「じゃあ、久遠ちゃんと蔡と淡雪ちゃんはルーシーの部屋で。黒茶さんと紺君はフィリアの部屋。迅雷君はダリルの部屋で良いか?」
「え……、アミーナさんは?」
「アミーナはこの家に住んでる訳じゃないんだ。飯が作れないオレ等の為に毎日、通ってきてくれてるんだ」
「へぇー……」
ルーシーがフィリアを軽蔑の眼差しで見ながら云う。
「良いの? 姉貴の部屋なんかで寝ても。朝になったら黒焦げだよ?」
「お前の部屋は溺死だろ」
そして二人はダリルに向き直る。
「……」
「……」
「何でしょう?」
「ダリルの部屋は大丈夫だな……」
「うん。凄く安眠出来ると思うよ……。良かったね迅雷さん」
黒茶達は顔を見合わせて首を傾げる。
云っている意味が良くわからなかったけれど。
アミーナが先程帰宅したので、フィリア達は寝る場所を決めて行く。
狭いこの家で、二倍の人数が寝るには無理があったが、それでも平静を装って自分たちを歓迎してくれる彼らに、
黒茶は心から感謝した。
* * * * *
「……」
「眠れない?」
「……え?」
「ルーシーちゃん、だったよね」
「久遠……さん?」
ずっと目を開けたままで居たルーシーに気がついて、久遠は声を掛ける。
疲れてはいたけれど、自分も眠れる状態ではなかったから。
「そんな、改まらなくていいよ? 久遠でいいって」
「あ、いぇ……」
「……何か考えてた顔。違う?」
「……合ってる」
久遠はにこ、と微笑んで、ルーシーの顔を見ずに云った。
「変? ……私達」
「えっ……?」
「銃は持ってるわ、テディベア抱えてるわ、仲間が外に放り出されてても知らん顔するわ……。普通じゃない、と思う?」
「……うぅん。慣れてる」
「そっか」
二人とも少しずつ笑顔になって。
「かくいう私も、ヘーンな力持ってるんだけどね」
「変な力?」
「そ。見えんの。霊が」
一瞬、ルーシーは躊躇ったような顔をしたけれど、次には好奇心が見える。
「はは、驚いた。嘘だと思う?」
「うぅん。凄いよそんなコト出来るなんて」
「有り難う。ま、ね。この力でいろんな人間に迫害されたんだけどさ」
「ハクガイ……?」
「イジめられたの」
ルーシーがちょっと押し黙った。
自分は好奇心で云ってしまったけれど、本当はこれで凄く辛い思いをしてきたのだと、はっきりわかる。
「あはは、大丈夫だよ。もう黒茶達に逢ったから」
「良い人そうだったよね、黒茶さん」
「ん。良い人だよ。優しくて、責任感強くてね。ただ、それで荷物を背負い過ぎかな」
久遠は黒茶の家に来たときから、彼女の性格がわかっていた。
人前ではにこにこしてるから、馴染みやすくて優しくて。
女性なら先ず憧れるべき存在だったことを。
「……へーぇ。淡雪さんとか、ちょっと話し掛けにくかったけど」
「えー、そうかな? ……まぁ、服はイッちゃってるけどね。ホントは優しい子なんだよ。
両親が淡雪を置いて逝っちゃったから、まだ、悲しみが残ってるんだと思う」
今度は久遠が少し黙った。
その殆どが霊に聞いたことだったから、これ以上知っていても怪しまれるだろうと。
皮肉なもんだなぁ、信じてもらえないのが怖くて、まだ躊躇している自分がいるんだ。
「……さっき考えてたのは? 私が聞いてもいいこと?」
「うん。……大切な人のこと。あたしの、初めての友達だった人」
「……だった?」
「殺されたの。……たぶん」
「そっか」
二人が目線を静かに反らして、目を細める。
思ったのはたぶん同じこと、自分らがどうしてこんなに“死”と向かい合わねば成らなかったのか。
それはきっと誰の所為でもないし、自分の所為でもなかった。
そしてルーシーが思い当たったように云う。
「ねぇ、霊が、見えるんだよね?」
「うん」
「じゃあ、ライドって男の子の霊に――会ったこと、ない?」
「ライド?」
ルーシーが俯いた。
そう。片時だって忘れたことの無かった、一生涯の友人。
ある日突然目の前から姿を消してしまった、妙に大人っぽかったライド。
「……逢ったことないな」
「……そう」
「この村に最初に来たとき思ったのはね。霊が――、居る霊が全員、凄く優しい目をしてたんだ」
通常、この世に居る霊は何らかの想い――それは恨みだったり守護だったり様々だけれど――を残している。
ソルガ村に居た霊達は、その殆どに恨みの念など無く、誰かを優しく見守る霊達だったと久遠は云う。
「優しい……?」
「……大抵の霊なら私のこと知ってるから、ルーシーちゃんに想いを残したまま逝ったわけじゃないと思うな」
「……どういう意味?」
「ルーシーちゃんに想いが残ってるなら、私のところに来るはずだから。
もしかしたらそのライド、って子。死んでないのかもしれないよ?」
死んでいない?
殺された、と聞かされていたから、ルーシーにとってこれは唯一の希望だった。
それがもしも現実だったとしても、受け止めようという覚悟を、ルーシーは持っているつもりだった。
だけど、ライドが死んでいないとして、ライドと逢うことが出来たなら。
その覚悟はきっと、脆く崩れ去ってしまうのだと。ルーシーはわかった。
「……有り難う」
ルーシーはそっと目を閉じる。
自分でもロマンチックな事は絶対似合わないと解っているけれど、今夜はとても神聖な気分だった。
少しでも希望があったと、そう確信できた。
「私は何もしてないよ?」
「うぅん、そんなことない」
二人の目線はふと合って。
「おやすみ」
「おやすみ」
妙に安心感があって、二人ともとろん、と目を閉じた。
こんなに分かり合える人が居たなんて。
そして今までのわだかまりを、少しであっても飛ばしてくれた。
久遠ちゃんも淡雪ちゃんも、ルーシーより年上ではあったけれど。
ルーシーは、とろけて行く意識の中で、何度も繰り返す。
有り難う、久遠ちゃん。
有り難う、淡雪ちゃん。
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