★ ヘラルドシネクラブニュース 1998/11・12 ★
岡村洋一の聴 ク、映 画


『地球でカメラが回ってる』

 映画を見終わった後、時々気になることがある。この登場人物達は、この後いったいどんな暮らしをしていて、今頃は何をしているんだろう?
 アラン・ドロンとJ=P・ベルモンドが29年ぶりに共演した『ハーフ・ア・チャンス』は、彼らの過去の作品を想起させるシーンや台詞がさりげなく入っていて
P・ルコント監督の二大スターに対するオマージュになっている。
 もちろん過去と同じ設定ではないが
「ああ、あの遠い日の若いギャング二人は
どこかでスライディングドアをくぐって、現代まで生き抜いていたんだ。また逢えた!」そんな気がした。
 『地球は女で回ってる』のW・アレンは私生活をネタにしてきた恋愛小説家。彼の悩みは、『アニ−・ホール』(78)の頃とあまり変っていない。
 あの頃、女性とは中々うまくゆかず、人生は不満だらけ。そして何よりいつも死の恐怖に怯えていた。ところが、今回の彼はラスト近くで事も無げにこう言うのだ。

 「人間が死ぬのは現象だ」

そう、誰だって嘘をつくし、誰だってセックスするし、誰だって死ぬ。
かつて「映画を作ってなかったら、自分は精神のバランスを失っていただろう」
と告白したアレンは、最近のドキュメンタリー作品『ワイルドマン・ブルース』の中で、ファンの女性に「僕ほどの知性ともなると、孤独はつきものです」等と
ジョークを飛ばせる程に変っていた。
  ありのままの自分が、あるべき自分に殺されることがある。
  引退を表明したA・ドロンは「あるべき自分」にこだわり続ける誇り高きスター。
W・アレンはいつか「ありのままの自分」を受け入れ、きっとある境地に達したのだろう。
 『トゥルーマン・ショー』のJ・キャリーは、「24時間生中継テレビ」の主人公。
生まれたその日から、ずっとどこかでカメラが回っている事も知らずに「あるべき自分」を演じ続けている。ある日、自分が住んでいる島の「スタジオっぽさ」に疑問を抱くのだが…。今居る小宇宙から逃げ出したところで、近頃の妙な世の中は、どうも種明かしのない「どっきりカメラ」みたいなものらしい。そうだ、私も思い切って登場人物の一人になり、「自分物語」を演じてみようか。 映画の終わりは実生活の始まり。