「キャハハハ、キャハハハハ! もう立てない?」
「ぐ……まだまだっ」
ルーシーの頭がグルグル廻っている。見ていなくてもまだ残像が見えるから、酷く吐き気を感じる。
「ララキーの技、わかったぁ?」
「……この空間を自在に操るようね……? う……っ」
「うん、まぁ、そういうこと。グルグルスペースはララキーの自由空間だよ」
ララキーの技は、この回転空間を自由に動かすことだが、同じ“空間”の中にいるのに、ララキーはまったく参っていないようだ。
「何で……? どうして……」
「教えニャいもーんっ! キャハハハハ」
ララキーは黄色い声を出しながら“浮雲ちゃん”でヒュンヒュン飛びまわっている。
ルーシーの記憶に、あるワンシーンが瞬時にして蘇る。あれは――ライドがバズ族に殺されたとわかったときに――フィリアに言われた――。
『ルーシー、遊びじゃないんだ。わかるよな?』
『……うん』
『ライドのことは本当に残念だったと思ってる。でも、その力を持ったことは、決して遊びじゃない。オレ達は重大な使命を背負ってるんだ。わかるよな?』
『……うん』
『ま、キツイこと言っちゃったけど――足手まといじゃないからいいよ』
足手まといだったらどうしよう。今までそう考えていたルーシーを見透かすように、最後にフィリアは付け加えた。そして、その確定しているような言い方がまた、心の支えになっていたわけだけど。
だから、あたしは二人に迷惑をかけるわけにはいかない。あたしは足手まといにならないように精一杯闘うだけなんだから――!
「食らえッ……スカイアローッ!」
「はっずれー!」
ルーシーがいくら水を放っても、恐ろしくすばしこい浮雲にはなかなか当たってくれない。それどころか、魔力を消耗してルーシーの意識はどんどん薄れていく。
このまま気絶すれば、バズ族の人質にでもなることは明らかだ。それどころか、フィリアにもダリルにも迷惑がかかってしまう――。
「――んなの……イヤだ……!」
ルーシーは手を真上に突き伸ばした。
「ヘビーワイド・レインッ!!!」
――残りの半分の魔力、使いきってやる!
「あわわわわっ……」
ララキーが酷く慌て、ルーシーの視界から逃れる。ルーシーは見た。浮雲が、水を浴びて一回り小さくなっているのを――!
そうか! 浮雲はすばしこいけど“雲”は“雲”なんだ! 雲はもともと形を持たないけど、水をかければ全て水分になる!
でも一つ問題があった。
ルーシーの残りの魔力で、果たしてこの空間とララキー全体に水を掛けられるかどうかと言う事だ。
ルーシーが、技を繰り出そうとジャンプしたときだった。
「……!」
ジャンプした一瞬だけ、吐き気が収まったのだ。これはもしかして、もしかすると――。
ララキーがグルグルスペースにいても大丈夫なのは、地面に触れていないからではないだろうか――?
「スプリンクラー・フラッシュ!!」
不意にルーシーは、円形状に水を噴射した。
ビシャァッ
「うみゃぁっ!?」
ララキーとその浮雲に、真上から水が降り注ぐ。
「しまった!」
ララキーの浮雲が、どんどん小さくなっていく。そしてついに、その雲は姿を消した。慌てたララキーがまっ逆さまに落ちてきた。
地面に触れたララキーは、苦悩の表情を残して、ばたりと気絶する。
「うにゃぁ……ぐるぐるするぅ……」
「自分の空間よ、当たり前じゃない」
ララキーが気絶した瞬間、ルーシーを襲っていたあのグルグルスペースが嘘のように消え去った。
「やっぱりか……」
ルーシーがため息をつく。
「……とは言え、あたしも限界だわ……」
ルーシーもその場で倒れた。それはそうだろう――いっぺんに魔力を使いきってしまったのだから。
突如空間に歪みが出来て、その部分から男が出てきた。ギラドだった。
ギラドは、二人が倒れているのを見て深いため息をつく。
「やはりか……」
ララキーを背中に背負い、ギラドは立ち去ろうとして後ろ髪を引かれたように立ち止まった。そして、まったくもう、といった感じでルーシーに近寄った。
ギラドがこんなことをするなんて、到底信じられなかった。まさか、ルーシーも一緒に抱えて連れて行くなんて……。
ララキーはまだ目を廻したまま、ルーシーは魔力を使い果たして。それぞれ薄れる意識の中で勝利と敗北の思いに包まれていた。
その頃――。
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