「ル、ルーシー……?」
ルーシーはボロボロと泣き出した。
「惑わされるなルーシーッ!!」
――マドワサレルナ。
ルーシーの脳裏に、あの忌まわしい出来事が蘇った。
『ルーシーっ、どうしたんだよ。話してくれよ』
『イヤ!』
彼の名前はライド。ルーシーの、一番の親友だった。
『なんで怒ってるんだよ?』
『知らないッ。怒ってなんかないもんっ』
好きじゃない。好きじゃなかった。
『まてよルーシー』
ルーシーがついに走り出す。――逃げてきてしまった。もう誰も自分をわかってくれる人はいない。
それは、自分が水の力を受け継いだとわかったとき、ルーシーが混乱して取った行動だった。自分はフツウの子じゃないんだ――。それが、ルーシーには怖かった。
ライドに、みんなにきらわれるのじゃないかと。
自分自信だって怖かった――『ワタシ』はどうなっちゃったの――?
ライドがルーシーの細い腕を捕まえた。
『……!?』
『何か、なやんでるんだったら、いってくれても、いいだろ――』
ライドが喘ぎ喘ぎ言った。追いかけてきてくれたんだ――ライドは体が弱いのに――一生懸命。八歳の二人には、そんな会話が精一杯だった。
それでも、ルーシーの心には、それほど優しく響く言葉はなかった。
『うぅ……うわあぁああんっ……!』
ライドの腕を掴んだまま、ルーシーは夕暮れの小路で大泣きした。
『ライドのばかぁあぁ……何であたしなんか……追いかけてきたのよぉ……』
『……』
『あたし……変な力持ってるのに……フツウじゃないのに……どうしてよぉ……』
ルーシーはまだ泣きやまない。それでもライドは何も言わなかった。ただ、そこに立って、ルーシーが泣き止むのをずっと待っていた。
ライドの優しさが痛くて。ライドにずっと頼っていたくて。――自分の“安らぎ”が欲しくて。
日が半分くらい沈んだ川辺で、ルーシーとライドの寄り添う姿があった。もう、信じられる。
『あのね、ライド』
『何?』
『あたしね、ライドとずっと友達でいたい』
ずっと、言えなかったこと。失うのが怖くて、言えなかったこと。拒否されるのが怖くて、言いづらかったこと。
『当たり前だろ』
ライドが動揺もせずににこやかに笑う。そんな大人っぽさが、ルーシーには居心地が良かった。
『……変な力、持ってても?』
『うん』
『体から水出したりしても?』
『うん』
なんの屈託もないその笑顔に、ルーシーはライドの寛大さを感じる。ルーシーが、ちょっとライドに寄り添った。
『“友達”に、そんな条件つかないだろ? ……惑わされるなよ?』
『うん』
今度は、ルーシーが頷く番だった。
ずっと、一緒に居たかった。ライドのそばは、唯一自分が、自分で居られる場所だから。どんな自分も認めてくれる、安らぎを保てる場所だから。
『え? どういう意味……?』
『ごめんね。言った通りの意味だよルーシー。あの子は――ライドはバズ族に連れて行かれてしまったんだ』
その言葉で、ルーシーは一瞬で谷底に突き落とされた気がした。
『ライドが……? 冗談でしょ、おばさん』
すがり付くような想いでルーシーはライドのお母さんに詰め寄るが、ライドのお母さんはただただ首を横に振るばかりだった。その目からは、大粒の涙が後から後から出てきていた。ルーシーは、それ以上聞くのをやめた。
大泣きしたかったのに、涙も出なかった。絶望と、悲しみと、怒りと、恨みを織り交ざって、ルーシーの表情には何も映っていなかった。どんな顔をして良いのかわからないのだ。
『ずっと、友達だって言ったよね。言ったよねライド』
“あの”川辺で、ルーシーは髪を風になびかせて立っていた。ずっと友達だと、約束した川辺で。
『――どうして――どうしてよォ、ライド……またあたしはひとりなの?』
ルーシーの顔が歪み始めた。
「教えてやろうか」
後ろで、低く呟く声がした。
『だっ……誰よ!?』
「オレだよ……」
声しか聞こえない。そうだ――今捕まえてる奴の声とそっくりだ――。
『……ッ』
「まァ、そう驚くな……オマエの知りたいことを教えてやろうと思ってな」
『……何よっ』
「知りたいだろう? ライドはなァ、オマエと川辺でくっちゃべったすぐあとに殺されたんだ……。どういう意味かわかるよなァ? オマエがワガママ言わずにライドを帰してやればライドは殺されなかったんだ!」
「!!」
再びルーシーは現実世界に戻された。
「ルーシー……お前……そんな過去が……?」
「……」
「だからお前、バズ族にそんなに過敏に……」
ルーシーはもう何も言わなかった。
ルーシーの水の縄が、スルスルと解けた。
「ヘヘ、お嬢ちゃんはもう立ちあがる気力もないか」
男が詰め寄った。
「なんてったって、自分の大事なライドを――」
「だからどうした?」
フィリアが顔を上げた。その顔は、さっきまでの怒りの形相を越えていた。怒りの形相というよりは――まるで鬼――!
「……ウ……っ!!?」
――なんだこいつは!? さっきまで感じていたヤツじゃねェ……! 男が感じ取った気配は、間違いなく「殺される」だった。
「ルーシーはそんなことでくじける柔なタチじゃねェ。お前に何がわかる」
フィリアはそう言うと、手をクロスさせた。
「言え!!」
「――な、なにを……」
「ダリルの場所だ」
「フ、フン……自分で探しな」
「……死んでも言わねェつもりだな?」
「――おうともよ」
そのときだった。
「許せませんね」
――ザァッ!!!
後ろから、木々が男に押し寄せた。そして、枝がギシギシと男の腕と足首を捕らえた。
「今です、フィリアさん」
フィリアは、木々がひしめく向こう側を見た。そして、ニッと笑うと、クロスした腕を左右に開いた。
「ファイアークラッシュ・レボリューション!!」
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