SCENE 16


GM:ではシーン・プレイヤーは鷹村。
鷹村:結局千葉に接触しに行くんだろ?
真:そう,おまえが交渉。……しゃべれるか?
一同:(笑)
鷹村:うーん……(笑)。
紫音:俺はフォローしないからね。あの女は苦手(笑)。
鷹村:俺だって苦手だよ。接点ないし。
真:あ,接点あるんじゃないか? だって鷹村,あのスライムもどきを見てるだろ? しかも千葉桂子はそれを回収してるんだから,その辺からつっこんじゃっていいんじゃないか?
鷹村:直に訊いちゃっていいのかなあ。
真:もうここまできたら強引にいくしかないだろ。
紫音:でないとあの女,マジでガードが固すぎる(笑)。
GM:ところで楓は戻ってきた方がいい?
紫音:うん,いた方がいい。
GM:では,楓は戻ってきて「薬はUGNに届けてきた」と言う。
鷹村:楓,性格違うなあ……。
真:はいはいはい。確かに性格違うよ。それはいいから,おまえは仕事しろ。
鷹村:いやあ……。
真:「いやあ」とか言うな! しゃべれ! 動け!
鷹村:うーん。では,まずノックします。
GM/桂子:「はい?」
鷹村:すみません。少々お話があるのですが,入ってよろしいですか?
GM/桂子:「……どうぞ」というところで,他に登場しているのは久遠紫音と大谷,それに楓だよね?
紫音:とりあえず外に待機して耳ダンボ状態。
GM:了解しました。では,鷹村さん,どうぞ。
鷹村:ども,失礼しまーす……。
GM/桂子:「あら? えーと,あなたは……」
鷹村:2年C組の鷹村です。ちょっとお話がありまして。
GM/桂子:「話? 言っておくけど,人生相談ならのれないわよ」
紫音:あ,先にクギ刺されてるし。
鷹村:いや,人生相談とかじゃないんですけど。
GM/桂子:「だったら何の用? 忙しいの。手短にお願いするわ」
鷹村:えーと……。
紫音:そしたら次は恋愛相談!
GM:おい!
村瀬:先生,好きです!
GM:こら,そこも!
紫音:年上の方が好きなんです!
鷹村:……えー……。
紫音:見かけが若けりゃオッケーです!
一同:(爆笑)
真:正気に返れアンタら!
GM:鷹村がしゃべれないだろ!
鷹村:えーと……先生,その試験管の中身,なんですか?
GM/桂子:「何でそんなことを?」
鷹村:それ,あのスライムですよね。それが溶けるところも,見てましたよね。
GM/桂子:「ああ,アレね」と問題の試験管を振ってみせる。「これがどうかしたの?」
鷹村:何のためにそれを採集したんですか?
GM/桂子:「私は大学でレネゲイド・ウィルスの研究をしているの。そのための症例集めといったところね」
鷹村:でも,そのために人が死んでますよね。
GM/桂子:「だから? 私に何か訊きたいことがあるの?」
鷹村:実はレネゲイド・ウィルス……いえ,“フィーヴァー・ドリーム”によって,色々と問題が起こっています。
GM/桂子:「…………。それで?」
鷹村:端的に言うと,“フィーヴァー・ドリーム”についてあなたが知っていることを教えて欲しいんです。
GM/桂子:「……何故あなたはその話を?」
鷹村:俺がUGNの一員だからです。
GM/桂子:「それじゃレネゲイド・ウィルスについての知識はあるのね?」
鷹村:ある程度なら。
GM/桂子:「そう,それで? “フィーヴァー・ドリーム”の何が訊きたいの?」
鷹村:まずは,感染した人間を救う方法です。今,俺たちの仲間が“フィーヴァー・ドリーム”に感染して昏睡状態にあるんです。
GM/桂子:「そう。……少し長い話になるわよ」
鷹村:話していただけるんですか?
GM/桂子:「……結論から言うと,感染した人間を救う方法は,ないわ」
鷹村:ない?
GM/桂子:「ない,と言うか,レネゲイド・ウィルスに感染した人間を救う方法が見つかっていないのと同じでね。RNAを遺伝子の基礎とするものは,突然変異を起こしやすいの。例えば,ある抗体が作られてしまったら,それに見つからないように他の細胞に擬態するとかね。特に,レネゲイド・ウィルスにはその傾向が顕著で,特効薬が作れない」
鷹村:…………。
GM/桂子:「ともかく,そういうことよ。ある個別の症例にたいして対処療法をとるのが精一杯。一度感染してしまったら,ジャーム化しないように騙し騙しやっていくしかないの」
鷹村:それは仕方がないことです。俺らもいつもやっていることですから。でも,昏睡状態というのは……。
GM/桂子:「実際に診てみないとわからないけど,身体が侵蝕を防ごうと防御措置をとっているのではないかしら。“フィーヴァー・ドリーム”の症状は人によって千差万別だけど,ひとつだけ共通点があるの。それはウィルスの活性化が通常のレネゲイド・ウィルスに比べて速いことよ。だいたい,1.5倍から2倍というところかしらね」
鷹村:それじゃ,昏睡状態から脱する方法はないんですか?
GM/桂子:「症状を詳しく調べて,抗ウィルス剤を定期的に投与すること。それで,回復するという保証はないけれどね」
鷹村:……わかりました。あともうひとつ。こないだのスライムみたいなのも,“フィーヴァー・ドリーム”に感染していたそうです。
GM/桂子:「ええ,そうね。そうみたいね」
鷹村:あのウィルスが,この学校中に広まるということは,あり得るんですか。
GM/桂子:「ゼロとは言えないけど,ほぼあり得ないわ。“フィーヴァー・ドリーム”の発症率は非常に低いの。いえ……言い方が悪いわね。レネゲイド・ウィルスがさらに突然変異を起こしたのが“フィーヴァー・ドリーム”。確かに『起こりやすい』とはいったけど,あそこまで激烈な変異体はそうそう現れたりはしない。実際,レネゲイド・ウィルスが自然に変異した例は,厳密に言えば1人しかいないの」
鷹村:どういうことですか?
GM/桂子:「多分,今までに発見された発症例は,すべてその人物の“フィーヴァー・ドリーム”を直接体内に投与された例なのよ。……もっとも,あなたがたの仲間だという人に関しては,データがないけれどね……」
鷹村:その他のデータを,あなたが全て持っているということなんですか?
GM:桂子さんはそこで少し黙る。さて,扉の外なのだが。
真&紫音:はい?
GM:楓が唇を噛み,いきなり扉を開こうと……止める?
紫音:いや,止めない。
真:同じく。
GM:では,楓はそこですぱあん!と扉を開いて,「それじゃあ,貴様は何故そんなものを俺に投与したんだ!?」と怒鳴ります。
鷹村:…………。あんたが,こいつに“フィーヴァー・ドリーム”を注射したのか?
GM/桂子:「……私は科学者だわ」
真:え?
GM/桂子:「最高のケースで実験をしてみたいと思うのは,当然ではなくて?」
一同:うぁッ。
紫音:……アンタ,なかなかイイ女だよな。つきあうのはまっぴらごめんだが。
GM/桂子:「私もあなたとつきあう気はないから結構なことね。それより何? こんなオバサンでも守備範囲外と見なしてもらえるとは思ってなかったわね」
紫音:いや,だってアンタ外見若いから。
鷹村:何で歳とってないんだ?
GM/桂子:「歳は普通にとってるわよ。私は45になるわ。それが何か?」
紫音:だから,何で外見若いの?
GM:半ば体質と,女は化粧である程度化けます。
真:……それだけ!?
GM:それだけだよ。いやあ,単なるミスディレクションとして出したんだが,そんな深刻に考えてもらえるとは思わなかった(笑)。
村瀬:なんだ。絶対妖怪の一種だと思ったのに。
一同:(笑)
真:はいはいはい! それはともかく,楓の気持ちも少しは考えてやるべきだと思うんだよな俺は。
GM:うーん。楓は怒りに震えてるんだが,いつものように直接暴力にも訴えられない心境だわな。まあ,誰か抑えてやってくれ(笑)。
紫音:ま,そんなにカッカすんなよ。ああいう女にはな,怒って疲れるだけ損だぜ。
GM/楓:「…………」
紫音:それより,確かめておきたいことがあったんだ。
GM/楓:「……確かめたいこと?」
紫音:はい。と,言いつつワーディングかけます。
GM:うむ。そうすると,おっかさんは倒れてしまうな。
村瀬:あ,なんだ。普通の人間か。
紫音:そんな気はしてたけどね。(楓に)ほら,あんたが殴ると,単に殺しちゃうだけだと思うけど。
GM:楓は倒れた桂子さんを見下ろして,困惑の表情である。
キルスティン:(いきなり)あーっ,この場にいたかったぁ!
真:黙れ! おまえは単に楓いぢめをしたいだけだろが!
紫音:とにかく,今のうちにデータ収集データ収集〜♪
GM/楓:「何をしている」
紫音:今のうち,研究データは全部いただいとこうと思ってさ。
GM/楓:「ここに全てがあるとは,限らないと思うが……」
紫音:そんなこたあ先刻承知さあ。もらうだけもらって,後はこの人拉致らせてもらうしかないね。あんたには悪いけど。
GM/楓:「好きにすればいい。俺には関係ない」
紫音:別に手荒な真似はしないって。美人だしさあ。
GM/楓:「俺には関係ないと言っているだろう!」
真:落ち着け楓。……なあ,すまんが,少し席を外してくれないか。
GM/楓:「……ああ。そうさせてもらう」と,楓くん退場。
紫音:さて,楓が退場したらおっ母さんをふんじばろうかね。
一同:(笑)
GM:いや,何も縛らなくても……普通の人なんだし。
紫音:だってその方が楽しいし!
真:こらこらこらこら!
紫音:それはまあ,冗談として,ちゃんと縛り終わったらワーディングといて目を覚まさせます。
GM/桂子:「…………」
紫音:さあて,洗いざらいしゃべってもらおうか?
一同:(爆笑)
村瀬:どっちが悪役だ!
真:しかも何となくヤらしいし!
GM:だいたい,しゃべれってこれ以上何をしゃべらせようってのさ? この人,めっちゃ素直に色々教えてくれてると思うんだけど?
紫音:ちっ。
GM:何が「ちっ」なの? ねえ何が!?
真:まあまあ。とにかく,話を進めましょう。千葉桂子は気がついたんですね?
GM/桂子:「……あなたたち,これは犯罪よ」
紫音:アンタのやったことは犯罪じゃないってのかい?
GM:犯罪じゃないんじゃないか?
紫音:え? そうなの?
GM:多分……はっきりこの人が手下したのって,楓に“フィーヴァー・ドリーム”を注射したことぐらいだし,それも今の法律に照らし合わせて罪になるかっつーと,微妙なとこだな。
真:薬事法は?
GM:そもそもレネゲイド・ウィルスって薬事法にひっかかるのか?
キルスティン:あームカつくぅ!
真:はいはいはい。そうですね,俺たちのやってることが犯罪だってのは認めます。だが,それを裁く人間もこの場にはいません。
GM/桂子:「私をどうしようっていうの?」
真:我々は“フィーヴァー・ドリーム”の専門家が欲しいんです。つまり,あなたが。
GM/桂子:「…………」
真:だが,その前に訊きたいことがあります。“スリーパー”をご存知ですよね? 13年前,あなたと神楽が日本に亡命させたオーヴァードです。
GM/桂子:「ユージンのことね? 彼が何だっていうの?」
真:彼の所在をご存知ですか?
GM/桂子:「知らないわ」
真:本当ですか?
GM/桂子:「本当よ。神楽さんなら知っているかもしれないけど」
真:では,“スリーパー”についてあなたが知っていることを話してくれませんか?
GM:「……そこのファイルを開けてちょうだい。写真が入っているでしょ」
紫音:ほいほい。これかい?
GM:写っているのは優しげだが弱々しい白人の少年です。キルスティンにも似ているが,やっぱりアンナさんとは明らかに肉親と思わせる。「彼の名はユージン・エヴァレット。あまりにも特殊な能力の持ち主だったため,彼が持つレネゲイド・ウィルスは“フィーヴァー・ドリーム”と名づけられた」
真:どう特殊だったんですか?
GM/桂子:「他者に擬態して,その能力を使うの。それも意図的にではなく,ほぼ無意識に」
一同:…………。
真:それって……。
紫音:ひょっとして,久島で,楓で,今キルスになってる……。
村瀬:(小声で)今は私でーす。
一同:(爆笑)
GM:(笑いつつ)それは次のシーンでやってくれ。それで?
真:はっきりとはわかりませんが,“スリーパー”は今,俺らの仲間んとこにいるような気がします。
GM/桂子:「それで?」
真:科学者として,興味はありませんか?
GM/桂子:「私は科学者だけど,ただの人間でもあるわね」
真:それで?
GM/桂子:「私の危険は,考慮してくれないわけ? いえ,そんなことより,結局あなたがたは私に何をさせたいの?」
真:ギブ・アンド・テイクですよ。あなたは,“スリーパー”の研究をしたいでしょう?
GM/桂子:「別に」
真:(GMに)……そうなの?
GM:そうだと思うよ。“スリーパー”の研究を取引材料にするのはどうかなあ。この人,もう自分独自のペースで研究進めてるわけだし。いや,というか,無理にギブ・アンド・テイクで取引を申し出る必要は特にないんじゃないか?
紫音:俺ら,この人拉致っちゃってるしねえ。
真:まだ拉致ってないぃ!
鷹村:でも脅迫はしてると思うけど。
真:…………。
GM:君はN◎VAのやりすぎなんだよ(笑)。まあ,このシーン長くなったし,ちゃっちゃと進めよう。そこで,こんこんというノックの音が。
一同:…………(思わず黙る)。
GM:「すいませーん,千葉先生ー! いらっしゃいませんかー?」
紫音:……誰?
GM:学校の先生A。「すみませーん! 千葉先生! ……おかしいわねえ。確か,こちらにいらしたはずなんだけど」
紫音:桂子さんの口ふさぎます。
真&鷹村:…………。
GM/先生A:「千葉先生! ……すみません。千葉先生,こちらにはいらっしゃらないみたいです」
一同:…………。
GM:すると,「いや,構いません。また寄らせていただきますよ」という男の声が。大谷には聞き覚えがある。
キルスティン:……神楽ぁ!
GM:その通りだ(笑)。
真:立ちあがって……。
紫音:やめろ。今ここで騒ぎ起こすのはマズイだろ。
真:…………。
紫音:二兎を追うもの一兎をも得ずだ。俺らにとっちゃ,この女の方が大事だよ。
真:すまん。……その通りだ。(桂子へ)彼は何の用で?
GM/桂子:「知らないわ。しばらく,連絡もとってなかったし」
紫音:てゆーか,アンタは神楽とグルじゃないわけ。
GM/桂子:「何をもってグルというかは知らないけど。たぶん,仲間とは言えないんじゃないかしら? 敵でもないけど。どっちかと言えば互いに無関心な知人といったところね」
紫音:まあいいか。とりあえず今は信じましょ。
GM:では,そんなところで村瀬さんへシーン戻そうかね。それまでに頭の中整理しといて。私は大分ごちゃごちゃしてきたわ(笑)。

 

SCENE 17


GM:では,シーンプレイヤーはキルスです。で,村瀬なんだけど。
村瀬:ここはどこ? 私は誰?
GM:ですねえ。では,キルスさん目を覚ましてください。
キルスティン:う……一体何が……。
GM/アンナ:「き,キルスちゃん,大丈夫なの?」とアンナさんは床にしりもちをついて呆然としている。
キルスティン:ママ? ママこそ,大丈夫なの!?
GM/アンナ:「キルスちゃん,記憶が戻ったの?」
キルスティン:え? 記憶って?
GM/アンナ:「あなた,ついさっきまで記憶喪失だったのよ」そう言われてあらためて見てみると,制服がボロボロ。屋上にいたはずなのに何故か自宅のダイニングで,傍らには村瀬が倒れてるね。
キルスティン:これ,楓と似たようなことが起きたなー,というのは,わかっていいですよね。
GM:そうですね(笑)。
キルスティン:ちっ,今度はあたしか。
村瀬:で,私は誰なんですか?
一同:(爆笑)
キルスティン:な,直矢兄ちゃんッ!?
GM/アンナ:「まああ,直ちゃんまで,一体どうしちゃったの?」
村瀬:(淡々と)それが,何も覚えてないんです。
真:そのワリには落ち着いとんな。
村瀬:でも,あなたにキスしてもらえば治るかもしれません。
真:キサマ,久島が憑依しとらんかっ!?(笑)
キルスティン:とにかくね直矢兄ちゃん。あなたの名前は村瀬直矢。ウチの学校の保険医よ。あたしはキルスティンといって,つまりあなたの妹みたいなものね。こっちはあたしのお母さんよ。
村瀬:うん。わかった。
キルスティン:とにかく,大丈夫だからね。落ち着いてね直矢兄ちゃん。
村瀬:いや,落ち着いてるよ。
キルスティン:(聞いてない)今,あたしの仲間に連絡とるから。えーと,どっちに連絡しようかな。やっぱり大谷にしよう。信用できるから。こっち嫌い。
紫音:……おう(怒)。
キルスティン:(せかせか)あ,もしもし,真?
真:……相変わらずファーストネームだな,おまえって。
キルスティン:そんなことはどうでもいいのよ!
真:その様子だと,記憶は戻ったみたいだな?
キルスティン:そうなのよ。でもね,今度は直矢兄ちゃんが記憶喪失なの!
真:……ああ,やっぱりな。
キルスティン:何ヘーゼンとしてんのよぉ!
真:いいから落ち着け。村瀬さんは大人しくしてんだろ? それより,アンナさんは無事か?
キルスティン:無事よ。無事だけど,何で?
真:ちょっとかわってくれ。
GM/アンナ:「はい。大谷さん?」
真:何度も煩わせてすみません。神楽宗時という男をご存知ですね?
GM/アンナ:「ええ。神楽さんが何か?」
真:最近,神楽とお会いになりましたか?
GM/アンナ:「いえ……でも,さっき電話があって,会いたいと……」
真:それは行かない方がいい。
GM/アンナ:「何故です?」
真:あなたはご存知ないかもしれないが,彼はあなたの娘さんを含め,我々に敵対している人間です。
GM/アンナ:「そんな,神楽さんが……」
真:とにかく,危険です。神楽には会わない方がいい。
GM/アンナ:「でも,私さっきお会いしますと約束して……」
キルスティン:ダメよママ! そんなの絶対ダメ!
GM/アンナ:「で,でも……ユージンの居場所がわかったって……会わせてくれるって……」
キルスティン:ユージンって誰?
GM/アンナ:「ママの弟。あなたの叔父さんよ。ずっと行方不明になってたの」
真:アンナさん? 神楽に会っても弟さんには会えませんよ。
GM/アンナ:「どういうことです?」
真:彼は,今あなたの目の前にいるんです。
キルスティン:どういうことよ?
真:コードネーム“スリーパー”,つまりユージン・エヴァレットは,周囲の人間に擬態するんだそうです。まだ詳しいメカニズムは不明ですが,久島に始まって,楓,キルスティンの記憶喪失は,実は“スリーパー”の擬態した姿である可能性が非常に高い。しかも彼らは全員,金髪の少女を探そうとしている。これはあなたのことではないかと思います。
GM/アンナ:「…………」
真:つまり,“スリーパー”はあなたを求めているんです。神楽はそれを知っていて,あなたをエサにしたいんじゃないかと思いますがね。
キルスティン:エサって,ホントなの!?
真:ああ,たぶんな。キルス,俺らは今からそっちへ向かう。それまで大人しくしておいてくれ。(他のPCへ)いいですよね?
他の皆さん:はーい。
真:アンナさん。今は納得できないかもしれませんが,ここは言う通りにしてください。さもないと……。
GM/アンナ:「……私だけじゃなくて,キルスティンも危ないんですね?」
真:その通りです。
GM/アンナ:「わかりました。ここでお待ちしています。……キルスティンのことを,どうかよろしく頼みます……」
真:死人は約束を守ります。
一同:…………。
キルスティン:……は? 死人? 誰が?
紫音:大谷のことでしょ(笑)。
鷹村:しかし,唐突に言われてもねえ。
村瀬:唐突に言われてもなあ。
GM:アンナさん,首かしげちゃうよ(笑)。
真:悪かったですねえ! いいじゃないですか,少しカッコつけても!
紫音:しかし,“スリーパー”も中途半端なことだねえ。
GM:え?
紫音:3回もチャンスがあったのに,結局何もしてないじゃないか。
村瀬:今なんかマジで目の前にいるというのに(笑)。
GM:しかし,何をしろというのだね,君ら。
真:いや,アンナさんに会いたいというのがまず強迫観念としてあって,何故会いたいかとか会ってどうするかとか,そういう自分が取り戻せないんじゃないか。
鷹村:擬態のしすぎ?
GM:それは次のシーンで桂子さんに訊いてみてくれ(笑)。

 

SCENE 18


GM:では,シーン・プレイヤーは……大谷か。結局キルスん家に向かうわけね?
紫音:まだ千葉桂子に協力の約束,とりつけてないけどね。
真:それは道々やればいいんじゃないの? とゆーか,ここまで来て協力しないわけにはいかんでしょ,この人も。
GM/桂子:「どうでもいいけど,あなたたち,私を縛ったまま連れていくつもりなの?」
紫音:協力してくれるなら,解くよ。
GM/桂子:「だから,結局私は何をすればいいわけ?」
紫音:俺たちも困ってるんだよ。とにかく“フィーヴァー・ドリーム”に対する知識がなさすぎてさ。だから,“スリーパー”にどう対処したらいいかとか,松山の昏睡状態を何とかするにはどうしたらいいかとか,そういう方面で助けて欲しいわけよ。
GM/桂子:「……私に選択の余地はないんでしょ?」
紫音:悪いけど。とにかく,今は一緒に来てくんない? アンナさんのとこに“スリーパー”がいるみたいなんだ。
GM/桂子:「そう……やっぱり彼はアンナを求めるのかしらね」
紫音:たぶんね。で,来てくれるの。
GM/桂子:「仕方ないわね。とりあえず,今回だけよ」
紫音:その後協力してくれるかどうかは,交渉しだいというわけだね。
GM/桂子:「…………」
鷹村:で,楓は?
真&紫音:あれっ?
GM:そう言えば,出てったキリだねえ(笑)。
真:携帯に電話して……。
GM:楓って携帯持ってないですよ。
一同:だあああああっ!(笑)
真:あーゆー鉄砲ダマなヤツに限って携帯持ってないのは,どーゆーワケだ!?(怒)
GM:そういうもんだよ。だってほら……。
キルスティン:うるさい! 何も言うな!
一同:(爆笑)

 キルスティンのプレイヤーは,陽閣楼内で遅刻の代名詞みたいに言われています(笑)。
 いえ,正確には遅刻の数が多いというより,遅刻した時携帯を持ってないので,所在がわからないのですね。いえ,遅刻の数自体も……げほごほげほ。
 
紫音:(ため息)放っておけば? ヤツは来る時ゃ来るっしょ。
鷹村:今はあいつを待ってる時間はなさそうだしな。
GM:では,タクシーか何かでいいですね?
紫音:道中,桂子に訊いてみます。それで,実際“スリーパー”に会った場合,どうすればいいと思う?
GM/桂子:「どうすれば,とは?」
紫音:だってヤツは手当たりしだい周囲の人間に擬態してるわけだろ? このままいったら,俺らのうちの誰かに擬態されちまうだけなんじゃないか?
GM/桂子:「そうね……確証はないけど,これを使えばいいかもしれない」と言って,彼女は持ってきた荷物の中から,ひとつのアンプルを取り出します。
紫音:それは?
GM/桂子:「ユージンが家に滞在している時に作った,抗ウィルス剤の試作品なの。うまくいけば,擬態能力自体を抑えられるかもしれない。うまくいけば,だけど」
紫音:いや,何も手がないよりはるかにマシだよ。
真:ところで,7年前,あなたの家を襲ったのは“スリーパー”なんですか?
GM/桂子:「…………」
真:……話したくないならいいんですけどね。
GM/桂子:「いえ,違うと思うわ。私には,よくわからない。家に帰ってみたら,ユージンはどこにもいなくて,夫は殺され,瀕死の楓が転がってた。それを見下ろして,黒いコートの男が……」
一同:黒いコートの男ぉ!?
GM/桂子:「え,ええ。そうよ」
真:それって日本人でしたよね?
GM/桂子:「ええ,そうだと思うわ」
紫音:背が高くて,けっこ美形で,気障なカンジ?
GM/桂子:「あなたたち,彼を知っているの?」
真:知ってるというか……そういうヤツがちょっかいかけてきてるんですけど,俺らも正体は知らないんですよ。
GM/桂子:「そう……」
真:(ぼそっと)ところでさあ。この人が楓にウィルス注射した理由って……。
鷹村:瀕死だったって言ってたしね。
紫音:まあ,そういうことだろうね。
キルスティン:実験動物とかじゃなかったんだよね?
GM:うん。ただ,要するにこの人も素直じゃないんでねえ(笑)。
キルスティン:やっぱ似たもの親子じゃねーか!
一同:(笑)
鷹村:そう考えると,すっごくハタ迷惑だなあ……。
GM:しみじみ言わんでくれ(笑)。ではここでシーン変えたいな,と。

 

SCENE 19


 男は,ふと歩みを止めた。
 5メートルほど先の電柱に,1人の少年が寄りかかっている。彼は視線をあげ,男に気付くと,すっと背筋を伸ばして道路の中央へ歩いてきた。ちょうど,男の進路に立ちふさがったかたちだ。厳しく,生真面目な目で睨みつけてくる少年に,男は嘲笑で答えようとした。だが失敗した。それは奇妙に疲れた笑いになった。
「久しぶりだな……楓」
 ことさらゆっくりと,男は言った。
「ああ」
「……それで? 裏切り者が私に何の用だ?」
 その言葉に,少年はかっと眦をつりあげる。
「裏切り者はどちらだ! 俺を騙して,自分のいいように働かせていた貴様が!」
「騙される方が悪い……と言いたいところだがね。私は,別におまえを騙したつもりはない」
「何だと……!?」
「見解の相違だ」と男は言い,これで話は終わり,とばかりに右手を上げた。
「それより,私もおまえに訊きたいことがあった」
「ふざけるな! 俺の話を……」
 男は俯いて苦笑した。この少年はいつもこうだ。いつもなら適当に相手をしてやるのだが,今日は日が悪かった。
 どう辛辣な言葉を投げ返してやろうかと思案していた折――
「…………?」
 男は顔を上げて少年を見返した。彼は何故か黙って,食い入るようにこちらを見つめていた。
 その顔に浮かんでいたのは,怒りではなく,むしろ困惑であるように思えた。
「神楽。……おまえ……」
「私がどうかしたかね?」
「…………」
 多少気にはなったが,男はもはや構わないことにした。時間がなかった。忙しいのだ。
「楓。おまえが私の研究所を襲った夜のことだが」と彼は黙然と立ち尽くしている少年に言った。
「“スリーパー”のことか?」
「いや……そうじゃない。あの男……あの,黒いコートの男」
「黒いコート?」
 男は頷いた。
「あれは……あの男は,なんだ?」