#2 Double Solitaire
 

 

SCENE 1


 一人の少年が街を見ている。

 背の高い少年。灰色にかすむ風景の中で,彼の姿はひどく目立つ。黒いデニムの上下に黒いシャツ,黒い革のスニーカー――そして漆黒の髪。頭の先から足のつま先まで,偏執的なまでに真っ黒だ。
 しかし今,少年を見ているものはいない。あたりには誰もいない。鉄骨が剥き出しになったビルの屋上,無人の廃墟から,彼は街を見下ろしている。片手で小石を投げ上げ,受け止める。それから強く握り締める。
 その行為に何の意味があるかは,わからない。
 
 風が吹いた。彼は静かに拳を開いた。午後の太陽を反射して,砂が空にこぼれる。

 頬に何かが降りかかった。
 地上を歩いていたもうひとりの少年が,怪訝そうに空を見上げた。

 視線の先,黒ずくめの少年はすでにいない。

 

SCENE 2


GM:ではオープニングはユウキ。自宅で朝を迎えたところからです。
ユウキ:はーい。
GM:とりあえずゆかりちゃんが朝ご飯を作って起こしに来るわけですが,
晟:(←またしてもゆかりちゃん)ユウくん,朝だよ! ご飯できてるよ!
ユウキ:んー……。
晟/ゆかり:「ほらほら,早く起きて,顔洗ってきてね!」
ユウキ:へいへい,わぁったよ。今行くよ。
晟/ゆかり:「ほらユウくん,見て見て!」
ユウキ:あん?
晟/ゆかり:「今日はちゃんとお米のご飯だよ! お味噌汁もあるよ!」
一同:(笑)
ユウキ:…………。
晟/ゆかり:「鮭の切り身もついたよ!」(笑)
ユウキ:(投げやりに)あーそうかよ。良かったな。
GM:んで君が食卓につくと,正面に座った人が「やぁおはよう,ユウキくん!」と明るくご挨拶だ(笑)。
ユウキ:何でおまえがいるんだよ!
GM/イサム:「あ,ゆかりちゃん。ご飯おかわりね」
ユウキ:だから何で他人んちでメシ食ってんだよ!?
晟/ゆかり:「あ,山崎さん。お味噌汁のお代わりはいかがですか?」
GM/イサム:「あ,いただきまーす♪」
ユウキ:無視すんな! てゆーかお代わり出すな!
晟/ゆかり:「だっていっぱいあるから……」
綾:だってこんなに食べ物があるのは久しぶりだから(笑)。
遙:だから嬉しくていっぱい作っちゃったから(笑)。
GM/イサム:「ほらユウキも食えよ。結構うまいぞ?」
ユウキ:……んじゃ「けっ!」とか言いながら,ガツガツと飯食い始めます。そんで山崎の皿からおかずを奪って食べ尽くします。
GM/イサム:「ああっ,何すんだよ! それ楽しみにとっておいたのに!」
ユウキ:うるせえっ!(殴る)
GM/イサム:「だから,何ですぐ殴るんだよ!?」
晟/ゆかり:「ユウくんってば,食事中は暴れないでっていつも言ってるのに……」
遙:せっかく数年ぶりの食事なのにねえ。
ユウキ:死んでるだろそりゃ!
一同:(爆笑)
ユウキ:だいたい人聞き悪いんだよてめーら! 俺がゆかりに全然メシ食わしてねえみてえじゃねえか!
晟/ゆかり:「でもこんなにマトモな食事は久しぶりです」
ユウキ:…………。
GM/イサム:「本当だよねー。いつもどこかの誰かさんが仕事失敗して帰ってくるからさー」
晟/ゆかり:「仕方ないです。ユウくんは以下略,ダメ人間ですから」(一同笑)
遙:い,以下略?(笑)
綾:でも「ダメ人間」だけは外せないんだ(笑)。
晟:基本ですから。
GM:デフォルト「ダメ人間」ですから。
ユウキ:…………。
GM/イサム:「(構わず)ま,そーんなダメ人間もこの山崎くんが持ってきた仕事のおかげで! たっぷり蓄えもできたわけだ! これからもガリガリ働こうねユウキくん!」
ユウキ:(投げやりに)あーはいはい,そうだな。
GM/イサム:「というわけで仕事があるんだけどさ」
ユウキ:あん? 今度は何だよ?
GM/イサム:「犬の散歩」
ユウキ:ナメとんのかワリャ!?(一同爆笑)
綾:前回に比べると,ずいぶんランクダウンしておりますな(笑)。
GM/イサム:「ちなみに,もう前金もらっちゃってるからね?」
ユウキ:(もはや完璧に投げやり)はいはいわかったよ! やりゃいいんだろやりゃあ!
GM:というわけで,いいかげん話を先に進めることにしましょう(笑)。山崎に渡された地図にしたがって君は依頼人の家にやってきました。
ユウキ:そこって市外だよな?
GM:市外です。ただし,なんかこー,市外にあるまじき豪華なお屋敷ですが(笑)。
ユウキ:ああ? 何だこりゃ。
尚也:しかし,豪華であるということはイコール金銭価値が高いということではない。
綾:確かに安っぽい豪華さというのはありますからな。
晟:白い壁にピンクのお屋根,みたいな?
GM:そんな感じですな。君が首をかしげながら中に入ると,太った厚化粧のおばさんが「あーら,あなたがウチのワンちゃんを散歩してくれるザーマスね?」と(一同笑)。
綾:ウチのリリーちゃんを散歩してくれるザーマスね?
遙:かわいいカトリーヌちゃんを散歩してくれるザーマスね?
ユウキ:どっちなんだよ!
一同:(爆笑)
ユウキ:リリーなのかカトリーヌなのかリリー=カトリーヌなのかカトリーヌ=リリーなのかハッキリしろよ! え!?
GM:いや,俺に言われても困るんだけど……(笑)。じゃあ名前決めてあげよう。
ユウキ:何て名前なんスか。
GM:えーと。ペチャ。
ユウキ:……は?
GM:だから,ペチャ。
ユウキ:……それは,名前なんですか?
晟:そもそも何でそんな名前?
GM:何となく。ちなみに巨大ブルドッグ。
ユウキ:…………。
GM/飼い主:「ワタクシのかわいいペチャちゃんを,これから1時間かけて散歩させるザーマスよ」
ユウキ:へいへい,わかりました。(ブルドッグに)おら,行くぞ。
GM:するとペチャちゃんはウーっと唸って,君の手にがぶっと噛み付きます。
ユウキ:何しやがるこのバカ犬が!(殴る)
遙:キャインキャイン!(笑)
GM/飼い主:「ンまああああッ! うちのペチャちゃんになァんてコトしてくれるザーマスか!?」
ユウキ:うるせえ! てめえの犬のしつけぐらいしっかりしとけ!
GM/飼い主:「きいいいいっ! もうお給料はなしザーマスよ!」
ユウキ:けッ! こっちから願い下げだぜ!
綾:……で,さっそく依頼失敗なんだ。
一同:(笑)
尚也:前金もらってるからいいんじゃないですか?
ユウキ:こっちは噛み付かれたからな。それくらいはもらっといていいだろう。
綾:慰謝料よこせ,とか言わないあたりわりと善人なんだなぁ。
晟:そこまで頭が回らないんですよ。
綾:それを善人と言うんじゃないか?(笑)
ユウキ:(無視)このまま真っ直ぐ帰ると失敗したのがバレバレなんで,少し時間をつぶしてから帰ります。
GM:寄り道して帰ったところでバレバレだと思うが……(笑)。では,君がスラムの中を歩いているとだね。
ユウキ:はい?
GM:君の上に,砂のようなものがわずかに降りかかったような気がした。
ユウキ:? 上を見上げてみますが。
GM:特に変わったものはありませんね。
綾:ただの土埃だという説も(笑)。
ユウキ:……まぁいい。気のせいだろ,きっと。
GM:では,君のシーンはここで終わりです。

 

SCENE 3


GM:えーと次。尚也のシーンは,相変わらずのスナック『北風』から。君はバイト中。
尚也:(淡々と)モカブレンド,350円頂戴します。ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。
GM:君がそうやってあまり客の来ない店で働いているとだね。ドアベルがからんからん♪と音を立ててドアが開く。入ってきたのは白いワンピースに白い麦わら帽子の……。
綾:……男?
GM:何でだ!(一同笑)
綾:いや,だったら面白いなぁ,と思って。
晟:面白いのか? イタイだけって言わんか?
ユウキ:女でもその格好は結構イタイと思うが……。
尚也:失礼ですが,年の頃は?
GM:そうだなぁ,30ぐらいの……。
ユウキ:ふざけんな。
一同:(笑)
GM:うーん,でも若く見えるから……20代くらいかなぁ。
晟:20代でも白ワンピに麦わらはかなーりどうかと思うが?
遙:オバサンがピンクハウス,みたいな?
GM:(困って)あ,いや。でも何故かそれが似合ってしまう雰囲気なのですよ。少しほわほわした感じの黒髪美人で……。
晟:ああ,要するに磨亜矢ってこと?
GM:先に言うな。
一同:(笑)
晟:ちなみに,美人だろうと童顔だろうと磨亜矢だろうと,34歳で白いワンピースに麦わら帽子はいかがなものでしょう。皆さんどう思われます?(笑)
尚也:(淡々と)何であれ,お客様はお客様ですから。……いらっしゃいませ。ご注文はいかがいたしましょう。
GM/磨亜矢:「コーヒーをお願いいたします」
尚也:ブルマン,キリマン,モカ,ブレンド,他各種取り揃えておりますが?
GM/磨亜矢:「では,あなたのおすすめをお願いいたしますわ」
尚也:かしこまりました。では,当店オリジナルブレンドをホットでよろしいですね?
GM/磨亜矢:「ええ。それともうひとつお願いがあるのですけど……あなたが上杉尚也さんですよね?」
尚也:ええ,そうですが?
GM/磨亜矢:「(にっこり)実は,あなたに探していただきたいものがあるんです」
尚也:……私に,ですか?
GM/磨亜矢:「ええ。実は家出した夫を探していただきたいんです」
一同:(爆笑)
綾:家出!? また家出か!?
ユウキ:楓といいここといい,そんな夫ばっかりかよ!
GM/磨亜矢:「ちなみに,名前は……」
晟:もぉいい,言わんでいい! 聞きたくない!(笑)
遙:名前は真ちゃん2号です,終わり(笑)。
尚也:(淡々と)真ちゃん2号? そういうお名前なんですか?
GM:違います(笑)。まぁとりあえず話を進めると……。
ユウキ:(ふと)あ,いや,ちょっと待ってください。苗字がどっちになってるかは気になるかもしれない(笑)。
晟:あ,それは確かに……。
綾:で,どっちなの?
GM:水上真二です。
晟:へー。久島,婿養子なんだ。
GM:一応ね。
尚也:みなかみしんじ。それはどういう字を書くんですか?
晟:水に上で水上。真実の真に数字の二で真二。
尚也:ふむふむ(メモしている)。
晟:真実は二つ!と書いて真二と読みます。
GM:真実はいつも二つ!じゃないの?
遙:何はともあれ真ちゃん2号です(笑)。
尚也:はあ。
綾:まぁ所詮は久島ですから。
尚也:(←でも動じない)わかりました。しかし,何故私に?
GM/磨亜矢:「それは,彼がオーヴァードだからですわ」
尚也:ほう?
GM/磨亜矢:「先に申し上げておきますと,私もそうです」
尚也:なるほど。
GM/磨亜矢:「本当は本職の探偵さんに依頼しようかと思ったんですが,やはり同じオーヴァードのあなたの方が適任でしょう?」
尚也:それをご存知ならば,私が提示する報酬もご存知のことかと思いますが?
GM/磨亜矢:「ええ,存じ上げておりますわ」と磨亜矢は大き目の封筒をテーブルの上に置きます。
尚也:わかりました。では依頼達成の折に拝見させていただきましょう。ちなみに,ご夫君の写真か何かございますか?
GM/磨亜矢:「ええ,ここに」と彼女は1枚の写真を差し出す。
尚也:どんな人ですか?
GM:そこには……16歳くらいの少年の写真が……(笑)。
ユウキ:だから,アホかこの女わ!
一同:(爆笑)
ユウキ:てゆーか16歳久島の写真なんていちいち持ち歩いてんのかよ!?
GM:まぁ,磨亜矢だからねえ(笑)。
晟:(ぼそっと)いや,でも泪もいまだに楓ちゃん人形とか持ち歩いていそうだ……。
綾:夫も夫なら妻も妻か!
遙:ダーメだこりゃ(笑)。

 ほっつき歩いてばかりの夫だから,妻がモノにすがるという説もある。
 磨亜矢がどうかは知らんがね(笑)。

尚也:(静かに)失礼ですが,現在の写真はございますか?
GM:彼女は「あ,そうですわね」と34歳久島の写真を出してきます(笑)。
尚也:ちなみにどんな人ですか?
GM:いや,これといって特徴のない顔。あと白衣を着てますね。
尚也:ふむ……34歳時の写真があるということは,いなくなったのはつい最近ということですね。
GM/磨亜矢:「ええ,昨日です」
尚也:なるほど,昨日の……昨日?
ユウキ:待て待て! それは「家出」かよ!?(笑)
尚也:単に飲み屋でぶっ倒れているとかじゃないんですか!(笑)
GM/磨亜矢:「いえ,彼はそういうところはちゃんとしているんです」
尚也:そりゃ奥様の立場ならそうおっしゃるでしょうが……いや失礼。それで,昨日のいつ頃いなくなられたんですか?
GM/磨亜矢:「朝7時に出社して午前中は確かに会社にいたそうです。ところが昼休みに外出して,そのまま……」
尚也:なるほど。それとご主人のお勤め先は?
GM:「あそこですわ」と『北風』の窓から見える高いビルを指差す。ちなみに水上製薬とゆー会社。
綾:水上?(笑)
晟:そこってボスは誰なわけ。
GM:磨亜矢です。久島は研究員。
尚也:なるほど,マダムはあそこの社長でいらっしゃると。
遙:ま,マダム!?(笑)
綾:マッダーム?(笑)
ユウキ:久しく聞かない新鮮な響きだな。
尚也:(淡々と)まぁ普通は使わないからだろう。
晟:返す返すもいくつなんですか尚也さんは。
尚也:だから16ですってば。
晟:歳ごまかしてません?
尚也:(やはり淡々と)それはそうと,会社の方はご主人の外出先をご存知ないわけなんですね?
GM/磨亜矢:「ええ,皆さん主人が昼食を食べに出て行ったと思ったらしくて……」
尚也:でしょうね。わかりました。一応社内に入れるようにしておいていただけますか。
GM/磨亜矢:「ええ,受付に申し付けておきますわ」と,いうわけでシーンをきります。

 

SCENE 4


GM:さて,次はお父さん。やっぱり事務所でお仕事中なわけだけど。
綾:ところで,まだ組織名決まらないわけ。
ユウキ:やっぱり「真と愉快な仲間たち」とかになんのかなぁ。
晟:「大谷真とオーヴァード5」とかは?
GM:いや,とりあえずUGNデモンズシティ支部でいいですから(笑)。んであなたがいつものように仕事をしていると,内線がかかってきます。「ちわっす,栄吉っす!」
綾:あれ,栄吉くん? 久しぶりだね。
GM/栄吉:「あ,瀞南寺さん! 実は今地下の駐車場にいるんですけど,すぐ来て欲しいんです!」
綾:何かあったのかい?
GM/栄吉:「ええ,色々とオモシロイことが! ちょーっとボクの手には負えなさそうなんで!」
綾:はあ?
GM/栄吉:「今すぐ瀞南寺さんに来てほしいっス! すぐすぐ! はりあっぷはりあっぷ!」
綾:……まぁいいや。今行くよ。
GM:では駐車場に来てみると。
綾:ジャームの大群が?
GM:ないない。ただエレベーターのドアが開いた瞬間に,「瀞南寺さーん!」と栄吉っちゃんが飛びついてくる。
綾:は?
GM:そしてすかさず君を盾にして後ろに回りこみ,「後はよろしくお願いしまっす!」と言って,がー(←エレベーターのドアが閉まる擬音)。
一同:(笑)
綾:……ま,彼にとっては全てがスピード勝負なんだろうが……。
遙:で,結局なんなのです?
GM:うむ。駐車場には栄吉くんが乗ってきたらしきバンが一台停まっているのだが。
綾:はぁ。
GM:そこから,ただならぬ殺気が漂ってくる。
綾:……何か,イヤな予感が……。
GM:んで,ドアがバァんと蹴り開けられて。見てるだけなら眼福なアノ人が。
遙:だだんだんだだん♪(←いきなり『ターミ○ーター』のテーマ)
GM:え?
遙:いや,私的に彼女のテーマはこれです。
一同:怖ええっ!(爆笑)
晟:ぎゃはははは! 似合うっ! 似合いすぎっ!
GM:で,ではドアが蹴り開けられて! そこから黒いレザースーツに身を包んだ金髪の美女が!
遙:だだんだんだだん♪
GM:地面にずさあっと降りたつ!
遙:だだんだんだだん♪
GM/キルスティン:「……まぁ〜こぉ〜とぉ〜はぁ〜どぉ〜こぉ〜!?」
一同:(大爆笑)

 ちなみに遙プレイヤーに言わせると,泪のテーマは中島みゆきの「孤独の肖像」。
 大谷のテーマは爆風スランプの「45歳の地図」だそうな。
(ちなみにフルバージョンはこれ)
 どんな歌かご存知ですか? こんな歌です。

遙:私の青春を返せー♪ 輝くときめきを戻せー♪ 捧げて尽くした月日をさぁよーこせー♪
綾:ひ,ひでえ(笑)。
晟:てゆーかそのまんまや。
GM:ちなみにキルスはつかつかつかッと綾のところにやってきて,「あ,瀞南寺,ちょうどいいところにいたわね。アンタ真呼んできなさいよ」
綾:…………。
GM/キルスティン:「ほら今すぐ30秒以内に今すぐ今すぐはりあっぷはりあっぷはりあっぷ!!」
一同:(笑)
遙:てゆーか栄吉くん,綾さんに電話しないで直接所長を呼べばよかったのでわ?
ユウキ:いや,きっと大谷に逃げる時間を与えるためなんだよ(笑)。
綾:じゃ俺がオトリですかい。……えー,まぁ落ち着いてキルスさん。大谷所長はですね。
GM/キルスティン:「あによ!?」
綾:たぶん,この光景をモニターで見ていると思うので,すでに逃げ出した頃だと思いますよ?(笑)
GM/キルスティン:「まぁ〜こぉ〜とぉ〜!!」(怒)
綾:(そっけなく)で,何か用ですか。
GM/キルスティン:「仕方ないわねっ。じゃあアンタこれ真に渡しといて」と黒いアタッシュケースを押し付けてきます。
綾:何ですか,これ?
GM/キルスティン:「頼まれてたものよ。すンげえ苦労してやったんだから,そう伝えといて」
綾:はあ。
GM:そしてキルスは暴れ尽くして気がすんだのか,栄吉くんの車に乗って去っていきます(笑)。
綾:…………。まったくあの人は……。
GM:というわけで嵐は去り,そこで駐車場の内線が鳴ります。(囁くような声で)「き,キルス帰った?」(笑)
綾:はい,とりあえず嵐は去ったようです。所長に何か持ってきてくれたようですけど?
GM/大谷:「わかった。悪いけど俺のところまで持ってきてくれるか?」
綾:わかりました。
晟:(ふと)あれ? 大谷,一人称が「俺」に戻ってるよ?
GM:恐怖のあまり素が出たのだ。
綾:恐怖のあまりってアナタ。
GM:何せあなたが部屋に入ってくると,部屋の隅っこで膝抱えてがたがた震える大谷の幻影が。
一同:(爆笑)
綾:お,おや?(笑)
GM:実際には大谷はデスクで仕事をしています(笑)。「ああ,すまない。本当は栄吉に頼んだんだが,やはり無理だったみたいだな」
綾:そのようですね。ちなみにこれ,何ですか?
GM/大谷:「ああ,『彼』の力に関わることでね。データを取り寄せてもらったんだ」
綾:彼,って,ユウキくんですか?
GM/大谷:「そうだ。魔街の外にも気になる動きがあってね,キルスに頼まざるを得なかったんだ」
綾:ふうん……。
GM:彼がアタッシュケースを開くと,そこには

「真のバカ」

と大書された紙が入っていました。
綾:…………。
GM/大谷:「…………」
綾:…………。
GM/大谷:「……まぁこれはおいといて」(と,丸めて捨てる)
綾:…………。で,それだけ?
GM:いえ,その下にはもう一回り小さいサイズのアタッシュケースが入っています。
遙:で,それを開けるともう一回り小さいサイズのアタッシュケースが?
一同:(爆笑)
綾:マトリョーシカか!?(笑)
遙:それを開けると,またその中に一回り小さいサイズのアタッシュケースが。
晟:開けて,開けて,開けて,開けて,開けて,開けて,
GM:最後にはこーんな小さなマイクロチップが1枚,って何でやねん!
綾:やるなキルス(笑)。
晟:ステキよキルスさん(笑)。
GM:そういう幻影が見えるかもしれませんが,現実は違います(笑)。その中には分厚い書類や封筒の束が入っていますね。大谷はそれをぱらぱら見ながら,「瀞南寺くん,また仕事を頼まれてくれないか?」と言います。
綾:構いませんが,今度は何ですか? その資料に関係があるんですか?
GM/大谷:「そうだな。実は,また市外に出てほしい」
綾:市外? ユウキくんが関係あるんですね?
GM/大谷:「そうかもしれない,とだけ言っておこう」
綾:じゃあユウキくんにも声かけた方がいいんですか?
GM/大谷:「ああ,そうだ。例の山崎とかいう情報屋にはこちらから話しておくから,君は上杉くんとあの子らを頼む」
綾:またこないだと同じ面子ですか?
GM/大谷:「その方が君も色々と楽なんじゃないか?」
綾:お子様ーズに関してはどうか知りませんけど。
GM/大谷:「それもまた経験」
綾:わかりましたよ。で?
GM/大谷:「千葉が言った言葉を覚えているか? 『黒衣の男』とかいう……」
綾:どういう意味かはわかりませんけどね。
GM/大谷:「実は,こちらの情報網にそれらしい男がひっかかってきたんだ。ほら,ファルスハーツが市外を私服で出歩いてるって情報があっただろう? 目撃情報では,彼らは黒い服を着た男と何らかの取引をしているらしいんだ。その男と千葉の言う『黒衣の男』は同一人物である可能性がある」
綾:……ファルスハーツ?
GM/大谷:「それで,その取引現場もいくつか押さえたから……」
晟:(手を上げる)はい。お話中ちょっとすみませんが。
GM:はい?
晟:それってファルスハーツ? ストレンジャーズじゃなくて?
GM:……あ! すみません,ストレンジャーズの間違いです。どっちも悪者というイメージがあったから,つい(笑)。
綾:俺も「私服で出歩くファルスハーツ」って何なのかなって(笑)。
晟:ファルスハーツに制服あったら怖いやん。「私悪者です」と宣伝して歩く秘密結社!(笑)
遙:きっと黒いんだろうなぁ……。
ユウキ:それじゃショッカーだろ。
GM:黒いタイツに黒いマスクで,顔に白い文字で悪者の「わ」が書いてあるとか?
綾:いや,「FH」だよ絶対(笑)。
晟:イーッ!(笑)
遙:イーッ!(笑)
尚也:(ぼそっと)というか「福岡ダイエーホークス」じゃないですか。
一同:(爆笑)
GM:しまった,関係ないところで盛り上がってしまった(笑)。とりあえず話を元に戻して,大谷は1枚の地図を出してくる。市外の,今は廃墟になっている元ビル街の地図だ。その地図にはいくつか小さい丸印がつけてある。
綾:これがその「取引現場」とやらの目撃地点?
GM/大谷:「そうだ。で,今までの情報を解析すると,今度はこのあたりで(と赤で丸を書く)3日以内に取引が行われるのではないかと予測される。君たちにはそれを張って欲しいんだが……」
綾:ちょっと待って。「張る」ということなら,大人数はかえってよくないんじゃないですか?
GM/大谷:「というか……できれば『見張る』だけではなく,身柄を拘束してほしいなあ,と……」
綾:……捕まえろ,と? いきなり?
GM/大谷:「うーん……」(笑)
綾:できればもうちょっとその「黒衣の男」について情報が欲しいところですけどね。
GM/大谷:「そう言われても,こちらもその男が何者か,はっきりとはわかっていないんだ」
綾:(←呆れている)それを,「襲え」と?
GM:うん。
綾:……UGNもずいぶん進歩的になってきたもんですね。
ユウキ:デモンズシティで今さら人権もへったくれもねえってこと?
晟:大谷のやるコトとも思えませんが……。
GM:彼も色々とオトナになってますから。
遙:ああ,そうやって人間汚れていくのですね。
一同:(笑)
綾:ったく,給料高くなきゃやってらんねえよ(笑)。
尚也:高いんですか,給料。
綾:フツーの会社員よりはね。
GM:高いよ。だって大谷の1.5倍出てるもの。
綾:0に1.5をかけても0だという説もあるけどね?
ユウキ:0に何をかけてもそりゃ確かに0だが。ってか,大谷の給料0かよ!?(笑)
晟:マイナスになってなきゃいいけど……。
ユウキ:ひでえ。
綾:マイナスに1.5かけたらマイナス? かんべんしてくださいよ。
GM:いくらなんでもそんなことは……いや,多分……。
一同:多分?(笑)
GM:では,そんなところでシーンを切らせてきただきます(笑)。

 

SCENE 5


GM:はい,では最後のオープニングはお子様ーズ。
晟:僕らまたセットですか?
GM:だってべったりくっついて離れようとしないんでしょ?
晟:(嬉しそうに)そりゃあもう!
遙:ほえ?
綾:…………。
ユウキ:このバカップルが……。
GM:さて,今は授業中。ということは,そこもいるのかな?
尚也:そうですね。でもとりあえずは登場せずに風景の一部と化しています。
GM:そこで遙の携帯がぴろろろろ……♪と鳴り出します。
遙:(のんびりと)はぁい,もしもし〜?
尚也:授業中だと言うておろうに。
遙:あ,あれ? そうでしたっけ?
GM:ついさっきそう言ったよ(笑)。
遙:では電話には出ないです〜。授業が終わるまで待ちます〜。
尚也:(淡々と)sinθにsinθ,cosθにcosθをかけて,
GM:電話はいったん切れるけど,またすぐにぴろろろろ♪と鳴り出すね。
遙:(困って)ほ,ほえ〜? 授業いつ終わるですか?
尚也:(淡々と)sinの二乗プラスcosの二乗は,1です。
GM:あと30分くらいあるよ。
遙:ほ,ほえ〜?
GM:(意地悪く)ぴろろろ,ぴろろろろろ♪
尚也:(淡々と)これを加法定理といいます。
GM:んで,とうとう先生が怒鳴る。「誰だ,携帯鳴らしてんのは!?」
遙:(手を挙げて)はーい。
一同:(爆笑)
晟:遙ちゃんッ!(泣)
ユウキ:こいついいかげん15歳じゃねえ!(笑)
GM/先生:「廊下に立っとれ!」(笑)
遙:はーい。ちょうどいいやぁ。
晟:ちょうどいいや,じゃなくてっ。(がたっと席をたつ)先生,僕用事ができました!
GM/先生:「はあ?」
尚也:(手を挙げて)先生。
GM/先生:「こ,今度は何だっ!?」
尚也:三角形PEAの答えは,cos1/2です。
一同:(笑)
綾:今まで問題解いとったんかい。
尚也:(←まったく動じない)席に戻ってよろしいでしょうか?
晟:ではその隙に遙ちゃんの手を引っ張って外に出ます。
遙:ほえ?
晟:ほえ,じゃないの。授業中は携帯切っとけっていつも言ってるでしょ!?
遙:えーと,でもこんな時間にかけてくる人はいないから……。
晟:いったい誰からなの?
遙:えーとね……。
GM/先生:(がらっと戸を開ける)「こらおまえら! 廊下で騒ぐな! 全部教室に聞こえとるぞ!」
遙:あ,それじゃ聞こえないとこに行こー。
一同:(爆笑)
ユウキ:だからどこの小学生だおまえは!?
遙:と,ゆーわけだからあきちゃん,屋上に行こう?
晟:…………(眉間にシワ)。
GM:先生が後ろから「こらおまえら,ちゃんと戻って来いよ!」と怒鳴ってますが(笑)。
遙:(構わず)で,いったい誰からなんですか?
GM:着信記録を見るとだね,栄吉くんだね。
晟:だ〜て〜さ〜ん〜?(怒)
遙:(首をかしげ)そろそろかかってこないかなぁ?
晟:(携帯を取り上げる)リダイアルしますよ。
遙:あ〜,こっちからかけるとお金かかっちゃうのです〜。
晟:……ヘンなところセコいね君わ。
GM:そうすると栄吉くんが息せききって,「あ,遙ちゃん? やっと出てくれ……」
晟:(怒鳴る)遙ちゃん,じゃありません!
GM/栄吉:「あ,あれ?」
晟:(すごい早口で)あれじゃないですよいったい何時だと思ってるんですか普通は授業中なんですよそれを何度も何度も何度もまったくぅぷちっ!
一同:(爆笑)
遙:あ,あれっ?(笑)
綾:しかも切った(笑)。
ユウキ:文句だけ言って切りやがった(笑)。
GM:じゃあ,もう一度ぴろろろろろ……♪と電話がかかってきます。
遙:はい?
GM/栄吉:「ひどいよ,今の晟くんだろ!」
遙:はい,そうなのです。
GM/栄吉:「何てことするんだよっ。もー後で覚えてろって言っといて!」
遙:(晟に)だ,そうなのですが?
晟:(携帯を奪い取る)なぁにが後で覚えてろ,ですか! そっちこそ社会常識ってものはないんですか? あなた一体いくつですか!
GM/栄吉:「えーと34歳」(一同笑)
晟:それが34歳のすることですか。
GM/栄吉:「だってエマージェンシーなんだもん,出てくれないと困るじゃないか」
晟:そうなんですか?
GM/栄吉:「うん」
晟:……そのワリには落ち着いてますね。
GM/栄吉:「うん,だってもう過ぎ去っちゃったから」
晟:…………。
遙:(首をかしげる)
GM/栄吉:「あれ? どったの?」
綾:あのね栄吉くん。過ぎ去ったんなら,電話かける理由は?(笑)
GM/栄吉:「……は! かけているうちに意地になってしまった!」
一同:(笑)
晟:…………。
GM/栄吉:「あ,でも別件もあるんだよ?」
晟:……なんです?(怒)
GM/栄吉:「実はね,所長から指令なんだ。また市外に行って欲しいんだってさ」
晟:またですか?
遙:(横から)えっ,また市外に行けるですか!
晟:遙ちゃん,嬉しそうな顔しないのっ。それで? 市外で何をするんですか?
GM/栄吉:「うん,何でもね,千葉によく似た『黒衣の男』を……」
晟:ぷちっ。
一同:(爆笑)
GM:……ぴろろろろ! ぴろろろろ!
遙:はい,もしもし〜?
GM/栄吉:「ひどいよ晟くん! 何ですぐ切っちゃうのさ!」
遙:(首をかしげ)あきちゃん,授業に戻っちゃいました。ちなみに私は授業中に何度も電話が鳴るので,廊下に立たされちゃいました。
GM/栄吉:「あ,そうなの?」
遙:てへっ。
晟:(←ひき返してくる)いや「てへ」じゃないから!
遙:それで伊達さん,何のご用ですか?
GM/栄吉:「うん,晟くんと遙ちゃんに市外に行ってほしいんだ。黒い服を着た男を捕まえて欲しいんだってさ」
遙:わかりました! がんばりますです!
GM/栄吉:「じゃあそういうことで,晟くんにも伝えておいてね」
遙:はーい。(晟に)そういうわけなのですあきちゃん。
晟:……何がそういうわけなのかな?
遙:また市外でお仕事なのです!
晟:あーそうだね。嬉しそうだね。
遙:はいです! というわけでなおちゃんのところに行きましょう。
尚也:はい?
晟:何で尚也さん?
遙:お仕事ですから〜。というわけでもうそろそろ授業終わってますよね? 教室に戻ってきて,なおちゃんを呼びます。なおちゃーん。
尚也:(←結局登場することにしたらしい)はい,これ。
晟:何ですか,これ。
尚也:数学のプリント。明日までに提出するように,とのことです。
遙:はい,ありがとです。それはそうとなおちゃん。お仕事なのです。
尚也:誰が?
遙:私たち,また市外に行くです。
尚也:そう。がんばってね。
晟:「がんばってね」って……。
尚也:何か?
晟:……あれ? 遙ちゃん,そもそも伊達さんに,尚也さんにも声かけるようにって言われたの?
遙:(ふるふる)ううん。
綾:ただの独断と偏見だ(笑)。
晟:(眉間にシワ)
遙:どうしたのあきちゃん?
晟:……すいません尚也さん,聞かなかったことにしてください。
尚也:はあ。
遙:でもでも,また市外に行くっていうから,なおちゃんも一緒の方がいいかなー,って。
晟:あのね,尚也さんにも都合というものがあるんだから。
遙:えー? (尚也に)なおちゃん,どうします?
尚也:どうしますかと言われても,私は何をどうしたらいいんだ?
一同:(爆笑)
ユウキ:は,話が通じてねー!
晟:なんかもー文脈というものがないなァ。
綾:問題文とばして答えしかないような感じ?
GM:さぁ答えてください。イエスかノーか(笑)。
尚也:真面目な話どうしろというのだ。
晟:いや,つまりですね尚也さん。今回僕らはまた所長の指令を受けて市外で仕事をすることになりました。人を探しに,というか確保しに行くそうです。
尚也:ふむ。
晟:そしたらそれを聞いた遙ちゃんが,天使のような広ーい心で,あなたを誘ってあげた方がいいのかなー,と判断したらしいですね。
綾:おい,また独断と偏見による脚色が入ってるぞ(笑)。
晟:(無視)だいたいわかりました?
尚也:なるほど。その申し出はありがたいのだが,私はすでに他の仕事を受けているので……。
晟:あ,そうですか。ならいいです。
一同:早っ!?(笑)
ユウキ:こいつら,根本的に何かが間違ってやがる。
綾:それを言わんでくれよ。お守を引き受けた俺の立場がないじゃないか(笑)。
GM:まぁそういうことなんで,ここいらでシーンを切らせていただこうと思います(笑)。
尚也:私は何のために登場させられたのだろうか……。