「……まさか――あの小僧――!?」
 流石のセィブルも気付いたようだ。しかし既に時は遅し、周りにも廊下にも、消えた“小僧”の気配は無かった。
「気付くの遅いね、オッサン?」
「もう行っちゃったよ?」
 フィリアとルーシーが、何時の間にかセィブルの後ろ、ドアの前に陣を構えている。勿論この態勢は、追えるモンならあたし等を倒してからにしな、といった暗示をかけている。セィブルの目が頬と一緒にピクピク吊り上げられている。怒りの何よりの証拠だ。
「フン……邪魔だ」
ドゥン!
 セィブルが邪魔だ、と云った瞬間、彼の手のリモコンのボタンは電源が入っていて。フィリア達の後ろのドアは、大きな音を立てて折れた。ドアの折れ跡から見ると、どうも爆弾が仕掛けられていたようだ。幾つかの電気機械会社の社長【ボス】なだけあり、家にはありとあらゆる場所に残酷な罠が施されている。

「スカイアローッ!」
 ルーシーが叫んで、大量の水の矢がセィブルに降り注ぐ。だが、そこはセィブル、ロボットはセィブルの前に立ちはだかってビクともしない。
「どっち見てんだッ!」
 フィリアの声が、何時の間にかセィブルの後ろから聞こえた。刹那、セィブルの背中にはフィリアの拳が食い込んでいた。事態はそのまま肉弾戦へと移る。
ドス ドスッ
 続けてフィリアの拳が二回ヒットする。
「……ッ!」
 セィブルにスキが出来る。
「ルーシー! パス!!」
 フィリアが投げたものは――そう、セィブルが懐に所持していた、ロボットのリモコンだ。ルーシーは片手を上げてリモコンをキャッチした。その手から水が滴る。みるみるうちに、リモコンは水びだしになっていった。

「……お前達は何処までも甘いな。確かに面白い力を持っているようだが――、そのリモコンがそんなモノで壊れると――」
「防水性なんでしょ? そんなの触ったときから知ってたわよ。じゃ、これならどう?」
 ルーシーの手から、リモコンが離れ落ちる。――スローモーションのようだった。セィブルが苦虫を噛み潰したような顔をしたのも、フィリアが一段と強く彼の手をひねったのも、ルーシーのいたずらっぽい顔がニヤリと笑ったのも。一瞬だったけれど、そのシーンは今も鮮やかに浮かべることが出来る。
 リモコンが虚しく、床に転がっていた。部品は無惨にもバラバラになって、元の形は何処にも見当たらなかった。

「オレらの勝ちだな」
 フィリアが腕を組んだ。もう手を下す必要も無いだろう。しかし――セィブルが、ニヤリと笑う。彼はもうさっき血を吐いて、抵抗するのをやめてしまったから、本人自ら何かしようと企んでいるわけでは無い。まだ――何かあるんだ。仕掛けが。
「まだ私は負けてはいない……。ダリル、とか云ったか、あの小僧――。今、アミーナのいる部屋は、ドアを開けようが窓を開けようが、爆破装置が動き出す」
 そういってセィブルは、バタリ、と倒れた。ドアが爆破装置だったと、気付いてからじゃ遅いんだ――!
「てめェ……!」
「……ダリルが危ない……!」


ボゥン!!


 爆音が廊下に響き渡った。二人は同時に顔を見合わせる。
「ダリルッ!!?」
 二人は廊下を走る。さっきの爆音を頼りに、二階まで駆けあがった。
 廊下は煙がもうもうと立ち込めていて、とても廊下の端まで見えるものではなかった。
「……!!」
「ダリル……!? 返事しろっ!! ダリルーッ!!!」
「――あ、はい。遅くなりました」
 一瞬、二人とも何が起こったのか、全く理解できなかった。
「……はぃ?」
 二人が後ろを振り向く。そこには。二人が一番信じたかった現実。ダリルが、ちょっと戸惑った笑顔で立っていた。背中には疲れて眠り込んだアミーナも一緒だ。
「ダリル! 無事だったんだな!」
「えぇ……やっぱり仕掛けあったんですね」
「……やっぱりって?」
ダリルが静かに話し始める。
「戦ってるときからセィブルさん、随分いろいろな所に爆弾を仕掛けてるな、と思ったんです。だから、アミーナさんの部屋も無用心に仕掛けが無い方が逆におかしいと思って。天井を破ってアミーナさんの無事を確認してから、枝でドアを開けたんですけど――正解だったみたいですね?」
「すっごぉい!!」
「ダリルの方が一枚――いや、数十枚も上手だったな」


 アミーナはこれを知ったら――? 自分の父親が、フィリア達を攻撃していたと知ったら――?

 三人は同じ不安を抱えながら家路についた。



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