「絶対! 絶対だよ、今ノック音がしたもんっ!!」
「じゃあ確かめてくれば良いだろう、お前が!」
「どうして全部あたしなのよ!」

ダリルがカーテンを少し開けて、玄関の方を覗いた。

「どうやら豪雨の中の客人さんみたいですよ。それも傘無しの」
「傘……無し?」

フィリアとルーシーが冷や汗を掻いた。
どうやらその客人に、随分と失礼な、また随分と可哀想なことをしてしまったのではないかと。

「ひぃえぇー……!」

* * * * *


「何時まで待たせるんだよここの住人は!」
「仕方ないじゃない、いきなり詰め掛けたのは私達の方なのよ?」
「仕方ない?」

迅雷が声を張り上げた。

「ったく、黒茶がこんな旅行計画するからいけねーんだろ」
「馬鹿ね迅雷、八つ当たり?」
「うん。あんたの方が仕方ないね」

淡雪と久遠が、同時に迅雷を馬鹿にし始めた。
その声があまりにも大きかったので、黒茶が遂に行動に出る。

「……少し黙っててね?」

黒茶はドアの前に立つ迅雷に銃を向ける。

「何で俺なんだよ? ……五月蝿くしてるのはコイツらだろ?」
「原因はあなたでしょう」
「……待て、早まるな!」


次の瞬間、ドアが勢い良く開いて、そこには黒髪の女性――フィリアが立っていた。

「……え?」
「あ……」

沈黙が流れた。
フィリアが一瞬立ち止まったのは、黒髪の跳ねている女性が自分に向かって銃を向けていたから。
勿論フィリアは敵だと確信してしまった。

「……」
「あの……これは……ドアの前にいたこの人に向けたもので……!! あの、済みませんが雨宿り、させて頂けませんか」
「雨宿りは良いが……銃、渡してもらえるか?」
「……ごめんなさい!!」

フィリアは、黒茶が済まなそうに自分に銃を手渡したのを見て、ふぅと目を細めた。
そして、親指を家の中に向けた。

「見たところ傘無いし、もう遅いし。良かったら泊まって行けば? 狭いけどな」
「有り難う御座います!」
「んじゃ、タオル持ってくるな。とりあえず玄関の中に居て、ドア、閉めといてな」
「はい、有り難う御座います」

フィリアがリビングのドアに顔を突っ込んだ。
そして、このような会話が聞こえてきた。

「なぁ、アミーナ、悪ィけど夕食、倍くらいに出来るか?」
「えぇと、そうですね、私の家から手配させてあと三十分くらい、でしょうか」
「えぇー! マジで? あたしもうダメだよ」
「じゃあ、僕も手伝いますよ」
「有り難う御座います」


フィリアが二階へ上がったあと、リビングからドダダ、と音がしてルーシーが走ってきた。
彼女は黒茶達を見て、急ブレーキを掛けて止まった。

「……あ、ども。姉貴のお友達ですか?」
「うぅん。雨宿りさせて貰ってるの。ごめんなさいね」

ルーシーは、にっ、と笑ってから尋ねる。

「みんなで何人ですか?」
「えっと、紺と淡雪と久遠と私とじ――。……!」
「迅雷お兄ちゃん……」
「あ、そいえば」
「忘れてたね……」

黒茶がそっとドアを開ける。
迅雷は顔にぴったりドアの跡を付けてドアの前で倒れていた。
さっきフィリアが勢い良くドアを開けたときに直撃して気絶してそのままだったらしい。

「放っておけば?」

淡雪がクールに言い放つ。

「蔡、大丈夫?」

久遠が自らの上着の中に入れていた蔡が、ひょっこりと顔を出した。
お腹が好いているのか、濡れて寒かったのか、蔡はくぅん、と悲しげな泣き声を出す。

「わぁ、わんちゃんもいるんだ! 可っ愛いー!」
「うん。蔡、って云うんだよ。宜しくね」


やっとフィリアが大量のタオルを持って降りてきた。
そして、玄関にそのタオルを置いて、一人二枚ずつ手渡して行く。
久遠にはもう一枚余分に。

「んー、四人と一匹さん、で良いかな?」

フィリアに悪気は無かった。

「……」
「いえ! 四人と一匹です」
「淡雪っ! 違うのごめんなさい、五人と一匹なの」
「斜貴ちゃんも数に入る?」
「……入れないで」

フィリアが笑顔のまま首を傾げる。

「……あと一人は?」
「……」
「ドアの外」

* * * * *


「……」

迅雷は何も喋らなかった。
淡雪や久遠には勿論、黒茶や紺にでさえ。
それはそうだろう、ドアの前に桟があるとは言え、吹き降りのこの様子では、それは無駄であると直ぐわかる。
お陰で彼にタオルは倍必要だった。


アミーナが量を倍増しにしてくれた夕食を食べながら、フィリア達は雑談を始めた。
いろいろと気に成ることがあったし、お互いにもう少し知っておきたかったから。

「この大雨の中どうしたんだ、あんたらは?」
「旅行に来てたんです。でも途中から降ってきちゃって」
「この人が傘忘れたんでェーす」

淡雪はまだ根に持っていて、嫌味たっぷりに迅雷を指差した。

「旅行って、目的地は?」
「ソルガ、っていう村なんですけど……」
「じゃあ正解ですよ、ここはもうソルガ村の領域に入ってますもの」
「良かった! ソルガ村、着いてたんだって! ね、紺!」
「うん。良かった! それにこんな優しい人達の家に来れたもんね」

それを聞いて、フィリア達は一瞬、ちょっと驚いたような表嬢を作る。
でも、直ぐに笑顔に戻る。

「優しくなんかないんだ、オレらは」
「そうですね」
「えぇ」
「まァ、ね」

全員が全員、そうやって静かな否定をしたので、黒茶達はちょっと疑問に思う。
なんて不思議なオーラを持つ人達だろう。


雨はまだまだ降っている。
明日には止むそうだが、これからまた、長い夜が始まることを、黒茶達も、そしてフィリア達さえも、知る由も無かった。

全員が夕食を食べ終わった部屋の中には、ちょっとした静寂と、疲れている蔡の小さな寝息しか聞こえなかった。



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