Stage 11


フレイ:おかえりー。首尾はどうやった?
ジョエル:たぶん,成功したと思うけど。
かおる:変な光が私の体の中に吸い込まれたんだけど,あれって何だ? ラキわかる?
GM/ラキ:「それが試練をクリアした証ですね」
かおる:あ,やっぱり?
GM/ラキ:「あと同じことを3回やればいいはずです」
かおる:ふわー。やっぱ大変だなぁ。

 さて,長い廊下を抜けて,辿りつきましたは水の紋章。
 フレイが同様に手をかざすと,新たな部屋が出現します。

GM/ラキ:「じゃ,そういうわけでフレイ様,よろしくお願いします」
フレイ:よっしゃ,わいの番やな。がんばるでー。
かおる:うん,がんばろうなっ。とか言ってまたがしっと手を握り締めたりしてます。
ジョエル:…………。
GM:あ,ムッとしてるムッとしてる(笑)。
かおる:ん? どうかしたのか,ジョエル?
ジョエル:……何でもないよっ。
ジーノ:ジョエル,顔真っ赤〜。かわいい〜。愛情ポイントプレゼント〜。
ジョエル:いらないっ。つか,おまえにかわいいと言われてもしかたないんだよっ。
ティーグル:……確かに(笑)。
ジーノ:おや? 俺,初めて使った愛情ポイントが男のコだわ。
一同:お〜いっ!?(笑)
かおる:よもやこんなところでボーイズラブるとは……。
ジーノ:ごめぇん,プレイヤーがショタ属性なのぉ(笑)。
ジョエル:かおるっ,俺はそんな気全然ないからなっ!
ジーノ:(聞いてない)あ〜,ジョエルやっぱりかわいい〜。ぎゅってしたい〜。
ジョエル:わー!?
GM/ラキ:「……ってか,ボーイズラブるのはどーでもいいですから。とっとと先に進んでください,お2人とも」

 さて,かおるとフレイが扉をくぐってみると,何故か目の前には悠然と流れる大河。向こう岸は夕靄で霞んでいるが,巨大な建造物の影と見える。
 しばしその光景を呆然と眺めた2人が,ふと振り返ってみると,背後には先の見えない荒野が広がっていた……。

かおる:(多少呆然)……さて,どうしよ。
フレイ:これは,この川を渡れっちゅーことやないかな。あるいは川沿いに進んでいくんか? GM,上流や下流はどうなっとる?
GM:やっぱり延々と荒野が続いているように見えますな。そうそうかおるちゃん。あの建造物は,いわゆるビル群じゃないのかな。
かおる:あ,あれ? それって見覚えは?
GM:ある。ただし,あなたが住んでいる街の風景ではない。あなたは,それがどこで見た風景か思い出せない。あなたの世界の風景であることには間違いないが。
かおる:あれっ。私,もとの世界に戻ってきちゃったのか? フレイ,あれ私の世界の建物だよ。っておまえに言ってもわからないと思うけど……。
GM:そしてフレイくん。君も,その風景に何か見覚えがある。
フレイ:…………。
かおる:フレイ?
フレイ:……あれって,おまえの世界の建物やゆーたな。
かおる:そうだけど?
フレイ:そやな……わいに見覚えがあるわけない……。
かおる:? とりあえずどうする? やっぱ川を渡るしかないんじゃないか? 私のRPG知識によれば,後ろや横はどこまで行っても平原だぞ。
フレイ:ようわからへんけど,川を渡るしかないってのは賛成や。しかし,おまえ泳げるんか?
かおる:(ぐっと親指をたて)ばっちし。
ジョエル:そう言えば水泳部(笑)。
フレイ:あ,でも鎧は脱いだ方がええで?
かおる:あ,うん。そうだな。……あ,あのさ。
フレイ:なんや?
かおる:あ,そ,その,ちょっと後ろ向いててくれるかな。
フレイ:鎧脱ぐだけで何で隠さなならんねん。
かおる:いいからっ。
フレイ:え? あ……あ,ああ,わかった。うん。絶対見ぃへんから安心しとき。……と慌てて後ろを向いて,自分も鎧を脱ぎます。
ジョエル:(むっつり)何してんだ,まったく……。
ジーノ:びみょーな雰囲気だよねー。
GM:でさ,かおるちゃんもしかして……。
かおる:じゃあフレイが10メートルくらい離れたら,自分も10メートルくらい離れて,さらに慌てて後ろを向きます。って意味ないじゃん!
GM:自分ツッコミすな。つまり,水着に着替えるってことなの?
かおる:ちなみに私の水着は3日前友達と買いに行った新品! セパレートタイプで,下はパレオになってます。色はオレンジで,白い花柄ね♪
フレイ:ちなみにわいは上半身裸で,鎧その他の荷物を布でくるんで背中に背負ってます。
GM:なんかマヌケだなー。
フレイ:冒険者やもの,カッコにこだわっておられへんわ。
ジーノ:てゆーか,背中じゃ意味なくない? 頭にしなきゃ,結局濡れるよね?
フレイ:…………。じゃ,頭にくくりつけたということで。
GM:本格的にマヌケだ。
フレイ:ほっとき。……え,えーと。もうそっち見てもええか?
かおる:う,うん。そっちこそ,もういいのか?
ジョエル:(むっつりと)何が「いいのか」だ,何が。
ジーノ:まぁまぁ。
GM:さて,では試練の説明に移りましょう。今回はラキもエドもいないんで,私が手短に。

 今回の試練は,いたってシンプル。20マスの幅がある川を,〈水泳〉判定で泳ぎきればいいだけ。S評価だと10マス,以下Aで7マス,Bで5マス,Cで3マス,Dで1マス進める。ただしE評価だと溺れて水を飲む(1D6ダメージ)うえに2 マス川下に流される。スタート地点から下流に10マス以上流されてしまうと,さらに3D6ダメージ。ただそれだけである。
 ……いや,まぁこの試練はこれがメインではないんだけどね。


かおる:よーし,負けないぞー!? 私の腕を見せてやるー!
ジーノ:かおるちゃんかおるちゃん。ノリが体育会系になってる。
GM:競争してどないするっちゅーねん。
かおる:じゃあどうするんだ。わざとファンブルして溺れて,人工呼吸とか?
ジーノ:うわぉ,あざといっ(笑)。
GM:(苦笑)意図的にファンブルしたい場合は,申告してみてくれや。ただし死なない程度にな。
かおる:そうだな。川の真ん中とかで溺れたら危ないんで,向こう岸に近づいてからにしよう。
フレイ:(マイペースにダイスを振っていた)お,A評価や。
GM:おお。それではすいっすいっと7マス進めるな。
かおる:(ころころ)お! 私もA評価だ! おまえ,結構早いなー。でも,私も負けないぞー!?
ジョエル:やっぱりノリが体育会系だな……。

 さてさて。
 何回かの判定の結果,2人は特に何のトラブルもなく川を泳ぎきってしまった(まぁE評価なんてそうそう出ないんですけどね)。
 そして……。


かおる:よっしゃー! 到着ー!
フレイ:うわっ,負けたわー。
かおる:見たか,茅ヶ崎高校水泳部エースの実力を!
フレイ:ようわからんけど,おまえすごいなぁ。ようがんばったわ。驚いたで。
かおる:あはは,おまえもすっごい早かったよ。久しぶりにいい勝負したなっ!
フレイ:ははは,そうやなっ。
かおる:あーっ,気持ちいいなぁ!

 勝負は3マスの差で,かおるちゃん勝利でした。
 朗らかに笑いあい,互いに健闘をたたえる2人。
 ……そして,びみょーに白い目で2人を見やる残りの4人。


ジョエル:……いや,てゆーかさぁ。何かが違わない?
GM:そうじゃないだろおまえら。そうじゃないだろ(笑)。
ティーグル:すでに男同士の友情のノリだな。てゆーか一昔前のスポコンか,これは?
ジーノ:これってアレ? 番長同士が全力で殴り合ったあとに,川原で並んで寝転んで空を見上げてる,みたいな……。
かおる:(いきなり)あっ!
GM:なに?
かおる:わざとファンブルして溺れようと思ってたのに,忘れてた。
一同:知るかっ!(爆笑)
GM:……やりたいというなら,岸に着く直前まで巻き戻してもいいけどね。
かおる:じゃああれだ。フレイが追いついてきたんで,慌ててスパートかけようとして足がつったとか。
GM:却下。
かおる:なんで?
GM:わかってねえなぁ。そこはアレだ。セパレートの水着が流されるんだろ。
フレイ:おーいっ!?(笑)
かおる:……あざといのはどっちだ,GM。
GM:お約束ってヤツだ。何ぞ文句があるんかいワレ(笑)。
かおる:わかった。じゃあそれでいこうじゃないか。下はあんまりなので,上ね。
フレイ:……いや,それはええんやけど,わいが助けるのものすごく大変やないのか?
かおる:(聞いてない)あ,ああっ!と突然悲鳴を上げて,下流に向かって泳いでいきます。
フレイ:お? ちょっと待たんかい。そっちは危ないで!
かおる:い,いや,みっ……い,いや何でもなーい!
フレイ:はぁ? 待ったれ,今そっちに行くから……。
かおる:わーっ! 来るなーっ!(笑)
GM:(……お約束でやってるわりには,ノリがいいなぁ……)
フレイ:ほら,早く上がって来ぃや。風邪ひくで。
かおる:(岸辺にしがみついている)あ……いや……その。
フレイ:ん? どないしたんや?
GM:(横から)あ,そう言えばかおるちゃん。昔,君が神奈川に移ってくる前のことだ。同じようなことがあった気がするなぁ。
かおる:へ?
GM:胸もないのにセパレートの水着なんか着て,はしゃいで川に飛びこんで,上が流されて大騒ぎ。「何やってるんや,早く上がって来ぃ!」と,誰かが,あなたを呼んだ。
かおる:じゃあはっと顔を上げ,じーっとフレイを見上げる。
フレイ:? どないした?
GM:そうやってよくよく見ると,彼は誰かに似ている。そう,あれは幼なじみの……。
ジーノ:……カズ兄ちゃん?(*1)
一同:(爆笑)
かおる:何でやねん!
ジーノ:ダメ? カズ兄ちゃん。
かおる:あんな腹黒の変態はイヤだ!
フレイ:で,結局なんて名前なんですか?
GM:いや,それが決めとくの忘れててさ。
かおる:おーい?(笑)
ジーノ:カズ兄ちゃん。
かおる:イヤだーっ! 誰か決めてくれーっ!
ジョエル:いいじゃない,カズ兄ちゃんで。
ティーグル:遠藤和○でさえなければいいんだろう。
フレイ:あ,属性が火だから火に関する名前とか……。
GM:じゃあ火村和希。はい決定。
フレイ:今度は流浪人ですか……?
ティーグル:いや,臨床犯罪学者だろう(笑)。(*2)
かおる:もうなんだっていいやい。じゃあ呆然とフレイを見上げて,「和兄ちゃん……」と呟きます。
フレイ:え……?
GM:するとまた過去からの声が。「あ,わかった。水着,流されたんやろ。ばっかやなー」
フレイ:じゃあそれとまったく同じことを言いましょう(笑)。
かおる:くそう,笑うなぁ!とか言って立ちあがるぞ。
GM:……見えるやん。それ。
フレイ:それは,真っ赤になって後ろ向いて,「急に立つなや,アホ!」と怒鳴ります。
かおる:え? あ,うそ,ごめん!と言ってまた水の中へ。
フレイ:と,とにかくここにタオル置いとくから! で,だーっと20メートルくらい向こうへ走っていきます。
かおる:え? あ,ちょっと待てよ!?とまた立ちあがって……。
フレイ:で,そこで石にけつまづいて倒れて川に落っこちます。
かおる:ああっ!? 大丈夫かー!?
GM:……いや,いいからいいかげん水から上がれや。

 さて,イタいすったもんだの末,無事向こう岸に上陸した2人。
 そこは,どこかの地方都市であるらしい。
 立ち並ぶ建物はどことなく寂れ,夕方だというのに人通りも少ない。だが,どこか懐かしい。

 
かおる:やっぱりこの街,どこかで見たことがある……。
フレイ:……実は,わいもや。えらく懐かしく感じる。
かおる:え?
フレイ:でも,そんなはずないわな。こんな建物,見るのは初めてのはずや……。
GM:さて,そうやって話していると,2人の横を高校生らしい制服姿の少年が通りすぎる。ふとその顔を見上げると,ジーノだ。
かおる:え?
フレイ:なんでこんなとこに……おい,ジーノ?
GM:しかし,彼はあなたの声がまったく聞こえないかのように歩み去っていく。さて,向こうの方でバイクを押して歩いている長身の青年は,ティーグルさんだ。ブレザー姿のジョエルもいる。
かおる:ジョエル! おい,ティーグルってば!
GM:いや,やっぱり聞こえてないようだ。ちなみに彼らのほかにも人影はちらほらとあるけど,やっぱり誰もあなたがたが見えていないようだね。
かおる:おい,無視するなよ! ……くそー,いったいどうなってるんだ?
GM:さて,そんなところで,半ズボンを穿いた小さい女の子が後ろから君らを追いぬいて,正面の病院へと駆けこんでいく。
かおる:まさか……。
GM:そう,それは幼い日のあなただ。そこで思い出す。あなたは小さい頃,この街に住んでいたのだ。そして,家の隣には養護施設があった。あなたはそこで暮らしていた男の子と仲良くなった。
かおる:……和兄ちゃん……。
GM:そう,あなたは彼のことをそう呼んでいた。そしてフレイくん。あなたはこの病院にものすごく見覚えがある。とても懐かしい,しかし,何だかとても哀しい予感がする。……さて,どうする?
フレイ:……中へ入る。確かめたいことがあるんや。なんでわいはこんなに,懐かしく感じるんや。この街も,かおるのことも……。

 その病院には,外の通りにも増して人気がない。清潔だが寒々しく,冷たい廊下。さらに不安をかきたてられながら,女の子の跡を追っていく。
 彼女は,とある病室の前で立ち止まっていた。
 本来4人部屋のはずの入り口には,しかし,1つの名札しかかかっていない。火村和希。白いプレートにマジックでそう書いてあった。
「かおるちゃん」
 突然背後から声をかけられた。振りかえると,いつの間にか1人の看護婦が立っている。白く,石のように冷たく,表情のない顔の女だった。
「あなた,和希くんのお見舞いに来たんでしょう。さっさと中へ入りなさい」


GM:和兄ちゃん。名前は火村和希。あなたが引っ越す半月くらい前に病死した。それはとても難しい病気で,莫大な治療費を必要とした。結局のところ,彼はその金がないために死んだのだった。
フレイ:…………。
かおる:和兄ちゃん……。呆然とその光景を眺めている私。無意識のうちに,涙がすっと頬を伝うぞ。
フレイ:では,同じく呆然とそれを見つめていたのだが……かおるの涙に気づいて,思わず彼女を抱きしめるのであった。
一同:おおー……。
フレイ:(ささやくように)ここで,何か悲しいことがあったんか……?
かおる:ではいきなり抱きしめられてびっくりしてますけど,うん,と消え入りそうな声で呟きます。
フレイ:泣くな。わいが側にいるから。
一同:おおー……?
かおる:ごめん……私……私は……。
フレイ:ええんや。だからそんな顔すんな。どうしたらええか……わからなくなるやんか……。
GM:(小声で)……おいおい,どうなってるんだ。ノリがいきなり乙女ゲーだぜ?(*3)
ジーノ:(小声)何言ってるんですかっ。これがいいんじゃないですかっ。
ティーグル:(小声)これをやるためにこーゆーTRPGやってるんじゃないの?
GM:(小声)そうだけどさー。
ジョエル:(小声)うわーん,恥ずかしいよ〜。乙女ちっくだよ〜。
かおる:ごめん……ごめん,私……と呟きつつ,フレイにすがりついてしばし泣いています。
GM:(小声)……しかし,なかなか忍耐力が試されるぞこれは。
ジョエル:(小声)乙女ゲー。乙女ゲーだから。
ジーノ:(小声)そうそう。乙女ゲー乙女ゲー。
かおる:
だから。こっちだって耐えてるんだよ。
一同:(笑)
かおる:人がせっかく,がんばってガラにもないヒロインを演じているというのに! なんだおまえらその態度は!
GM:悪い悪い(笑)。では話を続けよう。女の子は,というかかおるちゃん・5歳は意を決したように病室に入っていった。やがて中からすすり泣きと,「そんなに泣くな。しゃあないやろ」という少年の声が聞こえてくる。
かおる:(突然カワイイ声で)和兄ちゃあん。いやだなよぉ。死んじゃいやだぁ。
GM:お? ……しかし,ま,そんな感じだ。それに対し,「そう言いなや。院長先生も一生懸命手尽くしてくれたんや。けど……無理なもんはしゃあないんや。わいにばっか,大金使ってられへんもんな」
かおる:お,お金……そんな,お金だったら……。
GM:そこでかおるちゃんは,ポケットから100円玉を取り出すんですよ。
かおる:おお,なるほどな。(カワイイ声で)和兄ちゃん,お金! お金ならここにあるよ! これあげる!
フレイ:(いきなり)ありがとな。その気持ちだけでほんま嬉しいわ……げほごほげほっ!
かおる:あっ! 和兄ちゃん,大丈夫!?
フレイ/和希:だ……大丈夫に決まってるやないか! おまえがこの100円くれたんやもん,きっと治るわ!
かおる:ホント?
フレイ/和希:ホントや。
かおる:ホントだね? 治ったら,また一緒に遊ぼうね?
フレイ/和希:そやな。夏になったら,また,一緒に泳ごうな。
かおる:うん! また競争しようね!
フレイ/和希:ああ。わいも負けへんで〜?
かおる:私だって負けるもんか! 約束だぞ! ゆーびきりげんまん,うっそついたらはりせんぼんのーますっ!
GM:(こいつら,本当にノリがいいなぁ……)そんなところで,看護婦が「あんまり騒ぐと迷惑になるわ。そろそろ面会はおしまいよ」と冷たく言います。
かおる:わ,わかった……それじゃ和兄ちゃん,また来るからね!
フレイ/和希:出て行こうとする少女に後ろから声をかける。……かおる。
かおる:え? 何?
フレイ:……わい,いつまでもおまえのこと,見てるからな。
かおる:和兄ちゃん……。
フレイ:いつも……いつまでも……。
かおる:ストーカー?
一同:おい!(爆笑)
GM:フレイ様がみてる……(笑)。
ジーノ:和兄ちゃんがみてる……ってそれは怖い! 怖すぎる!(笑)(*4)
かおる:ごめん。今のは違う。バグった。種がはじけた。
ジョエル:というか和兄ちゃんも,「見てる」じゃなくて「見守ってる」じゃないの?(笑)
フレイ:えーと,じゃあそういうことでお願いします(笑)。
かおる:(またカワイイ声で)「見守ってる」?
フレイ/和希:そや。ずっと一緒,ってことや。
かおる:……うん! 約束だよ,お兄ちゃん!
フレイ/和希:ああ……約束や……。
かおる:ではそこで去りかけて……てててっと和兄ちゃんのところに走っていって,頬にちゅっと。
ジーノ:わ〜〜!? かわい〜〜!?
ティーグル:ちゅっと,って……(笑)。
GM:……いや,いいんだけどさ。その光景を,現かおるちゃんとフレイさんは傍で見てるんだからね?(笑)
かおる:うむ。私はそれを見てぽろぽろと涙をこぼしている。
GM:(まぁいいんだけど……)さて,そんなあなたに先ほどの看護婦が声をかけてくる。ちびちゃいかおるちゃんじゃないからね。あなたにだからね。
かおる:え? あんた,私が見えてるのか?
GM/看護婦:「……このままでは,彼は死にます」
かおる:え……。
GM/看護婦:「何故なら,手術をしなければ彼の病気は治らない。でも,手術をするお金がない」
かおる:そんな……。
GM/看護婦:「でも,仕方ないですね。彼は孤児だから。そういう運命のもとに生まれついてしまったのだから。変えることは誰にもできません」
フレイ:…………。
かおる:そんな……そんなのって,ひどすぎるじゃないか!
GM/看護婦:「彼を,助けたいですか?」
かおる:あたりまえだよ!
GM/看護婦:「ならば,治療費をいただきます」
かおる:治療費?
GM/看護婦:「そうです。あなたの大切なものを払ってください」
かおる:た,大切なものって……。
GM/看護婦:「例えば……極刑?」
一同:だからぁ!(爆笑)
かおる:…………。
GM:わかったよ,悪かったよ(笑)。ついシリアスシーンとなると茶々を入れたくなってしまって……。
ジーノ:でも,でも,確かに大切なものであることには変わりありませぇん。
かおる:他に何かないのかよっ!? あーなたにーおーんなのこーのーいちばんーたいせつなーものをあげるわ〜♪みたいな感じかよっ!?(*5)
GM:ええ!?(笑)
かおる&フレイ:だっれでっもいっちどだけけいけんするのよ〜♪
ジョエル:極刑を?
一同:(再度爆笑)
ジーノ:いやーーーっ! そんなのイヤああああああぁ!(泣)
かおる:私だってイヤだっ!
GM:極刑はおいといて,その条件もちょっとそそるような気がするが……。
ジーノ:GM。これ「乙女ゲー」ですから。
GM:……だよな。
フレイ:じゃあかおるの肩を後ろから抱きながら言います。だから,治療費って何や。いったい何をすればええんや。
GM/看護婦:「そうですね……例えば,あなたは元の世界に帰りたいんですよね?」
かおる:え……そりゃそうだけど。
GM/看護婦:「その望みをあきらめるとかは,どうです」
かおる:な……。
フレイ:ちょっと待て。おかしいやんか。そんなことして,あんたに何の得があるんや。
GM/看護婦:「私が欲しいのは誠意ですよ。『異世界の少女』が,自らを捨ててでも誰かを助けようとする心。それが欲しい」
ジョエル:つまり,彼のためにあなたは何ができるの?
GM:おう,そうだ。そういうことなのだ(笑)。
かおる:な,何って……そんなの,わからないよ。
GM/看護婦:「そうですか? それでは彼は助かりませんが……」
かおる:で,でも,私にできることなら,何でもする! もとの世界に帰るのをあきらめろって言うなら,そうする!
フレイ:おい,そんなのあかんで!
GM/看護婦:(にやり)「おや,本当にいいんですか?」
かおる:それで和兄ちゃんが助かるんなら。……そのかわり,本当なんだろうな。嘘だったら承知しないぞ。
GM/看護婦:「私は審理を行うもの。ルール違反はいたしませんよ。それならば……」
フレイ:やめろ。
かおる:え?
フレイ:嬉しくあらへん。そんなんしてもろても,嬉しゅうないわ。
かおる:だ……だって! そうしなきゃ,そうしなきゃ兄ちゃんが死んじゃうんだよ!
フレイ:おまえを不幸にしてまで生きとうないわ!
かおる:何言ってるんだよ! これは私と和兄ちゃんとの問題だ! おまえには関係ないじゃないか!
フレイ:あるわ!
かおる:何でだよ!
フレイ:何でって……何でかわからへんけど,わかるんや! それに……それに,わかっとるんやろ? 火村和希はもう死んだんや……。
かおる:…………。
フレイ:これは過去や。おまえが何をしたって,今さら何も変わらん……。
GM/看護婦:「そう,過去は過去だ。決して変わらない」
かおる:え……。
GM:看護婦は無表情のままあなたを見つめている。心なしか,その声が先ほどのものと異なるような気がするな。どちらかというと,男性の声のような……。
かおる:そんなことはどうでもいい! おまえさっき,和兄ちゃんを助けられるって言ったじゃないか! 「嘘はつかない」とも言った!
GM/看護婦?:「必ずしも嘘だというわけではない。火村和希という少年は死んだ。それは変えられない。しかし,あなたの働きしだいでは彼を取り戻すことができる」
フレイ:……どういう意味や。
GM/看護婦?:「フレイ,あなたにはもうわかっているのではないか。火村和希はかたちを変えて,今ここにいる」
かおる:え? ど,どういう意味だ?
フレイ:…………。
GM/看護婦?:「門を開け。それが,過去を変える唯一の方法だ。いや,やり直せるのだ。あの過ちを,すべてなかったことにして」
かおる:な,何言ってるかわかんないよ! それに,私たちは門を閉じに行くんじゃないのか!?
GM/看護婦?:「それが本当に正しい道なのか,あなたは考えなければならない。そのために,色々なことを知らねばならない。それもこの『試練』の目的だ。かつてロゼがそうしたように」
かおる:ろ,ロゼって?
フレイ:(割って入って)だからって,こんなやり方でかおるを脅すような真似を……。
GM/看護婦?:「そうは言うが,フレイ。あなたはそもそも門を開けに来たのではなかったのかな?」
フレイ:そ,それは……。
かおる:……どういうことだよ。
フレイ:……すまん。わいは門を開けたいんや!
かおる:だからどうしてだよ!
フレイ:ある人に頼まれたんや。門を開けたら,ベアトリスの手術ができるだけの金をくれるって! ベアトリスは,このままじゃ死んでしまうんや!
かおる:そんな……。じゃあ,ベアトリスを助けるためには,私は門を閉じちゃいけないってことか?
フレイ:……でも,わいはわからなくなった。こんな,おまえを利用するようなことまでして,ベアトリスはほんまに喜ぶんやろうか。
GM/看護婦?:「『異世界の少女』だけでなく,あなたも考えなければならないよ,フレイ。富めるものはどこまでも富み,貧しい者はどんなに努力しても貧しいままの,この世界のあり方について……」
フレイ:それはわいの問題や。かおるを巻き込むわけには……。
かおる:ちょ,ちょっと待てよ。私が戻れなくなるのと,門を開けることに直接の関係はあるのか?
GM:ん? ああ,たぶんないな。いやその,「帰れなくなる」の方はあくまで例え話で,「あなたには自分の大切なものを失ってでも彼を助ける覚悟があるか」と訊きたいわけだが。
かおる:なんだ,だったら問題ないじゃんか。門を開けてベアトリスを助けて,ついでに私が何かを犠牲にして和兄ちゃんを助ければいいんだ。
フレイ:そ,そういう問題なんかっ!?
GM:(あかん,私もワケがわからなくなってきた……)

 困ったものです(苦笑)。
 まぁよく考えてみれば,アルジェントの依頼は何かがおかしい,というのはこの時点で気づかせてもよかったかなー。「門を開けると世界が一度リセットされた状態になる」という話は,第一の試練ですでに聞いているのだから。そんなことになった時点で,報酬をもらうももらわないもない。
 しかし,明らかに「道理の通っていない依頼」を無理やりフレイに受けさせただけに,何も言えないGMであったり。
 さらに,そんなことは気にもとめず(おいおい),「2人の世界」を続けるかおるとフレイは……。


かおる:だから,別におまえのために私が犠牲になるわけじゃないぞ,ということだ。私は私が和兄ちゃんを助けたいから,助けるんだからなっ。
フレイ:……だから……それが,わいのために犠牲になってるっちゅうことなんやけど。
かおる:なんでだよ?
フレイ:だから……と,そこでじっとかおるの目をのぞきこんで,いきなり彼女を抱きしめます。
かおる:わーっ!?
フレイ:……約束したやろ。次の夏になったら,一緒に川で遊ぼうて。
かおる:……え……。
フレイ:また競争しようて。絶対負けないぞって,おまえはそう言うたな。
かおる:和希……兄ちゃん?
フレイ:(頷いて)ごめんな……今まで,寂しい想いさせて……。
かおる:和兄ちゃん……。
フレイ:かおる,このわいはもう死んだんや。だからおまえが何をしたって,もう助からん。
かおる:…………。
フレイ:でもわいはここにいる。また,おまえに会うために。……だから,おまえが犠牲を払うことなんて何もないんや。
かおる:……うん……。
フレイ:わいは,もうどこへもいかへん。おまえのことを守る。ずっと。
かおる:うん……うん。もう死なせないから。絶対に死なせないから……!
一同:…………。

 この間,他のメンバーは恥ずかしさに悶え死んでいた。
 あーもぉ。

GM:(必死に笑いをこらえている)えー,君らがそうやって2人の世界にひたっていると,あたりの風景がだんだんに薄れ,淡い光となってかおるちゃんの身体に吸い込まれていく。気がつくと,そこはやはり何の変哲もない石造りの部屋。ただし,何故かさきほどの看護婦さんがまだ残っているのだが……。
かおる:見てない。和兄ちゃんに抱きついてるから。
GM:見ろよ。
一同:(笑)
GM:つか2人の世界はいいかげんにして話を進めさせろ! えーと看護婦さんはイヤな笑みを浮かべると,「試練は成功した。どうやら,あなたは適格者のようだ」と男の声で言います。
かおる:……なんだと?
GM/看護婦?:「彼のためにあなたができることは何か。ちゃんと考えて,果たしてくださいよ」そして,その姿がやはりゆっくりと消えていく……。
フレイ:待て。おまえ,アルジェントやな? これはいったい何の真似や。
GM:(にやり)とりあえず,返事はないようだ。なお,男の子が握り締めていたはずの100円玉だけが,床に転がっている。
フレイ:じゃあ黙ってそれを拾い上げるが……。
GM:はい,あなたはアイテム「願いのコイン」を手に入れました。1シナリオに3回,ファンブルを含めた全ての判定結果をクリティカルに変更できます。それと試練をクリアしたので,フレイの必殺技が使えるようになります。
かおる:これって結局なんだったの?
GM:まぁ第一の試練が「知力」だったのに対し,第二は「心」みたいな感じでしょうか。ま,そんな感じでいいかげん部屋から出てきてくださいな。
かおる:は。そう言えば荷物とか服とかどうした?
GM:荷物は部屋の隅に転がっている。服は,川を渡ったときのままだなぁ。
かおる:はあっ。それでは部屋を出てきた2人は,片方が水着で,片方が上半身裸に頭に荷物をくくりつけたままなんかいっ!?
一同:(爆笑)
フレイ:荷物は下ろしてる! いくらなんでも下ろしてる!(笑)
ティーグル:……それにしたってな。
ジーノ:部屋から出てきたら,一同「はあぁ〜〜ん? 何してたんだこいつら〜〜?」みたいな感じだよね。
ジョエル:許しませんよ,そんな真似はっ!?
一同:(再度爆笑)
ジョエル:オトナなんて,オトナなんてっ!?
ジーノ:まぁまぁ。君もオトナになればわかる。な?(笑)
ジョエル:極刑男に言われたくはなーい!
ジーノ:俺が極刑するんじゃないものーーー!?
GM:まぁまぁ。とにかく,そういう状態で2人は出てきたわけですが。
ジョエル:ではかおる,どうしたの!?と走っていって,すかさずかおるの手を引っ張って引き寄せます。
一同:おお〜〜!?
フレイ:……ああ,大丈夫や。試練はクリアしたみたいや,と言ってかおるを自分の後ろに引っ張り戻します。
一同:きゃ〜〜!?
かおる:え,えーと。大丈夫,うまくいったよ,と言いながらジョエルの頭をなでなでします。はい,愛情1点ね。
ジョエル:うん,ありがとう。……と言いつつ,子供扱いされているのでちょっと悲しい。
ジーノ:(小声で)やっぱジョエルかわい〜い。
GM:うむ,私からもジョエルに愛情1点……ってもう愛がないぞ?
一同:(笑)
ジーノ:GMに愛がない……(笑)。
GM:しょうがない,追加するか……気をつけてね。無くさないでね。(*6)
かおる:私,愛の大盤振る舞いしすぎ?
GM:いや,ポイントを全然使ってくれないからGMのところに返ってこないだけだ。それはともかくラキくんが咳払いして曰く,「あー皆様,そろそろ先に進んでもよろしいでしょうか?」
かおる:あ,そう言えばフレイに訊きたかったんだけど。フレイは和兄ちゃんなのに,何でここにいるのかってことについて。
GM:ああん? そんなのはフレイもきっと知らないよ。
一同:ひでえ(笑)。
かおる:あんたそんなアッサリ。だいたい説明が少なすぎ……
GM:黙れ。そもそも1時間半遅刻してきたヤツに発言権があるとでも思ってんのか。
かおる:ぐっふう!?
フレイ:(朗らかに)魂に垣根も国境もないのよ。そういうことにしときましょう。
GM:まぁそういうことで,次は第三の試練であります。

*1 カズ兄ちゃん:前述の遠藤和希くんのことである。
*2 火村:
流浪人は「緋村」剣心。火村なのは臨床犯罪学者の火村英生助教授の方だろう。有栖川有栖の国名シリーズなどに登場する探偵役。「でも江神さんの方がいい」とはGM・ジーノ・ジョエル・ティーグルの共通意見だったり,ってどうでもいいんだが。
*3 乙女ゲー:
女の子を主人公として,美形のお兄ちゃんたちを攻略していくゲームの総称。セリフがいちいちこっぱずかしいのが特徴。おそらく元祖は「アンジェリーク」であろう。なお,「男が女をオトすゲーム」が「ギャルゲー」なのに対し,「女が男を落とすゲーム」が何故「乙女ゲー」なのかは,永遠の謎。
*4 フレイ様がみてる&和兄ちゃんがみてる:
コバルト文庫『マリア様がみてる』に関しては今さら説明が必要だろうか。なお,「和兄ちゃんがみてる」が何故怖いかというと,遠藤和希が10年熟成型ストーカーだからであろう。
*5 あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ:山口百恵の「ひと夏の経験」。ちなみにあげるのは「胸の奥にしまった」愛ですよ? あくまでも。
*6 無くさないでね:ちなみにポイントマーカーとして使われていたのは1粒30円くらいの高いビーズであった。