きな違いになる。 (1/2 (V+v)^2 - 1/2 V^2 = 1/2 v^2 + Vv (V:脱出速度、v:追加速度) のVv項である。脱出後に当然残る速度vのエネルギー1/2 v^2 だけでなく、Vvのエネルギーが余分に速度に残るのである。)

無重力では噴射制御によらず最大効率を与えるmがあった。重力下には最大効率を与える噴射制御があるか。最大効率質量関数(噴射関数)はあるのか? 脱出速度に達するまでの時間だけ減速を受けるから加速大のほうが効率が高い。その場所の脱出速度に達した以降の重力による減速は計算ずみで、重力は 脱出を防げることができない。しかし、それ以降も重力減速は存在するからできるだけ早期に離れるほうがよい。低ポテンシャル下の加速は、脱出後の 高ポテンシャルでの加速より効果的である。それは、燃料の持ち上げによる差かもしれないが、加算速度の2乗の運動エネルギーの説明がより理解しやすい。

m(v^2 + 2gh)/ (m0 v0^2) の最大化。エネルギー=運動+位置が一様重力下で一定(一様重力には脱出がない)。地球重力下は、2gh でなく -2GM/r である。 重力下、燃料の化学エネルギーは、力学的エネルギーに変化すれば、その後は、力学的エネルギー和 v^2+ 2gh 又は v^2 - 2GM/r は一定である。それゆえ、 初期に必要な燃料のエネルギーを全て力学的エネルギーに変換するのが最適だろう。そうすると燃料の質量を持ち上げずにすむ。目的とする質量を持ち上げ 速度を与えることは目的だが、燃料の質量を持ち上げ速度を与える意味は何か? 燃料は下でも上でも同じ運動量変化しか出さないが、上で同じ推進をするには 燃料を持ち上げないといけないのである。つまり、燃料の持ち上げに必要なエネルギーは、全て無駄になっていると考えられる。


比推力=1万時間(約1年)で光速に

比推力(1Gを出すことのできる秒数)、液体燃料ロケットで300〜460sec、核融合ロケットでは数万秒(推定)、これが1万時間(約1年)で光速近くになる (10m/sec x 3600 x 10^4= 3.6 x 10^8 m/sec。勿論、光速制限がある)。ロケットの速度は持続時間に比例し、運動エネルギーは持続時間の2乗に比例 する。比推力の1万時間:400秒の比は約10^5である。E= mc^2=1/2 mv^2 から、質量を全てエネルギーに変換しないと光速には接近できない訳でなく 10万倍でよい。化学ロケットの持続時間の10万倍で100億倍のエネルギーを得る。ロケット推進の速度加算は、エネルギーの魔法である。(実は、長い 持続時間は難しく、2乗の温度比 3000K x 10^10= 3x10^13 K。比推力1万時間は30兆Kである。)

高温によらずイオン推進はどうか。高温は電圧では小さい。最初聞くとき誰も信じない、1万度は1eVで1億度は1万Vでしかない(カラーテレビのCRTの 加速電圧は2万V。1eVは1万1600K)。電場で加速する速度は温度によるより均一である。温度ではマクスウェル分布で速度が拡がる。3自由度に均等に 分布した速度を噴射の1方向に集めるノズルは理想的にいかない。電場加速は最初から1方向に一定速度を与えられる。現在、電気推進はpやHeは使わ れず、XeやArの電離で比推力は数千秒から1万秒である。Xeの原子量は131.293もある。pはXeの11.5倍の比推力のはずだが。pとeを同じ電圧で逆向き 加速し、pは水と比べて1/18の原子量、√18=4.24倍の速度と比推力になる。さらに、電子eはpの1/1836の軽さで、eは等温のpの√1836.1526=42.85 倍の速度だが、e噴射には必ず同数のp噴射を伴うから、eの軽さを生かす推進は難しく、それぞれ加速し噴射後に混合しても、eの推力はpの1/43だか らp推進だけと殆ど変わらない。

電圧を0.3Vから2万Vに上げ(温度は3000度から7万倍の2億度)、比推力はその√で264倍。400秒が4倍と264倍で約1000倍で40万秒。200万Vならさらに 100倍のエネルギー200億K、比推力は400万秒だが、必要な電力を2万V1A(20kW)と仮定するとどれだけの推力なのか。一方、電離水素ガスを毎秒1gr 推進すると1年分は31.5tと適当な燃料量だが、1gr(=1mol)の陽子と電子の電荷は 1.602 x 10^-19 C x 6.022 x 10^23= 96485 C/s=約10万 C/s。 これに2万Vかけると、2万V x 10万C/s= 20億 CV/s=20億 J/s = 20億W? 思った値より5桁も大きい。これを20kWにするには質量を0.01mg/sにして 燃料の総質量が x 400万s = 40gr は何かおかしい。物理で常にある不思議な量、陽子1モルの電荷量(1ファラデー)がいかに大きく、少し動かすと 非常識なほど大電流10万Aになるということか。Cu 1モル63.55gの電線を1m程度とすると1Aではたった0.1mm/s程度の移動であったことを思い出す。 水滴のなかの1%の電子を失ったら、1mの距離で電気力がどれくらいかとファインマン物理は問う。それがタンカーの重さ程度でもなく、地球の重さ にもなることをいう。それを知らない人には無駄な話だが。印象的なこの話は、我々がまだまだ電磁気力の利用をしていないことを教える。

高温以外にイオン化率を高めることは難しい。そしてイオン加速の電力を得るには物質からエネルギーへの変換効率が効いてくる。そして、乗物が 目的の速度になるにはその分のエネルギーを消費するという当然のエネルギー原理が姿を表す。比推力がτ[sec]なら、1Gでτ秒後に、9.8τm/sの 速度。v= v0 log(m0/m)で到達する速度は、m0/m が2.7182の(つまり宇宙船の空質量の1.7倍の燃料を積む)とき v= v0(最終速度は排気速度)、結局、 v0を大きくするには高温が必要である。ロケット推進にエネルギーの魔法はない。


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8.3 重力から解放する軌道エレベータ

ロケットは、重力以上の推力がないとその高さに止まれず、落ち始める「加速度場」の中にある。地上の物体が重力場の中で落ちないのは、地面が 重力に対抗し、重力と同じ大きさで逆向きの力「抗力」を出して支えるからである。通常、ロケットが宇宙に出るとき、推力の一部を重力に対抗さ せて使うが、もし、空間に足場があれば、重力は足場の抗力に対抗させ、推力を重力対抗に使わず、燃料のエネルギー全てを上昇の仕事(重力x距離) に使える。その場合、必要なエネルギーは通常のロケット推進の費すエネルギーに比べ、非常に小さいだろう(*)。

軌道エレベータはこの問題を現実に解決する。天国からの蜘蛛の糸のように、地球の自転に同期した静止軌道からケーブルを垂らし、乗物を空間に 支持し重力を支える。我々は地上と同じく、重力をケーブルに任せてゆっくりと登り、位置エネルギーを支払うことができるため、ロケットと比べ 効率が飛躍的に高い。ロケットは1kgを上昇させるのに100万〜200万円かかった。これに対し軌道エレベータは、人ひとり(100kg)の重さを上昇させる のは、家庭の数日分の電気エネルギーですむ。勿論、上空からの質量の下降を利用すれば、その分の位置エネルギーを取り返せる。

周回軌道へ 100kgを上昇させるエネルギー 1/2 x 100kg x (8km/s)^2 = 3.2 x 10^9 [kg m^2/s^2] = 3.2 x 10^3 [MJ = 1/3.6 kwh] = 890 kwh は、 一般家庭がフルに1日消費する電気エネルギーを 3kwx24h= 72 kwhとして 11.3日分である。脱出エネルギーはその倍の 1780 kwhで、静止軌道へは 脱出の 4/5。ロケットの効率は結局、どれくらいなのか。それは、現在の値段からは何と、1/1万以下である。殆どをドブに捨てている。

スペースシャトルの発射見学で人々は、遥かに離れた発射場の地獄の業火と白煙を見て、空に向かって両手を振り上げて「行け、行け」と叫ぶ、 その後、地震と地響きのなかで、凄まじい轟音を聞き、感動し泣くというが、それには上の事情がある。それは米国人の愛国心の高揚だけではない。 どれほどの人類の歴史がこれに費されてきたか、どれほどの我々の宇宙への夢がこれに架かっているのか、人々は知らないし関心をもたないだろう。 それでも、この重力井戸の恐ろしさを知って泣くのかもしれない。我々のこのような段階を思い知って泣くのかも知れない。 我々はまだこの地獄にいるのだと。

(*) フォン・ブラウンのアポロ計画のサターンV型ロケットは、3038tの全体質量で低軌道には118tを、月軌道に47tを送り込む。位置エネルギーは 脱出速度に対応して、質量が2800度にも燃焼すればその何分の1かのエネルギーを得るから、天空からの紐があれば、積荷の数倍の燃料で位置エネル ギーは支払えるはず。低軌道では25.7倍,月軌道には64.6倍の全体質量は、ロケット推進による重力圏脱出だからである。スペースシャトルの場合、 全体重量2030t、(固体燃料ロケット2本(推力 1270t)と、液体燃料タンク(推力555t)と、軌道船(推力5.4t)) 低軌道へ24.4t、3.81tの積荷。2000tを 使って111t(積荷25t)の乗物を低軌道へ帰りは100tである。


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8.4 悲劇的な、自力這い上がり

通常のエレベータが紐に吊られて上下するのと違って、軌道エレベータは、紐との摩擦などの接触を利用して上昇するだろう。なぜなら、ケーブル は余りに長大で乗物よりずっと重く、上下に動かすことはできないからである。(分割すれば吊り上げ型にできるのだろうか。) 摩擦で推進力を得る 地上車と同様に例えば速度200km/hでは、1日で5000kmであり、3万6000kmは約1週間の旅程になる。高度が上がれば重力は減る、重力が1/2になれば 速度を2倍にして速度 x 重力=一定パワー(仕事率)で上昇しても、航程は1日がかりである。(力 100kgw は 約1kNで、200km/h= 55.5m/s, 1kN x 55m/s= 55kJ/s= 55kW。これを24時間続けて、55 x 24= 1320 kwh。静止軌道(1424kwh)までは 1.08 日。または、6400km/200(km/h)=32h。)

どこまでも可能なゆっくりとした上昇は、ロケット推進と比べたときの軌道エレベータの利点だが、ロータベータと比べるとき、運搬能力を制限する 欠点となる。

勿論、リニアモーターカーのように磁気浮上しながらケーブルに重力を預けることもできる。地上での高速鉄道ですら磁気浮上しようとしている。 軌道エレベータが摩擦に頼る必要はない。車輪の接触を利用するとき、車輪の接触点の速度0を意味する。車輪を使う地上の乗物の速度は車輪半径と 車輪の角速度の積だが、速度が数100km/hに制限される。制限が空気中の音速によるなら大気圏外では制限でなくなるが。車輪の遠心力のため地面 との圧力が減るのか、車輪がもたないか。断続的にロケット噴射をしてその間、宙に浮く上昇はどうか。接触期間はケーブルを押し下げて上昇できる のに、非接触期間は重力加速を受けるから、接触期間を減らすことは利点がない。

それでも、磁力を使えば非接触で力を与えられる。良導体又は超電導体への渦電流を誘導する誘導モーターや、線路に埋まった磁石のN/Sに合わせて、 車両側の磁極を切替え、推力を与え進む同期式モーターがある。これらは非接触で推力を与え、車輪による速度制限がない。ロケットと同じく推力から 自重を引算するが、重力はケーブル側に渡し、ロケットと違って、空間に止まるのにエネルギーを必要としない。またロケットと違って、燃料を搭載せず に、パンタグラフから電気供給すれば済む。電線が長いので電気抵抗が大きくなるからとレーザー光でエネルギー供給するとか、カーボンナノチューブ の超電導を使うなど、軌道エレベータには様々な問題がすでに議論されている。しかし、それらは(素材問題が解決された後の)、 這い上がりに伴う 問題であり、這い上がり自体の問題を見落している。この距離の走行は1回で地上車の耐久限界に近く、坂道でなく垂直の自重に逆らう走行である。 そのような走行は無駄であり、他の方法がある。


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8.5 巻き上げられて上昇

ロータベータも衛星エレベータと同様な天空からの蜘蛛の糸だが、ロータベータでは乗物は自力で這い上がらない。ロータベータの回転で巻き上げ られるだけである。wt は真下で0とするとき、水平方向の平行移動(wt, 1)と、回転(-sin(wt), -cos(wt))の和で、

x(t)= wt - sin(wt),
y(t)= 1 - cos(wt)

の運動をする。乗物は回転の向心力によって、搭乗初期に垂直に引張り上げられ、水平加速はない。これは、大気抵抗を避けるにもよい。徐々に 横方向に加速され、ロータベータの半回転分の遠心力を受け、頂上で横方向の速度をもつ乗物は解放される。ロータベータの軌道速度の2倍の約 16km/sをもって、紐から離脱するとき地球や太陽系からの脱出速度を得ている。紐の張力が結果的に紐に垂直な速度を与えるハンマー投げである。 乗物は地球の太陽公転速度(30km/s)と任意の方向のロータベータの頂上速度(16km/s)とを加えた初速をもって惑星間に出ることになる。その速度は、 太陽系の重力圏をも脱出する速度であり、速度調整して太陽系のどの惑星の近傍にも到達できる。

これは、"重力カタパルトなど"の最初にとり上げた、天体の速度の2倍までを得るスイングバイの理想型をしていて、スイングバイの引力を天体の 重力から、人工の紐による張力に置き換えたものになっている。重力でない紐張力の着脱は任意で、速度が望みの方向のとき、紐から離脱すればよい。 (一度離れるともう一度接続するのは難しいが。)

ここで、考えて欲しい。搭乗時、ロータベータの回転の遠心力に加えて同方向の地球の重力があるが、遠心力は方向を変え、中間地点では地球の重力に 垂直になり、最後に頂上では遠心力と反対方向になって遠心力を軽減するだろうか? つまり、ロータベータ加速の後半に前半のGより小さく楽になるか? 浮遊物のなかで遠方からの重力は感知できないから、重力は関係なくなり遠心力しか受けないだろうか? 下部で重力は付け加わるのか? 軌道運動系では、 軌道運動の遠心力が重力を打ち消し、ロータベータ中心で無重力である。ロータベータの構造計算の張力にも重力を考慮はしない。軌道運動系では、 ロータベータの回転運動だけだ。ではいつ軌道回転系に移行するのか。ロータベータ搭乗時に地球の重力は消えるのだろうか。様々な疑問が残る(*)。

(*) ロータベータの上下位置で速さが違うのは地上からみたときである。これは、地上で上下の重力ポテンシャルの差を意識したもので、軌道回転系 では遠心力が重力を打ち消し、ロータベータは上下対称運動をする。下辺で重力が付加し上辺で重力が減殺するなら、下辺の速さは上辺の速さと異なる 必要があるが、ロータベータは軌道回転系からみて上下対称運動である。つまり、重力が下辺で遠心力と同方向で上辺では逆方向とかは空想である。 搭乗時、地球の重力が軌道回転系の遠心力に置き換わる。R=6400km (r=1)のロータベータでは、地上1Gの重力は塔乗時に1Gの遠心力に変わるのであり、 2Gを受ける訳ではない。1Gの遠心力に対応した1Gの紐の張力が存在し、2Gの張力はない。(ロータベータのstep2までのG軽減からいえば、1/8 Gに変わる。)

搭乗時に1番大きいのはロータベータの回転の遠心力であって、我々をロータベータの端の床に押しつける。そして、地上の重力1Gは、同じく下向きに 存在し、さらにロータベータの軌道運動の遠心力(軌道でその場所の重力と釣合うから)は1G以下だが上向きに存在し、1G重力を殆ど打ち消すのである。


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8.6 初期ロータベータの規模

最初のロータベータの設計の長さ(2R)は、12倍のテーパの8500km であった。遠心力は 1.4Gで乗客は最大2.4Gしか経験しない(*)。両端が地球に3箇所で (1端は1.5箇所で)接近し一周する遊覧飛行である(確かにそのほうがよい、その規模で実現可能なら)。しかし、大きいロータベータはその規模が問題で どれだけ楽観的でも、長さ2倍はひもの重さ2倍である。実際の重さは4倍、8倍かもしれない。紐の限界長を超えると、紐にテーパ(先細り)を持たせ指数 関数的な断面積にして、張力の原因の殆どが紐自体の質量という病的症状になる。12倍のテーパ、100tの積荷を上げるのに7500tの重量。そしてこの設計 は50年を経ても実現しない。静止衛星軌道エレベータはさらに、重心(静止衛星軌道)まで3万6000kmで、100tの積荷を上げるのに60万tの重量である。 初期ロータベータの4-8倍の長さと80倍の重量。実現性の低さはその規模の壮大さである。

大規模な設計は、規模を意識しない勇敢さをもつ。未来には可能かも知れない。大規模な建造物に我々は感動する(子供のとき父親と夜のダムの中を見 学できた。足が疲れるほどの距離の往復の必要な建造物であった。) しかし、大規模さは実現性を低くする。何倍かの素材を使うものは、小規模なもの より必ず遅れる。ここで、軌道エレベータと初期ロータベータの間での80倍という質量の比は、どれぐらい実現性を阻害するか、全く不明である。 ロータベータは、紐の半径が短い小規模でも、動作が変わる訳ではないが、加速度が人体に与える影響が大きくなる。そして加速度が大きい分、短時間 で頂上に達することができるようになる。10GのR=640kmは、πR/v=3x640km/8km= 240sec たったの4分間。必要な液浸の手間を考えると宇宙への上昇を 楽しむこともない。液浸不要な5GのR=1280kmではその倍の8分間、その方がありそうだ。

(*) 初期設計 2r= 8500kmは、r=2/3、これが1.4Gという遠心力は、1/r=1.5 からだろうか。step1 の軽減をいれると r^-1 (1+r)^-1 = 0.9G。 step2の軽減を入れると0.32G。最大2.4Gというのは、1Gの重力を加算しているようだが、初期設計の誤りと思う。


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8.7 小規模ロータベータ

小ロータベータは回転半径を減らし、遠心加速度が大きい。軌道速度を打ち消すための接線速度一定で加速度G= v^2/rは半径に反比例する。これは、 余りにも原理的で実際は、9章のstep1〜3の軽減を考えることができるが、その紐の強度の困難は同程度か、又は小ロータベータの方が難しいだろう。 ケーブルがある長さで1G重力に耐える長さは破断長といわれ、素材の進歩を待つしかない。同程度かもしれないというのは、ケーブル重が支配的なとき、 G×ケーブル長が破断長として使われるからである。これと、回転体の半径の破断長はその2倍であり、接線速度一定は半径1/4は4Gに対応するが、 破断長からは半径1/2が4G重力下の破断長に対応する。1G破断長の1/2の半径の長さが遠心4Gに耐えることは同じでなく、実際に積荷の4倍の力に 耐えなければならない。Gの4倍は長さを1/2にするが、断面積を4倍にする。テーパが変わらないなら、短い分、楽である。

12倍のテーパを4250kmの半径に使う初期設計と同素材で同じGなら、√12 = 3.46 倍のテーパを半分の2125kmに、1.86倍のテーパを1/4の1062kmに使う。 0km から 1000km ごとにテーパ2倍と単純化し 1, 2, 4, 8, 16 で16の所が12である、こういう断面積列で重さは累積、0, 1, 3, 7, 15, 31 であり、 1000kmなら1の重さが4000kmでは31になる。単純化をやめ、1, 1.9, 3.46, 6.45, 12 のテーパの累積は、0, 1, 2.9, 6.45, 13.9, 25.9だから、 4250km は1062kmの25.9倍の重さになる。しかし、これによる半径1062kmのロータベータの重量 7500t/26=288t は余りに楽観的で、積荷が片側100t で、ひもが88tというのはあり得ない。Gの増大が太さ4倍だとすると1000t程度になるだろう。

但し、ロータベータでは、R=640kmと R= 1280km との10Gと5Gには大きな違いがある。10Gでは4分間でも生存が危うく、液浸の必要があるのに対して、 5Gの R=1280kmでは上昇は8分間だが液浸の必要もなく、健康な人なら体への負担を心配する必要がないだろう。初期設計(2R=8500km)は余裕をとり 過ぎている。R=1000km程度が基本設計サイズであろう。貨物用自動ロータベータは、R=640km程度で十分である。人員輸送の前に自動化した貨物運搬 で十分テストすべきだろう。いずれも現在は、実現できない。小規模ロータベータの実現性が、強くて軽い比強度(k/ρ)の大きい繊維の大量生産に 架かっているのは、大型ロータベータや軌道エレベータと同じである。


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8.8 比強度はどれ位

ケーブルの比強度の古い表現 kgf/mm^2 は 1mm^2 で何kg重に耐えるという強度を表し、比重が1ならこの値が破断長kmになる。デュポン社のケブラー では破断長は256km、スペクトラでは369, ザイロンでは384という。近い将来のケーブルは、現在の数倍の強度で、1t/mm^2= 1000 kgw/mm^2であり 比重1なら1000kg/m^3から破断長1000kmであろう。100t荷重用ケーブルの断面積は1cm^2でしかなく。両端の巻き上げ機にのる10kmの重さは、10km x 1cm^2= 1t しかない。1000kmは 100t。ロータベータのケーブルの重さが 200t で搭載重量と等しい。そこで、少なくともロータベータの半径程度の 破断長でないとテーパが厳しく実現しないと予想する。破断長とは一様1Gの吊り下げでテーパなしで破断しない長さである。遠心力(rw^2)のGは、 端から中心に向かって直線的にG低下するから、端からの累積の最大張力は3角形の面積が長方形の1/2で、破断長の2倍のロータベータ半径が可能である。 荷重も比重もGに比例するが破断長が1/√Gになるから、半径1000kmの4Gのロータベータは、破断長1000kmの素材で設計してよいことになる。

しかし、質量の上昇にはエネルギーがいる。小惑星の鉱山の鉱石を上昇分と同じだけ降ろして、ロータベータは回転速度を保持する。そして動作開始も 小惑星の質量を利用するだろう。積荷を宇宙から降ろすことで回転速度を目標速度に合わせる。最初は軽いコンテナと細い紐を使い、徐々に大きな コンテナと太い紐に置き換えるだろう。この、速度の保持のために小惑星を壊して質量を降ろす必要があるのは欠点である。我々は小惑星を壊して 利用した経験がない。小惑星の商業利用にどんな問題が伴うか知らないし、現在では小惑星の移動は、危険な軍事的脅威となる。地上を動き周り、 どこからでも乗降できるのは利点である。step3 の地球自転を利用する赤道だけからの乗降は不便である。軌道エレベータと同じだが赤道までの 移動時間が大きい。


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8.9 1000倍の運搬能力を1/1000の素材で

1週間と10分。静止衛星エレベータとロータベータは、上昇装置としてどちらが優秀だろうか。軌道エレベータが 1週間で1回10人を運ぶなら1年間 で520人を静止軌道上に上げられるが、ロータベータは10分で宇宙に上げられ、年間最大 52万人を運搬できる。それは、全く違う規模である。 1000倍の頻度で物を軌道に上げるロータベータがあるとき、他の方法(軌道エレベータ)は、生き残れないだろう。

反論:いや、赤道上に限定されるとはいえ、軌道エレベータは数多く建設できる。静止衛星でもある軌道上の宇宙ステーションはそのうち連結され 軌道リングになり、そこが新たな無重力の居住空間になる。軌道エレベータはそのリングに渡るための数多くのスポークになる。それに比較して、 ロータベータは交通整理が必要で数多く飛ばすことはないから、軌道エレベータの本数を増やして運搬能力は徐々に増加するから、1000倍という 比率は少し違うのではないか。

しかし、軌道エレベータの幅を2倍にすれば耐重量2倍に容易に太くできるが、1000倍に太くはできない。しかも、半径1000kmのロータベータは、 軌道エレベータの1/1000の素材でできる。ロータベータを1000機飛ばしても、ひとつの軌道エレベータ程度の費用である。そして、1000機はまだ、 現在の旅客機のように交通管制できる範囲だろう。つまり、素材費用からいえば、ロータベータは軌道エレベータに比べ100万倍の運搬能力をもつ。 軌道エレベータを1台建設する費用で、ロータベータなら年間運搬能力を10万人と最大値の1/5にしても、年間10万人 x 1000機 x 10年で、10億人が 宇宙に出られるのである。このことの意味は、なかなか理解できにくい。

数百年後、どちらが残っているだろうか。どちらもないかもしれない。どちらもあったが、人々とともに消えてしまった(ついに人類は旅立って しまった)か?、どちらもできずに、人々はいなくなったか(戦い、不可解な病気の進化で)? 人々はいるが、まだそのような夢を抱く人はもはや いないか(文明を失っている)。永い中世の不況デフレが続いていまの私と全く同じ文章を繰り返し書いている人がいるとか。そのような未来が 見えてくる。これは、そんなに容易なことではないのかもしれない。

人類に役立つ道具の発展の動機は、戦争でなければ、経済が理由になる。誰が見返りもなく不可解な道具に投資するだろうか。どうして現在が 100年前でなく100年後でなく宇宙に出て行くときといえるのか。何千億の見返りが、月の石だけのような話では、誰も話に飛びつかない。宇宙に 出る道具を考えるより、宇宙に出るメリットを考えるべきで、さらにメリットが本当かを考えれば、嘘と気付く。そう話す人がやって来る。 ロータベータのような動的機械は、宇宙にでるためのパスとしては使わない、それほどの運搬能力は要らないと結論される、ロータベータの加速度が ひどく有害と判明する。軌道エレベータはでき、1000年後に軌道リングを眺める情景が「楽園の泉」にある。本当のことは分からない。ここは、 地獄ではなく楽園かもしれない。地獄とは、どんなものか知らずに住むのが地獄の本質である。


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8.A 放擲速度を利用した太陽系内の高速移動

4Gで10分間の加速の後、例えば火星に向かう。長期間(2週間)の無重力状態の後、火星に接近する。火星の距離は、大接近のとき5500万km=0.33AUだが、 地球から火星へは、軌道から軌道への放物線(速度15+30km/sはほぼ太陽系脱出速度)の遷移軌道をとる。地球と火星の位置関係によるが、距離が1AUなら、 地球の公転速度を初速に利用し、45km/sの速度をずっと利用するなら15000万km/45km= 333万秒= 38日=約 1ヶ月、位置関係が良く距離半分0.5AU なら 2週間である。火星側での減速は、外惑星火星の軌道半径が地球の1.5倍あり、重力ポテンシャル差は 1/1 - 1/1.5 = 1/3で地球軌道近辺の脱出エネル ギーから 1/3が消え45km/sは、火星近辺で36.7km/sに低下している。さらに逃げる火星の軌道速度 24.5 km/sが引かれ 12.2km/sに自動減速される。 火星のロータベータは、火星からの脱出速度5.03km/s から周回速度が3.55km/s、頂上の速度はその倍7.11km/s までしか自由でない。その差の分5.09 km/sは、ロケットによる減速が必要である。少し旅程が延びるが、地球のロータベータ加速の16km/sの一部を何かで逃し11km/s程度にして人工的な減速 なしに済ますこともできるだろう。

「火星へ2週間で行こう」まるで旅行業界の宣伝だが、軌道エレベータではまだ上昇を終えたばかりで、それから数ヵ月から半年一年の旅が待っている。 長期の閉鎖空間での生活は耐え難いから、宇宙こそは、できるだけの高速な旅行をしないといけない、そこにはとんでもない静寂と、退屈が待ち受けて いる(*)。速度をもつこと自体の危険は宇宙では殆どない。それよりも、どうやって減速するかである。地球サイズの1万〜10万倍の距離(太陽地球間1AU =1億5000万kmは地球直径の1万倍以上、海王星までは30AU。)がある惑星間では、使えるエネルギーに合わせて数10km/s〜数100km/sの地上の乗物の時速 の3600倍の秒速(1296万倍の運動エネルギー)を使う。

それに比べて、恒星間にはさらに10万倍の距離があり、光速の数分の1まで加速しても4光年先の隣りの恒星に10数年が必要になる。それは、人類には 到達が無理かもしれない、遥かな深淵である。ロケット推力は、推進剤の温度を上げれば向上する。化学ロケットでなく、例えば、D、TかHe^3ペレット をレーザー爆縮する核融合では1000万度を超える温度にもなる。推進剤はH2とHeガスである。これを推進に使うと、比推力という質量あたりの推進力 x 時間は大きい。しかし、燃料を加速するために燃料を消費する、ロケットによる地上からの重力圏脱出の非効率と似た状況である。 光速に類する速度を出すには、比推力は数万秒でなく1万時間(1年)が必要である。物質の静止質量に近いエネルギーを必要とする。 核融合の質量からエネルギーへの変換効率0.7%では、数1000km/sを出せるだろうが、数万〜数10万km/s は不可能だろう。

(*)1969年に見た"2001年宇宙の旅"。太陽地球間の1AUに8分20秒かかる光速の制限、地上との対話会話はできない、ずっと風景は変わらない、毎日の 回し車のトレーニング、本当の目的は HALには教え、乗員には知らされない、ついに、狂った機械と殺し合い、人類の無意味さ愚かさと、月で発見 された遺物からの信号、前哨(何かが何かに知らせた)、そして、全てこえるものとの対面、記憶の吐き出しと再構成。最近に見たSF映画の"ゼログラ ビティ"と"インターステラ"は、これは宇宙の情景ではないのではないかと思うその騒がしさに違和感がある。


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9. ロータベータのG軽減

ロータベータは、最も単純な近似では、地球の周回速度 v= 7.91km/s を回転の接線速度が打ち消すことから、速度を一定の遠心力 (v^2/r) は、 半径rに反比例する。遠心力を1Gにするロータベータの半径は、9.8m/s^2= 6.4*10^7m^2/s^2/Rから、R= 6400 km、地球の半径である。これは、 人工衛星の重力と遠心力の釣合に対応する。地球の半径を1とするロータベータの半径r=1/3なら遠心力は3Gであり、半径r=1/5なら5Gである。

加速度は、1/r [G]

ロータベータの実現性にとって問題である、特に小さなrのときの遠心力の大きさは、次のように軽減される。


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9.1 step1:重心の高度によるG軽減

step1: ロータベータの重心が公転と自転をするとして、重心の公転は地表すれすれを飛ぶのではなく、地表からロータベータの半径の高さを飛ぶ。 空に浮かべた R=6400kmの回転半径のロータベータは、重心は地球の半径の2倍の距離になる。この軌道上の重力は 1/4 G、重力ポテンシャルは 無限遠までの1/2である。そこの軌道速度は地表の軌道速度8km/sの1/√2倍= 5.6km/s。速度の2乗は1/2で自転の遠心力は、v^2/r= 0.5G になる。 小さいロータベータでも少しはこの効果があり、R=1280km の5Gが4.17Gに、R=640kmでも10Gではなく9G程度になる。

地球半径を1として半径r、軌道半径は1+r、重力は地上の(1+r)^-2倍、軌道速度は、地上すれすれの(1+r)^-0.5倍、軌道周期は (1+r)^1.5 倍、 公転1回に 1+1/r 回自転、自転周期は√(1+r) 倍。自転の遠心力は、rw^2= 1/(r(1+r)) Gである。

軌道速度は 1/√(1+r) になり、加速度Gにはその2乗が効き、1/(r(1+r)) [G]


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9.2 step2:地表速度小によるG軽減

step2: さらに上図左のように、r= 1 の6400kmのロータベータが、地表速度は公転速度 5.6km/s のさらに半分 2.8km/s である。 この地表速度を打ち消すようロータベータは自転すればよい。vは1/2√2倍、v^2は1/8倍、遠心力 v^2/rは1/8Gである。 r=1/10のとき 10G、又は上の軽減計算では9G、と思った加速は、7.51 G にまで軽減される。(2013/12/11)

地上と軌道まで(1+r)の逆比 1/(1+r) の地表速度は、加速度Gにはその2乗が効き、1/(r(1+r)^3) [G]

                表 1. ロータベータ半径に対する遠心力の2段階の軽減
+------+------+------+---------------+---------------+-------------+------------------+------------+
| 半径  R(km) |遠心力|   軌道速度v1  |  step1 遠心力 | 地表速度v2  |  step2 遠心力    | 頂上の速度 |
|   r   6400r |  1/r |  7.91/√(1+r) |  1/(r(1+r))   |  v1/(1+r)   |  1/(r(1+r)^3)    |   v1 + v2  |
+------+------+------+---------------+---------------+-------------+------------------+------------+
|   1  | 6400 | 1.0G | 1/√2=5.59km/s| 1*(1/2)=  0.5G|1/2= 2.80km/s| (1/2)^3=   1/8 G |  8.39 km/s |
|  2/3 | 4250 | 1.5G | 1/√(5/3)=6.13| 3/2*(3/5)=0.9G|3/5= 3.68km/s|3/2*(3/5)^3=0.32G |  9.81 km/s |
|  1/2 | 3200 | 2.0G | 1/√(3/2)=6.46| 2*(2/3)= 1.33G|2/3= 4.31km/s| 2*(2/3)^3= 0.59G | 10.77 km/s |
|  1/3 | 2133 | 3.0G | 1/√(4/3)=6.85| 3*(3/4)= 2.25G|3/4= 5.14km/s| 3*(3/4)^3= 1.27G | 11.99 km/s |
|  1/4 | 1600 | 4.0G | 1/√(5/4)=7.07| 4*(4/5)= 3.20G|4/5= 5.66km/s| 4*(4/5)^3= 2.05G | 12.73 km/s |
|  1/5 | 1280 | 5.0G | 1/√(6/5)=7.22| 5*(5/6)= 4.17G|5/6= 6.02km/s| 5*(5/6)^3= 2.89G | 13.24 km/s |
|  1/6 | 1067 | 6.0G | 1/√(7/6)=7.32| 6*(6/7)= 5.14G|6/7= 6.28km/s| 6*(6/7)^3= 3.78G | 13.60 km/s |
|  1/8 |  800 | 8.0G | 1/√(9/8)=7.46| 8*(8/9)= 7.11G|8/9= 6.63km/s| 8*(8/9)^3= 5.62G | 14.09 km/s |
| 1/10 |  640 |10.0G |1/√11/10)=7.54|10*(10/11)=9.1G|9/10=6.79km/s|10*(10/11)^3=7.51G| 14.33 km/s |
+------+------+------+---------------+---------------+-------------+------------------+------------+

step1+step2 までの頂上速度は、16km/s より少し小さい。惑星間航行の初速として使える速度は、r=1/6では13.60km/sである。


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9.3 step3: 自転の利用によるG軽減

まだ地球の自転速度、赤道上で 463m/s(40000km/86400s=462.96m/s) を利用していない。赤道上を周回する軌道ロータベータは、 これを利用して 5.85%ほど速度が落せ、7.447km/s になり、それに伴って遠心力又はロータベータ長を11.7%削減できる。 さらに、地表速度が 7.91km/s よりも小さいことを使う計算をr=1/6 と r= 1/8 に対して行う。

表1の r= 1/6 (6400/6= 1067km 当初6Gと考えた)の長さのロータベータの step1の 5.14G,step2 の3.78G は、地表速度が 6.277km/sの 7.376%である地球の自転速度463m/sを利用すれば、その2倍の14.75%の削減が可能で、3.22Gになり、地上から頂上までの9.69分(1067km *3.1416/5764m/s)はより楽になる。r= 1/6 のロータベータのGは、宇宙飛行士の特別な訓練が必要ないようにGを3Gに抑えたスペースシ ャトルと同程度である。静止衛星エレベータの上昇が200km/hで1週間に比べ、ロータベータは10分で宇宙に出る。

そして、r= 1/8 (800km 当初8Gと考えた)の長さのロータベータの(step1:7.46G, step2:5.62G)は、地表速度が 6.629km/s なので、地球 自転463m/sは、その 6.98% である。地球自転を利用すれば 13.97% 削減でき、4.83Gに緩和される。地上から頂上までの4.83Gの6.33分 (800km*3.1416/6166m/s) は、横になり湯に浸かり息を殺せば、健康人なら耐えられるかもしれない。1067kmの半径と800kmの半径の違いは 2-3倍ほどの重さの違いだろう。

どちらが実現性があるか。いや、私は楽観的過ぎた。元々の1Gを加算して考慮すべき(?)で、短いロータベータは、搭乗中の乗客だけでなく 乗員の誰もが自由に動けない危険を伴う。乗員が回転の中心にしかいないことは考えられない。Gに慣れた客室乗務員が乗客の乗降を手助け する必要がある。いや、逆に、搭乗業務こそ自動化すべきだろう。乗客がGを受ける時間は短時間(6分20秒)だが、乗員がGをずっと受けることは 決してできない。

そして、地球自転の利用は、自由であるべき地球周回軌道が、赤道周回の自転方向に限定され、任意地点からのピックアップができない欠点をもつ。


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10. ロータベータへの乗降

ロータベータへの乗り換えの航空機がマッハ3なら、回転速度を1km/s減らし、Rを15%も減らすが、ロータベータの先端がせっかく大気に垂直に降りて 来るサイクロイドであるのに、回転に対する抵抗を生むから不利である。基本的に乗り換えに航空機を使うのは、地上との衝突の危険を回避するため 乗り換え点の高度確保と、ロータベータの乗り換え点への移動の都合である。静止的な乗り換えなら気球を使えるし、全く乗り換え手段なしに乗降で きるかもしれない。例えば赤道軌道は、南米とアフリカ以外に殆ど海洋上を通過する。南米とアフリカを乗り換え点にするか、海水面近くまで降りて 来て船舶を乗り換え手段とすることも可能である。さらに、アフリカの最西端の先からアイスランドを結ぶ西経20度とシベリアのカムチャッカ半島 からソロモン諸島と南極を結ぶ東経160度の子午線軌道は、軌道上の殆どが海である。先端が山間部(南極が最も高い)に降りるとき紐を巻き上げるか、 先端を空気力学的に運転して曲げて避ける。南極を乗降点にする手もある。陸地は米国アラスカ州とカナダだけを通り、他は海洋上という斜め軌道も ある。それらには、地球の自転に同期するよう軌道修正が必要かもしれない。

人間の液浸などより実現に最も関係するのは、軽くて強度のあるひも、ダイヤモンドのホイスカーの現代版、カーボンナノチューブ(CNT)の大量生産 である。2007年のRong Xiangらの論文には、球形の束のCNTを30minで1.5mm成長。これでは何100年 かかるか? 640km /(1.5mm*365*48) = 2万4000年。成長に頼らずに断片結合が必要。


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11. 空の高さは...

静止衛星軌道までの 36000 km の上昇で重力は弱まるが、もし、地上の重力のまま 1G (9.8m/s^2)なら、その距離は? 地上から無限遠までの ポテンシャルエネルギーは、どれだけの高さか。我々は、どれだけの重力井戸の底にいるのか。つまり「空の高さはどれ位?」と問う。


結果はとても簡単で、位置エネルギーを重力で割り、(GM/R)/(GM/R^2)= R。地球の場合 6400km (太陽の場合70万km)、地球の中心までの距離である。 空の高さは地の深さ? 実際のその高みの位置エネルギーは、地上の半分で、その点へ行くには地表軌道周回と同じエネルギーがいる。(図中は、ポテン シャルを無限遠を0とする負の値で表す。地表の傾斜を延長すれば2Rの場所でポテンシャル=0に交差する。空の高さの場所(2R)は、地上の1/2の ポテンシャルであり、図右の重力 1/4 Gの場所だが、地上(R)から(2R)までの1Gの力と距離の積の仕事にあたる長方形の面積は、地上から無限遠までの 1/r^2の曲線の下の面積に等しい。)

静止軌道の3万6000kmはその5.625倍であり、位置エネルギーで地上から無限遠までの4/5である。その場所の重力は 1/31 であるが、1日1回の周回に よって、当然だが軌道上は無重力である。やはり、地球は自転が遅過ぎるのである。地球が現在の10倍の速度で回転していたら、軌道は、R^3∝T^2 から、この「空の高さ」に静止軌道があり、エレベータの長さは1/5になっただろう。そして逆に一日が30倍遅ければ、静止軌道は10倍遠い月の軌道 になってこの場合、エレベータは月と結んだだろう。月は地球に同じ面を向ける好都合もあり、月の赤道近くの輝かしいティコからでも、極の近くの 巨大なクラビウスからでも、どこからでも地球にエレベータを張ることができたはずである。

現在の1日1回の自転のままでも、エレベータは地球の北極か南極に少し高度を持たせれば結び付けることができるのではないか。南極のエレバス山 3743m(3794m?)や、ビンソン・マッシーフ5140m(4892m?)、(タイリー山 4852m)(()内は検索による。()の外の値は、軸を外して自由にした私の地球儀 による)が候補。これらの山は地軸を少し外れるが、エレベータのひもを伸縮可能素材にすればよい。但し、元々月の距離は、10%以上増減し、少々の 伸縮では済まないが。(2013/11/16)

この「空の高さ」の意味は、宇宙に出る距離、重力井戸の深さである。この距離が大きく、軌道エレベータの乗物の速度が通常の地上車程度では 遅すぎることになる。


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12. ロータベータの運動について

一様重力下では、ロータベータのひもで連結した両端物体の受ける重力は等しい。張力に影響する重力差がつねに0なので、張力の大きさは、 無重力下の2物体の円運動のときと変わらずに一定で、その運動は無重力時と変わらない円運動である。重心が移動しない場合は円運動であり、 重心速度が接線速度に等しい水平運動のときサイクロイドである。実際、一様な重力下で重心運動は水平運動ではあり得ず、落下を伴う放物運動になる。

身近な物体では落下が円運動より早くおき、この運動はあまり目にしないから想像しにくいが、棒で連結した2物体を水平に円運動させ、徐々に 回転面を水平から持ち上げ斜め面内の運動を想像すると分かる。この場合、重力は斜面の角度ΘのsinΘに比例する重力が2物体にかかるが、回転に 比べ弱い重力でありこの運動が一様な重力によって影響されないことが分かる。片方だけではブランコ又は鉄棒の大車輪であり重力の影響は大きいが、 おもりがバランスするときは違うのである。

地球中心の重力で重心が地球の周囲を円運動するとき、地上からの高度が一定の水平運動に近似できる。地球半径に対して、十分小さいロータベータ の2物体への重力が等しいとき、両端の2物体の運動はサイクロイドで近似できる。重力差があるときも、2物体が等しい高度のとき、重力差はなく 張力は回転による遠心力だけである。2物体に高度差があって上の物体の受ける重力が小さく下の重力が大きいという重力差がある場合、重力差は 張力に加わり、ひもが垂直のとき張力は最大になる。このとき、重力差はあっても重力の和は一定と近似でき、重心の軌道運動は地球中心の円運動 のままである。

2物体が上下にあるとき張力の増加分は、上の物体を下に下の物体を上に引き、上下の重力差を補償する。しかし、上下の物体が垂直でなく斜め位置 のとき、張力と重力差の方向の違いよって、物体の回転に加減速が起きる。斜め位置で、下の物体は増加した重力と斜め上の増加した張力によって 内側への加速がある。上の物体も重力の減少は上向きの力であり、内側に力がかかる。2物体の運動は上下対称でひもに折れ曲がりを起こさない。 2物体の軌道は円であり、楕円やおだんご型ではない。

両端物体の加速度は、垂直な重力と張力ベクトルの和による。

a1= g1 + T/m
a2= g2 - T/m

加速度の差は重力差と張力の2倍の和である。

a1 - a2 = g1 - g2 + 2T/m

重力差 Δg= g1 - g2 によって張力Tの遠心力からの増加分ΔTが発生し、法線との角度をΘとして、

ΔT/m = Δg cosΘ

重力差もcosΘをもつ。(dg/dh)を重力の高さhでの微分として、

Δg = 2r cosΘ (dg/dh)

ΔT/m = 2r(dg/dh) cos^2 Θ

運動方向の加速減速 a は、

a= Δg sinΘ = 2r(dg/dy) sinΘ cosΘ


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13. 円運動だが回転速度が変動する

ブランコの運動のようにロータベータは高さによる速度変化をもつように思えた。最下点の接線速度8km/sで回転するロータベータの先端は、 高さ2Rの位置エネルギーによって運動エネルギーを失う。もちろん、回転が大きいと高さによる速度減少は一部であり得る。速度が0になる高度は、 2gh= v^2 から v= 7.9km/s のとき h= 3184km。空の高さの半分である。つまり、半径R=1600kmのロータベータは頂点近くで停止する。 そして、先端が下部にあるとき速度を得て、上部にあるとき速度を失うなら、上下のひもの角度は変化し、ひもは屈曲せざるを得ない。 ロータベータの運動の高さによる速度変化は、ひもの屈曲を直接に意味すると思えた(*)。

楕円の焦点からの面積速度一定の法則によって、両端点のなす角度がつねに180度の関係が可能だろうか。つまり、つねにひもが張っている運動は、 ひもがつねに楕円の焦点を通るとき重力に替えられる。両端は180度移動する時間が両方とも等しく一定である。上部で遅く下部で速い運動には 焦点は低い側におく必要がある。速度変化大のとき楕円離心率大はありそうな仮定だが、これは中心力場の場合である。ひもの張力では誤りだろう。 面積速度一定は、焦点と端のなす面積速度であり、低い端は、速く回らないと面積速度を一定にできないので、焦点でひもが屈曲する必要がある。 ひもは同じ張力を両端に与えるが、楕円運動は焦点との間の重力が焦点との距離できまるものである。いやそもそも、回転する長さ一定のひもの 両端の軌道は、水平長と垂直長が異なる楕円には入らない。楕円軌道もあり得ない。

円を非等間隔に分割してそれらを線で結ぶように考え重心は多少上下するという推測も外れである。水平のとき重心は円の中心より上で、垂直にある とき円の中心で、軌道は円でなく、おだんご型の円みを帯びた3角形ではないか、上方の点を棒のようなひもが交差する軌道で、その点から下側の棒は 長いから下端は上より大きく振れるのではないか、重心は焦点でなくひもの中点であり、中点が上下しないなら両端は円運動以外できないから重心は 上下する、両端の2物体の滑らかな運動の必要のために重心が上下する、すべてそういう推測は、上部で遅く下部で速いという考えからきている(*)。 運動が上下対称ならその必要がない。ロータベータは、上の物体の重力減少は、上向きの力と表され、上下対称である。加減速は上下のおもりに同時 に起き、加減速は上下対称である。そのため、ロータベータは屈曲しない。当初ひもは屈曲しないと考えた仮定が満たされる。


多体問題の運動方程式の連立は外力と内力に完全に分離でき、内力は作用反作用の法則に従い重心では打ち消され外力だけが重心の運動を決め、 等速度直線運動、重力下では放物運動 (中心力場では楕円運動)をする。この問題では、重心に物体がなくそこに働く力も見えないために、 重心での内外力の分離は明確でないようだが、二物体を結ぶひもの張力は明らかに作用反作用の関係にある。ひもはひものどこも、ひもの方向に 等しい大きさの張力を与える。重心が振動する確かな理由はない。ひもで結合した2体のロータベータの運動は円運動である。

二物体の重心を中心にした軌道は円であるが、角速度は一定でない。斜め下のとき斜め上のとき、両方で内側に加速である。重力差によって 起きる張力増加は、上も下も上下対称に引き伸ばす方向の加速である。これは重力勾配からくる潮汐力である。回転が反時計回りのとき、 左下で加速、右下で減速、右上で加速、左上で減速。加速は水平と垂直の位置で0、速度は水平位置で最小、垂直位置で最大である。 この対称位置で等しい加速は、両端の物体に対称の運動をさせるから、ひもに屈曲はない。 張力の増加分dTは、合力が回転の加減速になるだけの大きさである。 張力の増加分は、ΔT/m= Δg cosΘ = 2r(dg/dy) cos^2 Θ であり、Θに依存する。 物体回転の加減速は、a= Δg sinΘ= 2r (dg/dy) sin Θ cos Θ である。

(*)重力による上下の位置の速度差を打ち消すのは、地球を周回する軌道回転系である。これに悩まされた記録は消さずに残す。軌道上の ポテンシャルは、重力の -GM/r の中心で落ち込む漏斗型ポテンシャルと、回転系の -1/2 (rw)^2 の2乗型の遠方で落ち込むポテンシャルと の和であり、軌道上で丁度両者の傾きの和は、重力=遠心力で0になる (GM/r^2 -rw^2=0)。軌道上の回転系にポテンシャルの傾きはなく、 残された弯曲は、地球方向とその反対方向に引き伸ばす潮汐力(-2GM/r^3-w^2= -3GM/r^3)である。(*:2014/12/27)


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14. 振子運動と回転運動

ロータベータの両端の地表速度は、公転軌道速度(7.9km/s * 1/(1+r)^0.5)の 1/(1+r) 倍であり、大きいロータベータではかなり軽減される。 この地表速度を、垂直位置の回転の接線速度が打ち消せばよい。水平位置で回転が遅くなるが、水平位置と垂直位置の速度の差は、次節の ポテンシャル差で決まり、1/2 地表速度^2 による運動エネルギーとの大小で運動が決まる。

地表面より高度rのロータベータの軌道速度が(1+r)^-0.5 倍になり、地球の中心からロータベータの重心までの距離に対する比率 1/(1+r) をかけ、 その地表速度は、第1宇宙速度(地表の地球周回速度) 7.9km/s を単位として (1+r)^-1.5 であり、その2乗の半分 1/2 (1+r)^-3 は、6400kmを単位にする 地表からの上昇可能距離である。これがポテンシャル差より小の場合、回転は水平位置に到達する以前に停止し反対方向に運動を始める振子になる。 半径4160kmの近辺には水平位置で停止する "臨界水平" があり、これより小さいと回転運動をし大きいと振子運動をする。 r=2/3 8500km長の初期設計も含めて、大きい半径のロータベータは、地表速度を打ち消すだけの速度では小さ過ぎて回転せず振子運動をし 地表移動にはよいが、回転運動によって乗物を宇宙に打ち出すカタパルト、地球の重力圏から抜ける上昇目的の"ロータベータ"にならないのである。 (地球半径6378kmは、概略6400kmとした。)

表 2.  半径に対する地表速度とロータベータの運動
 +------------------+------------------------------------+--------+
 | ロータベータ半径 |   1/2 地表速度^2  と ポテンシャル差|  運動  |
 +------------------+------------------------------------+--------+
 | r=1、  6400km   | 1/2 (1/2)^3= 1/16      < 1/6      |  振子  |
 | r=0.8  5120km   | 1/2 1.8^-3=  0.08573   < 0.13675  |  振子  |
 | r=0.7  4480km   | 1/2 1.7^-3=  0.10177   < 0.12010  |  振子  |
 | r= 2/3  4250km   | 1/2 (3/5)^3= 0.10800   < 0.11429  |  振子  |
 | r=0.65 4160km   | 1/2 1.65^-3= 0.11131   < 0.11133  |臨界水平|
 | r=0.63 4032km   | 1/2 1.63^-3= 0.11545   > 0.10774  |  回転  |
 | r=0.6  3900km   | 1/2 1.6^-3=  0.12207   > 0.10227  |  回転  |
 | r=1/2  3200km   | 1/2 (2/3)^3= 4/27      > 1/12     |  回転  |
 | r=1/4  1600km   | 1/2 (4/5)^3= 32/125    > 1/30     |  回転  |
 | r=1/8   800km   | 1/2 (8/9)^3= 256/729   > 1/90     |  回転  |
 | r=1/10  640km   | 1/2(10/11)^3=500/1331  >          |  回転  |
 +------------------+------------------------------------+--------+

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15. ポテンシャルと重力の式から見る

ロータベータの半径をr、地球中心からロータベータの重心までの距離をa= 1+r、重心から端の高さの差を b= r cosΘとして、重心から +-bの高さの両端の重力ポテンシャル -GM/(a+b) と -GN/(a-b) との平均は、GMを省略し、b<aとして、

( -1/(a+b) -1/(a-b) )/2 = -a/(a^2 - b^2) < -1/a

ポテンシャル平均は、両端が重心に集中した値 -1/a より低く、b^2に(Θに)依存する。これは、重心揺動か、回転の速度変化を意味する。 後者のときポテンシャル平均がb^2の関数であることは、回転速度の上下対称を意味する。回転速度の運動エネルギーがポテンシャル平均 低下分(増加分)に値が一致するなら、重心の揺動はなく、ポテンシャル平均低下分の回転エネルギーを示唆する。

ポテンシャル差の増大比は、a^2/(a^2 - b^2)= 1/(1-(b/a)^2)である。これは分母の減少であり、地球から重心までの距離aの減少とみると、 a= 1+r が a - b^2/aに減少し、Θ=0 のとき b= r であり、a が 1+r-r^2/(1+r)= 1+ r/(1+r) への減少に相当する。 ポテンシャル比は、Θ=0のとき、(1+r)^2/((1+r)^2 - r^2cos^2Θ)= (1+ 2r+ r^2)/(1+2r)=1 + r^2/(1+2r)

脱出エネルギー 1/(1+r) に r^2/(1+2r) を掛けた、r^2/((1+r)(1+2r)) がポテンシャルの差である。ポテンシャル差 a/(a^2 - b^2) - 1/a を次の表3に示す。(= 1/a (1-(b/a)^2)^-1 - 1/a は、b≪aのとき、〜 1/a (1+(b/a)^2) - 1/a = b^2/a^3)

表3 b,a vs a/(a^2-b^2)-1/a
+----------+------+
|  b, a    |変化分|
+----------+------+
| 1,   2   | 1/6  |
| 2/3  5/3 |81/1600|
| 1/2, 3/2 | 1/12 |
| 1/4, 5/4 | 1/30 |
| 1/8, 9/8 | 1/90 |
+----------+------+
表3は、表2の地表速度^2と比べ r=2/3 以上は大きい。r= 2/3 以上の大きいロータベータは振子になる。小ロータベータ、例えば r=1/4 は、 回転のエネルギーは約1/4であり、水平位置と垂直位置のポテンシャル差は 1/30 なので、十分余裕をもって回転する。

同様に、ニュートン重力についても考えられる。両端重力の差は、b≪a のとき、1/(a-b)^2 - 1/(a+b)^2 = 4ab/(a^2 - b^2)^2 〜 4b/a^3であり、 bの1次または、bの奇数次であり、ΔT/m〜 b cosΘ = r cos^2 Θ と張力の増加分の cos^2 Θ 依存を導く。

ニュートン重力の和は、(1/(a+b)^2 + 1/(a-b)^2)/2 = (a^2 + b^2)/(a^2 - b^2)^2 > 1/a^2 から、重心に集中した場合の 1/a^2 より大きく、 b^2, Θに依存する。これはやはり、重心の揺動を意味しないか? ロータベータは、ひもの角度Θによってポテンシャルだけでなく、重力も変動する。 垂直最大、水平最小である。平均ポテンシャルの変動は回転の運動エネルギーに移され、重心の揺れにならないですむが、 重力の変動は補償するものがない。よって重心は、1周期のなかで上下するのではないか。

重力平均の 1/a^2との比 a^2(a^2 + b^2)/(a^2 - b^2)^2 は、 b≪aのとき、1 + 3(b/a)^2 である。 重力平均の増加分は、 (a^2 + b^2)/(a^2 - b^2)^2 - 1/a^2
=((a^2+b^2)a^2-(a^2-b^2)^2)/(a^2(a^2-b^2)^2)
=(a^4+b^2a^2-a^4-b^4+2a^2b^2)/(a^2(a^2-b^2)^2)
=(3a^2-b^2)b^2/(a^2(a^2-b^2)^2)
=(b/a)^2 (3a^2-b^2)/(a^2-b^2)^2


図下側のポテンシャル -GM/r が上に凸の曲線だから、質点が離れるほうが集中しているときより平均ポテンシャルが低い。同じく、図の上側の ニュートン重力 GM/r^2 は下に凸だから、質点が離れるほうが重力が大きい。単純なニュートンの重力の式はそれを教える。次のことは、多体力学 の基礎原理ではない。「多体力学は、多点間の内力は作用と反作用であって、重心の位置に持ってくると全て打ち消され、重心の運動量が保存される。 外力である重力は、多質点が重心に集中しそこに重力が働くときのような運動をする。」後半の「外力である重力は...」からが間違っている。 重心はそのような運動をしない。重力和が一定でないことがその反例である。ロータベータは円運動しない。(2014/1/10)

重力はポテンシャル勾配だから、ポテンシャルが変動するなら重力も変動すると予想すべきであったかもしれないが、ロータベータの回転の位相 によって、ポテンシャルが変動すれば重力も変動するだろうとは考えられなかった。両者の式を見て初めて重力の和の変動が明らになった。 これは、重心への揺動をもたらすかもしれない。しかし、ポテンシャル変動の大きさと重力変動の大きさが問題で、後者が小さければ、 後者を無視し、重力の和が一定とみなすような近似の段階が存在すると考えてもよい。

しかしながら、ポテンシャル平均の変動比は、a^2/(a^2 - b^2) であり、b≪a のとき、1 + (b/a)^2 である。それに対して、重力平均の変動比は、 a^2(a^2 + b^2)/(a^2 - b^2)^2 であり、 b≪a のとき、1 + 3(b/a)^2 である。変動の比率は、ポテンシャル平均の変動よりも、重力和の変動の ほうが3倍大きい。これから、ポテンシャル変動の存在を認めるとき、重力和の変動 (=重心の揺動)を無視するような近似の段階は存在しないこと が分かる。

上図の右図を書いて、さらに忘れていたことに気が付いた。水平位置ではポテンシャルの低さも重力も弱い。両端は水平位置では地球から1+r位置 ではなく、√((1+r)^2+r^2) = √(a^2+b^2) 位置である。ポテンシャル変動と重力変動の式が違ってきて、変動は少し大きくなる。 ポテンシャルの差と、重力の差とは、ともに垂直位置だけの計算だから影響がない。

重力和の変動比は、垂直位置 (a^2 + b^2)/(a^2 - b^2)^2 と 水平位置 1/(a^2+b^2)との比で、 (a^2 + b^2)^2/(a^2 - b^2)^2である。 b≪aのとき、1+4(b/a)^2である。

平均ポテンシャルの変動比は (-1/(a+b) -1/(a-b))/2 = -a/(a^2 - b^2) と、 -1/√(a^2 + b^2) との比、a√(a^2 + b^2) /(a^2 - b^2) である。 b≪aのとき、1+ 1.5 (b/a)^2である。平均ポテンシャルの変動と比較して重力和の変動が大きいことは変わらない。

ポテンシャルの変動幅が大きくなって、振子運動と、回転運動との境い目が違って、より小さいロータベータにやってくる。

(2014/1/16)


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16. 大気との接触

その接線上に円を転がすサイクロイド曲線は、その直径が円軌道を描きながら、大気に垂直に上下するから、回転速度に誤差があるとそれを復帰 させる性質をもつ。もし、地球周回速度が大き過ぎロータベータの端が対地速度をもつなら、その大気の抵抗は、ロータベータの回転を加速させ、 大気に垂直に上下する正常な方向に回転に働くのである。

ロータベータは、頂上に来たとき乗物を離すだけで、太陽系内を移動する15km/s程度の速度を得るため、太陽系内の移動の発着を提供する。 しかし、最初にロータベータを回転させ始めるには、頂上付近で加速するロケットを付けなけれならないだろう。そうしないと頂上でその速度に できないだろう。地球周回速度が落ちて来たら、ロータベータは少し降下して、速度を回復できるが、完全に落下すると災害になるから、 地球周回の速度を加える仕組みがいる。それは、頂上付近での加速をすればよい。近隣の小惑星を壊して降下させれば、ロータベータの回転は 復旧できるが、大気との接触によっても復旧できる。

問題は地球周回の高度であり、大気圏内の10km程度の範囲に先端があるためには、そして、地上の山岳と接触しないためには、高度には数〜5kmの 幅しか許容範囲がない。1000km〜2000kmの長さの建造物にその1/1000の精度を要求することは難しい。温度の上下でも、張力の変化でもそれぐらい 変化はあるだろう。そこで、先端の乗物には垂直の主翼を付けて、その角度を変化させて上下運動のなかで到着の地上の位置を制御させ、 水平の補助翼を出して到着の高度を調整することも必要であろう。そして、この到着位置の調整のためにも多少のロケット又はジェットを もつ必要があるだろう。この目的には、ひもは伸縮できる程度に、できるだけ軟らかいほうがよい。12倍のテーパを持たせた8500kmの初期設計より、 テーパなどないぐらいの軽いひもが理想なのである。


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17. 非対称ロータベータ

乗物が太陽系内の旅に出ると上下の錘の重さが違ってくる。その場合、何らかの調整が必要であるが、その前に、大きく非対称なロータベータ の運動を考える。仮に、錘が1対4のように違っていたらどうなるか、両方の錘は重心を中心に回転をするから、軽い方が重心から遠く、 重い方が重心に近い。その長さの比率は、4対1になるだろう。このように、非対称でも長いほうが大気との接触を調整できれば、 短い方が大気に全く近付かなくてもよい。長さは両方が同じ長さの場合の、5/8になる。こうして、非対称のロータベータは、極端にいえば、 1/2まで短くできるのである。しかし、軽い側に乗物が発着するのだから、重い側の錘は、単なる錘の役であり、地上から材料を上げることなど 考えないほうがよい。小惑星を持ってきて使う程度のことしかできない。速度は調整されている必要もあるから大変な工事が必要であり、 丁度の材料が手近にあればその手もありということであろう。とにかく、例えば材料が1000km程度しかなくて2000kmには到底できない場合、 長さは半分までにできる可能性があるのであり、実現性において、これが重大な結果になるだろう。

これは武器になり得るだろうか。勿論、軌道上に重量物を上げる事自体が危険である。天空から垂直に降りて来るひもは、赤道上の軌道に限定 しない場合、地球上のどこにでも出没して爆弾を投下できる。しかしそれは、飛行機でもできる。そして、回転の頂上からの対地速度15km/sを 使えば、都市消滅さえできる。しかしそれには、大陸間弾道弾の方が効率的だろう。ロータベータは、敵と考える側が壊すことは容易である。 同じようなケーブルで妨害すれば、容易に破壊できる。ロータベータは、その外見は優しい。垂直に上下し大気中の乗り換えで対気速度を持たない。 36000kmの構造物である軌道エレベータよりずっと小さい1000km〜2000kmの短いひもで、最初は見えないほど細い糸でしかなく、夕日に光をみることも ないだろう。光る点の回転移動を想像することも難しく、2点の間に細い糸が見えるようになって、サイクロイドの数学が天空に描かれるだろう。 20分毎のバスは客を待たせ、10分毎なら待たせない。双極性のロータベータは10分毎、単極性は20分毎に乗客を乗せて宇宙に運ぶ。 乗客が毎日、何回も何10回も乗降する本当のシャトルになることができる。

軌道エレベータは、それほど頻繁にシャトルを発着できない。旅程1週間の便を10分毎に出発させると、エレベータのケーブルに1000個もの積荷が 架かることになる(7x24x6= 1008)。積荷負荷が1個を考えるなら、1週間に1回の発着しかできない。上昇に時間かかるということは、こういうことである。

ロータベータの長さ8500kmの初期設計では100tの積荷を上げるのに7500tであった。それに対して2000kmの長さのロータベータの重さは数100tである。 基本的に短いロータベータは小規模である。ひもの重量は長さ比例だが、ひもの重さが主要な重量になるとき、規模は長さの2乗に比例する以上 に大きくなる。許される最大加速度から、最少長(最短の長さ)が決まれば、ワイヤの太さは望む積載能力に合わせてどのようにもなる。

普通のエレベータの積載重量は1t〜2tだが、100tは宇宙へでるための装置としてよく使われる設計規模である。両端100tの2個の乗物に重さのない ひもなら全体の重量は200tである。素材が許す比強度が先端とひもが等しい重量のとき400tである。なぜ100tかといえば、宇宙に出るには通常の 旅行よりも余分に必要な装備がある。宇宙服、空気ボンベ、小宇宙船自体までを積荷とする。それが100tという規模設定である。1t〜2tの規模では 宇宙に人員を送るのには小さ過ぎ、バスやトラックの積載能力である 10t〜20tがシャトルの規模である。それは独立した宇宙旅行には十分でないが、 人員交代や補給物資の輸送用に向く。その規模でもロータベータは存在できる。


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18. ロータベータの後始末

ロータベータは、先端の数kmが大気に接触するが、大気に垂直に降りて来るだけであり、それが回転の抵抗になることは少なく、地球周回の抵抗 になることはさらに少ない。それでも、永く重量を降ろさず上げることにしか使わないなら回転は遅くなる。回転が遅くなれば、大気への接触は、 軌道運動の抵抗になって、次第にロータベータは軌道の高度を落とす。軌道が下がれば軌道速度は回復するが、高度の低下には明確な限界がある。 先端の地上接触である。

そして、使用されたロータベータが廃棄され何十年か放棄されるとどうなるか。そのままではまず、高度が低下して片方の端が地上に接触する。 地上に穴があき、野や街を壊わす。地上衝突のお陰で反発し、しばらくは高度が回復するだろうが、地上衝突はいずれまた、次々と地上のあら ゆる所に起きよう。なぎ倒すのではなく上から突き刺す衝突は、先端が地上に止まるとひもは切れ、垂直位置で断裂する、どこで切れるか知れないが、 中央で切れるとしよう。上半分は、宇宙に飛び出すだろう。なぜなら、上半分は周回速度以上の速度を保持しているからである。 上半分の最下端は、周回軌道速度8km/s程度をもち、頂上の先端は、その2倍の15km/s程度の脱出速度の√2倍の速度を横方向にもつ。上半分の 重心速度が脱出速度より大きいなら地球から完全に脱出し、それがその重心の周回速度以上であれば、周回を永く続けることができる。

それが地上に落ちることはまずないだろう。しかし、あるかもしれない。ひもの重さが端の重さより大きくて、強いテーパを持たせるとき。 そして、上部の地上衝突は突き刺さないが、それ以上だろう。上の端がもつ速度は大きく、脱出速度の√2倍で速度15km/sの2013年2月、 ロシアに落ちた火球の直径数mから10m、10t程度の数10倍程度の衝突の規模になる。何トンの規模ではなく何100トン以上、人工のロータベータの 規模による。大きな規模を作ればその破壊力も大規模になる。


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19. 浮力と巻き上げ機構

1000kmのロープがどれだけの災害をもたらすか、このロープは非常に強く地上のあらゆるものより数百倍も頑丈で、接触するもの全てを切るだろう。 人口密集地域でなく海や森林地帯に落ち、横に振払わず直線的に海上や地上に横たわり、反発してのたうち回ることがないことを望む。これが少なく ともその程度危険なことを、我々は知る必要がある。そこで準備をする。ひもの中央に断裂させる爆薬を最初から用意する。そして、回転のどの位相 のとき断裂させれば、半分になったひもが地上に落ちないのではないかと考える。垂直位置でなく、水平位置で断裂させる方がよいのではないかと (間違いである)。それがすぐには地上を直撃せず、軌道に止まり人工衛星になることを望むが、軌道上のひもは、最終的には落ちて来て災害になる。

軌道が低下してきたら、まず下の端の対気速度と水平翼を使って浮力を得て、下端を持ち上げる仕組みをもつ。下端を持ち上げると上端までそれは 伝わり、全体が上昇できる。これによってロータベータの高度低下を防ぐことができる。しかし、水平対気速度は小さいので、水平翼によって浮力 を生み出すのは難しいかもしれない。両端の構造と乗物の構造によって、上下移動のとき、下降時の抵抗を上昇時の抵抗より大きくすることは可能 だろう。それによって浮力を得るのである。また制御用のロケット又はジェットエンジンを、ロータベータの浮上に利用することもできるだろう。

さらに、両側の端に巻き上げ機を用意して短くすれば、高度低下をさせずに周回軌道の寿命を伸ばすことができる。2000kmの対称型で運営するなら、 2100kmで巻き上げ部分を両端に50kmずつ用意しておく。ロータベータの軌道低下分の巻き上げの仕組みだけで寿命を数10倍にするだろう。なぜなら、 大気中の数kmがロータベータの調整範囲であり、それを外れることができないからである。

巻き上げのエネルギーが大きいから、それができる位なら放棄はしないというならやはり、宇宙の小惑星を見付けて破壊し、重量を下に降ろすことで エネルギーを得るという元々のエネルギー運営を完全に自動化しておくことである。これはもっと大変で、これができるぐらいなら放棄などしない。


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20. 最大災害の比較


片方の端が地上に刺さり、ひもが切れないとき、他方の端が90度の円弧を描いて落下し、地上を直撃する、この状況は大災害になる。それは、 大気による減速の最も少ない垂直落下と、頂上の速度の運動エネルギー 1/2 (15km/s)^2 (脱出エネルギーの2倍) に加え、1000km〜2000km分の 位置エネルギー(脱出エネルギーの1/6〜1/3)である。この形でロータベータが地上に倒れるとき、全体に張力が張ったまま直線的に地上に横たわる 点はよいが、衝突エネルギーは垂直落下のため最大であろう。数100tの小惑星(直径10m)衝突クラスの災害になるだろう。 (この方法のロータベータ打ち上げもありえる。片方の端を地上に固定し、他端を速度を調節して打ち上げ、それが真上にきたとき、元の端を離す。 サイクロイドを利用した単純な打ち上げだが、ひもの重さが大半を占めるなら使えない。最も安全な打ち上げは、ひもを巻いた状態で軌道上に上げ、 先に回転させ、その後のひもの伸展である。) このような災害を起こさないためには、宇宙に出るための道具をよく知ることである。

静止軌道エレベータを作りたい人達、軌道エレベータは、ロータベータよりも遥かに巨大で実現性が低いことを知って欲しい。(長さで36倍の構造物 の重さは何倍か? 36000kmは静止軌道の重心までの距離であり、もっと外側に錘を伸ばす)。天空の巨大構造は、危険で酷い結果を招く可能性がある。 地上の赤道上の固定点では、どの程度の台風や地震に耐える設計をするのだろうか。どのようなケーブル落下を想定するのだろうか。


静止衛星軌道より下のr以上で物を落しても地上に落ちない(上図)。静止衛星の速度が 3.06 km/s程度で(463m/s x (36000+6400)/6400)= 3.06km/s)、 ケーブル速度が地球中心からの比率 r に比例(3*r km/s)し、面積速度一定の法則を使って、その物体が地球を8 km/s以上でかすめる必要から、 8 * 6400 = (3*r) * (r*(36000+6400))から、 r= √(8/3 * 6400/(36000+6400))= 0.63。

それ以下の点から落したものは地上に落ちる。ケーブルが断裂したとき、断裂点以下の重心が0.63以下なら、断裂点より下のケーブルは落ちて来る。 根元の近傍の西(東?)側に落ちるケーブルは数10万tになる(静止衛星エレベータは、同じ100tの積荷を上げるものが60万tである)。r=0.63の点、2万2680km の高さの位置エネルギーは、地表面の脱出エネルギーの 3/4 に近く、1/2 (6400kmの高さの位置エネルギー)より大きい。ケーブルは赤道に巻き付く ほど長い。静止衛星エレベータの最大災害は、ロータベータの最大災害(数100tのケーブル落下)の質量比で1000倍である。

災害の規模の推定に赤道近辺の人口が少ない過疎を利用しても、その衝突は、高い山をもつ赤道付近の島の人口を失いその島と復旧の方法も失うだけ でなく、世界的影響を引起こす数10万t(直径約100m)の小惑星衝突規模である。ケーブルに接近する小惑星を振動モードを利用して避ける必要など 「楽園の泉」で書かれたが、A. C. クラークのように完全に思想し、対策を備えた上でしか、(楽観的なSFさえ)作り得ない、未来の夢である。 ケーブル素材の入手不可能な間、小規模のロータベータを優先すべきだろう。これならまだ"実現性"を考えることができるからである。

数10万tの小惑星衝突は、生物絶滅からまだ遠い。生物相を激変させた中生代と新生代の間のK-T境界の隕石説では直径10+-4kmという。 隕石の直径10kmは、静止衛星エレベータの災害の直径100mの100倍で、その重さは、100万倍である。

(42.4-42.9 2014/12 - 2015/1/25)


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21. 構造計算

大規模な構造物では、材料の比強度(強度k/密度ρ)が不足して、全体が、紐の各部で異なる張力に対抗する断面積をもつ、紐になり、 断面積当たりの張力をどこでも等しくする、テーパ(先細り)が使われる。テーパは、必要な強度を最少の材料で実現する。構造物の 置かれた重力状況によって関数は異なる。吊り下げには指数型の張力=断面積関数がある。軌道エレベータのテーパは、ニュートン 重力に対する張力断面積関数である。ロータベータ用の、回転の遠心力の張力=断面積関数は、ガウス型である。


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21.1 一様重力下の吊り下げ、張力=断面積関数は、exp(-gρy) 指数型

一様重力 g 下での均等なρ[kg/m]の紐の吊下げで、位置 y の張力 T(y) は、荷重 g Load と y から下辺 y0 までの自重の累積であり、 y(0<y<y0)の位置で T(y)= ρg(y0-y) + g Load の線形になる。T(y)は 下辺 y0 からの距離 y0-y に比例して増大し、上辺y= 0で 最大で、T(0)= gρy0 + g Load。そこが最初に破断する(図2(a))。

    y0
T(y)= g∫ρdt + g Load = gρ(y0-y) + g Load
    y

断面積s(y)をyに依存させ、断面積s(y) あたりの張力 T(y) を均一にする (図2(b))。

    y0
T(y)= g∫ρ s(t)dt
    y

または、

T(y)'= -gρs(y)

T(y)= T0 exp(-gρy)

T(y)= s(y)とし、微分がその関数に比例する指数関数 exp(-y/a) でテーパ(先細り)するとき無限長の重さは ∫_0^∞ exp(-y/a)dy= a (a= 1/gρ<素材が許す破断長)の長さの等太棒の重さと等しい。 a の位置のテーパは、exp(-1)= 1/e= 1/2.71828 = 0.36788。


図2. 吊り下げの均一型(a)と指数型(b)の断面積


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21.2 ニュートン重力の張力

一様な重力でない場合、重力を g(y) とすると、

    y0
T(y) = ∫ρg(t)s(t)dt
    y

天体からの距離rの2乗に反比例するニュートン重力では g(r)= GM/r^2 なので、その定積分はテーパなしでも有限である。

    y0          y0
T(y)= GM∫1/r^2 dr= GM[ -1/r ] = GM(1/y - 1/y0)
    y          y

G: ニュートンの重力定数。M: 地球の質量。 これは、衛星エレベータケーブルの最大の張力の目安を与える。 y0: 地上6400km。y:ケーブル の位置36000kmは、yの方がy0より大きく、y0の5.625倍で、yを無限遠に持っていったときの値 T(∞)= -GM/y0 とさほど(2割も)違わない 地表のポテンシャル -GM/R (R=6400km)である。力の空間積分のポテンシャルエネルギーは、元々は、重力にρs(y)を掛けた張力の累積で、 やはり張力を表す値である。そして、「空の高さはどれぐらい」という問にまた出会ったのである。この地球の場合、6400km という 地球に固有の長さが重要な値となって、その長さを超える破断長の紐の素材なら破断しないことが保証される。

いや、問題を楽観的にみると 1/r^2に比例するGには、もっと楽な設計ができるはずだが、一様な1Gに適用される指数型テーパをすれば、 破断長 32000km の素材でも、1600km の素材でも、800km の素材でも製作は不可能ではない。極端なテーパになるだけである。


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21.3 回転による遠心力張力

回転では、重力g(r)は、角速度ωの2乗に比例し、中心からの距離rに比例する遠心力 g(r)= rω^2である。張力T(r)は、その点rから外側に端r0 までの各点の密度ρ、断面積s(r)、遠心力g(r)の積の積分であり、

      r0
T(r)= ρω^2∫ts(t)dt
      r

一定の s(t) では、張力T(r)は中心で最大で端に向かってrの2乗に比例して低下する。中心付近の張力変化は小さく、テーパが必要な場合も紐の 設計を容易にする。 負荷M、密度ρ、角速度w、端までの半径Rで半径rの張力は T(r)= MRw^2 + ρw^2∫_r^R rdr = (M Rw^2 + 1/2ρw^2R^2) - 1/2 ρw^2 r^2。回転中心で最大で距離rの2乗 1/2 ρw^2 r^2 に比例して減少する。

最大の T(0)= 1/2 ρ g(r0) r0 は、吊り下げ張力 T(0)= ρ g(r0) r0 の1/2。これは、均一重力吊り下げは一定の重力の累積、回転は半径に比例 する遠心力の累積であり、3角形の面積は長方形の面積の1/2で、等太棒の回転(端1G)の破断長は、1G吊り下げ破断長の2倍になる。端の荷重は、 張力に一定値 Load (荷重 x g(r0))を加算する(図3(a))。


図3. 遠心力での吊り下げ(均一型(a)とガウス型断面積(b))


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21.4 ロータベータの張力=断面積関数は、ガウス型 exp(-1/2 ρω^2 r^2)

張力T(r)を断面積関数s(r)に比例させる、T(r)= s(r)なら、上の式の両辺をrで微分した微分方程式、

T'(r)= -ρω^2 r T(r)

は、dy/dr = -a r y の形をしている。変数分離し、dy/y= -a r 両辺を積分し、log(y) = -1/2 a r^2 + c、とでき、

S(r)= S(0) exp(-1/2 a r^2)。

すなわち、ロータベータの張力=断面積関数は、ガウス型である(図3(b))、

T(r)= T0 exp(-1/2 ρω^2 r^2)

T(r)= T0 exp(-1/2 (r/r0)^2), r0= 1/(ω√ρ)

位置r0のテーパは1/2のお影で、吊り下げの指数関数より緩く、1/√e = 0.6065。位置√2 r0のテーパが、1/e = 0.36788。 吊り下げの指数関数の破断長でのテーパ率1/eになるのは√2 r0の長さ。ガウス型テーパは、(r/√2 r0)^2 の指数型。

∫_0^∞ (r/r0) exp(-1/2 (r/r0)^2)dr = (√π)/2 r0 から、ガウス型テーパの無限長の回転張力は、長さ(√π)/2 r0 = 0.8862 r0 の等太棒の回転張力に等しい。回転等太棒の破断長は、吊り下げ破断長の2倍であるから、長さ √π/4 r0= 0.4431 r0 の吊り下げ棒の張力に等しい。 r0= 4/√π = 2.2568 倍の1G吊り下げ破断長が可能。破断長 500 km の素材で、r0= 1128kmのガウス型テーパが可能。

r0= 1/(ω√ρ) (<均一重力1Gの吊り下げ破断長の2倍)は、遠心力G(∝ω^2)の√Gに反比例であり、r0は端4G回転のとき端1G回転の1/2。 端4Gの回転等太破断長は、均一重力1G吊り下げ破断長に等しい。破断長 1000km の素材で、r0= 1128km のガウス型テーパの4Gロータベータが可能。


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21.5 軌道エレベータの張力=断面積関数は、exp(-ρGM/r)型

地球中心からの距離の2乗に反比例するニュートン重力 g(r)= GM/r^2 の、T(r)=s(r) 張力=断面積関数を考える。

      r
T(r)= ρGM∫ 1/t^2 s(t) dt
      r0

微分方程式 dy/dr = ρGM/r^2 y を変数分離、dy/y =ρGM/r^2 dr 両辺を積分、log(y)= -ρGM/r + c から、

T(r)= T0 exp(-ρGM/r)。

指数関数の中が変数rの1乗でも2乗でもなく-1乗である -ρGM/rの指数テーパ。rが無限遠では一定値 T(∞)=T0 に漸近。r= ρGM のとき、 T(r)= T0/e で、その2倍では T0/√e。1/n では T(r)=T0/e^n。rが小でテーパが厳しい。地上 r= r0 のテーパの値は?


図4. exp(-ρGM/r)型断面積


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21.6 重力と地球自転系の張力=断面積関数

地球中心からのニュートン重力と自転の遠心力のある回転系 g(r)= GM/r^2 - rω^2 の、張力=断面積関数。

    r
T(r)= ∫ (ρGM/t^2 - ρω^2 t) s(t) dt
    r0

微分方程式 dy/dr = ρGM/r^2 y - ρω^2 r y を変数分離、 dy/y =(ρGM/r^2 - ρω^2 r) dr 両辺を積分、

log(y)= -ρGM/r - 1/2 ρω^2 r^2 + c から、

T(r)= T0 exp(-ρGM/r -1/2 ρω^2 r^2)。

地上から同様に幅が大きくなり静止衛星軌道のrで幅が最大、その先で細まるテーパであろう。


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22. ロータベータは、軌道運動の遠心力をみるか

9章のstep2についての考察である。これは技術的な話題でなく、自転の遠心力が公転を基準にすることへの、回転系と中心力場の認識上の 問題をテーマにする。自転を公転と独立と考える人が多い。そして勿論、自転は公転と独立に与えることは可能であるが、無限遠から来た ロケットは、天体とのスイングバイによって、自らを回転させることなく、自然に方向を反転する。そして、公転軌道の回転系を基準にして 自転の遠心力をもつ。

このことを直感的に理解できる人がかなりいると思う。しかし、物理の専門家でこれを知らない人に何人か出会った。それゆえ、これに少し 真面目に取り組み、初等的に明確にしようと思う。勿論、"宇宙のランデブー2"で、2台目の異星の宇宙船ラーマが太陽面通過を行うとき、 それに乗った宇宙飛行士が、宇宙全体が回転していくことの不思議さを描いていることが動機の一部にある。A. C. クラークに感謝する。 戦前から惑星間航行協会を作り、静止衛星に考え付き、軌道エレベータを思考した彼は、知っていた。

これが異星の技術であるかのように書く必要があるほど、殆どの人が理解していないことを。これは未来の魔法ではなく、ニュートン力学 の古い魔法である。高校物理程度の思考の積み重ねで達成できる数少ない到達点である。高校物理ではニュートン重力とニュートン力学と を習うが、重力と力学の結合は習っていない。そして、大学の力学でもそれを教えていない。

これの理解の要は、ある思考実験(*3)に気が付くことである。もし惑星間航行の飛行士がこれを知らなければ、なぜか、 理屈が通らない回転をしてしまう、と毎回、ジャイロの故障だと思うだろう。それを何回か繰り返して、本当のことに気が付く、後の笑いで 済めばよいが、宇宙で方向を間違うことは許されない。いや、宇宙船の自転の修正は容易でそれに必要なエネルギーも小さいから、何度も やり直せるかもしれない。数十年前からスイングバイは惑星間航行の基本的な技術である。すでにその専門の人達はこれを熟知し、それに 従った宇宙航行を実行しているだろう。

それならどうでもよいと思ってはいけない。この step2の軽減があるかどうかは、ロータベータにとって、存在確認なしに済まされない、 死活問題なのである。


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22.1 step2 は軌道回転を忘れた誤り

step2は軌道回転を忘れた誤りで、step1軽減しか期待できない。地球を公転するロータベータの地球に対して同じ側を向ける(地表速度0)運動は、 公転と同じ周期の自転を伴う。その公転分の自転と地表速度を打ち消す自転とは同じ向きで、慣性系からみたロータベータの自転は加算されより大きく、 遠心力も大きくなる。とくに長いロータベータではその違いは大きい。例えば r=1 の地表速度を打ち消す自転とは、等しい2枚のコインの1枚を固定し、 その周りにもう1枚を歯車のように滑らせず回すことに対応し、ロータベータを表す矢印(↑)を付けた周回コインは、固定コインを1周する間に2回転する。 地表速度を打ち消すコインの自転は1回転分で、実際はもう1回転ある(下図左)。また、半径が半分r=0.5のコインは1周する間に3回転する(下図中)。 地表速度v2を消す∠t2回転する間に公転分の回転∠t3があって、ロータベータの回転角度は、∠t1 = ∠t2 + ∠t3 である(下図右)。 これは、端が地上で止まる間、重心はこの∠t1に対応するv1だけ進むと理解できる。(2015/2/2)

コイン2個が中心を固定した歯車になるとき、それらは互いに逆方向に回転している。それは地球周回の回転系からみた図である。そのとき、逆方向の 地上速度を打ち消すロータベータの自転だけがみえるが、大きな地球周回回転が無視されている。それに対して、コインの一方を固定させるのは地球 自転系からみるときである。このとき、より小さいが地球自転が無視されている。ロータベータが実現したとき、その重心と地球の重心を結ぶ線分を 固定とみる回転系において歯車の関係になる。この回転系の回転と(地上速度を打ち消す)ロータベータ歯車の回転の和が慣性系からみたロータベータ の回転である。この2つの回転が逆方向なら、ロータベータの回転は、小さくなり遠心力を小さくできそうだが、あり得ないのか。


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22.2 step2 の軽減は正しい

前章の「遠心力が大きくなる」は誤りで「step2の軽減」は正しい。軌道回転系では、軌道回転に対応する分の自転の遠心力は、地球重力によって 打ち消される。小半径の中心天体を回るロータベータの対地表速度は小さい(下図)。もっと小さな(1点のような)中心天体のロータベータは、紐を 中心天体近くに垂らしたまま対地速度なしに軌道周回でき、軌道回転分の自転の遠心力を重力が消し去り、全く自転の遠心力を感じないだろう。 軌道回転系の遠心力の逆パラボラ面-1/2 (rw)^2 と、重力の滑漏斗型面 -GM/r の加算が、回転系の軌道上の実効ポテンシャルを平坦にする。 (2015/3/15)

慣性系に対する回転 ∠t1= ∠r2 + ∠t3 のうち、軌道上では軌道回転の∠t3を重力が打ち消す。軌道回転系はその遠心力を感じず、軌道上を局所 慣性系のように見るのは、重力が局所慣性系を回転させるのである。局所慣性系とは乗物の系である。重力は乗物系の向きを変え、ロケットはスイ ングバイによって、速度も方向も変える。乗物が球対称からの偏りで、潮汐力を各部に加え長軸を天体に向くように回転させる現象があるが、たとえ、 乗物が球対称でも、内部に精密なジャイロを積んで方向を測定しても、その回転は起きるのではないか。ロータベータに半回転だけ乗れば、上下反対 になるよう、スイングバイで軸は反対になり乗物系は回転して方向を変えるのではないか。軌道回転系の重力による自転の消去は、軌道回転が局所に 見えないだけでなく、より原理的かもしれない。ニュートン力学は、自転と公転は独立で、重力は重心に働き自転に影響しないと訴えるが、この現象 は、その反例にみえる。

想起すれば、"ラグランジュ点"の存在を示す軌道回転の実効ポテンシャルは、遠心力と重力は、太陽地球系では 地球の重力の影響を入れない場合、軸対称で平坦は円軌道をなすが、決して自転なき公転ではない、各点が板上のような"剛体回転"である。自転は 公転と等しく、乗物はもし中心を向けばそのまま中心を向いて周回する。軸対称な実効ポテンシャルは、自転が公転と等しいときだけ各点はポテン シャル変化をみず、角速度がそれ以外のとき遠心力を受ける。つまり、ニュートン力学でも重力は局所の慣性系を回転させるか。

例えば、軌道エレベータは、1日1回の自転の遠心力を受けるか。軌道速度は3.08km/sだが、半径が36000kmなので、遠心力は0.26m/s^2と小さい。 その下端は地上の建造物だから、地球の自転の遠心力と等しいはずである。ところが、地上の赤道上で463m/sの自転の遠心力は上向きだが、 そこに立つ軌道エレベータの公転と同じ自転の遠心力は、もし存在すれば下向きである。これは、非存在の証明である。とても荒いが。 地球の自転の遠心力は、3.35 cm/s^2しかない。

静止軌道エレベータは、1日に1回、地球の周囲を回る公転と、地球を指すことによる自転の両方をしている。地上物体は重力 1G= 9.8m/s^2 を受ける。 この重力以外に地球中心の遠心力は、静止軌道の高みでは弱まった重力と釣り合って無重力となるが、エレベータの下端では小さい(3.35cm/s^2)。 ここで問題は、軌道上の重心を中心とした遠心力(0.26m/s^2)はないのかどうかである。物体が自転して遠心力がないのはあまり聞かないが。 その遠心力があって下方に向かい下端でそれを加算して地表と同じ体重になるのか? それとも、軌道重心中心の自転は1日1回の公転分を差し引いて 遠心力を考えるべきか?正解は後者と考える。前者では値が違ってくる。軌道エレベータの下端の静止した箱に乗りこむだけで体重が 0.26m/s^2 だけ 増えることはない。(上図とこの段落 2018/9/24)


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22.3 その証拠を示す

その軌道回転系では公転と等しい自転が見えないから、各点が静止状態だから遠心力が存在してもみえるはずがないのでは、という疑問に対して は、見えない座標系の運動によって、遠心力のような疑似の力が生まれることを思い出す。軌道回転によって自転が見えないからその系にその 遠心力がないとはいえない。元もと回転系の遠心力は、系にとって見えない系の運動が原因で、系内物体の運動に(遠心力は静止物体にも、コリ オリの力は速度に比例して) みかけの力を見るものである。見えない遠心力というものは普通にはない。軌道回転(公転)が重力に対抗して無重力 を生むのは自明だが、(公転と等しい大きさの)自転は直接に重力に対抗しないから、遠心力がないことが(事実としても)自明ではない。 これではまるで、遠心力を発生する(遠心力を0にする)自転の基準系が慣性系から軌道回転系(公転)に移ったかのようである。

回転が正でも負でも遠心力は同じく中心から離れる方向(遠心方向)に働く。 rw^2 (= v^2/r) と表される2乗の項である遠心力の基準が0からw0 に移動し (wーw0)^2となると考えるのは、慣性系と回転系w0の相対主義、平等主義ではないか。ニュートン力学ではバケツの思考実験のように、 回転の相対主義は間違いで矛盾をうむ考えだが、それでいいのか。いや、これが明確に事実を説明するかどうかである。間違った考え方を自ら 望む者はいない。望まずにそうなる。それには幾つかの誤解、誤った前堤の受け入れから起きる。まずこれをそのように回転の相対主義という べきでない。慣性系が回転系から区別される最大の要素は、遠心力の存在である。それが消えるとは重大事ではあるが、これは重力に伴う現象 であり回転だけの現象ではない、重力のないときの回転相対は誤りだが、これは重力と関係した現象であり少し違う。

この遠心力の現象は、回転の差の 2乗 (wーw0)^2 に比例し、線形でなく、また自転wと軌道回転系(公転)の回転w0と、根ざすものが異なるから 全ての回転の相対性をいうわけではない。単極誘導のときの回転系と慣性系の区別は、理解がもっと難しかった。それは、誘導される起電力が、 回転wの差に比例 E=1/2 Br^2(w-w0)していて、2次ではなかったからである。起電力は回転の相対性を示していると解釈しても矛盾がなかった。 しかしこの単極誘導がそうだからといって、これも座標系の全ての物理現象に回転の相対性を主張しているのではない。単極誘導現象の理解に おいて回転の相対性がないという仮定が不要と指摘するだけである。古くから議論のある基本的な物理現象の説明は、難しく誤解の元なので、 批判者との論戦は注意深く避けたいが、世界の理解と記述を行うのに誤りは最も避けなければならないという事情が優先される。


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22.4 ある思考実験

それでも、局所慣性系の回転をどう理解すればよいか。その小さな座標系の軸回転の説明に、次のような思考はどうだろう。下図(a)のように、 天体をスイングバイする軌道上に、乗物を進入させ、その1秒後に同じ軌道に同じような別の乗物を進入させる。2つの乗物は、同じ軌道を共有し、 時間的に1秒違いで同じ軌道を辿る。その進入速度が例えば10km/sなら 10kmの距離をもつ。天体近くの周回によって速度は上がり、例えば 20km/s になれば、ふたつの乗物は軌道上で 20km 離れている。天体の側の軌道が円に近いと速度は半回転の間に余り変わらず、20km/s を保つ。つまり、 2質点は距離を変えず、その方向を半回転する。そのとき2質点の互いの重力は無視でき力は働かないとする。2質点を結ぶ線は、軌道回転(公転)と 同じだけの自転をもつから、その自転に遠心力があれば(間隔が変わるなど)感じるはずである。つまり、軌道回転と等しい自転には遠心力はない。 別々に軌道に投入しただけの2質点は、自転しているといえるか。いえる。近傍にあって、それを結ぶ線を引けば、物体の回転を表すことができる。 また、図(b)スイングバイの天体の重力は、ロケットの方向を変える。これは、一般常識に反するかもしれない。(2015/4/3)

ボールの放り上げでも同じ。2個のボールを0.1秒違えて同じ速度で放物線運動をさせ、軌道共有する2質点は、質点間に線を与えても力は働かず、 放物線接線は方向を変え、軌道の弯曲は2質点の自転だが、2質点に遠心力はない。但し、放物運動は高さの変化によって速度と2質点間の距離が 変わり、遠心力の存在の疑いを残す。放物線の円に近い部分を選び、納得すればよいが。

地球中心の人工衛星の円軌道のほうが分かりやすい(下図)。軌道に投入した時刻が違う2個の人工衛星は、目印に線で結べば互いの間の力なしに 自転する質点系でありながら遠心力がない。この2質点を紐で結んでも張力はなく、自転は0でない(公転と等しい)。軌道上に2質点は水平を保つ。 よく知っているはずのニュートン力学にはこんな現象があったのである。これは、慣性系や一様な重力場にはないことで、一様でない重力の力学、 中心力場に慣れないから不思議に思うだけである(*4)。


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22.5 中心力場は並進物体に剛体回転を与える

回転には力のモーメント(トルク)が要ると常識は反論する。それでは、一体、何が方向を変えるのか。何が慣性能率に比例するモーメントを与え、 回転させ回転を止めるのか。普通、角度を変えるには回転させ回転を止めなくてはならない。力学系の角運動量は保存するが、角度は保存しない。 周囲に接触のない真空の宇宙で、乗物が方向を変えるには、内部にもつ回転体を逆回しし、乗物自体を回転させ、回転体を停止して、乗物の回転を 止めることで行う。そのような回転が何によってどう与えられるのか。

天体とのスイングバイによって、その途中に物体は自転させられる。これを認めることも難しかったが、これを認めるなら、何がこの公転に伴う 自転を与えるかが問題になる。質点に回転の概念はないから、剛体か質点系において重力が働き、重力を受ける方向が回転していくことか。 ハンマー投げも、力を物体に平均に与えるように網をかけ紐を振って回転させるなら、それが重力が働くときと余り違わないことに気が付く。 それによって物体は回転させられる。

速度をもった質点に中心からの求心力が働くことが回転させる。紐の張力か重力かによらず、求心力によってもたらされた軌道運動の軌道の弯曲は 全て、遠心力のない自転を表すのではないか。速度をもった質点は、天体中心からモーメント作用をもつ。それと同じく、乗物からみて速度をもった 天体は同じだけモーメント作用をもつ。重力の中心力場の相互作用は、それによって公転と自転をさせる。

天体重力の中心力場は、物体の各部分に力が質量に比例するほぼ (潮汐作用は残る) 等しい中心天体に向かう加速度を与える。重力や紐の張力は、 局所に、公自転を持つ「剛体回転」を与える。そのため、時刻を違えて並進する2質点や、それをモデルとする広がりをもつ乗物は、それまで並進 し、回転しなかったのに、天体とのスイングバイによって、公転と一致する回転が与えられる。物体回転に必要なモーメントは、天体との位置関係 が考えられる。スイングバイが終わり、再び遠方に行き重力から解放されると乗物はその回転を停止する。

軌道の弯曲はこの自転に対応し、物体の方向転換を表す(*)。軌道とは空間に引いた乗物の線であり、その線が天体に向かって曲がるとき、その軌道上 の乗物は、進行方向から天体方向に向かう回転のモーメントが与えられる。公転に等しい自転には遠心力がなく、重力のない空間の場合の慣性系に 相当する。勿論、その軌道回転系においても任意の自転が可能であり、自転は公転を基準にして、基準との差の2乗比例の遠心力を得るのである。

(*) 軌道の湾曲だけでその物体が方向転換するとはいえない。地上で投げ上げたボールの放物線でボールが回転しない。(2018/9/20)


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22.6 天体中心の乗物の角運動量は最初からあって保存される

物体(質点系)に回転を与えるモーメント(F x r)は、中心を定め、力が働く作用点rが中心から離れ力Fが中心から外れた方向をもつことが必要だが、 この中心力場では、重力は中心に向かい、F x r = 0 である。確かに速度は必要だろうが、乗物に回転の付与は全くできないのではないか。

回転の中心、天体中心は、場所rに速度vをもって通る乗物に回転を与えるのではない(*)。回転(角運動量 m r x v)は最初からあった。スイングバイ 前、遠方で慣性系に並進するとき、天体を中心とする角運動量はあった。角運動量 (m r x v) は、天体重力を受けるスイングバイ途中もその後も、 角運動量は保存され、遠方にいって慣性系となるまで一定である。天体の重力から離れ、モーメントが働いて回転が止まるのではない(*)。

回転を与える/失うときにモーメントが働く、のではなく、どこを中心にするかで角運動量は変わる。回転する/しないが変わる。角運動量保存を 原理にして、慣性系からみてスイングバイで回転が与えられるのを最初から回転していたとする。確かに r x v は、軌道を接線にする天体中心 からの半径r(直線と点との距離)と速度vとの外積であり、ケプラーの面積速度一定である。例えば、最接近距離を天体半径の何倍として、天体へ のスイングバイ突入の軌道が決まれば値が定まり、遠方から天体への接近、スイングバイを終え、遠方に去ってもこの値は変化しない。 これでやっと、本当のニュートン力学の認識を採用できた。で乗物は、スイングバイ時に回転させられるのではなく、天体中心の角運動量を最初 から保存し、慣性系からみて天体の側で回転をするのである。

但し、角運動量の保存を原理として、慣性系に並進した乗物がスイングバイ時に回転し、遠方に戻り回転を失うという説明は、説得力がない。全く 反対のこというようである。しかし、それが本来の角運動量の定義であり、ニュートン力学の最も単純な記述である。しかし、まずその記述がどれ だけの人々に「自転と公転とが独立」という誤解を与えたかを示すことができたと思う。実際、自転と公転とは独立ではないのである。

角運動量保存は、角速度の保存ではない。角運動量一定は、角速度wを大きく変化させる。角速度 w= v/rを使って表す角運動量(m r x v)=(m r^2 w) =一定から、w∝ 1/r^2。角速度wはrの2乗に反比例する(重力に比例する)。遠方で小さかったwは、天体近くで大きくなり、遠方に戻りまた小さくなる。

面積速度一定は、重力と速度の伴うときの基本的な法則である。天体からの動径rが短時間に移動する細い3角形の面積は、例えば天体との距離が1/2 の点に到ると、2長辺が1/2、高さは速度(の重力交差成分)で2倍。それゆえKE〜4倍。重力はGM/r^2で4倍、PEの無限遠との差GM/rは2倍。KEが4倍PEが 2倍と変化量が違うが、KE+PE=一定は、PE減少分がKE増加分であり、v^2= 2GM/r + v0^2 は速度の大きさを、残りを (r x v)=一定が与える。また、 上の議論でr^2w一定から角速度wは4倍だから遠心力rw^2は8倍であり、遠心力と重力の関係が変わる。半径の1/2倍が2,4,8倍の様々な値になることは、 この法則を当然と思う浅い理解を止めさせ、ニュートン力学の理解がさほど容易でないことを感じさせ、様々な予期せぬ現象に考え付くような気にさせる。

(*)違った。次章参照。


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22.7 重力の空間微分が物体に自転トルクを与える

角運動量一定は、遠方でも物体の速度vと天体からの位置rは方向が少し違うだけで角運動量はあり、重力のモーメントは (Fxr)=0からこの角運動 量は一定に保たれる。楕円や放物線や双曲線軌道は全て外に凸で、つまり狙った速度の方向より内側に曲がり、方向を太陽エッジにするとその内側 に到達するから注意がいる。

否定できる:この角運動量は、物体全体の天体に対する角運動量保存であり、自転の角運動量ではない。

軌道投入に時間差をもつ2質点は軌道に沿う角度を保つ。また軌道に垂直に2質点を紐で結ぶと潮汐作用は2質点の天体に対する角度を振子のように保つ。 これらは、軌道上物体の公転軌道に沿う回転を表す。遠方において慣性系に並進した物体が、角運動量保存によって角速度wを増大し低減する。両者から、 自転角運動量を保存し、スイングバイ中の大きな自転wを示せるだろうか。いや、違う。



重力は、軌道上の物体にトルクを使って回転を与える。2質点に働く重力の差である。時間をあけて同軌道に投入した2質点は、軌道上に速度と間隔をもち、 それぞれ重力F1、F2を受ける。重力差dF= F2-F1は、加速度差になり、1秒後に1は2に、2は別の点に移動する。速度はdx/dtである(例えば dx=20km、 dt=1秒)。そして重力は、F1からF2にdFだけ変化する。dFは重力の1秒間の時間変化であり、2質点の20km間隔の空間変化でもある。dFは、2質点に dF x dx (重力差と2質点の間隔との外積)の自転のトルクを与える。

簡単にいえば、物体が天体に近付くとき、重力の大きい近傍側の質点を内側にする(天体に向ける)トルクを受け、離れるとき逆のトルクを受ける。 円軌道(図右)では対称で、dx//dFが平行であるから、トルクなし(dF x dx)=0に、2質点が軌道上で回転を続けているだけである。

軌道上の重力差dFと物体の軌道に沿う長さ(2質点間隔dx)の外積が、自転角運動量を増減させる重力のモーメントである。軌道上の重力差は軌道上 の重力勾配と2質点間隔の積だから、2質点間隔が2度掛けられている自転の重力のモーメント(トルク)は、

自転モーメント ∝ 軌道上の重力勾配 * dx^2である。

自転の角運動量は保存する。公転の慣性モーメントは変化するが、自転の慣性モーメントは変わらないから、力のモーメント(トルク)なしに角速度 を変更はしない。トルクが存在して自転の角運動量と角速度は変化するのである。



軌道投入に時間差をもつ2質点間に力はなく間隔は速度を表すが、間隔の変化は局所系のみかけの力を表す。加速すると系の速度に比例して間隔が拡がる。 系の速度に比例する2質点の間隔は、系の加速によって2質点間の速度を得るから、系の加速度変化によるみかけの力を示すのである。つまり、重力に よって運動をする局所系を参照するときの見かけの力は、局所系の加速度の時間変化によって現れる。これは軌道に沿う2質点の間隔の2階微分である 加速度が、力に比例するという関係が、速度の2階微分である加速度の時間変化によって現れるということによる。時間微分が余分にある。

この時間微分は、軌道に沿う2質点では空間微分の代わりをしている。そして、空間微分は、軌道に沿う方向以外にも存在し、働らいている。 特に天体に向かう方向と逆の方向には、天体に向かう方向に偏ると、重力が系の加速度による遠心力よりも大きく天体に向かう力を与え、 天体と逆方向に偏ると重力が、系の加速度による遠心力よりも小さいために天体から外に外れる力を与える通常、潮汐力という重力勾配がある。 それらは、軌道が天体と距離を変化させる楕円や双曲線の場合に自転のモーメントを与える。円軌道では、潮汐力は力のモーメントを与えない。

(*3) 質点を分割する思考実験は、昔から行われた。ガリレオが落体法則を得るのに、質点が2つに分かれたときそれらが別々の運動をすると仮定する 法則はあり得ないと認識した。分割しても同じく運動しなければ、2質点間に張力が必要になる。それゆえ、重力は、質量に比例しなければならない。 AからBに作用があるとき、Bを分割すると部分は別の運動を始めると考えることはできない。それゆえ、Aの作用はBの部分の質量に比例する。 作用反作用の法則を成立させるため、AとBとが対等とすると力は両者の積に比例することになる。ニュートン重力はこれを満たし、重力、電気力、 磁気力も、同様の積をもとにする。部分の質量を単位質量にして、Aの作用がBに直接働くのではなく、Bの場所にAの影響による場を作るという 場の概念も、この認識に基づく。

(*4)2質点を軌道に垂直に少しだけ離して置き、その間を紐で結ばないと、2質点は周期も違う別の軌道にあることを次第に暫くして知るようになるだろう。 円軌道にあった2質点は、天体側の質点はそこを長軸の頂点とする楕円軌道に、反対側の質点は、そこを短軸の頂点とする楕円軌道にいる。


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22.8 乗物からみた天体の軌道

天体に対して長い楕円や双曲線軌道をとってスイングバイする、その系からみた天体の動きはどうなるか。天体中心の乗物の角運動量保存でなく 乗物中心の天体の角運動量保存をみるとき、角は、局所慣性系からみた角である。

乗物の局所系が常に軌道に沿う方向をとるなら、乗物からみる天体運動は、決して楕円や双曲線(図(2)の点線)ではなく、双曲線の開く角度θ(図の(1)) にも依存せず、概略は直線である(*)。これは乗物が重力を受けないで静止するときの天体運動のようだ。慣性系からみた運動ではないから、奇妙なのは 当然だが、乗物が回転しない場合にみる世界、天動説、天体が自らの周りに楕円や双曲線を描く図の点線と比べれば、慣性系からみた天体運動と同様、 天体の直線運動はその運動量と角運動量の保存を示している。しかし、局所慣性系のみる天体運動はそこに重力の働きを示す。途中3箇所の間で恒星天は 大きく回転をする。恒星天の回転は、角運動量保存と相容れないようだ。自らの回転で世界が回転してみえるだけである。

乗物が天体周囲を円運動をするとき(3)、局所系からみた天体は静止する(4)。重力と遠心力との釣合いは乗物の質点に起きるが、天体の静止の不自然 さを、乗物の周りを天体が周回する図の点線と比べよう。一般に、天体からの重力が無視できる遠方では、天体は静止又は直線運動するものである。


図.? 天体sに交差する乗物v(1)からみた天体運動(2)、円軌道周回する乗物v(3)からみた天体運動(4)

自分の周りを天体が回るという、相対的な天動説は、局所系の非回転を前堤にしていた。座標系を慣性系に限定しない場合、天動説を地動説と対等とする 考えは、局所系への自転の導入を忘れている。天動説は重力的見地からは不自然である。例えば、天体が乗物の周囲を軌道運動するのは、余りにもあり 得ない、蓋然性のない、観測が対象に影響する、自己中心的、主観世界であることは明らかで、慣性系と同じ法則が成立するとは思えないが、それは、 自転を考慮しないからである。自転を導入すれば、局所慣性系がみる世界は、天動説ほどの奇妙さはない。遠方慣性系からみて乗物は加速系であるだけ でなく角運動量保存による回転系であるとすれば、思考実験から導かれる局所系の軌道運動による自転は客観的検証でき、天動説は実験的に否定できる。

(*) 乗物の双曲線軌道は常に外に凸で、遠方では接線は天体との距離が大きく接線の距離の最少をもつから、乗物から見込む天体との距離(接線への垂線 の長さ) は遠方から近付くと縮小し、遠方でまた大きくなる。乗物からみる天体運動は直線でないが、両方の遠方が角度をもたない直線に漸近する。 天体は直線から近付きまた同じ直線に戻っていく。


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22.9 バンクで自然に曲がる喩え

3次元空間中の「中心力場」の重力場で、任意の初期位置と速度をもつ物体の運動は、その後も両者と中心を含む平面上内の軌道をとる。力が中心 からしか来ず、平面から脇にそらす原因がないからである。平面内の軌道は、円錐曲線(双曲線、放物線、楕円、円)である。平面上の軌道上の振舞 を地上に持ってくると、軌道を振らす地面の高低がある道であり、中心の右側を通る道は、右側が高く左側が低いバンクである。自転車は、そこに 来るとハンドル操作なしに左に曲がる。その典型の競技場の円錐形のバンクに連なった車はバンクの斜面にぶつかり、当然先頭から左に曲がっていく。 時間差をもって後続も同様に曲がる。細長い全体が方向を転ずるとき各点も自転する。これは重力場で運動物体が中心方向に曲がる軌道をとるとき、 中心に向かう回転が自然に発生することを表している。重力場が質点を回転させることを示すのは難しいが、質点を分裂すれば重力場の軌道によって 2質点が回転を受けることは理解できる。喩えは比喩でなく地上での同現象である。

角運動量保存自体が自転の理由のはずだが、それをどう示せばよいか。角運動量(m r x v)の保存は、|r||v| sinθの一定(θはrとvのなす角度)。 sinθは天体遠方で0に近く近傍では1に近い。そのためrv積は、遠方で大きく近傍で小さい。接線と天体との距離 d= r sinθ とすると d*v 一定。 この方が遠近の違いをよく示し、近傍でvが大きくdは小さい。角運動量の時間微分 (m r x v)'= m(v x v) + m(r x a) = r x f = 0、角運動量保存 と力のモーメント=0は同義である。中心力場では中心からの位置ベクトルrと中心からの力fの方向が一致し外積r x fは常に0である。 エネルギー保存から、

v^2 = 2GM/r + v0^2 = v1^2 + v0^2、 (v1= √(2GM/r))

無限遠速度v0(放物線でv0 = 0)と、rによって速度の大きさが決まる。dv= const と組合せ、d^2= r*const/2GM


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22.10 中心力場は円錐曲線

中心力場の運動方程式は、動径r方向の加速度ー遠心力= ー重力加速度の式(1)、方位角の加速度=0から式(2)を得る。(w= θ'= dθ/dt)

r''- rw^2 = -GM/r^2 ......(1)

m/r d/dt(r^2 w) = 0 ......(2)

(2)から面積速度 r^2 w = h (一定) ...(2')、ここで、動径r(t)の運動方程式(1)から、θに対する動径rの逆数u= 1/rの式(3)を導く。

u= 1/r から、du/dr= -1/r^2= -u^2, (2') からθ'= dθ/dt= w= h/r^2= hu^2,
r'= dr/dt= dr/du * dθ/dt * du/dθ= -1/u^2 * hu^2 * du/dθ = -h du/dθ,
(1)の左辺第1項は r''= d(r')/dt = d(-h du/dθ)/dt= dθ/dt * d^2u/dθ^2 = -h^2 u^2 d^2u/dθ^2、
第2項は -rw^2= -r(hu^2)^2= -h^2 u^3、

(d^2u/dθ^2) + u = GM/h^2 .......(3)

(3)の右辺一定から、u - GM/h^2 は調和関数である。L= h^2/GM とし、

r = L/(1 + e cosθ) ........(4)

軌道は円錐曲線。離心率e=0で円(r=L:半径)、01で双曲線。

Wikipedia と後藤憲一の「力学通論」を参考にしたが、表記はκはG, θ'はwに変更した。軌道r(θ)は、ただひとつの 一定値/(1+ e cosθ) で表され、これは運動量保存の rv sinθと、どう関係するのか。 rv sinθ= dv= h (一定) なのか。