暑くて寝苦しい日々が続く。そんなときに決まって思い出すのは、霊感ゼロなぼくが体験した唯一の奇妙な話し。
高校に上がったばかりのころだったろうか。同じように熱帯夜で眠れない。どうせ起きているなら気を紛らわせようと、暗闇の中、ラジオのスイッチを入れ、適当にチューナーのダイヤルを回した。ザッピングしていく中でニッポン放送のオールナイトニッポンだの、TBSのUP’sだの、文化放送でやっている番組名を知らない深夜放送だのが放送されている。その時刻が少なくとも午前一時から三時の間であることがわかった。どれを聞こうか、ふたたびザッピングしていくうちに、奇妙にクリアーな周波数にチューニングされた。松任谷由実のように癖の声をした女性パーソナリティーがしゃべっていた。ただ、松任谷由実ではないことは断っておく。別人の声。トーク内容は次のようなものだった。うろ覚えなので細部は適当だが、擬態語は記憶に残っている。
横になっている私の周りで這うような音がする。ずるずるずる。這うものは足の平を額の上にのせてきた。ひやりとした冷たさが伝わる。ぎぃやと叫んだ私の耳に響く笑い声。あははははは・・・・
とりたてて怖い内容ではないし、逆に暑さにやられて中途半端な電波文章をうれしそうに打っているぼくの姿のほうが恐ろしい。が、ともかくそんな内容だった。それを聞いてチキンハートなぼくは気持ち悪くなってチューナーをグルグル回した。パーソナリティーの軽妙なトークをオンエアする周波数に合い、少し落ち着く。けれど、さっきの番組がやっぱり気になって、少しダイヤルを戻してみる。番組名だけでも確認しておこうと思った。けれどいくら戻してもノイジーな音がするだけだった。まったく別の番組にチューニングされるだけだった。
翌朝、ラジオ欄で確認した。それらしい怪談をオンエアしていた局、番組はない。AMラジオヘビーリスナーな友人に聞いても、まったく心当たりがないという。
夢だった、そういうのは簡単かもしれない。けれど、ぼくはそれが夢ではなかった方法を確認するすべを持っている。ただ確認はしていないのだけれど。恐ろしいから。その時、ぼくはラジオの録音タイマーをセットしていて、自動的に午前一時から三時までのラジオ番組を録音するようになっていた。ザッピングしていたあのときを録音していたのである。ぼくはそれを再生させる気が起きないまま、そのテープをいまだに持っている・・・というところまでかければそれなりにいい感じの怪談としていい感じにまとまる、という話し。前半は一応本当の話し。
つか直接害の無い怪談なんかよりスリリングでショッキングサスペンスなのは、せめー商店街の道をド下手ドライバーことぼくが車走らせているときに、ヤクザの葬式だかをやっている場面に出くわし、道の片側に停めたセルシオやらベンツの脇を通らねばならなくなったとき。本当に泣きそうになった。キンタマのみ一気に冬模様。背中をいやな汗がドバドバでるのを感ずる。前フリが長すぎ。それを暑さでブサイク全開なツラをディスプレイ前にさらして書いてる自分の姿がの方が怖い。