木の力を持ったダリルを仲間に含め、フィリア一行はポエムの行方を追う。
「姉貴!! また記念碑がやられた!!」
 今夜は満月。
「んだと!?」
 また新たな敵が、姿を現しもせず犯罪を犯してゆく。
<今月で二件目のこの反抗に、もはやアルロジックの政府も恐怖に震え上がっています――>
「チッキショー……奴ら、きっとこの様子を見て舌なめずりしてやがるんだぜ」
「許せない……なんだと思ってるの……!」
「でも、悪者は足跡を消せませんから」
「……行くの? こんな夜中に?」
「当たり前だろっ。ほっとけるか?」
「いいえ――行きましょう」
「夜かぁ……」

 人は暗闇が怖い――何が起こるかわからない。自分を見失いそう。静寂と満月がさらに不安を煽る。走っている前の人物の姿がいつ見えなくなるかと、気が気じゃない。リリリ、と無心に鳴る虫の唄も、寂しく辺りに広がるだけで、決して心を休めてくれたりしない。
 満月は雲に隠れた。雲は月だけでなく、一面の星も覆い隠してしまっていた。
辺りはもう真っ暗。記念碑は人家の近くにあるのに、こんな夜中のせいでもう明かりは見えなかった。
 三人もいるのに、不安は止まらない。もう手を伸ばせば指先に闇がかじりつくぐらいになっている。

 三人は、オーラが一番強いところで立ち止まる。ただでさえ全速力で走ってきた三人は、これからの戦闘に気を配るため呼吸を落ち着かせる。鼓動が激しくせり上がってきて、むしろ吐き気さえ感じる。
 頭の中は怒りに染められている――。
 夜中まで必死の捜査をしているはずの政府も、流石に丑三時までは現場に居ない。
「畜生……これじゃ――わかんねェ……」

 突然、ルーシーの目がビィッと怒りの目に変わった。
「なッ――? ルーシーさんどうしたんですか?!」
「こいつはオレらより十倍くらい大きくバズ族のオーラに反応しちまうんだよ。大丈夫。すぐ見つかる」
 ルーシーの、夕日にレモン色のグラデーションをかけたような色の瞳が、忙しなく辺りを見まわしている。今日のバズ族オーラは強烈らしい。
「複数いる――それも四人や五人じゃない」
「……だな。二桁――下手すりゃ三十人以上」
「木の陰と上――家の陰、それから僕らの後ろにも居るみたいですねぇ」
 そういったダリルは、振り向き様にそいつの顔面を殴りつけた。足音も立てず、気配も消したはずだったその男は、顔もプライドもズタボロにされたに違いない。いや、それどころか精神も。 
「が……ッ!」
「済みません、鼻の骨折れてます――お大事に」
 見ていたフィリアが笑顔で躊躇いながら聞く。
「――ダリル――戦闘得意なのか?」
「いえ」
「姉貴、でもこいつら雑魚ばっかだよ?」
「それを言っちゃお終いだっての……」
「まぁ、運動になるんじゃないですか?」
「……ホント良い性格してるよな、ダリルお前――」
「お褒めの言葉有り難うございます」

「来たァッ!!」
 ルーシーが叫ぶ。刹那、間髪を入れずに男達が飛びかかってくる。全員が刃物を持っている。
「ブレンチエレストッ」
 ダリルが周囲に手を伸ばして指から枝を出した。枝の一本一本が、それぞれ一人男たちを捕らえる。
「……なんだアイツはッ……!?」
「指から――枝が――ッ!!」
「全員――刃物を所持していますよね?」
 ダリルが静かに男達に問い掛けるが、妙に恐ろしく響いたその言葉に、誰も答えない。
「銃刀法違反で、逮捕致します」
 ダリルがにっこりと笑う。その顔は至って爽やかであるのだが、男達には恐怖しか感じさせていない。

「ルーシーッ、行くぞ!」
「あいよっ!」
フィリアの前にルーシーが立った。
「レッドフレア・スカイアロー・ダブルショット!」
 先に炎がついた水の矢が、ダリルの枝によって並べられた十人に振りかかる。
「い゛あぁあぁぁぁぁぁうッ!」
 十人はそれぞれ服に付いた火を消すのに懸命だったが、炎はどんどん体を包んでいく。
 だが、後から降ってきたルーシーの水に、炎はかき消される。
「……!?」
「――殺してたまるか!」
「……?」
 フィリアは掌を握り締めた。
「勿論てめェらを許したわけじゃねぇが――人殺しは好きじゃないんでな。お前等と一緒になっちまう。だから――どうして記念碑を取ったのか教えて欲しい」
 十人はざわめく。
「だっ――だが、あいつは殺しただろう!?」
「誰のことだ?」
「……」
「記憶の中読める奴か……あいつは殺しちゃいない――黒焦げにしたけどな。一瞬殺しちまいそうになったぜ」
 十人の表情が、背中に悪寒が走るのを隠せない。一人残らず真っ青になってしまった。
「この中には話がわかるやついなそうだな――誰が親玉だ?」

「私だ」
 数秒して、森の暗闇から人影が現れる。なんの変哲もない男のようだったが、そのオーラは尋常じゃない。そいつが出てきただけで、虫たちは唄うのをやめた。
「なるほどお前だけで何人分ものオーラを持ってるってワケだ」
 フィリアの顔に汗が一筋流れる。
「じゃあ――手下はこの十人しかいなかったの――!?」
「そのようですね――あの人がその他のオーラの発信者だったようです」
「オーラ? なんのことだかわからないな」
 そいつが静かに言った。
「お前たち――もうやられたと言うのか?」
 十人がビクリと体を強張らせる。
「仕方がない奴らだ――こんな弱いメンバーは要らん」
「オイ、ちょっと待て。お前が親玉なんだな?」
「申し遅れたな――私はギラド・ラーファル。三番隊隊長だ」
「……こいつらを殺すんだったら――オレらを倒してから行け」
「ほう。――かなりの愚か者だな。何故敵のために戦う?」
「人を殺すのが許せないからだ」
「敵のために死ぬなど――馬鹿にすぎん」
「お前みたいに、仲間を殺そうとするほど馬鹿じゃないけどなっ」
 ギラドの不敵に微笑していた顔が少し歪んだ。
「よろしい――お前らを倒してからこいつらをじっくり甚振り殺すとしよう」
 フィリア、ルーシー、ダリルが構えた。
「まァ待て、これでは互角ではないだろう――こちらが圧倒的に不利だ」
「……」
「……何をすれば良い」
「そうだな――誰か一人が私と闘うということにしては――?」

「了解だ。オレがやる」
「フィリアさん……」
「姉貴……」
「いいだろう――私が勝ったら、そいつらは返してもらおう」
「オレが勝ったらお前が大人しく帰れよっ」
 午前三時――そこにいる一同の心の中で、試合のゴングが鳴り響いた。



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