「貴様等、何者だ」
コツコツ、と高級そうな輝く靴を響かせて、髭を生やした年配の男性が現れる。心なしか目つきはかなり敵意剥き出しだ。
「え……あの、ちょっ――」
「オレ達、アミーナの友達なんです――。今日は来てくれる約束をしてたんですが、何時も来てくれる時間より遅れていたので――」
「それでわざわざ来たのかね?」
男性は目を細めて、いかにも怪訝そうな顔をする。今の言い分は、決して“来てくれたのかね”という歓迎の意味ではなかったと、誰もが思う。
それどころか相手をかなり馬鹿にした感じがした。そう――逆にいえば“そんなことだけで来るなんて馬鹿じゃないのかね?”とでも言いたそうな顔つき。
「ただの――“知り合い”なのにかね?」
そう言い放ったクールな男性は、四角い眼鏡をくいっと上げる。ダリルは悟っていた――コイツの目は殺人鬼の目だと。男性のその一言で、フィリアは目つきを変える。
「アンタにオレ達の何が解るんだよッ。アミーナはただの知り合いなんかじゃねェぞッ。それに――アンタは誰なんだよ!」
「私か? 私はセィブル――聞いたことが無いかね? “黒貂【くろてん】のセィブル”と」
「黒貂のセィブル……! 電気機械工業の中心者か。どうして大物はこう悪賢いんだろうなァ――!?」
フィリアの目の下辺りの筋肉がピクピクしているらしい。彼女が怒っている、一番良くわかる反応がこれだ。
「姉貴っ抑えて! 問題起こしてどーするのっ」
「フィリアさん、ここは帰った方が……」
「帰るもんかッ」
「“フィリア”……? あぁ、君が――アイツが毎日通っていた家の主なのか」
「“アイツ”って……、アンタ、アミーナの父親じゃないのか!?」
「父親、か。そう言えば父親なのかもしれないな」
「――お前……アミーナを何だと思ってる」
あたりに張り詰めた空気が漂う。さっきからセィブルはフィリアを挑発しているような口ぶりだ。こんな状態で、フィリアが「大人しく」帰るはずが無かった。
「貴様こそアミーナを何だと思うのかね」
「……友達だ! オレ達の仲間だし、一人の人間として尊敬してる」
「人間として?」
セィブルが最後まで言わせず、嘲笑うかのようにフィリアを眺めた。
「人間として、か……。フハハハハッ……」
「んだよッ、何が言いたいんだ!!」
フィリアはもう一触即発、何か言おうモノなら並の人間は炭になるところだろう。
「それでも毎日会っていた友達だなんて言えるのかね! 馬鹿らしい」
「てめェそれ以上言ってみろ、灰にしてやるッ」
セィブルは少しも恐れる様子はない。
「よくそれで、友達などとホザけるモノだな」
「……お前にアミーナの何がわかるんだ!!!」
「良いかよく聞け? お前等が私を殺そうと殺しまいと、アイツは壊す」
「……“壊す”?」
「つまりは――こっちでいう“殺す”ってヤツだな」
セィブルの目が楽しそうに細くなる。逆に、フィリア達の目は怒りに見開かれている。
そのとき、何を思ったかフィリアが二人の方に振り返った。
「大丈夫。――やってくれるよな?」
その眼差しが物語っていた。ダリルに向けた目にも、ルーシーに向けた目にも、フィリアはメッセージを込めていた。
数ヶ月一緒に暮らしただけで、ここまで以心伝心の仲になれるのは、恐らくこいつ等だけ。そして、ソルガ村の人々の中の、もともとあった暖かい心を――感じさせるヤツ等。
フィリア、ルーシー、ダリルの順番に、窓から部屋へと入っていく。セィブルが顔をしかめた。
「話が聞こえないか……? それ以上不穏な動きをしてみろ、アイツのいる部屋は一瞬にして――」
彼にして見れば、この上ない脅しに違いなかった。それは、この三人の異常なほどの力に気付かなかったせいもあるだろうが――。自分の計画に相当の自信を持っていたらしい。
しかし、次の瞬間セィブルは、先ほどまでの不敵な態度と似合わない驚きの表情をあらわにする。それはそうだろう――自分の持っていた起爆リモコンが、一瞬にして消えたのだから。
いや、消えたというよりはむしろ、“奪われた”。
「あなたが喋るより速く、リモコンを奪うことは容易ですよ――?」
シュルル、ダリルの右腕に細い枝が戻って行くと同時に、リモコンはダリルの手の中にあった。
「……?!」
「降参する気にはならなそうですね」
「じゃ、行くぞっ」
フィリアが窓から強行突破しようとする。
「私がそれを大人しく見ているとでも?」
セィブルがパチンと指を鳴らすと、廻りに居た兵士達が、みんな一斉に襲いかかってくる。
「あ、みんな同じ動きだ。これってさてはロボットー?」
「ひゃひゃひゃっ、ルーシーなんかに気付かれるんじゃ、もう駄目だぜオッサン」
「何それっ、どういう意味なわけ!?」
「言った通りの意味だとも」
「――それは鋼鉄より堅い」
「ほぉー、そりゃすげぇ――でもなー、こうすると――。プロミネンスリング・サマー!」
フィリアが兵士達全てに火を浴びせる。鋼鉄は、ギラド戦のときの剣のように真っ赤になる。
「馬鹿はお前だな――それは逆効果というものじゃないのか?」
「甘いぞ?」
フィリアがニヤリと笑う。後ろには悪戯に笑ったルーシー。そしてルーシーは、声の限りに叫ぶ。
「スプリンクラー・フラッシュ!」
ビシャア、命令が途切れて戸惑っていた真っ赤なロボット兵士達に、勢い良く水が振りかかる。この勢いで、水は大分冷たくなっていた。
バコン、ベコンベコンベコンッ
「ウ……!?」
セィブル曰く“鋼鉄より堅い”兵士ロボット達が、大きな音を立てて曲がった。
「お前なら解るな? 強烈に熱せられて膨張した金属を急激に冷やせばどうなるかってこと」
「――く、少しはやるようだな」
「人を見縊るのもそれぐらいにしといた方が良いぜ?」
「さっさと負け認めて、アミーナさんを出しなさいよっ」
フィリアとルーシーが、戦闘態勢を整える。二人とセィブルの間には、先ほどから怖いほどの戦闘オーラが漂っている。どちらかが動けば、何かとてつもないことが起こるのは、誰にでもわかった。
「全く、人を見縊っているのは君達の方ではないのかね――」
「あぁ?」
不思議そうに声を咎めたフィリアを見て、セィブルはニヤリと笑う。
「威勢の良いお嬢さんだ――、女子がそんな下品に振舞うものではないぞ?」
挑発した、つもりだったらしい。そう言ってみれば、フィリアが怒るとでも思っていたのだろうか。いや、普通に言えば、それはもう骨まで灰になること間違い無かったのだが、今の状態は違った。
「お前――、若しかしてまだ気付いてねぇの?」
「……何……」
今度はセィブルが怪訝そうな顔をする番。ルーシーが、バカにしたように横目になった。
「問題です。ここに居るのは壊れたロボット兵士、それとオッサン、そして姉貴とあたし。さぁーてっ、足りないのは一体誰でしょう?」
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