★ ヘラルドシネクラブニュース 1998/9・10 ★
岡村洋一の聴 ク、映 画


『八人の映画人』中部集合篇

☆8/28(金)<名古屋・東急ホテル>

 これまでの今村昌平作品に比べると、しつこくなく、どこかサラダ風味の『カンゾー先生』。その理由を監督に尋ねると「そりゃ、トシのせいでしょ」と一言。映画の中で女性の性器に卵を入れるシーンがある。あそこは? 「それは僕も充分ヘンタイだから。70歳過ぎて変態でない人間なんていませんよ。あなたも70過ぎてごらんなさい、必ず変態になれるから」。思わず「そりゃ楽しみですね」と答えてしまった。飄々とした、この世界的巨匠は超ヘビースモーカー。何があっても絶対に自分のペースを崩さない、そう、《シンゾー先生》だ。

☆8/29(土)、<四日市・斎泰閣>
 『八月の濡れた砂』『スローなブギにしてくれ』等の他、俳優としても活躍した藤田敏八(愛称・パキさん)の一周忌に多くの映画人が集まった。私は幸運な事に関西テレビのドラマで共演した後、彼の最後の監督作品『崖ふちの真実』(テレビ東京)で声をかけてもらい、秋田県の刑事役で出演した。その時一緒だった原田芳雄氏は「役者は身体に悪いから、早くやめろって注意してたんだけどね」。でも『ツィゴイネルワイゼン』での二人の共演はこの世のものとは思えぬ神業だった。その監督・鈴木清順氏は独り静かに煙草を燻らせている。皆さん、少し吸いすぎではありませんか?

「存在自体がどこか浮世離れした人」(連城三紀彦氏)。
「大抜擢された『もっとしなやかに、もっとしたたかに』の撮影終了後、年齢をサバ読み本当は運転免許もない事を告白したら、思い切り殴られた」(奥田瑛二氏)。
「スタッフの意見をどんどん取り入れてくれる、自由な人だった」(根岸吉太郎監督)。
 
いつのまにか私は『レッズ』か『カメレオンマン』のインタビュアーになったような錯覚に陥っていた。 パキさんが死んだなんて、やはりボクの思い違いなんだ。
飾られた白黒写真の中のパキさんは、いつものはにかむ様な笑顔。
今も何かの役を演じ続けているにちがいない。