トレーニングで、一つの価値観を共有する。
サターンは、「顧客中心のものづくりと販売、サービス」を会社の基本理念としている。その精神は、工場の従業員一人一人、販売を担うリテーラーの一人一人のなかに生きている。 サターンに入社したものは、年間総労働時間の5%をトレーニングに費やさなければいけない(これは、社長でも一緒。 工場では、この5%の達成は給与のリスク部分に組み込まれている。 すなわち、これを達成しないと所定のレベルの額がもらえない。) 各地のリテーラーも従業員のトレーニング100%実施を目指すことになる。 筆者もスプリングヒルで行われたトレーニングに、アメリカのリテーラーに混じって参加した。 「Managing the Saturn Difference」と題されたこの5日間のトレーニングには、ニューヨーク、ミネソタ、カリフォルニアなど全米各地のリテーラーが参加していたが、その内容はすばらしい。 このコースは、リテーラーのセールスマネージャー向けのものであったが、以前にセールスコンサルタント向けコースを受講した人が数人いて、彼らがサターンの「顧客感動の実現」に対する思想と実践を、生き生きと語るのを見て、大いに驚いた。 しかも、リテーラーの経営者は、1人あたり1000ドルと超える費用を払って、社員を送り込んでくるのである。 

                     

ワイヤとロープで厳重に装備してから壁に昇る。
Trust Fallで「個人への信頼とチームワーク」体験

サターンのトレーニングで、最初にみんなが体験するのは、Excelという野外でのトレーニングである。これは、 トレーニング初日の午後に行われる。 サターン工場の敷地と県道31号をはさんで反対側に、エクセルトレーニングの施設がある。トレーニングには、目隠しをしてパートナーに建物の中を手をひかれていく「ブラインドウォーク」とか、野外設備で10メートル以上あるような垂直の壁に足場を作りながら昇る「コーポレートウォール」とか、面白いものがいろいろあるが、何と行っても象徴的で必ずメニューに入るのが、「トラストフォール」である。 これは、2メートル程もある木組みの台場の上から、一人が後ろ向きに倒れるところを、下で仲間が支えるという一見何事もなさそうなものだ。 しかし、実際には、後ろ向きに倒れるというのは、想像以上に恐怖を誘うものであり、万一、下の連中が受けそこなったらどうなるか考えると怖いものがある。 特に結果を目で見ないうち、つまり一番最初にチャレンジするにはかなりの勇気がいる。 日本人のように集団への帰属意識と信頼が強い民族は、それほどでないにしても、僅か3時間ほど前に初めて会った男女、中国系、アフリカンアメリカンからヒスパニックまで、人種も多様な国アメリカではかなり勇気のいることだ。 一番に手を上げる奴は、「トラスト」というよりも、見得や自己顕示欲が勝った人間という風ではあったが、それも健全なレベルの発露である。

                        

     こちらは、Corporate Wallという。10メートル以上ある垂直の壁とワイヤーで結わえあった3人が昇る。足場は譲り合わないと足らない

筆者のグループの時に、一番先に挑戦したのは、中西部のリテーラーのセールムマネージャーの男で、意欲と、信仰心と、健全な自己顕示欲を持ったアメリカの良き中産階級の典型的なお父さんという感じだった。両手を胸の前で組み、190センチはあろうかという巨体を、下で2列に並んで頭上に手の平を翳しクッションをつくった仲間が支える。 多分100キロは超えるであろうその体は、ちょうど腰から背中の部分を支える4,5人には油断ならない重量と衝撃をもたらす。 実際、痩せ型の中国系のメンバーは、このとき手首を少々痛めたくらいである。
無事にフォールが終了すると、全員でこの勇敢なる行為者を囲み、その体にふれながら、「hug, hug, hug,...」とその勇気をたたえるのだ。 高所恐怖症などでどうしても台に立てない者もいる。 そんな人には強制はしない。 そんな人も最後に全員でHugする。 このようにした他人が次第に隣人に、そして仲間になる。 
(このようにhigh functional チームが生成される過程を、研修テキストでは、knowing →storming → norming → performing の4段階に位置付けていた。)

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