■  第四章  実行当日  ■

 

そして、いよいよ当日を迎えた。

僕は、前の日は一睡も出来なかった。腹は決まってるつもりだったが、これから起こる不安と期待に体は正直だ。
しかし、精神が高揚しているせいか、疲れは感じず、ハイな状態で計画の場所に向かった。
指定された時間ちょうどに、スクエアビルの脇道に着いた。

男が路地に立っていた。
「おい!こっちだ!」
持っていたカエルの被りものを僕に渡し、「それをして、あの冷蔵車のコンテナに入るんだ。もう他の仲間は揃ってる」僕は男の指示に従いカエルの被りものを被る。「これで強盗には見えないな。その辺のいかれた兄ちゃんにしか見えない。色男が台無しで悪いけどな!」男はまた似合わない笑みを浮かべて言う。僕だってこんなとぼけた格好は知り合いには見せられないぜ!遊園地のバイトじゃあるまいに。そして、冷凍車のコンテナに入った。男も周りの様子を確認してから入ってきた。さすがに冷凍車だ!真夏でもひんやりする。フランスレストランの巨大な冷凍庫の感覚が、蘇る。薄暗い冷凍車の中には、ウサギとサルとタヌキがいる。(こんな、間抜けな連中と組んで大丈夫か?)自分がカエルであることを忘れ不安になる 。

男がおもむろに話し始めた「みんなに覆面をつけてもらったのは、防犯カメラや奴らに顔を知られないことはもちろんだが、最も大事なのは互いの顔を見られないためだ!私語も厳禁だ!お互い素性が解らない方が安全だ。事が終わった後、接触を持つと危険が増す!一夜限りのパーティだと言うことを忘れないように!君たちは今もこれからも赤の他人だ!いいな!」皆頷いた。僕もその方がいい。こんな連中といもずる式に捕まるのはごめんだ!知っているのはこの男の顔だけでいい。この男だけは忘れないぜ!男は建物の平面図と内部の写真を基に、これから行われる計画を緻密にレクチャーする。的を得た説明。隙のない計画だ!内部のカジノの広さに正直驚かされた。いつも満杯のディスコの奥はこのような、闇のスペースになっているのか!灯台もと暗しとはよく言ったものだ!確かにこの方が目立たない。光と陰がよく計算されている。

そして、男は段ボールの中から例のワルサーPPKを出した。一人一人に渡す。「実弾は入ってない」と前置きをして、銃の説明をする。まるで、エキストラに説明するかのように構え方、撃ち方、ホルダーに仕舞う方法など、いかにも慣れてる演技を教えた。映画で見るような片手で撃つことは銃口が上がるからしないとか、腰の位置などを体を使って説明する。特に、銃の安全には気を使うことを。空砲とは言え暴発すれば手なんか簡単にふっとぶそうだ。

隣にいたサルが銃をいじりながら小声で僕に話しかける「なぁ?恐くないかー?」男がすかさず、例の鋭い眼光を向ける。そしてサルに向かって怒鳴った「私語は厳禁だ!それとトリガーに指をかけるなって教えただろう!!」サルは「スミマセン」と言いながら、僕にだけ見える角度でファックサインを作った。面白いヤツだ!「最後に金と銃をここまで持ってくる。そして、六本木の交差点で、四方に別れる。いいな!」サルがすかさず「わけまえの金は!どこでもらえるんだよ!」僕も聞きたかったところだ。こんなサルでも役に立つ。「金と銃と身の安全が、確定したらここで教えてやるよ」僕もすかさず「ここで皆殺しって事もあるわけだ!」サルが大きく頷く。男は笑いながら「気を付けろよ!最後まで気を抜くな」と言った。直感的だが、それはないなこの男は!と思った。感が今の僕の頼りだ!あと、この男だ!信じるしかない!男も覆面を取り出した。ゴリラだ!そして、声を変えるためボンベの酸素を吸う。「さぁ!行くぞ!」声のトーンが異常に高い。どこからとなく女の笑い声が、ウサギとタヌキだ!(5人のうち2人が女でほんと大丈夫か?)「笑うな!」明らかに照れてるな!この男は!そう思うと僕も笑った。みんなで思いっきり笑った。これから始まることも忘れて。まるで修学旅行生のように。

5人は冷凍車から出た。土曜の深夜正確には日付は日曜だが、ここら辺はお祭り状態だ。誰も僕たちの奇抜な格好を気にしない。それほど溶け込んでる。このクレージーな街には。ディスコのクロークで、男が金を払う。まったく怪しまれないところを見ると、単なる酔っぱらいに見られている。ホッと一安心。すぐさまVIPルームの方へ向かう。さすがにボーイが制止しようとしたが、男はボーイに万券を渡す。「それでは、お席にご案内します」こんなもんだぜ!と思いながらも第2関門突破!「これで、ドンペリをくれないか?」今度は万券を何枚か無造作にボーイに渡した。こんな店にドンペリなどあるはず無いがボーイは快く引き受けた。酒屋まで買いに行くのだろう。釣りは自分のポケット行きだ!彼にしてみれば上客だ。男は「無理言って悪いな!ゆっくりでいいよ」ちゃんと時間稼ぎのセリフも付け加える。この時間で六本木でやってる酒屋は一軒しかない。往復だけでも10分以上はかかる。計算通りだ!

ボーイがVIPルームを出ていくのを確かめると、非常口のドアを開けた。各個室のVIPルームからの非常口の先はまたクロークがあることは先程の平面図のレクチャーで皆知っていた。ここから先は万券は通用しない。通用するのは力か銃だ!クロークには黒人の頑強そうな男がいた。男は英語でトイレはどこかと聞く。いかにもトイレと間違えたと言う演技をしながら。一瞬の隙をついて黒人のあごにカウンターパンチを入れた。鈍い音を立てて、黒人の男は倒れる。「俺は六本木のロッキーだ!」くだらないことを言ってみんなの緊張をほどく。機転の効く男だ!もう一枚の鉄のドアをサルが開けようとすると「待て!さっき言っただろう!」男がクローク・カウンターの下のボタンをロック解除する。これをやらないと中に入れないばかりか非常警報が作動する仕組みになってるらしい。やっぱり、サルはバカだ!もう忘れているか、聞いてなかったかのどっちかだ!

中に入ると男が言てった、カジノがあった。ルーレット・バカラ・ポーカー・スロットとりあえず何でもある。札束が積まれている。まさしく悪人達の博打場だ!代議士のオッサンの周りには金髪やスタイルのいいバニーガールを何人もはべらしている。着物姿の女性もいる。奥では外人娘のストリップショーもやっている。ここだけは別世界だ!唯一、カラオケセットがあるのが、オッサン達の趣味の悪さを物語ってた。

男は素早く銃を取りだし、天井に向かって発砲する。
僕たちもあとに続く。『バッババババーン!』5人で撃つとさすがに迫力がある。みんな動けない。男は「動くな!」といい、二丁拳銃を構える。その銃口は明らかにSPと解る二人の男達に向けられている。二人の男達はすでに背広のうちポケットに手を入れていた。「手を上げろ!」男は二人のSPに言ったと思うが、みんな手を上げた。かっぷくのいいオヤジ達は特にビビッてる。周りにはびこるバニーガール達の方が、肝が据わってるように見えた。

小太りの代議士然とした男が、SPに向かって「何してるんだ!早く撃ち殺せ!」と怒鳴る。TVでよく見る田舎代議士だ!SPは静かに首を横に振る。田舎代議士は「金なら、ここにあるのを全部もって行け!」とチップも使わず賭に使ってる札束を投げた!さすが国の公認だけあって、堂々とした賭け方だ。やくざの賭博場だってチップ位は使うぜ!「さぁ!早くもって失せろ!このウジ虫どもが!」サルが銃を持って田舎代議士に詰め寄り「ざけんなよ!ケタが違うんだよケタが!金庫の金を出せ!このくそじじぃ!」この男は金が絡むと人格変わるなぁー!だが、正直だ。男はサルを制止するように「そうだ!金庫の金を出してもらおう」と言う。SPが動こうとすると「お前じゃない!そいつにやらせろ」と、ポーカーのディラーの男を指名した。「へたな真似すると二度とこの世の中とおさらばだぞ!」金庫の中に銃があるのはさっき男から聞いた。金庫のナンバーを知っている人間も数名だ。ここの事情に詳しい男はディラーが適任と判断したのだろう。

計画通りに僕はディラーの頭に銃口を向ける。僕の手は微かに震えてる。心臓が波打つ音がディラーに聞こえそうだ!ディラーの男はガタガタと僕以上に震えている。いざとなったらこっちは空砲、向こうは実弾。命を懸けたギャンブルだ。僕はディラーが銃に触らないことを祈った。ディラーは手の震えの為だろう。かなり手間取っている。時間がない。計画では10分以内にすべてを終わらせる。気持ちが焦る。『カチッ』金庫が開いた!僕はわざとディラーを強く突き飛ばし金庫の中を確認する。大きな布袋が4袋あった。僕は持ってきた鉄アレイの入った袋を金庫の中に入れ、丁寧に札束の入った布袋を取り出す。空になるとセンサーが作動することもさっき聞いた。チャカが金庫の上にガムテープで留められていた。でかいな!マグナム44だ!確かめただけで、金の入った布袋を取り出すと金庫を閉めた。数字をランダムに廻す。これですぐには開かない筈だ。サルと2袋ずつもった。計画通り行った。あとは逃げるだけだ。僕はちょっと気が抜けた。

と、その時『バァーン!』銃声がなる。今さら、威嚇することもないだろう。心臓に悪いぜ!と思ったが、さっきの田舎代議士がスローモーションのように倒れた。血が頭から噴き出している。バカな実弾じゃないか!計画になかったぞ!!
男は急いでゴリラの覆面を取り銃を構えなおした。「アクシデントだ!金を持って急いで逃げろ!」僕たちをかばうように大の字になって天井に発砲した。「てめえ!西条じゃないか!」SPの一人が大声で言う。「速く逃げろ!俺もすぐ行く」男は自分に引きつけるため、また発砲する。体をはって僕たちの逃げ道を作ってる。他の三人が出ていったのを見届けて後ろ髪引かれつつ、僕も逃げる事に。

他の代議士の声だろう「西条てめえ裏切りやがって!いいから撃ち殺せ!虫けらを殺せー!!」と大声で叫んでいる。
僕らは平静を装い計画通りに非常ドアからVIPルームへ、そこで銃声を何発か聞く。
フロアは大音響。もう何も聞こえない。

冷凍車に戻った僕たちは疲れ切っていた。そして、考えてることは皆同じだろう。あの男の無事な帰還だ!

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
       

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