私 |
「先生! お久しぶりです。私です、わかりますか?」 |
先生 |
「当たり前ですよ。しょっちゅう試写会で会ってたじゃないの。
それより、よく僕に連絡が取れたね。」 |
私 |
「もう、お逢いしたくて……。いかがですか? そちらは。」 |
先生 |
「毎日温泉入ってるの。ずっと母と一緒で、黒さん(黒沢明監督)と
J・フォードの話ばっかりしてます。」 |
私 |
「チャップリンには再会なさいましたか?」 |
先生 |
「まだ…、規則であんまりそういう事しゃべれんのよ。映画観てますか?」 |
私 |
「はい。『恋に落ちたシェイクスピア』はすごく……。」 |
先生 |
「歌舞伎や文楽やバレエは?」 |
私 |
「いや、なかなかそこまでは……」 |
先生 |
「ダメだね。死刑だね(笑)。もっと感覚を磨かんと。教養の無い人間はダメですよ。教養って何かわかりますか?」 |
私 |
(私、答えられない) |
先生 |
「教養とは他人に対する思いやりのことですよ。まず誠実でいなさい。誠実の上に感覚を磨くこと。一流の作品を、おこづかいを惜しまんと、どんどん観ることです。本物の芸術わかろう思ったら格闘が要るんです。
ピカソの絵わからんかったら何十回でも美術館へ通いなさい。
わかりましたね? どうしたの?」 |
私 |
「……(泣いている)」 |
先生 |
「『悲しいから泣くんじゃない。泣くから悲しいんだ。』ゆう言葉知ってます。あんたも映画好きなんやったら、死ぬまで映画にくらいついて、何者かになりなさいよ。三度の飯、食えなくてもいいから、水道の水飲んどったらええから。
頑張んなさいよ。」 |
私 |
「……先生、精一杯やります。
50年後にそこへ行った時、恥ずかしくないように私は……。」 |
先生 |
「ふふふふ。50年後? それは、こっちで言うたら5分後の事なの。」 |
私 |
「えっ。あっ先生! ちょっと待って!」 |