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地球の空間はその物理的状態から気圏・水圏・陸圏の3つに分けられます。
気圏とは大気圏のことで地球上の様々な気象現象の舞台となります。
水圏は海表面から深海部に到るまでの海水に満たされた空間のことです。 ここは湧昇流や海流などの物理的現象が見られる他、海洋性生物の生息域になります。
陸圏は大陸や島嶼などの陸上域のことで、陸上生物の生息域となり、また人間の主たる活動域になります。
尚、ここでの区分は人間の観察可能な空間に限られ地球内部の空間は含まれません。
地球空間の物理的区分とは別に地理的な側面に注目した区分があり、この場合には陸と海、つまり陸上圏と海洋圏の2つに区分します。
この区分は物理的区分における陸圏と水圏にほぼ一致しますが、考え方は相当違っています。 地理的区分における海洋圏は航路として利用できる海表面や経済的資源を有する大陸棚に重点が置かれ、海流の流路や深海の状態にはあまり関心が払われません。 また地理的区分では物理的区分において水圏に属するような小さな岩礁などが全て陸(陸上圏)として取り扱われます。
地球空間を生態学的に区分する場合には、まず陸域と水域の2つに分けます。 この区分は地理的区分における陸上圏と海洋圏という区分の仕方とは異なり、陸域と陸上圏、また水域と海洋圏とは一致しません。
地理的区分では大陸や島嶼内部に存在する河川、湖沼などはすべて“陸”として取り扱われます。 また陸と海とは満潮線を境に厳密に区分され、陸は河川や湖沼を含めて全て国家の領有権の対象となり、陸上に存在するあらゆる水域は地理学上全て陸として国土の面積に含まれます。
これに対して生物の生態を考える場合には、海洋の他に陸上に存在する河川、湖沼、溜池、湧水、細流、水田などの水のある場所を全て水域と呼び、その周囲の水のない場所を陸域と呼びます。
これは生物の存在が水域の規模に関係なく、水の存在そのものに大きく影響されているためで、こうした水域を主な生活空間としている生物を総称して水生生物と呼びます。
陸上に存在する水域の多くは淡水であり、特にわが国においては全て淡水ですから、陸上水域を海洋の塩水域や海洋に隣接する汽水域と区別して淡水域と呼びます。
従って生態系を考える場合の水域は大きくは次のように分けられます。
海水域 塩水域 汽水域 淡水域 流水域 ・・・ 湧水、河川、小川、灌漑用水路、山間渓流 止水域 ・・・ 湖、沼、溜め池、公園池、水田、ワンド
水域と陸域のそれぞれの空間は完全に独立しているわけではありません。
海洋と陸上とは海岸を通して接しており、また陸域と淡水域は水辺を通して接しています。 この土地と水との境界はいわゆる線ではなく、ある程度の面積を持った面になっています。
土地と水との境界線である水際線は水量によってその位置が変化するだけでなく、土地にしみ込んだ水は、水辺の土地に大きな影響を与えています。
このように水際線が移動する範囲または土壌を介して水域から大きな影響を受けている陸域を水際域と呼びます。
水域を主な生活空間としている生物を水生生物といいます。 この水生生物の生態を具体的に観察してみますと、その多くの種類が水域だけでなく、水辺の土地(陸域)を同時に生活空間として利用していることが分かります。 つまり多くの生物種が水域と陸域の両方を生活空間として利用していることになり水域と陸域を別々の生態系として分けて考えることはできません。
自然の状態における水辺の土地(水際域)では水域との生態的連続性が存在することが普通であり、こうした生態的連続性が見られる水辺の土地は、生態学的視点から見た場合全て水際域と考えることができます。
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水際域とはどのような領域であるのかを具体的に考えてみましょう。
海と陸の間には海岸があります。 海岸は砂浜である場合も磯(岩場)である場合もありますが、常に波を被って海水の影響を受けています。 加えて海には潮の満ち引きがありますから、海岸線は海に向かって前進したり後退したりを繰り返しています。 従って海岸線に沿って海水の影響を強く受けている領域、また陸になったり海になったりする領域が存在することになり、これが水際域になります。
生態学的視点からは海洋性生物との生態的連続が見られる陸上域を水際域と呼びます。 アザラシは常に海中にいるわけではありません。 繁殖期には海岸に縄張りを作り、そこで子育てをします。 この場合アザラシの縄張りとして利用された陸地或いは利用され得る陸地が水際域になります。
海ガメは海で生活していますが、海中で産卵はしません。 卵を産むときは砂浜に上陸して満潮線を越えた砂浜に穴を掘ってそこで産卵します。 もしこのような砂浜が失われれば海ガメは種の継続ができません。
昔の日本の砂浜にはスナガニが穴を掘って暮らしていました。 今では夢のような話になりましたが、昭和30年代の鎌倉の海岸ではスナガニの穴を多く見ることができました。 このスナガニは時として満潮線より上の砂場に穴を掘ります。 この場合スナガニの穴は水没しません。 しかしスナガニが海洋性生物であることは疑いようがなく、こうしたスナガニの生息域も水際域と考えられます。 海浜性のカニには水没しない水際域を主な生息域としているものが珍しくありません。 よく知られているものにアカテガニ、ベンケイガニがあり、こうした種類は水域を遥か離れた地域でも見られることがあります。
海洋性の水鳥の殆どが海に近い土地に巣を作って繁殖します。 外洋に浮かぶ岩礁や小さな島は島全体が水鳥の繁殖域として利用されていることがあり、このような場合には島全体が水際域に当たると考えられます。
河川は下流から海へ入る場所に干潟を作ることが多く、特に内湾では広大な干潟を作ります。 干潟は潮の満ち引きに応じて水域と陸域を往復しますから水際域の代表的なものと言えます。
河口干潟は河川によって運ばれた様々な栄養物質を堆積するために、こうした栄養分を利用する多くの生物を養っています。 河口干潟は富栄養化していることが多いのですが、満潮時に水没しても遠浅であり、また干潮時には陸地となって空気に直接触れるために酸素が欠乏することはありません。そのために多くの生物の生存が可能になります。
昭和30年初頭の三浦半島の金沢八景は、その名の通り自然の海の景色が広がっていて、その遠浅の砂浜では東京湾屈指の潮干狩りの名所に相応しい数多くの海浜生物(アサリ、シオフキ、モミジガイ、マメコブシガニ)を見ることができました。
干潟には干潟に特有の生物種も数多く存在して、他の海域とは異なった独特の生態系を形造っているだけではなく、干潟に連続する遠浅の海は一般的な海洋生物、特に魚類の稚魚を養う揺りかごの役割を果たしています。 伊勢湾台風(昭和33年の台風15号)が来る以前の愛知県美浜市の砂浜は非常に遠浅な海で、干潮時にはみおすじ(引き潮のとき砂浜に残された海水が作る水流)に沿って無数のカレイの稚魚を見ることができました。 また東京湾においても、例えば現在住宅地となっている京浜急行馬堀海岸では昭和30年代の頃まで引き潮の砂浜にカレイの稚魚が群れをなしていたのです。
日本の普通の河川は高所堤防(土手)によって囲まれていますが、この堤防に挟まれた場所を河川敷といいます。
ここには川の本流の他に川原や中州などの水の無い領域が含まれています。 川の流量は1年を通じて変化が大きく、時には堤防を越えて溢れだすことさえあります。
河川敷は当初から水没する可能性が予定されており、実際の川岸は流量に伴って河川敷の中で変化しますから、これを水際域と考えることができます。
河川敷にはアシやカヤツリグサのような挺水性、湿地性の植物が多く高所堤防の外側とは別の生態系が見られる他、この領域特有の生物を有することもあります。 神奈川県相模川の河川敷には珍種とされるタコノアシが生えており、現在相模川をせき止める大堰堤の建設をめぐり、この植物の保護が問題となっています。
河川敷は法的規制によって建築物の建設が認められていないため、都市部にあっては数少ない自然の景観が残され、比較的生物相の豊かな領域と言えます。 ここは鳥類にとっても大事な場所であり、シギやチドリが営巣する他サギ類が大規模なコロニ−を作ることもあります。
普通に水という場合には真水(淡水)のことです。 従って水辺という場合には通常淡水域の岸辺のことを言います。 ここでは大河川の河川敷を除いた小川の岸辺や湖や池沼の辺(ほとり)を水辺と呼ぶことにします。
まず小川の岸辺を考えてみましょう。
小川の岸辺の土地はスミレやレンゲの花が咲くこともありますが、多くの場合小川の水の影響を受けて水生植物や湿地性植物が生育します。 これらの植物種は森林や草原(乾性草原)に見られる植物種とは違う水辺に特有のものです。 このような独特の種類の植物相を持つということから分かるように水辺は水辺特有の生物相と生態系を持っています。 この水辺の生物相は水域の生物相と無関係ではなく、むしろ水域と一体化して共通の生態系を作り上げています。 例としてゲンジボタルを取り上げてみますと、幼虫時代を水中で過ごし、蛹化するために岸辺の土地に上陸します。 成虫は水辺の草むらを住み処として配偶者を見つけ。水辺に産卵して子孫を残します。 ゲンジボタルの生活史においては水域と水辺の陸域を切り離して考えることはできません。 水生植物やゲンジボタルのような固有の生物相を持ち、水域との生態的連続を持った岸辺の陸域が水際域です。
次に池沼について考えてみましょう。
まず池と沼の違いは何でしょうか? 普通言われているのは大きさによる区分です。
つまり淡水の止水域で大きなものが湖、小さなものが池、そして中間的なものが沼であるというものです。 千葉県にある手賀沼や印旛沼は近くにある霞ケ浦ほどではありませんが、確かに非常に大きな面積を持っていますから、これは納得のいく説明かもしれません。 しかし沼と池にはもっと大きな違いがあります。
埼玉県には山口貯水池という池がありますが、これは別名狭山湖と呼ばれています。
同様に東京都には村山貯水池という池が別名多摩湖と呼ばれています。
東京都にある奥多摩湖は小河内ダムの建設によってできた湖であり、また神奈川県の津久井湖は城山ダムの建設によってできた湖です。 そしてこれらの湖は印旛沼ほど広くありません。 また庭や公園に造られた止水域は、その大きさに関係なく全て池と呼ばれます。
人造湖や人造池はあっても人造沼はありません。 つまり水域の大きさだけで池と沼が分けられているのではなく、今のところ沼というのは自然の止水域に限られて使われる言葉なのです。
それでは何故人造沼が存在しないのでしょうか。 それを理解するためには沼とはどのようなものかを知らなくてはなりません。
沼というのは池よりも神秘的な雰囲気があります。 また同時に薄気味の悪いイメ−ジがあるかもしれません。 底無し沼という言葉はあっても底無し池とは言いません。 こうしたイメ−ジの理由は沼が比較的広い水際域を持つことによります。 そこにはアシやマコモ、ガマのような挺水植物が繁茂しており、そうした植物群を抜けてようやく水面が現われます。 水草に覆われて容易に水辺に近づくことができない止水域、それが沼なのです。 人工的に作られた止水域はこうした広い水際域を持ちませんから池や湖と呼ばれることになります。
自然に存在する止水域は水量が常に一定であるわけではありません。 河川の場合と同じように水量は季節によって、気象によって大きく変化します。 水量が変化すれば当然水と土地との境界すなわち水際線の位置が変化します。 こうした領域とさらにその周囲の生態的連続性の見られる陸域を含めたものが水際域となり、その広さやイメ−ジに応じて池や沼と呼ばれます。 水際域には水生植物が繁茂するだけでなく、カエルや水生昆虫などその領域特有の多くの水生動物群が生活しています。
水際域というのは水域に連続した陸域のことです。 連続とはそこが水没する可能性があるという意味だけではなく、生態的連続つまり近接する水域と一体となって固有の生態系を作っていることを意味しています。
水生生物と言われる生物群の多くが、実際には水域だけでなく周辺の水際域を生活空間としています。
植物では水生植物群系と呼ばれる一大植物群が水域から水際域にかけて存在します。 水生哺乳類では、クジラ類と海牛類(ジュゴン、マナティ)を除いた全ての種が水際域を子育ての場としています。 水鳥と呼ばれる仲間の殆ど全てが陸域、特に水際域を繁殖の場としています。 カイツブリのように水域に営巣する場合も、水草の繁茂する事実上の水際域を繁殖の場としていると考えることができます。
海ガメや海ヘビの仲間は全て陸上に産卵し、ガラパゴスの海イグアナは海中で食事をする以外は陸上で時を過ごしています。 水鳥と水生爬虫類の全ての種が水域だけでは生活できません。
両生類は多くの種類が淡水域を生活の場としていますが、実際には岸辺に近い水深の浅い場所や水草の繁茂した水域を主な生活の場としています。 水際域という陸域が近接の水域と共通の生態系を持つということは、見方を変えれば陸域に近接する水域がその陸域と共通の生態系を持つということです。 従ってこうした水域(ここでは陸際域と呼ぶことにします)を事実上の水際域として考えることが生物の生態を考える上で適切であると言えます。 従って両生類の殆ど全ては広い意味での水際域(水際域と陸際域を合わせたもの)を生活の場にしていると考えてよく、特にカエルの仲間はその生活史において陸域と水域の往復が見られる典型的な水際域の動物と考えることができます。 オタマジャクシも水域の水辺(陸際域)に生活することが多く、池や河川の深みで見かけることはありません。
昆虫類の中には水辺を生活域とするものがいて、こうした仲間を総称して水生昆虫といいます。 水生昆虫の水生つまり水に生きるという意味は水域を生活の場にしているということですが、これは卵から成虫を経て子孫を残すまでの一連の生活環の少なくとも一部において水域の存在が欠かせないということです。
水生昆虫といっても生活史の全てを水中で過ごすものは極めて稀で、殆どの種類が水域と同時に陸域を必要とします。 タガメは水中で呼吸することができず、岸辺の水草に足場を構えて獲物が近づいてくるのを待ちます。 交尾や産卵も水から出た杭や水草の上で行ないます。 水の上の植物はタガメの視点から見れば陸域そのものです。 交尾や産卵を水中で行なうゲンゴロウも蛹化のためには陸に上がらなければなりません。 ゲンゴロウやミズスマシのような水生甲虫類の殆ど全ての種類が蛹化のための陸域と蛹室を作るための土を必要とします。
トンボの仲間は幼虫(ヤゴ)の時代を水中で過ごしますが、成虫になるとき(羽化)には水草を伝って水の外に出てきます。 水上の水草はトンボにとっては水から陸への懸け橋になり、そうした水生植物の豊富な場所が多くの種類のトンボにとって欠かすことのできない生活空間になります。
魚類の場合、大部分の魚類は生活史の全てを水中で過ごします。 しかしトビハゼやムツゴロウのように事実上の陸域を必要とするものが僅かながら存在し、また稚魚の時代を陸際の浅場や水生植物の繁茂した中で過ごすものが少なからず存在します。
陸際域を含めた水際域を考えてみますと、アサリやマテガイのような二枚貝やゴカイの仲間、ヒザラガイやフジツボのような磯の小動物、アサクサノリのような海草類を含む非常に多くの種類、生物種が水際域の生物として数えられることになります。
以上述べたことから水域と陸域の連続性を維持すること、すなわち水際域を保全することが水生生物と呼ばれる多くの生物種の生活を守るために必要であることが分かります。 水際域はその面積から見れば水域と陸域の僅かな部分を占めているに過ぎませんが、多くの生物種にとって欠くべからざる生息域として非常に重要な領域となっています。
近年の自然破壊の多くが、海浜の埋立や池沼の埋立による水域と水際域の消滅を原因とする他、海岸堤防の建設、河川や水路の護岸工事、池沼のコンクリ−ト護岸の施工といった形で水域と陸域が切断され、水際域が失われたことによるものです。
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ここでは止水における水生生態系の代表的なものとして“沼”を取り上げ、それがどのようなものであるかを具体的に考えてみましょう。
自然に存在する(人為的でない)池や沼では、その地勢的形態は次のようになります。
添付のイメ−ジ図参照
ここでAからEに分けた領域の区分は次のようになります。
Bの陸際域というのは陸に近い水域のことで、一年を通じた水量の変化の中で陸域になることもあるような水域のことです。
Cの水辺域は水量の変化に応じて水域になることがある陸域のことです。
Dの湿地域は水域となることはなくても、水域の影響から土壌の含有水分が多いため、湿性植物の繁茂が見られる領域です。
この図では、C水辺域、D湿地域を合わせたものが水際域になり、さらに陸際域を加えたものが生態的水際域になります。
陸上に止水域が成立するのは山間地や平地の窪地の部分で、雨水が流れ込んで滞水する場所です。
しかし水は蒸発したり地中に染み込んで消えてしまいますから、水域が存在し続けるためには恒常的に水が供給されるための水源を持たなければなりません。 沼の場合は周囲の樹林帯が雨水を包み込んで水源として重要な役割を果たします。
沼は水を流出させる水路を持つ場合もありますが、その多くは定まった流出路を持ちません。 この場合増水時には周囲の陸域に水が溢れ出しますから、沼の周囲には広い湿地域が形成されます。
沼の生態系の基本構造は通常の生態系と同様に次の4つから成り立ちます。
生産者
消費者
分解者
死骸
しかしながら沼の生態系では陸上生態系と違った特徴も見られます。 それは沼の植物が生産した生産物を上回る有機物の蓄積が見られることです。 その理由は沼の周りにある樹林帯の生産物が、降雨による水と一緒に流れ込んでくるためで、このことは沼の生態系の豊かさ(生物相の豊富さ)を支える上で、周辺の樹林帯が水源としての機能の他にも重要な役割を担っていることを意味しています。
沼の生態系の生産者には植物プランクトンも含まれますが、その主役は水生植物とその周囲の湿性植物です。
水生植物はその形態から通常次の4種類に分けることができます。
1.沈水植物というのは植物体の全てが水中に没して生育しているものです。
2.挺水植物(抽水植物)は植物体の一部が水面から姿を現しているもので水田の稲はこれに当たります。
3.浮葉植物は水中から生えて、スイレンのように葉を水面に浮べるものです。
4.浮漂植物(浮遊植物)というのは植物体が水面に浮いているウキクサのようなもののことです。
湿性植物には湿地を好む多くの種類の植物が含まれ、水生植物に近いものからかなり乾燥した土地にも生育できるものまであります。 湿性植物が生態系で重要な位置を占めている例が国立公園の尾瀬で、尾瀬ヶ原を維持している植物の主役は水生植物に当たるミズバショウではなく、あまり目立つことのないカヤツリグサ科のスゲの仲間です。
東京付近を考えた場合、沼の植物の種類は概ね次のようになります。
1.沈水植物 | ||
エビモ | ヒルムシロ科 | |
クロモ | トチカガミ科 | |
オオカナダモ | ||
タヌキモ | タヌキモ科 | |
ハゴロモモ | スイレン科 | |
2.挺水植物(抽水植物) | ||
アシ | イネ科 | |
マコモ | ||
ガマ | ガマ科 | |
コガマ | ||
ヒメガマ | ||
ショウブ | サトイモ科 | |
オモダカ | オモダカ科 | |
コウホネ | スイレン科 | |
カキツバタ | アヤメ科 | |
キショウブ | ||
フトイ | カヤツリグサ科 | |
3.浮葉植物 | ||
ヒシ | ヒシ科 | |
トチカガミ | トチカガミ科 | |
アサザ | ミツガシワ科 | |
ヒルムシロ | ヒルムシロ科 | |
4.浮標植物(浮遊植物) | ||
ウキクサ | ウキクサ科 | |
アオウキクサ | ||
サンショウモ | サンショウモ科 | |
5.湿生植物(湿地性向の強いもの) | ||
タネツケバナ | アブラナ科 | |
カズノコグサ | イネ科 | |
タガラシ | キンポゲ科 | |
コナギ | ミズアオイ科 | |
イボクサ | ツユクサ科 | |
キカシグサ | ミソハギ科 | |
ウリカワ | オモダカ科 | |
ホタルイ | カヤツリグサ科 | |
マツバイ | ||
タマガヤツリ | ||
ヒメクグ | ||
イ(トウシンソウ) | イグサ科 | |
タカサブロウ | キク科 | |
アゼムシロ | キキョウ科 | |
ミゾソバ | タデ科 | |
6.湿性植物(湿地性向の弱いもの) | ||
ノミノフスマ | ナデシコ科 | |
ムシクサ | ゴマノハグサ科 | |
アゼトウガラシ | ||
ウリクサ | ||
アゼナ | ||
アメリカアゼナ | ||
ムラサキサギゴケ | ||
トキワハゼ | ||
スズメノテッポウ | イネ科 | |
セトガヤ | ||
イヌビエ | ||
ケイヌビエ | ||
コブナグサ | ||
ヌカキビ | ||
オオクサキビ | ||
キツネノボタン | キンポウゲ科 | |
ケキツネノボタン | ||
キツネアザミ | キク科 | |
オオジシバリ | ||
コオニタビラコ | ||
ヒロハホウキギク | ||
アメリカセンダングサ | ||
タウコギ | ||
チョウジタデ | アカバナ科 | |
アカバナ | ||
ホシクサ | ホシクサ科 | |
ヤナギタデ | タデ科 | |
ボントクタデ | ||
イシミカワ | ||
ママコノシリヌグイ | ||
ヒデリコ | カヤツリグサ科 | |
ハリイ | ||
クサイ | イグサ科 |
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先程の沼のモデルで植物分布を考えてみますと次のようになります。
A 深水域 | 1.沈水植物 3.浮葉植物 4.浮標植物 |
B 陸際域 | 1.沈水植物 2.挺水植物 3.浮葉植物 4.浮標植物 |
C 水際域 | 2.挺水植物 5.6.湿生植物 |
D 湿地域 | 5.6.湿生植物 |
E 樹林帯 |
Aの深水域には沈水植物、浮葉植物、浮漂植物が見られます。 水深が日光を遮るほど深くない(2〜3m)場合には、沼全体が植物に覆われ、夏の時期には浮葉植物や浮漂植物が繁茂して開放水面が殆ど現われないこともあります。
Bの陸際域には沈水植物、浮葉植物、浮漂植物の他、挺水植物や湿地性向の強い湿性植物が見られます。 アシやガマなどは背丈が高く他の水生植物を圧倒して純群落を作ることが珍しくありません。
沼の水深が浅い(1m以内)場合には沼全体がアシやガマに覆われてしまうこともあります。
Cの水際域には挺水植物と湿性植物が見られます。 挺水植物と湿地性向の強い湿性植物の間には明確な区別はありません。 ホタルイやコナギなどは挺水植物としてもよく、またアシは水域を離れてかなり乾燥した土地でも見られることがあります。
Dの湿地域には湿性植物のうち湿地性向の弱いものが優占種となります。 湿性植物と称されるものとそうでない植物の間にも明確な区別があるわけではなく、湿気を好むコケやシダの仲間は通常湿性植物とは呼びません。 またキツネアザミやアメリカセンダングサは湿地域のみならず畑地の脇の空き地に普通に見られますし、湿性植物として分類されることの無いシャガやイワタバコなどは水しぶきのかぶる水流の周辺を好みます。 こうした事実は湿性植物という分類が意味が無いと言うのではなく、植物の生態や適応力には相当の幅が見られるということです。 湿性植物といわれる植物群が湿地域を好むということも大局的見地からは明白な事実として意味のある区別なのです。
沼には珪藻や緑藻などの植物プランクトンや藍藻類が存在します。 これらの微生物は一般的な観察対象とならないために見落としたり軽視してしまうことがあるかもしれませんが、実際には沼の生物相の生産者として重要な一角を占めています。
沼の生態系では純粋に植物だけを食べる動物種は稀で、多くの種類が雑食性及び肉食性を示します。
{ 植物のみを食べるもの } | ミズメイガ (幼虫 ) |
{ 主として微生物を食べるもの } | ワムシ、ミジンコ、ケンミジンコ |
{ 腐植質を含めた雑食性を示すもの } | タニシ、エラミミズ、ミズムシ、イスリカ、 ホソカ、トビケラ(全て幼虫)、オタマジャクシ、 フナ、ドジョウ、アメリカザリガニ、スジエビ |
{ 肉食性を示すもの } | ゲンゴロウ、ガムシ(幼虫)、ミズスマシ、 ヘイケボタル(幼虫)、タガメ、ミズカマキリ、 アメンボ、ヤゴ、カエル、イモリ、メダカ |
分解者の主役は細菌類です。 水生植物は植物の成長要素の中で最も大事な水に恵まれているために成長が早く、それだけ生産力が大きいと言えます。 しかし水生植物の殆ど全てが冬期に地上部を枯らしてしまいますから、沼には膨大な量の腐植質の堆積が残ります。 これらの腐植層が腐臭を放つことがないのは脱窒性の細菌によって窒素成分がいち早く分解してしまうためです。
消費者のうち雑食性を示すものの大部分が生態的分解者に相当します。 動物は植物のような分解しにくい繊維(セルロ−ス)を持ちませんから、死骸になるとすぐに他の雑食性の動物に食べられてしまいます。 こうした事実は海洋においては特に顕著に見られることで、死んだ魚はすぐに他の魚に食べられてしまうために海底に魚の死骸を見つけることは殆どありません。
沼の生態系においても消費者の多くと生態的分解者との相違は殆ど無いと言えます。
沼の生態系では生産者である植物と植物プランクトンが有機物の蓄積を作り上げ、それを糧として生きている動物群が消費・分解を担って物質循環の基本構造を作っています。 しかし沼において最も目立つのは肉食性の動物群であり、その多くが捕食性を示して生きた動物しか食べません。 カエル、タガメ、ミズスマシ、アメンボなどの他、全てのトンボ類がこうした動物種に該当します。 これらの捕食性の動物群は決して少ない数ではなく、むしろ一般的に観察される“沼の住人”の殆ど全てがこうした動物群に属しています。
この捕食性動物群を支えるものがワムシやミジンコなどの微小動物群と微生物や腐植性有機物を食べる雑食性動物群で、彼らは捕食性動物群にとって重要な変換者としての役割を果たしています。
以上述べたことから沼の生態的構造を簡略化すると次のようになります。
従って沼の水生生態系の豊かさを支えるためには豊かな水生植物群と共に、一般にあまり注目されることのない微小動物群や消費・分解を同時に担う雑食性動物群の存在が重要になります。
水生生態系といえどもその周囲の陸上生態系と完全に独立しているわけではありません。 水鳥は外からやってきて水生植物や水生昆虫、あるいはドジョウなどを食べることもあります。 バッタやガの仲間は周囲の樹林帯からやってきて水生植物を食べ、またトンボやカエルに捕まって食べられてしまうかもしれません。 しかし沼の生態系はこうした外来者によって大きな影響を受けることは少なく、陸上生態系とは違う独自の世界(ミクロコスモス)を維持しています。
この稿おわり