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■ 第五章 ゴミ箱 ■
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僕らは誰も口を利かなかった。 あまりの急な展開に頭の中が整理が着かなかった。 そんなとき、冷凍車のコンテナのドアがいきなり開いた。誰もが、街の光の逆光に見える人間を、あの男だと思った。 しかし、そこには見知らぬ若者が立っていた。 若者はこちらにびっくりしたように「パラダイス・ダイナーのオーナーから、この時間に車を取りに来いと頼まれたものですが、いやー!誰もいないって聞いていたんですが、人が入ってるなんてあの人も冗談きついなぁー!なんかパーティでもあるんですか?みんな覆面なんか被って?」僕はとっさの機転で「いや、オーナーを待ち伏せてたの。びっくりさせようと思って!悪いコトしたね!ごめん!」若者は「オーナーなら、そこのゴミ捨て場で、寝てましたよ。また飲み過ぎたんじゃないですか!」笑いながらそう言った。みんなわれ先コンテナから出た。 男は冷凍車のすぐ横にあるゴミ捨て場の壁により掛かっていた。一見、座ってるようにも見えるが、いつもの鋭い眼光はなかった。「とりあえず、たばこをくれ」僕はいつものクシャクシャになった自分のキャメルを、男の口にくわえさせる。パラダイス・ダイナーのマッチで火をつけた。 「一度しか言わないからよく聞け」いつもの力強い声とはトーンが違う。「みんな良くやった。金は安全な場所に保管しておく。受け取り場所はこのマッチの底に書いてある」 冷凍車がクラクションを鳴らす。男は今出せる力を出し切って『行け!』と手振りで促した。冷凍車が走り去っていく。 「さあ、行け!奴らがおってくる。計画通りにバラバラに逃げろ!」 そして、空を見上げて「人生は一瞬のまたたきだぜ」と自分に言ってるのか?みんなに言ってるのか?それは解らなかったが、男の最後の言葉になった。 男の口から、たばこが落ちる。静かに眠るように目を閉じた。男は謎のまま永遠に去った。 ウサギの女が男の心臓に手を当てる。そして、黙って首を横に振る。タヌキの女が泣き出した。サルの男が「この男の言うとおりだ!早く逃げないと俺らもやられる!」そうだ、ここでタイムロスしてる場合じゃない。僕が最後の判断で「じゃ、交差点を四方に別れよう」と泣いてるタヌキの女の肩をポンとたたく。 僕は六本木通りを渋谷方面に、あとの三人も溜池と、防衛庁と、東京タワー方面に歩き出す。 チラッと東京タワー方面に歩くウサギの女の後ろ姿に目をやる。覆面を取っていた。その後ろ姿は髪の毛の長いモデル体型の優雅な後ろ姿だ。 僕もGパンの中にカエルの覆面を突っ込んだ。 渋谷に歩いていく僕の姿は、端から見れば遊び帰りの若者に映るに違いない。 男の事を思い出すと、自然と涙が溢れてきた。 満月が綺麗な夜だった。 |
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