■  第九章  運命の6人  ■

3人が寝てる横で僕と圭子は色々な話をした。
彼女の最近退職した会社の事や、僕がの大学を退学したことなど。
最初の緊張はどこかに行き状況や感性の似てるところなど、何故か初対面という気がしなかった。

一時間も話しただろうか、恵が起き出した。
「もう朝?」こんなに明るいのに!明らかに寝ぼけてるな。
「朝だよ。もうじき父島に着くよ」
「誰?」恵が圭子を見て言う。
「私、秋山圭子と言います。さっき大野さんに声掛けられて・・・」
「ナンパされたんだ!!やるじゃん誠!」
恵は笑いながら言った。そこに不快そうな顔はなく、逆に楽しそうな表情を浮かべていた。
「私は木下恵。恵でいいよ。みんなそう呼んでるから。よろしくね!」
恵が目ざとく圭子が付けてるグッチの腕時計を見つけ
「あっー!これ欲しいヤツなんだ!どこで買ったの?いくらだった?それとも彼氏のプレゼント?」
ハワイのディユーティーフリーでOL仲間と遊びに行ったとき買ったそうだ。
僕はその答えにホッとした。
僕にとって初対面で「彼氏いるの?」と気軽に聞ける子と、そうでない子がいる。圭子は後者だ!
さっきの会話の中で、「大野さん彼女いるんですか?」とでも聞かれたら胸を張って「いないよ!」と言いたかったんだが、初対面の人間に圭子はそんな事聞くタイプじゃない。僕も「いますよ」と言う答えが怖くて聞けない。腹のさぐり合いしかないなぁ。僕は好きな子には臆病になるタイプだ。
「ほんとは彼氏に買って貰ったんじゃないの?」
余計なこと聞くなあ!恵は!でも、僕も答えは怖いが突っ込みたくなる質問だ。
「ほんと違います。第一、今彼氏はいません!」
ナイス・クエスション!それに最高の答えだ!二人で会話が弾んでいる。
恵の社交性に脱帽し、感謝した。そして、もしかしたら軽さを装って頭イイのかぁ?と思わされた。

恵はデッキでウオークマンを聞きながら一人リズムに乗ってる、トッポそうな男を指さし
「あれに声掛けてみるよ!だって頭数合わないジャン。女三人と男二人じゃ!」
「あいつ一人で来てるとは限らないよ。女と来てるかも知れないし?」
「絶対一人よ。あのタイプは!恵の勘を信じなさいって。まぁ、見てて!」
そう言うとツカツカとその男の方へ歩き出した。
「すごいわね!恵さんって。女の方から声を掛けに行くなんて!私じゃ考えられない」
「ああ、そうだね」と言いながらも君に限ってそんなことはないよ。やっぱり恵は変わってる。
恵がこっちに向かって大きな丸を作ってる。どうやらナンパ成功のようだ!
男はこっちに向かっておじぎを何回もしている。気は弱そうだが、いいヤツそうだ!
しばらくして、恵とその男がこっちの方へ来た。
「この人、普段は六本木のキサナの黒服やってるんだって!で夏限定の父島のディスコの黒服やりに来たんだって!名前はねー・・・」おいおい名前ぐらい覚えろよ!今聞いたばっかりだろ?「僕、菊池雅志と言います。よろしくお願いします」ディスコの黒服だけあって一見軽そうだが、結構シャイで好感が持てた。僕と圭子もまた自己紹介。祐子も起きたらしく香取を一所懸命起こしているが、起きる気配がない。祐子は自分の挨拶より先に香取を起こしたいようだ。まるで世話女房のそれだ!

「私達が借りるコテージにみんなで泊まろうよ!どうせ二人じゃ広いし、6人の方が楽しいよ!頭数で割り勘の方が助かるしね!」恵が提案する。
僕は宿の予約もしてなかったので、もちろんOKだけど、他の連中はどうなんだろう。特に圭子が気になる。
菊池は一応形ばかりのタコ部屋社員寮があるそうだが、コテージの方がいいと!当たり前か。女の子もいるし。
「ほんとにいいんっすか!ほんとに!」何度も恵に聞いていた。憎めないヤツだ!
香取に至っては、野宿するつもりでいたらしい。
「スポンサーが宿取ってくれるってくれると言ったんだが断ったぜ! 夜も監視されちゃたまらないからなぁ!門限だの何だのと子供じゃあるまいし!でもそれなら良かった!外じゃ毒蛇に噛まれることもあるからなぁ!あっははは!」
豪快に笑い飛ばした。毒蛇も食いそうなくせして!香取らしいぜ。
最後は圭子だ。考えているような困っているような表情で「私、ホテル予約してるの当日だし悪いわホテルに」
「いいじゃない。キャンセルすれば。キャンセル料さえ払えば問題ないよ」僕の口から思わず出た言葉だ。
圭子は僕をじっと見た。
香取が横から「金なら心配するな!賞金が山ほど出るからな!あぶく銭は使い道に困るぜ!東京に持って帰っても酒と女に消えるだけだからな!あっははは!」隣にいる祐子が頷いている。
恵も「そうしなよー!女一人じゃわびしいわよ!遠慮なんかしなくていいから。気も使わなくていいし!」そりゃ君の感覚ならそうだよな。使う気を持ってるのかも疑問だ。
みんなも後押しもあり、 圭子もついに意を決したように
「みんなありがとう。そうするわ。私も一人じゃ寂しいし」
僕は心の中で小躍りしていた!と同時に南島に行くタイミングを考えてた。

父島の二見港が見えてきた。25時間の船旅はこれからの期待を膨らませてくれた。
エメラルドグリーンの海。空は濃いブルー。まさに東洋のガラパゴスだ!

6人それぞれの想いで、船から島を見る。

太陽が今まで見たことのない眩しさを放っていた。

 


 

 

 
 
 
 
 
 

       

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