「よっ! ……よく会うな」
「えぇ――そうですね」
 ダリルは、一瞬寂しげな顔を見せると、では、と呟き、行きかけた。
「ちょっと待てよ! ルーシー治すの手伝ってくんない?」
 フィリアが引き止める。
「え、えぇ……僕ができることなら」
「じゃ、とりあえず家まで来てよ。また来てくれってのも勝手で悪いけどさ」
「えぇ」

 フィリアはルーシーを背負って歩き出した。横にダリルが並んだ。
「なぁ、さっきの、どうやったんだ?」
「あれは――」
 ダリルは一瞬言葉を濁らせた。
「……わかりません」
「わからない?」
「……実は――」
 ダリルは話し出した。さっきの出来事を。それによると、こういうことだ。
 手刀を食らって意識を失ったあと、ダリルはすぐに目を覚ましたという。そして、辺りを見まわすと、そこは丸太を乱暴に組んだゴミ捨て場のようなところだったという。ダリルは両手を縄で縛られ、放り出されていた。
 彼はすぐさま、得意の縄抜けをし、声を頼りにフィリアとルーシーの元に向かったらしい。
 ギリギリのところでフィリアとルーシーの元に辿り着いたはいいが、そのときダリルは「自分は何も出来ない」と悟った。
 しかし、刹那、薄い緑色の光線がカッと周囲を照らしたかと思うと、メキメキと自分の力を感じられるようになったのだという。

「――そいつは驚きだな」
「僕も信じられません」
 そういってダリルは、自分の掌を見た。その指から、ポコンと芽が飛び出した。
「酷いんですか? ルーシーさん」
「あぁ、ヒドイかもしれないな――」
 フィリアは、さっきから何も言わない、無表情のルーシーを見た。ルーシーは、どうもポカンとしているが、ダリルをじっと見ている。
「精神の崩壊は肉体の崩壊より遥かに辛いんだ――」
「――お詳しいですね」
「まァ、そういうコトばっかだからな」

 フィリアの家に着いてから、フィリアはルーシーをソファに座らせた。
「ダリル、頼みがあるんだが――」
「はい?」
「しばらくの間、コイツと一緒にいてやってくれねぇか」
「……?」
「たぶん――過去の思い出しによって表情を奪われたと思うんだ」
「――!」
「なんていうか――ダリル、お前、ルーシーの昔の親友のライドにそっくりなんだ」
「じゃあ、僕がそのライドくんの代わりになることで、表情を取り戻すんですね?」
「そゆこと」
 フィリアは、よろしくな、といって、リビングのドアを閉めた。部屋には、ダリルとルーシーの二人きりになった。

「ルーシーさん、僕です――ダリルです。憶えてますか?」
 ダリルが、隣のルーシーに向かって話し始めた。
「……」
 ルーシーの首が小さく縦に振られた。でも、目は相変わらず下を向いたままだ。
「ライドくんのこと、本当に残念でした――」
「……」
 ルーシーは何も反応しない。
「――泣いて、いいんですよ」
 ダリルは話しかけた。
「――忘れろといってるわけじゃありません。でも、ライドくんだって、ルーシーさんが元気でいるほどうれしいことはないんですよ。――泣いて、悲しい気持ちを流してください」
 その言葉で、ルーシーが顔を上げた。何か反応したようだ。
 ルーシーの目には、ダリルとライドがダブって見えていた。優しさがそっくりで。その笑顔がそっくりで。

――ガチャ

 リビングのドアが開いて、フィリアが入ってきた。
「――お、ちょっと戻りかけてるな」
 フィリアはそういうと、持っていたカップをルーシーに出した。
「さ、飲め」
 ルーシーは、ちょっとカップに視線を落とすと、その温かい器をそっと口に持って行った。ルーシーの口が、飲み物を軽くすする。
 と、同時にルーシーの目に、大粒の涙がうかんできた。
「……うぁぁ……うゥ……
うわぁああん――
 ルーシーが大声で泣いた。このところ泣きっぱなしだったのに、ルーシーの涙はまだ残っている。ルーシーは、ダリルの膝に顔をうずめて、うつ伏せになって泣いた。
「表情、戻ったな」
「あれ、なんの飲み物だったんです?」
「……ライドがよく作ってくれたって言ってたんだ――熱々のアップルティー」
「流石ご姉妹」
「ま、伊達に“姉貴”やってるわけじゃねぇしな。それに、ダリルのお陰でもあるし」
 フィリアは一呼吸置いた。でも、次に真剣な顔になってダリルに問う。
「で、どうすんだ? これから」
「また狙われないように気をつけて行きます」
「行くのかよ」
「え――だって一緒には暮らせないんでしょう?」
「オレの力とルーシーの力、なんで付いたと思う?」
 フィリアは自分の手を見た。ホント、今まで「コレ」のお陰で、何人バズ族ヤっちまったか――。
「――わかりません」
「オレは五歳、ルーシーは生まれてすぐ。オレのときは赤い閃光が体から発せられたし、ルーシーは水色の光が照らした」
「それって――!」
「そうさ。お前と全く一緒」
 だから、あのとき“驚きだな”って言ったんだ。全く一緒。フィリアの瞳はダリルにそれを暗示させていた。
 そのあと、フィリアはダリルに、伝説のポエムと自分達の使命の話を聞かせた。

 ――お前の好きなようにしたらいい。行くといえば止めないし、一緒にバカ仲間やるんだったらそうすればいい。
 ダリルは、フィリアに言われた言葉を、深く考え込んでいた。自分には仲間などいただろうか――。そして、何より、自分が仲間になっては迷惑だから――。
 やはり断らなければ。ダリルは思い立つ。

「決まったか?」
 フィリアが笑いかける。
「別に今すぐでなくていいよ」
「えぇ――あの、やっぱり僕は――」
 ダリルが言いかけると、フィリアが止めた。
「捕らわれてねぇ?」
「え……っ?」
 フィリアの目はかなり真剣だった。
「自分が迷惑なんじゃないかって顔してる。自分のやりたいことやっとかないと、後で後悔するぞ?」
「……そうですけど――僕にそんな素質があるかどうか――」
「なーにいってんだ。仲間に条件なんて必要ないだろ?」
「……!」
 ダリルの、驚きと感動の入り混じった瞳が、フィリアに向けられる。

 そのとき、顔を洗って挽回したルーシーが、居間に入ってきた。
「はーいっ、ルーシーちゃん復活でーすっ!!」
「ったく……もっと遠慮するっていう難しいことはわからないかな子猿ちゃん?」
「必要ないじゃん」
「っかあっ、可愛くない!」
「……ダリル、姉貴、ごめん! サンキュ! もうあたし泣かないからね!!」
 ルーシーは、二人に向かってガッツポーズを見せる。この分だと、復活は本当のようだ。
「うむ。それでこそ我が
「なぁんで弟なのよぉっ、兄貴がッ」
「へんっ、結構だね」
「あの――フィリアさん、ルーシーさん」
 ダリルが少し遠慮がちに口を開いた。
「?」
 フィリアとルーシーが、同時にダリルのほうに顔を向けた。
「僕で良ければ、よろしくお願いします」



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