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【2002.2.16〜NHKスペシャル・「心をいやす魔法の国〜それは一人の善意からはじまった〜」に見たもの…】 | |
私が、初めて知った施設があります。それは、アメリカのフロリダにあります。 フロリダというと、ウォルト・ディズニーワールドに代表されるテーマ・パークで有名です。 今回知ったのは、「ギブ・キッズ・ザ・ワールド」という施設です。 この施設について説明するとすれば、難病のために病院ばかりで満足に外出できなかったり、 あとわずかしか命が残されていない子供たち、また家族旅行もめったにできない、 あるいは、一度もしたことのない病気の子供たち、 そして、そんな子供たちを抱えて楽しむことすら忘れている、 そんな家族みんなに楽しんでもらうための施設だそうです。 「ギブ・キッズ・ザ・ワールド」では、子供たちとその家族を招待しています。 招待された家族は、一週間というゆったりとしたスケジュールで過ごします。 宿泊する施設は、普通の住宅と同じつくりで、かなり広いもの(そのあたりは、さすがアメリカ)で、 60棟ほど、建ちならんでいました。 スタッフは、一部を除いて、ほとんどがボランティア。2000人ものボランティアが登録しています。 施設内のレストランから、乗り物(まるで遊園地です)担当の人にいたるまで、 若い人から年配の人まで、 様々な年代のボランティアさんたちが働いていたのが印象に残っています。 そのためにかなり遠くからやってくる人もいるそうです。 このボランティアのスタッフの皆さんに関して感じたのは、 「喜びがあるからボランティアをする」という気持ちがあふれていたことでした。 わかりやすく言うと「ボランティアをしたいからしているだけなのです」と思っているということです。 日本では、「させてもらっているのが楽しいから」というよりも「仕方ないからしてやっている」という意識が 長い間、幅をきかせてきていたせいか、「楽しいから嬉しいから喜んでボランティアを」という気持ちが 一般の人々にまで根づききっていない気がします。 現実は、変わってきていると思います。でも、まだまだ見習うところも多いな、と思いました(偉そうにすみません)。 また、この施設では、様々なイベントが用意されていました。 クリスマスパーティー(クリスマスでなくても開かれます)があったり、 夜眠るときには、ぬいぐるみのキャラクターたちが子供たちにおやすみのキスをしにきてくれます。 また、ここに招待された子供たちは、胸に「ギブ・キッズ・ザ・ワールド」のワッぺンをつけているだけで、無料で、 ウォルト・ディズニーワールドに入場できるそうです。 特に私が素晴らしいなと思ったことがあります。 お父さん、お母さんがデートに出掛けられる日(もちろん夜)が決めてあり、 その間、子供たちの世話は、スタッフがしてくれるそうです。 その夜だけでも看護で疲れている両親にも少しの間、リフレッシュしてもらおうということです。 そこまで、考えているなんて感動すら覚えました。 どういう経緯で出来たのかですが… この施設を作ったのは、施設の代表をしている、ユダヤ人のへンリー・ランドワース氏。 この方は、子供の頃にナチスにより、強制収容所に送られました。送られた強制収容所で、両親を亡くされました。 それでも、自分は、厳しいなかを何とか生き抜いて、その後、アメリカン・ドリームを夢見て、 アメリカに渡り、ホテルの雑用係などをして生計を立てていたそうです。 苦労に苦労を重ねて、ついに五つものホテルのオーナーまで登りつめました。 この施設をつくるきっかけは、ホテルの受付の仕事をしていた時でした。 ある日、一本の電話が鳴り、すぐに受話器をとると、それは、キャンセルの電話だったそうです。 しばらくして分かったのですが、その日、そのホテルに宿泊予定の 一人の少女が病気のために亡くなったという理由でした。 その少女は、心から楽しみにしていたといいます。彼は、それを聞いて、がく然としたそうです。 「一人の少女のたったひとつの夢さえもかなえることができないのか」と。 そして、このことがずっと心にあり、実業家として成功する前から 「いつか病気の子供たちに夢を与えたい」と思っていたそうです。 その想いが「ギブ・キッズ・ザ・ワールド」へとつながっていったそうです。 施設をつくるために、まず土地を買うところから、一歩を踏み出したといいます。 そこまでは当然ですが、その後が驚きです。 なんと土地以外の費用は、すべて地元の企業からの寄付などでまかなうことができたそうです。 そして、「ギブ・キッズ・ザ・ワールド」の実現に向け動くことができたといいます。 素晴らしい、多くの人々のためになるアイデアと、明確な青写真があれば、必ず反応が返ってくるところに とても感心すると同時に、「すごいことだな」という印象を持ちました。 そうした企業の社会貢献に対する考え方が、素晴らしいと思います。 日本とは、かなり違うようです。日本では、そうした部分が企業も国もあまりにも弱く、残念な気がしてなりません。 企業にも国にも人々にも、この考えが必要なんだと思います。 また、もうひとつ素敵だと思ったことがあります。 それは、仕事を定年などでリタイアした人が余生を人々のためにボランティアとして働いていること、 そして、普通学校に通う子供たちが学習のためにこうした場所でボランティアを経験できることです。 それによって、子供たちの意識も変わっていきますし、人格の形成には、必ず役立つはずです。 こういう経験は、ボランティアをした子供たちに素晴らしい宝物をもたらしてくれます。 そして、そこに来た、病気や障害をもつ子供たちにとっても 本当に貴重な人生のひとときをもたらしてくれたと思います。 少しずつでもわずかずつでも社会を変えていくために、 これから、日本でもこのような場所ができてゆくことを望みたい…と思います。
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