★ ヘラルドシネクラブニュース 1999/2・3 ★
岡村洋一の聴 ク、映 画


『Coming と Going』

 長い間、恋愛映画なんて興味なかった。恋愛は現実の世界の中でするもので、映画館でどこかの俳優同士がキスするのを観たって面白くも何ともないと思っていた。ほんの少し前までは、女性が一番美しく輝いているのは、20代の前半くらいまでだろうと信じていた。それ以後は残念ながら、それなりに…。
 
『ワン・ナイト・スタンド』をご覧になりましたか?
L.A.でCMディレクターとして大成功し、家庭も円満なマックス(W・スナイプス)はニューヨーク出張中に、HIVポジティブの親友チャーリー(ロバート・ダウニ−・Jr.)と5年ぶりの再会をし、偶然出逢った人妻カレンと一夜限りの恋に落ちる。それ以来、自分の存在が実にあやふやなものに思えて、何かむなしい。一年後、死期が迫った親友を見舞ったマックスは、そこでカレンと運命的な再会をしてしまう…。妻と別れてこの恋を貫くべきか否か、悩むマックスに余命いくばくも無いチャーリーはこう言う。

「人生はオレンジだ。さっぱり解らん。お前は思うままに生きろ」。
 
一夜限りの情事は、きっと素晴らしかったに違いない。ここにあるのはComing(性的に達する事)と、Going(死ぬ事)だ。「死」のすぐ隣にある「生(性を含む)の喜び」。
ものの本によると、ComingよりもGoingの方が気持ち良いらしいが、それは人生最後の楽しみにとっておこう。
 
カレンを演じるナスターシャ・キンスキーは、この時37歳。『テス』の初々しさも『キャットピープル』の猫女ぶりも今は無く、ただ美しくて、少し妖しくて、そして優しい。
間違いなく人生最高の時期を迎えている。マックスじゃなくても彼女に恋してしまいそうだ。 よし、この俺だって負けるものか。現実なんてもうどうだっていい。
人生は時計じかけのオレんちなんだ。
 
響き合う男と女。音楽のように時は流れて、パステルの絵の具が水に溶けていくように景色は変わる。二つの永遠の間のほんの一瞬に、あなたは恋をしましたか?
もう私は前の私ではなくなった。
そう、男と女の事を描けば宇宙のすべてを描いたことになるのです。