力学について

片山 泰男 (Yasuo Katayama)
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1. はじめに
2. 運動エネルギーは、なぜ速度の2乗か
3. 運動エネルギー差は、加速のエネルギーより大きい
4. エネルギー保存と相対性原理は、運動量保存を含む
5. スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャル
6. 重力場のエネルギー
7. 電磁気の電場のエネルギーは、ポテンシャルと繋がりがつく
8. 電場のエネルギーとスケールの関係
9. 電場のエネルギーの無限遠との差がポテンシャル電荷積
10. あり得る加速の方法について
11. 古典的な重力カタパルト
11.1 太陽系外への旅
11.2 太陽面での加速
11.3 エネルギーの加減算
11.4 運動量の獲得
11.5 重力ポテンシャルの差による加速
11.6 ピタゴラス加速の極限
12. 停止時に運動エネルギーを取り戻す
13. 小惑星で曲がることと、太陽面通過
13.1 太陽への自由落下
13.2 自由落下でない方法
13.3 太陽面での加速の効果
14 停止時に運動エネルギーを取り戻す(回転エネルギーにして)


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1. はじめに

小学生のとき、直方体の物体の倒れるのがその対角線を超えたときであることを見出した記憶がある。 長方形に対角線を書き、対角線が垂直になるまでは倒れず、それを越えた場合に倒れるという発見である。 白紙の上に書いた図は、物体の動作を十分に説明していた。物体は重心が下がる方向に移動するという、 重心の概念が私の中にできる前だった。

もちろん、対角線や重心は、物体が転倒するかどうかを考えるとき、説明がうまくいく限りにおいて有効な、仮想の存在である。 傾けたときの重心の移動を考えると、重心の軌跡の高さの極小点が安定の意味である。どんな平面上の形にも、実は立体の中に 重心は存在し、全ての静止物体は高さ極小の重心をもつ。重心が物体の外側に存在する物体は、起き上がりこぼしのように不思議な安定をする。

質点 n 点のとき、その位置ベクトルを X_i とする n 個の質点 m_i があるとき、重心は、X = Σ m_i X_i /Σ m_i 質点の座標の質量による加重平均である。質点間のいかなる相互作用にも重心は影響を受けず、静止又は等速直線運動し、 回転において中心になる。



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高校生のとき、手持ちの鉛筆削り器が外側の金属板と内側の本体の底とに僅かな段差があって、その角を下にして微妙な角度で安定し、 あり得ない形で静止することを見つけた。重心から角への線に垂直に削られた微小な底面と同じであり、微小な幅の底面でも重心からの 垂線を含めば安定で、垂線が外なら倒れる。重心の高さが 2 つの円弧の交点として極小にある。



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しかし、コマが内部で回っている箱は、この動作をしない。箱がブラックボックスで箱の内部を知らない場合、上の法則は法則ではない。 コマが内部で回る箱は、対角線以上に倒しても倒れず、重心の倒れる面に垂直の向きに箱がみそすり運動の回転をして倒そうとする トルクに対抗する。箱の中のコマの回転が大きいほど、倒れないための箱の回転はゆっくりですむ。十分大きな角運動量のコマを入れた 箱又は棒は、ほとんど回転を見せずに不安定に見える重心の配置を続ける。常識外れに、倒れない棒を作ることができる。



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同じような非常識な動作をする物体として、 1 m 程度の金属製の管であり、手で縦にもっていて手を離すと、 0.5 秒ほど宙に浮かぶ管を作ることができる。重心は、重力によって下に 9.8m/s^2 で加速されるが、 その棒の外観には重心の運動と違う運動をさせるのである。管の中に錘をもち、錘と管の下端との間に 一定の張力を錘に対して下に与える仕組をもっている。それは、管を上に引き上げる仕組でもあり、管は一定の時間、 錘が上端から下端に移動する間だけ、宙に浮くだろう。


その棒を実際に作ることは、多少の工作の技術が必要であり、私には容易でなく成功していない。 錘と管の下端の間は、ゴムやバネでは張力を一定にするため、管の長さよりも長くして上端に往復させるとか、 最初から巻いた板バネで、ほどくときに一定の張力を出すものを使う必要があるかもしれない。 張力が変動すると宙に浮くときの静止感に影響するだろうからである。外観が静止するために必要な張力は、 (外側の)管の重さと等しく、静止時間を確保するために、錘の質量は管より十分に大きい必要がある。


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2. 運動エネルギーは、なぜ速度の 2 乗か

力学的エネルギー保存(位置エネルギーと運動エネルギーの和の一定)は、物理法則の時間シフトに対する恒常性である。 ある系で成立する法則が、時間をおいても同じく成立するということから、エネルギー保存則が導かれる。それに対して、 運動量保存則(作用反作用の法則)は、物理法則の空間的シフト不変である。角運動量保存は、時間反転に対する保存則だろうか。 そのような、基本法則を別の視点でさらに普遍的に見直すことができることが物理の興味深いことである。

しかしその前に、運動量が速度と質量の積で、運動エネルギーが速度の2乗と質量の積である理由を、ニュートン力学の範囲内で考えよう。 運動量は、衝撃に対応し、力と時間の積(力積)の(ベクトルの時間積分)を与え、運動エネルギーは、仕事に対応し、力と距離の内積(仕事) スカラーである。運動量と運動エネルギーとを分離した概念とするのは、最初、難しい。運動がエネルギーを持ち、それは、他のエネルギー、 熱や、位置エネルギーと同じく仕事をする能力である。右に左に運動する物体も同じエネルギーをもつ。運動量の逆符号と対照的である。

速度が大きさと方向をもつ "ベクトル" であるのに対して、運動エネルギーは大きさだけをもつ "スカラー" であり、しかもそれらは空間の点に 存在する場ではなく、物体(質点)に付属している。それが速度の大きさにだけ依ることはよいとして、それが 2 乗であるのは、なぜか。速度の 絶対値の単調増加関数なら何でもよいのではない。なぜ 2倍の速度の物体の仕事をする能力が 4倍かを、できるだけ初等的に説明しよう。


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(A) 等しい質量 m の 2 物体が非弾性衝突して、衝突後に反発せずに全て熱エネルギーにエネルギーを変換する場合、 重心系からみると速度 v と -v を持つ 2 個の質量 m が相対速度をなくす。このとき、熱に変化する運動エネルギーは、 速度 v の物体 2 個分である。その同じ現象を一方の物体からみると、他方の物体が速度 2v で衝突してくる。 衝突において放出されるエネルギーは見る系によらず、重心系から見たときの速度 v の質量 m の 2 個分と等しい とすると、この系では、それを差し引いた衝突後にも 2 個の質量は、まだ速度 v を持っている。そのため、速度 2v の一個の質量の運動エネルギーは速度 v の運動エネルギーの 4 個分である。

(B)一様な重力のもとでの落下物体のエネルギーは、高さに比例する。等しい重力加速度での落下は 2 倍の時間の加速で 2 倍の速度を得るが、その間に落下する距離は、4倍である。2 倍の高さから落とした物体は、√2 倍の速度を得る。 4倍の高さから落とした物体が 2 倍の速度を得る。それゆえ、2倍の速度の物体は、4倍のエネルギーをもつ。

(A)の説明は、対称性を利用しているために、理解が容易であるが、座標系を違えてみるという独特な方法を使っている。 そこでは、運動エネルギーが系によって異なること、熱エネルギーが系によって異ならないことを知らなければ理解できない。 (B) は重力による等加速度運動の時間に対する2乗関数としての距離を知る必要があるので、かなり基本的でない弱い説明である。 どちらも、運動エネルギーが速度の 2乗に比例することを説明する。これで十分かもしれない。


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3. 運動エネルギー差は、加速のエネルギーより大きい

それでは、次のことは、十分納得できるだろうか。最初静止した状態で、100 kg の人が力積 100 Ns (ニュートン秒) の鉄砲を 2 回撃つとしよう。1 回目の発射でこの人は、速度 1 Ns/kg の速度、つまり、1m/s の速度を得る。 鉄砲の発射によって人間の運動量 100 kgm/s を得る。

鉄砲の 2 回目の発射後では、人間の速度は、2 m/s になる。その速度の人間の運動エネルギーは、1 回目の発射後 の運動エネルギーの 4 倍である。発射による運動エネルギーの増加分は、初回、1 であり、 2 回目は、 3 である。 そのように n 回目の運動エネルギーは n^2 であり、運動エネルギーの増加分は、n^2 - (n-1)^2 = 2n - 1 となり、 同じ鉄砲から来る運動エネルギーが毎回違っている。このことに疑問を感じなくてよいのだろうか。


これは、大きな速度をもった物体の速度差は、大きなエネルギー差になることである。等しい速度差を、大きな速度をもった座標系 からみると大きなエネルギー差になることでもある。大きな速度を V、小さな速度差を v とすると、2 乗のエネルギー差は、 (V+v)^2- V^2= 2 Vv + v^2 であり、V に比例する第 1 項があるというだけのことである。そのとうりだ。それでは、鉄砲の発射に 使った火薬の化学エネルギーを超えることも許されるのだろうか。そうだろう。物体が、鉄砲の発射によって一定の速度を獲得する という事実は、どのような大きな相対速度をもった系から見ても構わないから、その増加する運動エネルギーは、鉄砲の火薬の化学 エネルギーに制限される理由はない。しかし、心配するのは、それは、そもそもエネルギー保存を満足しているのだろうか。 火薬のエネルギーを使って、火薬の化学エネルギー以上の運動エネルギーを獲得するのは、何か間違っているのではないか。


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運動エネルギーの増加が、加速に使ったエネルギーより大きいなら、エネルギーは保存するのか? 忘れているのは、弾の運動エネルギーである。

これは、鉄砲が放出する弾丸の運動エネルギーを含めた、放出前後の運動エネルギーの差が系によらず一定を知れば解決される。 その例として、弾の速度がちょうど 0 となる系を考えよう。人体 M の加速 v と弾 m の減速 V には運動量保存 Mv + mV = 0 の関係がある。質量 M と m が速度 -V をもつとき、弾を後方に発射し、弾は速度 0 に、人体は速度 -V + v になる。

放出前の運動エネルギーは、1/2 (M+m) V^2 であり、放出後は、人体の分 1/2 M (-V+v)^2 である。放出後から前を引くと、

1/2 M (-V+v)^2 - 1/2 (M+m) V^2 = M/2 (V^2 - 2Vv + v^2) - M/2 V^2 - m/2 V^2 = - MVv + Mv^2/2 - mV^2/2

運動量保存、Mv= -mV を使い (mV^2 + Mv^2)/2。これは、静止状態から弾を放出した後の運動エネルギーに等しい。

つまり、発射後の弾の慣性系からみても、発射前後のエネルギー差は静止状態からの発射と等しい。エネルギー保存は、 反応前後の運動エネルギーの差が系によらないことで成立している。速度向上による人体の大きな運動エネルギーの増大は、 弾の運動エネルギーの大きな減少を対価に支払っている。このことを逆に積極的にいえば、弾の運動エネルギー減少によって、 弾の発射による人体の運動エネルギーの増加量をどこまでも大きくできるということになる。 この話は、解決した後も、多少の不思議さを残している。注意すべきは、運動のエネルギー自体は系によって違っていることである。

運動エネルギーが速度の 2 乗に比例する KE = 1/2 mV^2 ことは、その速度による微分 dKE/dV = mV が速度 V に比例する。 鉄砲の発射による運動エネルギー増加分がそれをみる慣性系の相対速度 V に比例するのである。 ニュートン力学では、原理的には、弾の速度をどこまでも大きくし、弾の質量をどこまでも小さくできる。 微小な質量を捨てて、運動エネルギーをどこまでも増加できるということは、それ自身、なにか整合しないように (何か不正に、 うまく行きすぎていると) 感じるが、それは後知恵であり、特殊相対論の質量とエネルギーの等価性を待つ必要があったということであろう。


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4. エネルギー保存と相対性原理は、運動量保存を含む

"マッハ力学" (エルンスト・マッハ著、伏見譲訳、講談社) に印象的なことが書かれている。 J.R.シュルツ の "エネルギー絶対保存の原理" という小論文に、完全弾性体、m1, m2 の衝突の前の速度を、u1, u2、衝突後の速度を v1, v2 とするときと述べ、以下引用すれば、"

m1 u1^2 + m2 u2^2 = m1 v1^2 + m2 v2^2

これに並進速度 c を付け加えてエネルギー原理が成立すれば、

m1 (u1+c)^2 + m2 (u2+c)^2 = m1 (v1+c)^2 + m2 (v2+c)^2

第2式から第1式を引けば、作用反作用の方程式、

m1 u1 + m2 u2 = m1 v1 + m2 v2

が得られる。第1式と第 3 式より、v1と v2 とが求まる。" と書かれている。確かに、作用反作用の法則、運動量保存は、 力の概念を使わなくても、エネルギーの保存を認めれば、慣性座標系間の変換において法則が不変であるということ、 つまり、特殊相対性原理から導出されるということである。この本には、"同様に、絶対的エネルギー原理を使って、 同じように扱えば、質点に対するニュートンの運動方程式、作用反作用の法則が得られ、その結果として、運動量保存法則や、 重心の定理が得られる。また、質量概念もエネルギー原理を使って導くことができる"とまで書かれている。


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作用反作用の法則は、任意の二物体 A、B 間の力のやりとりにおいて、A が B に与える力と、B が A に与える力とが、常にどの瞬間も、 大きさが等しく、向きが反対であるということである。二物体の重心は、外力による加速度がないとき、速度と運動量が保存される。 二者間の力のやりとりは、力積、運動量の交換であり、両者の和は一定である。外力と内力は、完全に独立であり、内力は、 作用反作用という相互作用を形成し、外力に関係する全体の運動量は保存される。

そういう力の概念は、物体の接触の概念である。我々は、接触のときの力を直接測定しなくても、間に計測器を入れればそれが測定可能 と考える。例えば、静止した物体の重力と机の抗力が間に一定の力を介在して作用反作用の関係にあるというとき、そうでなければ、 物体が机にめり込むからと、机からの抗力があって、物体が支えられていると考える。 シート状の圧力計を間に挿入すれば、各点の圧力と面積から力の詳細を計測できると考えてよいし、 机自体がバネの性質をもっていて、物体からの力に机が変形してちょうど拮抗した抗力をだすと夢想することもできる。

しかし、接触なしに力がやりとりされる遠隔作用 (それは例えば、ニュートンの万有引力とか、2 つの電荷のクーロン力) は、 間に何がやりとりされているのか、ほとんど理解できない現象である。そのような遠隔作用においても作用反作用は、 つねに成り立っていると考えられるが、その力は、バネ秤をいれることすらできない天体間の現象である。 天体に働くその力は、計測できないだけでなく、それによる変形もまったくみえないものである。 地上での物体間の万有引力も、あまりにも小さく当時は計測できなかった。そこに万有引力が働いていると考えるのは難しいことだった。 天体が円軌道を描くときの遠心力と中心天体からの重力とが計算に乗るから、そうあると考えたのではないだろうか。


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2 物体の関係を遠隔作用とせずに、ある物体が他の物体が作成した場から力を受けるという考えも使われる。 ところが、場と物体の作用反作用は、物体が受ける力を作用とするその反作用を場がうけるということは、さらに理解不能である。 当初、場とは、力を与えるが、力を受け取らないものと考えられた。場から受ける力は、何からも作用反作用の関係にないことになってしまう。 場とは相対論的な同時刻の空間である。それが力を受ける存在になり、場の硬さまでいう必要があった。 そして、場と物体は、作用反作用の成り立つ、まともな物理になった。

しかし、力の存在と、エネルギー概念は、どちらが基本的な概念かという問題がある。力は、だれも計測しない場所でも使われる。 力が加速度となって見える物体なら、力は実在的であるが、場が受ける力とは、ほとんど架空の説明である。 普通は、2 物体の作用反作用の法則は、それ以外の力の働かないとき 2 物体の運動量保存と等価であると説明がなされる。 つまり、物体間の相互作用に作用反作用の成立を不思議がる必要はなく、全体の運動量保存成立という単純化が可能なのである。

ところが、それをここでは、エネルギー原理を立てれば、相対性原理で作用反作用、運動量保存が導出されるというのである。

これは、運動エネルギーが速度の 2 乗の式であることを使った単なる数学的お遊び、物理的内容のない式の変形だろうか。 物理が正確な表式をもつとき、数学的な事実が物理的に意味がないことは、ほとんどないから、エネルギー原理と相対性原理には、 運動量保存が含まれると考えるべきだろう。逆に運動量保存と相対性原理から、エネルギー保存は出てこない。 速度の 2 乗の保存則から 1 乗の保存則が出たようには、第 3 式に並進速度 c を付け加えても、2 乗の保存則は出ないからである。 速度の 3 乗の保存則があれば、速度の 2 乗と 1乗が保存されるわけでない。 1 乗と 2 乗が保存されれば、3 乗の保存則があれ ば、それは相対性原理に合致するというだけである。ここで、n 乗の保存則とは、第 1 式、第 3 式にならって、 m1 u1^n + m2 u2^n = m1 v1^n + m2 v2^n である。


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(C) 運動エネルギーが仕事であるなら、その次元は、距離*力である。力は、質量*距離/時間^2 であるから、エネルギーは、 質量*距離^2/時間^2であり、質量と速度の2乗に比例する次元をもつ。だから速度の 2 乗以外の値は取り得ない。

次元解析という手法のこの説明は、納得できるだろうか。初めて習ったときは、その凄さに驚くものであるが、それが法則の後付けであって、 新たな物理法則を示唆することは決してないことを、歴史によって我々は知るのである。 例えば、質量とエネルギーが等価であることを次元解析は、決して示すことがない。 新しい物理法則は、保守的な次元解析からは、つねに間違いなのである。

例えば、速度の 2 乗で説明されていることを、そうではないと考え、距離の 2 乗に反比例する電磁気力や重力を 1.999 乗から 2.001 乗 の間かもしれないと考えることは、次元の混乱を招き、まず、あり得ないと思う。しかし、実験科学者、エトベッシュは、電気力が 2 乗 でないならと考え、測定しその範囲を限定した。そのような実験科学者は、思考の暴挙をしたのではない。2 乗である理由が明確でないとき、 いや明確であっても、それを疑い、測定することは必要なことなのである。


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5. スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャル

エネルギーは、力と距離の積であり、運動量は、力と時間の積である。エネルギーを質点に付属するものとせず、場との関連で、 単位質量を空間に置いたとき受ける力を考え、場所 x と時刻 t の関数として力 F(x,t) があるとき、A 点から B 点までの移動に 要するエネルギーは、dl を経路に沿った微小距離として、 A から B までの経路による線積分、

∫ F(x,t)・dl

経路に沿った力のベクトル F と微小変位ベクトル dl との内積として存在する。エネルギーが力の空間積分であるから、 空間に分布するスカラーポテンシャル φ(x,t) を考え、力はその空間微分、エネルギーの下がる向きの勾配ベクトルとすることができる。

F(x,t)= -grad φ

エネルギーの式に対応して運動量は、経路を通過する時間積分である。

A= ∫ F(x,t) dt


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力の時間積分、力積は、結果も 3 次元ベクトルである。こうして力学に、空間に分布するベクトルポテンシャル A(x,t)を仮定 することができる。これを使えば、重力場の式は、電磁気の電場 E を与える式と同様な式ができる。電磁気では、静止場では、 ポテンシャルの勾配 (空間微分)は、力を与える電場であるが、動的にはそれだけでなく、電場にはベクトルポテンシャルの時間微分 の分がある。スカラーポテンシャルは、電荷をその位置に置くことのエネルギー、ベクトルポテンシャルは、電荷がその場所にある ことの運動量である。

F(x,t) = -grad φ - dA/dt

しかしその前に、磁場にあたるものが重力では存在するのかどうか、を考える必要がある。電磁気では、磁石の N,S 極間の吸引、 反発の現象が知られ、磁石から電流に電流から磁石に力を及ぼす電磁誘導などが明確になってから磁場を説明するために、ベクトル ポテンシャルが出てきたのである。重力に磁場自体に相当するものがなければ、それにベクトルポテンシャルを考えるのは無駄である。 磁場から受ける力に相当するものは、力学ではコリオリの力に見出される。速度 v をもった電荷が磁場 B から受けるローレンツ力 E + v x B と同じ式の形をとり、速度 v をもった質量が受ける加速度、g + v x W のうち、重力加速度 g は電場に相当し、 速度に比例するコリオリの項 v x W は、座表系の回転 W が磁場に相当している。非回転系においてのコリオリ力を生む場が磁場である。


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ポテンシャルはともに電荷の位置からの 1/r 比例の電荷の存在と速度の積分として表される。リエナール・ウイーヘルトの遅延ポテンシャル の式は、ある点の、スカラーポテンシャル、ベクトルポテンシャルが各点の過去の光円錐からの影響の累積として表れる。電荷が速度をもつとき その近辺にベクトルポテンシャルが存在し、 B= rot A から、磁場のもととなるという考えに合わせれば、質量があるとその近辺に、1/r に 比例してニュートン(スカラー)ポテンシャルができ、質量が速度をもつとき、その近辺に重力的ベクトルポテンシャルができることになる。

φ= ∫ρ(t-t0)/r dv

A = ∫ρv(t-t0)/r dv

t0= r/c

ポテンシャル場は、その点の光円錐の時空断面によって作られた空間属性である。場にエネルギーがあるとき、当然、それを相対速度 のある別の系からみると、運動量がある必要がある。空間にエネルギーをいうなら、空間に運動量をいう必要がある。 重力場をスカラーポテンシャルで表すのなら、それと相対速度をもった系から見るためにベクトルポテンシャルを使う必要がある。 重力にスカラーポテンシャルだけを有効とし、ベクトルポテンシャルを無効とする考え方は、速度が 0 に近いときの近似であろう。


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6. 重力場のエネルギー

それ以前に、ニュートンポテンシャルには、物体が高い位置にあるとき位置エネルギーが場に溜っていて、空間とエネルギーをやりとりする という意識はない。質量を高いところに上げるときのエネルギーは、場に溜っていくのではなく、場と物体との相互作用として、その配置に エネルギーがあるという考えかたである。それは、中途半端な場の概念である。

地上で 1 kg の質量を 1 m 持ち上げるのに要する仕事があり、持ち上げたときになされた仕事は、1 kg の質量と地球の間の場に蓄えられた エネルギーとなっていると考えるとどういう問題があるのだろうか。同じ高さに 2 倍の質量を持ち上げれば、2 倍のエネルギーがいる。 ポテンシャルΦ(r)= -GM/r 自体は、エネルギーではなく単位質量を配置したときのエネルギーである。エネルギーは、Φm である。

Φは、r の単調増加関数 r1 > r2 なら Φ(r1) > Φ(r2)である。無限遠では、それはある有限値に収束すべきだろう。それを普通 0 におき、Φ(r)= -GM/r という式に定数項は付けない。もし、ある正の定数値 const があっても -1/r + const は必ず、r が小さいところ でマイナスになるから同じである。

物体 m が r の距離にいるときの場のエネルギーは、Φ(r)m = -GMm/r であり、この符号がマイナスである。その物体を無限遠に持っていくには、 エネルギーが別に必要である。物体の質量やエネルギーにマイナスを許さないように、場のエネルギーもマイナスでは物理量として不適格だが、 これは、場のエネルギーではないから、問題ないのだろうか。電磁気では場のエネルギーは、1/2 (E^2 +B^2) であった。現実に測定可能な、 電場と磁場の 2 乗に比例するのである。Φm に相当するのは、電磁気では、Φq というスカラーポテンシャルと電荷との積であろう。同様に、 重力場のエネルギーは、Φm ではなく、ポテンシャルの勾配である重力場の 2 乗であり、それは当然、正又は 0 である。 結局、重力場のエネルギーと、ポテンシャルと質量の積とは全く関係はないのだろうか。

地球と質量の間のバネに張力があって、引っ張るとバネにエネルギーが溜る。遠方ほどなぜか力は弱くなるが、正のエネルギーが溜まっていく。 これは無限遠まで続く。無限遠のバネには、ある正のエネルギーが溜っているのに、バネの張力のない状態である。エネルギー最大でそれが 0、 という矛盾に出会うのである。なにかの符号が逆ではないかと疑問を抱く。1 kg を無限遠にもっていった状態は、最初からその質量 1 kg を 地球から欠いた状態であり、それがエネルギー最大とはどういうことだろう。普通の引っ張りバネの張力にエネルギーが存在するのとは、 かなり異なる状況である。


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7. 電磁気の電場のエネルギーは、ポテンシャルと繋がりがつく

電磁気は、まだ理解することができる。プラスとマイナスの電荷が引力を持つ場合、電場は両者の電荷の近傍にだけ強く存在し、 遠方の電場は、両者が打ち消しあい弱まり、距離の 3 乗に反比例となる。

単独の電荷の電場のエネルギーは発散する。電荷から r の距離の電場は、1/r^2 に比例し、電場の 2 乗は 1/r^4 に比例する。 半径 r の球殻の面積を考えれば、電場のエネルギーは、半径 r の 1/r^2 を 0 から無限大までの定積分、∫ 1/r^2 dr は [-1/r] の 0 から無限大の差であり発散する。

プラスとマイナスの電荷の距離 d の2乗に反比例する引力のある場のエネルギーは、距離 d の逆数 1/d に比例するかも知れない。 その場合、d の増加に伴った場のエネルギーの増加がいえる。逆極性の電荷が引きあう現象と、距離 d の関数として単調増加する電場の エネルギーとは、まだ符号において辻褄が合う。同じ極性の電荷間の反発力との関係も場のエネルギーとの間の関係もつきそうである。

しかし、重力では同極性の質量同士が引力をもつ。例えば、等しい質量の十分 (例えば無限遠に) 離れた場は、当然、それぞれの場の 2 倍の エネルギーをもつだろうが、2 倍の質量が起す場は、重力の 2 乗が関係するなら、4 倍の大きさになる。十分離れた 2 個の m のエネルギー から両者が近付くことで、場のエネルギーは 2 倍になる。そのエネルギーの増加をさせるための仕事は、必要でなく、逆に両者は引き合って 仕事をしてくれる。質量を無限遠から近付けると、仕事をしてくれる上に、場のエネルギーも増えるという矛盾した状況ではないか。


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1/2 (E1+E2)^2= 1/2 (E1^2+E2^2) + E1・E2

2 個の電荷のもたらす電場を E1 と E2 とし、電場エネルギー密度を、1/2 E1^2 と 1/2 E2^2 とすれば、電場の和のエネルギー密度は 1/2 (E1+E2)^2 である。これを全空間で積分した 1/2 ∫(E1+E2)^2 dv という場のエネルギーがそれぞれの場のエネルギーの和、 1/2 (∫E1^2 dv +∫E2^2 dv )、つまり無限遠に離れた 2 個の電荷の電場のエネルギーとの差は、∫E1・E2 dv という積項の体積分である。 これは、電荷が逆極性のときおそらく負であり、2 個の電荷のつくる電場の場のエネルギーは、それぞれ単独の場のエネルギーの和より低い と予想する。単独の電荷の場のエネルギーは、上述したように体積分によって発散するから、これは、無限同士の差が有限の例である。

場のエネルギー差が電荷 q1, q2 と両者の間の距離 d だけの関数 f(q1,q2,d) とする。場のエネルギーは、電場ベクトルの 2 乗の空間 積分であるから正又はゼロであるが、距離 d 無限との差は、内積 E1・E2 によるから電荷の極性により、q1q2 は、逆極性で負になる。

電場は E∝ q/r^2 であり、距離スケールが 2 倍になると1/4 になる。両者の電場の積項 E1・E2 は、距離が 2 倍になると 1/16 になるが、 スケールが 2 倍になることによって体積は 8 倍になり、体積分は、1/2 になる。つまり、場のエネルギーの無限遠との差 E1・E2 の体積分 ∫E1・E2 dv は、q1q2/d に比例する。電場のエネルギーの距離 d 無限遠と差は、容易にスカラーポテンシャル電荷積を導くことができる。 電場では、Φq が場のエネルギー差を反映し、場のエネルギーと力学的運動エネルギーの和が一定といえる。同時に、そのことが重力では 言えないことも分かる。位置エネルギーと力学的運動エネルギーの和が一定というとき、その位置エネルギーは、場のエネルギーとして 説明できない、統一的理解を妨げる中途半端な概念である。


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8. 電場のエネルギーとスケールの関係

積項のスケール則は、一般的な電場のエネルギーに拡張できる。

一般に電荷による電場のエネルギーは、 d 倍に相似変換すると、1/d になる。電場は、1/d^2 に比例し、電場の 2 乗(電場のエネルギー密度) は、1/d^4 に比例する。体積は d^3 に比例するから、電場のエネルギーは、1/d に比例する。この論理は、積項の相似変換と同様である。 電場のエネルギー自体は、単独電荷においても発散するから、このエネルギーがスケール則をもつといっても、有限でないと意味をなさない。 これは、積分範囲を限定しても相似的であれば成立するから、積分範囲から電荷位置を外すと電場のエネルギーは、有限どうしの比となる。


例えば、単独電荷から半径 r の外側の電場エネルギーは有限であり、q^2/r に比例する。 2 電荷系で半径 r (r>d) より外側では、 q1 による電場 E1 も q2 による電場 E2 によるエネルギーも有限であり、その和の電場のエネルギーも有限である。場のエネルギーは、 d と r とをともに R 倍にすると、1/R 倍になる。また、半径 r を d より小さく電荷近傍にとっても同様で 2 電荷から小球 r より 外側では、d と r を R 倍にすると、電場エネルギーは、1/R になる。


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電場の和のエネルギー密度は、(E1+E2)^2/2= (E1^2+E2^2)/2 + E1・E2 から、各エネルギー密度の和と内積からなる。 体積積分して、2 電荷が距離 d のときのエネルギーは、∫(E1+E2)^2/2 dv = (∫E1^2dv +∫E2^2dv)/2 +∫E1・E2 dv であり、 2 電荷を無限遠に離したエネルギー (∫E1^2 dv +∫E2^2 dv)/2 との差 ∫E1・E2 dv が、q1q2/d に比例する。

∫E1・E2 dv ∝ q1 q2 /d

積項は、遠方では電場を打ち消すから、単独の電場の 2 乗の倍にもなるが、小球外では、すべて有限であるから積項分も有限である。 それに対して、小球中の電場は、r⇒0 でどこまでも大きくなる。小球中の電荷からの電場エネルギーは、上述のように発散する。 それゆえ、これを含む 2 電荷を無限遠に離したエネルギーと、2 電荷が距離 d のときのエネルギーはともに発散する。 その差である積項∫E1・E2 dv は、小球中でも次に示すように有限である。


積項は、左右の 2 つの小球で対称で電場が逆であり、内積は左右の小球で同符号である。しかし、一方をよく見ると、逆側の電荷からの 電場は、間隔 d により、小球中で r によらず一様とみなせる。小球中電荷からの電場は、1/r^2 に比例し、小球の左右の半球で互いに 逆向きであるから内積は打ち消され、小球中で 1/r^2 に比例するほどは大きくない。高々 1/r^2 比例と仮定しても 4π∫r^2/r^2 dr= 2π[r]_0^r から有限と分かる。つまり、積項∫E1・E2 dv は小球中でも有限である。


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9. 電場のエネルギーの無限遠との差がポテンシャル電荷積

∫E1・E2 dv ∝ q1 q2 / d は、d が無限遠から近付けることができるから当然、有限であるとの解もありえる。電場のエネルギーと 積項の体積分とは、ともにスケール則に乗るが、電場のエネルギー自体は無限であり、単独電荷の電場の 2 倍との差(積項)が有限であり、 ポテンシャル電荷積に比例するのである。

しかし、重力では、電場で逆であった電荷同士の極性が同符号であるから、重力場のエネルギーとポテンシャルの関係を繋ぐことは、 同じ方法ではできないことが明らかである。それならば、重力場のエネルギーを正として、同符号の質量同士が引力になるような力学は、 一体どういう方法で可能かを考える。それは、物体が集合すると質量自体が減少するという考えしかあり得ないかもしれない。 万有引力によって物体を集合させるとき運動エネルギーを発生でき、エネルギーを発生するとき質量欠損を伴うという当り前の物理を適用する。 それが、"ポテンシャルと質量"という拙文である。特殊相対論の質量とエネルギーの等価性とニュートン力学だけを使って考える。 基本的には一般相対論がそれを正確に記述すると思うが、できるだけ初等的、定性的に理解したいのである。 一般相対論の場のエネルギーには、アインシュタイン自身の答がある。閉じた物理系の場合、全エネルギー、全運動量は、

J_i= ∫{T^4_i + t^4_i} dx^1 dx^2 dx^3 = 一定

であり、t^k_i を重力場のエネルギー・運動量という。しかし、t^k_i は、一般座標変換におけるテンソル密度ではないため、 系を選ぶと(測地系では)全て 0 にできる。シュレディンガーは、質点の作る重力場のエネルギー運動量が恒等的に 0 になることを発見した。 電荷をもつ球でも t^k_i= 0 になることがわかった。バウアーは、特殊相対論のds^2 の空間成分から g_ik を使い t^k_i を計算し無限大になることを発見した。詳しくは、パウリの "相対性理論"の 61 章に書かれ、そして次の言葉がある。 "一般相対性理論以前の重力場の理論でも、いつも困難の原因となったものは、重力場のエネルギー密度の符号であったが、 この点、一般相対性理論でも同様である。" 場のエネルギー運動量に対する議論が詳しく述べられている。


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10. あり得る加速の方法について

ここで、SF 的な加速の方法の話にしよう。重力カタパルトである。重力による動作をいい加減なシミュレーションをしたとき、 物体が 1 つの天体の側を通過するだけで、無限遠での速度でみても大きな加速を受けることがある。ルンゲ・クッタ法などで、 計算の精度を上げないと天体の側を通過するときに、ありえない加速を受けてしまう。そのようなことは、単に計算方法の誤差 の問題であって、ニュートン力学のシミュレーションであるから、現実にはあり得ないと分かっているのだが、天体の側を通過 するだけで加速を受けるようなことは本当に、決してないのだろうか。

天体の側を通過したり、一巡するだけで速度を得るなら、保存力場ではない。そういう保存力場でない場があれば、それはあり得る と答えるべきである。それは、ニュートン力学の提供するスカラーポテンシャル場ではなく、電磁気のベクトルポテンシャルの場である。 磁場の存在する場は、同じ天体の回りを回るだけで、速度を得ることがある。電荷を電場が加速するとき、電場の回転が磁場の 時間変化 rot E = -dB/dt であるから、時間変化をする磁場を囲むある周囲には一巡する回転電場ができ、それによって電荷は、 天体の周りを回転しながら加速される。そのように回転する天体の周囲を回って速度を得るなら、そして、何回でも回れば、 磁場のコイルを沢山巻くようにどこまでも速度を上げられる。実に簡単である。そのような場の存在を一般相対論が許しているとみると、 それが重力における磁場の存在である。(そんなものはないと否定する前に思い出そう、ペンローズ過程を。)



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ニュートン力学の保存力場、それは、力と加速度を同時に与える重力場 g が渦なしの場であって回転がない。rot g = 0 であり、 g の空間積分であるΦというスカラーポテンシャルを考えるだけの場である。Φの勾配が力場である、静電場中の電荷、静磁場中の (非存在の) 磁荷の特性と同じく、g= grad Φ という関係は、ニュートンの天体力学を与える。スカラーポテンシャルだけの場は、 物体の運動経路によらず、場所によってポテンシャルが決り、速度の大きさが決まる。その点の運動エネルギーと位置エネルギーの和が 一定であるから、同じ場所に違う速さで来ることがない。

1つの大きな天体Mだけで運動がきまる場合、天体からの距離rだけで、ポテンシャル -GM/r が決まるから、無限遠での速さは一定である。 ある静止した天体の側を通過することで無限遠の速さを変えることはできない。すでによく知られた技術である速度をもった天体から 速度を得るというスイングバイはあるが。

ところが、例えば、ペンローズ過程で、回転しているカーブラックホールのエルゴ領域のように、回転方向と逆に物体を放出すれば、 放出したロケット側は加速され、最初にもっていた速度以上の速度を得ることができる。ブラックホールから角速度を貰って加速 することができる。このことは、決してこの種のブラックホールの定常限界面の内部でしかないものだろうか。通常の恒星、 例えば太陽面をぎりぎりに通過する宇宙船は、太陽の自転を利用した加速を利用できないのだろうか。 大きな加速効果を得られないのだろうか。回転する天体の速度を得るのに、恒星に筏を流し、その速度を得るように。 重力効果で加速する重力加速は、乗員、乗客に加速の意識もなく高速に達することができる利点がある。 この回転型カタパルトも、考慮に値するのではないだろうか。


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11. 古典的な重力カタパルト

同じ加速をするのに、周回している楕円軌道のどこでしても運動エネルギーの増加は同じではない。ということを天体力学の基礎を 学ばれた方は、御存じである。私は、それに気づくのが遅かった。加速によるエネルギー増加は、加速前の速度 V0 に影響される。

1/2 (V0 + v)^2 - 1/2 V0^2 = V0 v + 1/2 v^2。

つまり、同じ加速vのもたらすエネルギー増加には、1/2 v^2 だけでなく、初速に比例する項 V0 v がある。V0≫v のとき、その項 の効果は絶大である。しかし、これは、運動エネルギーが速度の 2 乗に比例することの単なる数学的必然でしかない。

物知りの友人に聞いてみると、軌道を替えるのに、近地点、近日点を使うことが最も効率がよい(*)と返事された。 異星の宇宙船、ラーマは、太陽に向かって落ちていき、太陽面ぎりぎりに通過して、方向転換と燃料補給とをしただけではなく 加速したのである。加速をするのにそこは太陽系の中で最もよい地点なのである。加速(減速)するのに速度の大きくなっている ところですると、エネルギーの増加(または減少)に得をする。それは場合によっては、加速に使った火薬のエネルギーも超える。

加減速をするときに、重力ポテンシャルを最大限に使って、宇宙船を太陽面をぎりぎりに通過する、最も速度の高い V0 という 運動にしておいて v だけ加速すると、静止状態から v だけ加速するのに比べて、V0 v の分だけ、エネルギーを得をする。 驚くべきニュートン力学の魔法のひとつである。


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11.1 太陽系外への旅

そんなことはないという意見があるだろうから、例を示そう。

太陽系から遠方に行くのに、相手の天体に対する太陽の速度を考慮して行き先を決める。(銀河中心に対する太陽の速度220km/sを 利用する旅行はまだ計画しないほうがよさそうだから。) それと地球の太陽公転速度 (29.8 km/s)は、初速として利用する。地球の 自転速度は音速程度しかない(赤道4万km/1日= 463m/s、これに cos(緯度)が掛かる)。これも初速として利用するためロケットは、 発射地点に赤道に近い種子島が使われ、東にむけて発射する。(東京(35°41')、種子島(30°22')、那覇(26°12')、沖ノ鳥島(20° 25')なので、自転速度は、東京376m/s、種子島399.5m/s、那覇415.4m/s、沖の鳥島433.9m/s)。それらの自転速度利用の数10m/sの 違いは、地球重力からの脱出速度 11.2km/s と比べて、役に立つとは思えない小ささである。

天体の速度の 2 倍まで貰うことのできるスイングバイを利用するには、地球と相対速度のある天体を使わなければならないが、 最も手近にある月は、地球を中心とするほぼ円軌道をもつ (38万km*6.28/28日= 8.52万km/day= 1km/s の速度)。地球の公転速度は、 月も地球と同じくもつから、相対速度はつねに垂直な1km/sだけである。月に接近してスイングバイで、月の公転軌道方向に直角に 方向転換すれば、2km/sまでを利用できる。満月でスイングバイで、30 + 2 km/sに加速、新月では減速、半月で垂直速度+-2kmを得ることができる。


太陽はどうか、やはり、地球が太陽を中心に円軌道を描いているので、相対速度は、つねに垂直な29.8km/sである。しかし、速度の獲得 のため太陽面近くを通過してスイングバイするには、初速として利用したい、又はスイングバイ天体との相対速度にしたい、地球の公転速度 29.8km/s を(勿体ないことに)捨てるしかないが、捨てるにも加速と同じ費用がかかる。地球の公転速度をなんらかの方法で方向転換させ、 太陽方向に向かわせることができればそれでもよい。それは月とのスイングバイで可能だろうか? 月の軌道速度が1km/sだから小さ過ぎて恐らく 不可能だろう(*)。我々が太陽系の外縁にゆくための大きな速度を得るには、地球軌道速度方向に速度を加算していくのが 順当であるが、29.8km/s のほとんどの速度を捨てれば、その場所を遠日点にする細長い楕円軌道で太陽に落ちてゆき、太陽面近傍を通過できる。 それは、太陽の近くで加速しないなら地球軌道にやっと戻るだけの軌道である(**)。


速度の方向を変えずに加/減速すれば、軌道は円軌道から楕円になる

太陽面の脱出速度は、半径 70 (69.60) 万km のポテンシャルエネルギー -GM/R と運動エネルギー 1/2 v^2 との和が 0 から、 v= √(2GM/R)、G= 6.6725 x 10^-8 cm/g/s^2、R= 6.960 x 10^10 cm、 M= 1.989 x 10^33 g から、v= 617.55 km/s である。 太陽地球間の距離 (1億5000万km) と太陽半径との比 215.5 から、地球軌道から軌道速度を捨てて落下した宇宙船の場合、 無限遠からの落下と比べ、エネルギーが 1/215.5 少ないだけで、太陽との相対速度は、脱出速度に近い 616.11 km/s にもなる。 脱出速度との差は、1.4 km/sである。

(**)この太陽への落下軌道は地球軌道に戻っても、瞬間、静止するだけで、ふたたび太陽に向かって落ちて行くだろう。地球軌道速度の エネルギーを捨てて、どうして外惑星に行けようか? それは、太陽重力の地球軌道から脱出するエネルギーの丁度半分あった。 円軌道はすでに半分、その場所から脱出していたのである。しかし、それを捨てることができれば、その価値があることを、いま説明している。

地球周回軌道速度7.9km/sが公転速度の逆方向である真昼に 21.9km/s 加速し、地球の公転速度29.8km/sを全て打ち消し、太陽へ落下する。 なお、地球の公転速度29.8km/sと地球周回速度7.9kmを使って、脱出速度 42.1km/sにするのは、地球周回速度が公転速度と同じ方向である 真夜中に、残りの4.4km/s加速するだけでよい。(13.1)


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11.2 太陽面での加速


それに対して、地球軌道の距離の太陽脱出速度は、円軌道速度と脱出速度の√2倍の関係から、公転速度 29.8km/s の √2 倍の 42.14 km/s であり、それから29.8 km/s を引いた少なくとも 12.34 km/s の加速が必要である。円軌道速度方向に 12.34km/s 加速すると、軌道は、その 点を頂点にする放物線を描き太陽の方向の無限遠に向かっていく(*)。

しかし、12.34 km/s の加速は、太陽面近くでの 1.4 km/s 加速のエネルギー増加分と等しい。ロケットがある速度を加速するのに要する 噴射は、加速前の速度に関係なく同じとして、また、太陽面に近付く危険を度外視すれば、太陽面のそばでの加速は、地球軌道での加速 と比べて 1/8 の費用である。最終速度として 100 km/s まで加速するロケットなら、加速を太陽面で行えば 619 x 100 + 1/2 100^2 から エネルギー的に 13.38 倍の効果が得られ、太陽系外の遠方の天体に行く速度 365.78 km/s を獲得できる。

「ここまで言えば、これが本物の魔法であることに気がつくであろう。」

「ちょっと待て、無限遠から落ちてきて太陽面で脱出速度になり、そこで 1km/s の速度を加速しても、無限遠に戻って脱出速度を 減算すると 1km/s の速度に戻るのではないか。そうでないとエネルギー保存が成立しない。最初無限遠で v1 をもった物体が、 太陽面の脱出速度 v0 を加算し太陽面での速度 v2 = v1 + v0 となって、人工的加速 v をして、もう一度無限遠に戻ったときの 速度は、v3 = (v2 + v) - v0 = v1 + v であり、最初の速度 v1 に v 加速したのと変わらないだろう。全く太陽面にまで行った効果 がないのだ。ニュートン力学では、速度はどこまでも加減算だからである。そうでないと運動量保存も怪しくなるではないか。」

(*) 偶然にも地球の重力場からの脱出速度 11.2 km/sと、この太陽重力からの地球軌道位置からの脱出速度から地球の公転速度を引いた速度 42.14-29.8=12.34[km/s]が、ほぼ等しい。我々は 12km/s 程度の速度を自由にできれば、地球からと同時に太陽からも脱出できるのだろうか。 そうではない。地球の重力から脱出して残り 12.3km/s 必要だから、地上からの速度は、√(11.2^2+12.34^2)= 16.66 km/s 必要である。


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11.3 エネルギーの加減算

「ううむ、そうではない。ポテンシャルによる速度の変化は、速度の加減算ではない。エネルギーの加減算である。速度の加減算では逆に エネルギー保存が成り立たない。無限遠での速度 v1 と脱出速度 v0 の加減算ではなく、v1^2 と v0^2 というエネルギーの加減算である。 質量あたりの運動エネルギーの2倍で書くと、ピタゴラスの三平方の定理のような二乗の和差であり、 (無限遠速度 v1、脱出速度 v0、太陽面での速度 v2 、太陽面で加速 v 後の無限遠速度を v3 として)


斜辺を太陽面速度v2、底辺を脱出速度v0、左辺を無限遠速度v1にする三角形

v2^2 = v1^2 + v0^2

太陽面の速度v2にvだけ加速すると、三角形は、斜辺がvだけ伸び、底辺v0は変わらないから、高さがv1からv3に変わる。

v3^2 = (v2+v)^2 - v0^2

= v1^2 + 2 v2 v + v^2   v3とv1の2乗差は、2v2 v + v^2 であり、

= (v1 + v)^2 + 2(v2-v1)v

この式の第1項の半分が順当に無限遠速度に加算した運動エネルギー、第2項の半分 (v2 - v1)v が、太陽面に行くことで得るエネルギーである。 わざわざ太陽面に行く危険の報酬である。」

「そうすると、太陽面での v の加速の効果が、無限遠に戻っても、v より大きく残るということか。まず、その速度を明確にして、それは、 エネルギー保存を壊していないか、運動量保存が成立しているかを示すべきではないか。」

「上の式の√が v3 であり、すでに v3 を明確にしている。」

「まず、v しか加速してないのに、その例えば10倍の速度を得るというのは、どこからそれを得たのか。放出した作業物質からそれを得たのか。」

「そうだろう。作業物質のエネルギーは、大きく低下したのだ。」


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11.4 運動量の獲得

「それでは、v しか加速してないのに、その10倍の速度を得たときの運動量は、どこから得たのか。ポテンシャルという用語を使っても、 ロケット m が v だけ加速した時の運動量変化は、mv だけである。放出した作業物質が mv の反作用の運動量を引き受けたとして、 無限遠に戻って 10 倍の速度になったときの残りの 9 倍の運動量は、誰が引き受けてくれたのか。太陽が受けたというのか。場が受けた とでも、いうのか。全くもって、不明朗な会計ではないか。」

「ポテンシャル場での速度の大きさの変化で運動量保存が明確でないのは、今に始まったことではない。そこでは速度の大きさが場所に よって特定されるだけで、速度の向きは特定されない。運動量については何もいわないのである。しかし、気が付いたことは、 太陽面の近くを通過するとき加速した宇宙船は、太陽重力の強い領域から早く脱出する。太陽に接近する時に牽引された時間よりも 脱出するときには短時間しか太陽に牽引されない。運動量は、力積であるから、時間が短いだけで力積は少なくなり、接近時に貰った運動量を、 出離時にすべてを返却せずに、一部の運動量を貰うことができるのではないか。


それは、宇宙船がほとんど方向を変えずに太陽の側を駆け抜ける場合を考えると分かりやすい。接近するとき、通過した地点と等しい重力 F(x) の地点が対称にあって、太陽から離れるとき、そこを通過すると仮定する。その通過速度が離れるときの方が速いとすれば、∫ F(x) dt は、接近時と別離時では明らかに違う。そのために、太陽から非対称の衝撃を受けて、進行方向に加速されるのである。

そのとき宇宙船が衝撃を貰うのと逆方向に太陽は少しは、反対方向の速度を得るから、もちろん運動量は全体で保存される。逆に宇宙船が 太陽を半周して方向を反転してくるときもそれで説明がつくかというと、そのときは元もと大きな運動量のやりとりがあって、 宇宙船の加速による差など見えないだろうけれども、恐らく同様と思ってよいだろう。運動量をどうやって貰っているのかという説明は、 古典的なニュートン遠隔力だけである。このように当り前に説明できるのが、重力の球対称のポテンシャル場で非対称に加速される魔法 である。」


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11.5 重力ポテンシャルの差による加速

重力加速といえば、重力による加速で天体に牽引され、最も接近したとき天体と乗物間の重力が無くなり牽引の綱が切れるという形が理想 である。このハンマー投げのようなメカニズムは、重力がサーチライトのように反射、収束、集中照射できる牽引ビームなら可能であるが、 それはかなり空想的である。我々はまだ、重力を遮るもの、反射するものを知らない。"重力カタパルトなど" では、接近すると天体の質量 の球殻の中に入ることを考えたが、この天体のそばでの加速は、天体の人工的な構成が何もないから、それらより格段に優れた古典的な重力 カタパルトである。少なくとも、出発する恒星と到着する恒星では、恒星面通過での加/減速は有効だろう。これを使うために進路にあたる 恒星に立ち寄る価値もあるかもしれない。

但し、太陽面は、620km/s では 1 時間程度で半周するから加速時間が不足する。1g で 3000秒 では 30km/s しか加速できない。仮に地球 公転軌道から出発して太陽面で 4g で 3000 秒加速すると、v= 120 km/s v2= 616 km/s v0= 617 km/s、v3^2 = (v2+v)^2 - v0^2 = 736^2 -617^2 = 401^2 つまり、120km/s の加速しかしないのに無限遠での速度が v3= 401km/s になる。


この太陽面での加速実行は、1回限りではない。太陽表面近くに戻って来るなら何度でもこの加速は利用できる。 また、戻って来るには速度は脱出速度以下という制限は、2重星を利用できれば乗り越えられる。2重星の片側で加速し他方に向かい、 他方でまた加速し元のほうに戻るのである。 方向転換を双曲線で 180度近い角度の方向転換をして、個々の恒星の脱出速度を超える速度まで繰り返す。また、2重星加速は、 射出方向がその軌道面内に制限されるが、3重星なら避けられる。

古典的なニュートン力学でありながら、天体のもつ球対称ポテンシャル場だけで重力加速するこの方法は、燃料噴射による反動推進の人工 的な加速を使うから、正確には重力加速ではない。しかし、加速の大半は重力推進であり、乗客がその加速を感じることができない。その ため、これは重力カタパルトである。中心天体に太陽よりも大きな重力ポテンシャル差(M/R)を与える天体、中性子星、ブラックホールを 太陽系のそばに見付けると、加速効率をさらに上げることができるだろう。


この話を書きながら、ブランコの漕ぎかたを思い出す。一定の円形軌道のなかで振動を拡大するブランコの加速は、体重の上下移動だけで 加速しているようにみえる。後方からブランコが下がるときさらに重心を下げ、重心の下方向への加速度を使って、ぶらんこの板を体重以上に 下に押し下げ、円軌道の中を前に加速する。だれもが経験していながら自覚的でない重力感覚と筋肉運動との結合の分析は、怪しく間違いやすい。 ブランコでの加速のような宇宙船の質量の増減は、不可能であるが、加速のタイミングは、近日点より早めにするのがもよいかもしれない。 最下点で加速して、最上点が前回より上に行く。これは重力ポテンシャル差による加速である(*)。

(*) ブランコの加速は、我々は知らずに太陽面での加速を使っているのかもしれない。(2015/2/19)


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(*) 昔、友人から"軌道を替えるのに、近地点、近日点を使うことが最も効率がよい"と教えられたときに、反論したくなったときのことを書く。 それは、彗星がその寝床(これが間違い。)から太陽に向かって動き始めるときのことである。それは、きっと非常な遠方のオールト雲に漂う メタンや氷の塊が偶発的な衝突に伴う動きで太陽の方向に向きを変えてしまうことであろう。そこは、彗星の長楕円軌道の遠日点である。 軌道上の速度はほとんど 0 であろう(これが間違い)。ほとんど微小な速度の変動がオールト雲の中に留まって円軌道を描くか、太陽に向かって 落ち始めるかを変えるだろう。遠日点での軌道変動は、最も容易なのではないかという想像であった。遠日点での軌道変化は、速度の絶対値は 小さいが、軌道変更に要する速度変更は大きい。

遠方の円軌道でも、速度を持たないと存在できない。その軌道速度は、半径の√に反比例する。確かに半径が大きくなれば速度は小さい。 (万有引力と遠心力のつり合い mv^2/r = mGM/r^2 から、v^2 = GM/r。これは、K.E. + P.E. = 1/2 v^2 - GM/r = -GM/2r 円運動は丁度その 場所の P.E. の1/2 であり、速度は脱出速度の 1/√2 倍である。) 冥王星、海王星の数倍遠方、カイパーベルトは、(30〜100倍の地球軌道半径 (天文単位)、オールト雲が 30000 AU 〜 1 光年といわれる。ポテンシャルは距離に反比例し、円軌道速度は、その√に比例する。地球軌道半径の 100 倍で、速度は地球軌道速度(30 km/s)の 1/10、10000 倍の場合、1/100 である。円軌道の半径と速度の積が保存される角運動量保存があれば、 半径に反比例し、1/100 と 1/10000 になるが、物体相互の衝突があるとき角運動量は保存されない。 1/100 というのは、300 m/s であり、 これが 0 になるとき太陽に向かって落ち始める。0 と 300 m/s の途中の値ではそこを遠日点とするすべての楕円軌道になる。

重力加速の効果は、地球公転軌道にもある。例えば、ロケットの加速が 30km/s あって、軌道速度の方向に加速してそのまま遠方に向かうとき、 徐々に速度が低下して近付く速度は、合計速度 60km/s から脱出速度42.4km/sを引いた、60 - 42.4 = 17.6 km/s ではなく、√(60x60 - 30x30*2) = 42.42 km/s である。最初、脱出速度に加速して、遠方で残りを加速すると、17.6 km/s という残念な結果になる。


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11.6 ピタゴラス加速の極限

この古典的な重力加速について、もう少し考える。これは、太陽面よりもさらに低いポテンシャルの地点を見付けたら、どこまでも加速効率を 上げることができるというのは、どこまで本当なのか。すぐに限界にあたるのだろうか。それらより先に、どのような星が利用可能なのか。

ブラックホール、中性子星、そして白色矮星は、この目的に十分だが、太陽系の近くにあるとは思えない。太陽は、ありふれた中程度の恒星で しかなく、太陽の質量の一万倍の質量の恒星もある。どのような恒星が適しているのかと考えると、表面ポテンシャルは GM/R によるから、 質量が大きく半径が小さい星がよい。質量と絶対等級の関係から質量が決るなら、質量の大きい星は光度が大きく、スペクトル型が O 型に近い ほど表面温度が高く、恒星表面が小さい。しかし、例えば、白鳥座のデネブは、青白い A2 型で放射の光度は、太陽の11000倍もあるが質量は 太陽の 16 倍である。ところが半径は、太陽の40倍も大きいというから、表面ポテンシャルは、太陽ほど低くないのである。

恒星の光度は、質量から一意に決まるとは思えない。光度は、表面温度 T の 4 乗に比例する。光度は、さらに半径の 2 乗の表面積に比例する。 質量は、半径の 3 乗の体積に比例する。温度一定なら、つまり、恒星のスペクトル型が一致していれば、質量は恐らく、光度の 1.5 乗に比例 するだろう。同じスペクトル型の恒星の密度が一定であれば、半径が光度の 0.5 乗に比例し、質量が 1.5 乗に比例するなら、M/R は、光度に 比例する。しかし、恒星の密度についての簡単な関係を私はよく知らないのである。

どのような恒星であれ、M/R の大きいものを見付けて、そこに落ち込むことで速度を得て、速度を得たその場所で加/減速する。それがこの古典的 重力カタパルト、ピタゴラス加速の原理である。速度が例えば、光速(30万km/s)の 1/2 の場所で、例えば 10km/s の加速をすれば、平坦な時空に 戻ったときどれぐらいの加速になるかというと、上の説明の例に合わせて、初速v1、恒星の脱出速度 v0= c/2、恒星の側の速度 v2, 加速 v 後、 無限遠に戻ったときの速度を v3 として、

v2^2= v1^2 + v0^2

v3^2= (v2+v)^2 - v0^2

= (v2^2 + 2 v2 v + v^2) - v0^2

= (v1^2 + v0^2) + 2 v2 v + v^2 - v0^2

= v1^2 + 2 v2 v + v^2

v2≫v1,v のとき、この大半は、第2項の 2 v2 v であり、運動エネルギーは、その半分の v2 vである。v2= 1/2 cなら、遠方での√(2uv)= √(cv) の速度は、√(300,000 x 10= 1732 km/sであり、実際に加速した 10km/s の 173 倍、運動エネルギーは、30000 倍になる。しかし、もし、v2= 0.99c なら、 2 v2 v= 1.98cv であり、無限遠の速度は√(1.98cv) になり、√(1.98 x 300,000 x 10)= 2437 km/s。しかし、√(2uv) は、v が c/2 以上 で光速を超え、v の相対論的速度に適用できないことが分かる(*)。

相対論的な速度 u (光速単位) をもつ物体のエネルギーは、 E= mc^2= m0c^2/√1-u^2 であり、速度 u から相対速度 v 加速するときの dE/du = mc^2 γ^2 u から、速度変化に対するエネルギー変化は、非相対論的計算よりむしろ大きいが、速度の合成則 (u+v)/(1+uv) から v≪u<1 のとき、速度変化は、{(u+v)/(1+uv) - u}/v = v(1-u^2)/(1-uv) となる。速度変化は、v から v(1 - u^2) にγ^-2 倍に減少する。 それゆえ、相対速度 v だけ加速するときのエネルギー変化は、dE/dv= mc^2 u (m= m0/√1-u^2) である。このエネルギー変化は、恒星から 遠方に戻っても √(2uv) 程度の速度となって残る。運動エネルギー uv は、1/2 v^2 と比べると、2u/v 倍大きく、速度は、√(2u/v) 倍である。 より正確には、エネルギー変化 mc^2 uv を換算した速度 V は、 1/√(1-V^2) = 1 + uv/√(1-u^2) から、上記の値より大きく v に対する 1次近似は、√(2uv/√(1-u^2))である。

(2011/11/16)

(*)人工的な加/減速 v にその注意の必要はない。uがcに近い√2cvでもv≪cなら、式は成立するだろう。v=10km/sで 2437km/sは、v=100km/sで 24,370km/s= 0.08c、v= 1000km/sで、0.8c 程度。双子のパラドクスが体験できる速度になり、隣りの恒星に数年でいける。しかし、これには 太陽系の近くに、少なくとも隣りの恒星よりずっと近くに、大きめのブラックホールが必要である。恒星起原のブラックホールでは潮汐作用が 大き過ぎる (*) 。


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12. 停止時に運動エネルギーを取り戻す

この表題は、重力カタパルトなどの4章と10章の表題である。 "重力カタパルトなど"の続編として書いた、 この"力学について"の締めくくりに、重要な力学の秘密。その必要性は、地球の公転速度にある。 2. 運動エネルギーは、なぜ速度の 2 乗か"の (A)を再掲載する。

(A) 等しい質量 m の 2 物体が非弾性衝突して、衝突後に反発せずに全て熱エネルギーにエネルギーを変換する場合、重心系からみると速度 v と -v を持つ 2 個の質量 m が相対速度をなくす。このとき、熱に変化する運動エネルギーは、速度 v の物体 2 個分である。その同じ現象を 一方の物体からみると、他方の物体が速度 2v で衝突してくる。衝突において放出されるエネルギーは見る系によらず、重心系から見たときの 速度 v の質量 m の 2 個分と等しいとすると、この系では、それを差し引いた衝突後にも 2 個の質量は、まだ速度 v を持っている。そのため、 速度 2v の一個の質量の運動エネルギーは速度 v の運動エネルギーの 4 個分である。


ロケットを前半、後半に2等分して、両方が速度vをもつとき、後半だけを2回逆推進し、前半は速度v、後半は速度-v にする。このとき、2つの部分 が広がる向きの運動エネルギーは、速度vの前後半のmの2個分(2E)である。前半後半を繋ぐロープを引き出すときにばねを巻く、発電機を回すなど してエネルギー回収できる。この回収分はどこから来たのか。

停止前の系からみると、後半へ2度の噴射は、後半mに速度-2vを与え、質量mの速度2vの4Eのエネルギーを噴射が与える。2Eのエネルギーを回収後、 2個の質量mが速度vをもつ運動エネルギー(2E)を残す必要がある。噴射エネルギー4Eから必要分2Eを引いた残り2Eが回収分である。

停止後の系からみると、最初から前/後半とも速度vの2Eのエネルギーをもつ。後半への2度の噴射は、1度目は速度vを消し、2度目は-vの速度を与える。 両者は、速度の方向を変えるが、運動エネルギーを変えない。それゆえ、その後で回収するのは元の運動エネルギーである。

真空中で停止するとき、運動エネルギーを回収するというのは、本当に冗談ではなく、目標の惑星を使って停止するときと同様に、これを実行する 質量分割とエネルギー回収の仕組みがあれば、可能である。ニュートン力学は単純で難しく、素晴しい秘密をもつ。


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13. 小惑星で曲がることと、太陽面通過

月の小さい脱出速度 2.378km/s からの制限もあり、月で直角に曲がることはできないだろう。この議論は、太陽への落下の困難を無視するから、 現実的ではないのである。燃料噴射によらず方向転換するには、地球近辺を通過する適当な、ロケットより十分質量が大きい小惑星を見つけ、 金属の紐(テザー)を打ち込んで、一時的に力学関係を作り、紐の張力によって方向を変更するのがよいかもしれない。30km/sを 90度方向転換 するのに紐が長ければ現実的な張力と加速度ですむだろうか。速度30km/sで最大5Gで円運動する半径は、R= v^2/5g、900[km/s]^2/50[m/s^2]= 18 x 10^6 m、1万8000kmである。軌道エレベータの半分の長さである。一時的なテザー設置とは、とんでもなかった。

太陽面のそばの高温も現実的な困難であり、ロケットは、どのような物質も融解し沸騰させる 6000K の太陽面に1時間(70万km*π/620km/s= 3544s=59min)程度、耐える必要がある。これは地球の大気圏への再突入時間より、かなり長い。ロケットは鏡面加工でなく、自ら融解し 沸騰する鏡面の蒸気に包まれ、蒸気は周りの太陽の大気より軽く低屈折率で円筒形凹レンズとなって光と熱を周囲に避ける必要がある。 普通の蒸気は(水素より屈折率が高く)凸レンズになる。半分が影になる遮光板の温度は、光と熱の反射がほぼ完全で裏側で放熱すれば、 約半分の温度までしか上がらないかもしれない。

なお、太陽の近辺の温度を距離に反比例と仮定して、太陽面通過の距離を倍にすれば、タングステンがまだ固体を保つ 3000Kの距離でも 太陽面通過の1/√2の効果をもつ。ポテンシャル差が1/2で、脱出速度V0が1/√2倍、エネルギーV0 vが1/√2倍である。距離4倍の1500K なら外装は普通の金属でよい。ポテンシャル差は1/4でV0が1/2、V0 vも1/2になる。太陽面通過の半分の効果がある。


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13.1 太陽への自由落下

自由落下は遅い?
最初、地球の公転軌道が、身近な自然界に存在する最大の速度 29.8km/s もあることは、太陽の重力の大きさを表すように思うものである。 それなら、その場所に静止した物体の受ける重力が、どの程度かを知って驚く。1/1000 g以下である。6mm/sec^2という値を得て、計算ミス かと思う。太陽地球の質量比= 33.3万倍、公転半径と地球の半径の比= 1億5000万km/6500km =23077倍、重力の比= 33.3万/(23077^2)= 0.000625g。g=9.8m/sec^2を掛けて 5.9mm/sec^2。太陽への自然落下では時間がかかり過ぎるか。最初の1秒で6mm/s加速、1km/sには約2日、 100km/sには200日。そのうち太陽に近付き重力は増えるが、最後に速度は620km/sまで。実際、どれだけかかるのだろう。

自由落下の時間関数
太陽への直線的な自然落下は、1次元運動である。rの距離に万有引力 -GM/r^2 があり、2階の微分方的式 a= -GM/r^2 だが、運動エネルギー を重力ポテンシャル(位置エネルギー)から得るという1階の微分方程式 v^2 = 2GM/r - 2Φ0、(rの初期値をr0としてΦ0= GM/r0) がそれと 同等なら、太陽質量Mとニュートン定数Gの積を1に単純化した微分方程式 (dr/dt)^2 = 2/r - 1 は、pをパラメタにする半径1のサイクロイド、 時間 t= p-sinp, 距離 r= 1-cosp, 速度 dr/dt= (dr/dp)/(dt/dp)= sinp/(1-cosp) である。検算は (dr/dt)^2= sin^2 p/(1-cosp)^2= (1-cos^2p)/(1-cosp)^2= (1+cosp)/(1-cosp)= (2-r)/r= 2/r - 1。


図18 太陽への自由落下は、時間関数がサイクロイド

つまり、サイクロイドの水平移動が時間t= 0-π、垂直距離が太陽との距離rになる。初期値r0は距離2。サイクロイドの頂上からの半サイクル である。GM=1としたことはどう関係するか。(dr/dt)^2= 2/r-1 が1となる距離1のときの速度dr/dtは1だが、もとの位置エネルギーと距離 半分の位置エネルギーとの差は元の位置エネルギーで実速度は 42.14km/sである。経路の半分1を通過するときの速度1が地球公転軌道からの 脱出速度である。距離 1.496 x 10^8 km の半分を 42.14 km/s で割算し、20.54日。このπ倍で64.53日で太陽に到着する。半経路は太陽到着 までの大半の(針は上から90度回り、時間はπ/2に針の長さ1を加えて、π/2+1= 2.57 に20.54日を掛け)52.79日経過。乗員は待ち草臥れる。

運動エネルギー=重力ポテンシャルの式、 v^2= 2GM/r - Φ0 の両辺を時間微分して、2va= -2GM/r^2 v、万有引力 a= -GM/r^2 を得る。 万有引力の法則は、ポテンシャルの式の時間微分からくる。重力エネルギーの方が万有引力よりも基本的かもしれない。ポテンシャルの 空間微分が力というのは右辺の2GM/rをrで微分する部分からくる。なぜ、力学においてこれほどサイクロイドが頻発するのか? この運動 エネルギーと重力ポテンシャルの式がそのまま、サイクロイドの微分方程式だからである。太陽への自由落下は、これらを意識させる。

v^2= 2GM/r + C の C<0 は上記サイクロイド、C>0 では無限遠でも速度をもつ (dr/dt)^2= 2/r + 1 のr(t)はつねに単調増加。C=0 の臨界状態 v^2= 2GM/r は、解 r(t)= c t^(2/3) (c= (2GM x 9/4)^(1/3)) をもつ。∵ r(t)= ct^(2/3) なら v= c 2/3 t^(-1/3), v^2= c^2 4/9 t^(-2/3) = c^3 4/9 1/r

これらは、宇宙論のフリードマン解で宇宙のサイズGに現れる関数と等しい。 フリードマン解の現象的な発現は、重力ポテンシャルによる時間関数と同じである。このサイクロイドは1次元運動の時間関数であり、 隠れた大車輪が空に舞うわけではない。本当の大車輪は時間比例のパラメタp=wtによる空間的サイクロイドである。


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13.2 自由落下でない方法

もしかして、地球の公転速度を捨てずに、太陽面すれすれ通過するように軌道変更できるのではないかと考えて、次の論理を作った。

まず、太陽の重力を消して考える。地球の重力だけのとき、地球を周回する7.9km/sの円軌道から3.3km/s 加速して11.2km/sにして 放物線軌道にする。この放物線は、加速のタイミングで方向を選べば、周回軌道の面内 360°どこに向かうこともできる。周回軌道面が 太陽を含むようにして加速して、太陽を通過する放物線軌道にできるだろう。その後、太陽重力を復活して考える。太陽重力は、 太陽へ向かう放物線軌道への垂直な修正は殆どできず、軌道に平行に速度を上げるだけである。ゆえに、乗物は太陽面を通過できる。

この論理は、正しいのだろうか。公転速度を打ち消さずに太陽面通過が可能なら多大な利益がある。公転速度29.8km/sを周回速度7.9km/s と21.9km減速で消す自由落下とは違って、周回速度7.9km/sに3.3km/s加速するだけであること、太陽への到達時間も短いだろうこと、 無限遠でもこの速度は利用できるだろうことから。


図19 太陽面に放り投げる

しかし、太陽重力を復活するとき、地球の公転速度も復活すべきだろう。それが11.2km/sより3倍も大きい29.8km/sである。360°どこにでも 向かえるというのは、違うのではないか。乗物は、太陽とは 90°違う方向の地球の公転速度の周囲の限られた方向にしか行けないのでは ないだろうか。

太陽まで地球の脱出速度11.2km/sで出発すれば、どれだけで到着するだろう。太陽までの半経路を通過する速度は、位置エネルギー分が 追加されるが、√(11.2^2 + 42.14^2) = 43.60 km/s であり、42.14とと殆ど違わない。しかし、半経路までの時間は短いだろう。自由落下 では速度11.2km/sを得るまで60%程度の時間を要するから、半減は可能だろうと思って、電卓で大雑把な見積りをする。

表 1.  パラメタp vs 速度 dr/dt= sinp/(1-cosp)
-------------------------------------------------
p= 90度  sinp/(1-cosp)= 1/1= 1. 
p=120度  (√3/2)/(1+1/2)= √3/3 = 1.732/3= 0.546
p=135度  (1/√2)/(1+1/√2)= 1/(√2 +1) = 1/2.4142= 0.414
p=150度  (1/2)/(1+√3/2)= 1/(2+√3) = 1/3.732= 0.268
p=180度  0/2= 0.0

から、p= 150度が11.2/42.14= 0.266 に近い。このときの t= p-sinp= 5π/6 - 1/2 = 2.118。これは、0〜πまでの時間の67.4%である。 pは、0〜πで上昇で、その67.4%の時間でこの速度になる。後半のπ〜2πまでの対称的な下降では、速度0の自由落下からこの速度になる 32.6%の時間が節約できる。半減でなく、1/3節約できるだけである。半減と思ったのは、サイクロイドの高さが高い期間が60%もあると みたからであり、速度ではない。速度が1/4になるのは、後半の1/3の時刻である。

3.3km/sは、周回速度7.9km/sに加算して地球重力脱出速度11.2kmになる速度だが、3.3km/sの加速より若干少なくても太陽に到達できる。 途中で停止しない最小は、第1ラグランジュ点L1に到達する速度である。L1は月の約4倍の150万kmの距離であり、L1への節約できる量は、 月までの節約量の1/4である。地球の半径6500kmと月までの38万kmの比は、50倍で地球周回軌道から、月へのエネルギーは無限遠へより 1/50少ない。L1へは1/200少ない。3.3kmが3.2km/sにもならない。燃料節約よりも、その代償の長くなる時間が問題である。逆に、周回 軌道を離れる速度を 3.3km/s よりも大きくして経路時間を短縮することもできる。但し、太陽面での加速と比べると遠方(無限遠)に残 る速度への効果は少ないので、できるだけ加速は太陽面にとっておく方がよい。


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13.3 太陽面での加速の効果

無限遠での速度は、V=その点の脱出速度、v= 加速として、v^2(単独のエネルギー*2)、 V^2(脱出エネルギー*2)、に対するクロス項 2Vv である。公転軌道の脱出速度 V=42.14km/s での加速 v=11.2km/sは、エネルギーで7.5倍、無限遠での 30.7km/s にあたる。

それに対して、太陽面での11.2km/sの加速は、V=620km/sなので、2Vvのクロス項のエネルギーは単独のエネルギーの約110.7倍である。 クロス項の無限遠速度: √((V+v)^2 - V^2 - v^2)= √(2Vv)= √(2x620x11.2)= 117.8 km/s である。太陽面加速による無限遠速度、 √((V+v)^2-V^2)は118.3km/s。同様な太陽面の脱出速度を620km/sとする太陽面加速10m/s〜200km/s による無限遠速度を次の表2.に示す。

       表 2. 太陽面加速v に対する無限遠速度√((V+v)^2-V^2)。(V=620km/s)
+-------------------+-------------------+-----------------+--------------------+--------------------+
| 0.01km/s 3.52km/s | 0.1km/s 11.14km/s | 1km/s 35.23km/s | 10km/s  111.8km/s  | 100km/s  366.1km/s |
| 0.02km/s 4.98km/s | 0.2km/s 15.75km/s | 2km/s 49.84km/s | 20km/s  158.7km/s  | 200km/s  536.6km/s |
| 0.05km/s 7.87km/s | 0.5km/s 24.90km/s | 5km/s 78.90km/s | 50km/s  254.0km/s  | 500km/s 1050.7km/s |
+-------------------+-------------------+-----------------+--------------------+--------------------+
表2によれば、小さい速度の増加率が著しい(*)。人の走る程度の速度、10m/sの加速は無限遠で352倍の速度(1万倍のエネルギー)を得る。 それに対して、500km/s加速は無限遠で2倍にしかならない。利益の√2Vvは脱出速度620km/sとの相乗平均の√2倍だから、加速が大きく なると増加率は小さくなる。脱出速度とちょうど等しい加速で、√2倍の速度利益で、√3倍の速度を得る。 現在、宇宙航行における加速は無人機ですら数km〜10km/s程度まで、数100km/sは不可能と思う。現在の10km/sで100km/sを得るこの 太陽面加速は、現在を超える技術としての意味がある。他では決して得られない速度が得られるのである。太陽系の辺縁領域の探査 にはこの技術は有効であろう。辺縁領域では引き返す方法がないので通過探査によるだろう。

太陽面通過による系外惑星の探査機の速度向上を考えると、探査機は通過探査か相手の恒星の太陽面通過による減速又は方向転換を行う。 太陽面加速 500km/s によって1000 km/s では、隣りの恒星 1.3 pc(1.3 x 3.085x10^16m)への旅に出ると、1.3 x 3.085 x 10^16 m / (1 x 10^6 m/s) = 4 x 10^10 s = 12x10^2 y (year= 3156万秒) 1200年。探査結果を人類が知るには遅過ぎる。この方法は移民用か。

(*) 地球近辺の4万倍程度の光量がある太陽面での遮蔽板を加速に使う、太陽帆船の太陽風と光圧による加速は意味があるかもしれない。 地球近辺では1万分の1gしか加速できないヨットも太陽近辺では4gにもなる。太陽面の3g1時間の108km/s加速は、無限遠では400km/s近くになる。

(2013/11/16)


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14 停止時に運動エネルギーを取り戻す(回転エネルギーにして)

もうひとつ、面白い構成を考えた。速度vをもち、鉄砲2発で停止するロケットを左右に2つの等しい質量mに分離しておき間を紐で結んでおく。 それぞれの質量で鉄砲を1発ずつ発射すれば停止するのは明らかであるが(1)、片方だけで2発発射すると、1発目で停止し、2発目で逆方向に 速度-vをもつ(2)。他端は元の速度vをもつから、重心は停止して、両端は逆の速度をもち回転物体になる(3)。

回転がエネルギーを元の並進と同じだけもつのは明らかであるし、これからエネルギーを抽出することは、前の話(前後に分離して速度vと 速度-vをもつ部分の間をロープで巻き取る)よりも、実際的で可能にみえる。

両端に質量をもって回転している物体は、片端を減速し逆向きに加速することで、又は紐を切ると、並進運動に即座に変わる。この話もやはり、 不思議な感じを与える。こんなに原始的な構成でありながら。


図20 並進運動のエネルギーを回転のエネルギーにして蓄える

両端の質量は、違っている方がさらに面白い(4)。全体が止まるだけの逆方向の運動量を、小さい質量の方に与えると(5)、大きな質量の方も 一緒に停止できる(6)。走っている車の運動エネルギーをフライホイールの回転に蓄えるようなとき、この方法が使えたらよいか。 いや、車の場合、地面が使えるからそんな必要はなく、容易に回転エネルギーに変換できる。それは何十年も前から実験されていることを 思い出す。フライホイールによる機械的なエネルギー蓄積が実用にならなかっただけである。我々は、巨大な宇宙船が並進運動を回転運動 にするのを知らないし見たこともないからこれを不思議に感ずるのだろうか。巨大な宇宙船自体、見たこともない。誰もそれを作れない。 それを作れるのは、映画のなかの模型かCGだけである。我々の想像力が衰退し枯渇しているのだろうか。 (2015/2/7-20)

重力井戸の底にいる我々がそこから抜け出すときに、同様に2発の鉄砲で井戸を抜けるだけの速度vを得るとき、半分の質量に2発の鉄砲で 速度2vを与えると運動エネルギーは片方が井戸を抜け出すのに必要なエネルギーの4倍になる。一方が井戸を抜けて位置エネルギーを支払い 減速され速度√3 vを残す。それを使って他方を引き上げて、両方が井戸から抜けた後、両者はさらに速度 v を持っていて、進むことができる。 (そして、1/N の部分に全体に必要な運動量を与えると、1/N 以外の部分を引き上げた後に、N-1 倍の運動エネルギーをもつ。)

ロータベータの打ち上げに、他端を地面に止めていて、片方の端に頂上で周回軌道速度8km/sの倍を与え、他方を離せば、両端が、地上すれすれに 回転する軌道を与える。地球を周回する軌道速度を両方に与えるだけの運動量を片方に与えるだけで、ロータベータは地球を周回するだけでなく、 自転のエネルギーを得る。 (2015/2/25)