アミール・オルAmir Or 五篇

アキコ・オル Akiko Or


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・ひとつ ・ドイツビール ・猿の目をとおして見る ・言葉は言う ・奇跡


ひとつ

ひとつ たったひとつしかないもの
ひとしずくの雨のように
ひとつぶの米のように
決してふたつとないもの

あなたの目に
私は何も見つけることができない
あなたの肌に
私は何も見つけることができない
あなたの心に
私は見つけることができない
底知れぬほど深く
あなたはここにいる

すぐになにか着飾ったほうがいいよ
洋服 たばこ
笑顔 暗やみ いや
それでは足りないんだ
すぐに何か着飾ったほうがいいよ

どうして知っているの
私の机の上は本で覆いかぶさっているし
あなたをあまり訪れもしないのに
どうして知っているの

あなたは誰だったのだろう
あなたがあなたの体を着飾るその前は
おへそさえ 忘れずに
体のちょうどまん中に着て

私はあなたのことを呼ばないだろう
梅の花 大豆の花
桜の花
名前で呼ぶとき それらは死んでしまう

死がそのように告げた
詩なのだ

ドイツビール

完璧な殺人には理由などないと彼は言った
完璧な殺人には完璧な物体が必要なのだ
以前アウシュビッツでそうであったように
明らかに完璧な殺人は火葬炉で起こるのではない
仕事を終えた後が本番なのだと彼は言った
静けさに落ちて
あぶくを見つめながら
ちびちびと飲んでいる

完璧な殺人とは愛であると彼は言った
完璧な殺人は言われたとおりに完璧に殺さなくてもいいのだ
そのかわりと言うのもなんだが
精一杯心を込めて殺してやるべきだ
首を締めてやった時の思い出でさえ、まだ私の体の中では
永遠の命として生きている。呼び声をあやしてやったこの手
そして冷えきった体の上に恩恵として落ちた尿
その上もうひとつの無限なる感触を覚醒したこのかかと
そしてその後の静けさでさえ
と彼は言った
あぶくを見つめながら

確かに立派な仕事をすれば
我々を自由へと導いてくれるが
完璧な殺人には
一滴も無駄がない
例えば子供の唇 と彼は言った
砂とあぶく
そして今聞いている

ちびちびと飲みながら聞いている君だと

猿の目をとおして見る

猿の目をとおして見る
低木のあいだで私の頭蓋骨で遊んでいる猿の目をとおして
私は鷹の翼によって運ばれる
私の腸は鷹の腸の中
そして地球の胸元では
私は蛆虫たちと一緒にはっている
私の目玉を眼窩から入って食べてしまった蛆虫たちと一緒に
私は緑色そして草のあいだに育つ
私の腐りかけた体を肥やしとして育つ草のあいだに

ああ神のような私の体よ
私の死後なんと大きく成長したことか

言葉は言う

言葉は言う
言葉の先に言葉があると
言葉は彩色される
遥か彼方からの形跡のように
言葉は言う
今聞きなさいと
君は聞く
ここにこだまを

沈黙を得て沈黙してみよう
単語を得て話してみよう
言葉の遥か向こう側では言葉は傷だ
その傷から世界は流れ続ける
言葉は言う ある ない ある
ない 言葉は言う 私は
言葉は言う おいで君を 話そうじゃないか
君を触ってみようじゃないか
君が何かを言った
としてみよう

奇跡

月がポプラの大木の間に完熟する。
暁が漁師達の目を突き刺す、 彼らの腕にさえも
血のツバメが、
出現しようと奮闘する。
暁が彼らの口を突き破る。
ラジオの音。
魚を一ぴきでさえつかまえる事ができていれば
奇跡が
おこったかもしれない。

イエスが水の上を歩いていく、
聖息が彼の乳首の上を吹く、
聖息が
彼の(悲しく)泣き叫ぶ半透明のペニスを吹く。

水には水自身の生命がある。
修道女、丸くされた石。
ハトの間で沐浴しにおりる。
鳥が恥丘を取り除く。
朝は清らかである。

ぶどう酒のしみが湖の上に広がる、
パンのかけらが浮いている。
朝は清らかである。
 

 *テキストは『江古田文学』37号から再録

 

 

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