男は黒いコートの襟を立てながら,ガラス張りの壁面から滑走路を見下ろしていた。
「こちらミスター・ライト。出国を確認。これから戻るよ」
携帯電話を肩と顎の間に挟み,そっと顔の角度を変える。窓に,背後にたたずむ人影が映る。
彼は声をたてずに笑った。
「……え? いや,何でもない。……心配ないさ。せいぜい派手に暴れてくれた方がこちらとしても都合がいい。国防総省の興味も,とうぶんあちらに向いているだろうよ。…ああ。また連絡すると言ってくれ」
電話を切り,青空に白い筋を引くジャンボジェットを見つめた。
「いい旅をな,ユージン・エヴァレット」
指を2本揃え,気障ったらしく惜別の挨拶を送ると,彼はいきなり振り返った。
反射的に立ち止まり,その場で硬直した人影……紺と砂色と灰色の,目立たないスーツ姿。揃って腕にかけた鳩麦色のトレンチコート。
楽しくなってきた。
内心で呟くと,彼はゆっくりと歩き始めた。
“Fever Dream”...end. And next, ...
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