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 一人の少年が街を見ている。 
 
 背の高い少年。灰色にかすむ風景の中で,彼の姿はひどく目立つ。黒いデニムの上下に黒いシャツ,黒い革のスニーカー――そして漆黒の髪。頭の先から足のつま先まで,偏執的なまでに真っ黒だ。 
 しかし今,少年を見ているものはいない。あたりには誰もいない。鉄骨が剥き出しになったビルの屋上,無人の廃墟から,彼は街を見下ろしている。片手で小石を投げ上げ,受け止める。それから強く握り締める。 
 その行為に何の意味があるかは,わからない。 
  
 風が吹いた。彼は静かに拳を開いた。午後の太陽を反射して,砂が空にこぼれる。 
 
 頬に何かが降りかかった。 
 地上を歩いていたもうひとりの少年が,怪訝そうに空を見上げた。 
 
 視線の先,黒ずくめの少年はすでにいない。  |