アミールのこと     

                 中村文昭

アミール&アキコ・オルと江古田文学編集部

 奥左から三番目アキコ・オルさん、その右に中村文昭、そのまた右にアミール・オル氏。

1999.春.江古田.イスラエル料理の店シャマイムにて

 私が詩人アミール・オルと出会ったのは、一九九七年七月イスラエルの都市テルアビブであった。五月─七月の三ヶ月間、私は、大野一雄に師事したイスラエルの舞踏家ヨリ・ラン宅に下宿していた。この間、私はイスラエルの日常(否、非日常)の日々をヨリ・ランと共に過し、現代イスラエルの演劇、民族舞踊、絵画等に触れていた。

 イスラエルを去る一週間前くらいか、ヨリが “詩人と出会いたいと言っていたね”と言い、 “紹介するよ”と言った。アミールにTELしたが留守だった。数日がたち、電話がなった。手にとると、なつかしい日本女性の声だった。彼女こそアミールの最愛の妻 AKIKO だった。

 私たちは意気投合し、ヨリのアパートちかくのカフェ、トライアングルで会うことになった。カフェでぼんやり坐っていると、通りの向こうで、かわいらしい少女のような人が私に手をふった。AKIKO だった。何を話したか忘れたが、しばらくすると、野性的な男が私たちの前に立っていた。アミール・オルである。キザ・野蛮・繊細・優しさ・少年が一つの塊のようになった男だ、と一瞬にして想った。つまり、詩人なのだ。うれしかった。コトバはいらない。魂の扉を世界に開け放しなのが詩人だとすれば、私たちは民族、国家、歴史、言語の壁を吹きとばし、出会っていた。夜明けちかくまで私たちは飲み、語った。語った内容はおぼえていない。

 AKIKO は、久しぶりの日本人との再会に興奮していた。その気持ちを読んで、アミールは、俺は先に帰るから、二人で色々と話せよといってカフェを去った……。心の人なのだ。アミールとAKIKO は、数日後に正式の結婚式をあげる。そんな状況下で、彼は私と AKIKO を残し帰路についた。私と AKIKO は、海辺にむかった。闇の中の地中海の波は柔らかく、静かで、風がきもちよかった。アミールと AKIKO の恋愛話は省略するが、二人はしっかりと愛しあっていることだけは強く感じた。

 数日後、二人は結婚式、その当日、私はヨリ・ランと計画した “舞踏講演─映像とパフォーマンスと私の舞踏論”を、心あるイスラエルの人々(日本人もいた)と共に過ごしていた。

 その後、アミール夫妻の自宅を私は訪ね、これまた、しこたま酒を飲み、語り、徹夜した。

 こうした語りの中で、短い時間だったが、アミールと私は良き時を共有したのである。最近の報告によると、アミールと AKIKO の間に二世が生まれる日がちかいとのこと。 “そうか、イスラエルと日本人の血の絆が宝となるんだ……”と淡い感動をいだいている。

 

 *テキストは『江古田文学』37号から再録


アミール・オル略歴  アミールの詩五篇(日本語訳)  Amir Or in english

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