★ ヘラルドシネクラブニュース 1999/6・7 ★
岡村洋一の聴 ク、映 画


『アクター・ウォーズ』

☆エピソード1<5/14 高田馬場・映像塾>

 1年以上の撮影期間を終えて、映画『Kamome』の初号試写&打ち上げ。福田和子の事件の映画化だが、自分の出演シーンになると何とも居心地が悪い。
おい、ヘンな奴が映っているゾ!  同じキャスト、同じスタッフが揃うことは二度とない。そう思うと何だか淋しい祭りのあと。

☆エピソード2<5/19 五反田・KSSビル>
 私にとって23本目の映画『ひまわり』のシーン3〜輝明のアパート。朝7時からの撮影でセリフが思う様に出て来ず、落ち込む。でも初対面だと思っていた行定勲監督は 『熊楠』(91年撮影)で、助監督さんは『エコエコアザラク』(95)で一緒だったと聞いて嬉しい。自分も少しは何かやってきたんだ、と少々元気を取り戻す。

☆エピソード3<6/11 駒沢・パラダイススタジオ>
 「役者というのは、ある種の『型』を演じるものです。 ヤクザの型やサラリーマンの型。いろんな型があって、その中での演技がわかりやすい演技だと言われているんですが、小林桂樹さんの演技は型からはみ出して、その中にある人間というものが出てくるんですよ。それが複雑でもあり、不思議でもあり、豊かでもあり……、小林さんは役者を越えて人間を演じようとされた。それがあらゆるジャンルに対応しつつ、どの型にもはまらない、どこか不思議な人間がそこにいた、という事になった。彼をキャスティングする事が、映画『あの、夏の日』のテーマと密接に結びついていたんですね」。
 大林宣彦監督の話をキャリア60年以上の名優はニコニコと、しかし丁寧に聞いている。私も何かしゃべらねば……

「物語の中で自在に過去へ行ったり、現実に戻ったりしていますね」。
「映画は自由でなくっちゃ。この世は不自由なんだから」。

優れた表現者というのは、常に欲しいものが明確だ。
自分など、まだ何もやってないなあ、と強く思った。
インタビューを終えて外へ出ると、初夏の陽射しがまぶしい。
タクシーに乗り込んだ小林桂樹さんは、私達が完全に見えなくなるまで 何度もお辞儀をされていた。