★ ヘラルドシネクラブニュース 1998/7・8 ★
岡村洋一の聴 ク、映 画

  
『三人の映画俳優』奮闘篇

☆5/7(木)<名古屋・東急ホテル>

「撮影中、どうしてもつらい時にね、口の中で(イタミ、イタミ…)と唱えてみたんだ。すると不思議に乗り切れた。 伊丹十三作品は本当に苦しかったからね。いつもギリギリの所へ追い込まれた。それに比べると、 今回の『プライド』は、それ程高いハードルではない。むしろ、映画自身が持っているハードルの 方が高かった…」白い口髭をたくわえた津川雅彦氏は、どこかショーン・コネリーに似ていた。

☆6/29(月)<千葉・市原市>
 映画『ニンゲン合格!』シーン115・釣堀。10年間の昏睡状態から目覚めた若者・西島秀俊(『蔵』『デュオ』等に出演) と暮らす男・役所広司は、産業廃棄物を不法に処理しているらしい。どうも怪しいと睨んだ地元の 役人二人が、ある日家を調べに来る。その内の一人が私の役だ。
この作品は、秋のベネチア映画祭への出品を目指しており、役所さんが出演している事から、 スポーツ紙に「二匹目のうなぎ?」等と書かれたが撮影現場にはそんな派手なムードはかけらもない。

「岡村さん、こういう田舎の役人って、もっと普通ですよ」

黒沢清監督の指示は常に適切で細かく、かつ鋭い。テストを繰り返すうち 私の同僚役の井上馨くん(『失楽園』『絆』)の演技が少々オーバーになってくる。

「芝居しないで。普通の人を、普通に演じればいいんだから。ハイ、本番!」

それが、どんなに難しい事か。それにしても暑い。死ぬほど暑い。 私の越えるハードルは津川さんのよりはるかに低いはずだったのに…。
終わって井上くんと駅前の食堂へ。「何気ない日常の中にドラマは存在するよね!」 と大いに盛り上がって外へ出ると、向うから大男が走って来る。そして中年の女性が 「誰か、その人を捕まえて!」と叫びながら、その後を追ってくる。 訳の判らぬまま、三人がかりで男を取り押さえて警察へ引き渡す。

これは何かのワンシーン? 何だかもう一本、映画に出演したような気分だった。
現実の方がよっぽどドラマチックですがな。